連載小説
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(61)リャナンシー
その部屋の壁には本の詰まった本棚が並び、奥には一台の大きな机があった。机の上にはペンが数本とインク壷、そして紙束が乗っている。
紙束は文字の連なるものと白紙のもののに分かれており、二つの山の谷間に、半ばまで文字の書かれた紙があった。
そして、部屋の中央に置かれた大きないすの上に、二人の姿があった。
「はぁ・・・あっ・・・んん・・・!」
いすに深々と腰掛けた男の上で、少女が一人上下に体を揺すっていた。
ブラウスのボタンが開いて薄い胸が露わになり、腰から下にはスカートも下着もつけておらず、むき出しの尻が上下に動き、出入りする肉棒がくちゅくちゅと音を立てていた。
一見すると年の離れた兄と妹、下手すれば親子ほどの年の差に見える二人だったが、二人は立派に夫婦だった。小説家と、リャナンシーの夫婦だ。
「あぁ・・・ん・・・・・・!」
男の肩を手でつかみ、リャナンシーが軽くのけぞる。すると頭に乗せていたベレー帽が床へと転がり落ちていった。だが、彼女は帽子のことなど気にする様子もなく、ただ男の肉棒を自身の女陰で味わうばかりだった。
一方男の方は、その表情に悩ましげなものを浮かべており、リャナンシーと交わっているにも関わらず、その意識は別の方向へ向けられているようだった。
「うぅ・・・何でだよぅ・・・」
リャナンシーの尻をつかみながら、男がうめく。
「何で・・・二人が結ばれたっていうのに・・・・・・?」
「あぁ・・・!動かさ・・・んっ・・・!」
リャナンシーの尻をつかんだ手に力を込め、かわいらしい桃に指を埋めながら男が言葉を紡ぐ。
「敵同士で出会い、幾度も刃を交え、共通の敵と共闘して、片方のピンチになぜか駆けつけてしまい、互いに自身の本当の気持ちに気がついて、それを打ち明け合ったっていうのに・・・」
「はぁ、はぁ・・・」
「物足りない・・・!」
男はそう言うとリャナンシーの胸に顔を近づけ、桜色の慎ましやかな突起に口を寄せて強めに吸った。
「あぁぁ・・・!」
「ねえ、教えてくれよ・・・なにが足りないんだ・・・」
リャナンシーの乳首から口を離し、男は泣きそうな口調でそう彼女に教えを乞う。
しかし、女陰と尻、乳首からの刺激により、リャナンシーの瞳はとろんと虚空に向けられていた。
「何だ、なにが足りないんだ!」
男はそう声を荒げると、彼女の体を抱きすくめ、腰を揺すり始めた。
「んぃ・・・!?」
今まで自分で速度を調整できていたが、男の文字通り突き上げるような動きは、容赦なく彼女の膣壁を抉り、膣奥を突き破らんばかりであった。
逃れようにも彼女の腕と胴は男ががっちりと抱きしめており、身悶えすらままならない。膣口から子宮口を打ちすえ、脳天へと突き抜けていく衝撃に、リャナンシーは目を見開き、口からは涎とあえぎ声が溢れさせるほか何もできなかった。
「何だよ!『物足りない』って言うなら教えてくれよ!俺の感覚!」
リャナンシーの薄い胸に顔を当て、腰どころか前進を揺らしながら、男が叫ぶ。
「二人の初夜か!?塗れ場が足りないのか!?」
机の上の物語に対する男自身の感覚と理性が、彼の内側でせめぎ合っている。
「そりゃ命のやり取りをした仲なんだから、夜も激しいさ!タイムリミットは夜明けまでの回数無制限勝負だよ!でも実はベッドの上ではしおらしい?その辺は読者の自由に委ねようよ!というか、初夜はもう蛇足なんだよ!」
「んぁ!ふか、あぁ・・・!」
リャナンシーの体を抱きしめる上半身さえも動き、上下する肉棒と揺れる全身に彼女の意識がぐらぐらと揺れる。
彼女の意識の内側では、幾度も小さな火花がはじけ、その度に彼女の司会が白く染まった。
