読切小説
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あまずっぱいサハギン
 校舎の前を歩きながら、何気なく右を見る。放課後の閑散とした教室の中が見えた。
 白い髪をした可愛い女の子が机の上に座り、褐色の美脚を大きく開いている。さらにスカートをまくり上げ、純白のパンティを露出させた。その前に跪く男子がそこに顔を近づけ、布地越しにそこへ舌を這わせた。女の子は気持ち良さそうに目を細めながら、鞭を片手に男子に語りかけている。脚でその顔をがっちり押さえて、逃げたら許さないと言うかのように股間を舐めさせていた。ふいにその瞳がちらりと俺を見たので、慌てて左へ視線を逸らした。

 左側はグラウンドで、野球部員たちが汗を流している。しかしボールを打った軽快な音やかけ声に混じって、喘ぎ声が聞こえてきた。グラウンドの隅、道具置き場の辺りで、女教師と野球部員が激しく運動していた。野球とは全く無関係の運動を。赤い尻尾に炎を纏った女教師が四つん這いになり、ユニフォームのズボンを降ろしている。そこへ野球部員が股間の物を挿入し、むっちりしたお尻に腰を打ち付けていた。

 再び視線を逸らし、右を見る。今度は違う教室の中が目に入った。こっちは女子が机の角に股間部を押し付けている。カマキリのような鎌を両手に備えた魔物で、その顔はガスマスクで隠されて見えない。しかし体つきは制服の上からでも分かるスレンダーな腹部、それに対してちゃんと出ている胸、すらりとした白い脚など、モデルになれそうな体型だ。
 いわゆる角オナを続けていたガスマスク姿のカマキリ女は、教室に入ってきた男子を見てはっと振り向く。彼はカマキリの彼女に歩み寄り、丁寧にガスマスクを脱がした。色白のえらい美人がそこにいた。二人は目をつむり、ゆっくりと顔を近づけ……。

「うおっ……」

 唇が触れる瞬間、カマキリ女子が俺の方に片手をかざしてきた。俺は大慌てで心の中でコントローラー端子を繋ぎ替え、教室の前を足早に通り過ぎた。
 まったく、この学校に転入してきてから毎日こんな光景を見るはめになっている。見て見ぬ振りをするのが暗黙の了解になっているようだが、魔物の少ない地域から転校してきた俺には目の毒だ。寮で暮らせるということで、家族から離れたい俺、俺を遠ざけたい家族両方に都合がよかったわけだが、魔物だらけの学校に慣れるのは時間がかかりそうだ。

「いっそ俺も、彼女作れればなあ……」

 ぼやいてみたところで、ちょっと前まで家庭崩壊のただ中にいた俺に恋愛というのはハードルが高い。飛び越えようとしても顔面からぶち当たるくらい、高い。それでもようやく家から解放されたわけだから、自由に青春を謳歌してもいいような気がする。
 とりあえず寮に戻って、自転車でどこかへ出かけてみるか。学校内にいてはムラムラするものを見せつけられるだけだし。

 その後も一年生を集団逆レイプする狼女たちや、背中に彼氏を乗せ胸を揉まれているケンタウロス、作業着の男子といちゃついている幽霊の女の子などを見かけた。何とか平常心を保ちつつ足を前に運び、寮の自転車置き場に到着した。俺が家から持ち出した物で一番大事なのは自転車だと言っていい。今日も相棒に乗り、町へ漕ぎ出すとしよう。

 だが自転車置き場の中に、うずくまっている女子を見つけた。後ろ姿なのでよくわからないが、鉤爪状になった紺色の手足が見える。リザードマンとかいう魔物の仲間だろうか、長い尻尾もあった。自転車の前にうずくまり、手にした工具とタイヤとを交互に見つめている。
 どうやらパンク修理をしたいようだが、まずどうしたらいいのか分からないようだ。

「あの……」

 声をかけると、彼女は立ち上がり、くるりと俺の方を向いた。可愛い顔立ちだがどことなくジトッとした目つきで、表情がない。よく見ると手足には水かきがついており、トカゲというよりも半魚人に近い魔物のようだ。制服の校章の色から三年生であることが分かる。俺は二年、つまり彼女は先輩だ。
 硬い無表情に少し尻込みしたが、話しかけてしまった以上「何でもありません」とは言いたくない。

