読切小説
[TOP]
ナンパ男の末路
 海岸には人が大勢いた。海に入って泳ぐ人、波打ち際で談笑する人、砂浜で日光浴をする人などだ。天気は良く、海の青と砂浜の白の対照がまぶしい。
 砂浜に1人の若い女が立っていた。可愛らしい顔立ちをしており、その顔に似合った可愛らしい水着を着ている。だが、胸が大きい。その女に2人の軽そうな男が話しかけた。
「ねえ、君は1人なのかな?良かったら一緒に泳がない?」
 女は眉をひそめると、穏やかだがはっきりとした調子で言う。
「すみません、人を待っていますから」
「それじゃあ、その人が来るまで一緒に話をしようよ。ただ待っているのは退屈だからね」
 女は、誘い続ける男たちに対して不快そうな表情を露わにする。
「1人で待っていたいんです」
 女がはっきりと言い放つと、男たちは苦笑する。
「邪魔だったみたいだね、ごめんね」
 そう言うと、男たちは女から離れていった。

「あ〜あ、また失敗かよ」
「まあ、そんなものさ。めげないで次の女に声をかければいいさ」
 ぼやく穂波に対して、柴崎は笑いながら答えた。
「そうは言っても、今日だけで8人も失敗してる。へこむわ」
「だったら、あと8人に声をかければいいさ。へこんでいたって女はつかまらないさ」
 2人は砂浜を歩いていた。この海水浴場には大勢の女がいるが、彼らにつかまる女はまだいない。魅力的な体を露わにした女たちが、彼らの視界に繰り返し入る。
「ほら、見ろ。あの女は彼氏持ちだったようだ」
 穂波に言われて、柴崎は振り返った。先ほどナンパした女のそばに男がいた。黒髪に白い肌の若い男だ。顔立ちは悪くないが、海岸よりも室内が似合いそうな男だ。その男に対して、先ほどの女は別人のようににこやかな顔で話している。
「俺たちは、ヒロインにナンパしてあしらわれるモブキャラじゃねえか」
「そうかもしれないな」
 柴崎は苦笑するしかない。確かに、今の彼らを見ればナンパするモブキャラだ。漫画だったらずいぶんと情けないキャラだ。ただ、だからと言ってめげていたら、ナンパなど出来ないし女をつかまえることは出来ない。柴崎は、口元に不敵な笑みを浮かべる。
 2人とも顔立ちは整っているし、引き締まった体をしていた。軽そうな格好をしているが、彼らにはその恰好が似合っている。人によっては、彼らは魅力的に映るだろう。そう見えるように、2人とも努力してきた。
 特に、柴崎は努力家だ。たとえ、それがナンパのためであろうとも。

 柴崎弘樹は、ナンパに情熱を燃やしていた。女と仲良くなってセックスしたいからだ。彼は、それが悪いことだとは考えていない。生物である以上、雄が雌をつかまえるのは当然のことだからだ。
 生物は、交尾する相手を手に入れるために様々なことをやる。吠えることもあれば、踊ることもある。人間の場合はナンパが求愛行動だと、柴崎は見なしているのだ。
 人間を他の生物よりも上に見なし、男が女を追いかけ回すことをバカにする者がいる。柴崎に言わせれば、そんな連中のほうがバカだ。他の生物よりも上のはずの人間は、何千万人という死者が出るような戦争をしている。他の生物がそんなバカなことをするだろうか?
