連載小説
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7.不器用な者にしか見えないものもある。
あれから二週間。
俺は、病院のベッドの脇で、何をするわけでもなく天井を見上げていた。
あの後のことを少し話しておこう。
俺の叫び声に気がついたのか、下から増援が到着。俺が事情を話し、エドモンド、クリスの二名を逮捕。
調べによって分かったこととしては、エドモンドは契約の解除や、盗撮写真などをネタに、式場に出入りしている女性に対して性的暴行を加えていたことが発覚。
最近被害者たちが団結してエドモンドを告訴する計画を立てていたらしく、焦っていた様だ。
当のエドモンドは拘置所で自殺を図り、失敗。警察病院に搬送された。
一方クリスは、真摯に罪を悔い改める姿勢を見せたためか、陪臣の反応も良く、刑は軽くなりそうだという。
もちろん、四人殺害したにしては、という話だが。
彼女に面会した際、こんなことを言っていた。
「もし、最初に貴方に出会ってたら、私はどんな人生を歩んでたのかしらね?」
「そんな事は考えないほうがいい、そうじゃないことが悲しくなる。お互いにな。」
彼女はクスリと笑った。
「そうね。ありがとう。楽しかった。また、いつか、会えたらいいわね。」
そう言って、彼女は暗い廊下へと去っていった。
被害者の遺族たちは、これから被害者のような女性を作らないために、雇用主及び契約主による不当解雇や性的な脅迫に対抗するコミュニティを立ち上げた。俺もできうる限り力を尽くしている。
マルコは、俺の前にある白いベッドに寝ていた。昨日まで。
今は、もう、ここにはいない。
マルコは、俺の顔を見て、にっこり笑って、言った。それが俺が最後に聞いたアイツの言葉だった。
「もう、完全に回復したんで、ちょっと肉食ってきます。留守番お願いできます?」
元気すぎだろ!!馬鹿か!!
心配して損した。お見舞いに買ってきた林檎を自分で剥いて齧る。
「お、いたいた。」
戸口から、キュリアが顔をのぞかせた。
「どうですかー、手の具合は。」
キュリアが俺の手に巻かれた包帯に目をやる。
「ああ、もう大丈夫。そろそろ包帯とってもいいだろ。」
「そっかそっか。まあ、健康で何よりだよ。」
キュリアはあはは、とわざとらしく笑い、目を泳がせる。
「…、どうなった?」
「え?」
キュリアの動きがぴた、と静止する。
「ランは…、あの提灯はどうなった?」
「…、謝んなくちゃ、ならないなぁ。」
キュリアが視線を落とす。
俺はあの後、ランを抱えて、キュリアの店の扉を叩いた。
彼女であれば、何らかの方法でランを戻せるかもしれない。
キュリアが言うには、できる限りのことはしてみるが、元通りになる可能性は低い。とのこと。その可能性に一縷の望みを託しては見たものの。
「そうか、そうか。」
「ごめん。ほんとにごめん。」
ダメだったか。やっぱりな。
俺ははあ、と一息つくと、キュリアのほうを向いた。
「いいんだ。分かってたことだ。あいつにもう一度会いたいなんてのは、俺のエゴだしな。」
そう言いつつも、目頭がじわりと厚くなってくるのが分かる。ぐっと、堪える。
「ありがとな。尽力してくれたんだろ、その点には感謝して…?どうした?」
キュリアがゆっくりと両手を上げた、と、次の瞬間。
「ぐわっ!?」
ホブゴブリンの怪力で、ベッドに押し倒された。
思わず声が出る。
そのままキュリアは目にも留まらぬ速さで、俺の両手をベッドの上の柵に縛りつけた。
「な、何を…?」
「ほんとにごめんねー。大事な掛け軸人質にとられて、こうするしかなかったのー。」
キュリアがベッドから飛び降りた。その奥には…。
「主殿!そんなに小生に会いたかったのでありますか!?」
「な!?」
少女が、ランが、そこに立っていた。
「おい!?どういうことだ!?」
「いや〜、なんとかなってさ、紙を張り替えて補助魔力を注いだら、治った。」
なんて単純な。それでいいのかよ、おい。
「キュリアさん!お約束の掛け軸であります!」
ランが懐から巻物を取り出す。
「やったー、あたしの春画がかえってきたー。」
巻物を開いて、うっとりと眺めるキュリア
そんなもんで俺を売ったのか!