「よかったら、俺が……」

 直しましょうか、と言おうとしたとき。近くの木々が大きくざわめき、ぶわっと強い風が吹いてきた。木の葉や砂が飛んで来て、思わず腕で顔を庇う。

「!」

 その強風の中で、俺は見てしまった。先輩のスカートが大きくめくれ上がるのを。そしてその内側にある細めのふとももを。
 そして彼女が履いているのは下着ではなく、紺色のぴっちりとした……水着であることを。

 男が目の前にいるにも関わらず、彼女はスカートを押さえようとする気配が全くなかった。だから風が止むまでの二秒ほど、その光景に釘付けになってしまった。制服の下にある、水着の股間部に。
 ゆっくりと風が収まり、スカートも、靡いていた長い髪も元通りになる。そして相変わらずの無表情で、ただただ俺を見つめていた。何だ、この緊張感は。ケンカを売ったと思われているのだろうか。それとも見たことを怒っているのだろうか。
 こうなればヤケだ。

「修理、しましょうか?」

 意を決して口に出した俺に、彼女は無言で工具を差し出してきた。




 ……自転車好きな俺にとって、パンク修理程度なら朝飯前だ。通りかかった同じクラスの連中から「見ろ! 転校生だ!」「草食系男子だ!」「いや違う! 自転車修理マンだ!」などと、どこぞのコントのようなことを言われながら、チューブに一旦空気を入れ、それを押し出して穴の場所を探す。そこを紙ヤスリで擦ってからパッチを貼付け、ハンマーで叩いて密着させる。一般的なやり方だ。
 慣れれば十五分程度で直せるが、その間先輩はじっと俺の顔を見ていた。可愛いが無表情。妙な緊張感を覚えながら、落ち着いて修理を終えた。

 できましたと言うと、彼女は自転車を前後にころころと動かし、感触を確かめた。可愛い仕草だが、やっぱり無表情。

「虫ゴムが劣化してたから、そろそろ取り替えた方がいいですよ」

 それだけ告げて、自分の自転車まで戻ろうとしたとき。水かきのついた手が、俺の腕をむんずと掴んだ。
 反射的に振り向いた瞬間。ちゅっ、という小さな音と、頬に触れた柔らかい感触。間近に彼女の顔があった。

「え……!」

 唇。間違いなく、女の子の唇が、俺の頬に触れていた。体が石になったように動かない俺から、先輩はゆっくりと離れ、ぺこりとお辞儀した。無表情で。

 サドルに腰掛け、ペダルを漕いで走り出す後ろ姿を見送りながら、俺はしばらく自転車置き場に立ち尽くしていた。










………












……




















 翌日、土曜日。
 休日のため寮の住人たちは皆出かけるか帰宅してしまったが、俺は一人談話室にいた。漫画に混じって置かれている『魔物娘図鑑』を手に、『サハギン』という魔物のページをじっと読む。あの先輩と同じ水かきのついた手足、尻尾、ヒレになった耳。そして未だ脳裏に焼き付いている、あのスク水。もちろん顔つきは違っているが、彼女は間違いなくこのサハギンという魔物だった。

 淡水域に住む水生の魔物で、泳ぎが得意な水中のハンター。常に無表情。感情表現の多くは言葉ではなく、行動によって示す。そしてあの水着はなんと、鱗が変化したものだという。
 感情は行動で伝えるということは、あのキスは「ありがとう」という意味だったのだろう。無表情だからって俺のことが嫌いなわけでもないし、怖がる必要もなかったのだ。

「せめて、名前くらい聞いておけばなぁ……」

 スカートがめくれたときに見えた光景、頬に感じたキスの感触を思い出し、また胸が高鳴る。もう他人の情事を見せられなくても、脳内のビジョンだけでフラストレーションが湧いてくる。会いたくて仕方がない。
 そうだ、ショボい青春時代なんてもうゴメンだ。あそこに自転車を置いていたということは彼女も寮生だから、会う機会はあるだろう。また自転車置き場にやってくるだろうし、今度会ったら少なくとも名前を尋ねよう。メアドも知りたい。
 図鑑の挿絵、スク水にしか見えない鱗を着ているサハギンの絵を見つめ、俺は「やるぞ」と決心した。

