連載小説
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1件目 『どうぞ、お見知り置きを』
「ま、魔物だー! 魔物が入ってきたぞーー!!」

街全体に響き渡る警鐘。
突然の出来事に慌てふためく者、何をすれば良いのかわからず呆然と立ち尽くす者、物影に隠れガタガタと震える者。
そして、

「皆さん! 落ち着いてください!」
「落ち着いて、私達の指示に従ってください!」
「女性とお子様、ご年配の方はこちらへ! 中央区へ誘導します! 男性の方はバリケードの設置にご協力ください!」

民間警察、通称『民警』の若者達。
彼らは迅速に混乱を鎮めると、的確な指示のもと住民を安全な区画へと避難させていく。

「もう…今月で何回目?」
「たぶん4回目」
「最近急に増えたよねぇ。それで、魔物の情報は?」
「いや、まだ詳しくは……と、ちょうど来たみたいだ」

バリケードの向こうから1人の民警団員が走ってくる。

「はぁ…はぁ……つ、通達! ワーウルフの群れが西区正門の守りを突破して侵入! 詳しい規模は不明だけど、たぶん5体から6体!」
「多いな…計画的な襲撃か?」
「男にしか興味のないワーウルフにそんな知能があるとは思えないけどねぇ……他の区画の状況は?」
「えっと、中央区は即閉鎖。東・南区はバリケードの設置が既に完了してるって。侵入された西区の被害は軽微。バリケードでワーウルフを中央区と西区の間に閉じ込めてる…って感じかな」
「なるほど。あとはやっつけるだけってことね」

伝達係から現状を聞き出す団員達。
しかし、誰1人西区に討伐へ向かおうとする者はいない。
なぜなら……

「もう『リーダー』が終わらせてるかな?」
「いや〜いくらなんでも早過ぎでしょ。今向かってるところじゃないかな」
「麻酔銃で眠らせる前にボッコボコにしちゃいそうね」
「はは、言えてる。魔物がちょっと可哀そうに思えてくるよ」












西区住宅街、中央区前バリケード付近。

「ガルルルウウウゥゥ!!」
「うわ!?」
「ばか! バリケードから離れなさい!」
「で、でも押さえてないと! こいつら強引に突き破ってくるぞ!」
「っ……麻酔銃の準備はまだ!?」
「すまん! もう少しかかる!」

そうこうしている間にもワーウルフ達はバリケードに猛攻を加え、今にも破壊されてしまいそうになっている。

「急ごしらえのもんじゃ、やっぱり長くは持たないか……くそ!」
「ちょ、ちょっと! どこ行くのよ!?」
「あいつらの注意を引く! このままじゃバリケード壊されて中央区まで突破される!」
「だ、だからってあんたが飛び込むことないでしょ!? 一瞬であいつらに犯されるのがオチよ!」
「それでもやるしかない! 僕達は民警なんだぞ!」
「っ……」

青年はそう叫ぶと、バリケードをよじ登り封鎖区画へと身を投じる。

「ぼ、僕が相手になってやる!」
「「ガルルウウウ!!!」」
「うぅ……(1、2…3体か……一体どれくらい時間を稼げるか)」



ワーウルフAが現れた!
ワーウルフBが現れた!
ワーウルフCが現れた!



・・・・・・・・・・・・

民警Aは身を守っている

ワーウルフBの攻撃!
民警Aは11のダメージ!(HP89)

ワーウルフCの攻撃!
民警Aは12のダメージ!(HP87)

ワーウルフAの攻撃!
民警Aは11のダメージ!(HP76)

・・・・・・・・・・・・

民警Aは身を守っている

ワーウルフAの攻撃!
民警Aは13のダメージ!(HP63)

ワーウルフCの攻撃!
民警Aは12のダメージ!(HP51)

ワーウルフBの攻撃!
民警Aは11のダメージ!(HP40)

・・・・・・・・・・・・

民警Aは身を守っている

ワーウルフBの攻撃!
民警Aは10のダメージ!(HP30)

ワーウルフCの攻撃!
民警Aは12のダメージ!(HP18)