「ほんじゃま、ごゆっくり。」
足早に病室を立ち去るキュリア。
「ちょ、ま、待て!!」
背後から、嫌な気配を感じ、思わず身震いする。
「むふふふふ、主殿、小生が恋しかったでありますかぁ?」
「おまっ!あんな別れ方をしといて、この再登場は無いだろ!」
ランはぴょこんとベッドに飛び乗った。
「小生も会いたかったでありますよ…。このまま主殿と語らうのもいいでありますが、補助魔力で動くのはそろそろ限界であります…。」
ぺろりと舌なめずりをするラン。
「主殿、言ったでありますなぁ。」
ぎらり、と目が輝く。
「俺を、好きにして、いいって。」
「ちょ、ま、それは!」
「早速お言葉に甘えさせていただくであります!」
言うが速いか、ランは電光石火の勢いでジッパーを下げ、モノを引き出した。
「ふああああああ、主殿のぉ、二週間ぶりでありますぅ…。」
「待て!落ち着け!」
ランは俺の上に逆さに跨ると、モノにしゃぶりついた。
「くっ、ちょっとま、て…。」
少女の下腹部から漂ってくる熱い香りに、俺の理性は再び麻痺させられる。
体が熱い。血が滾り、頭はぼうっとぼやける。
「はむ、ぴちゃ、ぺろ、むう。」
アイスを買ってもらった子供のように、俺のモノを、乾きを満たすように舐めるラン。
そこから広がる快楽の電流は、腑抜けにされた俺の脳髄を、いともたやすく支配する。
「むん、大きく、なっへ来たで、ありまふね。」
まるで毟り取ろうというように吸い込み、口をはなす。ぽん、と滑稽な音が響く。
「ふおおお…、主殿…、こないだより、おっきいでありますよ…。」
返事すらできない。
快楽の余韻だけで、頭が真っ白になる。
「本当は、もっと遊んであげたいのでありますけれども、こないだお預けをくらってしまったでありますからなあ…。」
ランは大きく足を開く。小さな秘所が、じっとりと湿り、光っている。
「主殿、小生のここは、どうでありますか?」
見せ付けるように、指でくいくいと弄ってみせるラン。
「あは、ぴくぴくしてる。速く入れたいのでありますな。いいこいいこ。」
指先でつ、と俺のモノの先を撫でる。
ぴりっとした刺激が、朦朧とした意識に響く。
「いくでありますよ…。」
ランは、ゆっくりと俺のモノをその狭い入り口にあてがうと、一気に腰を落とした。
「あはああああああああ!?」
俺の上で妖艶に身もだえするラン。
俺はというと、一瞬、気を失いそうになった。
きつく閉まる秘所に迎え入れられた瞬間、俺のモノ全体から、形容しようも無いほどの衝撃が全身に広がり、目の前が真っ白になる。
「はっ!はあ!うっ!」
少女が動くたびに、怒涛のように快感が神経を駆け上ってくる。
「あはぁ、主殿はっ、ずいぶん可愛い声をっ、出すでありますなあ。」
ランは荒い息をしながら、いたずらっぽく笑った。
「えい。」
腰を引き、今度は前に押し出すように落とす。
「うあっ!」
こみ上げる衝動を、必死で抑えこむ。
「ふああああああああん!主殿のっ、最高でありますっ!」
ぱんぱんと勢いよく腰を動かすラン。
「くっ!はあっ!はっ!」
頭上で、組んだ手を縛るロープがギシギシと音を立てる。
「主殿のっ!気持ちよすぎて、力が…。」
「っ!?」
少女が俺の体の上に手をついた。
それだけのはずなのに、体に電流が走る。
柔らかい、小さな手が触れた場所から、じわり、と、快感が伝わっていく。
「はああ、はあ、あるじどのぉ…。」
少女は恍惚とした表情でつぶやく。
「もっと、もっと、欲しいでありますぅ…。」
激しく動く腰から、淫靡な水音が響きだす。
「もっと、主殿を感じたいでありますううううう!」
ランが、さらにスピードを上げた。
ただでさえギリギリの均衡を保っていたラインが、一挙に決壊する。
「うっ、くっ、ダメだ!出…!」
「ああああ!いいでありますよ!全部、全部、欲しいでありますぅ!」
まるで堰が切れるように。
俺は全てを、ランの、小さな体の内に吐き出した。
「っ!」
「っ、はああああああああああぁぁぁぁ!」
ランは、ぶるっと身震いし、のけぞって快楽に浸っている。
どくどくと音を立て、とどまる事無く、俺のモノは精を放出し続けた。
「はあ、はあ、主殿の、小生の中に、いっぱい…。」
ゆっくりと少女は穴から俺のモノを引き抜く。
愛液と混ざり合った白い液体が、俺の上に滴る。
「はふぅ…。ちょっと休憩であります。」
ランは俺の上から飛び降りると、ベッドのそばの椅子にちょこんと座った。
俺の頭は、微々たる物だが、少しクリアになってきていた。
まずは、一線を越えてしまったことについての後悔。
幼女と、ヤってしまった。
俺はもう、あちら側には戻れないのだろうか?
