読切小説
[TOP]
寒空とお前とオレとおねだり
「最近夜中になると地響きのような音がするんだ」
「へ?」

それはいつもどおりの日常。灼熱の日差しが差し込む砂漠のど真ん中、緑溢れるオアシスの遺跡内で仕事をこなしている最中のこと、仕事を終わらせたアヌビスである先輩がふと思い出したように口にした。

「地響き、ですか?」
「ああ。ここ最近ずっと響いてる。人間であるユウタにはよくわからないだろうが私たちは耳も優れているからな、よく聞こえるんだ」
「あー…」

先輩はアヌビスという魔物らしい。見た目褐色肌の美女であるが頭の上に生えた犬のような耳や手足がその証拠。犬であるのならば人間よりも聴覚が優れているのもうなずけるだろう。

「教団の者…ではないだろうからきっと『アレ』だろう。ユウタ、くれぐれも外に出るときは気をつけておくんだぞ?」

その一言とともに先輩はドアを開け、部屋から出ていってしまった。
夜中に聞こえる地響き、か。
未だにこの世界の常識を把握できていないオレにとっては毎日が驚きの連続だ。先輩のような見た目人間だけどどこか違う、魔物という存在や彼女やオレが仕える主のファラオ様、アレイアが使う魔法など現代で生きていた時には全く想像できないものばかり。
何が起きるかわからず周りにはびっくり箱のような驚きが転がっている日々。そんな中でも先輩が先程言った『アレ』というのには一つ引っかかるところがあった。

「…っていうか、あいつ以外に考えられないよな」

一人呟いて書類を片付ける。今夜は何を作って言ってやろうか、あいつは何が好きだったかと考えながらオレは部屋を出ていった。










灼熱の日差しが消え、代わりに凍える夜風が吹き付ける暗闇の中。空には何も遮られることなく月と星が輝き、足元を照らし出していた。突き刺すような寒さの中、オレは一人手に包みを持って緑溢れるオアシスを歩いていく。

「…寒いな」

もう何ヶ月もこの地に住み暮らしているのにやはり慣れないものは慣れない。時折吹いてくる砂嵐や昼間と夜中の温度差なんかには未だに困ってしまう。
オアシス内でも襲ってくる容赦のない寒さの中を普段の学ラン姿にすすけたマントを羽織って歩いていくとオレはある場所で足を止めた。

「…」

オアシスと砂漠の境界線。踏めばじわじわと沈み込む砂の空間。僅かな風でも舞い上がる細かな粒の中に月でも星でもない何かが輝いていた。
赤い、大きな円。
人工的なものではない、まるで宝石のようなそれへ一歩踏み出して近づいた途端、反応するようにぴくりと動く。
それこそがオレの探していたものであり、先輩が言っていた地響きの原因だろう。

「…」

オレはそれへ向かってもう一歩踏み出すと次の瞬間、砂が巻き上がり隠れていたものが姿を現した。
僅かな月明かりを遮り影らしてしまうほど巨大で長い体。宝石のように輝く、並んだ赤い円。しなやかに曲がるも硬そうな甲殻に鋭く光る円状に生え揃った白い牙。そして、そこから両手を広げて飛び込んでくる鮮やかなピンク色の人間の姿。

「ユウター!!」

まるで獲物を捉えるように飛びかかってくる目の前の存在に対してオレは大股一歩後ろに下がる。すると届くハズだった指先が掠りもせずに彼女は緑生え広がる地面に激突した。

「………痛いよ〜」
「そりゃ飛びかかってくるからだろ」
「受け止めてくれてもいいのに」
「受け止めたらそのまま食われかねないんだよ」

そう言ってやると彼女は―サンドウォームのヴェルメは怒ったように頬を膨らませて体を起こした。
怪物と呼ぶに相応しい固い甲殻で覆われた長い体から這い出てきた女性。それがヴェルメの本当の姿。特徴的なのは人間らしくない薄いピンク色をした肌に花のような桃色の長髪だろうか。こんな怪物の口の中から出てくるところからして人間なんて言えないだろうが、それでも彼女は人間にしてはあまりにも美しすぎた。
細い眉に切れ長で大きめの赤い瞳、すっと通った鼻筋。にへらと笑みを浮かべた唇に瑞々しい頬。どことなく優しげなお姉さんらしい顔立ちをしているが女性の中では確実に美人の部類に入るだろう。それだけではなくたわわに実った胸にくびれた腹部、魅力的な臀部のラインと彼女の体はあまりにも完成されていた。
全身には粘質の液体が滴っているが月明かりに照らされて艶やかに映し出される姿はあまりにも美しく、扇情的だった。



