貴方のために捧ぐうた

「フンフンフ〜〜ン♪」

元気に鼻歌を歌う一人の少女がいた。
その少女は空を飛んでいる

人ならざる羽で………

「ん?あれって………」

不意に地上を見ると、少女の目には人が写った……

男だ………なにやら下卑た笑みを見せ、遠くからでは何をしているのか分からない……何を持っているのかは確認できる…

パァン……!

少女は人間が嫌いだった……

だって…………

「ホント……なんで……こんな目に…遭うんだ、ろ……」

人間ってよく分からない……なんであんな鉄の筒で誰かを撃つとか考え付くんだろう…




羽から血を滴らせ…少女は墜ちた………










「はい、これでいいよ…」

「ウィルせんせ〜、ありがと〜!」

海辺の近く…とある村では旅の青年が診療所を開いていた。
たくさんの行列がある…そもそも小さな村で、まともな診療所が無いのも理由だが、もっと別の理由がある。

青年が診ていたのはコカトリスだった。

「本当にありがとうございます……街では診てもらえなくて…」

コカトリスの親はペコペコと頭を下げる。

「いえ、いいですよ。いつでもどこでも誰とでもがモットーですから」

青年……ウィリアムは眼鏡を整え、コカトリスの少女を撫でた。
ウィルと言うのは幼少の頃からの彼の愛称である。
この小さな診療所に行列ができる最大の理由……
彼は魔物を診る事ができるから……
基本的に人間よりも体が丈夫だったり、人間とは違った体の構造を持った魔物もいるという理由があり、魔物を診れる医者はそんなにいなかった。

「それにしても……ここ最近は教会の連中の目が厳しくて………ここもそろそろ危ないかも知れませんね」

「まあ、そうなんですか……?」

薬を調合している間、診ている人(この場合はその親)と世間話をするのが彼の日課である。

「ええ、この大陸は元々魔物に対して排他的ではなかったのですが……前に、この村の近くの街に教会ができてから……街は魔物が居づらくなるし、教会の息がかかっている病院は診てすらくれない。…医者としてとても心苦しいです……」

ウィルは溜息をつき……丁度薬の調合が終わる

「はい、もしまた娘さんの羽の付け根が痒くなったらこの薬を塗ってあげて下さい……あんまり塗りすぎると荒れますから塗り過ぎないように」

「ありがとうございます……」

「ありがと〜ございます!」

二人に礼を受け取り、次の患者を招きいれた。






全員を見終わった後、診療所の一室で休んでいるウィル。

「ふう………基本的に誰でも診るんだけど…困ったもんだよなぁ……」

心を落ち着かせるためにお茶を飲む……自分は人間も魔物も診る……見た目や臓器などの体の構造だとかそういうのは問題ない……ただ…

「コカトリスみたいな種族はフェロモンを出すからな……何回か理性が飛びかけたよ………それにスライム……器具を体内に入れるより直接体内に手を入れて診た方が効率もいいんだけど…あれも危険だ…」


性に関しての構造……これは仕方の無い事だが、医者が患者を襲ったなんて事になれば社会的な立場も危うい……ウィルの予想だが、これが魔物を診る医者が増えない一番の理由かもしれない。
休むついでに近くの山で薬草でも摘もうと思いながら、窓から外を見上げる…何かが飛んでいる

鳥…にしてはかなり大きかった。遠目からじゃ分かりにくいが多分ハーピー類の魔物だろう。

「なっ!?」

ズレた眼鏡の位置を直し、そのハーピーらしき影が落ちるのを見た……あれは着地なんかじゃない…明らかに羽か何かの異常で落ちている…!

