読切小説
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やさぐれニートアル中ショタ勇者
 ヴァルキリーに選ばれた勇者は、一部の例外はあるが選ばれた時点で体の成長が停止する。
 
 体の成長が止まるという事は筋肉もつかないので、言ってしまえば筋力トレーニングはいくらやっても無駄という事に他ならない。

 選ばれる前から筋力がある者ならまだいいが、『武具を装備できないため、前線に立てない使い物にならない勇者』というのが結構な割合で存在する。

 それなら『少年でも持てる剣を軽い剣を持たせればいいのではないか?』という意見もあったが、そういったものは例外なく脆いもので実戦に耐えうるものではなかった。

 ならば筋力を使わない技術による戦い方を身につければよいのではないか、という話になったが、それは戦いに耐えうる身体能力が大前提にあっての話である。

 その身体能力がなければ技術も何もあったものじゃない。

 魔法さえ使えればこの問題は解決するのだが、これに加えて魔法の才能がなかったら悲惨だ……剣も魔法も使えないということになる。

 そして、その魔法の才能がある勇者というのは、中々お目にかかれるものではない。

 そのため、教団軍では『少年勇者は精々肉壁にしかならない役立たず』と認識されている。

 戦えないなら仕方ないと、労働で自分の生活費を稼ごうとする勇者も出てきたものの、見た目や能力が子供のモノでは誰も雇ってくれない有様だ。

 雇われても精々お手伝い程度のもので、賃金もそれに見合った非常に少ないものであり、その日暮らしすらできない。

 一応彼らは勇者であるため、教団としては放逐するわけにもいかない。

 そのため、教団内では所謂『ニート勇者』がかなりの数で存在し、教国の財政を圧迫し大問題となっているのが現状だった。

 後先考えずヴァルキリーが降り立ったり、そのヴァルキリーが勇者との間にぽこぽこ子供を産みまくった結果がコレなので、自業自得ともいえるのだが。

「ったくよォ〜、何で俺が勇者なんだよォ〜」

 とある酒場で顔を真っ赤にしながらくだを巻いている、一見十代前半……いや、下手したら十歳にも満たないようにも見えるこの少年。

 彼もまたニート勇者の一人であった。

「お客様、そろそろ閉店ですよ……それに、お客様は未成年ですよね?」

「うるっせえよ! いいから酒だしやがれ!」

 ジョッキをテーブルに叩きつけ、恫喝する……が。

「こちとらもう五十路手前だっつうの! 四十八歳なんだよ!!

 あのボケナスが俺を勇者に選びやがってからこんな体に……ううう」

 すぐにテーブルに突っ伏し泣き始めるニート勇者。

「……ああ、なるほど」

 勇者という単語で何かを察したのか、同情したような顔で店員はニート勇者が手にしていたジョッキに酒を注いだ。

 無駄にアルコール度数の高い安酒ではあるが、酔うだけならちょうどいい酒だった。

 酒が注がれたことを知るや否や、ニート勇者は思いっきりジョッキをあおる。

「ヴォエ! まっず!」

 身体の成長が止まるという事は、それはすなわち何時までたっても酒の美味さが分からないという事に他ならない。

 だが、それでも彼は酒を飲まずにはいられなかった。

「でも飲まずにゃいられねえんだよなぁ……酔わなきゃやってらんねーってんだよ、ったく……酒くれ」

 ニート勇者は据わった目つきでおかわりを要求する、その時店の入り口のドアが開かれた。

「勇者様! またこのような所に!」

 入ってきたのは、金色の髪を靡かせた見眼麗しいヴァルキリーだった。

 ニート勇者がその姿を見た瞬間、苦々しげに舌打ちをしたのを見るに彼に付いているヴァルキリーだろう。

「さあ、帰りましょう! 貴方はこんな所にいてはいけません!!」

 ヴァルキリーがニート勇者の手からジョッキを取り上げ、そのまま店から無理やり連れ出そうとする。

 もちろん、神の戦士たるヴァルキリーの力に抗えるわけもなく、ニート勇者はずるずると引きずり出されそうになったが……店員がそれを制止した。

「お客さん、お代は?」

「あ? この馬鹿が払うよ」

 ニート勇者が顎でクイっとヴァルキリーを示す。

「馬鹿とは何ですか! 大体、見かけだけとは言え子供が酒に溺れるなんて何事ですか!!

 ニート勇者を小脇に抱えながら、ヴァルキリーは形のいい碧眼を吊り上げ怒鳴りつけた。

「うるっせえなぁお前はガミガミとよぉ〜、俺の母ちゃんかっての」

「両親のいないあなたの親代わりが私でしょうに!!」

「んなこたぁどうでもいいだろうが、いいから金払っとけ」

「まったく……しょうがないですね」

 ヴァルキリーはニート勇者を下ろし、懐から財布を取り出して支払いを済ませる。

 かなり大量に飲んでいたようだが、安酒という事もありそもそもの単価が低く支払いは安く済んだ。

「さて、支払いも終わったし今日という今日は……いない!?」

 支払いを済ませているわずかな隙に、勇者は忽然と姿を消し……

「うっ……ウゲェェェェェ」

 ……消してはいたが、どこにいるかはまるわかりだった。

「はぁ……」

 軽くため息を一つついてから、ヴァルキリーは店のすぐ外で吐いていたニート勇者の元へと歩み寄り、背中をさすった。

「ほら、もう帰りましょう」

「うるせぇ……母親面しやがって……お前さえいなけりゃ……俺は普通に大人になってたんだ……」

「……確かに、それに関しては申し訳なく思っております。 しかし、あなたは勇者に選ばれたのです」

「だからそれがおかしいってんだろ……拒否権だってありゃしねえ……この身体じゃ戦うことだって、開き直って働くことだって出来やしねえ」

 袖口で口元をぬぐいながら、ニート勇者が心情を吐き捨てる。

 拭われた口元は軽く震え、その瞳は潤んでいた。

「何時までもこのままの辛さがテメエに分かるかよ……酒に溺れる事ぐらいしか出来ねえんだよ……俺ぁよ……」

 ニート勇者の瞳から涙が零れ落ちる。

 その姿を見て、ヴァルキリーは何も言えなくなってしまった。
20/04/06 16:50更新 /

■作者メッセージ
何時まで経っても子供のままって実際はホラーだと思う。

……この話ヴァルキリーいらないっすね。

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