読切小説
[TOP]
堪溜甘欲
突然ですが、皆さんは『スキン』というものを御存じでしょうか?
コンドームとも呼ばれる、家族計画に欠かせないもの。所謂、避妊具です。

今、巷では、このスキンが話題になっていました。
スキンが話題になる…というのも、何か妙ちくりんな話ですが、
そもそも、多くの人は、まずスキンの存在に対して首を傾げることでしょう。

皆さんもご存知の通り、教団は淫らな行為を禁じています。
子作り自体は尊ばれますが、しかし、それ以外を目的とした性交、
特に、性的快楽を得るために身体を交えることは、重罪とされています。
故に、スキンを用いるのは、法に縛られぬ一部の特権階級の人達や、
あるいは、精を魔法の触媒として用いる魔法使い…その極少数に限られていました。

では、なぜそのスキンが、こうして噂になっているのでしょう。
それは、ある商会が開発した、大変画期的なスキンの効果にありました。

そのスキンの名を、『無精のスキン』といいます。
ぶしょうのスキン。むせいのスキン。どちらの呼称でも間違っていません。
前者は、商会が定めた正式名称。後者は、冒険者達の間で使われている俗称です。
僕もその例に漏れず、この話題のスキンを、後者の名で呼んでいます。

ええ、そうです。この無精のスキン、冒険者に大人気の商品なのです。
当然、僕も持っています。一家に一台ならぬ、一人に一個、無精のスキン。

先にも述べた通り、この無精のスキンは、ただのスキンではありません。
魔法により、とある効果が秘められていて、それが人気の秘訣なのです。

気になるその効果とは、いったい何なのか。
それはずばり、『無精のスキンを着けている限り、射精しなくなる』のです。

これを聞いた人は、再び首を傾げることでしょう。
スキンを付けているのだから、射精したって何の問題ないだろう、と。
しかし、冒険者、あるいは教団の兵士ならば、
すぐにその素晴らしさが理解できるはずです。
また、このスキンのもう一つの効果を聞けば、
尚更に感動し、諸手を上げて喜ぶことでしょう。

無精のスキンが持つ、もう一つの効果。
それは、『着用者以外に、無精のスキンを外すことは出来ない』というものです。
ここまで聞けば、一般の人にも、その効果の意図が分かることでしょう。

そう、皆さんの御想像の通り。
これは、対魔物用に作られた、鉄壁のスキンなのです。

魔物。それはこの世界に蔓延る、僕達人間の仇敵です。
彼女達は、総じて人間の女性に近い姿を持っており、かつ淫らな恰好をしています。
そして何より、彼女達は人間を襲い、
その精を啜って力を増すという恐ろしい性質を持っています。
おまけに、魔物は人間の精を得ることで子を成すこともでき、
その数を増やすことさえできるのです。
だから、僕達男性は、魔物に敗北することがあっても、
万が一にも精だけは奪われてはいけないのです。

そして、それを最大限にサポートしてくれるのが、この無精のスキン。
これさえ着けていれば、例え裸にひん剥かれても、急所だけはガッチリと守られます。
彼女達が、どれほど鋭い爪を持ち、解呪の魔法を唱えても、徒労に終わることでしょう。
主神様の聖水に浸して作られたというこのスキンには、強い破魔の力が宿っています。
魔物はそれに触れることは出来ても、傷つけることだけは、如何にしても叶いません。

どうです、すごいアイテムでしょう。
この夢のスキンは、教団の後押しも受け、あっという間に世界中に広がりました。
精が無ければ、魔物は数を増やすこともままならず、力を増すこともありません。
魔物にも寿命がある以上、このまま拮抗した力関係が続けば、
いずれ彼女達は数を減らしていき、絶滅の道を辿ることになります。
刃も火薬も用いぬ、無類の兵器にして無敵の鎧。噂になるのも当然というものです。

しかし、その優秀な効果の一方で、問題が一つありました。
それは、無精のスキンが、時間による劣化に弱い…という点です。

不精のスキンは、残念ながら、一度買えばそれっきりという代物ではありません。
使わずにいても、三日程度で効果が薄れ始め、
一週間も経てば普通のスキンと同じになります。
そのため、僕達は定期的に無精のスキンを買い直す必要がありました。
値段こそ、お手頃ではありますが。

一部では、金儲け主義の商会が、
わざとそのような欠点を持たせたのでは…との噂も立っていますが、
真偽は不明であり、その効果自体は確かなものである以上、
僕達は都度買い直す以外にありませんでした。

「毎度あり! 今後もどうぞ、たんたん狸商会を御贔屓に〜♪」

さて、前置きが長くなってしまいましたが。
僕は今、ちょうどその無精のスキンを新たに買い直し、お店から出たところでした。

外に出れば、そこは芸術の街シロビネガが誇る、オススッパイ大通り。
ここは、王都から程近く、活気に溢れ、
魔物の勢力圏からも遠い、平和で賑やかな街です。
また、宿や酒場は冒険者で活気付いており、かくいう僕も、その中の一人でした。

今日も、まだ見ぬ仲間を、金払いの良い依頼を、
楽しい暇つぶしを求めて、大通りを行き交う人々。
その一角で、僕は買い物袋を抱え直すと、
そんな自慢の街の大通りを歩き、いつもの宿へと向かいました。

買い物も済んで、予定もなくなった僕。
今日は、これからどうしましょうか。

武器屋でも覗いていきましょうか。
そういえば、最近新しい剣を入荷したと、店の主人が宣伝していました。
ああ、でも、パン屋に立ち寄るのも捨て難い。
あそこの菓子パンは、小腹を満たすのに丁度良いのです。
いや、それならばいっそ、裏通りにあるあの隠れ家的な飲食店で、
ウサギのステーキをがっつり楽しむのも…。

あれもいい、これもいい。
午後の活動プランに、僕は想像を膨らませながら歩きました。
冒険者の悪い癖で、僕達はつい、歩きながら物事を考えてしまいます。

そのせいで、時たま失敗も犯します。
今も、ほら、目の前に迫る危機が、全く見えておらず…。

「きゃっ!?」

ドカンッ。

うっかり。起こるべくして起こった、人身事故。
僕は、前から歩いてくる人影に気付かず、そのまま相手にぶつかってしまいました。
尻もちをつき、買い物袋を落としてしまう僕。
相手の人も同様に、その場に転んでしまいます。

自分のミスに、僕は慌てて、目の前の人物に謝罪しました。
その人は…全身をローブに包み、目元だけを覗かせた人は、
そんな僕に視線を向け、目を細めました。

「いいえ、こちらこそごめんなさいね。怪我はない?」

布越しに響く声。
それは、湖畔の囀りのように澄んだ声色でした。女性の声。
纏った衣服のせいで姿は伺えませんが、
しかし、それだけで惹かれてしまうほどに綺麗な声。
その響きに、僕は我を奪われ、尻もちをついたまま、
彼女を呆け見つめてしまうのでした。

「荷物も散らばっちゃって…。本当に、ごめんなさい」

そんな僕の見る前で、地面に散らばった、僕の荷物に手を伸ばす彼女。
先程、店で買った商品の数々。薬草、油、砥ぎ石、縫い糸、それとスキ……。

わーーっ!!?

