連載小説
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重い甲冑を纏ったまま、狭いけもの道を疾走できるものは兵団の中でも私くらいだろう。
もうこなれた道とはいえ焦る気持ちが目的地までの距離を長く感じさせる。
早くロロラに会わなければ、被害を最小限に抑えるためにも。
時刻は昼時、開けた草原の真上に太陽がのぼり、草木が輝いているように見えた。ロロラの姿は見えない。
私は家のドアを叩く。すると、叩いた勢いで扉が開いてしまった。

「ロロラ殿!!」

彼女はベッドの上でもぞもぞと動いていた。こんな時間まで寝ていたのだろうか。

「起きて下さいロロラ殿!すぐにこの森から……」

彼女の肩をゆすって必死に起こそうとした。しかし眠っていた訳ではないらしい彼女は半開きのうっとりした眼で私を見つめた。

「あ……ゴルトさあん」

呆けたような声が聞こえたかと思えば、腕を強い力で掴まれ、そのままベッドの中に引きずり込まれた。

「うおおお!?」
「ごるとさん、ゴルトさああん……」

衣服をはだけさせたロロラは鎧を果物の皮のように剥いでいき、あっという間に素っ裸にされてしまった。

「ああ、ゴルトさんの匂い……。もう我慢できません……」
「あ、あのロロラさん?一体どうなって……はう!」

尋ねる間もなくロロラはペニスを口に含む。

「はむ……ちゅ…れろ、れろ……」

熱心に丁寧にペニスをしゃぶり続ける。よくは分からないが彼女がいつもと違う状態にあるのは理解できた。そして自分が何をされるのかも、薄らながら。

「うううっ!!」

普段以上に激しい攻め方は私を興奮させ、肉棒はいつもよりも硬く熱を持った。

「も、もう駄目だ、射精ます……!」
「あ、だめですよぉ〜」

パッ、とロロラはペニスから手を外した。暴発寸前のペニスは私の意思と関係無くびくびく震える。

「今日はこっちでしてもらいますから……」

ロロラは私に跨ると、ペニスの先端と自身の花弁をくっつける。零れた愛液とロロラの唾液でペニスはぬめぬめと光って見えた。

「私の膣内で、いっぱい射精してくださいねぇ……」

騎乗した状態からゆっくりと体を沈め、ペニスを飲み込んでいく。

「んん……、ふ、あ、あああん……!!」

ペニスは一気に根元まで入り、膣道全体から圧迫の洗礼を受けた。握りしめるのとはまた違う、射精を促す動きは私の我慢を打ち破った。

「だ、駄目だ、もう……!!」

寸止めされいた精液が尿道を荒々しく通り抜け、彼女の子宮めがけ放出された。

「ふぁあ……いっぱいでてるぅ……」

ロロラは膣内をさらに収縮させ、私は精液を一滴残さずロロラの膣内へ注ぎ込む。

「ほ、本当にどうしたんですかロロラ殿。いきなり襲い掛かってこんな……」

ロロラの攻めもようやく落ち着いてきて、私は問いただす。

「……だって、いいじゃないですか」

その返答に違和感を覚えた。ロロラが「だって」なんて駄々っ子のような言葉を使ったのは初めてだったからだ。

「これ、夢なんですよね?夢の中でくらい、ゴルトさんと結ばれたいんですもん。いちゃいちゃしたいですもん」

ああ、寝ぼけてらっしゃったか。

「ロロラさ」
「ロロラって、呼んで下さい」

「……ロロラ」
「よし」

満足そうに笑って私の胸板に頬ずりをする。そうか、タガが外れると怖いタイプなんだな、この娘。

「ゴルトさん、いつも私と本番してくれませんよね。口だけとか手だけとか、私は大丈夫って言ってるのに」
「そ、それは……」

「魔物娘だって誰にでもそんな事言う訳じゃないんですよ?可愛くなくても心は乙女なんですから」

……そうだったのか。
彼女が優しかったのは、彼女が博愛主義だからだとずっと思っていた。
他の誰にでも私のように振る舞うのだと思っていた。
……私にだけ向けられるやさしさ。

「ロロラ、私は、貴方を……んぉお!?」

言いきらぬところで、ロロラは激しく腰を上下させる。

「もう、私満足してないんですから、もっとも〜っと出してくださいね」
「そ、そんな……」

結局2時間以上行為は続き、膣内にたっぷりと精液を出されて満足といった様子のロロラは、これが現実と知らぬまま疲れ果てて寝てしまった。



ぐっすりと寝息を立てているロロラに毛布をかける。
散々したのだ。起こしても走って逃げるなど難しいだろう。
ふと考える。そもそも彼女は逃げてくれるだろうか。
彼女は逃げようとしないかもしれない。なんとか説得しようと、どんな人でも話せば分かると。
言いかねない、ロロラは優しすぎるから。
もしくは戦うだろうか。この森の生命の為、華奢な腕で槍を手にとる、それもまた彼女らしい。
そして、どちらもさせてはいけない。戦いという言葉自体、ロロラにもこの森にも相応しくない。
そう考えれば、こうして寝かせておくのは正解と思えてくる。