しかし、不味いな、このままでは、動けないまま何度もイかされ続けることになる。
抜け出そうにも手はベッドの柵に結ばれている。
どうすれば…。
ん?
病院の、ベッド?
「次は…、焦らしプレイなんかも楽しそうでありますなぁ…。」
悪そうな笑顔で計画を練るラン。
「主殿ぉ?イきたいのでありますかぁ?まだ、ダ〜メ♪」
ガコン。
奇妙な音に、振り返るラン。
そこに立っていたのは、俺。
「へ?主殿?」
俺は果物ナイフを取ると、どうにかこうにか手のロープを切った。
「な!ど、どうやって…。」
「病院のベッドの柵ってのはな。引っ張ると抜けるんだよ。」
カランと音を立てて、足元に柵が転がる。
「ラン♪」
俺はにっこりと笑う。
「な、何でありますか…?」
「人が動けないのをいいことに、よくも好き勝手やってくれたな♪」
「いっ、いっ、いやあああああああああ!」
逃げようとするランを後ろから羽交い絞めにする。
「あっ、主殿!?謝るであります!ごめんであります!だから…。」
「ごめんで済んだら警察は要らない。」
俺はランの耳元に口を寄せ、そっとつぶやいた。
「おしおきだべ〜。」
「いやーーー!」
俺は捕まえた腕をそのままに、強引に胸を弄りだした。
未成熟な胸の感触が、愛らしく感じられる。
もう戻れないのなら、いっそ行けるところまで行ってやろうじゃないか。
「あっ、主殿っ、そこはっ、」
ランが熱い吐息を漏らす。
「ああっ、やめ、やめへぇ…。」
びくびくと体を震わすラン。
「ヨダレが垂れてるぞ。みっともない顔だな。」
「そ、それは、主殿が弄るからぁ…、ひゃん!」
ランの腰が跳ねる。
「どうだ?初めてクリトリスをコリコリされる感覚は?」
「ふ、ふぁぁん、そ、そこ、だめぇ。」
もう片方の手で、乳首をつまむ。
「ふあああ!?そんな、ダメで、ありまっ!」
左右の手で交互に刺激を与え続ける。
そのたびにランは、びくりと電気が走ったように身をよじらせる。
「はああっ、ダメ、そんなっ、は…、っ!」
突然、激しく身悶えしだすラン。
「やっ、やでありますっ、離してっ!」
「どうしたんだ?」
俺はクリをきゅっと引っ張る。
「っーーーーー!!」
その瞬間、床にぽたぽたと数滴の雫が落ちる。
愛液とは違う、薄い黄色の液体。
「…。ははあん。」
「なっ!ち、違うでありますよ。しょ、小生、そんな、違うであります。」
「…。ふーん。」
「違うでありますってば!は、離しっ!」
俺は容赦なくクリをひねり上げる。
「っはあああっ!?ダメっ!ダメっ!でちゃ…。」
初めは少しずつ足を伝っていた液体は、やがて勢いよく噴出し、音を立てて床に水溜りを作った。
「はああぁぁぁ…。でちゃったぁ…。」
ランは涙目になっている。
「あーあー、おもらしって、お前いくつだよ。」
「はあ、こ、これは、主殿のせいでありますっ!」
ランは大慌てで弁解する。
「ったく、二度もお漏らししちゃうなんてなあ。」
「二度…、っ!」
頭の先まで真っ赤になるラン。
「あ、あれは、その、ちが、」
「そんな悪いおまんこには、おしおきが必要だよなあ?」
俺はニヤリ、と黒い笑みを浮かべる。
「あ、主殿…。」
俺は少女の足を開く。
「ほら、壁に手ぇつけ。」
「ま、まだ、小生、イったばかりで…。」
聞く耳など、持たない。
「行くぞ。」
俺は間髪入れずに、少女の秘所へ、再び勢いを取り戻した俺のモノを、叩き込んだ。
「ひっ、ひああああああああああああ!?」
ランが、泣き声に近いあえぎ声を立てる。
「あっ、るじどのっ、激しっ!ひっ!」
俺は休む間も無くランの腰を突き上げていく。
「ふああああん!?あ…っ!ひゃああああああん!」
また締め付けが激しくなる。
勢いを強めれば強めるほど、受ける快楽も強まっていく。諸刃の剣だ。
「んっ、ふっ、あんっ!」
ランの顔が火照りだす。
