読切小説
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雪の孤独へ、抱擁を
しんしんと雪が降り積もる雪原地帯。音のすべてが雪に吸い込まれてしまったような、そんな静かな景色を見つめアタシは海面を尾鰭で叩いた。
今日も海は穏やかで波を寄せては引いていく。寒い中でも心地よい水音は寂しい心を癒してくれる。

「…」

でも、足りない。
こんな波音だけじゃ、足りない。
いくら魔力の篭った毛皮が暖かくても、いくら毛皮から安堵を得られても、それでもアタシの寂しさを埋めてくれるものはない。
誰かと関わってみたいと思っても雪原を通る人影はない。話してみたいと近づきたくてもいないものは仕方ない。
ここで人を待っていても誰も来ない。毎日期待してもただ虚しいだけ。
ここには誰もいないのだから。こんな雪原地帯に人が来ることなんてまずないのだから。アタシは一度も見たことはないのだから…。
今日はいつもと同じでただ一人。
今日もいつもと同じで寂しい日。

「…つまんない」

そっと呟いた一言は白い雪原に吸い込まれていった。
今日はもう帰ろう、そう思って海へ飛び込もうとした、その時だった。

何かが海に落ちる音がした。

「!」

顔を上げてみると沖の方で大きな水柱ができていた。周りを見渡すが船らしき影は見えない。雹かと思って空を見てみるも穏やかに降り積もるのは白い雪のみ。
それなら一体何が落ちたのだろう。
アタシは興味のままに海へ飛び込み、水柱の上がったところへ泳いでいく。
そして、見つけた。

「…!」

それはアタシの探していたものだった。
それがアタシの求めていたものだった。
見たことのない金色のボタンをつけた黒い服に同じ素材で出来ている黒いズボン。揺れるのは海底よりもずっと濃くて黒い髪の毛。平凡そうだけど、どこか不思議な顔立ちでアタシと同じぐらいの年齢に見える。
人間だ。
人間の、男性だ。
辺りを見回すも荷物らしきものはない。ということは旅人じゃないのかもしれない。
だけど、さっきの水柱からして何もない空から落ちてきた。
もしかして…転移魔法?ならこんな不可思議な現象もわかる…それにしては魔力を感じられないけど。
って、そうじゃない!

「助けないとっ!」

こんな雪の降る海の中にただの人間が長時間浸かっていたらそれだけで死んでしまう。早く、彼を引き上げて温めてあげないと。
アタシは彼の服を掴んで泳ぎ、海岸へと引きずり上げた。見た目は細いのに思った以上に重い。きっと鍛えているのだろう。
彼の安否を確かめるため胸に耳を当てる。服越しだけどちゃんと心臓の音が聞こえた。胸も上下してるし呼吸はある。
よかった、そう思い改めて彼の顔を見た。

「…」

何度見ても不思議に思える。顔立ちはここらじゃ見かけないものだし、この黒髪も同じく見ない。雪原とは全く逆の色をした服と髪の毛。
どこから来たのだろう。この特徴からしてジパングからだろうか?
疑問に思うけど今はそんなことを思ってる暇がないのに気づく。ここは雪の降る海岸だ。濡れた体ではすぐさま凍ってもおかしくない。
どこか寒さから身を守れるところは…たしか近くに洞窟があったはずだ。あそこなら寒さから身を守れるはず。いざとなったらアタシが毛皮を貸してあげればいいんだし。
アタシはすぐさま彼の体を抱きしめて洞窟の方へと進み始めた。








普段通り雪の降る海。生き物らしい姿は見えずただしんしんと白い粒が降り注いでは溶けていく光景を彼は洞窟の傍に寄りかかって見つめていた。時折寒そうに両手を擦り合わせ、はぁっと白く染まった息を吐く。
そんな彼の隣にアタシは立っていた。

「ここらずっと雪続くんだ」
「そりゃここら辺って雪原地帯だもの。当然じゃない」
「雪原地帯なのにその格好はどうなんだろうな」
「なによ、命の恩人に対して馬鹿にしてるの?」
「いや、可愛らしいなと思って」
「かわっ!」