「もうあの話は、丘の上の木で二人が会うシーンで終わりなんだ!その夜のことも、その後の生活も、あとは全部読んだ人の心の中にあるんだよ!余計なものはいらないんだ!だって言うのに・・・何が、足りない!」
リャナンシーをきつく抱きしめながら、男は一際深く彼女の奥を突いた。
体格差のためただでさえきつめの膣が、男の動作と刺激により、きゅっと引き締まる。
その刺激に、肉体の快感だけで膨らみつつあった男の興奮がはじけ、腹の奥から煮えた欲望がほとばしっていった。
「っ!!」
「あぁぁぁ・・・!」
男が声なく呻き、リャナンシーがか細くあえぎ声を紡ぐ。
そして、二人は共に我を失った。
自身と他の境界が曖昧になり、全身が快感によってどろどろに溶けていく。
男の射精が収まり、彼の全身から力が抜ける。
リャナンシーをとらえていた両腕がほどけてだらりと垂れ下がり、彼女と共に背もたれに体重を預けた。
そしてそのまま、二人は荒く呼吸を重ね、絶頂の余韻に浸った。
「・・・・・・・・・・・・あぁ、そうか・・・・・・・・・」
どこか、穏やかな口調で、男が口を開く。
「一文、足せばいいんだ・・・」



リャナンシーが目を覚まして最初に感じたのは、妙な温かさだった。
「ん・・・」
「あ、ごめん。起こしちゃったね」
目を開くと、彼女の前にかがんでいた男が、そう謝るのが聞こえた。
「・・・・・・」
リャナンシーはしばし、ぼうっとしていたが、自分が書斎のいすに腰掛けていることと、男が湯で濡らしたタオルで自分の体を拭いてくれていることに気がついた。
「あっ、体・・・」
「君が寝てる間にきれいにしようと思ってね・・・」
股間から内腿、二人分の体液で塗れた場所を優しく拭いながら、男は言う。
「どこか、べたべたするところは?」
「・・・特に、ありません」
「それはよかった」
男はにっこり微笑むと、タオルを手にして立ち上がった。
「はい、下着とスカート」
「ありがとうございます」
リャナンシーは適当に脱ぎ捨てたはずなのに、きれいに畳まれたスカートや下着を受け取ると、それに足を通し、身だしなみを整えていった。
「それとね、ついさっき完成したんだ」
男は机に歩み寄ると、文字の連なる紙束を手に取り、リャナンシーに向けて差し出した。
「前半・・・というより、最後のあたりまでは今まで読ませたのと同じだけど、やっとラストシーンが書きあがったんだ。読んでくれないかな」
「よ、喜んで!」
リャナンシーは両手で男の差し出した紙束を受け取ると、喜々としながら文字に目を走らせ始めた。
それは男がここ最近ずっと書いていた、男と女の騎士の物語だった。
敵国軍の騎士として戦場で出会い、幾度も刃を交えつつ、敵意が別の感情へと変わっていくまでが描かれている。
二人が出会うのは戦場だけ。二人が言葉を交わせるのは乱戦の果てにどこかへ迷い込んだときか、あたりに二人以外生きている者がいないときだった。
二人は敵同士だというのに互いを意識し始め、調停と称して漁夫の利を狙った第三国の乱入の際には共に戦った。
いつしか二人は、戦場で出会う度に相手の身を案じるようになったが、いつも相手が戦死する可能性があった。
次はないかもしれない、という不安が二人の胸で膨らみ、ついに二人は戦場から逃亡することにしたのだ。
無論、敵前逃亡で二人とも母国からは指名手配され、追っ手が放たれた。
そして、追っ手を撒くために二人は別れて逃亡することにし、ある場所で落ち合うことを約束した。そして、男は追っ手の大部分を引き受けて、女と別れていった。
女は追っ手を振りきり、遠回りをして約束の場所、木の生えた丘へ向かった。
そこは二人が初めて出会った戦場で、今は平和な第三国の領土となっている場所だった。
女が丘を登ると、木の下で男が女を待っていた。
