読切小説
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拾ってくれたあの日から
「……」

「くぅ〜……」

「拾って下さい……か。酷い事する奴も居るもんだな……」

「きゅ〜ん……」

「まあ、そんな誰かも知らない奴の事なんかどうでもいいか……」














「なあお前、俺と一緒に来るか?」













====================



「そーれ、取ってこい!!」
「わんっ!」

ご主人様が投げたボールを、ボクは1回だけ短く鳴いてから、風で揺れる草原を掻き分けて追いかけていった。
草原と言っても視界は良好。ボクがボールに追いつき取るなんて造作も無い事。
あっという間にボクはボールに追いつき、そのボールを咥えながらご主人様の下へ駆け足で戻る。

「よーしよし。ちゃんと取ってきたな」
「くぅ〜ん♪」

ボールをご主人様に返すと、ボクの頭を優しく撫でてくれる。
ご主人様の大きく温かい手がボクの身体を撫でると、とても嬉しい。

「もう一度だ! それー!!」
「ぅわんっ!!」

そんなご主人様が撫でるのをやめた後、さっきのボールを今度はもっと遠くに投げた。
もう一度撫でてほしいボクは、一心不乱にそのボールを追いかけていった。
どんなに遠くにご主人様が投げようとも、ボクは見失う事なくボールに向かって足を動かした。

「はっ、はっ、わうっ!」

難なくボールを見つけ咥えたボクは、早く撫でてほしくて自分が出せる一番速い走りでご主人様の下に戻った。

「おいトリバー、こんなところで犬と遊んでいていいのか?」
「すみませんフォード教官……明日の作戦が作戦なので、クーと思いっきり遊んでおきたくて……」
「まったく……わからんでもないが、明日疲れた状態でいたら元も子もないぞ?」
「そうですね……」

「くぅ〜ん……」

でも、ボクがご主人様の下に向かうと……いつの間にか何度か見た事があるご主人様の上司さんがご主人様とお話をしていた。
これじゃあ撫でてもらえそうにない……少し寂しいけど、なにやら真剣な話をしているようなので大人しくご主人様の隣で座ってる事にした。

「明日はここから嫌な程近くにある魔界都市へ、領土奪還の為に乗り込む……レスカティエのような大都市では無いが、それでも魔界だ。事の重大さはお前もわかっているな?」
「ええ……」

何のお話をしているのかはサッパリわからないけど、ご主人様が何時になく怖い顔してるからとっても大事なお話なんだろう。

「でも……魔界に攻め込む……魔物の巣窟に突入するという事は……」
「おそらくお前はもう帰ってこれなくなってしまうといけないからと愛犬と遊んでいた、そうだろう?」
「……はい……」
「それはいらぬ心配だ。たしかに我々は言う程精鋭揃いでもない。だが、俺はお前達が簡単に殺されるような弱い者とは思って無いし、もちろんわざわざ魔物の餌にするつもりもない」
「……」
「しかし、混戦の中でトリバー個人が自らの体調不全で魔物にやられたら……俺がお前を護りきれるかはわからんぞ? だから各自万全でいられるよう、今日は軽いトレーニングしてしっかり休むように言ったんだ。お前達の事だ。たかが一日歩を進めれば到着してしまう場所にある魔界都市なんて簡単に浄化できるだなんて余裕を扱く者はいないとは思うが、今のトリバーみたいに自身の当日の体調を考えずいらぬ心配をしているものが居るかもしれないと思っていたが……見に来て正解だったようだ」
「そうですね……すみません教官……」
「わかればいい……これが愛犬との最後の遊びになるかどうかはお前次第だ。これからも愛犬と一緒に居たいのであれば明日死なないようしっかりと準備を整える事だな」
「はい!」

お話の内容は全然理解できなかったけど……ご主人様が危ない事をしに行くっていうのはなんとなくわかった。

「それじゃあ俺はリアンの様子を見てくる。あいつが一番繊細だからな……緊張で夜も眠れないなんて事になってそうだ」
「ですね。俺はもう少しだけクーと遊んで、明日に備えしっかりと休みます」
「ん。ではまた明日」

そんな危ない事、正直してほしくない……
ずっとここでボクと一緒にいてほしい……
ご主人様にそう言って、何が何でも行くのをやめてほしかった。

「くぅ〜ん……」
「……ん? あ、悪いなクー。待たせてごめんな」
「くぅ〜ん……」

でも……ボクは言葉を伝えられる人間じゃない。鳴く事しかできない犬だ。

「なんだ? 俺の事が心配なのか?」
「わぅ」
「ははっありがとなクー」

ボク自身ご主人様が言ってる事が少ししかわからないように、ボクが言いたい事はご主人様には少ししか伝わらない。
なんてもどかしいんだろう。

「くぅ〜」
「心配するな。俺はお前を一人ぼっちにはしないさ。ちゃんと帰って来てやるよ……」

何かをボクに言いながら撫でてくれるご主人様。
その手の震えは、きっとご主人様も不安だという事なんだろう……

「よしっ! もう一回だけ走り回るぞ。クー、ボールを取ってこい!」
「……わんっ!」

でも、どんなに不安であっても、ご主人様は明日行ってしまう。
そして、不安を吹き飛ばすように凛々しい顔つきになった後、ボクから取ったボールをまた掲げ、空高く投げたご主人様。
当人であるご主人様が笑顔を振舞っているから、ボクも元気でいないと……そう思ったボクは元気よく鳴いて、ご主人様が投げたボールを拾いに走ったのだった。



……………………



「……クー、ご飯はここに置いておくからな。一気にがっつくんじゃないぞ?」
「わうっ」

辺りもすっかり暗くなり、ボクとご主人様は家に帰った。
夜ご飯をお腹いっぱい食べた後、ご主人様はボクの身体を自分の身体と一緒に洗ってくれた。最初は石鹸もシャワーも苦手だったけど、ご主人様と一緒に身体を綺麗にできると知った今では大好きだ。
シャワーと石鹸のおかげで、今のボクの身体は汚れ一つなくピカピカだ。石鹸の良い香りもご主人様に負けないぐらいボクの身体から漂ってくる。

「クー……もし、もしご飯が無くなっても俺が帰って来なかった時は……」
「う゛〜ばうっ!!」
「……はは、ゴメン。弱気になっちゃいけないな。励ましてくれてありがとな!」
「わうっ!」

そして、ご主人様は明日の危ないところへ行くための準備……ご主人様のお出かけ用の準備と、数日分のボクのご飯の準備を終わらせた。
これまでも何度かご主人様が数日居なくなる事はあったけれど……今回は今まで以上に大量のご飯が用意されてるし、ご主人様の醸し出す雰囲気もどこか重かった。
その事がより一層ボクを不安にさせる……このままご主人様は居なくなってしまうんじゃないかと、そんな嫌な予感がする。

「明日は早いからそろそろ寝ないと……じゃあおやすみクー」
「わんっ!」

でも、ボクが不安がって余計にご主人様を不安にしてはいけない……だからボクは元気よく鳴いて寝室に向かうご主人様を見送った。



……………………



「……くぅ〜ん……」

部屋の灯りが消え、月明かりが射し込む静かな部屋……ボクも寝る為に、与えられたベッドの上で丸くなっていた。
暗いのはとても怖い。真っ暗なのは大嫌いだ。だから、ボクも早く寝ようと目を瞑って静かに伏せていた。
でも……ボクの心にある妙な胸騒ぎのせいでなかなか眠れない。

もう、ご主人様に会えなくなるんじゃないかという不安が、夜の闇と一緒にボクを包み込む。

「わぅん」

そんな不安を吹き飛ばすように、ボクはご主人様が目を覚まさない程度の大きさで短く吠えた。

「く〜……」

少しは不安も吹き飛んでくれたようで、ボクはそのまま、安らかに眠りについたのだった……



……………………



…………



……







「くー」


暗く狭い空間に、小さなボクが独りぼっちで鳴いていた。


「きゅー」


これは……夢?


