連載小説
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『きょうき』の男
レスカティエのとある一画。
「で?どうだったどうだった!?」
十数の魔物が集まっている。その中の一人、サキュバスのノーラがパルメに訊ねる。
「……ど、どうって…」
パルメは昨日の夜のことを思い出し顔を赤らめた。
「何言ってんの!『シ』たんでしょ!!」
「それは、うん」
「で、彼は受けたの?攻めたの?」
サラムがダークエルフらしい質問をかける。
「いきなりそこからか!?」
ドラゴンのカサナが呆れた。
「いや、その……攻めとか、受けとか…そんなのは…」
「じゃあノーマルだったわけね」
「イヤ〜ン!それでもいい〜〜〜」
「…いや、何であんたが喜んでるのよ…」
どうやら昨夜のラクルとパルメの情事について話し合っているようだ。
……朝から…。
「どう、どうだったかと言われれば……気持ち良かった///」
「ホホウ……私の娘を気持ちよくさせるとは…、中々のテクニシャンだな」
信じられない事に親姉妹まで集まっている。
「いや、その……テクニシャンって言うか…彼の体とか、アレがこう、変化して…」
パルメはそこで顔を赤くしぼんやりとした目つきに変わる。
「……あれ?お〜いパルメちゃ〜ん?」
ノーラがパルメの目の前で手を振る。
「…ハッ!」
元通りの顔に戻る。どうやらトリップしていたらしい。
「……重症だな、これは。一体何があったんだ…」
我が娘婿にメルセは思いを馳せる。
(……そんな激しくスるような奴には見えなかったんだけどな〜)
「うおっ」
突然男の声が響いた。
最初は自分の夫の声かと思ったメルセだが、
(いや、これは…)
声のしたほうを振り向く。
ラクルがいた。
「いよう、娘婿」
「ああ……えと、どうも」
ペコリとラクルはお辞儀した。
「昨日は良く眠れたかい?」
メルセの夫が冗談で言っているのか、『事後』の事を言っているのか良く分からない事を言う。
「はあ…まあ…」
「ところでラクル、私の娘がさっきから変なところにトんだり戻ったりしているんだが、…昨日何かあったのか?」
「……いや、あったっちゃあいろいろあったんですけど…」
「そうなのか?」
「いや、だって……ねえ?」
ラクルも若干顔を赤らめて、分かるでしょ?、という風に目線をチラチラと送る。
「この国でそんな顔をしてもどうもならないぞ。皆ズケズケ聞いてくるからな」
「まじですか!?」
「よっぽどダメな事以外はな」
「で、何かあったのか?そうだな、普通の体位じゃなかったとか…」
「……えと…いや、まあ普通かどうかは分からないですけど、その…前からと、後ろからですけど」
「ふむ、普通だな」
普通ね、と横で聞いている魔者達も頷く。
「他には?」
「他?……それだけですけど…」
「?そうなのか?」
「ええ、それだけです」
「え〜〜ホント〜〜〜?」
ノーラがしつこく糾弾する。
「いやホントだって」
「そうか…」
では、なぜ娘はこうも…、とメルセが思っていると、
「いや、その後パルメが眠そうだったからさ。ちょうど一段落したからパルメを抱き上げて…」

キャアアアアアアアアアアア!!!!

悲鳴…いや、嬌声が上がった。
驚いたメルセが至近距離から聞こえた声の方を向くと、
パルメが顔から煙を上げて真っ赤な顔で宙を見ていた。

…………………………。

「そこ!」
ビシッとノーラがラクルを指差す。
「な、なんだよ?」
「どうやってパルメちゃんを抱き上げたの!?」
「いや、こう尻尾を左腕にかけて、右腕に上体をのせて……」
「つまりそれは……!!」
ノーラが一つの単語を思い浮かべる。
他の魔物達も同じ単語を思い浮かべた。
そして同時に、

『お姫様抱っこ!!』

と叫んだ。

キャアアアアアアアアアアアアア!!!!