「クソッ!無事でいてくれ!!」

ウィルはすぐさま医療道具を持ち、すぐにその影が落ちた所に走った。





森の中、ウィルは何とか少女を見つけた。

「羽に爪が無い…セイレーンだったのか……」

医者であるからこそ、冷静にならなくてはいけない。慎重に、迅速に彼女の異常を調べる。
銃の弾…に貫通された痕が肩と脚に一つずつ…落ちたときに枝に引っ掛かったらしい切り傷のうち、少し目立つ傷が数箇所……
肩と脚を撃つ…これは逃げられないようにするために撃ったのだろう…彼女は恐らく密猟者に撃たれたんだ…

「神経も骨も外れてる…不幸中の幸い…か…」

ウィルは周りに気を配りながら治療に取り掛かる……
弾は貫通していて、時間はかかるが適切な処置さえすれば良かった…切り傷も止血をすれば良いだろう…

大丈夫……助かる…

内心ではホッとしているが油断はできない。何が起こるかわからないから。
彼の胸中にあるのは一つの命を救う事だけだった…









あれから一日。
密猟者に見つからずに処置できた後、ウィルはセイレーンの少女を診療所で診ていた。

「ん…うう……」

どうやら目が覚めるようだ。ウィルは水を入れた容器を持って、歩み寄った。

「…起きたみたいだね」

少女の意識は朦朧としていたがウィルを診た瞬間、彼女は飛び起きた。

「に、人間!イッ…タタ…」

「あ、ダメだよ。君は怪我人なんだから……無理に動いたら傷口が開くよ」

ウィルは彼女が怪我しているので水を飲ませようとした。少し渋ったようだが、彼の差し出した水に口を付けてくれる。

「………あたし…アンタに助けられたの…?」

その言葉には疑問と敵意が含まれていた。助けてくれた相手の確認ではなく、なぜ助けたのか…それを知りたがっているようだった。

「どうせ……あたしを売れば金になるとか思ってるんじゃないの…?人間なんて…例外を除けばそんなのばっかなんだから…」

彼女は人間に敵意を持っていた…魔物に対して排他的な人間もいれば、人間を良く思っていない魔物もいて当然だろう。
しかし、ウィルは彼女の質問に困った顔をした。

「なんで助けたって言われてもなぁ………あの時は君を助けるのに頭イッパイだったし…そもそも誰かを助けるのに理由なんているのかい?」

彼は逆に聞き返したい気持ちだった。ウィルは自分の利益のために診ているわけではない。彼にしてみればなぜ私欲のために誰かを治療しないといけないのかが疑問だった。

「っ!?……あたしに聞き返さないでよ…わかるわけ…ないじゃない……」

少しいじわるな質問だったかな…ウィルはそう思いながら引き出しから包帯を取り出した。

「さて、包帯も代え時だし、少し痛いだろうけど我慢してね」

彼がそういうと、…少女はなにかを思い出したかのように自分の体を見る。
露出の高い服装で…包帯が巻かれた部分があらわになっていた。

「………包帯…アンタが巻いたの…?」

全身を震わせて…呟くように訊いてくる。

「えっ…そりゃあ仮にも医者なんだから僕がやったよ。それがなに?」

「あたしの裸……見たのね…」

「あ………」

そうだった…真面目な性格ゆえに助けるのに夢中であったが…今思い返してみると、男としてとても危険な行為に及んでいたのだ…
しかもいくら状況が状況とはいえ相手の了承も得ていない。

「ご、ごめん!!意識してなかったけど…僕、そんなやましいことなんて考えてないから!!でも、ホントにゴメン!」

ウィルは土下座して謝った。
そのあまりにも潔い謝罪をみて、気が紛れたのか、少女はうっすらと笑いながら。

「別に…人間とはいえ助けられたんだから…そんなとやかく言えないわよ…」

でも、仕返しされるかもしれない…一応、ウィルは肝に命じておく。

「それで…アンタは?」

ベッドから身を起こして、彼女はウィルを見た。

「僕はウィリアム。皆からはウィルって呼ばれてる…旅をしながら所々で診療所を開いて診察する、しがない医者さ」

それで…君は…?とウィルは聞き返す。いつまでもこの娘とか、患者では少し失礼だと思った。

「あたしは、ミクナ…助けてくれた事には礼を言うけど…人間は嫌いだから、それ以上の事は期待しないでね」

セイレーン…ミクナはそう言うと、毛布を被って…まるで身を守るようにくるみ…寝てしまった。

「やれやれ…」

どうやら警戒しているようだ…
それから…診療所の扉の札を「close」に変え、建前上…今日の診療は終わった。








朝、目が覚めた…

嗅ぎ慣れない薬品の匂い…白一色の景色……その中、一人の青年が机に座って試行錯誤していた。

「なにしてんの…?」

怪我をして動けない体…自由に飛ぶ事も、今は歩く事もできない。
正直…退屈だ。今の心境としては話し相手が欲しいのかもしれない…自然となにかをしようとしている青年に声をかけることができた。