 そのとき、「ひたっ」という足音が聞こえた。誰かいると思わず、うっかり本を落としそうになるも、辛うじて空中で持ち直す。だが振り向いたとき、再び心臓が止まるかと思った。

 頬にあの感触を、唇の優しい刺激を感じた。それが離れたと思えば、今度は水かきのついた手に肩を掴まれ、すべすべの頬をすり寄せられる。そのまま体をぐいぐい後ろへ押しやられた。抵抗する間もなく……というより、抵抗したくなかった俺は、談話室のソファーに背中から押し倒された。使い込まれた椅子が軋み、俺と彼女の体重を受け止める。
 魔物娘図鑑がばさりと落ちた。

「……先、輩」

 昨日と同じ無表情が、目の前にあった。サハギンの先輩が体を密着させて、じっと俺を見ている。それだけでも心臓の鼓動がヤバいのに、彼女の服装がもはや凶器だった。寮内とはいえ休日だから私服、それも可愛らしい白のワンピース姿だ。そして首元から水着の一部が見えている。この白い布の下に、あの紺色の水着がある……そう思っただけでたまらなく興奮してしまう。

 先輩は俺の側頭部から頬をそっと撫でた。鱗に覆われた魚人の手は意外と滑らかな肌触りで、優しい触り方が気持ちいい。図鑑の情報を信じるのなら、この積極的なスキンシップも好意を表現しているのだろうか。だが俺がそれにどう応えればいいのか、そんなことまで書物には書かれていなかった。

「……ミナツ」
「え?」

 突然、彼女の口から言葉が漏れた。

「河井……ミナツ……」

 たどたどしい口調の、艶やかな声。それが彼女の名前であることに気づくまで数秒かかった。

「ふ、普通科、二年一組の、恩田浩一、です……」
「……コー、イチ」

 俺の名をゆっくりと呟き、先輩はまた頬にキスをしてきた。もう好意というより求愛なんじゃないだろうか。尻尾も楽しそうに揺れている。
 彼女……ミナツ先輩は身につけていたポーチに手を入れ、果物らしきものを取り出した。奇妙な外見の果実だった。透き通った赤い実に、一回り小さい青い実がめり込んでいる。一度テレビで見たことがある魔界の植物で、確か夫婦の果実というやつだ。
 先輩は連なった実の片方、赤い方を口に咥え、ずいっと顔を近づけてきた。青い方の実が俺の口に触れる。食べろ、と言っているのだろう。だがそれはつまり……。

 意を決してそれを口に含んだ瞬間、唇同士が触れた。

「ん……」

 繋がっていた果実はぷつっと千切れ、爽やかな酸味が口の中に広がる。だが唇同士の触れ合いはまだ続き、やがてぬめりを帯びたものが口に入り込んで来た。舌だ。
 ミナツ先輩の舌が、俺の口の中を舐めている。

「んちゅっ、ちゅ……んっ……ちゅるっ……♥」

 舌同士が絡んで、互いの口の中を味わう。先輩の口腔は甘くとろけるような味がした。赤い実は青い実と違い甘味が強いのか。だがそれ以上に一目惚れした相手とキスをしている快感こそが、例えようもなく甘い味だった。
 いつの間にか、俺も彼女の体を抱きしめていた。柔らかな体の重みが気持ちいい。この白い生地のしたにはあの水着鱗があり、体をぴったりと覆っているのだ。鼓動が大きく、早くなる。だが心臓の鼓動が一つではない事に気づいた。ミナツ先輩も俺と同じくらい興奮して、ドキドキしているのだ。

「先……輩……」

 唇が離れ、果汁混じりの唾液が糸を引いた。先輩のピンクの舌に唾液が絡んでいてとてつもなくエロい。口の中に残った果実を飲み下し、改めて先輩と見つめ合う。エラのような耳がピクピク動いて可愛かった。

