読切小説
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蚊取り線香とベルゼブブ
 朝起きたら仕事に出かけて、汗水たらして働いて、仕事が終われば帰って発泡酒飲みながら飯食って寝る。
 満ち足りているわけでも無いが、死にたいと思う程辛くも無い。俺の日常は、そんな平坦な生活の繰り返しだ。
 残念なのは昼間は汗と埃にまみれて、いつだって汚れていて汗臭い事か。おかげで女っ気も一切ない。
 彼女も出来たことは無い。働き出してからはさらに汗をかくようになったからか、女からは近づいただけで顔をしかめられるようになった。
 たまに付き合いで行く飲み屋のおねーちゃんからも、お客さん汗臭ーいと言われて避けられる始末。
 唯一の幸せと言えば、こうして一人でちびちび飲んでいる事くらいだ。
 今日も一日、特に何も起こらなかった。
 いいことも無かったが、事故も病気も無く、悪い事も起こらなかった。平和に寝る前の一杯を飲めているだけでも良しとしよう。
 暇つぶしで眺めていたテレビに蚊取り線香のCMが流れた。何でも渦巻の蚊取り線香は長持ちで、一晩持つのだと俳優が言う。
 それに合わせて美人の女優が「試してみますか?」なんて言っていた。
 俺は発泡酒を飲もうとして、……くそ、もう無くなった。
 男と女が一晩起きていて何を試すっていうんだ? ナニを試すに決まっているか。イケメンはいいですねぇ。引くぐらい言い寄られて。
 俺はため息一つ吐くと、寝る準備を始める。


 歯を磨き、布団を敷き、風呂は……どうせ寝汗をかくから明日の朝でいいだろう。
 今晩も暑いんだろうなぁ。今年の夏も最高気温を更新しているらしい。
 寝るときくらい涼しく過ごしたいが、エアコンはただの置物になってしまっている。去年から調子が悪かったのだが、今年の夏とうとうお逝きになってしまった。
 頼みの綱だった扇風機も一昨日壊れた。何というか、こういう事は重なると言うが、いくらなんでも酷いだろう。命に関わる。割とマジで。
 平日は忙しいので電気屋にも行けない。買えたのはスーパーで売っていた蚊取り線香だけだった。当然美女はついていなかった。
 窓を開けて外気を取り入れるくらいしか涼気を取る方法が無い。まぁ、閉め切って寝るよりははるかにましか。
 虫よけの為の蚊取り線香に火をつけ、窓は網戸にして布団に横になった。
 汗のにおいが染み付いた布団。自分の匂いだが、少し気になってくる。おまけに俺は多少の腋臭持ちで、その匂いも布団に染み付いてしまっていた。
 まぁ自分自身は慣れたものだが、確かにこれじゃ女なんか寄りつかねぇよなぁ。
 そんな事はどうでもいいんだ。嫌な事は忘れて、寝てしまおう。
 何も考えず目を閉じる。しかし昼間とあまり変わらない暑さと湿気が体にまとわりついて、眠れない。
 そのうち、虫の音までしてくる始末。
 この音は蚊では無く蠅だろうか。だが窓の外からだ。気にしなければどこかに行ってしまうだろう。
 虫の羽音も落ち着き、俺の意識も眠りに落ちそうになったその時、突然ありえない音がして一気に目が覚めた。
 網戸を開けるガラガラと言う音が響いたのだ。……ちょっと待て、ここは二階だぞ? しかも男物の下着だって干している。
 やべぇよ。男の部屋に押し入り強盗かよ?