オレがこんな常識はずれの女性、ヴェルメと知り合ったのはもう半月ほど前になるだろうか。
ある夜寝付けないから一人このオアシス内を歩いている時にオレはヴェルメを見つけた。いかにも化物という風貌の長く大きな虫の口からはみ出した女性の部分。最初見たときは女性が食われているのかと慌てたがそうでないことを理解するとオレは彼女に歩み寄っていった。

「お腹、すいたよぅ」

砂中に潜り獲物を捉え貪るサンドウォームが空腹のあまりオアシスにブッ倒れている。今にして思えばなんと間抜けな姿だったことか。
そのまま放置というのも気が引ける。仕方なく夕食の余りを与えるとヴェルメは美味しそうに食べていたっけ。
ただ、空腹が満たされ元気になったヴェルメに三時間ぶっ通しで砂漠の追いかけっこをされたのは…嫌な思い出だ。砂を巻き上げ喰らおうと飛びかかってくる巨体には流石に恐怖を感じずにはいられなかった。
多分彼女が単純思考じゃなかったら今頃オレはあの巨大な口の中に入っていただろう。考えるだけでも身震いしてしまう。
それからというもの、度々オアシスに倒れては飯をたかりに来るヴェルメ。初日のように追われることこそなくなってきたが、ことあるごとに引きこもうと狙っているのをオレは知っている。今日も今日とて飲み込まれないように気をつけなければいけない。



嬉しそうな笑顔を浮かべるヴェルメ。じっくり見てみるとやはり間違いようのない美人の姿だ。ただ、一糸纏わぬ姿ゆえ直視しずらくて困ってしまうが。

「えへへ〜♪ユウタ〜♪」

とんとんと彼女の尻尾がオレの背中を叩き、地面に横たわる。どうやら座れという意味らしい。
だがここで不用意に座って何をされるか予想できないわけじゃない。もしも座った途端尻尾に押され、正面のヴェルメに抱きしめられたら多分逃げられないだろう。アヌビスである先輩だって女性にしては力があるんだ、それがこんな巨大なサンドウォームならばきっとオレの想像を超えるような力を発揮してくれるに違いない。

「…」
「どうしたの?座らないの?」
「いや、立ったままでいい」
「…私の体、嫌なの…?」

涙目になられた。
見た目恐ろしい姿をしているが中身は一人の女の子。年齢的に言えばオレよりも上のはずなのにそれでもヴェルメは幼子のような純粋さがある。悪い言い方をすれば単純なのだろうが、見た目と反するその姿は可愛らしいものがある。
だが、ここで泣かすのも気が引ける。以前は拒否したら本気で泣かれたことがあるのだし、ここは仕方なく座らせてもらおうか。
ヴェルメの尻尾に腰を下ろすと彼女は嬉しそうに頷いて体を寄せて来た。対してオレは持っていた包みを膝の上に広げ、一つ摘んで彼女の方に差し出す。

「ほら」

手にしていたのは『ナン』。インド料理で有名な薄いパンだ。中にはキーマカレーが入っており手軽に食べられるように作ったが、どうやらこちらにも存在していたらしい。気候自体が同じなのだから食文化も似てくるのだろう。
ヴェルメ曰くここらでの食料調達は難しいとのこと。このオアシスならまだしも砂しかない砂丘にいる生物なんて蠍とかそれくらい。普段何を食べて生活しているのかわからないが安定しない食生活なのは確かだ。
オレから受け取ったナンをヴェルメはもきゅもきゅと頬を動かし食べる。化物のような体なのに小動物のような食事風景はなんとも可愛らしく、思わず笑みが溢れる。