「くー」


ご主人様に拾われる前のボクの……小さな箱に詰められてた時の記憶。

「ぷー」

ボクの記憶は、ここから始まっている。ボクは、自分の親の顔を、温もりを知らない。
おそらくだけど、ボクのお母さんは今のボクと同じように誰かに飼われてて、ボクを産んだは良いけど飼い主が面倒見切れないと判断して箱に詰めて捨てたのだろう。
これは憶測でしかないし、顔も知らないその人の事を恨む事はないけど……この記憶のせいで、ボクは暗い場所が怖くてたまらなかった。
誰も居ない、目を開けても何も見えない、寒くて寂しい場所で、まともに動く事もできない。
暗い場所にいるとこの記憶が蘇ってきて、ボクはいてもたってもいられなくなる。

「きゅ〜……」

そんな中で、お腹も空いて力無く鳴いていたのだけど……もちろん親が来るわけはなかった。
それでも、たった一人、どこかわからない場所で、鳴き続けてる事しかできなかった。
誰かが来るわけでもないのに、僕は誰かが来てくれるまで鳴き続けた。

「きゅ〜……う?」

半ばあきらめながらも、しばらく泣いていた時だった。
突然、ボクの頭上のほうから光が差し込んできて……

「……」
「くぅ〜……」

突如ボクの身体は温かな何かに抱えられながら宙に浮かび上がり……暗闇の世界から光の世界へ連れ出された。

「拾って下さい……か。酷い事する奴もいるもんだな……」
「きゅ〜ん……」

小さな箱からボクを外に連れだしたのは……そう、今のご主人様だった。
道に落ちていた小さな箱からボクを見つけ出したご主人様が、ボクをその大きな手で抱えて、箱から出してくれた。

「まあ、そんな誰かも知らない奴の事なんかどうでもいいか……なあお前、俺と一緒に来るか?」
「くぅ〜?」

そんなご主人様は抱きかかえたボクを目の前まで持ってきて、そう言い始めた。
この時は、ボクはご主人様が何を言っているのかわからなかった。
けれど……

「……よし、決定な。悪いがこのまま家まで行くぞ」
「きゅ!?」

でも、ボクを抱えたまま移動を始めたご主人様に驚くと同時に、ボクはこの人に大事に運ばれてるんだってわかった。
つまり……ボクを暗く狭く怖いところから助け出してくれたんだって……この人がボクを救ってくれたんだってわかった。



……………………



「とりあえず汚れをタオルで拭いて落とすぞ。くすぐったいかもしれないけど我慢しろよ?」
「く〜っ!」

ご主人様の家に付いた後、ふかふかの布でボクの身体を擦るご主人様。
あまりものくすぐったさに、ボクは思わずご主人様の腕の中でジタバタしていた。

「ん? お前メスか……」
「きゃんっ!!」
「おっと、わるいわるい。大事なとこ触られたら嫌だもんな」

ボクの身体を拭いているうちにボクの性器を布越しに触れたご主人様。
この時のボクはただの仔犬だったからただ驚いただけだけど、今ご主人様に触られたら……いや、よそう。
どんなにあがいてもボクは犬、ご主人様は人間……変な事は考えないほうがいい。

「よし、綺麗になったな。さっぱりしたか?」
「きゃん♪」
「そうかさっぱりしたか。それは良かった!」

ボクを綺麗にしてくれたご主人様。どよんとしたものがなくなり、気分サッパリだ。
思えばこの時ご主人様が丁寧にボクを綺麗にしてくれたから、ボクは洗ってもらう事が好きになったのかもしれない。

「それじゃあ……名前どうしようかな?」
「くー?」
「お前の名前さ。これから一緒に暮らすんだから必要になってくるだろ? さてどうしようかな……」

ボクを拭いたタオルを籠に放り投げた後、ボクを抱え顔の前に持ってジッと見ながらボクの名前を考えるご主人様。
じっと見つめられる事にくすぐったさを感じながらも、嫌な気はしなかったので今度はじっと待っていた。

「ん〜……ジョンとかは平凡すぎるしなぁ……ジパングっぽくポチっていうのも……結局平凡か……ならば、俺の名前はトリバーだから……いや、自分の名前から取るのもアレか……」
「く〜……」

悩みに悩んだ結果……

「ん……そうだ。結局安直だけど……お前の名前はクーだ!」
「くー?」
「そう、クー。お前がそう鳴いてるように聞こえるからクー。安直だけど覚えやすいし、お前らしいだろ?」
「くー!!」

ボクの名前は、ボクの鳴き声が由来の、クーに決まった。



……………………



「こらクー! トイレはここでするんだ!!」
「わぅ……」
「う……そんなしょんぼりしても躾けは大事だから引かないぞ!」

それから、ボクはずっとご主人様と一緒に暮らしてきた。

「はぐはぐ……わんっ♪」
「上司から評判の高いドッグフードを教えてもらったわけだが……おいしいかクー?」
「く〜♪」

たまには怒られたりしながらも、ボクはご主人様と楽しく暮らしていた。

「わんわんっ♪」
「よーし、きちんとボールを拾ってきて偉いぞクー!」
「くぅ〜♪」

ボール遊びをしたり、散歩をしたり、時にはじゃれついたりしながら、楽しい時を過ごしてきた。

「くぅ〜ん……!?」
「た、ただいまクー。無事じゃないけど帰って来たよ……」
「わわんっ! わんっわんっ!!」
「ちょっ!? 落ちつけクー!! こっちは怪我人だからそんなにじゃれつくと……アッー!!」

でも、すべてが楽しい思い出だけでは無い。
ご主人様は戦う仕事をしているようだから、たまに身体中傷だらけで帰ってくる事もあった。
あちこちに白い布を巻いたり、薬品のキツい臭いを纏いながらも毎回きちんと生きて帰って来てくれるご主人様……それでもそこに混じる血の臭いは、いつもボクを不安にさせていた。
いつもはじゃれても平気そうなのに、こういう時に同じようにじゃれつくととても痛そうな顔をするご主人様……そんなに傷付くならこの家でボクとずっと一緒に安全に暮らしてほしい、そう思わずにはいられない。

「くぅ〜ん……」
「いてて……クー、そんなに心配そうな顔をするなって。これは俺の名誉の証だ。勇敢に魔の手から皆を守った証なんだ。これのおかげで俺達は平和の中で一緒に暮らしていけるんだからさ」
「……」

でも、ご主人様はきっとそうはしない。
皆の為に、自分の為に、そしてボクの為にも悪と戦って、そして傷付く事をやめないだろう。
今回だってそうだ……あの今までにないぐらい怖い顔を浮かべた事からして、きっとご主人様はまた傷付いてしまうだろう……傷ついてほしくないけど、ボクはご主人様にその想いをハッキリと伝える事ができないし、もしできたとしてもそれでも戦いに赴くご主人様に止めてとは言えない。

「だからそんな心配そうな顔をするなっての! 俺はこうしてきちんと帰って来ただろ? また同じような事があってもこうしてボロボロになってでも生きて帰ってお前に会うからな!」
「くぅ……」
「絶対に守るからな! 約束だ、お前を一人にはしない!!」
「……わうっ!」

その言葉通り、ご主人様は今まで酷い怪我を負いながらもきちんと帰って来てくれた……今回もそうだと願いたい。
きっと……きっとまた無事にご主人様に会える……そう……きっ……と…………







……



…………



……………………




====================



「……く?」

窓から降り注ぐ太陽の眩しさに、ボクは目を覚ましたようだ。

「わぅ……わんっ! わんわんっ!!」

起きてから辺りを見渡し、臭いを嗅いでみたけれど……ご主人様の臭いは薄かった。

「わんっ!!」

ご主人様の部屋の前に行き、大きな声で鳴いてみても返事が無い……おそらくボクが寝ている間にこの家を出発したのだろう。

「くぅ〜……」

急に寂しくなった家の中……ご主人様が何日も居なくなる日はいつもこうだ。
何度経験しても寂しいものは寂しいが……お腹が空いてきたので用意されていたご飯を食べる事にした。
最初の頃はいなくなったご主人様に不安で仕方なくて碌にご飯も食べられなかったけど、帰って来てからあまり減っていないご飯を見たご主人様がとても心配そうな顔をして悲しくなった。
もう二度とそんなご主人様の顔は見たくないから、ボクは不安で胸が苦しくてもご飯は食べるようにしていた。

「はうはう……」

ボク専用のお皿に用意されていたご飯を食べながらも、ボクはご主人様が無事に帰ってくるか不安で押し潰されそうになっていた。
普段は少しだけ不安そうな表情を見せてもすぐにボクにそんな顔を見せないようにしていたのに、今回は今まで以上に不安そうな顔をご主人様はボクに向けてしていたのだ……ボクも不安になってしまうのは当たり前だ。