ワーウルフAの攻撃!
民警Aは12のダメージ!(HP6)

民警Bが参戦した!
民警Bはケアルを唱えた!
民警Aのキズが回復した!(HP100)

「ど、どうして……」
「あ、危なっかしくて見てらんない! 守ってるだけじゃ勝てないわよ!」
「……ありがとう。心強いよ!」

・・・・・・・・・・・・

ワーウルフBの攻撃!
民警Aは19のダメージ!(HP81)

ワーウルフCの攻撃!
民警Aは18のダメージ!(HP63)

ワーウルフAの攻撃!
民警Bは21のダメージ!(HP59)

民警Bはケアルを唱えた!
民警Aのキズが回復した!(HP100)

民警Aは警棒で殴りかかった!
ワーウルフAは22のダメージ!

・・・・・・・・・・・・

ワーウルフBは遠吠えをあげている

ワーウルフAの攻撃!
民警Bは21のダメージ!(HP38)

ワーウルフCの攻撃!
民警Bは19のダメージ!(HP19)

民警Bはケアルを唱えた!
民警Bのキズが回復した!(HP80)

民警Aは警棒で殴りかかった!
ワーウルフBは25のダメージ!

・・・・・・・・・・・・

ワーウルフBの攻撃!
民警Aは20のダメージ!(HP80)

ワーウルフCの攻撃!
民警Bは24のダメージ!(HP56)

ワーウルフAの攻撃!
民警Aは21のダメージ!(HP59)

民警Aは警棒で殴りかかった!
ワーウルフAは24のダメージ!

民警Bはケアルを唱えた!
民警Aのキズが回復した!(HP100)

「はぁ…はぁ……」
「だ、大丈夫?」
「大丈夫、だけど…魔法、もう限界みたい……」

・・・・・・・・・・・・

民警Aは仲間をかばっている

ワーウルフCの攻撃!
民警Aは民警Bをかばった!
民警Aは18のダメージ!(HP82)

ワーウルフAの攻撃!
民警Aは民警Bをかばった!
民警Aは20のダメージ!(HP62)

ワーウルフBの攻撃!
民警Aは民警Bをかばった!
民警Aは20のダメージ!(HP42)

民警Bは息切れしている

「ね、ねぇ…聞こえない?」
「うん。やっと来てくれた」

中央区方面から大声を上げながら凄い勢いで走ってくる赤髪の青年。
彼の登場に、心の底から安堵する民警の2人。
赤髪の青年は軽々とバリケードを飛び越えると、

「2人とも良く耐えたな! 後は俺がやる!」
「た、助かったよ」
「『ベル』、怪我すんじゃないわよ」
「おう! 任せろ!」

民警Aは撤退した
民警Bは撤退した
ベルメリオが参戦した!

・・・・・・・・・・・・
(イメージ戦闘曲→https://www.youtube.com/watch?v=8KXo9QqiGFs)

「ガルルルウウゥゥ!」
「街のみんなに怪我させたな!? ぶっ飛ばしてやる!」

ベルメリオはバルカンパンチを繰り出した!
火の粉を散らしながら高速のパンチを繰り出し相手を殴り飛ばす!
ワーウルフBは99のダメージ!
ワーウルフBは気絶した

ワーウルフBは気絶している

ワーウルフAの攻撃!
ベルメリオは14のダメージ!(HP286)

ワーウルフCの攻撃!
ベルメリオは15のダメージ!(HP271)

・・・・・・・・・・・・

ベルメリオのジャイアントスイング!
ワーウルフBを振り回し投げ飛ばす!
ワーウルフBは83のダメージ!
ワーウルフBを倒した!
ワーウルフAは41のダメージ!

ワーウルフCは遠吠えをあげている

ワーウルフAの攻撃!
ベルメリオは14のダメージ!(HP257)

・・・・・・・・・・・・

ベルメリオのガトリングアタック!
捻りこむように肘を打ち、さらに振り向きざまの裏拳、最後に強力なアッパーを繰り出す!
ワーウルフCは120のダメージ!
ワーウルフCは気絶した

ワーウルフAは逃げ出した!
しかし民警団員達に囲まれた!