「きゃっ!?」

彼女が伸ばす手の先に、慌てて身体ごと飛び込む僕。
その奇行に、当然ながら、彼女は驚き声を上げました。

しかし、そんなことを気にしてはいられません。
これを女性に拾われる方が、僕にとっては何百倍も恥ずかしいのですから。
地面にへばりつく変人に、言うまでもなく、周囲の視線が突き刺さりますが、
それに気付く暇もなく、目の前の危機を乗り越えたことに、
僕は安堵の溜め息を吐くのでした。

「だ…、大丈夫?」

問う彼女に、僕は無言で、頭を縦に振りました。
そして、お腹の下に手を潜り込ませ、素早く問題の物を回収し、
ポケットの中へとしまいました。

良かった。難は去ったのです。
心配そうにこちらを見つめる彼女へ、僕は愛想笑いを浮かべながら立ち上がると、
何事もなかった風を装いながら、足元に転がる買い物袋へと手を伸ばしました。

すると、その最中。
目の前の女性が、何かに気付き、あっ、と声を上げました。

「大変…! 血が出ているわ!」

血が出ている。
その言葉に、僕は視線を下に向けると。
先程擦り剥いたのでしょうか、確かに、わずかながらも、膝小僧に血が滲んでいました。

しかし、それはどう見ても、何てことのないかすり傷でした。
大したことはないし、僕の方からぶつかったのだから、気にしないで…と、
僕は彼女へ伝えましたが、彼女は眉をハの字にし、
とても申し訳なさそうな表情を見せます。

「すぐに手当てをしないと…。
 軟膏は…あぁ、そうだわ、さっき荷物と一緒に、宿に置いてきて…」

困惑しながら、患部の周囲を撫で、僕を気遣う彼女。
多少大げさにも思えましたが、きっと、それだけ心優しい人なのでしょう。
こんな良い人に、これ以上迷惑をかけるのも忍びないと思い、
僕は再度、大丈夫であることを告げ、彼女に向けて笑顔を浮かべました。
そして、手早く荷物を拾い集め、その場を去ろうとしたのですが…。

「ダメよ、そのままじゃばい菌が入っちゃうわ! さあ、こっちに…」

去る足よりも早く、彼女は僕の腕を取り、ぐいと引っ張りました。
思いの外、強引な彼女にびっくりしつつも、そのまま引っ張られていく僕。

困りました。彼女はそこまで、責任を感じているのでしょうか。
それとも、僕の先程の奇行を見て、頭を打ったのではと心配になったのでしょうか。
いずれにせよ、彼女についていきませんと、彼女は納得してくれないことでしょう。
難儀なことですが、責がこちらにある手前、僕は大人しく彼女に従うことにしました。

「大丈夫? 歩くの、辛くない? おんぶしましょうか?」

腕を組んだまま、大通りを抜けて、狭い路地を進んでいく二人。
連れられ歩く間も、彼女はしきりに僕を心配し、何度も声を掛けてきました。

まるで過保護な母親です。
僕はそれに苦笑しつつも、平気だと、彼女に繰り返し告げました。

「…あ、見えてきたわ。あそこの建物がそうよ」

そんな彼女が、ふと、前方を指さしました。
その指先を追って見ると、裏路地の影に、ひっそりと佇む建物が一つ。
看板の模様を見るに、恐らく宿屋でしょうか。
そういえば、先程、宿に軟膏がどうのと言っていたような…。

「さ、入りましょう。段差があるから、足元に気を付けて」

古そうな建物だなあと眺めている僕を、彼女は真摯に介しつつ、
その入り口の扉を開けて、僕共々、建物の中へと入りました。

「あら、おかえりなさい。早かったわね」

そんな僕達を出迎えたのは、小洒落たフロントのカウンターに立つ、
白い肌と、エメラルド色の髪を携えた、女神様も真っ青な美人女将でした。
異国の風習を持つ人なのか、額に目玉のような紋様を刻んだその人は、
彼女に出迎えの言葉を述べた後、ちらりと、その瑠璃色の瞳に、僕を映しました。

「あらあら…♪ 本当に、早かったのね」

それは何を意味する言葉なのでしょうか。
含みのある台詞を呟きながら、彼女は僕を、興味深そうに見つめました。
そして、僕が見つめ返していることに気付くと、挨拶代わりに、にこり、と。

…これほどの美人、見慣れていないためでしょうか。
一瞬、その笑顔に、僕は魂を引っ張られるような錯覚に陥りました。
ですが、ふと、僕の頬に添えられた彼女の手が…その温度が、
僕を彼女の誘惑から守るように、揺らいだ意識を押し止めてくれました。

「さ…、部屋に行きましょう。もう少しだけ、頑張って」

そう、優しく囁き掛ける彼女に、僕は、自分が恥ずかしくなりました。
心配してくれる彼女を前に、僕ときたら、美人を見て鼻の下を伸ばしているのですから。
主神様も呆れかえる不純っぷりです。ああ、ごめんなさい、主神様、名も知らない貴女。
もう、美人に惑わされたりはしません。
愚かな僕を赦し、どうかこれからも見守っていてください。

「この部屋よ。さあ、入って」

などと、天に祈りを捧げていますと。
彼女の部屋に着いたらしく、彼女は扉を開けると、僕を部屋の中に入るよう促しました。

案内された、宿の一室。彼女の部屋。
そこは、僕が利用としている宿のような、ベッドとテーブルだけのやや殺風景な部屋…
ではなく、まるで彼女の私室であるかのように、
可愛らしい飾りや家具で溢れる部屋でした。
衣装棚の上には、白い花を咲かせた観葉植物。
ベッド脇には、薄い桃色のクマのぬいぐるみ。
清潔感溢れるテーブルクロスの上には、
これまたお洒落なティーセットが、てんと構えています。

他にも、目を引くものはいくつかありますが、
一言でいえば…そう、女の子の部屋そのものでした。

「少し待っていて頂戴ね」

異性の部屋を興味深そうに見回す僕を、手を取り連れて、椅子に座らせる彼女。
そして、棚に並んだ瓶、その内の一つを手に取ると、
僕の傍らへ歩み寄り、身を屈めました。

「ごめんなさい、ちょっと染みるかもしれないわ」

そう言いながら、黒いグローブを付けたまま、
彼女は指で軟膏を掬うと、そっと、僕の膝へとそれを塗り付けました。

瞬間、ひやりと。
膝の神経を通じて、背筋を昇っていく、冷たい感触。
やっぱり、この軟膏の感触というのに、僕はどうも慣れません。

しかし、染みて痛いということはなく。
冷たさも、次第に体温に馴染み、感じなくなっていきました。
それよりも、むしろ、塗り込む彼女の指先…
サテンのすべすべとした感触の方が印象的で、
気持ちいいような、少しむず痒いようなその刺激に、
僕は、わずかに身を竦ませるのでした。

「…うん、これで大丈夫かしら」

数分後。治療も終わり、膝から指を離す彼女。
それをちょっと残念に思いつつも、僕は彼女に頭を下げ、礼を述べました。
すると彼女は、私のせいだから…と言いながら、軟膏を棚へと戻すと、
戻る足でテーブルに近付き、ティーポットの蓋を開け、傍らの茶葉筒を手に取りました。

「紅茶はお好き?」

問い掛けるその声は、どこか、期待に弾んでいるようで。
その問いに、僕が、好きだと答えると、彼女は鼻歌交じりにお茶の準備を始めました。

治療だけでなく、お茶までご馳走してくれるなんて、至れり尽くせり。
今更遠慮するのも…と思い、加えて、この女性に興味が湧き始めていた僕は、
その行為に甘えることにして、買い物袋をテーブルに置き、椅子を引きました。