「ユウタの料理は美味しいね〜」
「そりゃどうも」
「ユウタも美味しいのかな〜?ねぇ、食べていい〜?」
「…」

オレは無言でヴェルメの頬をつねった。

「いはい!いはいよ〜!!」
「そう物騒なこと言うなよな」

そう言って頬から手を離す。頬に触れただけだというのに指先には滴るほどの粘液がついていた。怪物の口から出てくる女性の姿。それこそヴェルメの本体だと言うが、口から出てくるのならばこの粘液は唾液か何かだろうか?
拭うものは持っておらず手を振って自然乾燥させる。夜風で濡れた肌が冷えるのだが仕方ない。結局オレは何もすることなくそのままヴェルメが食べ続けるのを眺め続けた。





「くしゅんっ!」

ご飯を食べ終えた途端にヴェルメがくしゃみをした。身震いをして自分の体を抱きしめている。

「…寒いよ〜」
「そりゃ、そんな恰好してるからだろ。戻れよ」

ヴェルメは普段から一糸纏わぬ姿だ。もともと後ろの怪物のような体に収まっているからか服なんてものを必要としない。それゆえ外に出る時も服を着ないんだとか。
それでもこの砂漠の夜は昼間の高温など嘘のように冷えてしまう。裸でいようものなら風邪をひきかねないし、さらにはヴェルメの体は普段から濡れている。口内から出てきたのだからたぶん唾液まみれなのだろうが、濡れている状態でこんな外に居たらすぐに体は冷えてしまう。
だからと言って彼女は体の中へと戻ろうとはしなかった。

「やだ、ここにいるもん」
「風邪ひくぞ」
「ここにいるもん」

そう言っても彼女は首を振るばかり。外見大人のくせしてどうして言動は子供っぽいのだろうか。心身ともに大人であるうちの先輩を見習ってもらいたいものだ。
だがこのままオレと一緒に居れば体調を崩すのは目に見えてる。人間でないからオレの理解を超えるかもしれないが女性が体を冷やすのはいただけない。
…仕方ないか。

「ほら」
「わっ!」

オレは着ていたマントをヴェルメに被せた。これなら濡れた体でも多少は寒さを防げるだろう。

「ん〜ユウタの匂いだ〜♪」

彼女はぐしぐしと顔を擦りつけて嬉しそうに言った。困るような、照れるような言葉にオレは頬を掻きながらもマントを着るのを手伝ってやると腕や肩に触れた部分が色濃くなっていき、粘液が染み込んできた。
…やっぱりこれではあまり意味がないかもしれない。濡れた服も着続ければ体温を奪っていくのだし。だからといってほかに寒さを防げるようなものは持っていない。
どうしたものか。そんな風に考えてヴェルメを見ると―

「―…ん?」

渡したマントが粘液の染みこんだ部分から溶けていた。ピンク色の肌が覗き、溶けた布は地面に落ちる。
…指に触れた時には何もなかったのに布は溶けるのか。やはりオレの常識じゃ測れないことばかりだ。

「マント…」
「溶けたな」
「…ごめんなさい」

先程まで嬉しそうに笑っていたのにしょんぼりしてしまうヴェルメ。まるで叱られたあとの子供のような姿だった。
やはりどこか幼いところがあるヴェルメ。甘えん坊だけど感情は何も飾らないし、嘘をつくこともない。ありがとうやらごめんなさいと正直に言葉に出来る素直な女の子。
こんな姿で謝られては誰だって怒れるわけがない。それにサンドウォームの体液が布を溶かすということを知らなかったオレも悪い。

「謝んなよ。たったマント一枚なんだから」
「でも、ユウタのマントなのに…」
「…」

ため息を一つしてそっと彼女の頭を撫でてやる。慰めるように、それでいて褒めるように。にちゃりと粘液塗れになるのだがそんなものは関係ない。
撫で続けているとにへらと嬉しそうな笑みを浮かべてオレを見つめてきた。先程までしょんぼりしていたのにコロコロと感情が変わる様は本当に子供っぽい。今泣いたカラスがもう笑うとはよく言ったものだ。

「…くしゅっ!」

そんなふうに考えていたら今度はオレがくしゃみをしてしまった。たった一枚のマントだったが羽織っているのといないのではかなり変わるらしくあまりの寒さに身震いする。厚めの生地で出来ている学ランは防寒の役割も買って出てくれるが完全とはいかないようだ。
仕方ない、帰るとするか。ヴェルメにご飯をあげたんだし、もうやることもないだろう。
そんな風に思って鼻をすするとヴェルメがこちらを見ているのに気づいた。

