連載小説
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第五話・決戦はサービスデイ!=その1=アリス編
ここは紳士の社交場、娼館『テンダー』。
時に抑えきれない欲望を叶えに、
時に冷たい心の隙間を埋めに、
時に運命の導きのままに、紳士たちが集う秘密…でもない場所。
今日も紳士たちは心にやり切れない寂しさを持ち寄って、
魔物という名の天女たちに会いに来る。

さて…、今日はどんなお客が来るのやら。


――――――――――

【開店直後】

「いらっしゃいませ、娼館テンダーへようこそ。」
「…ここで、アリスが接客するという噂を聞いてやってきたのだが。」
彼は自分のことを仮に「エス」と呼んでくれと言った。
世間的に身分を隠したいのかサングラスにロングコートを着込んでいる。
こういうお店に来るお客は、時にその身分を公に出来ない人も多い。
「確かに…、うちではアリスが、お客様にそういうサービスをする…、という風に宣伝はしておりましたが…。」
先日、そのアリスは辞めました、と告げると「エス」氏は崩れ落ちた。
「何ということだ…。せっかく…、無理に休暇を作ってきて、資金と時間を彼女のために作ってきたというのに…!」
「お気持ちはお察しします。どうか顔を上げ…。」
その時、フワフワしたフェミニンな影が「エス」氏に抱き付いた。
「てんちょーーー!何このおにいちゃん!お客さん?アリスのお客さん?」
「え、え、え、あ、アリス!?」
「うん、そうだよ♪」
どういうことなんだ、という目で「エス」氏は僕を見る。
「ご説明しますと…、先日当店を辞めたアリスというのが、そういうサービスも何度か経験したことのあるアリスだったのですが…、実は身請けしてくれた方がいましてね。そんな穴を埋めるために、この娘をうちのスカウトが見付けたのですが…。」
「まさか…、研修前なのか?」
「…彼女は処女なのです。」
「アリスが処女なのは当たり前だろう。そういう種族なんだから…。」
首を傾げる「エス」氏。
彼の認識は実に正しい。
「そう、永遠の処女。性交の度に処女に戻り、その記憶をリセットするのがアリスの特徴。お客様のおっしゃる通りです。ですが…、彼女は本当に処女なのです。純真中の純真、天然記念物レベルの一度も性交をしたことのない本物のアリスなのです。」
「な、何だと!?」
「そんな訳で…当店としましては、接客をさせるのに抵抗がありまして。」
それでは仕方がない、と項垂れる「エス」氏。
「てんちょー、何言ってるのかよくわかんないけど、お客さんのお相手くらいアリスできるもん!」
「いや、ね?相手ってアリスが思っているようなのじゃ…。」
「できるもん!アリスだってできるんだから!」
僕はほんのちょっと考える。
スカウトが連れてきた時はどうしようかと本気で考えたけど、彼女のやる気を削いでしまうのはあまりに得策ではない。それにいつか彼女も一般的なアリスたちのように性交をして魔力を溜めていくのなら…、今がその練習時なのかもしれない。
「…お客様。本当はこんなことをお願いするのは良くないのですが、どうでしょう。彼女の研修相手になっていただけないでしょうか?」
「い、良いんですか!?」
「ええ、ご利用料金も…、何らかの粗相をすると思いますので、割引させていただきますので…。」
「で、では、お言葉に甘えて…。」
「ありがとうございます。アリス、ではこのお兄さんのおもてなしは君に任せたよ。しっかりおもてなししておいで。」
「りょーかいしましたー。おにいちゃん、こっち!一緒に遊ぼう!」
「では、当店の決まり事でして、キッチリお時間は2時間です。お時間になりましたら、アナウンスが入りますので、お時間までお楽しみください。」
手を引かれてプレイルームへ続くエレベーターに乗り込む二人。
ほんとにあの子に任せて大丈夫だろうか…?