「ポローヴェから取り寄せたものよ。お口に合えばいいのだけれど」

ポローヴェ。
湯が入り、部屋中に香り立つ紅茶の匂いを嗅ぎながら、
僕は、その聞き覚えがある都市の名を、頭の中で繰り返しました。

ポローヴェといえば、確か、僕の生まれ故郷の近隣にあった都市のひとつです。
豊かな自然に恵まれ、そこで育まれた農産品が主な収入源であったポローヴェですが、
天候に恵まれなかったのか、それとも魔物の策略なのか、長年不作が続いたそうで。
そこに住む人々は、明日の生活さえもままならない、
そんな不遇な状況にあったそうです。

「…おいしい? ふふっ、よかったわ♪」

ああ、そういえば。
この前見た瓦版で、そのポローヴェが、一面を飾っていた記憶があります。
なんでも、長らく貧困にあったポローヴェが、一大都市として復活を果たしたと。
しかし、その復興に貢献したのは、近隣都市や、教団ではなく…。

「さ、もう一杯どうぞ。お茶菓子もあるわ」

確か、その相手は……。

「うふふ…♪ さあ、もう一杯…♥」



……魔物。



「あっ」

気付いた瞬間、僕はカップから指を離し、
それが床で割れるよりも早く、自身の身体をテーブルから遠ざけました。

いえ、正確には、彼女から。
魔物に支配されたはずの国、そこから取り寄せた茶葉を持つ、その女性から。

「大変…! お茶、そんなに熱かった? 舌、大丈夫?」

しかし、彼女が驚いたのは。
そんな僕の行動よりも、床に飛び散った紅茶の方でした。
慌てて立ち上がり、棚から布巾を取って、床を拭き始める彼女。
その傍らにも、僕の方へと顔を向けて、やけどはしていないか、
割れた破片で指を切ってはいないかなどを、しきりに尋ねてきました。

「氷、持ってくる? もしやけどをしているのなら、早く冷やさないと…」

…これは、どう判断すべきなのでしょう。

もしかして、彼女は魔物なのではないか…と思ったのですが。
床を拭き、僕を心配する彼女の姿は、どうみても甲斐甲斐しい乙女にしか見えません。

杞憂…なのでしょうか。いや、しかし。
だとすれば、どういったルートで、ポローヴェの茶葉を?
疑いが晴れぬ僕は、テーブルに乗せた買い物袋を手に取り、
そのままじりじりと、部屋の出入り口に向かって後退しました。

もしかすれば、僕の勘違いなのかもしれません。
ですが、僕は冒険者として、自身の直感に身を委ねずにはいられませんでした。
何かあってからでは遅いのです。もし間違っていたのなら、後でいくらでも謝ればいい。
この宿には、女将はもちろん、他の宿泊客もいるはずです。
彼女がもし魔物ならば、皆にそのことを伝えて、早くここから逃げ出さないと…。

「あっ…、待って! やけどになっていないか、ちゃんと診ないと…!」

しかし、不意に。
逃げようとする僕に気付き、咄嗟にこちらへ駆け寄ってくる彼女。
そんな彼女を見て、僕は振り返り、急いで部屋の外へ出ようと駆け出しました。



ですが…。



「…ほら。右手の人差し指、赤くなっているわ」

…何が、起こったのでしょう。
逃げようと、後ろを向いて一歩目を踏み出そうとしたところで。

いつの間にか、僕の後ろには…彼女が、立っていました。

「イタイイタイよね。大丈夫、私が治してあげるから…」

彼女は、柔らかく、優しい声で。
唖然とする僕の身体を抱き寄せ、その右手に触れました。

いったい、何が。
振り返り、先程まで彼女が立っていた場所を見ますが、
そこにはもう、彼女の姿は影も形もありません。

瞬間移動。そうとしか考えられません。
それは熟練の魔法使いのみが可能とする、奇跡のひとつです。
その名の通り、一瞬のうちに、通常ではありえない距離を移動する魔法。
彼女が、その瞬間移動を。なら、彼女は魔法使い? いえ、ならば、やはり…。

「…んっ…♥」

混乱する中。
ふと、右手の人差し指に感じる、温くねっとりとした刺激。

驚き、視線を向けると。
彼女はなんと、僕の手を取り、
目深に覆われたローブの中へと引き寄せて、その指を食んでいるではありませんか。

次々と起こる予想外の事態に、大きな声で叫び、身体を跳ねさせる僕。
すると、その衝撃で、彼女の顔を覆っていた布が、はらりと舞い落ちました。

「ぁ……」

一瞬、緩慢になる世界。ローブの下から現れた、彼女の顔。
そこにあったのは、可憐な乙女のはにかんだ笑顔などではなく。

青い肌、黒い目、そして禍々しい角。

それは、どこからどう見ても、魔物の…悪魔の姿、そのものでした。

「…ふふっ♪ バレちゃった」

突如として、その正体が白日の下に晒され、
しかし、戸惑う素振りも見せず、悪戯な笑みを浮かべる悪魔。

「大丈夫…んっ、ちゅ…♥ 安心して。取って食べたりしないわ……ちゅぅ…♥」

人を惑わす声を囁き続けながら、悪魔は僕を抱く手で、
優しく背中を撫で回し、自分は危険ではないと説きました。
食む指は離さぬままに。治療かどうかも曖昧な行為を続けながら。

「怪我をさせちゃったから、そのお詫びをしたかっただけ…。
 ちゅぴっ…♥ 本当、それだけよ」

嘘です。そんな言葉、信じられるはずがありません。
魔物は、悪魔は人を誑かし、僕達を滅ぼそうとしているのです。
それを知らない僕ではありません。どうして、敵の言葉を信じられるでしょうか。

「…そんな怖い顔をしないで。ね? ほら、怖くない……ちゅっ、ん…♥ 怖くない…」

こちらの心中を知ってか知らずか。
まるで子供をあやすように、僕に語り掛けながら、悪魔は指食みを続けます。
本気で食べるつもりは無いようで、指は痛くもなければ痒くもありませんが、
しかし、彼女の唇が触れ、唾液が塗られるたびに、
指先に、ぴりっ…と電流が走りました。
魔法の類…ではないでしょう。刺激によって生まれる痺れ。静電気にも似ているそれ。
これといって害はありませんが、しかし、
このまま彼女のペースに持ち込まれるのは望ましくありません。

とはいえ、どうしたものでしょう。あまりに予想外の相手です。
悪魔といえば、魔王軍の中でも、生粋のエリートと聞いています。
駆け出しに毛が生えた程度の冒険者では、太刀打ちできる相手ではありません。
そもそも、武器も無いのですから、現状では、万が一にも僕に勝ち目はないでしょう。

…なら。それならば。
僕が取るべき行動は、これしかないでしょう。

「…? あら…、まぁ♥」

決心した僕は、買い物袋を床に放り、空いた手をポケットに突っ込みました。
そして、その中にあったものを手に取り、包みを破いて、中身を取り出します。
その手をすぐさま、今度はズボンの中…パンツの下にまで入れると、
取り出したそれを、ちょっと元気になりつつあるモノに、手早く装着しました。
スムーズな動き。こんなこともあろうかと、着け方を何度か練習しておいて正解でした。

「そんなところを弄っちゃって…♥ 指を舐められて、変な気分になっちゃったの?」

そんな僕の行動を見た悪魔は、うっとり目を細め、上機嫌に語ります。
どうやら、彼女は僕が何をしたのか、まだそれを分かっていないようです。

ですが、皆さんならば分かるでしょう。
僕が今、何を取り出し、装着したのか。

「そっちも、イタイイタイかしら? ふふっ…♥ お姉さんが、看てあげる…♥」

そうです、アレです。
持っててよかった、一人に一個。

「ズボンとパンツ、ぬぎぬぎしちゃいましょうね…♥ ……あら?」



鉄壁の守り…『無精のスキン』!



