読切小説
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崩壊への歩み

「これで全員か」

私は部下に確認する

「はっ!この村の住民はこれで全員のようです」

そこにいるのは、ジパングの善良なる村民と、魔物たち

―――汚らわしい

まぁ、ジパングの体系がこうなんだから仕方ないが、魔物とすむなんて、どうかしているとしか思えん
しかし、いずれは我が教団の教えを信じ、自分がいかに汚らわしい行いをしているか気付くだろう

「さて、村人の方々…単刀直入に聞くが、ウシオニという魔物について知りたい」

村人たちがざわめいている

「…あんたら、大陸のもんだからしらねぇだろうが、アヤツに手を出すのはやめておけ」

と、なにやら威厳のある老人が声を出す

「忠告感謝するがご老人、我々はジパングのある大名から要請を受けてウシオニを退治しに行くのだ。我々に情報を渡したほうが身のためだぞ」

「だが…」

それに、と私は続ける

「本来なら魔物と共存している時点で貴様らは悪なのだ。それを殺さずに、手も出さないで見逃すのだからそれくらいの協力をしてほしいものだ」

村人たちが殺気立つ
が、私の知った事ではない

私は事実を述べただけなのだから

「…わしらに手を出さない事には感謝する。だからこそ、アヤツに手を出さないほうがいいという情報を渡しているのじゃ」

老人は、大層恐怖しているようだ

「安心しろ、私達教団は強い。必ず倒して見せよう」

なればこそ、この者たちのためにも、教団の為にも、その化け物を退治しなければ

「…あんさん達は間違ってます」

と、アラクネらしい魔物が突如言い始めた

「アレはそんな簡単に倒せる者ではないんですよ!?教団だかなんだか知りませんが、本当に「黙れ魔物、斬られたいか?」

私は剣を抜いて、アラクネを威圧する

「やめてくれ!」

と男が前に出てくる
恐らく夫なのだろう

「…そこまで危険なら、私が必ず仕留めて見せよう。だが、情報がなければ貴様らの心配どおりになる。つまりウシオニの仲間と判断せざるを得ないなぁ」

村人達は溜息混じりに、協力を約束した

・・・

私達教団の戦士達は、情報通り山の中を歩いていく

「しかしよかったのですか?あの村を浄化しなくても」

若い兵士が声を掛けてくる

「構わん。いずれは我等が教えが正しいと気付くのだ。…それに、下手にジパングで事を大きくしたら、我々の教えを広められん」

そう、我々が寛大である事をみせ、それからでも遅くはないのだ
その後は、無言でみんな歩いていく

ひたすらに、目的地まで―――

・・・

―――そこに着いただけで、私は理解した

森を抜けて、ウシオニが住んでいるという洞窟付近に来たが―――
あまりにも静か過ぎた
その場で耳鳴りが鳴ってきそうな位、静か過ぎるのだ


それは、この先にいる者が、如何に危険かを示すにはちょうどよい物だろう


「お前達は帰れ」

私は部下に命じた

「しかし…」

「これだけ危険な所だ。全滅するかもしれん。だから―――」

だからここから撤退しろ、と続けようとした瞬間だった

「あ?…あんたらなんだ?」

そこには、あまりにもおぞましい、禍々しい気を放つ1匹のアラクネらしき魔物がいた

―――ウシオニ

これが、件のウシオニか

「貴様、ウシオニだな」

「そーだけど…なんのようだい?」

ウシオニは気だるそうに聞いてくる

「貴様を討伐しに来た教団の騎士だ」

ウシオニは興味なさげに聞いている

「貴様がいると、この森全体が危険だ。よって討伐する」

「…あんただけで、かい?」

と、後ろの者達は―――
逃げていた
よかった、これで…

「その通りだ」

最悪、犠牲は私一人になりそうだ

「ふ〜ん…ふあぁぁぁ…」

退屈そうに欠伸をし始めるウシオニ

「その余裕も…今のうちだ!?」

私は剣を抜いてウシオニに斬りかかる
完全に避けも捨てたようだ

その命、もらった!

ザシュッ!?

袈裟切りに、ウシオニを斬った

「ふーん…その程度」

「なっ!」

深く切り裂いた筈の傷が、見る見る内に再生していく
―――信じられない!?