またパルメが壊れた。
「……そう、なのかな?」
ラクルだけが理解していなかった。
「いや、お姫様抱っこじゃないそれ!夢見る乙女がさらに夢見る究極の必殺技!!」
「……そんなものなのか?単にあれが一番負担かからないかな〜、って思っただけなんだけど」
「いいなああ〜〜!パルメちゃんいいな〜〜〜!!」
ノーラが目をキラキラさせる。
「しかし、パルメはエキドナのはず、どうやってあの長い胴体を抱えられたんだ?」
「いや、こう腕を変化させて…」
ラクルの腕の幅が布のように広がる。
抱っことしてはかなり不気味な光景になるだろうが、
「そっか〜〜〜!ラクルはそういう事ができるんだもんね!いい〜〜な〜〜」
「そんなにいいのか?」
「当たり前だ。魔物は重かったり長かったり太かったりする部位があるからな」
確かに魔物の体は抱っこなどには対応できていなさそうではある。
「で、ウチの娘はああなっていると」
いまだ壊れている自分の娘を見てメルセは、
(……ま、慣れだな。頑張れパルメ!)
そう思った。
「ところで、セトを見ませんでした?」
ラクルが当初の目的を思い出して訊ねる。
「セト?」
「ええ、まだ見てなくて…」
「セトなら昨日借家に戻ったぞ」
カサナが答える。
「ああ、見てみたんだけどそこにもいないんだよ」
「ふ〜ん、どこか散歩してるんじゃない?」
「…確かにあいつは習慣で散策をするけど…」
「習慣?」
「ああ、いざってときの逃走経路のためのな」
「……そっか、そういう…」
「あ、別にあんたらのことを信じているいないの問題じゃなくてな」
「心配するな。そんなこと思っておらん」
「そうか……。しっかし、あいつの匂いもあまりしないんだよな…」
「……町の外に出てる、とか?」
「…それは滅多にしないんだが……」
「もしかすると…」
サラムがポツリという。
「昨日のあの顔かな…」
「顔?」
「ええ。ちょっと、なんか暗い影を見たような…」
「……暗い…影…」
「ええ……何か、まずい?」
「……分からない……でも…」
「だったら、探しましょうか?」
いつの間にかデルエラが横にいた。
「おわっ!」
「デルエラ様!」
「気になるじゃない、その子」
ね?、という顔でカサナを見つめる。
カサナは顔を横に向け、コホンコホンと咳をした。
「この前のように本格的な魔術で見つけるのが確実だけど…」
「いや、そこまでしてくれる必要は…」
「おもしろいからやりましょう!!」
さすがは魔物の中の異端児。やる事が素早い。


「お、映ったわね」
水晶には草原、のように見える風景が映っている。
「……草原かと思ったけど、ちょっと違うな」
「ええ、これは森よ。少し開けた場所ね」
「…でもどうしてこんなところにセト君が?」
疑問で頭を埋め尽くされているこちら側に対してセトは微動だに動かない。
『……あんたが来ると思っていた』
セトが急に口を動かした。
「え?何誰かいるの?」
ノーラが言い終わらないうちに奥の森から人影が出てくる。
『よ〜う、久しぶりだな〜』
「?誰あれ?」
二の腕をむき出しにしたラフな格好の男が現れた。
「……まずい」
ラクルの顔が険しくなる。
「まずい…まずいぞ!これは!」
「ちょ、ちょっとどうしたの!?」
「デルエラさん!頼みがあります!」
「な、なに?」
「この前捕まえた狩人の3人と会わせてもらって……、それで、解放してもらってもいいですか…」
「…どうして…?」
「今回の敵は俺とセトだけじゃ無理です。いや!勝てない!あの3人が入っても時間稼ぎになるかどうか…」
「敵って事は…」
デルエラが水晶に目を移す。
「この男の事?」
「はい、……たぶん…セトの父親です…」
その場が凍りついた。
「ち、父親って…あの……その…」
ノーラが言葉を探ししあぐねる。
「ああ、……くそやろうだ…」
「……分かったわ、一応会いに行きましょう。他の者は戦闘準備!」
「ダメだ!……ダメです!あいつの強さは異常なんです!直接対峙した事も見たことも無いけど…分かる!」
言葉が一瞬途切れる。
「……こいつは…ヤバイ…へたをすればこの国自体が消えるかも…」
そのまま時が硬直するように感じた。
「…まずは、あの3人の所へ行くわよ。着いてきなさい」
頷いたラクルと共にデルエラは全速力で駆けた。
「…さあ」
その場に取り残された集団で先に声をあげたのはウィルマリナだった。
「何してるの?私達も取り掛からないと」
その言葉で一気に時が動く。
しかし同時に誰もがこう思っていた。