「あら、あら…。これ、なぁに? 男のコって、ここにもお洋服を着るの?」

無敵の防壁を前にして、彼女は、目をぱちくりとさせました。
どうやら、彼女はスキンそのものを知らないようです。
魔物は避妊をしないのでしょうか。

ともあれ、こうなってしまえば、もう彼女は僕に手が出せません。
いえ、正確には手は出せますが、彼女が望むものは絶対に手に入りません。
ですので、少なくともこの時点で、僕に負けは無くなったのです。
形勢逆転となり、僕は気を良くして、どうだとばかりに胸を張りました。

「ん〜…? 取れないわねぇ。このヤな感じ…主神の呪いでも掛かっているのかしら」

一方で、首を傾げながら、スキンの縁を爪でカリカリと引っ掻く悪魔。
しかし、それはやるだけ無駄な行為というものです。
僕自身が外そうとしない限り、このスキンは何人たりとも外せません。
例え、目の前で裸のおじさんが躍り出そうとも、
小さくなったそれに合わせて、スキンがぴったり輪を締めてくれるのです。

「…しょうがないわね。こんなのが着いているんじゃあ…」

そして、少し観察した後、とうとう悪魔は諦めの言葉を呟きました。
どうです、恐れ入りましたか。これが無精のスキンの…人間の力なのです!





…と、思ったのも束の間。





「たっぷり時間を掛けて、解呪してあげないと…ね♥」

不意に、悪魔は、にこりと妖しく微笑んだかと思うと。
身を纏うローブを脱ぎ払いながら、その黒い目で、僕の顔を覗き込みました。

「貴方のココを縛るもの…、私が、取り払ってあげるわ♥」

ちゅっ。

宣誓と共に、不意打ちで飛んでくる、キス。
口付け。チュー。僕の、ファーストキッス。いともあっさりと。

「それじゃあ、ベッドに行きましょうか♪」

唇に触れた、初めての感触。指で触れ、残留する感触に困惑する僕。
そんな僕を横目に、彼女は僕から一旦離れると、
いとも容易く、僕をお姫様のように抱きかかえ、軽い足取りでベッドに向かいました。

…今、僕の身に、何が起きたのでしょう。
キス? 魔物と? キス? いや、でも、あれ…なんで? どうして?
魔物なんかとキスをしたはずなのに、どうして…どうして、こんなにも、胸が。

「…顔、真っ赤っか。キスは初めて?」

整理が追い付きません。惑っているのは、頭か、心か。
そんな僕に、彼女は、慈しみの表情を浮かべながら、そっと語り掛けてきます。
何に怯えているのか、その声に、僕はびくっと身を震わせて、
彼女の黒い目…その中に光る赤い宝石に映る自分から、慌てて目を逸らしました。

しかし、彼女はそんなこと、まったく気にならないといった様子で。
抱かれる僕の耳に、その蒼く瑞々しい唇を寄せながら、そっと告げてきました。

「奇遇ね、私もよ…♥ うふふっ♪」

その言葉に、僕は、えっ、となって、彼女の方へ振り向くと。
彼女もまた、そのブルーベリィ色の頬を、ラズベリー色に染めているのでした。

まさか…彼女も、さっきのキスに、照れてる…?
そう思った瞬間、僕の頭が、ぼふんっ、と破裂しました。
色々な感情がごちゃ混ぜになった挙句、ぼふん。
大半は恥ずかしさ。嬉しさや、ときめきも。

そう、僕は、あろうことか。
この悪魔の、そんな可愛らしい仕草に、ときめきを覚えてしまったのです。

「…女の子の顔を、そんなにじろじろ見ちゃダメよ♥」

こつん、と、額と額をごっつんこ。
叱られた僕は、急いで彼女から視線を逸らし、進む先…彼女のベッドを見つめました。
大きく弾み、今にも破れそうになる自身の胸を、両手で、ぎゅっ…と抑えながら。

何でしょう…。
何でしょう、この、胸の奥底から湧き上がってくる感情は。
いけません。彼女は悪魔です。魅力的な女性とはいえ、悪魔なのです。
見れば分かるでしょう。黒い目、青い肌、禍々しい角。全然、人間と違います。
そんな姿を見て、ときめくはずがありません。まともな人間なら、ときめくはずが…。

「うふふ…♪ 実はね、さっき貴方とぶつかった時、私、ドキッてしたの。
 なんて可愛い男の子なんだろう、って。一目惚れ…なのかしらね?」

…ときめくはずが……。

「私からぶつかっちゃったのに、
 私をちっとも責めたりしないで、笑顔で、大丈夫だから…って。
 それを見て、私、ああ、貴方って優しい人なんだな…って、確信したわ」

……ときめくはず……。

「そしたら、その男の子が呪いの装備を身に着けてるっていうんだもの。
 これって、アレよね。
 王子様の呪いを解くのに、お姫様が奮闘する、よくある童話みたいで…」

……………。

「…貴方のお姫様になれたらなぁ…なんて。ふふっ、ごめんなさい、子供っぽいわよね」

…だめ。だめです。ごめんなさい、ときめきます。
僕、もう、耐えられません。顔が大火事です。大炎上です。
なんですか、この人。本当に悪魔なんですか。おかしいですよ。

「…? どうしたの? 震えているけれど…。寒い?」

こちらを気遣う彼女に、僕はせめて、
今の表情だけは見られまいと、両手で顔を覆いました。
これが魔物の色香。これが悪魔の誘惑。恐ろしい。恐ろしいです。抗える気がしません。

「ベッドに下ろすわね。落ちないよう、気を付けて」

そして、抵抗らしい抵抗もできぬまま、ベッドに乗せられる僕。
深呼吸を繰り返したことで、幾分か気分も落ち着き、ようやく両手を離したのですが…。

「さて、と…。それじゃあ、どうやって呪いを解こうかしら」

…一度、瞬きをした後。
僕はまた、すぐに顔を覆いました。

なんで。なんでですか。
なんで、もう裸ンぼなんですか、悪魔さん。

「う〜ん…魔法は効かなさそうね。破るのも無理かしら…」

そうなんです。彼女はいつの間にやら、すっぽんぽん。

まさか、さっきローブを脱いだ時点で、裸になっていたのでしょうか。
すぐに抱きかかえられてしまったので、その時は気付きませんでしたが。
身に着けているものといえば、黒いサテングローブとニーソックスのみ。
痴女ですか。痴女でした。そうでした。魔物は痴女でした。彼女は痴女です。

「…材質は、ただのゴムみたいね。強力な魔除けの力があるってだけで…」

こういうときに、男の性というのは厄介なものです。
見てはいけないと分かっていても、その先に、女性の艶姿があると分かると、
どうにかして覗けないか、ちょっとだけならバレないかも…と考えてしまうのです。