 柴崎にしてみれば、下らない戦争をする人間よりも雌相手に腰をふる牡犬の方が立派だ。彼は牡犬を見習っている。
 柴崎は、モテやナンパに関する本を読み漁った。情報も無いのに行動を移すわけにはいかない。怪しげな本ばかりだが、それでも情報を得られるかもしれないと読み漁った。
 そして1冊の本に突き当たった。それは、アメリカ人の書いたモテに関する本だ。その内容をかいつまむと、次のようになる。
「手当たり次第に女を口説け!朝も口説け!昼も口説け!夜も口説け!そうすりゃ、1人くらいは女が引っかかるだろう。HAHAHAHAHAHA!」
 柴崎は、最初に読んだ時には呆れた。だが、考えてみれば一理ある。行動を起こさなければ話にならない。そして、試行錯誤して行動することによって得られるものはある。どんな場所を選べば良いのか、どんなファッションを身に付ければ良いのか、どんな話し方をすれば良いのか、どんな振る舞いをすれば良いのか、自分に足りないものは何か分かってくる。分からなくとも、何を調べれば良いのか分かってくるのだ。
 アメリカはプラグマティズムの国だ。つまり実利主義、実用主義の国であり、技術を重視する。そして、その技術は行動することによって手に入れることが出来る。手に入れた技術は実行に移す。その実行により別の技術を手に入れ、その技術をまた実行に移す。それをくり返していくのだ。このプラグマティズムの考えに、柴崎は納得した。彼は、ウィリアム・ジェイムズの「プラグマティズム」を愛読するようにさえなった。
 まあ、ナンパする男の中でウィリアム・ジェイムズを読む者はほとんどいないだろう。その辺りは柴崎の凝り性を表している。そして、柴崎はただ凝るだけではなく実行に移した。
 ナンパに必要な物を調べ、それを手に入れる。そして、調べた場所に出かけて口説く。口説いて、口説いて、口説きまくる。その経験で、自分に足りないもの、これから調べなくてはならないものを知る。調べて手に入れる。そしてまた口説きに行く。その繰り返しだ。
 柴崎が学んだことは多かった。例えば髪だ。ナンパする者は髪を染めていると思う人は多いだろう。だが、むやみに染めていいわけでは無い。金髪にしてもモテるわけでは無いのだ。では茶色にすればいいのかと言うと、茶色といっても様々な染め方がある。黒髪のままの方が良い場合もある。
 髪を染めるにしても髪型と合わせなくてはならない。着ている服や装飾品によっても違ってくる。ふさわしい場所や場合もある。それらを学んでいくことは根気のいることだ。柴崎は、美容師の読む専門書を読むことまでした。
 ただ、そのようなナンパをくり返していると、心が折れそうになることもあった。声をかけた女に罵倒されたり、ゴミでも見るような目で見られることは日常茶飯事だ。うまくいったと思ったら、飯をおごらされただけのこともある。夜、布団の中で泣いてしまうほどつらいこともあった。

 そんなある日、1人の男を見ることで柴崎は立ち直った。それは、米軍基地のある街のライブハウスに入った時のことだ。そのライブハウスには、米兵の男と近辺の女たちが集まってくる。ナンパ目的で来る者も多いのだ。柴崎は、参考のために米兵のナンパを見学に来た。
 米兵ならば簡単に女をつかまえることが出来ると、柴崎は思っていた。ところが、ある米兵を見て考えが変わってしまった。その20代半ばくらいのいかつい米兵は、地元の女子高生らしき少女に声をかけた。だが、その少女はあっさりと断った。
 米兵はめげるかと思うと、すぐに少し離れた所にいた20代の女に声をかけた。その女からもあしらわれる。米兵は、すぐに次の女に声をかける。またあしらわれ、次の女に声をかける。それが繰り返される。
 ついに12人目で、米兵は女をつかまえることが出来た。2人は、仲良さそうに話している。米兵が腰に手を回すと、その女は体をすり付けた。
 柴崎は感嘆した。繰り返しあしらわれても、相手を変えて声をかけ続ける。そして女を手に入れる。これがアメリカ人の強さか、ナンパする者の強さか。柴崎は学んだ。ナンパする者にとって一番必要なものは、鋼の精神だということを。