 俺は目だけ動かして侵入者の姿を確認する。
 背丈は小さい。体格もそんなに良くなさそうだが、暗くてそれくらいしか分からない。
 そいつはきょろきょろと部屋の中を見回しながら、音が立つほど深く深呼吸をしている。
 俺はゆっくり布団から起き上がり、後ろ歩きでそいつから距離を取る。
 そいつは俺の布団の方を向くと、そちらに歩み寄った。……危なかった。
 何か武器になりそうなものは……机の上のコップくらいか。包丁を取りに行ってもいいが、二時間サスペンスよろしくもみ合っているうちにグッサリと言う事態も困る。正当防衛になるだろうが殺人と言うのは今後生きていくうえで精神衛生上重すぎるし、自分に刺さるのも論外だ。
 俺は深呼吸して、覚悟を決める。
 コップを振り上げ身構えながら、電気をつけた。


 「出て行け!」と怒鳴りつけてやるつもりだったのだが、明りに照らされたものがあまりに衝撃的過ぎたため、俺は言葉を失ってしまった。
 最初に目に入ったのは大きな昆虫の腹だった。それが天井に向かって逆さに立って、左右にふりふりと揺れていた。
 その下には、女の細い腰。柔らかそうなお尻と、二―ソックスにブーツを穿いた足がぺたんと布団に女の子座りしていた。
 背中には昆虫の羽が生えていた。蠅のような丸みを帯びたそれには髑髏があしらわれていて、向こうの景色が見えるくらい薄くて綺麗な物だった。
 ここから見えるのはそれくらいだったが、それだけでもう侵入者が人間では無いことは明白だ。
「……魔……物?」
 最近街中でも見かけるようになった、異形の者達。
 神話やゲームの化け物のような恐ろしげな見た目をしているが、話に聞く限りでは全員雌型であり、別に人に危害を加える事は無く、むしろ人間に友好的なのだという。
 それ以外にも、魔物はみんなえっちな事が大好きなのだとか、抱き心地がすごくいいとか、進んで身体を差し出してくるとか、やり出したら一晩寝かせてもらえないとか、色々と噂になっている。
 中には恋人にするという数寄者も居るというが……。いや、猛者と言った方がいいのか?
 だが、話には聞いていてもやはりその外見に委縮する者は多い。現に俺もその口だった。
「はぁぁあん」
 そいつは俺の布団に顔を押し付けて、どうやら匂いを嗅いでいるようだ。
「すっごく、くさぁい」
 声色に、俺はどきりとさせられる。
 さんざん女に臭い臭いと言われている俺だが、こんな言われ方をしたのは初めてだった。
 嫌悪感がまるでない。むしろ、子猫を見つけた娘が「かわいい」と声をかける様な、いや、それにしてはずいぶん淫らで熱っぽい色を帯びているか。
 そいつは股の間に自分の手を、昆虫のような形をした手を押し付けて、擦り始める。女がしているのなんてアダルトビデオでしか見たことないが、これってオナニーだよなぁ。
 パンツの生地を横に押しのけて、甲殻の指が穴の中に入っていく。そして出てきたときにはそれはぬらぬらとした粘液で光っていて。
 俺は息苦しさを覚える。股間の物がいきり立ち始め、トランクスが張ってしまう。
 このままだと、色々とやばい。
「おい、何やってる」
 そいつの顔がこちらを向く。
 目が合った瞬間、俺は心臓を掴まれたような気持ちになった。
 魔物らしい青白い色の髪に、昆虫のような鋭い一対の触角。口元は半分開いてよだれが垂れていて、その目も熱にうなされたようにとろんとしていた。
 こんなに発情しきった女の顔は見たことが無い。
 だが何よりも驚いたのは、彼女の顔が俺の中学の時好きだった子に似ていたという事だった。
 ちょっと釣り目で、活発そうな顔をしていて、八重歯が可愛くて。小柄な体型も学生時代を思い起こさせる。