かつて国をも気分で壊した化け物に、果たして勝てるのだろうか…、と。




キイイ
牢屋の扉が開く。
「なんだ?何かあったのか?」
流石はプロ、気配で状況を察せるようだ。
「いきなりで悪いが、あんたらに協力を頼みたい」
それに反応して残りの二人も意識を集中する。
「……セトの父親、…カミヤ・スキョウが現れた」
緊張の意図が一瞬で張り詰める。
「なんだと…」「それはまずいですね」「……」
「…手伝ってくれ」
「正気か?……死ぬぞ。絶対とはいえないがな」
「まあそうじゃろうな。あやつの『殺し率』は九割九分九厘。残りも気分で生かされたと聞く」
「それでも止めなければだめよ。私達の国が危なくなるんだから」
「アホかあんたは、あいつは存在自体がやばいんだ。国なんてあいつにとっちゃ藁小屋みたいなもんなんだよ。人間なら……そうだな、塵以上ゴミ以下ってところか」
「おそらくこの前のセトという子に関係しているんでしょう。無視…ということは…ダメでしょうね〜」
「ダメじゃろうな」

ダン!!

ラクルが石畳に強く頭を打ち付けた。
「俺にとっちゃあこんな土下座……安いもんだっては分かってる。けど……頼む、助けてくれ……。セトを助けて欲しいんじゃない、この国の人達を……頼む」
「………はあ、ガキ、確かに俺らも助けたい。俺らの目標はあくまでも罪人の消去だ。当然スキョウもそれに入る。だがあいつに勝つことはたぶん無理だ」
「……」
「だから……勝つつもりで行くなら俺は協力しねえ。だが、撤退……つまり国捨てる覚悟で行くなら、助けてやる」
「ちょっと!国も助け「黙ってろ!」
「……」
その勢いにデルエラが口を閉じる。
「俺らだって分かってる。元から魔物なんてアウトオブ眼中。命令でもない限り手はださねえ。つまり協力も場合によっちゃあするんだ。だが今回は別だ!ほんとにこりゃあまずい状況なんだぞ!分かってんのか!?教団や人間が止み社会まで引っ張り込んで本気出しても勝つことすら出来なかった野郎だ!」
「まあまあそこまでにしておきましょうよ」
テオが口を挟む。
「要するに国を捨てる覚悟なら僕達も付き合う。ダメなら僕達は何もしない、ということです」
「あなた達も危ないのよ」
「確かに。ですが逃げるチャンスがある可能性はあります。それを振り捨てて死にに行くよりはましでしょう」
「……っ」
デルエラが歯噛みする。
「よ〜く考えておくれなお姫様。あんたらに平気で向かった俺らでさえも尻込みするんだ」
「……魔界の姫よ、時には捨てるものも必要じゃ。人間が今は劣勢にたっているとはいえなぜここまで巨大化したと思う。神の助けもあったがそれは己の意思を捨てたからこそ神に続けたのだ。人間は無意識にいろんなものを捨てている。じゃがそれが表面化すれば戸惑う。果たして捨てるべきか否か。これが運命の分かれ道じゃ。今も人間は戸惑っている。果たして神を捨てるべきか、否か。お主達魔物から見ればこの場合捨てることが良いのじゃろう?それと同じよ、ワシらから見ればこの一件は捨てることが上策かつ良策。……どうじゃ?」
「……分かったわ、別に人間の話に乗ったのが気に食わないわけじゃないけど…、何か気に食わない。でも、……乗ったわ」
「……うし!そうと決まれば行動だ!武器を返してもらうぜ」
コクリと頷きデルエラは出て行った。
「……ありがとう、ございます」
「あん?」
ラクルがお辞儀をしていた。
「だって、わざと自分達を使うようにしていたじゃないですか」
「…気のせいだろ」「気のせいですね」「気のせいじゃ」
そういいながら次々と出て行く。
「言っとくがよガキ、俺らは曲がりなりにも良い人、じゃねえんだ」
アサシンのレクソが階段を昇りながら言葉を放つ。
「ただ、ちっとばかし生きるために何か付属品をつけるような乙な真似事はするのよ。俺らはその才能があるからな。おっと俺だけな、俺だけ」
ほざけ、聞き捨てなりませんね等と軽口を叩き合う3人を見ながらラクルも階段を昇り始めた。