 気が付くと、柴崎はその米兵の背に敬礼していた。自分に大切なことを教えてくれた、名も知らぬ米兵に敬礼していたのだ。
 自分と同じくその米兵に敬礼している男がいた。それが穂波だった。2人は共に語り合うと意気投合した。そして、ナンパ道を貫くことを、盃を交わしながら誓い合った。それ以来、2人は共にナンパをしている。
 この米兵の1件で、柴崎は覚悟が決まった。彼は整形手術をしたのだ。必死になって働いて貯蓄に励み、整形手術の金を貯めたのだ。そして、端正な顔を手に入れた。元の顔を捨てたことに後悔はない。穂波も整形手術を受けた。
 柴崎は、ナンパしては撃沈され、ナンパしては撃沈される日々をくり返した。そんな日々の中で、彼は以前読んだボクシング漫画とその漫画をアニメ化した物を思い出す。その主人公は、何度も光るゲロを吐きながら戦い続けた。柴崎は、その主人公に自分を重ね合わせるようになったのだ。たとえ何度倒れても立ち上がり、ナンパを成功させる。ナンパは自分の戦いだ。柴崎はそう考えている。
 柴崎と穂波の努力は実を結んだ。2人のナンパは成功するようになったのだ。そして、ナンパした女とセックスをすることも出来るようになったのだ。

 柴崎は、浜辺を歩きながらナンパの成功体験を思い出していた。プラグマティズムは、成功体験を自分の中に蓄積してそれに基づいて行動しろと勧める思想だ。うまくナンパすることが出来た時にした準備、選んだ場所、取った行動などを思い出す。
 そして、セックスの体験も思い出していた。女の匂い、味、感触、温かさ、そして快楽と興奮。その体験は、彼の記憶の中にはっきりと刻まれている。苦労の末に手に入れた甘美な体験だ。思わず股間が硬くなりそうになる。柴崎はあわてて鎮める。
 その時、柴崎の肩が叩かれた。飛び上がりそうになるのを抑えて振り返る。見ると若い女がいた。柴崎は息をのむ。並外れた美女だ。紫水晶を思わせる瞳が彼を見つめている。女は柴崎に微笑みかける。
「ねえ、あなたたちお暇かしら?良かったら少し遊ばない?2人よりも4人の方が楽しいと思うけれど」
 女は2人いた。もう1人の女は、穂波の肩に手を置いている。こちらもたぐいまれな美女だ。
 柴崎は思考が混乱した。めったにお目にかかれない美女が自分たちを誘っている。こんなうまい話があるだろうか?これは白昼夢なのではないか?穂波の方を見ると、彼も混乱しているようだ。
「あ、ああ、そうだね。一緒に遊べたら嬉しいな」
 柴崎は何とかそう答えた。穂波は、ぎこちなく笑いながらうなずいている。
「それじゃあ、こちらに来て。ここは日差しが強いからね」
 女は柴崎の手を取った。彼らは、女に誘われるままついて行った。

 実際の所、白昼夢に近いかもしれない。柴崎は女の背を見ながらそう思う。女の背には黒い翼があった。頭からは黒い角が生えており、尻からは黒い尻尾が生えている。
 魔物娘か…、多分サキュバスだろうな。柴崎は声に出さずにつぶやいた。現代では、魔物娘たちの存在が公表されている。こうして海水浴場でも魔物娘を見かけることが出来るのだ。
 柴崎は、魔物娘もナンパのターゲットにしようとして調べていた。ただ、調べてもよく分からなかった。情報が多すぎる上に錯綜しているのだ。男好きで淫乱という情報があったかと思うと、貞淑で操を立てるという情報もある。会ってすぐにセックスをすると言う情報もあれば、どんなにアプローチしても落とせないという情報もある。おまけに種族が多く、種族ごとに特性がある。その上に個人差があるのだ。
 柴崎は、調べているうちに魔物娘が何者なのか分からなくなった。それならば、実際に口説いてみようと試してみた。結果は全敗だ。50人以上の魔物娘を口説いたが、いずれの魔物娘からもそっけなくあしらわれた。それで、魔物娘が男好きだというのは嘘ではないかと、柴崎は疑っている。
 だが、サキュバスらしき魔物娘が柴崎を逆ナンパしている。その事実に柴崎は驚いている。サキュバスは淫魔と言われているから当たり前かもしれないが、彼は以前にサキュバスを口説くことに失敗していた。だから、今の事態に驚いているのだ。
