連載小説
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プロローグ(じゃべりっく!! + sword &magic )
「ふう、ひさしぶりの学校だ。」
そう言って寮の自室を出る。肩には鞄を提げて、左の腰には「松下哲也」と彫られた鉄刀を差して。

 此処は中立国最強国家、『リウ・ラウル』だ。
だから、軍人以外の人や魔物も『自分の国は自分で守る』という信念に基づき帯刀が認められている。
 特に学生は少等一年(小学一年生くらい)から剣術と魔術の授業がある。


 「・・・・・・。」
自室を出ると、かなり大きな校舎が正面に見える。一つの隊に一つ教室があるんじゃないかと思うほどの数の多さである。
 このどっしりとした貫禄と伝統の有る佇まいには何時も圧倒される。

「はぁ。」
見るたびにため息が出る位に。


階段を下り、寮母さんに挨拶をする。おっとりした垂れ目の『ホルスタウロス』の寮母さんは全校男子の半分の男子に人気だ。
・・・・・・男子は俺を含めて二人しかいないのだが。

「よーっ。」
全校男子の半分が登場。
「・・・・・・なんだチンプンカン。」
「うわーひでぇー、名前がカンの部分しか合ってねぇー。」
「全く傷ついているようには見えないのだが。」
「だってチンプンカンだから。」
「・・・・・・認めてんじゃねぇか、ルーカン。」

 ルーカンと俺は、この高校に入学してきたどっかの誰かの我儘によって青春を奪われた犠牲者である。
 その我儘というのが、「王立女子高校を共学にしてくれ」というものだった。
 ルーカンはまだこの世界の住人であるからすんなりと受け入れられたのだが、俺はこの世界の住人ではない。なんかよく分からんクソババァに吹っ飛ばされて此処に来た。 
 そんなこんなで、無理やり連れてこられた俺とルーカンは学費とその他もろもろの代金を全てこの領の王様から頂いている。俺は身寄りがないので小遣いももらっている。
 王には申し訳ないので一度挨拶に行ったら、「男の子の子供が出来たみたいで楽しい。」と言った。それから一カ月に一度王の城へ行く事が義務となった。



「行くぞ、ルーカン。」
 長めの立ち話を終えて歩き出す。
 高校の敷地内に寮があるから時間はかからないが、今の時刻は遅刻ギリギリ。教室に入室するまであと5分。もう歩きださねば遅刻するとこだった。
「おう、行くか。」
そう言って歩き出そうとしたが、足を止める。

「・・・・・・伏せろ、ルーカン。」
「え?」
「だから伏せろ。」
「え?お前って相手を服従させるのが趣味だったの?」
「断じて違う。」
「じゃ・・・・・・。」ルーカンの言葉もまだ半ばに、それは飛来する。
「クソッ、遅いッ!!」
タイミングが悪いが、飛来するそれに対して術を実行する。
『反射ァァァァァァアア!!』
おれは叫びながら『反射』術式を発動し、飛来した『槍』を持ち主へと返す。
 その槍の持ち主は、「ドラゴン」の『ミリウ・ロ・フランツェ』だろう。
 あいつは何かと俺の事を見下しながら絡んでくる。さすがに、剣術ではアイツには敵わないけれど、見下すのはどうかと思う。俺以外のやつとは、フラウというサラマンダーとしか話をしていないみたいだったし。

 カイーン、と術の作動音が響き、槍が反射をおこす。
 無事に反射できたようだ。あれを反射できていなかったら此処には大きなクレーターとタンパク質の塊が二つほどで来ていただろう。 

 あいつは、俺が魔術に長け、反射させる事が出来るのを知っているから、槍を投げて脅かした。それだけなのだろう。

 そんな事を考えているともう一つの影が飛来した。彼女だ。

「あんた、遅刻するわよ。」
そう忠告して、彼女は教室へ飛ぶ。

「へぇへぇ、わかってますよーっ。」
 イヤミ成分たっぷりに虚空へ返事をして、転移術式を展開させる。
 クラスはもう発表されたから知っている。
 自分と隣のチンプンカンの「剣魔系選択用紙」を取り違えられて、逆になり、俺が剣技、奴が魔術になった事も。
 もうクラスが変更できない事も。
そして何故かさっきのドラゴン、ミリウが同じクラスである事も。
 
「あー憂鬱だなぁー。」

そう呟いて、自分のクラスである『S−21』へ、跳んだ。

              §

「Sword−21」略して「S−21」数字の21の左側が学年を表し、右側がクラスの番号を表す。
 魔術系では、「M―21」となる。Mは「Magic」の略である。
「・・・・・・。」
 クラスの中で、俺の様な剣を持った事がないようなひょろひょろモヤシはおらず、リザードマンやミノタウロス、サラマンダー等の典型的な肉食系女子が大半を占めている。
 そして、武器も斧や極太剣、両手剣などととても高価そうで、俺の鉄刀とは比べ物にならない事が目に見えて分かった。
 斧や両手剣など、力でゴリ押しをする武器以外にも、マインゴーシュやソードブレイカ―、パタ、ジャマダハル等の技巧を伴う武器が多く、それらにも敵わない事が分かる。 
 そのほかにも、フランベルジェや薙刀、槍や弓等の武器がある。弓は剣と言うには無理がある気がするのだが、物理攻撃だからよしとしたのだろう。