「ミナツ先輩、好き、です」

 積極的なアプローチを受けたせいか、自然と本心を打ち明けられた。彼女はこくりと頷き、ゆっくりと立ち上がる。やっぱり無表情だ。それなのにどこか、何となく嬉しそうに見える。じっと俺を見つめる視線がどことなく温かい。
 すっと出された手を握り、俺も立った。女の子と手を繋ぐなんて初めてだと、繋いだ後で気づいた。それどころか自然と互いの腕が絡み、恋人同士のような姿勢になる。

 もっとミナツ先輩とくっつきたいと思うのはともかく、あまりにも自然に、俺たちは並んで歩き始めていた。腕を組んだ姿で、互いにくっつき合いながら。言葉も大して交わさないで、静かに歩く。奇麗なうなじと首元から覗く水着が見ていて飽きない。しばらく見つめていると、彼女も俺の方を見てきた。

 彼女の頬にキスをする。理由はない、ただ可愛かったからだ。先輩も俺にキスをしてくれた。多分、理由はないのだろう。夫婦の果実とはよく言ったものだ、極めて自然に、彼女と一緒にいるのが当然のようになっている。それでいて一目惚れの高揚感は収まらない。

 俺は先輩に連れられ、腕を組んだまま自転車置き場へ行った。俺の方がリードされているというのがちょっと格好悪いが、後輩だし土地勘がないし、仕方ないということにしよう。
 それぞれ自転車に乗って漕ぎ出すと、先輩のワンピースが風でひらひらと踊った。彼女の後を着いて行く俺には水着のお尻部分がちらちら見えてしまう。ペダルを漕ぐ脚も、風になびく髪も奇麗だった。広い道に出た後、並んで走ってみる。横顔がよく見えた。

 恋愛感情なんていうものは大抵支離滅裂なもので、結局は異性が必要だという本能に基づいた感情なのだろう。実際に体験してみるとよく分かる。相手を好きになるのに大した理由はいらないのだ。
 だが俺は自分がミナツ先輩のどこに一目惚れしたのか、何となく分かった気がする。スカートの下に見えた水着鱗も、キスをしてくれたことももちろんあるが、それ以上に無表情なところに惹かれたのだろう。人間は顔では笑っていても、腹の底では何を考えているか分からない。自分の親を見ているとよく分かる。無表情でじっと見つめてくる先輩の方が、俺はありがたかった。

 きゅっとカーブを曲がると、大きな河が見えた。日光が水面に反射して眩しい。風を楽しみながら橋を渡り、先輩は川岸にある小さな店へと向かった。俺も後に続いて行く。

「いい景色ですね」

 数分ぶりに声をかけると、ミナツ先輩はこくりと頷いた。『お食事処 たいこうぼう』と書かれたその店は近くに三つの桟橋があり、客らしい何人かが釣り糸を垂らしている。寮で見たことのある奴もいた。
 自転車から降り、先輩と再び腕を組む。彼女もくっついていると安心するのか、子犬のようにすり寄ってきた。再びキスを楽しんだ後、店の戸を潜る。

「らっしゃーい!」

 中に入った瞬間、エプロンをした緑色の肌のお姉さんが陽気な声で出迎えてくれた。そして頭にある皿のような物体を見れば、さすがの俺でも河童だと分かる。

「やあミナッちゃん。とうとう男の子連れてきたんだ?」
「あ、どうも」

 俺は軽く会釈する。どうも先輩はこの店の常連らしい。

「君は初めてだよね? まあ食べるだけならミナッちゃんに任せておけば大丈夫だと思うけど、そこから好きな道具使ってね」

 河童のお姉さんが指差す先には、多数の釣り竿が立てかけられている棚があった。なるほど、自分で釣った魚を料理してもらえる店ということか。
 だがその瞬間、俺は心臓が止まりそうになった。ミナツ先輩がワンピースを脱ぎ始めたのだ。図鑑に載っていたのと同じ紺色の水着鱗が露わになる。スカートの裾から見えた下半身だけではない、全身を惜しげも無くさらした。ぴっちりと体を覆って、おへその部分がくぼんでいたり、股の所にうっすらとスジが浮かんでいるのがたまらない。人間なら単に水着姿だが、サハギンの場合鱗が変化したもの……そう考えると、ある意味裸と言っていいのではないだろうか。