「ラクル!」
準備を整えていたパルメがラクルを目にして跳び付く。
「パルメ!」
「ラクル!どうしよう!カサナが!」
その言葉を聞き未だ現場を映している水晶に急ぐ。
「ラクル君!」
「何があったんですか!」
「他の人達が動いている間に僕は事態を確認していたんだけどね。端的に言うよ。セト君がピンチで、いつの間にか助けに行ったカサナちゃんもピンチだ」
それだけで充分だった。
急いで目当ての森へ向かおうとすると義父が小さな石を投げてきた。
「通信用の小物だ。セト君達の状況も聞ける。今現在主力部隊で包囲している!」
「急いで退却させてください!後でデルエラ様からもそうくるはずですから」
それだけ言い、足を強化させ駆け出した。


「問題外だよなあ〜。息子が親父の命を狙うなんざ」
「グブッ」
クソッ、歯が……たたない…。
セトは木を背にして倒れていた。
「おヒいおいどうした〜セトちゃ〜〜ん」
含み笑いをしながら近づいてくる。
その片手にはカサナが髪の毛を掴まれたまま身を捩っている。
「っ……あっ…」
「カサナ!」
「し〜っかし驚いたぜぇ、こんな綺麗なガールフレンドがいるなんてよお。隅に置けねえなぁ、うん?流石は俺のガキだ」
怒りのようなわけの分からない感情が爆発する。
「ふざけるな!!」
「……へえ、ってことはお前勢いでコイツをヤってねえのか。なるほどなるほど」
「こ……ウッ」
カラダが動かない。ここまで差があるのか!?
「つーことは、俺がもらってもいいってことだよなあ?」
その言葉にカサナの目が開く。
「ヒ、あ」
「うむふふふふ、なんだ?こええか?ん?」
「う、ウウ」
「ふわは、あはああはは、いいねえその表情。久しぶりだ」
「く、くそっ!」
「無理すんなよ、セトちゅわん。……そうだ、どうせならお膳立てしてやろうか」
……なに?
おもむろにスキョウがカサナをセトに近づける。
「どうだ、お膳立てしてやろうか?」
この野郎…。
「ふざ、けるな…」
「ふ〜ん、お前はまだどうとも思ってないようだな。てことはわ〜お!カサナちゃん、君が好いてるのか。あ〜はっはっはっはっは!」
ひとしきり笑った後に、
「どうだ?カサナちゃん?お膳立てしてやろうか?」
「……」
「ためらってるのか?ん?」
そんなわけないだろう!
「なんだよ。好きな奴と結ばれるんだぜ。ほらこうして股開いて動かしてやるからよ」
「お、お前は…」
カサナが口を開く。
よせ!!
「お前は、魔物を……バカにしている…」
「ん?」
「わた…しは、そんな強引には、しない……。したく、ない」
「…あっれ〜?おっかしいな〜、魔物は強引だと聞いたんだけどな」
「それは……個人による、だけだ。魔物にもいろんな、やつらがいる……」
よせ!カサナ!しゃべるな!
だがセトの思いとは裏腹にカサナは口を開く。
「強引に押し倒すのも、男が本当に……本当の本当にいやがるまでする奴は……ごく少数だ」
「……ふ〜ん」
「そのうちには……お前のような、罪人が入る…。強引な思想には、強引に対処する……っ……当然だろう…」
「な〜るなる、墓荒らしとかがそうなるのね」
自分が皮肉を言われたのに気付いているのかいないのか、相変わらずスキョウの顔には笑みが広がっている。
…狂人のような笑みが…。
「クハハッ!そいじゃあ、お膳立てしてやるわ!」
「な……に?」
「ん?当然だろ。俺は気分で動く。お前がどんな思想を持ってるなんざ関係ねえんだよ」
そう言ってカサナの足を強引に広げる。
「う……あ…」
「安心しろ〜、俺はお前にまだ興味ねえよ。『まだ』な。それにお前らもまんざらじゃねえんだろ?本気で嫌なわけじゃねえんだろ?まあ俺には関係ねえがな」
そのまま下着も下ろし恥部をセトに見せる。
「ほ〜らご開帳!ハハッ!キスもしてなさそうな間柄だが、刺激は大丈夫か〜!?」
くそっ!
セトは目を瞑る。
「あららら?どうしようカサナちゃん?セトは君に気がないようだよ?どうしよう?こんなに大勢に見られる中で頑張って足を開いたのに」
どうやら囲まれている事には気付いているらしい。
「聞くな!カサナ!」
「かわいそうにねえ、不甲斐無い不甲斐無い」
「聞くな!」
「勃起もしてねえしな。ったく、セト、目を開けろ」
ギュッと目を瞑る。
「セト」
急に声音が変わる。
「見ろ」
「カハッ」
腹を蹴られた。
刺激に目が開く。
そのままスキョウが開いた片方の手でセトの顎をつかむ。
目を瞑ろうとすれば力をこめて強引に目を開けさせる。
「見ろ」
セトは目にした。
初めてであろう女性の恥部は閉じていてまだ男を知らないように見える。
しかしそこから漏れて見える『肉』も色や匂いはまぎれもなく女だという事を、性器だという事を認識させる。
「ハア……ハア……」
「セ、セト…」
セトの声が荒くなる。
「見ろ。見ろ。見ろ」