 大好きだったあの子が自分の匂いを嗅いであんなに乱れていたら……。ついついそんな事を考えてしまった。
「ナニやってるってぇ。お腹が空いていたところでいい臭いがしてたからぁ、ご相伴に預かったのよぉ」
「誰も招待なんぞしてないんだが」
「細かい事気にしちゃだめだよぉ。それで、ごちそうはどこかしら?」
 話を全く聞いていない。
 腹をきゅうと鳴らし、魔物は情けない顔で腹をさすった。
 何となく見ていられなくなる。仕方が無いので俺はつまみの為に買っておいたさきいかを出してやった。
 皿に乗せて出してやると、彼女は目を輝かせて飛びついてくる。
 余程腹が減っていたのだろうか。彼女は野良犬のようにさらにがっついて、さらには食べ終えた後で皿まで舐める始末だった。


 空になった皿を突き出して、蠅型の魔物娘は上目づかいで俺を見た。
「もっと欲しい」
「残念だが食料はそれで最後だ。週末なんでな、明日まとめ買いする予定だったんだよ」
 彼女は途端に不機嫌そうな顔になるが、すぐに気を取り直したようににたりと笑う。
「ぶー。いいもん、ならお兄さんを食べちゃおっと」
 まじかよ。魔物は人間を食べないんじゃ。
「殺して食べたりはしないけど、性的な意味では襲って食べちゃうのよ」
「お前、心読めんの?」
「顔見れば分かるよぉ。今すごいえっちな事考えてるのもわかっちゃうよぉ」
 そんなに分かりやすいのか俺。……そりゃ女も近づかないか。
「じゃあ、いただいちゃうね」
「誰がいいと言った」
 俺のパンツに掴みかかろうと手を伸ばすそいつを、俺は頭を掴んで止める。
 かなり小柄な彼女の腕は、いくら伸ばしても俺の体までは届かない。
「ぶー。お兄さんは気持ちよくなりたくないの? えっちな事したくないの? 男の方が好きなの?」
 そりゃ女の身体は大好きですよ? えっちな事だってしたいけど、いつもそういう事ばかり考えてるけど、でもなぁ。
「やっぱりしたいんじゃない。なら」
 そいつの背中の羽が、わずかに震える。次の瞬間、俺の全身から力が抜けていき、彼女を押し倒すように倒れ込んでしまう。
 彼女は俺の身体をひょいと布団の上に受け流し、俺の太腿の上に座った。ちょうど彼女の目の前に、俺の勃ち上がったそれが来る形になる。
 ちょっと待った、今何をされたんだ。
「へへん。私は魔物のベルゼブブだよ。結構魔力も強いんだから。相手の感覚をおかしくさせるくらいお手の物だよ」
 蚊取り線香の煙が変な形に歪んでいる。羽音で何かしているのかもしれない。三半規管でも狂わされたのだろうか。
 彼女は俺の視線を追うと、何か思いついたらしい意地の悪い笑みを浮かべた。
「ねぇお兄さん。ただ食べるだけじゃつまらないから、勝負しようよ。
 あのお線香の火が消えるまでお兄さんの意識が残っていたらお兄さんの勝ち。意識が飛んじゃったら私の勝ち」
「意識ってどういう事だよ」
「これから精液出してもらうために、お兄さんをすっごく気持ち良くしてあげるの。私の身体でぇ、何度も何度も射精させてあげるのよぉ。
 でもぉ、慣れてない男の人は気持ちが良くなりすぎても気絶しちゃうみたいでさぁ」
 口の両端を上げて、にやにやと笑う魔物。
「私が勝ったら、お兄さんを私の奴隷にしてあげる。私が好きな時に精液を搾り取るための性奴隷だよ。気持ちいいんだよぉ、私の搾精は。
 こんなに可愛くて強い魔物の奴隷になれるんだから、幸せな事だよねぇ?」
 連続射精で気絶とか、性奴隷とか、さっきからとんでも無い事しか言われてないぞ。何だよ俺の部屋はいつから魔界になったんだ?