ワーウルフCは気絶している

「麻酔銃の準備完了!」
「リーダー! 援護します!」
「よし! 一気にケリつけんぞ!」
「「了解!」」

民警Cが参戦した!
民警Dが参戦した!

・・・・・・・・・・・・

ベルメリオはSABを繰り出した!
ワーウルフAを垂直に放り投げ両腕で受け止め、そのまま地面に叩き付ける!
ワーウルフAは118のダメージ!
ワーウルフAを倒した!

ワーウルフCは目を覚ました
ワーウルフCの攻撃!
ベルメリオは17のダメージ!(HP240)

民警Cは麻酔弾を発射!
ワーウルフCに命中!
ワーウルフCは眠った

ワーウルフDが現れた!
ワーウルフEが現れた!
ワーウルフFが現れた!

「ま、まだこんなに!?」
「心配すんな! たぶんこれで最後だ!」

民警Dは麻酔弾を発射!
ワーウルフEに命中!
ワーウルフEは眠った

・・・・・・・・・・・・

ベルメリオは挑発した!
敵の意識がベルメリオに集中した

ワーウルフDの攻撃!
ベルメリオは17のダメージ!(HP223)

ワーウルフFの攻撃!
ベルメリオは16のダメージ!(HP207)

民警Cは麻酔弾を発射!
ワーウルフDに命中!
ワーウルフDは眠った

民警Dは麻酔弾を発射!
ワーウルフFに命中!
ワーウルフFは眠った



ワーウルフの群れを鎮圧した!












魔物鎮圧後、中央区にて。

「いや〜、なんとかなったなぁ」
「日頃から訓練してるし! 当然よね!」
「オレなんて2匹も眠らせてやったんだぜ!」
「それ、半分はリーダーのおかげ?」
「うっ……」
「バリケードの設置も早かったでござるな!」
「実は、街の人達が大勢手伝ってくれたの」
「信頼の賜物やな! 頑張ってる甲斐があるってもんや!」

民警団員達が寄り集まり、互いの健闘を称え合っている。
今回も団員同士の連携はバッチリ。街への被害も最小限に抑えることができた。

「あ、リーダー!」

そこへ先程の赤髪の青年がやってくる。
すると、

「「「「「………」」」」」

団員や住民達は皆会話を止め、その視線はリーダーと呼ばれる青年へと注がれる。
恐怖や萎縮とは違う、好意と信頼、尊敬のこもった視線だ。

「皆! お疲れ様!!」
「「「「「お疲れーーー!!!」」」」」
「皆のおかげで、今回も1人の犠牲者も出さずに魔物を撃退できた! 協力してくれた街の皆も、本当にありがとう! え、えーと…と、とにかくみーんなありがとう!!!」

一瞬間が空くと、笑い混じりの拍手が沸き起こった。
どうやら彼の演説スキルはあまり高くないらしい。
しかしそれも、彼が愛される理由の1つなのかもしれない。

「あーそんなわけで、引き続き警戒にあたる! 夜間組は1度俺のところに来てくれ! 時間帯の確認したいから!」
「えー? リーダー把握してないのー?」
「ごめん! 忘れちゃった!」
「「「笑」」」

完璧な人間なんてこの世にはいない。
リーダーに欠けているところを、個性溢れる団員達が補っていく。
いい加減に見えるかもしれないが、この『民間警察』という組織は、そうやって成り立っている。












中央区、領主邸。

「父上、彼ら(民警)に労いの言葉を……」
「必要ない」
「しかし……!」
「しかし…なんだ? 『エリザベス』」
「……いえ、何でもありません」
「そうか、では仕事に戻る。下がりなさい」
「……はい」

