鼓動と羞恥と先生と
クリームの様な、それでいてべたつかない、上品なふわふわに包まれて。
そのふわふわに包まれながら見ていたのは、キサラギという女性の美しい面立ちだった。
彼女の面立ちはどう説明したらいいのだろうか。
月並みな表現では彼女の容貌を語りつくすことはできないが、彼女の眼は澄んだ琥珀の様に煌めき、僕の目を惹きつけて離さない。それだけが僕の言える事実だった。
「……どうかされましたか? テツヤ様」
「え、……あぁ、いや、なんでもない」
「おかしな方ですね」
クスッと笑う彼女。そのみずみずしい唇の端が動くだけで、僕の心臓は高鳴る。柔和に緩んだ頬も、目元も眉も、長い睫毛の先さえも僕の目に焼き付いたかのように離れていかない。
まばたきをする時間さえも惜しくなる。ずっと目を見開き、涙が乾ききるまで見ていたくなる。
そう思った時だった。
ぽこん。
そんな音とともに、キサラギの後頭部に軽い何かが衝突した。
「いたっ」
キサラギは可愛らしい悲鳴を上げ、後頭部をさする。
「なんですか……もうっ、いいところだったのにっ!」
彼女が振り向くと、そこにはルメリでもメリーアでもない人物が居た。その人物は室内だと言うのに深く帽子をかぶり、その帽子の奥から僕たちを見つめていた。
そして、僕と目が合うと、にっこりと微笑んだ。
「ごきげんよう、朝からラブコメとは、いいものを見せてもらった気分だよ」
その人物は静かにそう語り、僕の頭に自分のかぶっていた帽子をかぶせた。
帽子のせいで人相が分からなかったが、どうやらこの人は女性の様だった。
そしてさらに、彼女の胸元にはこの学院の教員であることを示す教員章が着けられている。
「……あなたが、僕たちの担任ですか?」
そう訊くと、彼女はまたにっこりと笑った。
「いかにも。……だけど、自己紹介は君たちが席に着いてから、かな」
皮肉めいた言葉に、僕とキサラギは赤面した。
ルメリやメリーアは既に教室に入っていて、僕とキサラギだけがあの場所に残されていたのだ。しかもあの場所は教室から丸見えの位置だし、クラスメイトの中には僕たちを見てニヤニヤ笑っているものまでいた。
ばつが悪くなった僕たちはそそくさと教室に入り、キサラギと隣り合った席に座る。
しかし、その様子を見ていたクラスメイト達はまたにやにやと笑い、ヤジを飛ばす。
「朝からおアツいねぇ!」
そう言ったのは、サラマンダーのレクシア・エイリーン。
豪快な笑い声を上げながら、僕とキサラギを茶化す。その様子を見ていたルメリが剣を抜こうとしていたが、僕はそれを制止して耐える。
そして耐え続けて、ヤジが止んだところで、帽子の教員は喋り始めた。
「ごきげんよう、諸君。私はコルヌ・レンナット・リリーシャ。君たちを一年間指導する担任教官だよ。担当科目は心理魔術基礎と応用心理魔術になっているけど、基礎的な事なら教えられる。そして、この教員章がある限り、王族貴族平民貧民に関わらず平等にビシバシ指導していくつもり。よろしくね」
柔和な笑顔とは裏腹にコルヌ先生の言葉には力強さがあった。
飄々としたさっきまでのものとは違う、情熱のこもったような言葉。だけどにやにやした締まりのない笑顔がまた、アンバランスで面白い。きっとこの人は本音を言うよりも冗談のほうが好きな人なんだろう。
彼女が笑ってしまうのは、本音を言うのが気恥ずかしいからなのだろうか……。
そんなことをぼんやり考えていると、コルヌ先生はまた喋り出した。
「突然だけど、いまから抜き打ちで班演習を行うよ。長期休暇でなまった体をほぐす準備運動にしてほしいかな。いまから二十分後に班を組んで野戦演習場に集合。わかったね?」
突然のアナウンスに悲鳴を上げる生徒たち。
だけど僕とルメリとメリーアとキサラギは、お互いに目配せをして、班を確認し合った。
そして、同時に、ここで僕たちの力を見せつけてやろうと決めた。