「……ちなみに俺が勝ったら?」
「そんな事はまず無いとは思うけど、お兄さんが勝ったら私がお兄さんの奴隷になってあげる。何でも言う事聞くし、ずっとそばに居てあげる。ムラムラしたらいつだって好きな時に犯してくれて構わないよぉ」
 何か、それって勝っても負けても変わらない気がするんだけど。勝ったとしても強制的にムラムラさせられそうだし。
「ふふ、悪魔は人間と違って約束は守るから、安心してねぇ。じゃ、いただきまーす」
 そう言って、そいつは俺のトランクスを一気にずり下げた。
 息子は今日も変わらず元気だ。俺以外の誰も慰めてくれないから、そりゃもう強い子に育っている。……強いのは主に匂いだが。
 皮を剥かれると、それは既に我慢汁でぬらぬらと濡れていた。
 汗で蒸れていたそれは、何とも言えない強烈な雄の臭いを放っていた。やっぱり風呂には入っておくべきだったか。
「あぁん。この臭い、たまんなぁい」
 だが彼女は嫌がるどころか、うっとりと目を細めると、愛しい物を扱うように俺の亀頭に口づけした。小鳥がついばむように、何度も何度も。
 柔らかい感触が押し付けられる。その度に彼女の唇が形を変える。
 そこから伸びた舌が、裏筋をぺろりと舐め上げる。虫の指は意外にもぴっとりと竿に吸い付いて来て、それが上下に動くたび、人間の指とはまた違った快楽が駆け抜ける。
 微細な毛でも生えているのだろうか。竿に浮かぶ血管の細部まで愛撫されるようだった。
 その間にも彼女は俺の玉袋を舐めたり、根元を舐めたりしている。唾液が乾いてひんやりしたり、舌を押し付けられてまた熱を持ったり、複雑な心地よさが俺を追い詰めていく。
 そしてついに彼女は俺の物を頭からかぷりと飲み込み、頭を上下に振り始める。
 じゅるじゅると音を立てて吸い上げながら、舌で亀頭を掻き回し、頬肉で竿全体を包み込んでくる。
 彼女はその口も指も俺の物から離さないまま、濡れた目で俺を見上げてくる。
 童貞で、しかもここ二三日抜いていない俺に耐えられるはずもなかった。
 女の子の口に対して遠慮するとかそういう余裕すら無かった。やばいと思った瞬間にはもう発射してしまっていた。
「う、く」
「んん!」
 喉を鳴らして彼女は俺の精液を飲み込んでいく。俺の物が脈動するたび、彼女の白い喉もいやらしく上下に動いた。
 射精が収まると、彼女は唇をすぼめて、陰茎を絞り上げるようにして最後の一滴まで残さず吸い上げる。
 あまりの感覚に、俺の腰は無意識にびくびくと反応してしまう。
「はぁぁ、すごく濃かったぁ。味だけでいっちゃいそうだよぉ」
 頬に両手を当てて、魔物はうっとりした表情で俺を見下ろした。
「ふふ、こんなに感じちゃって、お兄さんも可愛いなぁ。
 ……まだまだ元気だね。じゃ、味見はこれくらいにして、そろそろ本番に移ろうかぁ」
 彼女は乱暴に衣服を脱ぎ捨てると、俺のまだ固くなったままのそれに股間をこすり付ける。
 その表情はまだ強気で、眼は獲物を狙う獣のように鋭い。だが、その頬は染められて、瞳も興奮に少し揺れていた。
 こすりつけられるあそこは、もうぐっしょりと濡れている。
「じゃ、入れるよ」
「でもお前、大丈夫なのか? 無理するなよ?」
 別に俺のが特別大きいというわけでは無いが、彼女の細身と言うよりも幼いと言った方がいいくらいの身体では、とても俺の物を受け入れられそうにない。
 しかし、なぜ俺は見ず知らずの魔物の心配なんてしているんだろう。これは彼女が進んでやっている事だというのに。
 ……でも、似てるんだよなぁ、やっぱり。
「平気だよぉ。こう見えても二十歳は越えてるし」
「いや、そういう意味じゃ無くてな」
 まぁ、ある意味安心はしたけれど。
「あぁ、大きさの事? 大丈夫だよ、私は魔物だから丈夫なの。遠慮しないでガンガン突き上げてくれて構わないよ。