 柴崎は口の端に笑みを浮かべた。よし、このチャンスを生かしてサキュバスとやってやる。サキュバスから漂ってくる香水の甘い香りをかぎながら、柴崎は無言で決意を固めた。

 サキュバスたちは、柴崎と穂波を2本のビーチパラソルのある所へ案内した。それぞれのパラソルには2台ずつ寝椅子がある。柴崎は用意の良さに感心する。
 柴崎は、手を引いているサキュバスと同じパラソルに入り、寝椅子に横たわった。サキュバスも寝椅子に横たわり彼を見つめる。穂波たちはもう1つのパラソルの寝椅子に横たわる。柴崎は、サキュバスを見つめ返しながら観察した。
 こうしてじっくりと見ると、このサキュバスの優れている所は顔だけでは無いとよく分かった。紫色のまじった銀髪は、独特の光沢を放って彼女の体を飾っている。胸は豊かであり形が良く、引き締まった腰や柔らかそうな尻と合っている。足は長くて形が良い。この官能的な体に紫色のビキニの水着を着ている。露出度の高い水着は、張りがあり白く輝く肌を露わにしている。
 思わず生つばを飲み込みそうになる柴崎に、サキュバスはソアイミアスと名乗った。柴崎は、あわてそうになるのを隠しながら名乗り返す。ソアイミアスは、クーラーボックスからビールを取り出して柴崎に渡した。彼は遠慮なくビールを飲む。良く冷えたビールが喉を流れていく。
 柴崎は、ビールを飲みながらソアイミアスと話をした。そして、彼女のコミュニケーション能力が優れていることにすぐ気が付いた。彼女は話の接ぎ穂をすぐに見つけ、話を広げてくる。そして、良い聞き手になろうと努める。柴崎に対して巧みに質問をする。
 話がうまいだけではなく、話し方もうまかった。特に、間の取り方が巧みだ。話をすることが慣れない者は、自分の話す内容を注意することに精いっぱいで、間の取り方が下手な場合が多い。ソアイミアスは、柴崎の反応を見ながら絶妙な間を取って話すのだ。
 表情と動作も巧みだ。話の内容に合わせて表情を変え、柴崎に興味を持っていることを伝えてくる。その表情は好意さえ伝えて来るものだ。動作は表情とうまく合うものであり、ごく自然に感じられるようなやり方をしている。
 柴崎は、ナンパをくり返していることから観察力を身に付けていた。そのために、ソアイミアスのコミュニケーション能力の高さが分かったのだ。
 ふと、柴崎の背筋に寒気が走った。これほどの能力のある美女が、なぜ俺たちを逆ナンパしたのだろうか?俺は、何かひっかけられているのではないか?柴崎の中に疑念が生まれてくる。
 ソアイミアスの動作が柴崎の目を引いた。官能的な肢体を引き立てるような、嫣然とした動作だ。それはわざとらしさを感じさせず、彼女にとっては自然なものに見える。豊かな胸の谷間が柴崎の目を引き付ける。
 柴崎の中の疑念はわきに押し寄せられた。

「ねえ、体にオイルを塗ってくれないかしら?」
 ソアイミアスは艶のある声で言った。
 柴崎は彼女の顔を見つめた。彼女の口元には誘うような笑みがある。胸と腹、太ももが男の目を引く。柴崎は生つばを飲み込んでしまう。
「うん、いいよ。日差しが強いから塗った方がいいよね」
 彼は、あわてないように自分を抑えて立ち上がった。ゆっくりとサキュバスに近づく。穂波も、もう1人のサキュバスに近づいていた。彼もオイルを塗ることを頼まれたのだ。ソアイミアスは、寝椅子の上にうつ伏せになって、上目遣いに見つめてくる。
 柴崎は、手にオイルを垂らすとのばした。そして、ソアイミアスの背に塗っていく。温かさとなめらかさが手に伝わってきた。柴崎は、歓喜の声を上げそうになる。今までさわったことのない極上の肌だ。
 柴崎は、サキュバスの肌にオイルを塗っていった。思わず揉みそうになるのをがまんしながら塗っていく。肩から腕に、背から腰に、そして足に塗っていく。
「あら、お尻には塗ってくれないの?」
 柴崎は、また生つばを飲んでしまった。きわどいデザインのビキニのために、大事なところ以外はほとんど露わになっている。彼は、手にオイルを垂らすとゆっくりと塗った。柔らかさと同時に張りのある感触が伝わってくる。