「くぅ〜ん……」

お腹がいっぱいになったから食べるのをやめ、太陽の当たる場所でじっと座っている事にしたボク。
ご主人様が居ない時、ボクはいつもこうしてひなたぼっこをしながらボーっとご主人様の帰りを待ったり、ボクが暇しないようにとご主人様が買ってくれたおもちゃで遊んだりしてる……今日はやけにそわそわするのは、いつもの朝のお散歩が無くて元気があり余ってるからだと思いたい。

「くぅ〜……」

それにしても今日はいい天気だ。窓から見上げた空は、雲一つなく青空が広がっている。
こんな日はご主人様と一緒に町中を散歩したり、草原でボール遊びを疲れるまでやっていたい……けど、ここにご主人様はいないからそれは叶わない。
今のボクができる事は……この家を護る事と、ボクが倒れたりしてご主人様を心配させる事をしない事と、ご主人様の帰りを無事に待つ事だけだ。

「く〜……」

もしもボクがご主人様と同じ人間だったら……こんな時は、こうしたどうしようもない事を考えてしまう。
たとえ人じゃなくても、ご主人様と同じように戦えて、ご主人様と不自由なく意思の疎通ができるようになっていたら……ボクはご主人様に行かないでって言えたし、逆に一緒に行ってご主人様を護る事だってできたのかもしれない。
そうでなくても……今以上に仲良くなれたかもしれない。ご主人様はオス、ボクはメス。つまり番にだってなれたのかもしれない。
でも……こんなもしもを考えたところで、それが叶うはずがない。
どれだけご主人様の事を想って、慕っていたとしても、それを全て伝える方法はないし、人のように話せたり歩いたりなんてできない。
それに……もしボクが人間だったとしたら、そもそもご主人様と一緒に暮らしてないのではないのだろうか?
ボクは誰かに捨てられていたところをご主人様に拾われた……あの日ボクを拾ってくれたのは犬だったからであって、人間だったとしたら拾ってくれたのだろうか?
そもそも色恋沙汰に興味を持ってなさそうなご主人様の事だ……ボクが人間のメスだったとして、一緒に住むどころか話をする事すらないかもしれない。
少なくともボクがご主人様と暮らすようになってから人間のメスとご主人様が会話しているのを見た事が無い。散歩中にすれ違った時は軽い挨拶をしたり、子供がボクを撫でたいとか言ってきた時は喋る事もあるけど、興味津々に異性として意識を持ちながら会話をしているところなんて一度たりとも見た事無かった。
それに、この家の中で人間のメスの臭いは一切しない……それはご主人様の親も含めてだ。
あまりわからないけど、どうやらご主人様の親はもう死んでいるようだ。一回だけ変な臭いがする煙が立てられている石がいっぱい並んでいるところに連れてかれた時、そんなような事を言っていたような気がする。
そう、あくまで気がするだけ。ボクにはご主人様が何言っているのかハッキリとはわからない。
そう考えると、やっぱり言葉ぐらいは通じるようになりたいと思う。
でも、こんなに強く願ったって、所詮どうしようもない考えでしかないのが本当に悲しい。
この想いが神に届いているなら……どうか叶えてほしい。
でもきっと届いてなんかない……だって、それなら未だに意思の疎通ができていないのはおかしいのだから。
もし届いていて放置されているのであればなんてイジワルなんだろう……なんて想って神に聞かれて不機嫌になり、拗ねてご主人様の身に危ない事が起こるとまずいのでそう考えるのはよそう。
ご主人様と言えば……今は何をしているのだろうか。
ご主人様の残り香がほとんどなかった事を考えると、ボクが起きるよりかなり早く起きて出て行ったのだろう。今頃どこか遠くにいるのかもしれない。
そんなどこか遠くの場所で、いつかのように傷だらけに……いや、それ以上になっているのかもしれない。そう思うといてもたっても居られなくなる。
未だに微かに残るご主人様の匂いを辿って行けばもしかしたら会えるかもしれないけど……そもそもこの家に怪しい人物が入ってこないようにご主人様はきちんと鍵を掛けて行っているし、もし鍵が掛けられてないにせよ勝手に外に出るのは良くない事だ。
だから結局ボクはこの家でずっと待ってないといけなくて……

「……く?」

なんかあれこれと考え事をしているうちに、窓から入り込む光は朱色に染まっていた……そう、いつの間にか一日が終わりかけていた。
どうやら朝からずっとボーっとしながら考え事をし過ぎて時間の流れも気付いていなかったようだ……気が付けばお腹がかなり減っていたので、ボクは用意されていたご飯を勢い良く食べた。
そして、また変な事を考えないようにボクはそのまま寝る事にした……と言っても、やっぱり不安があるし、今日はあまり動いてなかったのもあってなかなか寝付けなかった。
それでも目を瞑っているうちに睡魔がやってきて……ボクは意識を手放したのだった……



……………………



「……わうっ!?」

急に嫌な予感がして、まだ月が出ている時間に、ボクは一気に眠りから目覚めた。
別に変な夢を見たわけでもない。何か現実に起きたわけでもない。本当にただ嫌な予感がしただけだ。

「はっ……はっ……はっ……!?」

でも……その嫌な予感のせいで、ボクの身体から汗が流れ落ちるのが止まらない。
身体中が震える。もう寝る事なんてできないどころか、じっとしている事ができない。

「ばうっ!!」

もしかしてご主人様の身に何かあったのかもしれない……それとも今から何かが起こるのか……確証はないけど、そう思わずにはいられなかった。
いや、むしろご主人様の身に何かあった、もしくは何かが起こるからこそ、今ボクは嫌な予感がしているのかもしれない。ボクの思い違いかもしれないし、今までこんな気持ちになった事なんか一度も無いけど……今回はかなり危なそうだったことも考えると可能性はある。

「わおおおおおおおおんっ!」

だからボクは、もう何も考える事無く、無我夢中で家を飛び出した。
窓に向かって口で咥えたおもちゃを投げつけ、窓に大きな穴を開け、そこから家を飛び出して微かに残るご主人様の匂いを辿って駆け抜けて行った。
こんな事をすると騒ぎになるかもしれない。泥棒に家へ入られてしまうかもしれない。
でも、そんな事よりもご主人様の無事のほうが大切だ。
たとえ家が無事だとしても、ご主人様が無事じゃないならなんの意味も無い。

「はっ! はっ! はっ! はっ!」

こんな時だからなのか、いつも以上にご主人様の匂いを感じ取れる気がして、迷う事無くご主人様の辿った道を駆け抜ける事ができた。
月明かりの中、結構な時間と距離を走り続けるボク……それでも、なかなかご主人様の元へは辿り着けずにいた。
早く会いたい……早く無事で元気なご主人様に会いたい……そう思って道なき道を駆け抜けているのに、一向にご主人様の姿は見えない。

「わんっ! わわんっ!!」

どんなに叫んでも、ご主人様の返事はない。ご主人様らしき人影も見当たらない。
ご主人様どころか、何回か見た事あるご主人様の仲間の姿すら誰一人見えない。いったいどこまで向かって行ったのだろうか……
ほとんどノンストップで走り続けているというのに追いつけない。そして、ご主人様を見つけられないまま空が明るくなり始めてしまった。

「はっ、はっ、くぅ〜ん!!」

それでも、少しずつご主人様の匂いは強くなっている。ご主人様が近付いてきている証拠だ。
ただ……進むごとに段々と地形や草木が不気味になっていき、段々と明るくなっていたはずの空は何故かまた薄暗くなり……どこか禍々しくなっていた。
どこか空気も変な感じ……でも、そんな事を気にしている余裕なんてなかった。
それほどボクは得体のしれない恐怖に襲われている……早くご主人様の姿を見て、安心したかった。

「はっ、はっ、はっ……!?」

そのうちご主人様の匂いが強くなってきた……のだが、鼻に直接襲いかかる別の臭いが急に強くなってきた。
この臭いは……盛りのついたオスとメスの臭いだ。

「くぅ〜……う!?」

強い性臭に混じる微かなご主人様の匂いを追って不気味な森の中を進んで行くと……そこにはとんでもない光景が広がっていた。



「ふふ……私のおまんこの具合はどうかしら? 気持ち良くて我慢できないでしょ?」
「う、ぐあああぁぁ……」
「んふ……♪ 私のナカにドクドクと出しちゃったわね……おいしいわ♪」


「ふっふ〜ん♪ キミのおちんちん、びくびくしてるにゃね? ほれ、さっさと射精するにゃ!」
「や、やめ……っ!!」
「にゃは♪ 顔があっついキミのザーメンで濡れちゃうにゃ♪」