「ん?…ああ、良く効く薬を調合するにはどうすればいいのかって思っててね…毎日こういう事はやってるんだけど…そんな簡単にできないんだよね…」

技術は日進月歩って言うのになぁ…と彼は溜息をつき、試験管に入ってある怪しげな液体を揺らしていた。

その表情は心底楽しそうだ…それだけで、彼は誰かを助ける事を…医療と言うものを心の底から愛しているのだという事がみてとれる…
良く見れば…左腕にはたくさんの傷が付いていた。

「さてと……えいっ!」

ふと、何かを納得するように頷くと、いきなり小さなナイフで左腕を傷つけた…!

「えっ!ちょっとあんた!!何してんのよ!!」

そのあとに試験管の中の液体を右手に塗り、

「え?だって誰も試した事がない薬だよ?自分で作ったとはいえ効き目は保証できないんだし…だったら自分で試すしかないでしょ?」

さも当たり前な事を言うように、なんでそんな事を聞くの?という表情で左腕の傷にその薬とやらを塗る…

「あ…いだだだだだ…くう……!少しキツイな……もうちょっと成分を弱くしないと…」

涙目になりながら何かを紙に書きとめ、その薬を容器に移し、戸棚に置いた…

「あんた…こんなこと毎日続けているわけ…?」

「う、うん…今回は塗り薬だけど…昔は解毒剤も自分で作っててね…誰かで試すわけにもいけないから自分で毒を注入して試した事もあったよ…」

そんなことを笑いながら話す…

馬鹿…なんだろうか…?

「あの時、毒のサンプルをくれたギルダブりルにも感謝しないとなぁ…まあ、そのあと、気に入られかけたけど…」

自分の毒を快く受け止めてくれた初めての人って言ってたな…と思い出話をさんざん聞かされ…

「…よく生きていられたわね…」

その一言だ…ここまで自己犠牲が強い人間というのもそういないだろう…むしろ人間の中でも例外中の例外と言ってもいいのかもしれない…

「よく言われるよ」

やはり、それも笑ってウィルは答えた。

「…馬鹿……」

とりあえずそういう事にした。











「ちょっと、危ないよ!」

あれから一週間と数日…薬草を摘みにきたウィルとそれを手伝うミクナの姿があった。

火傷に効果のある木の実が欲しいらしく、手を伸ばすがとれない位置にあった実をミクナが飛んで、取りに行った。

「だいじょ〜ぶだいじょうぶ♪もうここまで回復してるんだから」

驚異的な回復を見せたミクナは平然と飛び、木の実を数個取って戻ってきた。

「ほら、なんともないでしょ?」

それを無言で見つめた。

「嘘言わないで」

「痛ッ!」

ウィルは肩をチョンと押すとミクナは呻いた…

「動かす分には問題がなくなったみたいだけど…飛ぶのは負担がかかりすぎるし、少しの刺激でも反応する…まだ完治には程遠いよ」

さっき飛んでなんともなかったのは運だよ。と付け足した。

「別にいいじゃない…せっかく動かせるようになったんだし…退屈でしょうがなかったんだから…」

ウィルはそれに苦笑して、

「はいはい。でも、どうしていきなり手伝うなんて言い出したんだい?」

ウィルは疑問に思った。助けた直後は人間は嫌いだからと言っていた彼女の行動とは思えない。実際、傷も回復してきたので退屈しているだろうと思い、誘おうと思ったのだが彼女から手伝ってくれるとは…