突然言われた言葉にアタシの体温が一気に上昇するのを感じる。だけど彼はそんなアタシに気づかずからから笑って話を続けた。

「昔親戚の子供がそんなような被り物してたのを思い出してさ。ペンギンとアザラシと、あとキツネとか。冬用の帽子なんだけどこれがまた可愛らしいんだ」
「な!なによ!子供っぽいっていいたいの!?」
「子供ならそんな露出の多い格好しないだろ…」

穏やかな笑みを浮かべてこちらを見つめる二つの瞳。それはどんな海底よりも、どんな夜よりも暗くて濃くて、深い闇の色をしていた。
黒髪だけではなく、同じ色をした瞳。全身黒ずくめの姿をしたジパング人。
黒崎ユウタは寒さに身震いをして洞窟内の壁から体を離した。

「外に比べたらマシだろうけど…随分ここも寒いな」
「アタシに言わせたら雪原地帯でコートも羽織らないからだと思うわ」
「それ言ったらヴァルナーは雪原地帯でよくそんな露出の多い格好してるな」
「アタシはセルキーよ?この程度の寒さなんて全然平気なんだから」
「見てるこっちが寒くなるんだって」

そう言ってユウタは洞窟の奥へと足を進める。アタシも同じように彼の隣で進みだした。ユウタは陸ではあまり早く動けないアタシに歩幅を合わせてくれる。それどころか足を止め両手を出した。

「運ぼうか?」
「平気よ、これくらい」

些細な親切にアタシは強気に返してしまう。少し残念だったけど…いや、なんでもない。
初めて出来た話し相手は奇妙で、奇抜で、奇天烈でだけどもとても優しい男性だった。
ただ不思議に思ったのはアタシを見て驚いていたこと。別に魔物を見て驚く人は普通にいる。だけどユウタの場合はその驚き方がなんだか違った。『食べないでくれ!』とか『ば、化物が!』とか言う人はいまだいるらしいけどユウタが言ったのはどちらでもない言葉。

「……そんなコスプレしてて寒くない?」

こすぷれってどこの言葉だろう。もしかしたらジパングにそんな言葉があるのかもしれない。
それ以外は別に変わったところはなかった。いや、いきなり空から現れて海に落ちたのは不思議だったけどそれでもユウタはアタシに普通に接してくれる。
接してくれるけど、まるで扱いが人間の女の子同然。
時折『寒くない?』とか『服着る?』と言って着ていた服を渡すこともあった。アタシはセルキーなのに、寒さには強いというのにだ。
まるでセルキーなんて知らないように。
アタシがただの女の子みたいに。
だけど、そんな扱いがアタシにとって何よりも優しくて、温かかった。





洞窟の奥、外の寒さも届かないところ。そこは今はアタシとユウタが寝泊りする居住空間だった。本来ならアタシはわざわざこんなところに住む必要はない。それでも決めた住居があるわけでもない。それに、彼を一人残していけない。ユウタがここらの地理に詳しくないからという理由もあるけど、それ以上にアタシが一人になりたくないからだった。
アタシたちが来る前に誰かがいたのか生活に必要な最低限のものはある。包丁や椅子替わりの木箱が一つ、火打石にそれから薪になる木が沢山。
初めはぎこちなかったユウタの手つきは自然となり、火打石でつけた火を大きくして薪に燃え移し、暖の取れるほどの大きさにしていく。
アタシは木箱の半分に座り、ユウタがもう半分に座った。ちょっと接した肌の部分から硬質な服の感触が伝わり、一人では得られない満たされた気持ちになれる。
そのまま二人で火を前にして温まった。

「そういえばさ、食料尽きかけてきたな」
「そうね」

ユウタの言葉通り、ここにある食料はあと二、三日だ。こんな設備もないところでもユウタが料理してくれたものは美味しかった。初めて彼の手料理を食べた時はやめられなかったぐらいに。
でも料理をするにも食材がなければできない。それどころか食べることができないと飢えてしまう。
だけど、こんな時のためにアタシは用意があった。