「いたいた。こんな所に住処があったんですね」

振り返れば、ずっとそこにいたように、ユリは椅子に腰掛けていた。

「お楽しみだったみたいですねぇ」
「……お前、どうしてここに」

「旦那の足跡をたどっていたら、ここについたんですよ。そんなことより、どうする気です?憲兵隊は森に向かって出発したみたいですよ。王様も一緒にね。」

「……そうか」

自分でも驚くほど感情を動かさずに答えた。こうなるとわかっていたし、覚悟も出来ていた。

「自分が率いた部隊に狙われるとは、皮肉な話ですね」
「全くだ」
「……早く逃げましょう。トロールさんなら私が一緒に運べばいい。森の外に馬を止めておきましたから、それでどこか遠くへ」
「いや、逃げない」

床に転がった鎧を着こみ、槍を拾い上げる。

「森の前で迎え撃つ」
「ふざけないで」

淡々とした語り口だったが、その言葉には明確な怒りを感じられた。

「あなた一人で相手にできるわけないでしょう。意地張ってないでとっとと尻尾巻いて逃げればいいんですよ」

分かっている。勝算は殆ど無い。でもやるしかない。

「やらなきゃいけないんだよ。彼女の、この森に住む全ての生命の居場所を、俺が守らなきゃならない」
「……その守る物、私じゃ駄目ですか?」
「え……?」

言葉の意味を理解する間もなく、ユリは一瞬で接近し、細い腕で私に抱きついた。

「初めてあった時から、ずっと恋い慕っていました。あなたが望むなら、どんなことでも致します。どうか私を……」

巻き付く腕がより強く絡む。ユリの潤む瞳が私を見つめる。私はユリを……。

「……だめだ」

ユリを、突き放した。

「……どうして?」
「……お前を愛している。大事な、家族として。恋人として、お前を見ることが出来ない」

ユリはしばらくほうっとした目で私をみて硬直していた。

「……すまない」
「そうですか」

そう言うと、何かが吹っ切れたように、いつもの調子へと戻った。

「あ〜あ、流石に色仕掛けで騙すのは難しかったですかね」

嘘だったのかよ。返せ俺の覚悟。

「ええ、興味ないですよ旦那みたいな朴念仁の岩男。トロールだろうがなんだろうがお好きにちちくりあってればいいんですよ」

長い付き合いだが、本当にこいつの考えていることは分からない。生涯、こいつから本音を聞き出すのは無理かもしれない。

「ま、旦那も本気みたいだし、私も止めませんよ。それじゃあ、せいぜい死なないように、ね」

そんな、少し寂しげな別れ台詞だけを残して、ユリは影に溶け込んだ。

「ああ、元気でな、ユリ」

もういないかもしれない影に向かって、私なりのいとまを告げた。

「そして、さようならロロラ殿。お元気で」

起こさぬよう音を立てずにドアを閉め、森の外へと歩き出す。
一面茜色とかした景色をしっかりと目に焼き付けた。もうここへは戻ってこないだろうから。




日が沈み、夜の帳が降りた頃。幾つもの松明の灯りが鎧の音と共に近づいてくる。
ポケットの中に手を入れ、頼みの綱を確認する。
おそらく、これを使えば兵達の相手もたやすいだろう。私自身も多大な犠牲を払う必要があるが。
無数の兵達を視認する。フルフェイスヘルムの集団が統率のとれた動きでこちらへ向かってくる様は、人間らしさを感じさえない。私が倒した相手もこんな気持だったのだろうか。なんて思いを馳せてしまった。

「止まれ」

目の前で兵達が足を止め、一列の壁となった。その間を縫うように国王が顔を出す。
金や宝石で装飾された鎧に身にまとう姿は、王としての威厳を見せつけるかのようだった。

「ゴルトよ、これが最後の警告になる。今すぐに退け、そして再び私に忠誠を誓うのだ。お前は父の代から私に仕えてきた。その功績にめんじて今までの愚行はすべて赦してやろう」
「なりませぬ。ここは穢れなき魔物の森。血で汚れた輩は何人たりとも足を踏み入れてはならんのです。貴方も、そして、私も」
「……そうか。お前は賢く、それでいて忠に厚い男と思っていたが」
「誇りよりも大事なものを見つけたまでです」