「えっ!?べ、べつにいいじゃない!言ったでしょ…退屈だったって」

「ま、まあ…それだったらいいけど……」

心を開きかけている証拠だろうか……









「アダダダダダ!!?うへ〜……この前試作品の薬を塗った部分が腫れてる…なにか間違えたかな…」

今日もウィルは自分の体を実験台にし、薬を作っていた。

「えっと…腕のこの部分に塗った薬は…」

あれからまたさらに一週間……ミクナの傷をさらに良くなってきている…

「終ったわよ〜…子供の遊びも案外大変ね」

「あ、ご苦労様」

ミクナは診療所に通っている…もしくは入院している子供達の相手をしていた。肉体的な労働はまだウィルが許してくれないが、絵本を読む仕事の方が彼女には向いていた…

「でも…やっぱりセイレーンだからか…良い声だね。それに、なんか心を込めてる感じだけど…」

ミクナはドキリとした…まさかそこまで見透かされていたとは…

「……絵本…好きなの……」

近くの本棚から童話集を手に取り、パラリとめくる…

「それは、例外の人間に関係あるのかい?」

またドキリ……なんでそこまで鋭いのか……

「あの時…人間なんて…例外を除けばそんなんばっかって言ってたよね?つまりそれって、例外の人間を知ってる…そういうことでしょ?」

ズレた眼鏡を直し、ウィルは訊いた。

「お父さんとか……?」

「あたしの父さんは母さん、つまり魔物と契りを交わしたせいで反逆したことになって教会の連中に殺されたわ…母さんもそのまま……」

ウィルは…驚き……それとともに悲しみとも怒りとも思える表情をした。

「…そこまで……」

「あたしはね、ここじゃなくて…別の大陸から渡ってきたの…故郷の大陸の最北端…毎日雪が降る場所だったわ…」

なぜ、こんなスラスラと言葉が出るのだろう…話す気などないのに…

「そこは教会の連中が牛耳っている街……でも…あたしを引き取ってくれたのはその教会のシスターだったの…」

そう…そうだった……自分はその教会の牛耳る街の…変わり者のシスターに引き取られていた。

いや、正確には自分だけではない。人間、魔物、妖精…誰彼問わずそのシスターは秘密裏に自分達を引き取ってくれた…
シスターは毎日、教会の仕事に追われながらも自分達の世話をし、喧嘩をしていたら制裁を…夜が怖いと泣いていた子供にはお話を…
そんな風に皆の世話をしてくれていた…

皆、そのシスターの創作する話が好きだった…シスターは絵本だけでは飽きてしまった子供達のために自分でさまざまな土地の風習、文化、地形を調べて自分で物語を創作していた…
時には愉快に…時には真剣に…時には悲しく…
そんな優しいシスターが大好きだった…

「でも…その街で魔物を育てるだなんて…自殺行為以外の何物でもなかった」

話を続ける…

教会にバレてしまった……シスターは当然、反逆者として教会に裁かれる事になった……
そうなる前に逃がしてくれた……他の子供達がどうなったかはわからない…自分は羽を使い…一心不乱に逃げ延びた……自分も下手をすれば教会に殺されていたのかもしれない

「…そんなことが……」

「あの人があのあとどうなったかはあたしにはもうわからない…あんなとこ行く気もない……風の噂じゃあ…処刑されたことになってるらしいわ…」

童話集をぎゅっと抱き……ミクナは目を瞑った…

「だから絵本は好きなの…まだ私はあの人が死んだって認めてないけど…それでも、あの人が私達に残してくれたのは…物語だから……」

自分を守るため…まるで心の支えのようにもっと強く抱きしめる…

「あの人が残してくれた物語…全部覚えてる…」

「すごい人だね……生きてるなら一度会いたいな…」

「生きてるわよ……だからあたしは…いつか出会う時のために…」

窓の外を見る……

「とびっきりの歌じゃない…とびっきりの詩(うた)…物語をプレゼントするの……」

絵本が好き…詩が大好きなセイレーン……ウィルは彼女が輝いて見えた…


ガチャ……!


「失礼する…」

そこで…突然診療所に押しかけてきたのは……

「聖騎士……!」

ウィルよりも先にミクナがその名を呼んだ……敵意を剥き出しにし…睨んでいる。

教団騎士……それは魔物を排他するため、暴動を鎮圧するために作られた、武力行使の許された教会直属の騎士団だった……

「………何の用ですか…」

ウィルも存在は知っている…いや、実際この聖騎士に行き倒れの魔物の診察を邪魔された事すらある。
もちろん、良い感情なんて持てるはずがない…

二人だけだった…教会の規模を考えれば必然、いくら武力行使が許されているとはいえ、軍並に兵を集めてしまえば単なる教会お抱えの軍隊になってしまう…それは民にも反感を買うだろう。

「ここで、我ら教会の許可を取らずに無断で…しかも魔物の診療をしているのはお前か?」

二人はウィルに問う…もしこちらが何かをすればすぐに剣を抜くだろう…

「…私の生まれた故郷ではそのような許可は必要なかったので…それでは、以後気をつけますね……」

眼鏡の位置を直し、表面上は丁寧に…素直に取り繕う……

「いや、許可の方は構わん、いつでも申請しに来い…だが魔物を診療したとなればそれは立派な反逆だ…!」

途端、語気が強くなる…

「下がって!!ウィル!!」

「ガハッ!?」

ミクナは二人の間に跳んで入り、上から騎士の一人の頭を蹴りつけた…!