 ……でも、心配してくれたんだね。えへへ、ありがと」
 はにかむ様に笑いながら、彼女は腰を落としていく。
 俺の物がゆっくりと彼女の中に飲み込まれる。
 中は予想通りとても狭かった。彼女の中はどろどろにぬめっていて、ぎっしりと細かな襞が詰め込まれているような感触で、入れていくだけで鳥肌が立つような快感に襲われる。
 なんて表現すればいいんだろう。糸蒟蒻が自分の意思を持って、絡み付きながら締め付けてくればこんな感じにもなるのだろうか。……食べ物でそんな事したことないから分からないが。とにかく信じられない程気持ちいい。
 背筋がぞくぞくする。顔をしかめながらも笑顔を取り繕う女の顔もそれを助長させる。
「大丈夫、なのか」
「えへへ、口だけで言っても駄目だよ。気持ちよくって仕方ないって顔してる。
 私は大丈夫。じゃ、動くね」
 彼女は腰を上下に動かし始める。腰が上がる度に襞の一つ一つが俺の物を撫で上げ、腰が下りるたびに俺の物が抉るように彼女の中心に突き刺さる。
 小ぶりな胸は揺れこそしないが、形は良くて、乳首もピンと立って上を向いている。むしゃぶりつきたいが、残念ながら身体は動かない。
「あ、これやばいぃ、癖になるぅ」
 彼女は無我夢中で腰を振る。
 俺は歯を食いしばって耐えようとするが、射精感はどうしても高まっていく。
 口の中で果てたばかりだというのに、俺は腰を突き上げながら、彼女の中心で二度目の精を放った。
「あぁん、くるぅ。すごいいっぱいぃ」
 半開きの口から舌を出し、彼女はだらしない表情で視線を中空に彷徨わせる。恍惚の表情。
 腰を捻るその動きは、名残惜しむように精を搾り取っているようにも、腰全体で俺の精を味わっているようにも見える。
 搾り終えると、彼女は俺の胸の上にしなだれかかってきた。
 髪の毛の甘い匂いが、俺の鼻先をくすぐる。蠅のような外見に見合わず、その身体からは花のような、果物のような匂いがしていた。
「えへへ、ちょっと休憩ぃ」
 身体が動かせないのが残念だ。抱き締められたら良かったのに。
 無邪気に笑いながら乳首を舐めてくる魔物の顔を眺めながら、俺ははっと我に返る。何考えてるんだ俺は。さっき会ったばかりの魔物に対して。
 まぁでも、悪い奴じゃなさそうなんだよなぁ。童貞を取られてもそこまでショックじゃ無かったし。
 虫の腕で体にしがみついてくるのも、ちょっと可愛いしなぁ。
「なかなか気持ち良かったよぉ。いくとこまではいかなかったけどっ」
 乳首にがぶりと噛み付いてから、頭をこすり付けてくる。触角のとげとげが皮膚に刺さってちょっと痛い。
「そりゃ悪かったな。あいにく動けないんでな」
「でも、素質はあるかも。いや、……相性かな。お兄さんの精液凄い美味しかったし、臭いも私好みだし。腋の匂いも」
 そう言って彼女は俺の腋の下に顔を突っ込み、思い切り息を吸う。
「お、おい。くさいだろ。やめとけって」
 彼女の身体がびくんと痙攣してから、ぐったりと弛緩する。
 そしてなぜか分からないが、俺自身を包み込んだままの彼女のあそこが、さらに湿り気を増した。ぐちゅぐちゅに濡れながら、俺の物を優しく揉み始める。
「うん、すっごくくさぁい。くせになっちゃいそぉ」
 蕩けきった視線で一瞥を寄こしてから、彼女はそこに舌を這わせ始める。
 彼女の中で力を失い始めていた俺の肉棒が硬さを取り戻す。なんだかさっきより大きくなった気さえする。
 彼女は腋の下を舐めながら片手を下半身の方へ回し、俺の玉袋を揉みしだき始める。
「な、何を」
 揉まれるたびに熱くなり、腰全体が滾ってくる。
「長持ちするお呪いだよ。こうしてると精液がいっぱい出るんだぁ」
 性欲が高まり過ぎて、眩暈がする程だ。腰がむずむずと疼いて来て、俺は無意識に腰を突き上げてしまう。
「いやん。もう、お兄さんはせっかちだなぁ」