だんだんと恥部を近づける。
その度に目を瞑ろうとするが、同様に開けさせられる。
やめろ、おれに近づけるな。
思わず目を宙にそらすとカサナと目が合った。
カサナの目は潤んでいる。
恥ずかしさによるのか、恐れによるのか、期待によるのか、頬もほんのり上気している。
理由はともかく、それだけでセトは体の血が騒ぐのを感じた。
今やカサナの恥部は目の前までに近づいている。
「どうだ?舐めたくなるだろ?」
先程のように声に軽い響きが感じられない。
「舐めろ。いいんだぜ。何をしても。何をしても良いんだ。犯して犯して犯して、潰して、舐めて、切り刻んで…」
「ハア、ハア、…ハア!」
犯す、舐める、犯す……潰す。
そこでハッとなった。
何を考えているんだ、犯すだけならともかく潰すだなんて!
そこで思考が止まる。
まて……犯すだけ……いや、ちがう!これはそんな意味じゃない!これは!
「…もう遅い。お前も俺のガキだ。俺と同じなんだよ。受け入れろ……俺の血を」
低い声で誘う。
違う、犯す!違う!やめろ!
「さあ、舐めろ。それだけでいい」
「セト……」
違う違う違う違う違う違う!
「待てやコラアアアアア!!」
ズン!!
いつのまにかスキョウはセトの顎を掴んでいた片手を後ろに回しナニカを受け止めていた。
「てめええ!俺の兄弟に何やらかしてんだあああああ!」
「ふん、クソガキがぁぁぁ…」
スキョウはセトがもたれる木の上にカサナを股を開かせた体勢に固定し、括りつけた。ちょうどセトが見えるように。……その間、2秒もかからなかった。
「どうでもいいような動きさえはええな。あ〜あこりゃあマジで死ぬかもな」
「そうですね…」
「割に合わんのは確かじゃ」
いつの間にか狩人も集まっている。
「心配すんなアサシン。これはどうでもいいことじゃねえ。第二の俺を創る為の神聖な儀式だ」
神聖のときに若干笑いながら話すことが白々しい。
「そうだな」
口調は平凡だったがレクソはすでに仕掛けていた。
同時に3人も合わせる。
テオは呪詛をスキョウだけに聞こえるように口ずさみ、ディオは毒の付いた短剣を投げる。ラクルは腕を伸ばして拳を繰り出した。
ガガガン!
スキョウは何もしなかった。
出来なかったわけではない、『しなかった』のだ。
「おいおい、なんだこりゃあ、ひよっこ共がいきってんじゃねえぞ〜」
無傷だった。
レクソの剣は確実に首に当たった。しかし当たっただけで跳ね返り、その衝撃でレクソは手を抱えた。
毒の付いた短剣も拳も同様に当たっているだけだった。
「掠り傷すらせんか」
「傷はともかく、僕の呪詛が効かなかったのが癪ですね」
「当然だろ?剣だろうが呪いだろうが体を弄くるもんに変わりはねえ。だったら頑強な体に剣が効かねえのと同じで呪いも効かねえんだよ」
「……まじいな」
「ああ、お前らにはな!」
ゴン!
レクソが宙を跳んだかのように見えた。
いや、実際に跳んだのが速過ぎて残影すら見えなかった。
そのレクソは木にぶち当たりそのまま動かない。
「ゴハッ!……まじ、で…やべえ」
「!今の一瞬で!!」
その間にも次々と何が起きているか分からない速度でラクル達が吹きとばされる。
あっという間に戦闘不能に陥った。
「ははん、ただのキックでおおげさだなお前ら」
ただのキックで壊滅させられた一同はうめき声しか上げられない。
「で、どうだ?セト?変わったか?」
もう終わったとばかりスキョウは背を反対にしセトに目を向けた。
「クク、いい〜ね〜」
「ハアア!ハア!ハアア!」
セトは目の前の恥部に抗っていた。
「クヒャアアアハアアハハハハ!いいねいいね!まるっきり俺だ!いいぞセト!」
「カサナァ、はなれ、ろ…」
「いいぞいいぞ!襲っちまえ!お前を俺に見せて見ろ!」
それおっそっえ!おっそっえ!
と持ち上げる。
「こ、この野郎!……狂ってやがる…なんでセトにこんなこと!」
ラクルが振り絞り声を上げる。
チラ、とスキョウはラクルは見て答える。
「気分に決まってんだろ。んなん」
「グッ!」
「それより見ろよお!襲うぜえ!セトが襲っちゃうぜえ!!ヒイイヤッホオオオウウウ!!!」
「狂って、やがる」
退却しなかった包囲している魔者達も手が出せない。あまりの狂気に、さらにそれを上回る凶器の肉体に足がすくんでしまっている。
「セト!セト!」
「カサナ!……頼む!どっか!ハア、ハア、ハア!」
「セト……構わない!私はお前になら何をされても…「やめろ!」
「こんなのは俺じゃない!俺でなくなりそうだ!カサナ…おかし…ク!こんなのは!お前が見てる俺じゃない!」
「いいやお前だ!私は……お前を信じる」
「信じるな!俺は……化け物になっちまう。嘘だ…こんなの、犯したい……ああ、カサナ……カサナアア!」
「……来い、セト。……もう、…大丈夫だから」