女は男の姿に足を止め、駆け出し、彼の胸の中に飛び込んでいった。
一方ゴロウは呪われましたとさ。
「・・・・・・・・・・・・・・・ん?」
綴られた文章を涙ににじむ目で追い、紙をめくってはぐすと鼻を鳴らしていたリャナンシーが、最後の一文でうめき声を漏らした。
「どうだった?」
書き損じの紙をまとめながら、男が穏やかな声で尋ねた。
「ええと・・・すごく、いいおはなしでした・・・」
リャナンシーは、戸惑いを引っ込めると、男に向けて一生懸命に感想を述べた。
二人の戦いのシーンの動と、戦の終盤どこともしれぬ場所に迷い込んだ二人が言葉を交わすシーンの静が、見事に描かれているだとか。
互いに会いての動きを注視し、戦の合間もいかにして相手を倒すかばかり考えていたのが、次第に考える内容に別な物が混じっていく様子がよかったとか。
物語の最初から、彼女は評価していった。
「そして、最後・・・二人が初めて抱き合ったシーンで、また泣きそうになりました」
「そうか、満足してくれてよかった」
感想を口にしているだけだというのに、再び涙を目元に浮かべ始めたリャナンシーに、男は満足そうに頷いた。
「君の反応が、僕の最高の原稿料だ。さあ、そいつを編集の奴に渡したら、次の話を書こう」
「あの・・・できれば、最後に一つ質問が・・・」
「ん?何だい?」
リャナンシーがおずおずと手を挙げたところに、男は聞き返した。
「その・・・この最後の一文は・・・?」
「ああ、それは二人の幸せを際だたせるための隠し味みたいなものだよ。平和な土地で再会できた二人は十分幸せだけど、二人の母国は未だ戦争を続けているし、二人をとらえきれなかった追っ手は処罰されている。そういった二人の幸せの裏の不幸を滲ませるエッセンスとして、その一文を入れたんだ。ゴロウの奴なら呪われて当然だしね」
「はぁ・・・」
どこか釈然としない様子で、彼女は生返事をした。
「さ、原稿を」
「あ、はい」
リャナンシーが男の手に紙束を渡すと、彼は大きな封筒にそれを入れ、封をした。
「さて、ちょっと出かけてくるからね」
男は封筒を手に、書斎を出ていった。
そして後には、リャナンシーだけが取り残された。
「・・・・・・ゴロウって・・・誰?」
彼女は書斎のドアをしばし見つめてから、そう漏らした。
答える者はいない。
12/10/24 22:05更新 / 十二屋月蝕
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■作者メッセージ
「よいですか十二屋月蝕、投稿所で500票獲得すれば、図鑑世界へのゲートが開くのですよ」
はいリャナンシー様!十二屋月蝕500票獲得しました!しかし開きません!
「よいですか十二屋月蝕、500票は600票の間違いでした。投稿所で700票獲得すれば、図鑑世界へのゲートが開くのですよ」
はいリャナンシー様!なんか微妙に票数が増えましたが、十二屋月蝕は気にせず700票獲得しました!しかしゲートは開きません。
「ということは、ゲートが開くには850票以上必要なのでしょうねえ。だからがんばって、1000票集めるのですよ」
はいリャナンシー様!十二屋月蝕もう900票に届きましたが、もう気にしません!
「その調子ですよ。ゲートの開閉など気にせず、1500票目指して執筆を続けるのですよ。そうすれば目標の2000票などすぐに到達し、3000票獲得のご褒美としてゲートが開くのです」
はいリャナンシー様!十二屋月蝕票数のことなどより、執筆する方がだんだん楽しくなって参りました!
「それはすばらしい。挫折の証完成の際には、100万票集めずとも開きますよ」
ゲートがですか?
「私の股です」

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