「…」
「…」

無言の視線。だけども何かを訴えるような瞳に何を言いたいのか理解してしまう。
さらには後ろで牙を広げて迎え入れるように広げられた大口を見てげんなりした。

「…」
「入らないからな?」
「えー!!」

オレの一言にぎゃーぎゃー騒ぎ出すヴェルメ。それに伴って後ろで人一人余裕で飲み込めるほど大口開け、鋭い牙が動くさまがとても不気味だ。女性の体の方は綺麗だけど流石にこの大きさでこんな姿されては恐れずにはいられない。
以前ならばここで何も言わずに飛びかかってきただろう。その度にオアシス内に逃げ込んで隠れてやり過ごしてきたが…これは今日も隠れる用意をしておいたほうがいいのだろうか。

「何で何で!?こっちに来たら温かいんだよ!?」
「自分から食われに行きたかないんだよ」
「食べないもんっ!」
「口に入った時点で食われてるも同然だろ」

現代にはこれほどまで大きな生物なんていなかった。せいぜい動物園の麒麟や象ぐらいしか知らないオレにとってそれ以上の大きさを前にして、さらにはその生物の口の中に入るというのは抵抗がある。
ヴェルメがオレを食べないという言葉を疑うわけじゃない。それでも生物として丸呑みで捕食されるような真似は流石に厳しい。

「とにかく入らないからな」

はっきりとそう告げてやる。少し厳しくなってしまったがオレも断るところは断らせてもらおう。
だが、オレの言葉を聞いたヴェルメは悲しそうな表情を浮かべた。普段からにへらとした笑みを浮かべる彼女にしては珍しい。だが、それだけではなく目が潤んできた。
…泣くつもりか。

「…」
「…な、泣かれても入らないからな?」
「…」
「…」
「…ひっく」
「………っ」
「…ふ、ぅぅ」
「…………………………」
「うわぁああ…ユウタのバカ〜ぁあ…」
「わかった!わかったよわかったから!!入るから!入らせてもらうから!!」

人間の子供でももう少し利口だろうに。そんな風に思ってオレはため息をついた。





唾液で一着しかない学生服を溶かされたくはない。それどころかワイシャツも、下着だってマントと同じ末路を辿らせる訳にはいかない。下着は時折訪れる商人に頼めば買えるのだが頼んですぐに手に入るものでもない。
よって仕方なくオレは服を脱ぎ捨てヴェルメに手を取られて彼女の口内へと進んだ。
怪物のような外見でも口内は柔らかく温かい。むせ返るような甘い匂いに頭がくらくらするが、それでも外の寒さを凌ぐには十分な空間だった。
生物の口の中に入ることになるとは予想していなかった。普通の人なら絶対にこんな経験しないだろう。それでも奇妙で現実味のない柔肉の感触や蜜のような香りは紛れもない事実。
光源が一切ない空間では月や星の出ていた外と違って暗闇だ。瞼を開けても何も見えない闇の中。感じるのはヴェルメの体温と柔らかい体の感触のみ。視覚を遮断されて他の感覚神経が過敏になっているのかわずかに体を動かしただけでも擦れる肌の感触が脳に突き刺さった。

「…っ」
「えへへ〜♪ユウタの体温か〜い♪」

子供のように笑って抱きしめてくるもヴェルメだが、もしその気になったらオレは二度とここから出られなくなるだろう。咀嚼し、消化されようものなら死ぬかもしれない。まさに殺生与奪の権を握られている状況だ。だというのにそれでも不思議と落ち着いていられたその理由は相手がヴェルメだからだろう。
単純でお気楽で、でも真っ直ぐで正直な女性。
外見は人間でなくとも、怪物のような体がついているとも、根は子供のように純粋で優しいからだろう。
出られなくなっても死ぬことはないんだろうな、なんて気楽に考えながらヴェルメにされるがままになる。
ヌルヌルとした粘液が体を滴り、柔らかな女性の体を押し付けられる感覚は男として耐え難いものがある。服を着ていない裸体ならなおのこと。だけどもヴェルメは先程から嬉しそうに頬を擦りつけてくるだけ。オレがここへ来たことがよほど嬉しいのか暗闇でも笑みを浮かべているだろうと予想できるほどだ。