「ねえ、マッサージをするように塗って欲しいの」
 もう、がまん出来ない。柴崎はサキュバスの尻を揉み始めた。そのとたんに、彼女の口から艶のある声が漏れる。サキュバスの体からは甘い香りが立ち上ってくる。男は荒い息を漏らし始めた。辛うじてペニスが勃起するのをこらえている。
「今度は前の方を塗ってね」
 ソアイミアスは仰向けになった。胸が揺れて柴崎を誘う。彼は、胸をわしづかみしたい衝動をがまんしながら、肩から腕に塗っていく。
「あらあら、胸を塗ってくれないの?もむように塗ってね」
 柴崎は言われたとおりにした。初めはためらうようにもんでいたが、次第にむさぼるようにもんでしまう。今までもんだことのない魅力的な胸だ。今まで貪った胸がただの脂肪の塊にしか思えなくなってしまう。この胸でパイズリをしてもらったらどれだけ気持ちが良いだろうか?柴崎の目は獣じみた光を放ち始める。
 襲い掛かりたい衝動をこらえながら、腹や太ももにもオイルを塗っていった。胸同様に貪りたくなる腹と太ももだ。柴崎は、自分の鼻息が荒くなっているのに気が付いていない。
 ソアイミアスは面白そうに柴崎を見ていた。彼女は、男の手を取って塗るのを止めさせる。
「ありがとう。気持ちが良かったわ。今度は私が塗ってあげるね」
 ソアイミアスは立ち上がると、柴崎を寝椅子にうつぶせにして寝かせた。獣欲にかられていたにもかかわらず、柴崎は素直に従ってしまう。
 柴崎の背に柔らかい手が触れた。その手は撫でるように背をすべっていく。オイルを塗り広げた手は、ゆっくりと背をもんでいく。柴崎の口から歓喜の声が漏れた。ソアイミアスは、巧みなマッサージをしてくれているのだ。それは筋肉の凝りを解してくれると同時に、官能を体から引き出してくれる。
 肩が、背が、腰が解されていった。腕や太ももも溶けていくようだ。柴崎は、口から声が漏れることを抑えられない。辛うじてよだれが漏れることを抑える。
 柴崎は、いつの間にか仰向けにされていた。胸や腹が愛撫されている。柴崎は、官能の陶酔の中で眠気を感じていた。サキュバスのマッサージは、男の緊張をほぐして睡魔をもたらしている。男は、夢うつつのまま愛撫されていた。オイルの甘い香りが睡魔と共に彼を包んでいる。
「ごめんなさいね、このまま眠らせるわけにはいかないの。私と一緒に遊んで欲しいからね」
 ソアイミアスの声で柴崎は目を開けた。紫水晶のような瞳がのぞき込んでいる。
「さあ、向こうで楽しみましょう。快楽を教えてあげるわ」
 甘いささやきを耳元で受けると、男は立ち上がった。サキュバスに手を引かれながら歩き出す。逆らおうという意思は起こらない。穂波もサキュバスと共に歩き出していた。

 ビーチパラソルのある場所から少し離れた所に柵があった。その柵には扉があり、ソアイミアスはそこを開ける。柵の向こう側には、海水浴場と同様に海と砂浜が広がっていた。人々もそこにいる。ただ、海水浴場と大きく違う所がある。
 砂浜の上では、人々がセックスに励んでいた。水着のままで、あるいは水着を脱ぎ捨てて快楽に溺れている。波打ち際で交わっている人々もいる。海の中で抱き合っている人々もいるが、彼らもセックスをしているらしい。
 よく見ると、女たちは人間では無かった。翼が生えていたり、鱗で肌が覆われている。犬のような尻尾が付いている女、下半身が魚のような体の女たちがいる。彼女たちは魔物娘だ。魔物娘たちが人間の男とセックスを楽しんでいるのだ。
「驚いたかしら?この柵の向こう側は私有地なのよ。こうして海でセックスを楽しむための場所なの」
 柴崎は驚きを抑えられなかった。魔物娘たちは、野外で乱交するという情報は得ていた。この海岸にもあるらしいということも知っていた。ただ、魔物娘の情報は真偽が不確かなものが多い。それで、柴崎は半信半疑だったのだ。今、その情報が確かであることを目の当たりにしているのだ。
「驚いたよ。こんな素敵な所があるとは思わなかった。みんな楽しそうだね」
「そうよ、みんな楽しんでいるわ」
 ソアイミアスは体を押し付けてくる。
「私たちも楽しみましょう」