女性は執務室から出るとお辞儀をし、静かに扉を閉める。

「っ……」

悔しさと悲しさが混ざり合ったような、そんな複雑な感情が彼女を苦しめる。
自分は一体どうすれば良いのか…そう考えれば考えるほど泥沼にはまっていく。

「………」

しばらくすると、彼女は長く美しい銀髪をなびかせ、足早にその場を後にした。












東区のとある一角。
住宅地から少し離れたこの場所は、日が沈むと人々の喧騒が嘘のように静まりかえる。

「3日家を空けちゃったかぁ…あいつらには悪いことしたな」

そんな静かな夜道を快活そうな青年がスタスタと歩いていく。
その燃えるような真っ赤な髪は、まるで周囲を照らすかのように明るい。

「ごはんは大量に用意しておいたし大丈夫だと思うけど、『タマ』はともかく、『コロ』は良く食べるからなぁ……」

彼は両親が発足した民間警察に、物心がつく以前から所属していた。
しかし彼の人柄を考えると、そんな経歴などなくとも遅かれ早かれリーダーになっていただろう。
成るべくして成った、という言葉が正しいかもしれない。

「着いた着いた。ただいぼふっ!?」
「ご主人! やっと帰った! 腹減った! ごはん! そしたら遊ぶ!」
「ご、ごめんごめん! やっぱり足りなかったか…すぐ作るから待っててな」
「わふ!」
「あと扉が開いた瞬間に抱きつくの禁止! 知らない人だったら迷惑だぞ?」
「わふ♡」

青年がヘルハウンドに襲われているように見えるが、当たらずしも遠からず。
彼女の名前はコロ。見た目は黒毛黒肌爆裂ボディのヘルハウンドだが、元々は愛玩動物である犬。
なぜ魔物化したのかは不明だが、主人である青年への愛は全く変わっていない。
そう、ただ犬が少しだけ『エロくなっただけ』なのだ。

「んー冷蔵庫になんか入ってたかなーっと……あ、そういえばタマは?」
「寝てる!」
「じゃそのままでいっか」

ちなみにここで言うタマも以下同文。

「ご主人! なに作ってる!? うまいものか!?」
「うん、たぶん美味しいよ」
「アオオオオオーーーン♡」
「ちょ! 後ろから抱きつかないで! 腰振るのもやめて!」

……彼の家はいつも騒がしい。












「よぅーし! 我ながら良い出来だ!」
「ご主人! ごはんか!? タマ呼んでくる!」
「あー無理に起こさなくても…って行っちゃったか」

わんわんわん!
………。
わんわんわん!
………。
わんわんわん!
………。

「お、きたきた」
「ご主人! タマ呼んできた! 起きないからたくさん吠えた! 偉いか!?」
「うん、偉い偉い」
「クゥ〜ン♡」

青年がコロをよしよししていると、階段横の扉から1人の小柄な少女が眠い目を擦りながら歩いてきた。

「もっと! もっとナデナデ!」
「ぇえ!? いつまでやればいいの!?」
「……ご主人、帰ってたんだ」
「あ、あぁ。ただいま。ごめんな、3日も家空けちゃって」
「平気。ごはん置いてってくれたし」
「そっか。寂しくなかったか?」
「……別に」

タマというの名の少女も、コロと同様魔物化した猫。
しかしネコマタとなった今も、基本的には何も変わってはいない。
食べたいときに食べ、眠りたいときに眠り、甘えたいときに甘える。
そして、いつも変わらず気まぐれである。

「タマきた! ごはん!」
「そうだな。食べるか!」
「ねぇご主人」
「うん?」

さぁ食べよう!というところでタマから一言。

「『お客』は呼ばないの?」
「……はい?」

………。

「お客?」
「そ。ご主人の部屋(2階)で寝てる。今朝訪ねてきた」
「民警の人?」
「違う」
「じゃぁ、エリザベス?」
「違う。見た事ない『狸』」
「え」
「ご主人と間違えて抱きついた! でもイイ匂いした! だからイイ奴!」
「番犬の意味!」
「わふん♡」

渋々2階へと上がる青年であった。












自宅2階、自室前。

「自分の部屋に知らない狸…ちょっと怖いなぁ……」

頼みのコロはごはんに夢中。
タマはもちろん知らんぷり。
……愛のある放置なんだこれは。うん、きっとそうに違いない。

「ふぅ」

深呼吸して気持ちを落ち着かせる。

(南無三!)