「んん〜♪ユウタぁ〜♪」

甘い声でねだるように頬ずりしてくるヴェルメ。暗闇の中隔絶された空間で誰も見ていないとは言え、女性相手に裸で抱きしめられるのは何も抱かないわけがない。相手は子供のような精神なのに見た目は大人の女性なのだからやはり困ってしまう。

「やめてくれよ」

身を捩って逃れようとするのだがヴェルメは決して離そうとしない。無理やり逃れようにも思った以上に力があって逃げられない。
そのまま抵抗を続けていたが無理だとわかると体から力を抜いた。下手をして怒らせるよりヴェルメがしたいようにさせておくのが一番だろう。ここは彼女の中であってオレが逃げ出せるような場所じゃないんだから。
そう考えていると頬を何かがなぞっていった。

「…?」

柔らかく、温かく、それでいて湿った何か。
ここはヴェルメの口内なのだからピンク色をした彼女自身も湿っていて当然だ。先程ご飯を食べていた時だって全身が湿っていた。肩も腕も指先も、体すべてが粘液にまみれている。
だけど今頬を撫でたそれは何かが違う。先程手を握った時とも頬ずりされたときとも違う、湿っているが別の柔らかい感触だった。

「ヴェルメ?」

暗闇では何がなんだかわからない。抱きしめているヴェルメの顔さえ見ることはできない。そんな中では何をされてもわかりはしない。
怪訝に思っていると今度は顎を撫でられた。しっとりと湿ったそれが撫でたところはたっぷりの粘液を滴らせ、首に伝って落ちていく。
ちろちろと舐るように動くそれはゆっくり上に登ってきて、唇に押し付けられた。

「んむっ♪」
「っ!?」

続いて吸い付くように唇に柔らかなものが押し付けられる。彼女の体とはまた違う柔らかさを持ったそれは食むように撫で上げて、また湿った柔らかいものが撫でていく。

「ヴェル、メ…なにし、んんっ」

言葉を喋ろうにも押さえつけられ唇を割開いて侵入してくる何か。それは妙にねっとりとした動きで口内をめぐり、舌に絡みつく。にちゃにちゃといやらしい音を立てながら絡まるそれからは蜂蜜みたいな甘さを感じた。
頭の奥まで響き、思考を蕩かすような味。それがヴェルメものだとはわかっているがヴェルメのどこだかわからない。暗闇で光のない空間では確かめる術がない。
手探りで彼女の体を探ってみる。粘液の滴る肌を撫でていくと掌に吸い付くような柔らかいものが触れた。

「んふっ♪」

くぐもったヴェルメの声とともに口内の何かが動きを止める。それに構わず力を込めてみると込めた分だけ指が沈み、筆舌し難い柔らかさを伝えてきた。
温かくて柔らかくて、だけども粘液にまみれたこれはヴェルメの体のどこなのか。
もしかして…胸?
その結論にたどり着いたとき、唇に吸い付いていたものが自ら離れた。

「ん、はぁ〜♪ユウタもその気なんだね〜♪」
「…ん?」

今までに聞いたことがないくらいに色っぽい声だった。いつもは子供みたいに単純なヴェルメからは想像できないほどに。
声に続いてちゅっと音を立てて頬に吸いつかれる。先程唇に押し付けられていたものと思しきそれはどう考えても…。

「んふ〜♪ユウタ〜、もっとちゅ〜しよ〜♪」

ヴェルメの唇だった。
予想は出来ていたが確証はなかった。だけども人生初めてのキスがこんなよくわからない状況でというのをただ認めたくなかったのかもしれない。
欲を言えばもう少しムードとか欲しかった。そんなこと思っても過ぎてしまったからどうにもできないんだけど。
なんて考えていると再び押し付けられる柔らかい感触。しっとりと湿り、蜜のような甘さを感じさせるそれは疑いようもない、ヴェルメの唇だった。
両腕を後頭部に回して抱きしめ、離さないように体を寄せる。それだけでは飽き足らず蹂躙するような、それでも愛するような動きでヴェルメは情熱的な口づけを繰り返した。
それだけではない。背を舐め上げ、腕をこすり、足を湿らせ、唇を撫でていく。粘質の液体が伴うその感触はまるで全身を舐められるようだった。
胸板に潰れる柔らかさに身が震え、硬さを持った先端部分が撫でる感覚にため息が漏れる。ぬるぬるとした粘液のおかげで引っかかることなくヴェルメの全身で擦り上げられては貪るようなキスで吸われる。