 ソアイミアスたちは、性の快楽に溺れる人々の中に入っていった。持っていたシートを砂浜に敷く。ソアイミアスは柴崎をシートに寝かせた。彼に圧し掛かると口を重ねてくる。舌が口の中にもぐり込んでくる。舌の交わりの後、ゆっくりと口が離れた。唾液の橋が架かる。
「あなたは女に慣れているみたいね。でも、私は他の女とは違うわよ」
 ソアイミアスは、柴崎の胸に舌を這わせた。そうしながら豊かな胸を腹に押し付け、腰を愛撫する。柴崎のペニスはすぐさま硬く大きくなる。サキュバスは、そのペニスを腹にすり付けて愛撫する。
 横を見ると、穂波もサキュバスと抱き合っていた。抱きしめ合いながら口を貪り合っている。
 ソアイミアスは、舌を腹に這わせながら体を下へと動かしていった。腹を舌で愛撫して、ペニスを胸で愛撫する。鮮烈な官能の刺激が柴崎の下半身を支配する。サキュバスは、サーブパンツ越しにペニスに頬ずりをした。快楽と興奮に震える柴崎を、官能的な美貌で上目遣いに見る。
 サキュバスは、サーフパンツを口にくわえるとしたに引き下ろした。ペニスが弾けるように飛び出す。彼女は、そのペニスに目を輝かせると頬ずりをした。そして軽くキスをすると、ねっとりと舌を這わせる。
 柴崎は悶え始めた。今まで経験したことが無いほど巧みなフェラチオだ。ナンパした女の中でフェラチオをしてくれた女は1人いるが、それとはくらべものにならない。柴崎は、風俗でプロのフェラチオを経験している。そのプロでさえ裸足で逃げるような巧みな技術だ。柴崎は余裕を保とうと努力するが、それは失敗していた。童貞のように落ち着きがなくなってしまう。
 柴崎は長く持たなかった。出すぞと、辛うじてうめく。サキュバスは吸い上げることで応える。たちまち人間男のペニスは弾けた。精液をぶちまけてしまう。サキュバスは、口で巧みに受け止めると貪欲に吸い上げる。吸い上げながら唇と手でペニスを愛撫する。射精が終わっても執拗に吸い上げた。尿道の中の物がすべて吸い上げられてしまう。
 柴崎は、自分の精液を吸い上げたサキュバスを見つめた。彼女は、唇を舐めながら上目づかいに見上げている。柴崎は荒い息を抑えられない。目の前の女は間違いなく淫魔だ。男は背を震わせながら確信する。
「気持ち良かったみたいね。もっと色々なことをしてあげる」
 ソアイミアスは胸をペニスに押し付けた。ビキニをずらしてペニスをはさみ込んでしまう。柔らかい双丘が赤黒いペニスを愛撫し始める。ペニスはたちまち回復していく。サキュバスは胸に顔を寄せると、胸の谷間から顔を出している亀頭を舌で愛撫し始めた。あふれ出す先走り汁を舐め取っていく。
 柴崎は2度目も長くはもたなかった。乳首で刺激されながら亀頭の先を吸い上げられると、あっさりと精液をぶちまけてしまった。男は、背を震わせながら射精し続ける。胸と口が攻め立てて来て、強引なほど精を搾り取ってくる。男は、精が噴出するのを抑えることが出来ない。
 気が付くと、目の前にソアイミアスの顔があった。柴崎は、意識を宙に飛ばしてしまったことに気が付く。サキュバスは微笑む。
「こんなに気持ち良さそうな顔をしてくれると、私も嬉しいわ。ねえ、今度はこちらでしましょう」
 ソアイミアスは、股に手を下ろすとビキニの端を引っ張った。ピンク色のヴァギナがぬめり光っている。それは息づいているようにうごめいている。柴崎は唾を飲みこむと、自分を取り戻そうとした。
「その前に、今度は俺が気持ち良くしてやるよ」
 柴崎はソアイミアスの股に顔を埋めた。紫がかった銀色の陰毛とピンク色のヴァギナが誘っている。汗とチーズの混ざったような匂いがする。それは、今までに嗅いだどのヴァギナよりも興奮させる匂いだ。柴崎は抑えられずに舌を這わせた。
 柴崎の口の中に柔らかい肉と陰毛の感触が広がった。舐めることを止めることが出来ない。それほど舐めたくなる肉襞だった。こんなにヴァギナを舐めたくなったことは無い。初めさらさらしていた女の蜜は、次第にねっとりとしたものになる。それは男をさらに興奮させた。サキュバスは、自分のものを舐める男を紅潮した顔で見下ろしている。