セトはよろよろと立ち上がり宙にぶら下がるカサナの腰を掴む。
「はいいくぞおお!はいいくぞおおお!ああ!まるで俺を見てるようだ!」
「だまれクソ野郎!セト!ブラザー!なんとかカサナに負担をかけないようにしろ」
「カサ、ナ……」
そのままセトはカサナの下半身に顔を埋めていく……誰もがそう思ったがセトはそのまま腰を素通りし抱きしめる形で動きを止めた。
「ハア、ハア、ハア」
「セト……」
「ブラザー……」
「ハア、ハア、大丈夫だ……俺だ…大丈夫…」
大丈夫と連呼する姿は狂気じみているがまだ一線を越えずに戦っているらしい。
「心配するな……ハア、ハア、カサナ……俺は、大丈夫だ…」
「セト…」
辺りの場が不思議な静寂に包まれる。
聞こえるのはセトの荒い息遣いだけだ。
「なんだよ…」
ふいにその静寂が破られた。
「ふざけるんじゃねえぞコラ。ここまでやってやったってのに触れて抱きしめるだけか!アア!?」
スキョウが、怒りに渦巻いていた。
「このやろおおおお!気分を台無しにしやがってえええ!ゴロズ!ごろじてやる!」
ズンズンセトに近づいていく。
「止まりなさい!」
デルエラが飛び降りてその手に魔力を溜める。
「どけやあああクソあまあああ!お前なんぞをボコボコにしても少しの足しにもなんねえんだよおおおおお!」
デルエラ様! 誰かが叫んだ。
デルエラも身が震えている。
(なによ、コイツ、なんて冗談みたいに…狂ってるのよ!)
グアアアア!
まさしく叫んでもいないのそのような音が聞こえるほどスキョウが手を振り上げる。
そしてその腕を、
「そんじゃああんたにゃあ俺の足しになってもらおうか」
下げずに止めた。
突然わいた声の方向に振り向く。
そこには、
「ようセト、ラブロマンス中だな」
セトの肩に手をおき、顔に笑みを浮かべている男がいた。髪は黒くボサボサ、ボロいマントのようなケープのような布をまとっている。
「おう、そんな目で見んなよ。だいじょぶ!お前の彼女の裸体なんぞ見てねえぞ」
その言葉にセトは、傍から見て分かるほど苦笑し、安堵してしいた。
「親父……」
ラクルがようやっと起き上がりながら声を上げる。
「親父!!」
「チャオ!ラクル兄ちゃん!」
「タマン!」
いつの間にか幼児並みの子供がラクルの傍にいた。
「なんだてめえ…」
「ん?そいつの父親」
「ああ?それは俺だ」
「え?そうなの?」
「……てめえ」
「フハッ、怒んなよボケナス」
ピシ、と場が凍りついた。
「……クフ、クフハハハハハハ!いいぞお前!ああ!?殺してやらァ!!」
スキョウはいつの間にかあの狂った笑みを顔に広げていた。
「アハッハッハッハッハ!ちょっとなにそれ?なんでこんなにキレてんのこのスカタンは?大丈夫ですか〜〜!?」
対する『親父』も笑っている。見ようによっては狂ったような笑いで。
二人とも狂ったように笑っている。
「タマン!事後処理頼む!」
「オールライッ!」
そう言って『親父』は森の奥に身を翻した。
「待てやああああ!こらああああ!」
スキョウがそれを追う。
辺りは再び本来の静寂に戻った。
「さ、皆!気を取り直して事後処理しよう!」
その子供の声に触発され次々と魔物達が出てくる。
まずはカサナとセトを引き離し、続いてラクル達負傷者を手当てし始めた。
「おい」
レクソが声を上げる。
「大丈夫なのか?あの変な奴」
その声が響き渡ると誰もが複雑な表情をした。
「大丈夫だ」
ラクルが返す。
「俺の親父だぜ!もう勝ったも同然だ!」
「そうなのか?」
「ああ、な?セト!」
地面に仰向けになっていたセトは声を搾り出してこう言った。
「ああ……俺たちの…親父だ…」
「プハハハ!ああ、親父だ!アハハハハ!」
ラクルが笑い終わるとテオが疑問を口にする。
「しかし、なぜ彼は森へ入ったんでしょうね。この場で戦えばいいのに。被害が広がるからでしょうか」
それにラクルが急に真顔になり応じた。
「それもあるけど、たぶんそうじゃない。親父は……」
「殺すつもりだね!」
タマンが声を上げる。
小さな子供がそんな言葉を放つとナニカ不気味に思う。
「おお、おお。なんつーガキだ」
「ホントだよ!」
「ああ、ホントだ。たぶん殺すつもりだ」
「それがなんで目の前からいなくなる理由なんだよ」
「ウチの親父は誰かを殺すときには絶対に他の奴に見せないっていう信条がある。だからこの前っつってもあんたらは知らないだろうが、セトが山賊を殺したとき俺が親父の意思に反してるって言ったんだ。周りに魔女とかがいたからな」
「……なんだそりゃ、そんな余裕こいていられんのか?」
「いられるんだよ」
「あん?」
「いられるんだよ。俺たちの親父は」
「……」
「親父は、化け物だ。強いって意味で」
「……そうかい。ま、これで終わりってんなら文句はねえ」
その言葉を打ち切りにラクル達は城へ護送された。