そして、僕も、健康な一男児ですから。
いつまでも、目の前にあるチャンスを逃すことなんてできず、魔が差したか、本能か、
ちょっとずつ…ちょっとずつ指を開いて、その隙間から、彼女の姿を覗き見ました。

「うん、それなら…。この方法なら、なんとか解けるかもしれないわ」

…ごくり。

指の隙間より窺う先。
そこに広がる景色は、まさに桃源郷でした。

僕のオチンチンを前にして、うんうん唸る悪魔の姿。
その胸には、実にたわわなおっぱいが実り、強い母性と色気を放っていました。

見るからに柔らかそうな質感。
動くたびに揺れるボリューム。
人間と同じく桜色に染まる先端。

人間の女性のものと同じ…いえ、
もしかすれば、それ以上に魅力を感じる、彼女のおっぱい。
ドキドキします。見れば見るほど、目は熱くなり、口は渇き、喉が鳴りました。

そして、呼応するように、アソコも…。

「わっ…♥」

むくり、むくり。

スキンの中で、むくむくとその大きさを増していくオチンチン。
隠しきれない感情。それを見て、悪魔は、目をきらきらと輝かせます。

「うふふ…♥ 私で、興奮してくれたのね。嬉しい…♥」

熱情の込もった声で呟き、その指先を、僕のモノの先端へ。
そして、指が、ちょんっ…と先っぽに触れると同時に、びくんっ、と跳ねる僕の身体。

先程、指を舐められた時と同じ。
でも、それよりもずっと強い刺激が、触れ合った場所に。

「…可愛い…♥」

ちょん、ちょん…。

スキン越しに、何度も僕の怒張をつつく、彼女の指。
やじろべえを指で弾くように、弱い力で、何度も、何度も。
それは、前戯と呼ぶにも至らない、無邪気で他愛ない指遊びでしたが、
しかし、経験の無い僕にとっては、
それがもう本番であるかのような、強い快感を覚えました。

「汚れちゃう前に、服、脱いじゃいましょうね…♥」

深く、荒くなっていく呼吸。上昇する体温。潤む瞳。
徐々に出来上がっていく僕のカラダに、ぷつぷつと浮かび始める、珠の汗。
肌は紅く染まりゆき、神経も鋭敏になっていって。そして心も、エッチな気分に。

そんな僕の熱病を、少しでも癒そうとするかのように。
彼女は、僕の衣服に手を掛け、その一枚一枚を、丁寧に剥いでいきました。
一枚剥かれるたびに、熱は放たれ、心は剥き出しになり、恥ずかしさは増して。

ですが、どうしても。
わずかにも、愛淫渦巻くこの病が、癒えることはありませんでした。

「…うっすらとだけれど、貴方のカラダ、筋肉が付いているのが分かるわ。逞しいのね…♥」

そして、全て綺麗に剥き終わったところで。
僕のカラダを見つめ、うっとりとした表情を浮かべながら、
彼女はその表面を撫でさすりました。
お腹を、胸の上を軽やかに滑る、
彼女の手の動き、サテンの滑らかさに、熱い吐息を漏らす僕。
最愛の主人に、お腹を撫で愛でられるペットというのも、
こんな風に感じているのでしょうか。

「それに…うふふっ♥ こっちも…♥」

彼女は陽気に笑いながら、滑る指は、巡り巡ってオチンチンへ。
根元に、トン、とぶつかって。後はそのまま、手のひらで全体を包み込むように。

「ん…♥ いいのよ…♥ 声、我慢しないで…♥」

触れた瞬間、喉奥から絞り出されたような声が、僕の口から溢れ出します。
苦しさと、心地よさを混ぜ合わせた、甘い鳴き声。嬌声。小さく、切なく。

彼女はそれに耳を傾けながら、ゆっくりと、手を上下に動かし始めました。
同時に、僕は、胸の前で手を握りしめ、
流れ込んでくる快感に耐えようと、ぎゅっと目を閉じました。
性愛で快楽を得ることは、教団にとっての禁忌。
だから、耐えねばいけないと、反射的に。
無精のスキンに守られているといっても、性悦を得てはいけない。
そう、自分に言い聞かせて。

「…あんまり、一人でしないの? ちょっと擦っただけで、もう破裂しそう…♥」

…でも。だけど。
その試みは、あまりに無謀なものでした。

それは、一人でするのとは、比べものにもならない快感。
彼女が手を動かす度に、尿道を駆け上がっていくカウパー。おしっこのような勢いで。
熱と硬度は一擦り毎にいや増し、
亀頭は膨れ、睾丸はきゅんきゅんと締め付けられました。

その快感は、ただ、彼女が触れているからというだけでなく。
彼女の愛撫は、的確に、僕の弱い部分を捉え、触れてほしいところに触れてきたのです。
亀頭を揉んだり、裏筋を撫で上げたり、雁首をくすぐったり、鈴口をノックしたり。
まるで、心を読まれているかのようでした。
彼女の想いのままに、操られているかのよう。

「きもちいい? ね…、どこに触れられるのが好き? ここ? それとも…こっち?」

そして、快感に打ち震えるのは、オチンチンだけではありません。
耳も。彼女が奏でる音…囁く声や、アソコを擦る音が、僕の耳を犯してきました。
恥ずかしい言葉。いやらしい水音。聞くたびに、カラダが熱くなり、胸が高鳴ります。
最早、僕のカラダは、彼女の微かな吐息の音を聞くだけでも、
鋭敏に反応するほどになっていました。

「ふふっ…♥ びくびくってしてる…♥ 腰もそんなに浮かしちゃって…♥」

きもちいい…。その感情を隠すように、ぎゅっとシーツを握りしめて。
僕は下唇を噛み、懸命に、懸命に快感を逃がそうと、身体を右へ左へと捻りました。

でも、僕がどんなにカラダを動かしても、彼女の一擦りで、またパンパンに。
水を注がれ、注ぎ口から溢れてもなお、注ぐのを止めてもらえない水風船のように。
遅かれ早かれ、破裂するしかない運命。
そして、その瞬間は、もう目の前にまで迫っています。

「ん…、でちゃう? あはっ、もうでちゃうのね…♥」

そして、とうとう。彼女との行為が始まってから、数分足らずで。
あっけなくも、僕は、彼女にギブアップを…もう限界であることを告げました。

それを聞いた瞬間、彼女の目が、きらりと光ったように思えました。
さながら、獲物を射程範囲に捉えた狩人。チャンスを捉え、逃さぬ瞳。

「いいわよ、いっぱい出して…♥ ほら…、びゅーっ…て……♥」

僕に射精を促しながら、最大限にまで怒張したそれを扱き続ける彼女。
スキンの中に溜まるカウパーを、亀頭に塗りつけながら、ぐちゅぐちゅと犯してきます。
その強烈な快感に、僕は背筋を逸らせて、下半身をぶるぶると震わせました。
お腹の奥底から昇ってくる、濁った塊。あと、もうちょっと。もう、すぐそこに。

「…えいっ♥」

うあっ…!

「ほら、びゅーっ…♥ びゅーっ…♥」

最後の最後。
彼女は、真っ赤に腫れ上がった先端を、その指でぐにぐにと揉みしだいてきました。
敏感な部分に幾重も走る、眩い刺激。溺れてしまいそうなほどの、快感の高波。
広がる閃光。何度もカラダを跳ねさせながら、僕は、とうとう、悪魔の手によって…。

「びゅ〜〜〜…っ♥♥♥」



あぁ………っ!