 彼女は舐めるのを止め、俺の胸に抱きついたまま腰だけ器用に振り始める。
 見下ろしていると、腰だけが別の生き物のようにくねって、俺の物に絡み付いているようだった。何というか、とてつもなくエロい。
「焦らなくても、出なくなるまで搾り取ってあげるからぁ。だから安心して気絶していいよ。
 楽しみだなぁ。性奴隷になったお兄さんのご奉仕」
 俺の脇腹を甘噛みする魔物。
 別に俺は女をそんなに知っているわけでは無い。だが彼女のあそこはとんでもない名器であるという事は間違いないだろう。
 俺だってオナホールくらい使ったことはあるが、彼女の身体は今まで使ってきたものを忘れてしまう程気持ちがいい。
 現に俺はまた、いってしまった。
 三度目なのにも関わらず、あまり量は変わっていない。
 気が遠くなってきた。
 横目で確認するも、蚊取り線香の長さは大して減っていない。軽い絶望で眩暈がするようだった。
「気絶しちゃってもいーよぉ。意識が無くなっても搾り取ってあげるから」
 彼女はそう言いながら、腰を振り続ける。彼女のお呪いのせいか、俺の物は硬さを失わないままだ。
 ああもう、楽になってしまおう。
 胸の上で、俺の身体を舐めながら魔物は楽しそうに笑っている。
 でも、中学の時に好きだったあの子に、本当に似てるよなぁ。
 三年間ずっと好きで、高校の時も諦めきれなくて、でも、その子が俺の友達と付き合い始めて……。
 セックスってすげー気持ちいいぜ。まじでやべぇよ。なんて友達は言っていて……。
 腹の底に沈んでいた嫌な思い出が掘り起こされる。
「いいよぉ。お兄さんのおちんちんすごくいいぃ。くさくてぇ、おいしくてぇ、さいこう!」
 魔物娘は俺の首筋に舌を這わせて、甘噛みする。
 後ろ向きになりかけた脳が快楽で燃える。黒く脂ぎったような悪夢が魔物の与えてくれる刺激によって燃え上り、灰になっていく。
 あの時の悔しさや惨めさなんてちっぽけに思える程、魔物の快楽は大きく、激しく、強烈だった。
 俺の胸の中にわけのわからない情熱の火がともる。方向性が間違っている気もするが、脳が急激に覚醒していく。
 嫌だ。もうあの子を誰かに取られるのは嫌だ。
 今度は誰にも渡したくない。こいつは俺だけのものにしたい!……意地でも意識を保ってみせる。
 情けない喘ぎ声を上げながらも、俺は心中で堅く決心した。


 うっすらと明るくなり始めた窓の外から、小鳥の声が聞こえ始める。
 既に蚊取り線香は燃え尽き、白い灰に成り果てていた。そして魔物に馬乗りにされている男もまた、命の全てを燃やし尽くしたかのような満ち足りた顔で目を閉じていた。
 男の全身からは、魔物の唾液が乾いた時の独特の臭いがしている。
 魔物娘はそれを肺一杯に吸い込むと、悦に入って表情を緩ませる。
「えへへ、私の勝ちかなぁ」
 男の身体の上で、蠅の羽と手足を持った少女のような姿の魔物が口の端を上げる。一晩に渡って絞り上げた男の体液で、その身体は白く汚れていた。
 腰を上げると、腹に納まっていた精液がぼとぼとと音を立てて落ちていった。
「お腹もいっぱいになったし、お兄さんが気が付くまでちょっと散歩してこようかなぁ」
 彼女が窓に足をかけ、飛び立とうとしたその時だった。
 男の腕が魔物娘の足を掴み、布団に向かって引き倒したのだ。
 バランスを崩して倒れた魔物の両肩を、男は両腕で押さえつける。
 そして驚きに目を丸くする彼女の唇を強引に奪う。
 舌を入れて乱暴に口内を蹂躙した後、男は顔を離して、歯をむき出しにして昏く笑った。
「意識はちゃんと残ってたぞ。勝負は俺の勝ちだな」
「あ、あ、あ」
 魔物は男の表情から恐怖を感じたのだろう、身をよじって逃げようとする。だがその華奢な体では男の体重を押し返すことは出来ず、羽も布団に押し付けられていて使えなかった。動転しているせいで魔法を使うという考えにも至らない。