首が揺れにあわせて左右に動く。
「はああっ!またっ、気持ちよくっ!なってるでっ!ありまっ!」
「ったく、この淫乱提灯め。」
ランの口の間から時たま、淡いピンクの舌がちろりと覗く。
「はああっ、いいっ!そこっ!もっと!もっとぉ!」
パンパンと体のぶつかり合う音が、辺りに響く。
粗相の後を上書きするように、秘所からこぼれた汁が足元に池を作る。
「はああっ!主殿っ!そろそろ!またっ!イっちゃうでありまふぅ!」
ランの膝がガクガクと震えだす。
「はあっ!もうっ!イっちゃ…。」
ランが絶頂を受け入れようとした瞬間、俺は、腰を動かすのを止める。
「あっ!?主殿!?何を!?」
こちらを振り向くラン。
「ラン?イきたいか?」
「…!?そ、そりゃ、イきたいでありますよ…。」
ランが懇願するような目で俺を見つめる。
俺は笑って言った。
「ダ〜メ♪」
少女の顔が、失望に歪む。
「そ、そんなぁ、非道いでありますよぉ…!」
悲壮な声を出し、ランが向き直った。
次の瞬間。
「ひゃううううううううううっ!?」
俺はランの腰を激しく突き上げた。
「ふっ!?ふあああっ!?そ、そんなっ!?」
「嘘でした。っつの?」
「ゆ、油断したでっ、ありまっ!」
少女の秘所は、尋常じゃないくらいに俺のモノを締め上げる。
「はあああああんっ!だ、ダメでありますっ!もうっ!我慢できないでありますっ!」
「俺も一緒だよ。我慢しなくていい。」
「主殿…。」
と、油断しているうちに、乳首を。
「ふあっ!?あっ、イっちゃっ!あ、ああああああああああああああん!!!」
途端、ちぎれそうなほどの締め付けに、俺のモノも限界を超える。
「ふっ、くああっ!」
「ひゃううううううううううううん!」
さっきよりも、さらに激しく、勢いよく。
俺の全てが、ランの中へと注がれていく。
「はああああぁぁ…。まだ、でてるぅ…。」
ランが、うっとりと虚空を見つめる。
とろとろになった俺のモノが、少女から、名残惜しそうに離れる、と、
ランは、そのままガクリと床に膝をついた。
「…!おい、大丈夫か!?」
やばい、勢いに任せてやりすぎたか!?
「あは、あはは。」
少女は微笑む。
ぺたりと座り込んだその足が、ぴくぴくと痙攣している。
「主殿のが、気持ちよすぎて、立てなくなっちゃったであります。」
その笑顔は、いつもの快活なものだった。
「しっかし、主殿は、エッチのときまで意地悪なのでありますな。」
「うるせえな。昔からそうなんだよ、俺は。」
そうだな。昔から、ガキの頃から、俺は不器用で、臆病で。
「好きなやつにはよ、意地悪したくなっちまうんだ。」
ランの顔がほのかに赤くなる。
「主殿…。」
ランの瞳に映った俺の姿が、揺れる。
「主殿―っ!!」
ランは、俺に飛びついてきた。
「会いたかったであります。会えて、よかったでありますっ!」
俺はそれを受け止め、抱きしめた。
「俺も、会いたかった。もう、絶対、何処へも、行くな。」
「了解でありますっ!」
涙声で少女が言う。
俺たちは一瞬見つめあい、キスをした。
ランとの口づけは、華やかな、それでいて懐かしい、花の蜜のような香りがした。
離した口と口の間を、糸が伝う。
「主殿…。」
「何だ…?」
「後ろ。」
振り向くと、そこには、顔を赤く染めて、わざとらしくあさっての方向を向く、マルコの姿があった。
「あ、マルコ…、お帰り。」
「あ、警部、あの、はい…。」
沈黙。
「あの、警部、例の事情というのは、お見受けいたしました。あの、おめでとう、ございます…。」
「あ、どうも…。じゃねえ!違う!俺が言いたかったのはそういうことじゃなくて!」
「大丈夫です!色々な愛の形がありますから!あの、俺はそういうの、大丈夫ですから、気にしませんから、たとえ何があろうとも、警部は警部です!」
いや、思いっきり気にしてるだろうが!