ガチャッ……

「………」

……いる。
見慣れた自分のベッドが明らかにモッコリしている。
完全に何かが潜り込んでいる。
………。
いや、考えても仕方がない。
タマの言う『お客』とやらの顔を拝ませてもらおうじゃないか。

ソロリ…ソロリ……

足音を殺しゆっくりとベッドに近づく。
幸い人の良し悪しをニオイで嗅ぎ分けるコロが『イイ奴』と評価しているあたり、少しは安心できるというものだが…はてさて、実際のところどうなのだろうか。

(起きないでくれよ〜)

掛け布団に手をかけ、ゆ〜っくりと引き剥がしていく。
すると……











「お、おおう……」

尻を突き出すような体勢で無防備に眠る狸の姿が。
なぜか罪悪感がわきゆっくりと目を逸らす。

「zz…zz……」

にしてもこれは……刺激的だ。
コロ(ほぼ裸)のおかげで女体への免疫はだいぶ付いたと思っていたが、やはり知らない相手ともなると話は別。
男の性かな、否が応にもドキドキしてしまう。

「う〜ん、どうしたもんか」

下手に身体に触れることで、ご…ごうかん(強姦)罪? いや、ぼうこう(暴行)罪、だったかな?
とにかく、訴えられるのだけは勘弁してほしい。
というわけで、

ゴソゴソ…ゴソゴソ……

「これで…よし!」

シーツの四隅を中央に集め袋状にし、狸に触れることなく運び出すことに。
シーツでできた袋を肩越しに背中へと回すと、まるでサンタクロースにでもなったような気分になる。

「とりあえず1階に運ぼう。コロとタマがいないと不安だし」
「zz…zz……」

妙な絵面だなぁ…と思いつつ、狸を起こさないよう慎重に運んでいく。












そんなわけで、眠る狸をやんわりと起こし後、テーブルの対面に座らせ事情を聞くことに。
俺の左右には犬と猫が(やる気無さそうに)控えている。

「えーと…色々聞きたいことはあるけど、とりあえず名前を教えてもらえますか?」
「うちはー『トウカ』という者っすー。決して怪しい狸じゃないっすーノ」
「………」

開口一番から胡散臭いなぁ……。
常に眠たそうな表情をしているため、何を考えているのかイマイチわからない。

「トウカ…さんがこの家に侵入…じゃなくて、この家を訪ねてきた理由は?」
「うちー家出してきたんすよー」
「家出?」
「そっす。正確にはー勘当っすけどねー」
「か、かんどー?」

家出して感動?
んー?

「悪さして追い出されたってこと…ふにゃぁぁ〜〜……」
「あ、あぁなるほど。そゆことね」

タマが欠伸をしながらフォローしてくれる。

「それでー行くあてもないままーこの街に流れ着いたわけっすー」
「そ、それは大変でしたね。で、どうしてこの家に?」
「この家の隣にー空き家があるじゃないっすかー。最初はそこを隠れ家にするつもりだったんすけどー……」
「けど?」
「埃やクモの巣だらけでー入る気失せたっすー」
「まぁ、そりゃ空き家だし」
「ならいっそのことー、綺麗なお家の住人に養ってもらった方がー楽できるかなーと思ってー」
「………」

理由がしょーもない。

「そーゆー流れでー、家主さんに相談しようと扉を叩いたらーそこの番犬に飛びつかれたっすー。ヘルハウンドにマウントされた日にはー、さすがのうちも死を覚悟したっすー」
「わふん♡」
「うちのコロがご迷惑を…じゃなくて!」

テーブルをバンッと叩き一喝。

「空き家もこの家も、勝手に入ったら犯罪ですから! ただの家出だったら、しばらく滞在させてもいいかなと思いましたけど、動機があまりにも不純過ぎる!」
「と言うとー?」
「つまみ出す!」
「ちょ、ちょっと待つっすー!」