「………♥」

…あ、あれ?

想いが弾け飛び、脱力する身体で、荒く息を吐きながら。
僕は、絶頂の余韻の中、しかし、
自分の身体から、快感が全く抜けていないことに気が付きました。
そして、馴染み深い、あの解放感もなくて。
どうしてだろうと思い、僕は視線を下へと向けました。

「…やっぱり、これがイくのを抑えちゃうみたいね」

視線の先。
そこには、びっくんびっくん、射精の動作を繰り返すオチンチンと、
何度となく繰り返されるその光景を、物憂げに見つめる彼女。
そして、射精しているはずですのに、
その身に愛液ばかりを溜める、スキンの姿がありました。

…そうか。そうでした。『無精のスキン』。
これのせいで、僕は今、精を放つことができない状況にあるのでした。
だから、身体は達しても、精は吐き出されず、よって快感も抜けないままでいるのです。
なんてこと。無敵だと思っていたこのアイテムに、まさか、そんな弱点があったなんて。

「でも、大丈夫。私が絶対に、これを解いてあげるから…。ね?」

とんでもない欠点を持つスキンを、恨めしく思い、睨む僕。
そんな僕に、彼女は慰めの言葉を掛けると、
再び僕のモノへと手を添えて、ゆっくり動かし始めました。

「だから、もう少しだけ、我慢して頂戴。
 貴方が苦しくならないよう、私も精一杯頑張るから…♥」

そう言って、彼女は僕に顔を近付けて。
そのまま、ちゅっ…と、再び触れ合う、唇と唇。

「んっ…♥ ちゅっ、ちゅぴっ♥ んぅ……、はむ…♥ ちゅるっ…♥」

そして、繰り広げられる、大人のキス。
彼女にリードされながら、口を動かし、舌を差し出して。
感じる熱。粘液。吐息。どれもが全て、僕にとっては、媚薬のようでした。
触れるたびに、啜るたびに、呑むたびに、
アソコがまた、どんどん膨れ上がっていくのを感じました。

「ちゅ…♥ ね…、今度はちょっとだけ、さっきよりクるかもしれないけど…」

口付けの最中、ふと、僕に話し掛けてくる彼女。
先程よりも、強い刺激が来るかもしれない。
そう話しながら、彼女は自身の手に嵌めた、黒のグローブを取り外しました。

日の目に晒される、すらりと細い、彼女の手。
彼女はその綺麗な手を、オチンチンへと伸ばすと、幹を、きゅっと掴みました。



―その瞬間。



「きゃっ…♥」

僕は、僕の口から、自分でも覚えのない、甲高い声が響いたのを聞きました。
破かれんばかりに引っ張られるシーツ。全身に、ぞわっと立ち上がる鳥肌。
目尻には涙が浮かんで、息は絶え絶え。一瞬にして、満身創痍です。

その原因は、間違いなく、彼女の手にありました。
別物…先程までの彼女の手とは、別物です。見た目は、何も変わっていないのに。
指が絡んだ瞬間、僕にはそれが、ぬめった触手が絡みついたかのように思えました。
おまけに、媚毒をたっぷりと含んで。
触手の繊毛から、その毒が染み込んでくるかのような錯覚が。

「…驚いた? 私ね、生まれつき、肌から魔力が漏れやすいの。
 だから、こうして直に触っちゃうと…ふふっ♥」

にちゃり。

彼女が指の一本を、肉茎から離すと同時に、幻聴が、僕の耳を犯しました。
スキンを付けているのですから、愛液なんて、外に漏れるはずもないのに。
でも、僕の目には、オチンチンと彼女の指を繋ぐ、無数の粘糸が見えました。
そして、その一本一本が、僕の神経に繋がっているように感じられました。

だから、ちょっと動かすだけで…。

「私の魔力が、貴方のカラダに流れ込むの…♥」

にちゃり。

蠢く指に、オチンチンは翻弄され、きゃうんっ、と子犬のように鳴く僕。
精液の代わりに、どくどくと愛液を吐き出す僕のモノは、
彼女の手の中でもがくように跳ね回ります。

しかし、悪魔がそれを逃がすはずもなく、
彼女は先程と同じように、オチンチンの愛撫を始めました。
同じ動き。同じ攻め方。でも、快感は何倍にも強く、激しく。気が狂いそうなほどに。

「大丈夫? ほら、オチンチンが辛いなら、こっちに集中してみて…♥」

そんな僕を気遣ってか、それとも、もっと弄ぼうと思ってか。
彼女は空いた手を伸ばし、僕の胸に触れると、その先端をくりくりと弄り始めました。

当然、そちらの手も、グローブは外されています。
即ち、アソコと同じ刺激が、胸にまで。





「どう? 刺激が分かれて、辛さが減ったでしょう? うふふっ…♥」

得意げに語る彼女。
確かに、刺激は分かれました。辛さを減りました。
でも、快感は。減るどころか、むしろ、倍増。相乗効果。
こんなの、耐えられるはずがありません。人間が耐えられるレベルじゃありません。

いっぱいいっぱいになった僕は、もう、我を守ろうとしか考えられなくて。
僕は、胸とアソコに触れる彼女の手に、自身の手を重ねて、強く握り締めました。
それ以上動かさないで、と。喋ることもままならない口に代わり、そう伝えようと。

ですが…。

「あっ…♥」

それが重大なミスだと気付いたのは、ほんの一瞬、後のことでした。
そうです。彼女の手。肌。そこに、僕は自分から、直接触れてしまったのです。

「や…、だめ…♥ そんな…手なんて握られたら、ドキドキしちゃう…♥」

…その末路は、語るに悲惨なものでした。
オチンチンは、薄皮とはいえ、スキンを通して触れていました。
それも、主神様の加護によって守られた、破魔のスキンで。
だからこそ、あの程度の快感で済んだのです。そう、あの程度で。

「…? …あっ……もしかして、今、イッて…♥ やぁん…っ♥」

頬を染める彼女。その手の中で、何度も打ち上がるオチンチン。
そう、僕は…彼女の手を握った瞬間、また、達してしまいました。
射精の叶わぬ絶頂を、またも体験する僕。癒えぬ渇き。溜まる欲望。

「あ…でも、良い感じだわ♥ ほら、見て。こんなにいっぱい、愛液が溜まってる…♥」

応えのない絶頂の中。
彼女が僕を呼び、スキンの先端を摘まみあげ、僕に見せました。
深い呼吸を繰り返しながら、僕はゆっくりと顔を上げると、
確かに、彼女の言う通り、そこにはたっぷりと愛液が詰まっていました。
パンパンに膨らんだそれは、今にも破裂しそうです。よくもまあ、あんなにいっぱい…。

「ふふっ…♥ あー……むっ♥」

その刹那。
不意に、彼女は意地悪な笑みを浮かべ、大きく口を開けると。
その膨らみごと、僕のオチンチンを、ぱっくりと咥え込んでしまいました。

「んふっ♥ んむぅ…、まはイッへる……♥」

咥えられた瞬間の衝撃。それはもう、例える言葉も見つからないほどに強烈で。
そして、精液に代わり、何度も、何度も吐き出される愛液。仮初めの射精。
それを受け止め、溜め込むスキンは、ますますその先端を膨らませていきました。