「んむっ…ヴェルメ、ちょっと、や、め…っ」
「んん〜♪れるっちゅ♪むちゅ〜♪」

止めようとしても手がぬめって上手くつかめない。抱きしめようにもその程度では動きを遮ることなど出来やしない。それなのに先程から体が熱くて抵抗の力さえ抜けていってしまう。
まるで全身が媚薬に浸ってしまったようで、火照って敏感になり、湧き上がってくる欲望が抑えられない。自分からもゆっくりと体を動かしてヴェルメの柔らかさを堪能しようとしてしまうほど。
気づいているのかいないのか、いつの間にか限界まで固くなったオレの怒張を擦り上げるように太ももを押し付けてくる。粘液の滴る太ももはあまりにも気持ちよく滑り、自分から腰を動かしてしまうほどだった。

「んちゅっ♪」

長い間重なり合っていた唇がようやく離れた。口内を舐め回されたせいか妙に甘ったるい。それでも嫌な甘さじゃない、染み込んでは消えない刺激を脳に与え、理性を蕩けさせるような味だった。
そのせいか唇を離してから意識が朦朧とする。今にも消えてしまいそうなわけではないがまともな判断はできそうにない。そんな中でもヴェルメの声ははっきり届く。

「んん、ユウタ〜♪えっち、しよ〜♪」
「え…え?」

ヴェルメの言葉を聞いていたのにうまく思考が回らない。今言ったことがなんなのかは理解できるのに、どう反応すればいいのかわからない。先ほどからの激しいキスで頭の中に靄がかかってしまったようだ。
抵抗するはずだったのにオレは暗闇の中で頷いていた。

「えへへ〜♪」

次に聞こえたのは嬉しそうに笑う声。続いて伝わってきたのはぬめった細い指先の感触。
太ももに擦られていた肉棒をヴェルメは優しくつかみ、先端部分を自分の女へと合わせる。互いの体を擦り合わせて高ぶった彼女の体はにちゃりと音を立てながら受け入れた。

「く、ぅっ」
「んっ♪あぁ〜♪」

こすり合わせているだけでも気持ちいいのかヴェル目は心地よさそうに声を漏らした。それだけでは止まるはずもなく男を自分の中へと押し込んでいく。そして僅かな抵抗を感じ、すぐさまヴェルメにすべてが包み込まれた。

「あぁっあああああああああっ♪」

暗闇に甘い悲鳴が響き渡った。
彼女の中は熱く、そして柔らかかった。まるで全方向から舌で舐めつくされるような感覚に腰が砕けそうになる。なんとか倒れることなく踏ん張るもこの快楽を堪えるのは難しそうだ。

「ん、ふぁ…♪ユウタの、お腹の中でビクビクしてるよ〜♪」

顔こそ見えないが艶っぽくそれでも嬉しそうな声ははっきり届く。その声色と同じで彼女は嬉しそうな表情を浮かべていることだろう。

「ユウタは気持ちいい?」
「ん、ああ…すごくいい」

抵抗の意志さえ削り取られ、素直にそんな言葉が出てしまう。だが今更変に意地を張れる状況ではないし、自分から雰囲気をぶち壊したくもない。
オレの言葉を聞くとヴェルメは「えへへ〜♪」といつものように笑った。

「それじゃ〜…もっと気持ちよくなろうね♪」

ゆっくりと味わうように抜き差しするたびに粘液が溢れ出しびしょ濡れの体をさらに濡らしていく。わずかに腰を動かしただけでも細かなひだに舐られ、筆舌し難い快感を弾き出した。