「うおぉ……」

 見とれているとまたキスされた。先輩は几帳面にワンピースを畳み、河童のお姉さんに預ける。そして彼女が選んだのは釣り道具ではなく、細長い銛だった。

「ミナッちゃんはいつも銛なのよ。で、魚取るときは気合い入れるために服は脱ぐの」
「な、なるほど……」

 そういえば図鑑の挿絵でもサハギンは銛を持っていた。店にあったのは日本の銃刀法を(たぶん)遵守した設計の物で、挿絵にあった厳つい代物よりずっとシンプルだ。俺も釣り竿を手に取り、一緒に店から出た。
 銛を片手にスク水姿で堂々と川岸を歩く先輩。揺れる尻尾とお尻に目を奪われてしまう。人の少ない桟橋の一番先まで行くと、先輩はちらりと俺の方を見て、銛を指差した。見ていて、ということだろう。

 ミナツ先輩は右手で銛を逆手に持ち、左手を穂先近くに軽く添えて構えた。
 思わず生唾を飲み込む。スク水姿の女の子を見て「可愛い」と思うことは多々あっても、「格好いい」と思うことは珍しいのではないだろうか。キリッと水中を見据える視線、真一文字に閉じられた唇。しなやかな手足は銛の穂先を水中に向けたまま、ピタリと固定している。まるで樹木のように動かない。
 河のせせらぎと水面で乱反射する光の中、先輩の姿は自然に溶け込んでいった。それでいて脇の下やふとももが魅惑的なオーラも醸し出している。水の魔物が水辺で狩りに望むその姿に、静かな魅力をひしひしと感じた。

 静かに、素早く銛が繰り出された。スッと斜めに水に入ったかと思えば、次の瞬間にはすくい揚げられる。

「……!」

 鳥肌が立った。
 銛の穂先には大きな魚が刺さり、ピチピチと暴れていた。先輩はそれをバケツに放り込み、俺の方を見て胸を張る。

「先輩、さすがです! 凄く格好いいし……奇麗です!」

 そう言った途端、俺は口を塞がれた。もちろんミナツ先輩の唇によって、だ。

「ん……♥」

 先輩のくぐもった声が、どことなく嬉しそうだった。はしゃいでいるのだろう、せわしなく舌を絡めてくる彼女に応え、俺も彼女の口へ舌を割り込ませる。まだ果実の甘い味が残っていた。
 やっぱりミナツ先輩はサハギンとしての、ハンターとしての姿を俺に見せたかったのだろう。彼女たち魔物が生まれた『向こう側』の世界で、サハギンたちはこのように狩りをして生きている。『こちら側』で高校生として生きる先輩も、その本能を保っているのだ。

 感動を伝えるため、キスしながら抱き締める。初めてスク水鱗に触れたが、すべすべとした柔らかい肌触りで、先輩の体の感触をより一層引き立てた。こんな奇麗なミナツ先輩が俺のカノジョなのだと思うと、改めて嬉しかった。

 その後、先輩はもう一匹魚を捕って、河童のお姉さんの所へ持っていった。料理ができるのを待つ間、今度は俺が釣り糸を垂らす。先輩は俺にもたれかかるようにして抱きつき、魚がかかるのを一緒に待った。彼女の銛ほど素早く確実に捕れるわけではないが、魚釣りはただ釣るだけが楽しみではないと思う。
 河の流れをのんびり眺めたり、ミナツ先輩の体を眺めたり。すり寄せてくる控えめの胸を見つめたり、健康的なふとももを楽しんだり。思わずそのふとももを撫で擦っても、先輩は怒らなかった。おかげですべすべ、むにむにとした感触を堪能させてもらえた。

「ん」

 しばらくおさわりしていると、ミナツ先輩は自分の胸を指差した。控えめのバストだが、ぴっちりしたスク水鱗がふっくらとふくらみ、形を強調している。

「触っていいんですか?」

 尋ねてみると、彼女は口で答えるのではなく、俺の手を掴んで胸へと導いてきた。すべすべした水着の感触、そしてその下のぷにゅっとした気持ちいい物体を掌に感じる。えも言われぬ気持ちよさだ。