「んぅぅ…、んぢゅっ…♥ もうひょっと…♥」

一方で、僕のモノを咥えながら喋る彼女の表情は、恍惚としていて。
端正な顔立ちであるだけに、その姿が、僕にはとてもいやらしく感じられました。
こんな美人な人が、僕のオチンチンを咥えている。それだけで、もう一級の興奮材。
なのに、彼女は舌や頬裏、上顎を巧みに使い、更に僕を滾らせようとしてきました。

「ちゅっ…ぢゅるっ、れろ…っ♥ ちゅぅぅ……っ、ちろちろ…♥」

裏筋を舐め上げる舌の動き。竿に吸い着く唇の柔らかさ。亀頭を伝う唾液の粘り。
そのひとつひとつを感じているうちに、もう、僕は何度達したことでしょう。
身に着けたスキンは、最早、愛液を注ぐ隙間もないほどに膨らんでおり、
ほんの僅かな衝撃を与えただけでも、脆くも破れてしまいそうに思えました。

でも、これは『無精のスキン』。
どうあっても、魔物には傷付けることができる代物ではありません。
それを彼女は、いったいどうやって解こうというのでしょう。

「…もう、ふこひ…♥」

疑問に思う僕。その眼下で、彼女は一度顎を引き、先端に口を移すと。
鈴口を食み、その小さな隙間に舌を捻じ込みながら、勢いよく吸いつき始めました。

「んっ…ちゅぅぅぅ…っ♥ ぢゅるるっ、ちゅぅぅ…っ……ちゅっ、ちゅっ♥」

音、響くより早く、僕の芯を駆け巡る、快楽の稲妻。
魂までも吸い出されそうな、強烈な啜り上げ。狂おしいまでの刺激の津波。

あまりに激しい行為。
それを受け、尿道の中を流れていた愛液が、
彼女にひっぱられるようにして、外へ外へと、次々に押し出されていきます。

どんどん、どんどん、どんどん…。
そして、愛液の全部が吸い尽くされるかと思えた、その時。

ちゅぽんっ、と。
彼女が突然、オチンチンから口を離したと思いましたら。

「BANG♥」

と、スキンの先端に、軽くデコピンを放ちました。

すると…。





―パンッ!





なんと、まるで彼女の合図に応えたかのように。
鉄壁を誇っていた、あの『無精のスキン』が、先っぽから破裂してしまったのです。

「うふふ…♥ やっぱり、内側から壊されるのには無防備なのね♥」

下半身に飛び散る愛液と、スキンの破片。
内側からなんて、まさか、そんな壊し方があったなんて。

呆然と、剥き出しになったオチンチンを見つめながら、途方に暮れる僕。
そんな僕とは対照的に、瞳を爛々と輝かせ、舌なめずりをする、悪魔のお姉さん。

「ごめんなさい、いっぱいガマンさせちゃって…♥
 さあ、これからは思う存分、すっきりしましょう♥」

獲物のカラダに跨りながら、そう述べる彼女に、恐る恐る、顔を上げる僕。
彼女の瞳には、その時の僕が、どう映っていたでしょう。期待。不安。待望。恐怖。

…でも、少なくとも。
その顔は、きっと、他の人には見せられないものとなっていたことでしょう。
彼女相手にだからこそ見せてしまった、秘密の表情。おねだりの顔。

「勿論、初めては、ナカで……ね…♥」

くちゅり。

屈んだ腰、その最下部を彩る、彼女の秘密の花園。
桃色に熟れたその場所は、触れる僕のモノを愛おしげに咥え込むと、
ねっとりと愛液を塗り付けて、御馳走を前に涎を垂らしていました。

初めて。初めてのセックス。それも、ナマで。
分かっています。これがいけないことだって、分かっています。
でも、もう、逆らえません。僕のカラダは、彼女の色に染まり過ぎました。
触れて、触れられて、手も、唇も、胸も。心さえも、既に彼女の手中にあって。

だから、いけないことだと分かっていても。
頭では分かっていても、でも、もう、カラダが勝手に……。

「それじゃあ、ゆっくりいくわね…♥」



…おねえさんっ……!



「ひゃううっ!?♥♥♥♥♥」

ぐちゅんっ…!

それは、一瞬の出来事でした。
彼女が腰を沈めるよりも早く、自ら腰を突き上げた僕。
一気に最奥まで飲み込まれたそれは、無数の襞が、僕のモノを包み込んで。

驚き、甘ったるい声を漏らす彼女。その姿に、僕は、胸を震わせながら。
彼女の最奥で…ありったけの、溜まりに溜まった精子を、容赦なく吐き出すのでした。

「ふあっ、あっ…♥ 熱いの…でてるぅ…っ♥
 も…もうっ…♥ いきなりなんて、反則よぉ…っ♥ あっ…♥」

お姉さんっ…、お姉さんっ…。

すがるように、求めるように、彼女に甘え乞いながら、僕は子種を注ぎ続けました。
腰をめいっぱいに浮かせて、彼女との距離を、ゼロのゼロにして。いっぱい、いっぱい。

「は…っ♥ ふふ…♥ でも…ここまでいっぱい、ガマンしたものね…♥ えらい、えらい…♥」

そして、そんな僕を、彼女は上体を寝かせて、ぎゅうっと抱き締めると。
僕の頭を抱えて、何度も繰り返し、イイコイイコと撫で、褒めてくれました。

満たされる…。あらゆるものが満たされていくのを感じます。
僕が欲して止まなかったもの、その全てを、彼女が与えてくれているかのようでした。
なのに、僕ときたら、もっと、もっと彼女に甘えたいだなんて、
そんなわがままな想いばかり湧いてきます。
ダメだと分かっていても、カラダが勝手に、彼女に甘えてしまいます。
心が、僕の心が、どうしようもないほどに、彼女を求めてしまうのです。

「…落ち着いた? それじゃあ、後は、私に任せて…♥」

長い時間を掛けて、たっぷりと注がれた精液。
たぽたぽになったお腹を抱えながらも、彼女は僕に優しく微笑むと、
続きをしようと告げて、ゆっくり、腰を上下に動かし始めました。

「…んっ♥ ふっ♥ あっ…♥ んんっ♥ ふふっ…、まだこんなにおっきい…♥ あんっ♥」

ぱちゅっ。ぬちゃっ。ぬちゅんっ。

軽快でリズミカルな、水と肉とが擦れ合う音が、部屋の中にこだまします。
彼女のナカは、まるで彼女の人柄そのもののように、ゆったりとしたもので、
しかし、包み込む力は強く、僕のモノを、奥へ奥へと導いていく動きを見せていました。
愛液の量も多く、僕と彼女のアソコには、
もう、沢山の粘糸が橋のように掛かっています。
包皮から覗くクリトリスも、ぷっくり熟れて。
乳首と同じように、コリコリと硬く。
時折、彼女はそれを僕の下腹部に擦りつけながら、
生じる甘い刺激に酔い痴れていました。