「や、やだぁ」
「お前の望みどおりに犯してやるよ。朝も昼も夜も、頭がおかしくなるまでな。
 お前を俺専用のまんこにしてやる。がばがばになるまで使い込んでやるから、覚悟してろよ」
「ら、乱暴、しないで……」
 彼女の目にみるみるうちに涙が溜まっていく。両手で顔を隠すようにしながらも、野獣のような男の顔から目が離せないようだった。
 だが、ついに心が折れたのか、目を閉じて顔を反らしてしまう。
 男の目の前に、真っ白な首筋がさらされる。
 男は顔を歪めると。
 彼女の額に、軽くでこぴんした。
「え、あれ?」
 男は少女の上からどいて、床に大の字に寝転んだ。
 彼女は目をぱちくりさせながら、急に爽やかな顔になって寝転んでいる男と自分の身体を見比べた。
「私、犯されるんじゃ無いの?」
「あぁ、今の顔見てたら、そういう気分じゃなくなった。俺、Sにはなれそうにないわ。泣いてる女犯したら気分が悪くなりそうだ」
「……負けちゃったなぁ」
「別にいいぞ。奴隷になんてならなくても。気持ち良かったからなぁ。なんか色々吹っ切れたし。
 お前のおかげだよ。ありがとな。えーと、そういえば名前聞いてなかったな」
「……アル」
「アルかぁ。可愛い名前だなぁ。満足したなら、早く家に帰んな」
 男はにっこり笑って見せたが、アルは頬を膨らませて男を睨みつけた。
「何だよ」
「べ、別に、さっきのは嬉しくて泣いたわけじゃ無いんだからね。帰るところだって、別に無いんだから! それなのに……。お兄さんのばかぁ」
 アルは良く分からない事を叫ぶと、男が止める間もなく窓から外に出て行ってしまった。
 男はふぅ、と息を吐くと、疲れたような笑みを浮かべた。
「これで良かったんだよな。アルは、俺の好きだった子とは別の魔物なわけだし。それに、あんなにいい子は俺には勿体ないよな」
 さて、仕事に出るまで少しくらい眠る時間は残っているだろう。男は布団に横になろうとしたのだが、しかしそこは男自身とアルの体液でぐしょぐしょに汚れていた。
 湿り切っていて、横になっても不快なだけだろう。
「……シャワーでも浴びるか」
 男は立ち上がる。
 夏の夜の夢は終わり。またいつもの日々が戻ってくるのだ。


 その日はなぜか突然ボーナスが出た。
 おまけに買ってあった宝くじが当選して、予想外の収入を得る事となった。
 俺は首をかしげながらも、いつもより上物のビールと、そこそこ値が張るつまみを買って家路に付いた。
 明日は土曜だ。収入もあったことだし、家電を買い替えるとしよう。
 鍵を開け、誰も居ない部屋に向かって帰宅を告げる。六畳の1DKに、俺の声が木霊する。返事は無いのは分かっているが、寂しさを紛らわすために口に出すうちに癖になってしまったのだ。
「ふぁああ、お、おかえりなさぁいぃ」
 ……何か聞いたことのある声がしたな。
 短い廊下を進み、居間の扉を開けると、ムワッとした雌の匂いが漏れ出してきた。
 朝そのままにしてきた布団の上で、蠅の魔物娘、ベルゼブブのアルが四つん這いになっていた。
 頭を俺の枕に埋めて、お尻を高く突き上げて、自分のあそこに指を突っ込んで掻き回していた。
「何やってんだ」
「えへへぇ、お兄さんの臭いかいでたら、我慢できなくなっちゃって」
「てか何で居るの? 帰ったんじゃないの?」
「帰るところなんて無いしぃ。それにもう私はお兄さんの奴隷だからぁ。お兄さんが嫌がっても、もう契約で決まったことだからぁ。だから、お兄さんがいつえっちな気分になってもいいように、一緒に暮らすことにしたのぉ」
 激しく指を動かしながら、蕩けた瞳でアルは告げる。
 彼女の身体が強く痙攣し、くたりと布団に倒れ込む。……布団はびしょびしょになっていて、もう使い物になりそうもない。と言うか、いつからこんな事してればこんなになるんだ?