「おらっ! 情けねえな。お前も腰をガンガン振れ!」
「い、嫌だ! ま、魔物と淫行なんて……あひっ!?」
「おうおう、そんな事言っておきながら身体はヤる気満々じゃねえか!」


「あっ、んんっ♪ お兄ちゃんきもちいいよぉ……♪」
「駄目だ……いけないとわかってるのに……止まらない……!!」
「止まらなくていいんだよお兄ちゃん。素直になって、わたしと気持ちいいアソビをしようよ♪」



森の至る所で、ご主人様と同じような格好をしていた人間のオス達が、頭から角を生やしたり背中から翼が生えてたり猫っぽかったりする人間とはどこか違うメス達と交尾していた。
もちろん服を着ずに裸で交尾している者も多いが、お互いが他人の目を全く気にせず、相手の性器を自分の性器に合わせ腰を振り続けていた。
もしかしたらこの中にご主人様が……そう思って交尾している人間達を見て回ったが、ご主人様は見当たらなかった。
少しだけホッとしたけど……大勢の人がここにいるのに、この場に居ないご主人様はいったいどこにいるのかと思うと不安のほうが強い。

「わうん……」

オスとメスの臭いのせいでご主人様の居場所が上手く掴めない……けどなんとなく、それこそほとんど本能のままボクはその場を離れ、急な崖を軽やかに駆け下りた。
離れた事によって少しだけ性臭は治まり、ご主人様の匂いが強くするようになったけど……それと同時に、ボクは一番嗅ぎ取りたくなかった臭いがする事に気付いてしまった。

ご主人様の匂いと一緒に……ご主人様が大怪我をして帰って来た時によく感じた鉄の臭い……血の臭いが多く混ざっていた。

「わんわんっ!! わおーーーん!!」

今まで出した事も無いような速さでご主人様と血の臭いがする方向へ駆けだしたボク……動悸が段々と激しくなり、どうしても嫌な想像をしてしまう。

「わんっ!!わわんっ!!」

そして、ついにボクはご主人様を見つける事ができた。



土にまみれながら、頭から血を流し、倒れているご主人様を、だ。



「きゃいん! はっはっ、きゃん!!」

どうやらさっきボクが駆け下りた崖から落ちたようだ。
気にし過ぎであってほしかったが、嫌な予感が的中してしまった。
どうにかして傷を塞いで血を止めようとご主人様の傷を舐めるけど……もちろんそんな事でこの傷が治るわけがない。
このままではご主人様が死んでしまう。そんなの、絶対に嫌だ。

「わん!! わん!!」

懸命に叫んでご主人様の居場所を知らせようとするボク……でも、誰も近くに居ないのか、それとも交尾に夢中で聞こえて無いのか、人間も人間に似たメス達も何一つ近付いてはこなかった。

「わんっ!! わおおおおおんっ!!」
「ぐ……く、クー……?」
「わんっ!」

それでも誰かに気付いてもらおうと叫び続けていたら、気絶していたご主人様が意識を取り戻した。
力のない声でボクの名前を呼んでくれている。

「くぅ〜ん……」
「はは……こんなところにクーがいるわけないか……幻覚を見ちまうなんて……俺は……もう、駄目なのか……」
「ばうっ!!」

どうやら意識が朦朧としているようで、ボクは本当に目の前にいるのに幻か何かだと思っているようだ。
これは現実だと教えるためにご主人様の顔を舐めたりして見るが、あまり効果は無いようだ。

「ごめんな、クー……絶対、帰って来てやるって……言ったのに……」
「わんっ! わんっ!!」
「魔物と戦って、殺されるならともかく……魔物から逃げてる時に……崖から滑り落ちて死ぬとか……笑えねえよなぁ……」
「く〜んっ!」

ぼそぼそと弱気な発言をしながら、だんだん瞳が閉じていくご主人様。
このままでは本当に死んでしまう。そんなの嫌だ。

「クー……約束守れなくって……ごめ……ん…………」


ご主人様とお別れなんて嫌だ。


ご主人様が死ぬなんて嫌だ。


ご主人様……嫌だ。


やめて……嫌だ。


嫌!


いや!


いやっ!


いやだ!


やだっ!


いやだよ!


いやだっ!


やめてよ!


死ぬなっ!


死んじゃやだ!


いやっ死なないで!!


やめてご主人様!!


目を開けてよご主人様!!




ご主人さまああああああああっ!!




「ふ……ふぐっ……ゔ〜……」

目を瞑り、今にも死んでしまいそうなご主人様を、ボクは服の裾を咥えて運ぶ。
誰でもいい。ご主人様の怪我を診てくれそうな人がいるところまで運ぶ。
でも……ボクの身体は、ご主人様と比べると遥かに小さい。
どんなに力を入れても、ご主人様を引き摺りながら走る事はできなかった。
速く進もうとしても、ゆっくりと、少しずつしか前に進めなかった。
全然上手くいかない。それでも諦めるものか。
それでも、ご主人様を死なせてたまるかと思って前に進むけど……一向に進めなかった。

「く……くぅ……」

もしボクが……もしもボクがご主人様と同じように、せめてさっきの人間とは違うメスのようにご主人様を抱っこして走れたら……
もしボクが、ご主人様を背負って走れる事が出来たら……

そんな事を考えたって何の解決にもならない……

わかっているけど……

けど!!


「くぅ〜……」


ボクは!


「くぅ〜ん」


ご主人様を!


「くぅ〜う!」


絶対に!


「くうううっ!!」


死なせたくない!


「くううあああああっ!」


別れたくない!


「くうああああああああっ!!」


ずっと一緒にいるんだ!


「くうおおあああああああっ!!」


ずっと!


「くういんさまと……いっしょわうんんらああああああっ!!」


ご主人様と一緒にいたいんだ!!


「りゃから……」


だから……


「られかごしゅじんしゃまを……たすけてええええっ!!」


誰かご主人様を……助けてっ!!



ボクはご主人様を背負い、無我夢中で走った。
まだご主人様の鼓動を感じるので生きてはいるけど……歩みを進めるにつれ段々と感覚が遅くなり、小さくなっているようにも感じる。
それでも絶対にご主人様を死なせるものか……そう思いながら足を進めていたら、上空から薬品の臭いが微かにした。

「……く?」
「あら……どこかに余ってる男とついでに怪我人がいないかと探してみたら、ついでに探してたほうが結構危ない状況で見つかっちゃったわね」
「ぐるるる……」

何故上空から薬品の臭いが……そう思って空を見上げてみたら、翼を羽ばたかせながら白い服を着た人間じゃないメスが降りてきた。
さっきご主人様と同じ人間のオスの上で腰を振っていた角と尻尾と蝙蝠みたいな翼を生やしたメスと同じ種族のようだ。
もしかしたらご主人様狙いかもしれないから、ボクは威嚇した。ご主人様を護るためにだ。

「そこのクー・シー、その人を私に渡しなさい」
「や! ごしゅじんさまになにしゅるの!?」
「別にとって食おうとは思ってないわよ。私はこれでも衛生兵、つまりお医者さんなの。その人怪我して今にも死にそうな程危ないんでしょ? 死なせたくなかったら私に治療させなさい」
「おいしゃさん? ごしゅじんさまのけがなおしぇる?」
「ええ。でもここじゃ応急処置しかできないわ。でもしないよりはマシだからそのご主人様とやらを見せなさい」
「わぅ!」

たまによくわからない事を言ってくるが、何故か言葉がハッキリとわかった。
どうやらこのメスはご主人様の怪我を治す事ができるらしい。
ならばご主人様を死なせなくて済むかもしれない。
そうとわかれば警戒する必要は最低限だけでいい……そう思ったボクは、ご主人様の身体を素直にこのメスに預けた。

「とりあえず消毒と止血を施して……」
「きゃんっ!? はにゃが……」
「ちょっとキツイかもしれないけど我慢して。そのご主人様の命を助けたいって言うならね」
「わう。わかった……」

キツい薬品の臭いで鼻が曲がりそうだ。
でも、それでご主人様が助かるのならば……そう思ってボクは大人しくご主人様が治療されているのを、鼻をつまみながらジッと見ていた。
腕は確かなようで、あっという間にご主人様の血は止まり、白い布で怪我していた場所をグルグル巻きにされて、負担が掛からないようにお医者さんがご主人様を抱え上げた。