「あぅんっ♪ひゃっ♪ふぁぁぁあ♪」

動くたびに漏れるヴェルメの喘ぎ声。普段なら絶対に聞けない声は暗闇の中で耳に残り、さらにオレを高ぶらせてくれる。
巻き付く膣肉をゆっくり引き剥がし、腰がぶつかるまでオレを飲み込むヴェルメ。腕だけではなく片足も絡め求めてくる。
二人が交じり合う音がひっきりなしに漏れ、オレとヴェルメが繋がっていることを意識してしまう。暗闇の中で何も見えないが体を重ねて乱れる彼女の姿を想像すると体の奥から欲望が溢れ出しそうになった。
そして、もっと乱れさせたいと、もっと感じさせたいと体が動き出す。

「ひゃ、ぁあああっ♪や、らぁ♪激しいぃよっ♪」

とろけた肉にしゃぶられる感覚はあまりにも気持ちよく気づけばオレからも夢中でヴェルメを求めてしまう。自身の限界など知る由もなく無我夢中に腰を振った。
それに応えるようにヴェルメも体を動かした。腰を打ち付け膣内で搾り取るように舐り尽くしては悲鳴を上げるようにすぼまる。膣ひだはカリ首のクビレに深く食い込み引き抜くことを許そうとしなかった。

「ユウタ〜ぁっあ♪ん、ぁ…すごい、気持ちいいよぉ〜♪」

ヴェルメは全身を擦りつけ、腰を押し付けたままグラインドさせる。離れたくないというように体をくっつけ膣内ではしゃぶり尽くされる。既にヴェルメの口内にいるというのにまるで歯のない口で捕食されるような感覚だった。
あまりにも強烈で、あまりにも甘美な快楽。
人知を超えた魔物との交尾による快感は人間で未経験のオレにはきつすぎる。なんとか堪えてきたが快感の波は容赦なく押し流そうとし、限界へと押し上げた。

「ヴェルメ…も、う……っ」
「んぁぁ、あっ♪ユウ、タぁぁっ♪」

縋り付くように彼女の肩を掴むと応えるようにきつくきつく抱きしめて、さらには周りの肉壁が狭まり全身がヴェルメと密着する。腰を引こうにも柔肉に押さえつけられ、自身を抜こうにも膣壁に締め上げられる。逃げ場のない快楽に溜まりに溜まった欲望がヴェルメの中で弾けた。

「ひゃぁああああああああああああああああああっ♪」

艶やかな叫び声が二人きりの空間に響き渡り、ガクガクと体を揺らす。それに伴い吐き出される精液を搾り取ろうと膣内が締まり、応えるように漏らしてしまう。子宮口は一滴も逃さないというような貪欲さで吸い付き、思わず腰を震わせてしまう。

「あああぁぁ…ん、はぁ、あ……♪」

長い長い絶頂もようやく引き、互いに体から力が抜ける。そのまま後ろに倒れそうになるのだがヴェルメが優しく支えてくれた。

「あはぁ…♪ユウタのせーえきでお腹いっぱいだ〜♪」

嬉しそうにヴェルメはそう言って下腹部をなでているだろう。暗闇内で見ることはできなくともそれくらいなら少しわかってきた。ただその度に膣内が締まり、射精後の敏感な体に甘美な快楽を流してくる。

「ユウタぁ〜♪」

先ほどよりも一層甘えてくるヴェルメ。抱きしめてはちろちろと舌で唇を舐めてくるのに対し、オレも応えるように彼女の口を吸う。

「ん、む…ちゅ♪れる、むっ♪」

先程までしていたのよりもさらに濃厚で激しく求め合い、名残惜しそうにゆっくり離す。多分、ヴェルメは甘えるように蕩けた表情を浮かべているに違いない。

「ユウタぁ〜♪もっとお腹の中にもっとびゅ〜って出して♪いっぱいいっぱい、しよ♪」

こちらも華の十代だ。たったこれだけで満足できるわけもないし、相手が美女というのならなおのこと。さらには真っ直ぐにオレを求めてくれるヴェルメなんだ、応えないわけにはいかないだろう。
ヴェルメの言葉に笑みを浮かべ彼女の頬を両手で包み込んでやる。