「なんだあああ!?もう逃げねえのかあああ!」
辺りは木々に囲まれている。
「ああ」
「ははん!いい度胸じゃねえか!」
「ああ、もう他のやつらには見えてねえだろうしな」
「ああ!?」
なんでもない、という風に『親父』は手を振る。
「お前にはどうでもいいんだよ。どうせ死ぬし」
「…おもしれえええ寝言だなあああ!」
「喜べよ」
「ああああ!?」
「お前で殺すのは5人目だ」
その理由をスキョウが聞く事はできなかった。
理由は単純いつの間にか胸から手が出ていた。
後ろにまわった『親父』の手が。
「……あ?」
そのままくず折れる。
「さすがに心臓やられるともうお手上げか?」
返ってくる言葉は無い。
「あばよクソ野郎、女子供だけに及ばず老若男女にふざけたもん見せた分と、俺のガキ共に手ぇ出した罰だ」
12/02/10 20:43更新 / nekko
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■作者メッセージ
お久しぶりです!
ってもう覚えていらっしゃらない方々も多いと思われますがnekkoです。
今まで何度か投降しようとは思っていたんですがクロスさんの新しくかかれたあのメッセージにハッと目が覚め急遽内容を縮めたり、もちっとラブ感を出すためにはどうするか!!と考えて打って消して考えて打って消して……を繰り返す間にこんな時期になってしまいました。
バトルやラブ以外の内面等、皆さんの思われる魔物娘への愛情とはちょっと、いやかなり違った表現と思われるかもしれませんがどうかこれだけは信じてください。

nekkoは魔物娘を愛してる!!

ってこんなのは皆さん当たり前ですよね。
柄にも無く久しぶりの投降に興奮していました。恥ずい!
もう一方の方の作品も順次あげていくつもりなので気長に待っていただければ嬉しいです。

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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33