「応急処置は施したけどまだ何とも言えない状態だわ。病院に運ぶからついてきなさいよ」
「わう」

血が出なくなったから一安心かと思いきや、どうやらまだご主人様は危ない状態らしい。
でもきちんと治してくれる場所でなんとかしてくれるらしい。
だからボクはお医者さんが言う通りについて行ったのだった……



……………………



「くぅーん……ご主人さまぁ……」

あれから病院までいって、手術とかいうものを受けたご主人様。
どうやら治療は成功したようで、今はベッドの上ですやすやと寝ている。
ボクはそんなご主人様の傍で、ご主人様を『椅子に座りながら』見守っていた。

「ご主人さまぁ……」
「どうクーちゃん、ご主人様君の様子は?」
「あ、おいしゃさん。ご主人さま気持ちよくねてます」
「うんうん……大丈夫そうね。このまま安静にしていればすぐ意識は戻ると思うわ」

たまにこうしてお医者さんがご主人様の様子を見に部屋に来る。
このお医者さんがご主人様の命を救ってくれた。一生感謝してもしきれない程の恩がある人だ。
いや、人間じゃなくて魔物、サキュバスって種族らしい。さっき話をしてる時に教えてくれた。

「それでクーちゃん。ほら、鏡持ってきたわよ。今の自分の姿がどうなっているかこれで確認しなさいな」
「わう。ボクどうなってるの?」

そして、その会話中に言われて初めて気付いたけど……ボクもどうやらその魔物の一種、クーシーってやつになっているらしい。
ご主人様を助けないとって夢中になってたから気付くのに時間が掛かったけど、確かに今のボクはさっきまでのボクと違っている。
まず、今のボクはお医者さんと普通に会話ができている。というか、このお医者さん以外でも魔物や人間達の言っている事がわかるし、ボクが言っている事が相手にきちんと伝わるのだ。
それと、今のボクは人間と同じように二足歩行をしている。そういえば途中からご主人様を背中におぶさりながら後ろ足だけで走ってた気がするし、やたら目線も高くなっていた。
かといって人間とまったく同じ姿かと言えばそうじゃない。ボクの身体には相変わらず体毛がいっぱい生えているし、尻尾もあるようだ。耳も頭の上のほうにある。
お医者さん曰くボクはクー・シーという魔物になっているらしいが……自分じゃどんな姿をしているのかわからないから、大きな鏡を持ってきてもらったのだ。
その鏡の前に立って、前を見たボク。そこに映っていたものは……

「……これ……ボク?」
「そうよ。これが今のクーちゃん。可愛いでしょ?」
「わう……びっくり……本当にこれボク? 信じられない……」

そこには……たしかにボクの面影のある犬と、人間のメスを掛け合わせたようなメスが2本の足で立っていた。
頭上の犬耳、ぷっくりと顔の前に出る鼻、身体中に生える体毛、腰についてるふわふわのボクの尻尾、手足の肉球に爪、口に生える牙と、ここだけ見たらボクは犬だ。
けど、その手足は形こそ犬のものだが、自分の意思で人間と同じように細かく動かせ、足も人間と同じようにしっかりと2本足で立てている。
人間とは違った存在……だけど、人間と同じように動く事ができて、人間とおしゃべりができる。

つまり、今のボクはご主人様とお話できるようになったのだ。

「……」
「あらどうしたの? 凄く嬉しそうね。もしかしてご主人様君とお話できるのがそんなに嬉しい?」
「わう! だって、ずっとおはなししたいって想ってたから!」
「まあそうよね。そこまで想っていたからこそクーちゃんはクーシーになったようなものだしね」

早くご主人様とお話したい……早くご主人様にボクの想いを伝えたい……
そんな事ばかり考えながら、ボクはご主人様の目が覚めるのを今か今かと待っていた。

「う……うぅ〜ん…………」
「!?」
「う……こ、ここは……?」
「ご、ご主人さま!」

そしたら……鏡の前から離れて再びご主人様の横に座ったと同時に、ご主人様が呻き始めて……ゆっくりと目を覚ました。

「ご主人さま〜!!」
「うわあっ!? ま、魔物!? く、くるなっ!!」
「へ? ご主人さま?」
「ち、近寄るな!! 俺は食ってもおいしくないぞ!!」

起きあがったご主人様に思いっきり抱きついて甘えようとしたら、ボクの姿をみて怯えて後退りし始めたご主人様。
こっちが少し近づく度に、少しずつ離れていく。

「くるな! 俺は帰らないといけないんだ!!」
「ご主人さま……くぅ〜ん……」

言ってくれてる事は多分ボクとの約束の事だろうし、それにご主人様の言っている事がハッキリとわかる事は嬉しいんだけど……目の前にいるボクがボクとわからずに怖がっているご主人様を見て悲しくなった。
なんでボクって気付いてくれないんだろうって……たしかに姿は結構変わってるし、ご主人様はどうやら今のボクみたいな魔物と戦ってたみたいだから敵と思うのも仕方ないかもしれないけど、それでもボクと気付いてくれないのは悲しかった。

「くぅー……」
「あらあら、自分の愛犬に随分酷い事言うのね」
「な……サキュバスまで……ど、どうなってるんだ……それに愛犬って……」
「まだ気付かないの? あなたの目の前にいるクーシーは、大怪我していたあなたを助け出したあなたの愛犬のクーちゃんよ」
「え……」
「くぅん……」
「クー……なのか? 言われてみればたしかにクーっぽく鳴くしクーの面影もあるけど……どうして魔物なんかに……」

お医者さんに言われてようやくボクだって気付き始めたご主人様。
でも、まだ半信半疑なのがなかなか近付いてくれないご主人様……とても寂しい。

「ご主人さま……ボク、クーだよ」
「……本当にクーなんだな?」
「わう……ボクが小さいころご主人さまがくらくてせまい箱から家に連れて行ったクーだよ」
「……それを知ってるのは俺以外だとクーだけだし……本当にクーなんだな……」
「だからそう言ってるじゃん! ご主人さまのバカ!」

ようやくわかってくれたご主人様……ここまで言わないとわからないなんて、ボクはちょっと不機嫌だ。

「クーちゃんがあなたを背負って叫んでたから私は気付く事ができたのよ。そうでなければあなたは怪我で死んでいたわよ?」
「そうか……ありがとなクー」
「くぅーん♪」

それでもご主人様に撫でられたらつい笑顔になってしまう。
ご主人様の手つきにボクは嬉しくなってしまう。この姿になろうとも気持ちいいものは気持ちいいのだ。

「ん? という事はここは病院か?」
「そうよ。どうやらあなたはここに攻めてきた教団の一員みたいだし、色々と説明がいるみたいね。今から言う事は全部真実だからちゃんと聞きなさいよ」

ある程度冷静になったご主人様に色々と説明を始めたお医者さん。
魔物は人間を食べる事はないとか、他の兵士さん達は今頃魔物と交尾してるとか、ご主人様は大怪我していたけどこの魔界にある病院で治療したから命は助かったとか……よくわからない事も言ってたけど、大体そんな話をした。

「そうか……じゃあ俺達は真実を知らずにあんた達魔物と戦ってたのか……」
「気にしなくていいわよ。あなたに限らずそんな人ばかりだし、魔物が人間を滅ぼすって言うのも、人間視点でなら全く違うってわけでもないしね」
「それでも……俺達は……」
「だから気にしなくていいって。そんな思い詰めてるとクーちゃんが心配し過ぎて倒れちゃうわよ?」
「くぅー……」

話を聞いて塞ぎ込むご主人様……そのまま倒れてしまいそうなほど蒼くした顔色がとても心配に思えてきた。

「まあ、今まで魔物相手にしてきた事に罪の意識を感じるのなら、これからはその魔物を幸せにしなさい」
「魔物を……?」
「ええ。あなたの目の前にいるもふもふした魔物をね。元々愛情はあったんだから簡単でしょ?」
「もふもふした魔物……クーか……そうだな……」
「わうっ♪」

そう言われて、ご主人様は笑顔でボクを優しく撫でてくれた。
その時の眼は優しくて……それでいて何かを決意をした眼だった。

「そうね……今から私はこの部屋を出ていくつもりだし、クーちゃん今『裸』だし、一応全ての部屋に防音魔術も掛けられてるから好きにしてていいわよ」
「え……!?」
「わう?」