「いらっしゃいませー、アリスの部屋にようこそー♪」
部屋に入って圧倒された。
娼館独特の殺風景な部屋を想像していた私の目の前に現れた部屋は、少女趣味がそのまま具現化したようなフリフリの部屋だった。
「これね、アリスのたからものー♪」
彼女の手に余る程大きなクマのぬいぐるみを抱きしめて、笑顔で自分の大事な物を私に見せてくれる。その無垢な笑顔がまるで太陽のようだ。
「えっと、アリスちゃん?」
「あー!ごめんなさい、おにいちゃんのおもてなししなきゃいけないんだよね?ちょっとそこで座って待っててね。」
座ってて!?
ま、まさかいきなり即尺か!
そうだよな、こういう店にいる以上、アリスちゃんだって…。
「はい、アリス特製のロシアンティー!」
………。
……。
…。
いちごジャムやマーマレードなどをガチャガチャとテーブルの上に並べていくアリス。身長が低いため、思いっ切り背伸びするアリスを見て、私は思わず手を差し伸べた。
「あ、おにいちゃん、ありがとー♪やさしいんだね。」
少し、胸が痛くなる。
汚れてしまった自分が少し情けなくなってしまう。
せっかくなので、プレイとかそういうのを忘れて、彼女の用意してくれたロシアンティーを楽しむ。
紅茶の茶葉の香りが絶品だ。
ここが喫茶店だったら良かったのに…。
アリスは紅茶よりもジャムの方が好きらしく、当初、年上のお姉さんぶって淑女のようにお茶の香りを楽しむ素振りを見せたものの、段々と見た目の年相応に甘いジャムにスプーンが行く。ついにはジャムを紅茶に入れず、スプーンを頬張るようにジャムを口に運ぶようになった。
口の周りはいちごジャム塗れ。
「ははっ。」
可愛い一面につい笑いが零れる。
「うー、このジャムおいしいんだよ!おにいちゃんも食べたらわかるもん!」
そう言って、いちごジャムを一すくいして私の口に運ぶ。
確かに甘くておいしい…、が。
「アリスちゃん、今、スプーン…。」
「え?あ…。」
自分の口付けたスプーンで私の口に運び、私は思わずそれを食べてしまった。つまり間接キスというヤツだ。天真爛漫のアリスもさすがにこれには気が付いたらしく、赤くなって俯き、指をモジモジと動かしている。
そのまま、時間だけが過ぎていく。
何となく気恥ずかしくなって、私も顔を赤くしてしまう。

落ち着け、落ち着くんだ!

今回はエロ解禁なんだ!

せっかくのチャンスを活かせなくてはオトコが廃るぞ!

そう叱咤してみても、嫌がる女の子を無理矢理手にかけるというのは私の美学に反する。
するとアリスが席を立って、ぬいぐるみがたくさん並べられた本棚から一冊の絵本を持って私に駆け寄る。
「えい!」
力一杯ジャンプして彼女は私の膝の上に座った。
「…ごめんね。アリス、お客さんのおもてなしって初めてだったから、はしゃぎすぎちゃったよ。」
アリスは真っ赤になった顔で照れた笑みを浮かべる。
「いや、大丈夫。私は気にしていない…、いや、私の方が気にしなきゃいけなかったね。ごめんよ、アリス。」
「あー、だめ!おにいちゃんが気を使ったら、だめなの!」
「…そうか。そうだよね。ありがとう、アリス。」
「じゃあね、仲直り。」
と、彼女の小さな小指が私の小指に絡む。
「なっかなおりー、なっかなおり♪」
仲直り、というほどでもないが彼女の無邪気な笑顔が私を癒す。
ああ、今日は本当に来て良かった…。
仕事に追われ、時間に追われ、いつしか何に追われているのかもわからなくなって、私は非日常の中に身を置きたくなっていた。
心が荒んでいるのがわかる。
それが少女との時間の中でゆっくりと洗い流される。
……などと紳士的に振舞っている場合ではない!
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい!!!!!
子供特有の甘い匂い!
少女特有の華奢で柔らかな尻の感触!
むしろあのアリスが私の膝の上に乗っているのだ!
彼女を不快にさせないように勃起しないように、心の中で般若心経を唱え続ける私の苦悩、誰が知る!誰が知る!つーか無理!!
「ねえ、おにいちゃん、ご本読んで?」
「ああ、もちろんだとも。」
彼女に悟られないように、紳士の笑顔を装う。
汚い大人の私を許しておくれ…。
さて、彼女の読んで欲しい本を読んで心を紛らわせよう。
何、童心に返れば何てことはないさ。

【絵本で読み聞かせ 良い子の絵本・しゅうさく】

「これはワザとやっているのかぁぁ!」
「お、おにいちゃん!?」
「あ、ごめんよ、アイス!ちょっとツッコミの限界が出てしまって…。」
しゅうさくが心に語りかける。
『せっかくの幼女なんだぜ?You、いただいちゃいなYO!』
黙れ、悪霊退散、のーまくさんだーぼさらん、きゅーきゅーにょりつにょ!
「アリス、せっかくだから別の絵本にしないか?」
「うん、いいよ。ちょっと待っててね。」
そしてアリスが選んだ絵本は『シンデレラ』だった。
良かった、マトモだ。
…でも何故か登場人物の絵柄がX JAPANのメンバーになっているのは、これを書いている男の陰謀ではなかろうか、などと考えてしまう。
「はやく、はやく〜〜。」
アリスにせがまれ余計なことは考えず、物語を始める。
アリスはキラキラした目で絵本に夢中になっていた。