「仕方ないわね。とってくるわ」
「とってくるって…その槍で?」
「違うわよ。魚、別のところにとっといてあるの。海に出られない時もちゃんと食べられるようにってね」
「冬眠用?」
「うるさい!」










洞窟の外に二人で出てみると吹雪いていた。元々ここは雪原地帯だからとくに珍しいことじゃないけど、今日の天気はいつもと比べて結構ひどい。見通しが悪くて数メートル先も見えないくらいに。

「…ブリザードってやつか」
「っていうか、ユウタはそれで寒くないの?」

ユウタはコートを持ってない。手袋も帽子も、防寒具を一切所持していない。それどころか他の服も持ってない。アタシが発見したときのままだ。

「…正直すごい寒い」
「ならなんで出てきたのよ?」
「女性に重いものは持たせられないだろ」

にぃっと笑って見せるも誤魔化せない。自分の体を抱きしめるように身震いする姿は見ているだけでも寒い。もしかしたらこのまま凍ってしまうんじゃないかと思えるほど。
だけどアタシはそうでもない。見た目ならユウタ以上に露出してるけど毛皮に篭った魔力は極寒の吹雪から身を守ってくれる。

「仕方ないわね。これ着なさいよ」

アタシは着ていた毛皮に手をかけた。これを着ればユウタも少しは楽になるはず。その分アタシが寒い思いをするけどユウタほどじゃない。
だけど、彼は呆れた顔をした。

「…あのさ、ヴァルナーがそれ脱いだら裸になるだろ」
「なによ、アタシの厚意が受け取れないって言うの?」
「吹雪の中女性が裸って…」
「アタシはセルキーよ?こんな寒さどうとでもないんだから。ほら、着なさいよ」
「いいです」

アタシは脱ごうとするがユウタの手がそれを邪魔する。だけど触れた指先がとても冷たい。これじゃあ凍傷の可能性も出てくるのにユウタはそれを分かっていないの?
止める手からすり抜け、アタシは毛皮を脱いだ。

「…っ!」

ただ脱いだだけでも感じる嫌な寂寥感。このまま毛皮を手渡したら一体どれほどの寂しさに襲われるのかわからない。
それでも今のユウタを助けられるのなら本の一時的なこと、耐えられる。
だけど彼はいきなり慌てだした。いつも笑ってる姿からは想像できない姿で。

「ちょちょちょ!なんで何も着てないんだよ!早く着ろって!」
「でもユウタが着ないと凍えるでしょ!」
「女性をひん剥いて温まれるかよ!」
「さっさと着なさい!」
「いらないって!」
「早く!」
「いいって言ってるだろ!」

その時、一際強い吹雪がアタシ達を襲った。肌を突き刺すような冷たく、また強い風に手にしていた毛皮が離れてしまう。

「あ!」
「!」

宙を舞うアタシの毛皮。吹雪の中でもなんとかと目視できるそれは海の方へと飛ばされ、落ちた。

「っ!!」

途端に襲いかかってくる寒さと孤独。毛皮をとっただけでも感じてしまう、その場で自分の体を抱きしめたくなる言葉にできない寂寥感。
寒い、とても冷たい。だけどそれ以上に寂しい。まるで氷の壁に閉ざされて誰とも触れ合うことができないような嫌な感覚だ。
思わずアタシはその場に膝を付いてしまった。

「何してんだよ馬鹿っ!」

そんなアタシを怒鳴りつけたのは隣に立っていたユウタ。見てみると着ている黒い服を脱いでいた。それどころか雪に埋もれていた靴も脱ぎ捨てる。

「ちょっとユウタ…何する気なの…?」
「取りに行くんだよ。こんな吹雪の中じゃヴァルナーのあれ、すぐに飛ばされるだろ」
「取りにって…まさかこんな海の中を!?」

こんな吹雪く中海はどれほど冷たいのか、それをわからないほどユウタは馬鹿じゃないはずだ。凍ってはいないけど入ろうものならすぐに体が冷え固まるに違いない。
セルキーのアタシならまだ平気だろうけど、人間のユウタは…!
それでもユウタはにぃっと笑って黒い服をアタシに被せてきた。