「ミクナ!?」

「こいつ…右の手甲から刃物をだしてたわ!多分、左腰に差してる剣は視線を集中させるためね!!」

「クソッ!魔物風情が!!」

後ろにいた騎士が幅広の剣を抜き、ミクナに切りかかる。

「ミクナ!!……っ!?」

「ウィル!」

ミクナを庇う形になり、右肩を切り裂かれた…
だが、ウィルの目は痛みに歪みはしたものの、何かを狙っていた。

飛び込んだ形で庇ったことで倒れようしている体…その体を捻り、騎士を正面に見据えると…

「えいっ!!」

白衣から瓶詰めを取り出し、投げた…!

それは二人に命中…中身が飛び出し液体が付着した途端、鎧がじゅわっと音を立てる…

「うわっ!!?」

その異常事態に騎士は焦る…

「その薬品、金属も簡単に溶かす酸ですよ……もちろん人体にも影響を及ぼします…鎧を脱いで帰った方が身のためですよ…」

そのウィルの忠告に騎士は慄き…すぐさま鎧を脱いで立ち去った…



「…よかった〜……あれただ金属と反応して、薬品の方が気化するものだから…もし引っ掛かんなかったらどうしようかと思った…」

しばらく経って…ウィルは口を開く…騎士の脱いだ鎧には何も起こっていない。

「入院している子供達に被害が出なくて本当によかった……」

ミクナは子供達の寝室を見て…それに安堵する…

「ほんとだよね……また守れなかったって思うと……」

肩を抑えてウィルは呟く……

「教会に目を付けられれば僕みたいな人間は自由に動く事ができない……だから僕は各地を転々と旅して、教会の目から逃れないといけなかった…」

ただ、救いたかった…街の病院に勤務していたころ、いきなりやってきた教会の連中に魔物だから…という理由だけで治療することを禁じられた…

当然、ウィルは反対……無断で魔物の治療を行うため、自ら病院を開く…
その結果、教会に医師の資格を剥奪され、街を追い出された……入院していた魔物はどうなっただろうか…追い出されたか…あるいは……

「ウィル!なに黙ってんの?」

「ああ……うん、ごめん…」

ここも…そろそろ潮時かな…そう彼は思った…










「クッ………なんで……」

夜…彼は泣いた……
今回は運がよかった…でも、力のない自分は次に来た時……守れるのだろうか…

なんで魔物を助けてはいけないのか…

守ることがそんなに罪なのか…

魔物は悪なのか……

なんで……ただ助けたいだけなのに周りが邪魔するのか…

無力だ……自分は今まで、運だけでなんとかかいくぐってきた……今まで上手くやれたのは偶然……次からどうなるかわからない…
でも…剣術の心得があるわけでもない……体も……むしろ弱い方だ…

無力……自分は何もできない……これからも逃げ続けるだけ………


悔しい……


「なんで…なんで…」

寝る気にもならない……仕方が無いから、お茶でも飲んで今後の行動を練ろう…そう思った矢先…




「〜〜♪」




歌……いや、詩だ……

そういえばいつもはいるミクナが寝室にいない……
屋根から聞こえている…?