 サキュバスは男の頭を撫でた。
「ねえ、もうそろそろあなたのものを入れてくれないかしら?私のここで食べてみたいのよ」
 柴崎は、ヴァギナから口を離すことが名残惜しかった。だが、この魅惑の穴にはち切れそうなペニスを押し込みたいという欲望が勝った。柴崎は腰を上げると、先走り汁を垂らすペニスを濡れた肉襞に押し当てた。抑えきれずに中へと沈めていく。
 柴崎のペニスは危うく暴発しそうになった。サキュバスの中は想像以上の悦楽の世界だった。名器という言葉では言い表せない。柴崎は唇を噛みしめた。辛うじて暴発を止めることが出来る。
「どうしたの?腰を動かさないの?」
 サキュバスは笑みを含んだ声でささやく。柴崎は腰を動かそうとした。だが、その瞬間にペニスが弾けそうになる。サキュバスは柴崎の頬を撫でると、ゆっくりと腰を動かし始めた。
 柴崎の口からうめき声がもれた。今までに味わったことのない快楽だ。人間の女のヴァギナとは比べものにならない。腰の動かし方も熟練の風俗嬢顔負けだ。今までのセックスが空しくなりそうなセックスだ。柴崎の唇から血が流れる。噛みしめていないとすぐにぶちまけそうだ。
 サキュバスの唇が男の唇をふさいだ。彼女の舌が男の傷口を舐める。
「こんなに噛みしめたらダメよ。傷になってしまうじゃない」
 柴崎はサキュバスの口を吸った。2人の舌が絡み合う。その間もサキュバスは巧みに腰をゆする。柴崎は、必死になって腰の動きを合わせる。腰から全身に快楽が走った。がまん出来そうにない。
「わ、悪い。もう出そうだ。抜くからな」
 だが、サキュバスは足を男の腰に巻き付けた。逃げることは出来ない。
「中に出しなさい。私の子宮で飲んであげるから」
 言葉と息が柴崎の耳を犯した。その瞬間に柴崎のペニスは弾けた。精液を中へとぶちまける。サキュバスは、腰をゆすりながら射精を煽る。男は、精液を止めることが出来ない。サキュバスの子宮は子種汁を貪っていく。
 柴崎は目の前が見えなかった。想像したことの無い快楽で頭が焼き切れたようだ。こんな快楽は、今までのセックスでは味わえなかった。強すぎる快楽は脳を犯す。そのことを柴崎は体で分かったのだ。
 やっと意識が戻った時、柴崎は頬に柔らかさを感じていた。ソアイミアスが頬ずりをしていたのだ。彼女は耳元でささやく。
「これで終わりじゃないでしょ?私はまだ満足してないわ。さあ、楽しみましょう」

 柴崎は、繰り返しソアイミアスと交わり彼女と体を貪りあった。柴崎は、ナンパを始めてから随分と経つが、これほど素晴らし体験をしたことは無かった。人間ではめったにお目にかかれない美女とセックスを堪能したのだ。その美女は、たぐいまれな性技の持ち主なのだ。この時は、彼にとって人生で最も楽しい時であっただろう。
 柴崎は、ソアイミアスを抱き寄せながら寝そべった。快楽の余韻が残る体で横たわり、ソアイミアスの体の感触を楽しむ。彼女の温かさと匂いも楽しむ。これまで味わった最高の事後の時だ。
 ソアイミアスは柴崎を抱きしめた。彼女のしなやかな手が彼のペニスを愛撫する。柴崎は、初めはその愛撫を楽しんだ。だが、その手つきは事後の愛撫ではなく、精を搾り取る愛撫だ。柴崎は苦笑する。
「もう出ないよ。疲れてしまったよ。一緒に寝よう」
 だが、ソアイミアスは彼の口を口でふさいだ。口の中に甘い液体が流し込まれる。
「何を飲ませたのかな?」
「虜の果実のお酒よ。これを飲めば、また精を出せるようになるわ」
 そう言うと、ソアイミアスは柴崎の股間に顔を埋めた。ペニスを激しくしゃぶり出す。
「ま、まってくれ!もう、無理だよ。悪いけれど休ませてくれないかな?」
 だが、サキュバスはしゃぶり続けた。強引にペニスを勃起させてしまう。柴崎は彼女を振りほどこうとした。だが、しっかりと抑え込まれている。逃げることは出来ない。
 サキュバスは彼の上にまたがった。ペニスをヴァギナの中に飲み込む。そして踊るように腰を動かし始めた。柴崎に快楽が叩き付けられる。その快楽は、柴崎の精を根こそぎ搾り取ろうとする快楽だ。男はかすれた声を上げる。