「きゃっ」

途端に包まれる優しい温かさ。それと香る、心が落ち着くような匂い。思わず体の奥が熱くなるのだけど今の状況を思い出してユウタを見た。

「それ代わりに着てな。ヴァルナーの毛皮ほどじゃなくても少しは温かいだろ?それ着てさきに洞窟行ってろよ」
「ちょっとやめてよユウタ!こんな中泳いだら…」
「寒中水泳ってこっちじゃ地域にもよるけど、普通にやってる人多かったみたいなんだよ。それに、オレは着衣水泳は小学生の頃やったことあるしな!」

そういうなりユウタは極寒の海へと飛び込んだ。










呼吸を荒くし、体を震わせ、ユウタは力なく洞窟内に倒れていた。海から上がって濡れていたからか、雪原の気候で髪の毛の先や滴りかけた水滴が凍り始めている。

「…ほら、とって…きたぞ…」

ガチガチに震えてるのに、力も入らないはずなのに、あんな極寒の海の中だったのに、それでも彼の手にはしっかりとアタシの毛皮が掴まれていた。
馬鹿だと思った。
こんな毛皮一枚、アタシならすぐに取りにいけるのに。
間抜けかと思った。
こんな極寒の海に飛び込むなんて自殺行為もいいとこなのに。
だけど。
それでも。
アタシのためにしてくれて、とても嬉しかった。
一人の時じゃ絶対に感じられない優しさが温かかった。
それでもユウタの体は凍るように冷たい。実際凍ってるところもあるのだから無事じゃない。

「吹雪く中で、寒中水泳って…やるもんじゃ、ないな…」
「馬鹿っ!」

アタシの言葉に力なく笑うユウタ。意識はあるけどこれではいつ消えてしまうか分からない。
ごしごしと体を擦って付着した氷を落としていく。だけど氷を落としただけじゃ体温は回復しない。
アタシはユウタのとってきた毛皮を着せた。既に意識を失ってしまったのか、それとも反応するだけの体力がないのかアタシに対して何も言わない。
手放した途端に襲いかかってくる心細さ。海岸で感じた時と同じくらいの寂寥感に心折れそうになるけど、それでもアタシはユウタを温めるために抱きしめた。
冷たい。人肌なのにまるで氷のように冷たい。
あんな極寒の海に入ったのなら当然だけど、あまりの冷たさに生きてると思えないほどだった。
まるで………死んでしまったかのように。

「やだ、やだよ…ユウタ…死なないでよ…!!」

毛皮に収めて抱きしめる。体を擦り合わせて温める。セルキーの毛皮なのだからこれ以上冷えることはないのにユウタの体は冷たくなっていく気がした。
二度と動かなくなりそうで。
二度と話せなくなりそうで。
アタシは怖くてユウタにすがりついた。見えているはずの彼の顔が歪む。それどころかぽたぽたと頬に水滴が落ちて濡らしていく。それがアタシの涙だとすぐに気がついた。

「一人にしないでよぉ……っ!!」

もう雪原を見つめて一人待つのは嫌なのに…。
やっと話してくれる相手と出会えたのに…!
もう一人でいなくていいと思ったのに…!!
やっと孤独から引き上げてくれると思ったのに…!