そう言い残して病室を出て行ったお医者さん。
たしかに今のボクは裸だ。そもそも犬の時だって服を着て無かったし、体毛だって生えたままなので特に気にしてはいなかった。
でも、魔物になった事で姿が人に近くなったからか、指摘されたことでちょっとだけ恥ずかしく思えなくもない。少し顔が熱い。

「く、クー! 何か服着ろ!」
「ん〜そんな事言われても……ボクふく着たことないしなに着ればいいの?」
「そ、それもそうか……でもとにかく何か着るんだ!」
「くぅ〜ん……わからないよぉ…………くぅ?」

ご主人様もボクが裸だとようやく気付いたようで、顔を真っ赤にしながら服を着ろと言ってきた。
でも、急にそんなこと言われても今まで着て無かったものを着る事なんかできっこない。
どうしようかとオロオロしてたら、鼻になんか不思議な匂いが入ってきた。
その匂いは……なんだかボクを興奮させる。

「なんだろこのにおい……ふんふん……」
「おいクー、何してるん……って待てクー!!」

匂いの発生源を探していたら、ご主人様のほうからする事に気付いた。嗅げば嗅ぐほど股間がムズムズと蠢く。
より強く匂いがする場所を細かく探してみたら……ご主人様の股の間に辿り着いた。

「ご主人さま……何かくしてるの?」
「な、何も! っていうか見せられる物じゃ……あちょっとクー!! 待て!」
「くぅ〜ん……」

股間という事はもしかして……と思いながら、ボクはご主人様が穿いているズボンに手を掛け下ろそうとした。
手は人のそれと形は違えど、爪で引っ掛けられるしこれぐらいは造作も無い事だ。
ただ、ご主人様が待てと言ったので待たなければならない。寂しいが、仕方のない事だ。

「くぅ……」
「……うーわかったよ。ほらクー、見ろ」
「わぅ〜♪」

強く我慢するも、それでも見たいと思い続けながらじーっと座っていたら、優しいご主人様が折れたようで、ズボンの下にある硬いモノを見る許可が下りた。
その瞬間、ボクはご主人様に飛びついて、ズボンを下ろした。

「……ふわぁぁ❤」
「く……」

その下に現れたのは……ご主人様のオスの証……ギンギンに勃起したペニスだった。
いい匂いもここから漂ってきているらしい……強くなった匂いを嗅いでると、ボクのメスとしての部分が疼いて止まらない。
どうやら、ボクの身体はご主人様のオスで発情してしまっていたみたいだ。

「ねえご主人さまー」
「な、なんだ? こうなってるのはその……お前が裸だからだぞ! いくらクーでも今は人間の女と近い姿してるんだから、胸が丸出しなら反応ぐらいしてしまうからな!」
「ボクに発情したの? じゃあご主人さま〜……」

今まではボクは犬、ご主人様は人間だからと考えてこなかった事。それが魔物になった事で……ご主人様と近い存在になった事で、考えても良くなった。
だからボクは……

「ボクと、交尾しよ!」

大好きなご主人様と、交尾がしたい。

「こ、交尾!?」
「だってボクは魔物。ただの犬じゃない! 大好きなご主人さまと交尾できる!!」
「いや交尾ってお前……うっ!?」
「くぅ〜ん……交尾シよ、ご主人さま!」

ご主人様の足に性器を擦りつけ、ご主人様もその気になるようにする。またお預けされないように、必死に発情した雌としてアピールする。
どうしてそんな動きをしているのかは自分でもわからないけど、ご主人様に対して発情してしまったボクはもうそんな事どうでもよくなっていた。

「ダメ?」
「お、俺は怪我人なんだぞ!?」
「大丈夫! ご主人さまを見つける前にオスの上でこしふってたまもの見た。ボクもそうすればいい!」
「い、いや、そうかもしれないけど、お、落ち着けクー、な?」

それでも必死に抵抗するご主人様……もしかしてボクと交尾するのが嫌なのだろうか?
嫌なのは……ボクの事が嫌いだからだろうか?

「ご主人さま……ボクの事きらい?」
「え、い、いや、嫌いじゃない……というか好きだけど……」

不安になったから聞いてみたらそう返された。

「それって……犬として?」
「……」

それはご主人様のペットである犬としてのボクの事じゃないかと、おそるおそる聞いてみた。
それでも嬉しいけど、折角だから、番として見てもらいたい。

「まあ……それもあるけど……今のクーが……可愛いって思ってるのも……ある……ぞ?」
「え……ホント?」
「ああ……クーみたいな娘が俺の女になってくれたら……嬉しい。だから好きだ」
「!!」

恥ずかしいのか歯切れは悪いけど、今のボクを可愛くて好きだって言ってくれたご主人様。
それもペットとしてじゃなくて、番として好きだと言ってくれた。

「ボクもご主人さまだーいすき!! だから交尾したい!」
「あーもう……そこまで言うなら!」
「わふっ!?」

嬉しくなったボクはついご主人様に抱き付いてしまった。
そのままご主人様に向き合っていたら、ボクの顔を強引に自分の顔に近付けて、ご主人様の唇が僕の口とくっ付いた。

「きゅ〜ん♪」
「はむっ……ぷあっ、クーんむっ」

ご主人様の舌が口の中に割って入り、ボクの舌を絡めとる……ご主人様の味が口の中に広がってよりボクを発情させる。
自分でもびっくりするぐらいボクの性器からはとろとろと液体が流れ出ていた。
それはご主人様も同じようだ。ご主人様の顔に擦っている鼻先が、ボクというメスを蕩けさせる強いオスの匂いを嗅ぎ取った。

「ん……」
「わう……ご主人様のペニスがちがちだね」
「ああ……シよう」
「わうう!?」

さっきの口付けか、はたまたボクの身体から発せられるメスの匂いに充てられたのか、先程までと違い交尾する気満々なご主人様。
硬く反り勃ったペニスをボクの太腿に擦り付け、零れる粘液でべとべとにしてくる。
ご主人様の体液で濡れたところから強い痺れが駆け巡り、ボクを半人からただ獣のメスへと変えていく。

「はっ……はっ……くぅ〜ん……❤」
「ぐっ……いいぞ、クー……」

動けないご主人様の為に、先程の魔物達のようにご主人様の上に跨り、性器同士をピタッとくっつける。
腰を上げようにも痛みで上げられないご主人様の為に、そしてボク自身が望むままにゆっくりと腰を下ろしていき……ボクの中にご主人様のペニスが沈んでいく。
これで念願だったご主人様との交尾ができる……そう思えば自然と気持ちも高まる。
さらにはボクの膣内を引っ掻きまわしながら突き進むご主人様のペニスが、ボクに蕩けるような気持ち良さを与えてくる。
思わず腰が抜けてご主人様の上に倒れてしまう。
こうやってご主人様の身体に触れると、ご主人様が意外と筋肉質だってわかるし、何より落ち着く。

「ご主人さ……なんかかおこわい」
「ぐっう……ぐあっ!」
「きゅぅ〜ん♪」

歯を食いしばって怖い顔をするご主人様。もしかして嫌なのかと思ったけど、どうやら違うみたいだ。
どうやら腰が抜けて動きが緩慢になったからペニスへの刺激が足りず、物足りないらしい。まだしっかりと動く腕でボクの身体を掴み、腰を無理やり動かしてくる。
ご主人様の気持ちに応えようとして少し力が入るようになった腰を動かそうとするが、ご主人様のペニスがボクの膣の中でピクッて動く度に幸せが込み上げて、蕩けて力が抜けてしまう。
ただじっとしているだけでもきゅんとして、よりご主人様のペニスを感じようとボクの膣が締まる。それはそれで刺激になっているみたいだが、やっぱり足りないようだ。

「ご主人さま……ご主人さまぁ……!」
「うぁっ、く、クー!」

もっとご主人様に気持ち良くなってもらいたい。ボクももっと気持ち良くなりたい。そしてご主人様と子作りしたい……そんな想いが溢れだして止まらない。
そんな想いがボクに力を与えたのか、少しずつだが腰を上下に振り始める事ができた。
ゆっくり抜ける直前まで腰を上げ、そのまま自然と力が抜けるようにまた沈める。
ずん、ずん、と深くペニスが刺さる度、ボクの膣を掻き乱し、甘い痺れで腰を震えさせる。