ミクナは診療所の屋根の上で詩を詠っていた。
星が散りばめられた夜空の中で…

あの人が残してくれた詩……その一つ…




止まない雨は無い 曇らない晴れも無い
吹かない風も無い 晴れない曇りも無い

あるがままの今を見 あるがままの変化を感じ

歩き続ける 歩き続ける


子供の頃は全く意味の分からなかったものだ……大人になって…全てを理解しているわけではないけど…理解するたびにあの人に近づいている気がする…


芽吹かない春も無い 紅に染まらない秋も無い
緑萌えない夏も無い 雪に覆われない冬も無い

決められた変化を見 決められた変化を感じ

それでも、決めさせたくないもののために

歩き続ける 歩き続ける





「…綺麗な詩だね……」

「……あたしの詩は……まだできてないけどね…」

ウィルが屋根に上ってくる…予想通りと思えばいいのだろうか。
起きているであろう彼に聞こえるように、彼の寝室近くの屋根で詩を詠ったのだから。

「それも…あの人って言う人が残したの?」

それにミクナは頷く…

「どういう意味なの?途切れ途切れにしか聞こえなかったからよくわからないや…」

その答えは返ってこない…代わりに彼女は自分の頭を羽で指した。

「自分で考えてよね。何度だって詠ってあげるから…」

そう言って…また彼女は同じ詩を詠う…









それから毎日、ウィルは彼女の透き通った声の詩を聴いた…

毎日…毎日…

そんなある日の夜のこと…

「そろそろ分かった?」

「こういうのって子供の頃の学校以来だからね……なんかピンとこないや…」

いつもは鋭いくせに……

「しょうがないわね、じゃあもう一回…♪」

また詠う……

(……あれ?)

ミクナの詩を聞いていると視界が歪む…頭がグラグラする……

体が芯から火照る………

「そろそろ効いてきたみたいね…あんたって意外と耐性あったのね……クスッ♪」

詩を中断したミクナはウィルを見た。ウィルの瞳には彼女しか映っていない。

「み、ミクナ……一体何を……」

「まさか一週間フルで詠うハメになるとは思わなかったわ…さすが魔物の医者をやってることだけあるわね。セイレーンの魔力の篭った歌…あたしは詩だけど。それを受けていまだに喋る理性があるなんて…」

「ミクナ…?」

「でも抑えられないんでしょ…?大丈夫…スグに楽にしてあげるわ♪」

そう言って、ミクナはウィルを押し倒した…
記憶力が良いウィルは今までの彼女の行動と知識から…

「人間は嫌いなんじゃなかったっけ?」

理性を留め、いじわるな質問をしてみた。

それに彼女はたじろぐ…

「え、ええ……人間なんて大ッ嫌い…特に教会っていういけ好かない偽善者の集まりが嫌い…でも……違う…」

その教会に…確かにいた例外…

「良い人間はいる……あんたはそんな良い人間……例外中の例外よ…」

ウィルに馬乗りになったミクナは彼の胸に羽を置き…顔を近づけた…

「だから……好き……♪」

口付けを交わした…

「ム…ン…プハッ……今の…初めてなんだからね……責任取りなさいよ…!」

「そ、そんな事いわれても……僕だって初めてだったし…」

「女の初めてと男の初めてじゃあ格が違うわ!責任取りなさいよ!」

「あう……」

顔を真っ赤にし、ミクナは羽を器用に使い、彼のモノを露出させ、羽を絡めた。

「あ、アハハハハ!!やめて!!ひぃ!うわはははは!!!」

さわさわと軽く撫でるとウィルは狂ったように笑い出した:

「どう?どう?羽でおちんちんをさわさわされるとたまらないでしょ?」

「あが……ひはははは!!ゼェ…ハァ…もう、やめぎゃははははははは!!」

「……面白いけどこれじゃあ出ないわね……」

羽に自分の唾液を付着させる…
その羽で彼のモノを締め付けた……

「今度は違う意味でよがらせてあげるわ……ほらほらぁ♪」

「もう…やめ、て……あぐ……」

そして……彼女の唾液に濡れた羽で亀頭を擦り付けると…ドクドクと精は放たれた。

「これがあんたの……濃くて…青臭い……♪」

羽に付着した精液を舐め取り…上気した表情を見せる…

「ほら、あたしのここ……すごい濡れてる…ウィルの精液…おいしかったから…」

「ミクナ……もう…」

セイレーンの魅了を受けたウィルは既に我慢の限界だ。

「うん…あたしも、限界…」

蜜壺を指で広げ……彼のモノを入り口にあてがう……

「ふぁ…あぁん!!」

蜜壺が彼のを捉え、一気に咥え込む…!