 俺はため息を吐いた。明日は布団屋にも行かなきゃならなくなったなぁ。
 まぁいいか、どうせこいつの分の寝床も用意してやらなきゃならないし。
「アルよ、お前酒は飲めるか?」
「ぁ、ぁぁっ。……え? うん。飲めるよぉ」
 アルは顔を上げて、不思議そうに俺の顔をじっと見つめた。
「じゃあ一杯付き合えよ。俺の奴隷なんだろ? お酌ぐらいしてくれ」
 見る間にその顔が喜色で緩んでいく。
「うん。飲もう! 美味しいおつまみ、美味しいお酒、美味しいお兄さん。こんなに尽くしてくれるなんて、流石は私が惚れ込んだだけの事はあるね!」
 アルは俺の手から買い物袋を奪い取ると、中身を物色し始める。
 普通尽くすのは奴隷の方だと思うんだが……ま、いいか。
 自由気ままに楽しそうに笑うこいつと居られたら、つまらない悩みなんて全部どこかに行ってしまいそうだ。
「ねぇねぇ、お兄さんはどれ飲むの? この黒ビール飲んでいい?」
「あ、こらそれは俺が一番飲みたかった奴だ」
「えー、私も飲みたいよー」
 アルは天井付近まで飛んで逃げる。
 俺は何とか背伸びして、飛び跳ねて手を伸ばすが、アルは器用に体を捻って逃げてしまう。
 結局ビールは奪い取られ、俺はいつもの発泡酒になってしまった。
 だが、不思議とその日の発泡酒はいつもに比べて格段に美味かった。


 こうして狭い我が家に家族が増えた。
 ずうずうしくて騒がしい奴で、毎日食い物を取り合って喧嘩してばかりだが、結局お互いに体を求め合う事になるので喧嘩もおふざけみたいなものだった。
 前より食費も増えて、毎晩のようにやってるので疲れも溜まるはずなのだが、不思議と貯蓄は増える一方で、体力の方も徹夜で抱き合っても平気な程にまでなってしまった。
 ベルゼブブはもともと豊穣を司る神様だったとも言われているし、もしかしたらこれもアルのおかげなのかもしれない。
「あー、ねぎまは私のだよー」
「お前もう二本も食べただろ」
 今日もまたつまみの焼き鳥を巡って飛んで跳ねての大捕り物だ。
 だがまぁ、誰かがそばに居てくれるっていうのは、やっぱりいいもんだな。
12/07/29 17:16更新 / 玉虫色

■作者メッセージ
 あとがき:アップロードまでの経緯

 ちょっと変わったSSを書こうと思い立つ
  ↓
 気分転換に普通の海物のイチャラブSSを書こうと思い立つ
  ↓
 あれ、読み切りのつもりがどうしてこんなに長くなってるの?
  ↓
 蚊取り線香……。夏場のうっとうしい虫も魔物娘なら一転して幸せな気分になれそうだなぁ。
 せっかくだから書いてみよう!

 その結果がこれでございます……。

 経緯はともかく
 お読みいただき、ありがとうございました!


 もし現代に魔物娘が居たら、こんな話もありがちなのかもしれませんねぇ。

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