「くふ、うあっ! ああっ!!」
「はっ、はっ、きゅ〜♪ ご主人さまぁ〜❤」

段々テンポを上げ、さっき見た感じにただ動いているだけだけど、ご主人様は気持ちよさそうに顔を蕩けさせ、声を漏らしている。
ボクもなんだかきゅ〜ってきて、思わず腰を動かすスピードをより速めてしまう。
ご主人様のペニスがボクの奥に当たる度、頭が真っ白になりそうだ。ビクッビクッと、さっきよりも大きく腰が震えてきた。

「クー、射精すぞ……!」
「だしてご主人さま〜❤ ボクを孕ませてぇ❤」

激しい腰の動きに、ご主人様は満足できたようで……

「クー、俺の子を孕め! ぐぅ……!」
「くううぅぅぅ……❤」

より深く突き刺さったと同時に、ボクの子宮の中に精液をドクドクと吐き出した。
ボクの子宮にいっぱい出される子供の素……今まで夢見たご主人様との子作りができた悦びに、ボクは身体を大きく仰け反らせながら震えた。

「ぐ……う……あっ、はぁ……はぁ……」
「はっ……わぅ……くぅ〜ん……❤」

再びご主人様の上でくたっとなるボク……身体も頭も快感に痺れて上手く動けない。
それでも、ボクの中に出された大量のご主人様の精液がお腹の中で泳ぐ感覚で、ボクは顔を綻ばせていた。
これでご主人様との子供が孕める……そう思えば自然と顔も緩んでしまう。

「ご主人さまとのこども……わふぅ❤」
「はぁ……はぁ……そ、そんなに嬉しいのか?」
「だって、ご主人さまの事ずっと好きだったもん! ボクが人間だったらご主人さまと交尾できたのにって、何度も思ってたもん!」
「そ、そうなのか……」
「わうっ❤」

射精して少し落ち着いた様子を見せたご主人様だったが、ボクの嬉しいという言葉を聞いた瞬間、繋がりっぱなしのご主人様のペニスがまた硬くなった。
まだまだボクもご主人様と交尾したい……だから、ボクはまたご主人様の上で腰を振り始めたのだった。



「あらまあ激しい動きしちゃって……羨ましいわねぇ……」



お医者さんが覗き見してるのに気付いたのは、更に3回中に射精してもらってからだった……



====================



「それ、捕まえてこいクー!」
「わんっ!」

ご主人様の声を聞いて、ボクは森の中を軽やかに駆ける。
視界はそう良くないが、鼻のおかげで目標を見失う事はない。
足に力をグッと入れて、木々の間を飛ぶようにスイスイと抜け、目標に飛び付いた。

「ぐあっ!! クソッ!!」
「暴れるな! 噛むよ?」
「ちっ……こんなところで捕まるとは……不覚だ……」

このオスはボク達が住む魔界の街でスパイをしていた教団兵だ。
ある程度情報を集めて帰るところだったのだろうけど、こいつがスパイだって情報はこの前軍のヘルハウンド先輩と結婚したオスから既に聞きだしていたので、あとは捕まえるタイミングを待っていただけだった。
ただ相手も馬鹿じゃなく、だれにも見つからないよう姿を消す魔術を使ってこっそり街を抜けようとしていたが……ボクやヘルハウンドさんのように鼻が利く種族相手じゃ無意味だったという事で、こうして難なく捕まったという事である。
そもそも、ボクはクーシーになってからはもっとご主人様のお役に立てるように沢山魔術の勉強をしたから、これぐらいの魔術は鼻が利かなくてもお見通しである。

「よ〜し、よく捕まえたなクー。ちょっとそのまま抑えておいてくれよ」
「ち……魔物に魂を売ったゴミgうがっ!?」
「ご主人様の事悪く言うな! 殴るよ!!」
「もう殴ってるよクー。それにそんな奴に何言われようと気にしないから無視しな」
「わう」

ボクが抑えてる間にスパイを紐で縛るご主人様。ボクが魔術で縛り上げる事も簡単だが、これぐらいは自分でしたいとの事。
その間、ボクはきっちり抑えながらもボクがクーシーになったあの日からの事を思い出していた。
魔物になったボクがいるし、それにご主人様も魔物は人を殺さないって知ってもう教団に戻れないという事で、この魔界都市に暮らす事になったボク達。
生活に必要な物や家はあのお医者さんが用意してくれたからボク達は不自由なく暮らしていけている……本当に感謝してもしきれない。
それからずっとボク達は交尾したり散歩したり遊んで暮らしている……のもあるけど、ボク達二人はこの街の軍の隊員として働いているのだ。
以前のご主人様のように、この街の魔物を全滅させて魔界を普通の街に戻そうと(軍の先輩いわく無駄な努力らしいけど)教団兵達が攻めてくる事が度々ある。その教団兵達からこの街の人や魔物達を護る為の仕事をしているのだ。
もちろん人を護る仕事に誇りを持っていたご主人様は喜んで入った。ボクだって今は一緒に戦えるから、ご主人様を護る為一緒に入ったのだった。
それ以外にもボクはいろんな言葉や魔術、道具の使い方を一生懸命覚えた。別にそこまでして覚えなくてもいずれは覚えるし、充分だって言った人もいたけど、ご主人様と今すぐにでも何不自由なくお話したかったから一生懸命いろんな言葉を覚えたし、ご主人様の助けになりたいから沢山の事をできるようになりたかった。
おかげで今は前みたいにたどたどしく喋る事は無く、人間と同じように何不自由なく喋れるようになった。
魔術だっていろいろとできるようになった。人間に化けたりもできるけど、ご主人様は獣人姿のほうが好きだって言うから、あまり使いたくない。
他にも物の読み書きや剣や杖での戦いもできるようになり、こうしてご主人様と一緒に護る仕事に就けるようになった。
今はご主人様のお腹を満足させるため、お料理を稲荷のお姉さんに習っている最中である。

「さてと、これで逃げられないぞっと。お前には色々と聞き出さないとな」
「くそ……絶対に口割らないからな!」
「その強気がいつまで続くかな? 俺はあの人の尋問喰らったら絶対すぐ口割るだろうな……なんせ滅茶苦茶怖いからな……」
「く……お、脅したって無駄だからな!」

だから今、ボクはこうしてご主人様といつも一緒にいられる。
何と素晴らしい事だろうか。

「く〜、ご主人様〜♪」
「よし、よくやったぞクー」

スパイを捕まえたご褒美に、犬だった頃と変わらずボクの頭を撫でてくれるご主人様。

「でもなクー、俺とおまえは今や主人とペットじゃなくて夫婦なんだ。だからご主人様じゃなくてだな……」
「あ、そうだった。トリバー♪」
「よしよし、それでいいんだぞクー」

いや、ご主人様じゃなくて旦那様のトリバーだ。
名前で呼んでくれと言われているので、基本はトリバーと呼んでいるのだが、今までご主人様と言っていたので今みたいについご主人様と言ってしまう事もある。

「ねえトリバー、頭撫でるだけじゃなくってぇ……」

頭を撫でられるだけでも気持ちいいし、充分嬉しいのだが……気持ちが高まってきたボクはそれで終わりたくない。
ボクの気持ちをわからせるために、そんなに大きくないおっぱいを一生懸命トリバーに押し当てる。

「まったく、クーはすぐ発情するな……発情期ってわけじゃないだろ?」
「そうだけど〜、トリバーとはいつも交尾したいの!」
「はぁ……仕方ない。ご褒美だもんな。ほら、四つん這いになって」
「え、ここでするの?」
「どうせ人目につかないだろうし、もし見られても気にしないだろうしな……嫌なら家まで我慢するか?」
「ううん! 今からトリバーと交尾する!!」

だからボクは、トリバーに交尾をねだった。
困ったやつだみたいな顔をしてるけど、そう言うトリバーもボクと交尾したくてペニスを勃起させてるのがわかる。互いに我慢は良くないのだ。
まあ……我慢し過ぎて理性のタガが外れたトリバーと本能に忠実なケモ交尾に興じるのも好きだけどね。

「ほらトリバー、挿れて♪」
「ああ、いくぞクー」

ボクは穿いていたものを脱ぎ、手を木に添えて体重をかけ、トリバーに向けてお尻を突き出し、尻尾を上げて性器を丸出しにした。
初めては騎乗位で交尾したけど、やっぱりボクは犬だからか後背位が一番好きだししっくりくる。後ろからトリバーに荒々しくガンガンと犯されるのが堪らないのだ。
もちろんボクの性器は既に周りの毛皮の色を変えてしまうぐらい濡れているので前戯の必要はない。気持ちが高ぶってる中でご主人様に頭を撫でられるとすぐに発情してしまうからだ。
ボクの腰に手を当て、挿入位置を調整して、ゆっくりとボクの性器にトリバーのペニスが近付いて来て……