「ミクナの…中……すごく…熱い!!」

「あん!くぅん!!なにコレ!!?すごく大きいじゃない!!」

グリグリと腰を回し、上下に動き、貪欲に貪っている…

「ほら、あんたもさっさと突き上げてよ!はぁん!イイ!いいよぉ!」

「ダメだ!気持ちよすぎて…!!」

「ダメ!!我慢するの!…んん!あらひと一緒に……イクのぉ!!」

「そんなこと言われたって…うわぁ!」

亀頭が何かにぶつかる……蜜壺に咥えられてぶつかる物があるとすれば…子宮口…
チュプチュプ…ミクナが腰を振るたびに先端を吸いたててくる…
容赦なく送られる快感の波にウィルは抗う事ができなかった。

「イクッ!だめ!!イッちゃのぉ!!ほら、あんたも…一緒にぃ!!!」

「もうだめだ!!出る!!」

白濁がミクナの中で暴れだす。彼女はその快感を愛しく感じた…

「はぁ…はぁ…すっごいネバネバ…あんた……どれだけ濃いのよ……まだ大きいままだし…」

そういえば、彼がその手の行動をしたところを見た事がないので訊いてみた…

「オナニーしたことあるの?」

その返答は……

「そりゃあするよ……一ヶ月に一回はするさ……僕だって男なんだし…」

「…………道理で……」

そりゃあ納得……なるほど、自分がこの診療所で生活するようになってから三週間と数日…じきに四週間になり一ヶ月になるだろう…

その間…雄の匂いなどしなかった…つまり、一番溜まってた時期に彼女は魅了したのだ…

「少ない!!あんたそれでも男なの!?男だったらせめて三日に一回はしなさいよ!!」

「忙しいし…別にムラムラもしないし……」

「ムラムラしない……!?このあたしがずっといたのにそれで何もしようとしなかったって言うの!!?」

だめだ…このウィリアムという男は純粋すぎる…まさか大人にもなって一ヶ月も何もせずに我慢できるなんて…

「……はぁ…もういいわ……これからみっちりと気持ちいいのがどんなのか…教えてあげるから…」

そう言って……ミクナは動作を再開する……

「一ヶ月分……搾ってあげるわ……♪」



















半年が経つ……

「先生ぇ!ありがとう!」

「本当に…ありがとうございます…」

ウィルは各地を転々とし、種族問わず魔物を診続けた…

「あんまり泣いちゃだめだよ…マンドラゴラだって喉が荒れたりするんだからね…」

いろんなものを周り、いろんなものを見る…

変わらないものもあれば、常に変化し続けるものもある……

誰かを守りたい…救いたい…この気持ちを変わらせないために…

歩き続ける…







「お前がウィリアムという反逆者だな?」

例え……茨の道でも…

「すみません……」

ゴッ!!

聖騎士だろうがなんだろうが関係ない……
ウィルが懐に入り込んだ時、既に騎士は投げられていた…

「東にはジュウドウという技があるようですね……おかげで力のない僕もこうして強くなれました…」

「ガハッ……待て…!」



「もう、決めちゃいましたから…」



背中を思いっきり打たれ、呼吸がまともにできない騎士に眼鏡を直しながら一瞥する…



「だんだん…様になってきたわね…♪」

「そうかな…?掘り出し物にあった本を真似ただけなんだけど…」

「うんうん、いいじゃない…勉学もできて医者でそれで強いだなんて…あたし、最高の彼氏拾っちゃったかも♪」

「それで…君の方はもうできたのかい?」

う〜〜んと悩み…

「全然ダメ…インスピレーション湧かないんだもん……あ〜あ、やっぱ歌のほうがいいのかしら…」

「そうしたら、あの人に伝わらないでしょ?」

「分かってるわよ!!う〜……頑張る…」


ポツ……


「雨だ……」

「こりゃあ長く降りそうね……でも…」

二人はお互いに頷き、

「「止まない雨は無い!」」

笑い合い、街道を歩く……






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





「……降らない雨も無いよね…」

「そこ!!ポジティブシンキング!!!」





〜fin〜

今回のタイトルの「うた」はわざと漢字にしておりません、ええ、なんとなくです…
文中の詩まがいのものも何一つ参考にせず作った駄文に等しいものです
それでも、誰かが楽しめたらと…切実に願います…

10/08/24 12:42 zeno

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