私は驚愕し、恐怖した

「あのさぁ…これだとただ痛かっただけなんだけど?アンタらキョーダンキシだかってのはこの程度の実力なのかい?」

まただ
またあの気だるそうな眼

「…見くびるなよ!?」

私は何度も斬りかかる
が、彼女は避け、時に攻撃を受け―――

それを何度も繰り返すばかりになってしまった

・・・

「ハァ…ハァ…」

アレからどの位時間がたっただろう

いくら斬っても、ウシオニは倒れない
いくら突いても、ウシオニは倒れない
いくら抉っても、ウシオニは倒れない

直ぐに再生されてしまうのだ

「つつっ…流石に再生するからって、ちっとアンタを舐めてたかな?」

と、ウシオニがこちらをみる

「アンタ、これだけ動いても、それだけあたいの血を浴びても、まだあたいを倒そうとするんだね?…なんでだい?」

「教団が…全ての人…を…幸せにす…るから…だ…」

私の体力は限界に近付いていた

「プッ…アッハハハハハハ!?」

と、突然ウシオニが笑い出す

「な…何が…可笑しい…」

怒鳴り返してやりたいが、私の息も絶え絶えだ

「いやぁ〜そんなに大真面目なやつが来てくれるなんて、つい可笑しいのと、嬉しくなってねぇ…」

と、笑って出た涙を拭った

―――そのちょっとした仕草に、ドキリ、と不覚にもしてしまった

「そんなに真面目ないい男を前に、あたいはなにやってたんだろうねぇ…」

―――ゾクリ、と何かが変わった気がした

「あたいは緑花(りょくか)。アンタを骨抜きにする為に、アンタを捕まえるウシオニさ」

―――アンタは?

言葉にしないが、眼で言っている
これからが、本当の決闘であり、本当の<勝負だと

「我が名は…ミハエル。ミハエル=フェン=フォーエンバッハだ!」

私は改めて剣を構えなおし、対峙する

「いいねぇ…最近は来ても腰抜けしかいなかったから、他のやつにくれてやってたからねぇ…ミハエル!アンタは、絶対にあたいのものにしてやるよ!」

そういいながら、ウシオニは
―――いや、彼女は突進してきた

私は辛うじて避け、カウンターに剣を一撃くれてやろうとした

が、それもあっさり避けられた

―――しかし、美しい
私は思ってしまった

彼女と対峙し、彼女が本気になってから感じ始めたこと、それは美しさだった

あの美しくも純粋な闘争意欲、私はそれに惹かれつつある

だが、彼女は魔物だ
彼女を退治しないと、ここ一帯が平和にならない

だから私は―――

「悪いけど、これで大手さね」

と、突如体を拘束された

―――アラクネの糸か!?

「すまないねぇ…こんな無粋な手を使いたくはなかったんだけど、あたいも少しばかり辛くてねぇ」

と、少しばかり顔色が悪い

「血を…流しすぎたみたいでねぇ…」

「…敗者が…言えた立場…でないが頼みがある」

私は訴える

「この先の人里や、旅の者を襲わないでほしい」

「…その為に、わざわざここまで来たのかい?」

そうだ、と答えたかったが、息も絶え絶えで、答えられなかった

「…アンタがあたいと一緒に生きてくれるなら、考えてやってもいいよ」

「私に…人柱に…なれと…」

彼女は頷く

私は考える
ここで魔物と共に暮らすという事の恐怖、教団への背徳―――

しかし、彼女と戦った時の高揚感は、彼女に惹かれつつあったこの感情は―――

「わかった…」

まぎれもない事実だったのだから―――

「お前の元へいこう…」

私は、敗北を受け入れよう

「そーかい。嬉しいねぇ…」

彼女は恍惚とした、それでいて見るものが恐れるような恐ろしい加虐的な笑みを浮かべていた

「アンタ―――いや、ミハエルって呼ぼうか。ミハエルの願いは確かに聞いたげるよ。あたいは自分からアンタ以外を襲わない」

「わかった…緑花…私は君の…もの…になろう…」

そういった所で、私の意識は途切れた

〜〜〜

後日、部下を庇った教団騎士を助けるために援軍が駆けつけたが、そこには折れた剣と、大量の血液があたりにあったという

それが示す事実―――騎士はウシオニと相打ちになったのだとされた

彼の勇気が、この一帯を救ったとされている

〜〜〜

「あんな事する必要あったのかい?」

「私達が死んだ事にしないと、君との約束が果たせないからね」

私達は横になりながら語り合う
私達が最初に会った、あの日の事を

「それ位、教団はしつこいからね」

「その為に予備の剣を折って、あたいに更に血を流させたんだ…あの時は貧血で大変だったんだぜ」

と、彼女が私を抱き寄せる

「さて、今日は後何回だ?」

「お互いが果てるまで、だろ♪」

あぁ―――私は身も心も魔物に捕らわれたな、と彼女の笑顔を見ながら考えていた


11/05/27 12:22更新 / ネームレス

■作者メッセージ
どうも、ネームレスです

さて…どうしてこうなった

ウシオニを見たとき、なぜかウシオニと立ち向かう剣士、二人が戦い続けるシーンが頭をよぎりまして…

今回は特に語る事なし!

それでは最後に、ここまで読んで頂き、ありがとうございます!


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