狸が慌てた様子で取り繕う。

「ちゃ、ちゃんと働くつもりっすよー。うちー細かい作業や調査が得意っすー。だからー『探偵事務所』を開きたいと思ってるっすー」
「探偵事務所?」

狸…トウカから意外な言葉が出てくる。

「そーゆーわけでー、家主さんの家のスペースをお借りできないかー相談するつもりだったんすよー……ダメ、っすか?」

トウカはモジモジと上目遣いでこちらの様子を窺ってくる。
取って付けた感が半端じゃない……が、この街に探偵を生業としている人はいなかったはず。
詳しい職務内容は良く知らないけど、もしかしたら需要があるかもしれない。ということで、

「この家のスペースを貸すという提案は却下です。こっちにも生活がありますから」
「すぅ……」
「だけど、本当に探偵事務所を開く気があるなら、俺がなんとかしてみせます」
「ほ、ほんとっすか!?」
「はい。不動産屋に知り合いが…と言うより、この街の住人全員と知り合いですから。たぶん隣の空き家、貸してくれると思いますよ」
「はわー…感謝の言葉もないっすー」
「困った時はお互い様!って、両親が言ってましたから」

耳にタコができるほど言い聞かされてきた。
俺の人格の半分を形成しているであろう重く、そして想いの詰まった言葉だ。

「そんなわけで、後のことは俺に任せてください。明日不動産屋に行って話をつけてきますから」
「ありがたいっすーノ あ、今夜はー……」
「そのまま俺の部屋を使ってくれていいですよ」
「でもー家主さんはどうするっすかー?」
「俺は居間のソファーで寝ますから。大丈夫ですよ」
「わふ! ご主人! オレ枕になる! だから一緒に寝る!」
「お、それ久しぶりだな。じゃぁお願いするよ」
「わふん♡」

そうなると空き家の掃除もしないといけないなぁ。
でもそこそこ大きな家だし、俺と彼女だけでは数日かけても終わらないかもしれない。
う〜ん……ダメ元で民警の団員達に声をかけてみよう…何人来てくれるかわからないけど。

「あのー、家主さん」
「あ、はい?」

明日の予定をおおまかに組み立てていると、

「名前ー教えてもらってもイイっすかー? 恩人を家主さんと呼び続けるのはーさすがに気が引けるっすー」
「あれ、名乗ってませんでしたっけ?」
「聞いてないっすよー」
「あーすいません」

コホンと咳払いをし姿勢を正す。

「俺、ベルメリオっていいます。こっちの犬…ヘルハウンドはコロ。こっちのネコマタはタマです」
「わふ!」「にゃー(棒」
「ベルさんにー、コロさん、タマさんっすねー。うちのことはー気安くトウカと呼んで欲しいっすー。あー敬語もむず痒いんでーできればフランクにお願いするっすー」
「わかった。よろしく、トウカ!」
「よろしくお願いするっすーノ」



今日、この街に1人住人が増えた。
形部狸で名前はトウカ。
出会い方もアレだったし、ちょっと癖のある感じはするけど、隣人同士仲良くしていけたらと思う。

さーて…明日も忙しくなるぞ!





〜探偵事務所・本日の業績〜

『開店準備中』
探し物から浮気調査までなんでもござれ
どなたでもお気軽にご相談ください

報酬は応相談


17/11/10 17:03更新 / HERO
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■作者メッセージ
お久しぶりのHEROです。
何年ぶりになるのかわからないくらい間が空いてしまいました。
おかげで練りに練った構想が爆発しました。

今作は『狸印の雑貨店』と『東方旅館 豆狸』の続編にあたるものとなっております(→旅館編は完結していない)。
が、前作を読まれていない方でも問題なくお読みいただける内容となっております(読んでいただけた方が更に楽しめます!)。

主人公であるベルメリオの語源は『ヴェルメリオ』という、ポルトガル語で『赤』を意味する言葉となっています。
熱く純粋な心の持ち主である彼を名前から表現してみようと少しだけ凝ってみました。
実は過去作の主人公2人も色を表した名前になっていましたが…お気づきになりましたでしょうか?

そんなわけで、今作ものんびり話を進めていきたいと思います。
青年と狸、今後どのような関係に発展するのでしょうか。
自分でも楽しみです。

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