「しっ、失礼します!ごゆっくり!」
足早に去っていくマルコ。
「ちょ、ちょっと待てーーーー!待て!誤解だ!ん?待てよ?誤解じゃないのか?いや、けど、誤解だーーー!」
俺の叫びも虚しく、マルコは大きな足音を立てて走り去っていった。
つくづく元気すぎるな、あの男。
「と、いうか、何だこの状況!俺は一体どうしたらいいんだ!?」
ランは、にこっと笑って、言った。
「知るかよ。で、ありますよ。」
…。
俺は、思わず噴出してしまった。
つられてランも笑い出す。
そうだよな。先のことをあれこれ考えるから、怖くなる。
未来は、分からない。それで良いじゃないか。
俺たち二人の笑い声が、明るい日差しの差し込む病室へと、こだました。
さて、床を掃除しなきゃな…。


人は、夜を恐れる。
ゆえに、人は、照明器具を作った。
火は、夜の闇を、まるで昼間のように照らす。
これで、夜は怖くない。
では、ここに、火がなかったとしたら…?
「…るじどの、主殿!」
「…ん!?」
ランの声に、はっと気がつく。
「もー、何ぼーっとしてるのでありますか?」
俺の顔を覗き込むランの顔を見ていると、二つの思いが心に浮かぶ。
一つは、また綺麗になったな。という思い。
もう一つは、とうとう俺も完全にロ…。いや、大丈夫、守備範囲が広がっただけと考えることにする。
「いや、ちょっと、昔のことを、思い出してた。」
「え、それって、いつのことでありますか?前の彼女とかでないでありますよね!」
「大丈夫、他に女がいたらそっち取ってるから。」
ぷうっと頬を膨らませてむくれるラン。
あの日と同じ、部屋の中で、ランの顔をじっと見つめる。
「な、何でありますか?」
「いや、ちょっと思ったんだが。」
俺は遠い目をして言う。
「いくら驚いたからって、おもらしは、ない。」
「もーーーーーーーー!!」
ぽかぽかと俺を叩くラン。
「わかったわかった。悪かった。」
俺は真っ赤になった頭に手を置き、撫でる。
「むん…。」
大人しくなるラン。
「主殿の手、つめたいでありますよ?」
ランが俺の手を握る。
「暖かいな。」
「主殿の手、大きいでありますね…。」
目と目が合う。
「主殿…。」
「ラン…。」
ゆっくりと、顔が近づいていく、そして、
「警部!?いらっしゃいますか!?」
けたたましくドアが開いて、マルコが入ってくる。
大慌てで距離をとる。
「な、な、な、何だ!?」
「あー、お取り込み中失礼しました。」
わざとらしく目をそらすマルコ。
「いいから要件を言え。」
「あ、はい!事件です!」
背筋に緊張が走る。
「とにかく、すぐに現場に来ていただけないかと。」
「…。分かった。すぐ行く。」
俺はすばやく立ち上がると、掛けてあった羽織に袖を通した。
「主殿、晩御飯までには帰ってきて欲しいであります。」
ランが駆け寄ってくる。
「でないと、お腹空いちゃうであります。」
「はいはい、また、俺が作んのな。」
現場に出る前から言いようのない疲労感に襲われる。
「主殿!」
玄関まで出たとき、ランが廊下の端から、敬礼した。
「行ってらっしゃい!帰りをお待ちしているであります!」
俺は、ゆっくりと敬礼を返した。
「ああ、行ってくる。」
ドアを開けると、街のまばゆい明かりが、目に飛び込んできた。
明かりは、夜を照らし、人に安心を与える。と同時に。
人は、光を手にしたことで、もう一つの、夜のしのぎ方を、忘れてしまったのだ。
未来は、不確定だ。
考えたら、そこには不安な闇しかない。
事件の全容も、真実も、俺には分からない。
闇の中からそれを引きずり出すのが、俺たちの仕事だ。
ただ、一つ分かっていることがある。
光を手にした、俺だからこそ。
今日帰れなくても、帰れても。
多分、今夜も、眠れない。
12/01/28 17:42更新 / 好事家
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■作者メッセージ
ラストです!
濡れ場です!
いろいろ無茶ですが。
警部とランちゃんに祝福を!
マルコにもいい出会いがありますように!
それでは皆さん。
長々とお手間を取らせましたが、
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

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