「ずっと一緒にいてよぉ……!!」

アタシの叫びは虚しく響く。洞窟内を反響してただ消える。
ユウタは応えてくれない。すでに意識がないのかもしれない。
このまま死んでしまうそうで怖い。
凍りつくように動かなくなるのが怖い。
きつくきつく抱きしめる。肩を揺すっても反応はない。肌を擦っても体温は変わらない。ユウタの胸に顔を埋める。伝わってくる心臓の鼓動はあまりにも弱々しくて履かなかった。
まるで風前に晒されたロウソクの火のように。

「ユウタぁあ……っ!!」

その時、アタシの声に反応してか弱々しくもぽんと頭に何かが置かれた。顔を上げてみると薄らと目を開けたユウタが呆れ顔で見つめていた。

「馬鹿…」

闇のような瞳で見つめて、震える指先でアタシの涙を拭って優しく微笑むユウタがいた。

「ユウタ…っ」
「何、脱いでんだよ…見てるこっちが、寒くなるって言ってるだろ……ほら、早く…着ろよ…」

自由に体は動かないのに、言葉さえ満足に出せないのに、それでもアタシの毛皮を脱いで渡そうとしてくる。
自分の命が危なかったのにそれでもアタシの心配をしてる。嬉しいけど、でもアタシが欲しいのはそんな優しさじゃない。

「馬鹿ぁあ…っ」

アタシはもう一度そう言って彼の体を抱きしめた。
一人じゃない、この感覚が欲しかった。
二人でいる、この実感が欲しかった。
孤独では絶対に埋められない感情が。
独りでは永遠に満たせない感触が。

ユウタと一緒にいることをアタシは求めていたんだ。

抱きしめたユウタの体はまだまだ冷たい。セルキーの毛皮でも体の芯まで冷えた彼を温めるのには時間がかかりそうだった。
ユウタの意識はある。それでも安全とは言い難い。こんな状況で何をすればいいのか、どうすればいいのかアタシは…知ってる。
やろうとすればきっとユウタは止める。毛皮を脱ぐことさえ止めた彼なんだからきっとアタシを気遣ってくれる。でもそれじゃ助けられない。
アタシはユウタと一緒にいたい。
ずっと、一緒にいたい。

それ以上に、アタシはユウタが欲しい。

この温もりが、優しさが、喜びが、彼のくれるもの全てが。
魔物の本能はアタシの体と心に囁きかけ、体は忠実に従ってユウタの入っている毛皮に体を滑り込ませた。恥ずかしさなんて最初から感じなかった。
触れ合う固く、逞しい体の感触。鼻腔をくすぐるユウタの香り。こんなに彼を感じたのは初めてで体の奥が熱くなった。

「ユウタ…」
「ん…?」
「じっとしててね…今、温めてあげるから…っ」

助ける。
だけどそれだけで止まらない。
欲しい。
今以上、これ以上の温もりが。

「昔、イエティに聞いたけど雪の中でも高く体温を保つ方法があるんだって…知ってる?」
「…一応。だけどそれ―」
「んっ♪」

何かを言おうとしたユウタを遮ってアタシは口づけた。途端に今までに味わったことのない甘さが頭の中を染め上げていく。

「ん、ふ♪んちゅっ♪」

吸って、吸い付いて、啜っては舐めとる。アタシはユウタの口内に舌をねじ込んでひたすら舐った。先程以上の濃い甘さに思考が蕩け、吐息が溢れる。
舌先にぬるりとぬめった柔らかいものが触れた。それがユウタの舌だと分かる前にアタシは舌を絡め、にちゅにちゅと卑猥な音を響かせながら啜る。

「ちゅ…ん♪んぅ…ん、むぅ♪」

最初は抵抗こそしなかったものの徐々にユウタの方からも唇を押し付けてくる。戸惑っているのはキスしたのが初めてだからだろうか?
だとしたら、嬉しい…っ♪
啄むようにキスしていると触れ合った下腹部に異常に熱い何かを感じた。時折ひくつき、ずっと濃い男の匂いを漂わせるそれ。見たことはないけどアタシはこれを知っていた。
興奮すると男性の体の一部は固くなる。そうイエティから聞いた。それが正しいのならばユウタはアタシに…興奮してくれたということになる。