「こらこら二人とも、セックスするのはいいけどきちんとスパイを軍の拠点まで連行してからにしなさい」
「あ、フォード教官……」
「くぅ〜ん……邪魔された……」

あとちょっとというところで横から声が掛かって交尾の邪魔をされてしまった。
かなり不機嫌になりながら振り向くと、そこには教団兵だった頃のトリバーの上司がいた。

「まあ、今すぐセックスしたくなるのもわからなくはないが……仕方ないからこいつは私が連れて行こう。二人はそのまま楽しんでなさい」
「ありがとうございます教官!」
「あと私はもう教官じゃない。お前達と同じ立場の魔界の軍の兵士、ただの同僚さ。まあ慣れないのならば無理に変える必要はないがな」
「はぁ……」
「では私はそろそろ行くとするよ。お前達がセックスしようとしてるのを見て私もリアンと早く会ってしっぽりヤりたくなってきたからな」
「了解です。リアンも元気ですか?」
「もちろんさ。毎日私の帰りを主夫として待ってもらっているよ。もちろん夜の営みも……な❤」

ちょっと忘れかけてたスパイを連れてってくれるので邪魔された事は許す。それに、この人には言葉と剣をいっぱい教えてくれた恩もある。
それにしてもたしかこのフォードって言う元上司の人……たしかオスだったはずだけど、今はお医者さんと同じように頭から角と腰から翼と尻尾を生やし、そしてメスの匂いがする。
魔物は今メスしかいないって言ってたからこの人も今はメスなのは確定だけど……なんでだろう?

「さて……元教官も去ったし、続きするか?」
「わう! でもちょっと醒めちゃったからきゃんっ!?」
「ならちょっと弄るか……いつもヌレヌレだし、基本本能的なセックスばかりであまりしないけど、たまには理性的なのもいいだろ」

元上司さんが去った後、そのままのポーズをしていたボクの尻尾を強めに握った。
ボクの尻尾はどうやら性感帯らしく、握られたところから快感が痺れとなって全身を駆け巡った。

「なんかこうしてると手コキしてるみたいだけど……あまり想像はしたくないな」
「くぅ〜くぅ〜ん♪」

そのままボクの尻尾を、ボクがご主人様のペニスにやるように扱き始めた。
ペニスと違って硬くなる事はないけど、ボクを完全に発情させるのには十分だった。

「どうだ? 気持ちいいかクー?」
「きゅ〜ん♪」
「お、かなり愛液が出てきたな……どれ……」
「きゃふっ!? わうぅぅ♪」

尻尾を扱いたままボクのクリトリスをきゅっとつまんだトリバー。
突然身体中を電流のように駆け巡る刺激に、ボクはなすすべなくイッてしまった。

「一回イッたし、これなら充分だな……はぁ……よし、挿入するぞ」
「くぅ〜ん♪ きてトリバー……❤」

これでボクはもちろんのこと、そんなボクの痴態を見ていたトリバーも準備万端のようで、ペニスが力強く反り立っていた。
たまには理性的なのも……とか言っていたが、既に息が荒くなり目が血走っているので、それは無理だろう。そういうのは今度それ用のハーブでも買って行おうと思う。
何故なら、ボクも既に理性だという言葉はほぼ忘れ去ってしまっているからだ。
早く挿入してほしくてボクは、犬だった時のようにだらしなく舌を垂らしながら四つん這いになってお尻を突き出す。
もう我慢できないトリバーは、ボクの腰を掴み性器にペニスをあてがい、そして……

「くぅぅぅぅぅぅぅん♪ 入ってきたぁ♪」
「くぅ……変わらず絡みついて……があっ!」

ずぶずぶとボクの膣を掻き分けながら入ってきたトリバーのペニス。
何度も交尾してるうちにボクのおまんこはトリバーに合うようになったのか、気持ちいいところを正確に突いてくるのですぐに腰ぬけになってしまいそうになる。
それはトリバーもらしく、ボクの膣内でトリバーのペニスはより一層硬さを増し大きくなった。

「きゃんっ、きゃん♪ くぅぅ〜❤」
「ふっ、くっ、うっ、ああっ!」
「くうぅぅ〜❤」

片手を腰に当て、もう片手でボクのおっぱいを鷲掴みながら激しく腰を振るトリバー。
メスを支配する力強い声と、オスに身も心も支配される悦びに震える声。そんな二匹の獣の唸り声と、互いの肉のぶつかり合う音だけが辺りに響く。
互いに言葉を忘れ、喘ぎ声以外の声を出さなくなったのは、それだけボク達が本能だけで快感を貪っているからだ。
その証拠に、膣内をガンガンと攻め立てるトリバーのペニスが強く痙攣し始めた……もう少しで射精が始まる。

「ぐああっ!!」
「きゅぅぅぅぅぅん❤」

更に強く腰を打ちつける動きに合わせ、ボクもより気持ち良くなったりより深くペニスが入るように腰を揺さぶる。
そのうちトリバーのペニスが一際大きくなった。今までも何度も感じた射精の合図だ。
ボクはより深くオスを奥へ誘うため、おまんこをほとんど意識していないけどきゅっと窄めた。
それがとどめとなったようで……ボクの膣内で大きく震えながら、アツい精液を容赦なくボクの子宮にぶちまけた。
どくっどくっとボクの子宮を満たすように注がれる精液……優しく強いトリバーの精に満たされる感覚に、ボクは悦びに満ちながら再びイッてしまった。

「ぅ……ぅあっ……」
「くぅ〜ん……❤」

インキュバス化が始まったトリバーの射精は、コブ状の栓こそないものの、犬の如く長い。
その間ボクはイキっぱなしで、頭が幸せでふわふわして何も考えられない。

「ふぅ……ふぅ……」

それでも何十分かして射精こそ止まった。
だが、インキュバスであるトリバーのペニスはまだ硬いままだ。
互いに少し落ち着いて理性の色が戻ってもまだ繋がりっぱなしなため、ボクに甘い刺激を与え続ける。

「トリバーとの子供……❤」
「ああ、できるといいな……」

ボクの子宮を満たす精子……この精子が子供になってくれたらとても嬉しい。
魔物は人間との子供ができにくいとお医者さんから以前に聞いた。
実際、今日まで毎日トリバーと交尾してるけど、未だに妊娠した兆候はない。つまり本当に子供はできにくいのだろう。
それでも……ボクが犬のままであれば、たとえトリバーと交尾ができていたとしても、子供は絶対にできなかった。
そう考えれば、できにくいだけでできないわけじゃない魔物になれて本当に良かったと思う。

「そのためには……もっとシないとな!」
「わぅん!? あぅぅわぅぅぅぅん❤」

ボク達の子供ができるように、交尾はより獣っぽく、そして激しくなっていったのであった。








生まれてすぐに捨てられ、どうしようもなかったボクを拾ってくれたご主人様。
一緒に暮らし、一緒に遊んでいるうちに、ボクはご主人様に仕えたいという気持ちが芽生えていた。
そしてご主人様がボロボロになって帰ってきたり、ボクを優しく撫でたり、一緒にご飯を食べたりするうちに……いつしか恋心さえ抱くようになっていた。
でも、ボクは犬でご主人様は人間……神に祈ったとしても叶うものでは無かった。

それでも想い続けるうちに……ボクはご主人様と結ばれる事ができた。

大好きなご主人様、トリバーと子供が作れるようになった。

この先の未来、子供ができても、ずっとできなかったとしても、もし元の犬になってしまうような事が起きたとしても……ボク達はずっと愛し合っていく。



拾ってくれたあの日からの想いは、決して消えないのだから……
15/10/14 23:22更新 / マイクロミー

■作者メッセージ
お久しぶりな気がする今回はようやっと待ちに待ったクー・シーさんのエロ有りSSでした。
どれぐらい待ちに待っていたかは更新された日時とこのSSの文章量を考えてみればわかると思いますwあのワールドガイドT内の一文だけでこのSSの8割は書きあげてましたw

いいよね忠誠もふもふ犬っ娘。
ケモナーから入った身としてはケット・シー以上に見逃せませんw

誤字・脱字・その他クー・シーの魅力が全然引きだせてねえんだよゴルァ等ありましたらお気軽にどうぞ!

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