王は嘲笑のかわりに深くため息をついた。

「温情があると思うなよ。今をもってお前は国に仇をなす逆賊に成り下がった。かつて仲間だった者たちも、国の為とあらば喜んで剣を向けるだろう。後悔するほど惨たらしく葬ってくれよう。その後、お前の亡骸ごとゆっくりとこの森を焼き尽くしてやろう」
「いいえ王よ、それは叶いませぬ」

懐から握りこぶし大の果実を取り出す。赤く熟れたそれは、松明の炎に当たって宝石のように瑞々しく輝く。

「貴方たちは私が追い払います」
「ふはっ!」

王は噴き出す様に笑いだし、それに共鳴するかのように幾人かの兵達の押し殺したような笑い声が聞こえた。

「魔物の毒にやられて気でも狂ったのか?それとも目が悪くてこの大兵団が見えないか?お前に勝機など万に一つもないわ!」
「確かに、いくら近衛隊長であった私でもこの人数を相手にするのは無理だ。人間のままでしたらね」

果実の皮を丁寧に剥いていく。まるで水菓子のような潤んだ果肉が姿を現す。

「おお、食事の時間かゴルト?いいだろう、最後の晩餐くらい味あわせてやろうじゃないか」
「これを食べて、私は私でいられれば良いのですがね……」

ゆっくりと口を近づけ、一気に頬張った。
禁断の果実の味は、少し渋く、蕩けるように甘かった。


果実を口にした瞬間、甘い香りが私を深い眠りに引き込み、不思議な夢を見せた。
夢の中で私は怪物となっていた。人の倍ある背丈、毛むくじゃらな体毛、鋭いナイフのような爪と牙。それは噂を聞き、私がイメージしたトロールの姿そのものだった。
豹変した私の姿に兵士たちが驚く間もなく、トロールはひとっ跳びで接近戦への間合いを詰める。
反射的に盾を構える兵士。それを吹き飛ばすように腕で払った。
爪は盾も鎧も紙のように引き裂き、その衝撃で兵士ははるか先まではね飛んだ。
呆気にとられていた他の兵士達が見を奮わせて剣や槍を怪物の身体に突きさすが、ただ微量の血が流れるばかりで、その動きを止めるまでには至らない。
怯える兵士たちをよそに、トロールは腕を振り回して暴れた。
戦意を喪失した者、手負いとなった者は次々と逃げていき、一時間と立たないうちに戦線は散り散りとなった。
そして、怪物は王と対峙した。

「何故だ、何故そうまでして邪魔をするゴルト!」

怪物は答えない。聞こえているが、話す必要はないと考えているのだ。

「あの国を見ろ!あそこまで大きくするのにどれほど時間がかかったと思う!これからも国は栄える!人も、魔物も、神さえも討ち倒し、この世界に平定を!この私が……」

王が最後まで語り終える前に、獣はその首に深々と牙を突き刺した。

「ガッ……ッ!」

王は口から真っ赤な泡を吹き出し、何か声に出そうとしていたが、ヒューヒューと音を立てただけで何も言わず、やがて草叢にその身を委ねるように突っ伏した。
王の最期を見届けた怪物は、ゆっくりとした足取りで森へと歩いて行った。
が、しかし、数歩歩いた所で片膝をついてしまう。
その時トロールはようやく歩くこともままならない程、多量の血を流してしまったことに気付いた。
その内立っていることも困難になり、枯れた巨木が崩壊するように、大きな音をたてて倒れこんだ。

「ロ……」

もはや身動き一つ取れなくなったが、最期に抵抗するように、残った力を込めて口を動かす。

「ロ……ロ………ラ………………」

つぶやくような声で、風にかき消されそうな声で、愛する人の名前を呼んだ。
その後、トロールは動かなくなり、私の意識も消え失せるように徐々に薄らいだ。



身体を包み込むような暖かさに気付き、目を覚ます。私は、いつぞやのようにロロラに膝枕をされていた。

「……ロロラ……」

名前を呼ぶ。

「……はい」

彼女は震えた声で答えてくれた。
ポタリポタリと、額に熱い雨が降り注いだ。

「良かった……間に合って……本当に良かった」
「私は……生きてるのですか?」
言って、自分の体の変化に気づく。全身が包帯でぐるぐるに巻かれてマミーのようになっていた。