「サキュバスを相手にして、いえ、魔物娘を相手にしてこれで済むとは思わないでね。限界まで搾り取ってあげる。極限の快楽を味合わせてあげるわ」
 柴崎はもがくが、サキュバスに咥え込まれたままだ。サキュバスのヴァギナは、蛭のようにペニスに吸い付いている。強引に快楽を与えてくる蛭だ。
 穂波の方を見ると、彼も悶えていた。サキュバスに騎乗位の格好で絞られている。穂波の顔は、苦痛とも歓喜ともつかないものでゆがんでいる。
「もうナンパをする必要は無いわよ。私が精を根こそぎ搾り取ってあげるからね」
 サキュバスは口の端を釣り上げて笑う。
「これから毎日ね」
 ナンパ男の悲鳴とサキュバスの哄笑が重なり合った。それは、海岸で快楽の宴に浸る人間男たちの喘ぎと魔物娘たちの歓喜の声の合唱に合わさった。

 こうして柴崎と穂波はサキュバスの手に墜ちた。柴崎は、ソアイミアスの自宅に連れ去られた。朝、昼、晩と問わずに精を絞られる日々を送ることとなったのだ。仕事があると彼が言っても、ソアイミアスは聞かない。柴崎の知らない内に、彼の退職の手続きが彼女によって進められていた。ソアイミアスは、これからの柴崎の面倒を見ると言っている。いずれ彼女の仕事を手伝わせるそうだ。
 ソアイミアスは、セックスの合間に魔物娘のことを教えてくれた。魔物娘がセックス好きな淫乱女だというのは本当だ。ただし、それは特定の相手に対してだけだ。1度相手を決めたら他の男は相手にしない。
 柴崎がナンパした50人以上の魔物娘のほとんどは、恋人や伴侶がいる魔物娘だったのだ。それが単なる偶然だったのか、それとも誰かのいたずらだったのかはソアイミアスには分からない。だが、結果として、柴崎はナンパした魔物娘に相手にされなかったのだ。そして、魔物娘の間で柴崎たちのことが知られるようになったのだ。ソアイミアスは、柴崎のことを知って逆ナンパしたわけだ。
「魔物娘はね、相手を束縛しないと気が済まないの。浮気をする気は無いし、相手の浮気を見逃すことも無いのよ」
 その言葉の通り、ソアイミアスは柴崎のすぐそばにいつもいた。暇さえあれば、いや、暇が無くとも彼とセックスに励んだ。
 この生活は、柴崎にとっては悪くないだろう。美貌と官能的な肢体を持った淫魔によって、快楽の生活を送ることが出来るのだ。男にとってナンパとは、良い女を手に入れることが目的だ。柴崎は目的を果たしたと言って良いだろう。
 だが、彼はこれでナンパを終わらせるつもりは無かった。もっと多くの女とセックスがしたいのだ。いや、正確に言うと、手段であるはずのナンパが目的になってしまっていたのだ。手段を目的にしたらバカである。だが、バカである柴崎にバカと言っても無駄である。彼は、ナンパをしようと執念を燃やした。
 そんな柴崎に対して、ソアイミアスは性技の限りを尽くして精を搾り取った。1日中搾り取った。陰嚢が空になろうとも搾り取ろうとした。こんなことをされたら、普通ならばナンパをしようとは考えないだろう。だが、柴崎はナンパをするために命の火を燃やした。

「立て!立つんだジョー!」
 柴崎は自分のペニスに向かって叫んでいた。彼は、ソアイミアスの家を脱出してナンパに行こうとしていた。だが、肝心のペニスが立とうとしない。それもそのはずである。柴崎は、今日既に20発搾り取られていた。彼は、サキュバスと交わることでインキュバスになっていたが、それでも20発も抜かれたら勃起しない。
「俺は、光るゲロを吐いても戦い続けるぞ!」
 柴崎は叫ぶ。だが、ペニスは大人しいままだ。柴崎の精神は鋼並みだが、彼の体は鋼ではない。
「そうよ、その調子よ。この程度で真っ白に燃え尽きて欲しくないわ」
 いつの間にか、柴崎の背後にソアイミアスがいた。彼女はナンパ男を抱きしめる。そしてペニスを優しくしごく。男は逃げることが出来ない。
「さあ、燃え尽きるまでセックスをしましょう」
 ナンパ男の苦痛とも快楽ともつかない叫びが響き渡った。

19/08/12 18:36更新 / 鬼畜軍曹

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33