「わかったよ、ほら」
「んっ♪」

応えるようにそっと口付け、再び体を交えていく。
月の光も星の輝きも夜の寒さも届かないたった二人だけの空間でオレとヴェルメは何度も互いを求め合った。










「…よしっと」

灼熱の太陽は既に落ち、凍える風が吹きつける真夜中。オレは自室にこもって書類整理をしていた。
ペンを置いて書類に書かれていることに目を通す。相変わらず文字は読めないがそれでも経理の仕事ならばお手の物。計算機やそろばんはなくともこれくらいの計算なら朝飯前だ。
間違いのないことを確認し終えると一つにまとめてテーブルに置いておく。あとはこれで明日先輩のところへ持っていけばいい。
ようやく一仕事を終えてオレはその場から立ち上がる。そうすると背後から腕が伸びてきて体に絡まった。

「ユウタ〜♪」

甘えるような声色に頬に触れるしっとりと湿った柔らかいもの。横目で確認するとそこにあったのはピンク色の肌をした美女の顔だった。

「お仕事終わった〜?」
「ああ、終わったよ。よく邪魔しないで我慢できたな」
「えへへ〜♪褒めて褒めて」

そう言ったのはヴェルメ。あの夜体を交えたサンドウォームだ。
本来ここに彼女はいられない。一人住むには十分な居住スペースがあるこの空間でもサンドウォームが入れるほど大きくはない。
だがヴェルメ自身ここにいられるのはこの部屋の構造が特別だから。広さは他の部屋と大差ないがある一部分だけがほかと異なっていた。
それは窓。窓というか大穴と言ったほうが正しいかもしれない。
ここの窓はかなり大きくサンドウォームのヴェルメでも頭くらいなら入れる。流石に体全体は無理でも彼女の本体が入れればいいので頭さえ入れれば十分だ。
ただ外から見たら遺跡にサンドウォームが突き刺さっているようにも見えなくないので正直怖い。一度目にしたことがあるが遺跡が怪獣に襲われてるようにしか見えなかった。
こうなったのはあの夜、ヴェルメと体を交えたせいだったりする。案の定オレを離さない、逃がさないと頑なに口を開けるのを拒んだヴェルメへ提案した一つの考えだった。
別にオレが行くあてのない放浪者ならヴェルメに飲まれたままでもよかった。帰る場所のない旅人だとかなら喜んで彼女の口内で住み暮らしていただろう。だがオレには帰らないといけいない場所があるし、やらないといけない仕事がある。それを投げ出してイチャラブエロエロし続けるというのは気が引ける。
それゆえ結局、オレはヴェルメを迎え入れることのできる部屋にしてもらったというわけだ。

「んん〜♪」

頭を撫でられて嬉しそうに声を漏らすヴェルメ。ぬるりとした粘液が腕を伝って体に流れるのだが構わず撫でた。
いくら体に流れても溶かされる服はない。というのも一着しかない学生服をとかされるわけにもいかずオレは仕方なく部屋の中では上半身裸になっていた。他にも服はあるが砂漠での衣装なんて先輩たちのような極端に布地が少ないのばかりなので遠慮している。
だがヴェルメにしてみればそれはいつでも求められるということ。現に今彼女は撫でられながらももじもじと何か言いたげにオレを見つめてきた。
そして、柔らかい唇を遠慮がちに開いた。

「ね〜…ユウタ。お仕事終わったんだから…えっちしよ♪」
「…」

思ったことを素直にしゃべるのはいいと思うがもう少し恥じらいを大切にして欲しい。服を着ない時点で無理だとは思っていたけど。
それでも愛らしいことに変わりない。
オレは苦笑しつつヴェルメに手を取られ、大きく開いた口内へと飲み込まれる。音も立てずに閉じたのを確認すると何も見えない中でオレ達はそっと口づけを交わした。





―HAPPY END―
13/04/20 23:49更新 / ノワール・B・シュヴァルツ

■作者メッセージ
ということで今回は図鑑世界砂漠編、新しい魔物娘のサンドウォームさんでした
まさか口内でのイチャラブエロエロとはクロスさんの発想には脱帽ですね
今回は何も見えない暗闇の中でのエロエロでした
いずれ見えるところでのエロエロも書いてみたいですね

ここまで読んでくださってありがとうございます!!
それでは次回もよろしくお願いします!!

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33