「やっ…♥ 貴方の…いいトコロに当たってっ…♥
 んっ…ぁ、だめっ…♥ 恥ずかしい声、出ちゃう…っ♥」

淫らに喘ぎ、腰を振るい続ける彼女。
その胸元では、大きなおっぱいが、たぷん、たぷんと揺れています。

なんてエッチな光景。
弾ける果実の誘惑に負けた僕は、
思わずそれに手を伸ばし、手のひらいっぱいに揉み上げました。

「やぁんっ♥ あぁっ…♥ はっ…♥ いいわ…♥
 おっぱい、貴方の好きにして…♥ 貴方のものに……、くぅんっ♥」

僕のもの。このおっぱいは、僕のもの。
さながら、母親のおっぱいを独占する赤ん坊のように、
僕は夢中になって彼女の胸を揉み、その先端に吸い付きました。
硬くなった先端に舌を這わせ、ちゅうちゅうと吸うたびに、
甘い香りが脳を犯し、心が幼くなっていくのを感じます。

「ふぅっ…♥ んっ♥ そう…っ♥ そうよ…♥ 私は、貴方のもの…♥
 だから……あんっ♥ なんでも…してあげるっ……♥」

なんでも。なら、お願い、どうか。
ずっと、僕と一緒にいて。僕とこうしていて。

朝、ベッドで起きたら、僕の隣で寝顔を見せて。
お昼、食卓に着いたら、手作りのご飯を食べさせて。
夜、お風呂に入ったら、一緒に身体の洗いっこをさせて。

明日も、明後日も、そうやって、ずっと、ずっと…。

「ふぁっ、あっ…♥ 愛して…あげるっ…♥ んぅっ♥
 可愛がってあげる…っ♥ はっ♥ 甘えさせて……ぁっ…きゃうんっ♥」

あぁっ…。結婚、結婚したい。お姉さんと。
子供。子供も作りたい。作ろう。いっぱい、作ろう。
僕、頑張るから。いっぱい、出すから。お姉さんに。いっぱい。

だから、お願い。
もっと強く、僕のことを。
もっと激しく、お姉さんのことを。

「あっ♥ やっ♥ だ、だめっ…♥ そんなっ…こと、いっちゃ…♥
 私の方が…甘えたく…なっちゃ……ぅぅんっ♥ やぁっ♥」

あっ。だめ。もう。ぼく。
おねえさん。おねがい。おねがいっ。

あまえてっ。ぼくに、いっぱいあまえてっ。
ぼくも、おねえさんに、あまえたいから。あまえてほしいから。
いっしょに。おねがい。いっしょに、あまえて。ふたり、いっしょに。

「ひぅっ♥ あっ♥ やっ♥ イくっ♥ イっちゃうっ♥
 あぁっ♥ はっ♥ いっしょ♥ いっしょにぃ…っ♥」

おねえさん。おねえさんっ。おねえさんっ…。

「はっ♥ ひぁっ♥ あっ♥ あっ♥ んっ♥ あっ♥
 すきっ♥ あっ♥ すきっ♥ すきっ♥ すきぃっ♥ あぁっ♥」

おねえさんっ………!

「あっ…♥」





「ひぁっ……ああああぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ♥♥♥♥♥♥♥♥」





……………

………




それから、幾月かの時が流れて。
何やかんやとありまして、僕は今、彼女と一緒に暮らすこととなりました。

「うふふっ♥ ね、ダーリン、今日のお昼は何が食べたい?」

ベッドに腰掛け、本を読む僕に、べったりとくっついてくる彼女。
同棲を始めてからというものの、毎日、こんな調子です。くっつき虫。

とはいえ、僕も人のことは言えませんでした。
彼女がこうしてくっついてこない時は、僕の方から、彼女にくっついているのですから。
つまりは、似た者同士なのです、僕達。
それでいて、お互いがなくてはならない存在でもあって。
同族嫌悪という言葉は聞いたことがありますが、
この場合は、いったい何と言うのでしょうか。

さておき、僕は読みかけの本を閉じて、彼女の質問に答えました。
すると彼女は、ぱっと満面の笑顔を浮かべて、
その尖った耳をぴこぴこと跳ねさせました。

「鶏の唐揚げね、分かったわ。腕によりをかけて作っちゃうんだから♪」

ウインクしながら、ガッツポーズ。
可愛い。世界一可愛いです。疑いようがありません。

あぁ、幸せです。この日々を、幸せと言わず何と言うのでしょう。
聞けば、なんでも、彼女はわざわざ敵国の奥深くにまで入り込んで、
お婿さんとなる男性を探していたそうですが、まさかそれが僕になるとは。
それによって、こんな幸せな毎日を手にすることができたのですから、
偶然の神様には感謝しなければいけません。幸せを届けてくれて、本当にありがとう。

「…あ、そう言えば、さっきお買い物に行ったとき、こんなものを買ったの」

などと、神様に感謝を捧げていると。
ふと、彼女はそう呟き、買い物袋から何かを取り出して、僕に見せました。

彼女の手の中で光る、その小さなものは、僕にも見覚えのあるものでした。
そうです。あれは紛うことなき、『不精のスキン』。

「あの時、ガマンしているダーリンの姿、すごく可愛かったから…♥」

つい買っちゃった、と。

僕達にとって、ある意味、運命の赤い糸とも呼べるそれを手にしながら、
僕の返答を待ち、そわそわと身体を揺らす彼女。期待している眼差し。
それを見て、どうして断ることができるでしょう。僕は笑顔で、頷きを返しました。

「やった♪ ダーリン、大好き♥ んー…、ちゅっ♥」

お礼のキスを受け、照れつつも、僕もキスを返しながら。
そのまま、彼女の耳元で、僕もそっと、自分のお願いを口にします。

「えっ? あの時のソックスを履いて…足で…?」

…我ながら、ちょっと変態が過ぎましたでしょうか。

「…うふふっ♪ もちろん、いいわよ。いーっぱい、してあげる♥」

ご飯を食べたらね、と付け加えて、くるりと背を向ける彼女。
そして、軽い足取りでキッチンに向かうと、エプロン姿になり、料理を始めました。

ご飯を食べたらね。
果たして、それまで保つでしょうか。
いつも、僕か彼女、どちらかが耐え切れず、相手に甘えてしまうのです。
ほら、現に、彼女はエプロンの下で、足と足とを擦り合わせて、もじもじしています。
そして、僕も。これからの行為を想像して、自然と、アソコに手が伸びてしまって。

「……ね、ダーリン」

そして、同時に恋人へと声を掛ける、僕と彼女。
その偶然に、顔を見合わせ、どちらからともなく笑い出しました。

「ふふっ♪ じゃあ、今日は私から、いっぱい甘えちゃお…♥」

ひとしきり笑った後。
指に挟んだスキンをちらつかせながら、彼女が妖しい笑みを浮かべます。
果たして、その行為によって、本当に甘えるのはどちらなのか。
そんなことを考えながら、僕はベッドに横になって、彼女に全てを委ねました。

「…♥ 可愛い…♥ いつ見ても、何度見ても。私の、私だけの、可愛いダーリン…♥」

傍らに歩み寄り、僕の頬を、彼女は優しく撫でて。
そして、目を細め、そっと…その唇を、僕の唇へと近付けました。

「…ね、ダーリン」

甘い生活。甘え合う生活。
それは尽きることのない、僕達の未来。
例え世界が滅びようと、それが途絶えることはないでしょう。

僕が、彼女を望む限り。
彼女が、僕を望む限り。

「今日も、いっぱい…」




















「いっぱい…私を、好きになって♥」

スキンシップは、続いていくのです。
17/03/21 21:45更新 / コジコジ

■作者メッセージ
ごめんなさい、また欲望に負けてしまいました…。

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33