「ユウタ…興奮してくれたのね♪」
「…そりゃ」

恥ずかしそうながらも顔を真っ赤にさせている彼。もしかしたらアタシも同じで赤くなってるかもしれない。もしくは恍惚とした表情を浮かべてるかもしれない。
アタシとの行為で興奮してくれるという事実、嬉しくないはずがない。
だけどユウタは困ったような表情を浮かべた。

「どうしたの?もしかして…嫌だった?」
「そうじゃなくて。オレ…まだ動けないんだけど…」

言葉通りユウタの体はまだまだ冷えてる。自由に動かすには体温が足りてないらしい。
指先さえ満足に動かせないなら…アタシが…。

「アタシが全部、してあげるから♪」

ユウタの熱く滾ったそこを痛くしないように注意深く掴み、アタシの大切な部分へと押し付ける。そこで初めて自分のそこが濡れているのに気づいた。これならすぐに入れても大丈夫そうだ。

「入れるから、ね…♪」

アタシの言葉にユウタは小さく頷いた。
それを見て強く脈打つ先っぽを一気にアタシの中へと押し込んだ。

「ん…っ!!」
「ふぁ、ああああっ♪」

初めて入ってくる自分以外の体。それはとても熱くてまるで燃えているみたいだった。
洞窟内に嬌声が響く。アタシを満たしてくれる圧迫感と温かさは壮絶な快楽へと変わっていく。初めては痛いとよく聞くがそんな痛みを塗り替えるほど気持ちがいい。
アタシは腰を進めていき、ユウタの全てを飲み込んだ。一番奥をこつんとつつかれ、目の前で火花が散りそうだった。

「あぁ…はぁ…♪入ったぁ…♪ユウタ、全部、入ってるよぉ…っ♪」
「あぁ…っ!わかってる、って…」

我慢するようにユウタは言った。眉間に皺が刻まれ、表情が歪んでいる。それが苦痛でないことはアタシの膣内にいる彼の体の反応でわかった。

「ねぇ、ユウタぁ…気持ちいい?」
「…ぁあっ」
「よかった…それじゃあ、動くからね…♪」

ゆっくりと腰を動かしていく。ごりごりと膣内を軋ませ、ひっかくように刺激される。
経験のない膣内が徐々にユウタの感触を覚え始めたのか奥から愛液が吹き出し、動きがスムーズになる。奥の方を擦られるたびに卑猥な水音が響いた。

「はっ、くぅっ♪んん♪ぁあああああっ♪」

腰を打ち付ける度に体が擦れ、彼の胸板に乳首が擦れる。ただそれだけの感覚でも体が跳ねて声が漏れた。
もっと擦って欲しい。もっと繋がりたい。
魔物の本能のまま体を動かすと膣内が収縮し、全身に鳥肌が立った。それだけではなくアタシの全てを染め上げるような強烈な快楽に襲われる。
でも、止まらない。

「あ、ああっ♪いいよ、すごい、気持ちいいよぅ♪ユウタぁ♪」

がくがくと体を揺らし、腰をねちっこく動かすとユウタの体が逃れるように震える。それでも満足に動けない状態では逃げられるはずもなかった。
下唇を強く噛んで必死に快楽に耐える姿。いつも笑いかけてくれたユウタと違ったその様子にアタシの体はさらに跳ねた。
体が止まらない。心が止められない。
もっと感じさせたいと。
もっと気持ちよくなりたいと。
ユウタと感じられるこの快楽を、繋がってるというこの事実を、アタシは心のそこから求めて欲した。

「ヴァルナー…っ!!」

呻き声にも似た声で呼ばれてアタシは頷いた。
男性が気持ちよくなると出てしまうもの。それがアタシたち魔物の求める糧であって、愛しい相手の証となるもの。

「いいよっ♪いっぱい…いっぱい出して、いいからっ♪」

足を使い、腕を絡め、ユウタの体を逃さないように抱きしめてアタシは一気に腰を深くまで打ち付ける。先端が子宮口にめり込んだ。。
次の瞬間、アタシの中に熱く滾ったものが流れ込んできた。