「旦那を介抱したのは私ですけどね」
「……ユリ」

見慣れた顔が私を覗いてきた。気のせいか、目元が少し赤くなっているように見えた。

「本当、旦那は馬鹿ですね。命がけでこんなことするなんて……」
「生憎、こんなやり方しか知らないものでな」

本当、こいつは口が悪い。ただ、このやりとりをしていると落ち着くのは何故だろう。

ぼやけていた頭もすっかり覚醒すると、自分の異変、異常さに気付いた。
私は人の姿をしている。本来はそれは正常なはずである。私が魔界の果物を食し、魔物と化していなければ。

「人に戻ってる……」
「当たり前です。男は魔物化したってインキュバスかアルプにしかなりません」
「じゃあ、俺が化物みたいになったのは……」
「多分、いきなり多量の魔力を摂取して暴走してしまったんだと思います。今は身体が慣れているのでいつも通りになったんだと……」

そこまで言った所で、ロロラの顔に影がさす。

「でも、もうあなたは、人間には戻れなくなってしまいました」
「……そうですか」

驚きはなかった。覚悟はしていたし、むしろ生命が助かった分幸運とさえ思っていた。

「ごめんなさい。私達のせいで……」
「謝ることなんてありません。私が勝手にしたことなんですから。それよりもこの後なのです。奴らは戦力を整えてまたやってくるでしょう。対策を立てねばなりません」

そう、瀕死になるまで戦った所で、結局はその場しのぎにしかならなかったのだ。
王は死んだ、しかしすぐに新しい王が現れ、敵討と称して森に攻めてくるだろう。今回よりも力をつけて。

「それなら、すでに考えはまとまっています」

ロロラは私の手を握って言った。大分身体も回復しているようで、ロロラに支えられながらもフラフラと立ち上がった。

「逃げましょう。この森を捨てて、どこか遠くへ」
「待って下さい!それでは他の魔物達が……」

言いかけて、森の静けさに違和感を覚えた。静かすぎる、まるで生き物がすべて消え去ったかのように。

「森の子達は皆出て行きました。もうこの森に魔物娘、いえ、生き物はいません。だから、大丈夫ですよ」
「し、しかし……」
「追手なら心配いりませんよ」

ひらひらと手を挙げてユリが遮る。

「私が時間を稼ぎますから、その間に森の外に止めてある馬に乗って逃げて下さい」
「ユ、ユリ!それではお前が!」
「大丈夫、わたしも馬鹿じゃないんですから。適当な所でドロンしますよ」

ユリはわたしの頭を優しく撫でた。

「でも、心配してくれてありがとうございます」



「ま、そういう事ですから、旦那は安心してロロラさんとハネムーンにでも行ってくださいよ」

くるりとコマのように身体を踊らせたユリは、らしくない笑顔を作って。

「お似合いですよ、あなた達」
「ユリ!」


そう言って、風になびくように姿を消した。

「ユリィ!!」

ヨロヨロの足取りで風を追いかける。しかし、もうユリの気配はない。

「……ありがとう」

私は無言で、ユリが向かったであろう王国の方角へ敬礼をした。

「私達も、行きましょう」

ロロラは大きな手を広げて私に差し伸べる。

「……どこに、行くというのです?」
「平和な国へ。人も魔物も共存して暮らせるような、場所がきっとあるはずです。だから……」
「……ええ」

私は差し出されたその手をしっかりと握りしめる。もう離さないというくらい、思い切り力強く。
そして私達は歩いて行く。歩き続ける。安寧の地が見つかるその日まで。




















差出人不明の手紙

ゴルトの旦那。お元気でやっていますか?
旦那がそろそろ「あいつはどうしてるかなぁ?元気かなぁ?」って心配する頃だと思ったのでこうして筆をとった次第です。
私は勿論元気です。
まあ実際は色々と大変だったんですが。あの後旦那を手引したって事がばれてしまって、国を追われるはめになっちゃって。
命からがら逃げ出して、辺境の地で空腹と疲労に倒れちゃって。親切な村の男の子に介抱されちゃって。
今はその子の家でお世話になっています。まあ私は自分で幸せを掴みますから、旦那は気にせずに第二の人生を楽しんで下さい。
どうして手紙が届いているのか気になると思いますが、それはジパングクノイチパワー、舐めてはいけません。
そんなことよりも、そちらはどうですか?
聞けば、無事に親魔国で暮らしているとかしてないとか。花屋で生計をを立てているとかいないとか。
詳しい事までは分かりませんでしたので、絶対に返信を書いて下さい。旦那はそういう所ずぼらですから、最悪ロロラさんに書かせて下さい。それでは。


追伸
大事なことを書き忘れてました。


いつまでも、お幸せに。
15/03/05 19:33更新 / 牛みかん
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■作者メッセージ
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

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