「あ、柔らかい……」

 思わず声に出してしまった。小さいと思っていたが、触ってみると見た目より大きいように思える。握ってみると掌の中で形を変え、弾力で俺を楽しませてくれた。
 ミナツ先輩は気持ちよさそうに目を細めながら、俺のなすがままになっている。鱗の上からツンと立った突起状のものに触れると、彼女は可愛らしくぴくんと震えた。

「……感じてます?」

 小声で尋ねてみると、先輩の頬がぽーっと真っ赤になった。
 何だか楽しくなってきた。可愛すぎる。スク水鱗の中に手を入れて、直接彼女の肌をまさぐる。吸い付くような感触だった。女の子の体というのはこんなに柔らかくて、気持ちいいのか。だんだんむず痒くなってきたようで、先輩は俺の頬にキスを連発してくる。

「先輩って、キス好きなんですね……」

 そう言ってみると、先輩はふいに俺の手を掴み、おさわりを中断させた。怒らせてしまったのか。
 だがその不安も杞憂に終わった。彼女は突然、俺のズボンのチャックに手をかけたのだ。

「ちょ、先輩!?」

 慌てる俺を他所に、先輩はチャックを降ろし、ベルトを緩め……テントを張ったパンツをそっと撫でてきた。冷たい水かきの感触が布越しに伝わり、ペニスがぴくんと反応する。談話室でのディープキスに始まり、先輩の体と仕草に何度も魅了されてきたため、勃起はもう極限状態。続いてパンツをずり降ろされると、バネ仕掛けのように飛び出してきた。
 ミナツ先輩が俺のペニスをじっと見ている。青空の下、川岸で股間を露出させられ、先走りの汁が出たそれを見つめられている。恥ずかしい。

「あ……!」

 さらに彼女はそこに顔を近づけ、くすぐったい息が愚息にかかってしまう。しかもそのまま、ペニスの先端に……汁の吹き出た鈴口に。

 ちゅっ、とキスをされた。

「……!!」

 突然。本当に突然、ペニスが激しく脈打った。たまらない気持ちよさと同時にそれが迸る。暴発と言っていい勢いで、ミナツ先輩の顔が生クリームをぶちまけたような状態になってしまう。
 先輩は何が起きたのかという表情で固まっている。屋外の、誰かに見られているかもしれない場所で、彼女の顔を精液まみれにしてしまったのだ。

「ご、ごめんなさい、先輩! 俺……!」

 謝ろうとして、俺は息を飲んだ。ずっと無表情だったミナツ先輩が、俺の精液で顔中をべとべとにした先輩が。
 にこりと微笑みを浮かべていたのだ。

「んふ……♥」

 白いそれを美味しそうに舐めながら、先輩は俺の頭を優しく撫でてくれた。甘えてもいいよ、と言っているかのように。その微笑が眩しすぎて、俺は思わず彼女の控えめな、しかし柔らかな胸に顔を埋めた。股間を隠すことも忘れて。




 ……結論からいうと俺の釣果はボウズだったが、先輩のおかげで十分楽しめたわけである。
 店内に戻ってみると、テーブルに二人分の魚料理が並んでいた。ミナツ先輩が捕った魚をホイル焼きにしてくれたようだ。

「熱いから気をつけて食べてね〜」

 河童のお姉さんは楽しげに笑っていた。もしかしたら俺たちのことを見ていたんじゃないかと思うような、悪戯っぽい笑みだった。

「いただきます」

 アルミホイルを破ると、焼けた魚とキノコの香りが立ち上る。食欲をそそる匂いだ。ナメコのようなぬめりを帯びたキノコが入っていて、一口食べてみるとねっとりと舌に絡む食感だ。ジューシーな魚とよく合う。美味しいですね、と言うと、ミナツ先輩もコクリと頷いた。

 食事中、先輩はまた無表情に戻っていたが、彼女の唇を見るたびに股間が熱くなってしまう。もうこの人無しではいられなくなってしまったのか。魔物の体には中毒症状があると聞いたが本当にそうだ。ムラムラした感覚を誤摩化すため、夢中で料理をがっつく。俺が食べ終わるころには先輩もホイル焼きとおにぎりを平らげていた。河の魔物だけに魚は好きみたいだ。