「あぁああああああああああああああああああ♪」

頭の中が真っ白に染まる。意識が空の彼方へと飛ばされそうになる。あまりの快楽に恐怖すら感じそうだったけど抱きしめたユウタの体がアタシの心を落ち着けてくれた。
びくびくと震えて何度もアタシの中を染めていく。
何度も震えて、ようやく落ち着く。絶頂の波が引いた時には重なったユウタの体の方が暖かくなっていた。

「はぁ…ぁ…♪ユウタ…温かいよ……♪」
「ぁ…ああ、ん…」

ようやく体を動かせるようになったのかユウタは身を捩った。アタシの下で手を動かしてアタシを抱きしめてくれる。
片手は頭を、もう片方は背中を。愛しいものを包むように優しく抱きしめてアタシの頭を撫でていく。
温かい。そしてとても優しい。
子供をあやすような行為なのだけど、それでも心を溶かしていくような、孤独を埋めてくれるような温かさを感じる。
アタシの欲していたものだ。

「ん、ぁ…♪ユウタぁ……♪」
「ヴァルナ…ありがとうな」

そっと耳元で囁かれた言葉にアタシは笑みを浮かべて頷いた。
覚えてしまったこの快楽。
感じてしまったこの気持ち。
知ってしまったこの優しさ。
刻まれてしまったこの温もり。
もう絶対に手放せないユウタの感覚。
アタシはもう、彼なしでは生きていけないかもしれない。そんなふうに思いながらユウタを抱きしめて瞼を閉じた。















雪原でも洞窟内は寒い。いや、もしかしたら海が近いせいかもしれない。
それがここでオレが学んだ数少ない事実だった。
今いるこの洞窟から外まではかなりの距離があるがそれでも冷気は容赦なく入ってくる。外と比べればだいぶマシだが火を焚いてないと死ぬんじゃないかと思うほどだ。
だけど今は火がなかった。
というのも燃やすための薪が昨日全て終わってしまった。
これでは寒さをしのげない。それどころか命を落とす危険も出てくる。それゆえオレは非常手段を取らなければいけなかった。
だけど…。

「なによ?」
「…この格好はないだろ」

オレはヴァルナーの入っていた毛皮に包まれていた。それも一人じゃなく、ヴァルナーと一緒に。
作りを見るとなんとも奇妙なそれは初めて見たとき寝袋の一種かと思ったがあながち間違いでもなかったのかもしれない。不思議なのはこうして二人入ってもきついと感じないぐらいに伸縮すること。ゴムで出来てる…というわけではなさそうだ。

「でもこうしてると温かいでしょ?」
「まぁ、それは…」

確かにこの状態は温かい。誰かに見られたらあまりの恥ずかしさに爆発してしまいそうだけどまるで室内にいるかのようだ。
でもやはり慣れない。相手が体を重ねた相手だとしてもこれは密着しすぎというかなんというか…。

「…近いんだよなぁ」
「別にいいじゃない。アタシはずっとこうしていたいと思うけど」
「え?」

その言葉にヴァルナーを見た。彼女は恥ずかしそうに頬を朱に染め、体をこちらへ倒してくる。そのままオレの手を握りこんだ。
指を絡めて離さないように。それは恋人のような甘酸っぱいものではなくて、縋り付きたくなるような切なさを感じさせた。

「ユウタは嫌?」

その手に、その声に、オレは小さく息を吐いた。冷気で白く染まった息は霧散してすぐ消える。

「嫌じゃない」

オレからも握り返して体を寄せた。これ以上隙間はないからさらに互いの体が密着する。

「んん…温かい♪」
「そっか」

そうしてオレとヴェルナーはずっと互いの温もりを感じていた。

―HAPPY END―
13/02/24 20:04更新 / ノワール・B・シュヴァルツ

■作者メッセージ
ということで今回は新しい魔物娘のセルキーの話でした
強情二人、互いに相手を思いやるからこそちょっとしたハプニングが起きてしまった
こうなると優しいのも問題ですよね


ここまで読んでくださってありがとうございます!!
それでは次回もよろしくお願いします!!

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