「………シンデレラは幸せに暮らし、あれ?」
「す〜〜〜、す〜〜〜〜。」
アリスはいつの間にか眠っていた。
その小さな手で私の服を掴み、柔らかな頬を私の胸に擦り付ける。
今だ、襲っちまえ!
再び悪魔が頭をもたげる。
ここはそういう店なのだ。
お前がここに来た目的を思い出せ。
私がここに来たのは…、抑えられない性欲の処理のため。
だが…、私には…、彼女への愛がある。
ここで欲望に任せて彼女を襲っても…、おそらく彼女は抵抗せず私を受け入れてくれるだろう。だが、その処女性の再生のため私との行為のことなど忘れてしまう。運が悪いとその不快な忘れるべき記憶が私そのものを忘れてしまう恐れがある。
人としておかしいだろうと自覚している。
それでも…、私は彼女を…、アリスを愛してしまった。
アリスという種族ではない。
今、私の胸の中でやすらかに眠る乙女を愛してしまったのである。
それを私の手で汚してしまうのであるのなら、いっそのこと、このまま何もしないで彼女を愛でていよう。
笑うなら、笑え…。
男の愛はやせ我慢なんだ。
私は愚かな男だよ。
せっかくのアリスを前に、性欲を満たすことを選ばず、彼女の記憶に残りたいと思ってしまったのだから…。
『んんっ、アーアーアー。アリスちゃんのお客様ー、アリスちゃんのお客様ー、後10分でお時間でございます。ところで私、セイレーンなんだけどまたsound onlyの出演なの(ブチ)』
時間が来てしまった、か。
「んにゅう…、あ。アリス寝てた…。」
「ああ、おはよう。お目覚めかい、お姫様?」
「んー、ごめんね、おにいちゃん。もう時間?」
「そのようだね。名残惜しいけど、私は帰らなければならないね。」
「……もうちょっとだけ、こうしててくれる?」
「もちろん、アリスが望むままに。」
えへへ、と私の腕の中で丸くなる。
悪魔がさらに要求を突き付けて来そうだが、さすがにあと10分では手の出しようがない。仮にあったとしても、さすがに10分で終わらせる自信はない。
「おにいちゃんの腕の中って、あったかい…♪」
「よーし、じゃあ、こうしてやる。」
ちょっとだけ腕に力を込める。
鈴のようなアリスの笑い声が響く。
冗談抜きに今日は来て良かった。
抜きはなかったけど…。

そうしているうちに10分はあっという間に経ち、私はプレイルームから出なくてはならなくなった。
名残惜しくなりながらも、私はコートを羽織る。
「じゃあ、また遊びに来るよ、アリス。」
「うん…、おにいちゃん。」
「何だい?」
「いいものあげる!アリスのひみつのたからものだからこっそり見て!」
アリスは手を合わせて、何かを持っているようだった。
大きさからしてブローチくらいだろうか…?
私は彼女に言われるまま腰をかがめて、その手の中に視線を落とす。
「ん!」
「んむ!?」
チャンスとばかりにアリスが目一杯背伸びして、唇を重ねてきた。
触れるだけの軽いキスだったが、彼女の精一杯の努力だったのだろう。
俯いて顔が見えないのだが、耳まで真っ赤になっている。
「おまじない。」
「えっ?」
「またおにいちゃんに会えるおまじない。アリスの…、はじめて、だよ。」
………。
……。
…。


「あ、お疲れ様でした。いかがでした……ってお客様!?」
「はい、何か?」
プレイルームから出てきた「エス」氏の顔は実に穏やかなものだった。
迷いも悩みもない、まさに穏やかな仏の顔だった。
「一体、何があったのですか!?」
「ああ、大したことではありませんよ。ただですね、下半身による愛情表現など、純粋な魂の前においては、あまりにも、どうということではないと悟ったにすぎないのですから。」
「…よくわかりませんが、またのお越しをお待ちしております。」
「はい、また寄らせていただきますよ。ここは煩悩の楽園ですが、唯一彼女は私の煩悩を落としてくれたのですから。」
……何があったのか、あまり聞きたくない。
何故か後光が差している。
「では、私はこれで。」
「おにいちゃん!また遊びに来てねー!」
「はい、必ず。」
聖者の行進のように「エス」氏は去っていく。
「ねぇ、アリス?あの人に一体何をしたんだい?」
「うーんと、えーっとね、ないしょ♪」
少し恥ずかしそうな笑顔だけを残してアリスは控え室で待機している他の女の子の元へ行ってしまった。
……さて、次のお客さんの準備をしよう。
今日は忙しくなりそうだ…。



【次回もサービスデイを掲載させていただきます】
【つづく】
10/10/12 23:09更新 / 宿利京祐
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■作者メッセージ
エロくないぞー!
という罵倒覚悟でご希望に添えないまま
エロ抜きでいかせていただきました。
今更エロいのを書くのが恥ずかしくなった訳ではありません。
アリスの設定を何度も読み、こういう短時間の店の中で
アリスとエロいことをする…という筋道が見えなかったのです。
永遠の処女を無理矢理だったら、手はあったかもしれませんが
ご希望は悪戯アリスとラブラブ…。
少女の悪戯というものは、彼女たちにとっては悪戯でもないのです!(力説)
せっかくのリクエストがこういう形に仕上がって申し訳ありません!
とにかくラブラブさせてみました。
え、ラブくもない?
ほんとにすみませんでした!!

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