「ごちそうさまでした」
「……まだ、よ」

 ミナツ先輩がぽつりと言った。どことなく熱っぽい視線で、頬を赤らめている。何がまだなのか聞き返そうとしたとき、先輩は突然椅子から降り、テーブルクロスをまくりあげた。

「先輩?」

 身を屈めてテーブルの下へ潜り込む彼女を追い、俺もテーブルの下を覗き込む。そして、ドキッとした。足下まで垂れ下がったテーブルクロスによって隔離された狭い空間で、先輩は脚を大きく広げて俺を見ていた。彼女が主に見せたいであろう部分、つまりスク水鱗の股間部には染みができている。先ほど水に濡れた……わけではないことくらい、俺にも分かる。

「……ミナツ先輩が、デザート?」

 コクリと頷き、魚人の手で手招きする先輩。据え膳食わぬは何とやらと言うが、これは食ってしまって構わないだろう。というより、むしろ俺が先輩に食われに行くような気がした。
 いや、もう食われることは決定していたのだ。談話室で彼女に熱いキスをされたときから。あるいは自転車置き場でスカートの中を見てしまったときから。

「……いただかれます」

 俺の言葉の意味するところに、先輩は気づいただろうか。
 二人でにテーブルの下に入ると、彼女の吐息が少し荒くなっていることに気づいた。興奮しているのはお互い様か。チャックからペニスを露出させると、もうとっくに勃起していた。先輩がいちいち可愛いせいだ。
 ミナツ先輩の股間、濡れている所を指でつつくと、先輩もペニスを撫でてきた。水かきのひんやりした感触が意外と気持ちいい。

「んぅ……♥」

 先輩が声を漏らした。水着の上からでも縦スジが分かる。染み出してきたぬるぬるが指についた。何だか甘い匂いがする。
 さらにスク水をくいっとずらし、生の股間部を拝見した。女の子は本当についてないんだなぁ、と子供のような感動と、興奮を誘う割れ目の形状に息を飲む。すると先輩は自分でその割れ目を開き、中の奇麗なピンク色を見せてくれた。

「うわ……!」

 割れ目を開いたときの「くちゅっ」という小さな音にさえ興奮してしまう。中身はゆっくりとうねっていて、粘っこい愛液を垂れ流していやらしい。ちょこんと小さな豆のような物がクリトリスか。テーブルの下という隔離空間に、不思議な匂いがむわっと充満した。
 食い入るように見つめる俺に気を良くしたのか、ミナツ先輩は尾びれで床をぴちぴちと叩いた。そして、唇を奪われる。

「ん……ちゅ……♥」

 先輩は俺のペニスを、俺は先輩のアソコを。互いの股間を愛撫しながら、ねっとりと舌を絡め合う。そのまま抱き合い、性器同士が触れ合う距離になった。
 ぬるっと、先輩のソコが亀頭に擦れた。彼女はペニスを握り、自分の股間にぐりぐりと擦り付け始めたのだ。焦らすように。

「んむっ……んーぅ……んぅぅ♥」

 口から漏れる声がどんどん艶かしくなってくる。混ざり合った唾液が顎を伝ってきたところで、唇が離れた。
 とろんとした、初めて見るミナツ先輩の表情がそこにあった。俺とくっつき合って、彼女も気持ちよくなっているのだ。それがたまらなく嬉しい。

「……ちょーだい♥」

 おねだりするように言いながら、先輩は腰を降ろしてきた。ペニスがその穴にはまるよう、ゆっくりと。

「あっ、ああ……!」

 思わず声が出てしまった。河の魔物、魚人、無表情……彼女のイメージとは正反対に、その中は熱かった。柔らかい肉洞が、ねっとりした潤滑液を絡ませてペニスを揉んでくる。まるでマッサージするかのように、膣内が蠢いているのだ。

「せ、先輩……!」
「ふぁ、はぅ……コーイチぃ……♥」

 俺の名を呼び、ミナツ先輩は顔を綻ばせた。ああ、こんなに素敵な笑顔なんて初めて見た。裏で別のことを考えているような愛想笑いではない。俺をしっかり見て、俺のために笑ってくれているのだ。
 ペニスが奥まで到達し、きゅっと膣内がしまった。肉棒を逃がすまいとするかのように。下手すればすぐにでも射精してしまいそうなのをこらえ、先輩がゆっくりと腰を上下させるのを味わった。