そのふわふわに包まれながら見ていたのは、キサラギという女性の美しい面立ちだった。
彼女の面立ちはどう説明したらいいのだろうか。
月並みな表現では彼女の容貌を語りつくすことはできないが、彼女の眼は澄んだ琥珀の様に煌めき、僕の目を惹きつけて離さない。それだけが僕の言える事実だった。
「……どうかされましたか? テツヤ様」
「え、……あぁ、いや、なんでもない」
「おかしな方ですね」
クスッと笑う彼女。そのみずみずしい唇の端が動くだけで、僕の心臓は高鳴る。柔和に緩んだ頬も、目元も眉も、長い睫毛の先さえも僕の目に焼き付いたかのように離れていかない。
まばたきをする時間さえも惜しくなる。ずっと目を見開き、涙が乾ききるまで見ていたくなる。
そう思った時だった。
ぽこん。
そんな音とともに、キサラギの後頭部に軽い何かが衝突した。
「いたっ」
キサラギは可愛らしい悲鳴を上げ、後頭部をさする。
「なんですか……もうっ、いいところだったのにっ!」
彼女が振り向くと、そこにはルメリでもメリーアでもない人物が居た。その人物は室内だと言うのに深く帽子をかぶり、その帽子の奥から僕たちを見つめていた。
そして、僕と目が合うと、にっこりと微笑んだ。
「ごきげんよう、朝からラブコメとは、いいものを見せてもらった気分だよ」
その人物は静かにそう語り、僕の頭に自分のかぶっていた帽子をかぶせた。
帽子のせいで人相が分からなかったが、どうやらこの人は女性の様だった。
そしてさらに、彼女の胸元にはこの学院の教員であることを示す教員章が着けられている。
「……あなたが、僕たちの担任ですか?」
そう訊くと、彼女はまたにっこりと笑った。
「いかにも。……だけど、自己紹介は君たちが席に着いてから、かな」
皮肉めいた言葉に、僕とキサラギは赤面した。
ルメリやメリーアは既に教室に入っていて、僕とキサラギだけがあの場所に残されていたのだ。しかもあの場所は教室から丸見えの位置だし、クラスメイトの中には僕たちを見てニヤニヤ笑っているものまでいた。
ばつが悪くなった僕たちはそそくさと教室に入り、キサラギと隣り合った席に座る。
しかし、その様子を見ていたクラスメイト達はまたにやにやと笑い、ヤジを飛ばす。
「朝からおアツいねぇ!」
そう言ったのは、サラマンダーのレクシア・エイリーン。
豪快な笑い声を上げながら、僕とキサラギを茶化す。その様子を見ていたルメリが剣を抜こうとしていたが、僕はそれを制止して耐える。
そして耐え続けて、ヤジが止んだところで、帽子の教員は喋り始めた。
「ごきげんよう、諸君。私はコルヌ・レンナット・リリーシャ。君たちを一年間指導する担任教官だよ。担当科目は心理魔術基礎と応用心理魔術になっているけど、基礎的な事なら教えられる。そして、この教員章がある限り、王族貴族平民貧民に関わらず平等にビシバシ指導していくつもり。よろしくね」
柔和な笑顔とは裏腹にコルヌ先生の言葉には力強さがあった。
飄々としたさっきまでのものとは違う、情熱のこもったような言葉。だけどにやにやした締まりのない笑顔がまた、アンバランスで面白い。きっとこの人は本音を言うよりも冗談のほうが好きな人なんだろう。
彼女が笑ってしまうのは、本音を言うのが気恥ずかしいからなのだろうか……。
そんなことをぼんやり考えていると、コルヌ先生はまた喋り出した。
「突然だけど、いまから抜き打ちで班演習を行うよ。長期休暇でなまった体をほぐす準備運動にしてほしいかな。いまから二十分後に班を組んで野戦演習場に集合。わかったね?」
突然のアナウンスに悲鳴を上げる生徒たち。
だけど僕とルメリとメリーアとキサラギは、お互いに目配せをして、班を確認し合った。
そして、同時に、ここで僕たちの力を見せつけてやろうと決めた。
17/05/22 02:30更新 / (処女廚)
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