「あんゥ……♥ ふぅ……ひぃ……♥」

 上の口からは艶かしい小さな喘ぎ声、下の口からはとろとろの愛液。俺は先輩のお尻を撫でながら、膣内がペニスに絡み付く感触に酔いしれた。
 先輩が一生懸命に腰を動かすと、くちゅくちゅと卑猥な水音がする。彼女の愛液はねっとりと粘り、繋がっている所から糸を引く。何だか先ほど食べたキノコの粘り気と似ていた。

「コーイチ……きもち、いい……?」
「はいっ……! 先輩の、中が……凄く……!」

 再び、キスをする。もう顔中が互いの涎でべとべとになるくらい、濃厚に。股間はどんどん溢れ出てくる愛液でべとべとだ。

「ぷはっ……あは……♥」

 ぐりぐりと捻るように腰を動かし、ミナツ先輩はじっくりペニスを味わう。柔らかい膣内でペニスが左右にねじられ、たまらなく気持ちいい。俺はお尻を愛撫している意外、完全にされるがまま。やっぱり、食べられているんだ。

「はむっ……♥」

 耳を甘噛みされた。ねっとりと舐められる。

「コーイチ……スキ、だよ……♥」

 とろける囁きが快感を増す。耳に甘い蜜を注がれているようだ。もう我慢も限界だ。

「先輩、もう、俺……!」
「いいよ……♥ わたし、に、んぅっ……♥ 任せて、ね……」

 ミナツ先輩はとろけた顔でにっこり笑い、俺の頭を撫でた。

「わたし、センパイだから……わたしに………任せて、ね♥」

 腰の動きが徐々に速くなる。狭いテーブルの下で、体を一杯に使って先輩は俺を感じさせる。気持ちいい。熱い膣内の感触に融かされそうだ。このまま甘えていたい。
 頬ずりされ、またキスをされたのが引き金になった。

「――!」

 俺の声はミナツ先輩の口の中に吸い込まれた。そしてペニスから迸った、やたらとネバネバしたそれは当然、彼女の膣内に吸い込まれた。
 その瞬間、きゅーっと膣が締まってきた。ぴくぴくと震える先輩の体。両手両足で俺に抱きつき、股間の器で健気に迸りを受け止めている。そのいじらしさがさらに脈打ちを加速させた。一回彼女の顔面に暴発させたにも関わらず、熱い肉洞にかなりの量を射精しているのが分かった。

 ゆっくりと射精が収まり、唇が離れる。ミナツ先輩の潤んだ瞳には、同じくとろけた表情の俺が映っていた。
 そのままぼーっと見つめ合っていると、不意に誰かがテーブルを叩いた。驚いて頭をぶつけそうになる。

「お皿片付けておくからねー。どうぞごゆっくりー」

 河童のお姉さんの明るい声と、食器を片付けるかちゃかちゃという音が聞こえる。このテーブルが二人用にしては少し大きいこと、テーブルクロスが足下まであること……もしかして、最初から客がこういうことをすると想定していたのだろうか。

「ゆっくり……って」
「……うん♥」

 先輩は微笑を浮かべ、スク水鱗を脱ぎ始めた。上半身だけ。
 控えめのおっぱいが露わになる。ツンと立った乳首に思わずしゃぶりつくと、彼女は母親のように俺を抱きしめてくれた。ペニスがむくむくと大きくなり、セックスの準備を始めてしまう。

 俺は一先ず考えることを止め、集中することにした。ミナツ先輩と愛し合うことに。

「ミナツ先輩、好き、です……」
「……コーイチ♥」


 甘酸っぱい味がした彼女とのキスは、今はとても甘かった。


14/02/03 21:59更新 / 空き缶号

■作者メッセージ
べ、別にSS書くために会社休んだんじゃないからねっ!
土曜に休日出勤した代休なんだから……!

青春臭さを追求したつもりですが、「甘酸っぱいとか言いながら甘々じゃねぇかクソたわけ!」などのご意見のある方は感想欄へどうぞ。

……さて、「BATTLE of BRITEAIN」見るか。

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