まぁ、この教室のやつらと喧嘩になったら負ける事は確実だろう。

剣術だけならの話であるが。

 
          §

 一、ニ時間目は「実訓」、「実技訓練」のオリエンテーションで体育館に移動した。
 二年生からは魔術系と共同で隊を組み、隊同士で戦闘を行うという実習内容を執り行うといわれた。
 しかし、魔術系と隊を組むのは強制ではなく、隊は最低3人、最大で12人までであるという。
 そしてその説明が終わるとすぐに隊登録用紙が配られ、余った時間が隊登録の時間となった。

 



「・・・・・・何でお前が。」
「いいじゃない、学年ニ位だった私がアンタと隊を組んであげるって言ってるのよ?少しくらい感謝しなさい!!」
 ミリウが叫ぶ。ミリウの実力は確かであるが、何故俺と隊を組むのだろう。友達のサラマンダーのやつと組めばいいのに。

 「アリガトゴザイマス、ミリウサマ。」一応感謝。そしたら殴られそうになったので結界を張る。
 グシャリという音とともにぐにゃりと少し結界が軋んだが結界は割れる事はない。
 この結界はジパングの『柔結界』と呼ばれる結界で、靱性が高い。それゆえ壊れる事はないのだ。

「・・・・・・やるわね、学年最下位。」
「いや、それ剣術の話ですけど。」
「そう、でも凄いじゃない、学年一位。」
「うん、そっちの方が聞こえがいいから。」

無論学年最下位は剣術科で、魔術科は学年一位だ。
一年生はどちらも必修なのだ。
テストの点数表は日本海溝並みに落差が激しいのだ。
特に得意なのがジパング呪術だ。やはり日本出身だからなのだろうか。



「あの・・・・・・すみません。」
そんなやり取りをしていると、狐耳を頭に生やした女子が話しかけてきた。
手には薙刀を持っていることから友好条約を結んだジパングからの留学生なんだろう。

「何か用?」
 ミリウが俺と狐耳の間に入り、威圧感という物を裏に隠そうとして失敗した様な言葉を吐く。
「いや、爬虫類には話しかけてませんよ。」
 さらりと毒を吐く。その瞬間にミリウの顔が曇るが、彼女は関係ないような顔をしている。中々のつわものである。
「貴方は、黒髪黒目ですが・・・・・・ジパング出身ですか?」
「いや、違うよ。」
「え、じゃあ何故あなたはあんなに上手くジパング呪術を?」
「うーん、俺にも分かんない。多分ジパング人に似た世界からやってきたからかな?」
「え?」彼女の顔に唖然の文字が浮かぶ。
「理事長とかいうババァに飛ばされてきました(笑)」
「ええっ!?」
「ははっ(笑)」
「親御さんは心配していないんですかっっ!?」
「いや、向こうの世界ではもう存在していない事になっているらしいよ。」
理事長談、ではあるが。
「ええっっ!?悲しくないんですか!?自分の生きていた世界に生きた証が何も残されていないって事ですよ!?虚しくないんですか!?悔しくないんですか!?」
 彼女の耳がぴくぴくと忙しなく動き、尻尾は興奮しているのか、ぶんぶんと振り回され、ミリウの顔面を殴る。無意識な悪意が感じられる。

「いや、もうここに来た時点でもう分かっていた事だし。理事長を少し恨んだけど、もう割り切っているし。」

「そんな・・・・・・。」

「まぁ、君みたいな可愛いコに心配されるんならこれでよかったのかな?」

「え・・・・・・?」
 彼女の顔が赤くなる。ちょっとキザ過ぎたか。
 でも、男が魔物といえども女を心配させるのは俺の美学に反する。これはあちらの世界で後悔してきた事から学んだ結果だ。
 
 こういう形で心配から感情を遠ざけるのはどうかと思うが。

 まあ、この形で遠ざけるのが一番効果的だと教わったのだし、このままでいいか。


「それであの・・・・・・私を隊に入れて頂けないでしょうか・・・・・?」

「え、あ・・・・・・。」
 自分は隊に入れてもいいと思う。実際に可愛いし。だけど問題なのは顔が狐の冬毛だらけになったミリウが許すかどうかである。

「・・・・・・。」ミリウの沈黙。
 俺には何が言いたいのかが分かる。

「何言ってやがるこの糞アホ狐が。」多分そう言いたいのだろう。

「だめ・・・・・・ですか?」
 潤んだ目で見てくる。なんか生きているのがつらい。
「よし、OK!!」許可!!その瞬間、ミリウの眉間に皺が寄った。
「何処がだぁァァァァあああああ!!!」叫ぶミリウ。その背後に火炎魔法陣が見えるのは気のせいでしょうか?

「ちょっと下がって。」狐に後ろに下がるように命じる。
「え!?あれを防ぐのですか!?『柔結界』は物理防御専用ですよ!?無理です!!高等魔法を防ぐなんて!!」

「いやいや、心配しなくていいよ、俺学年一位だし。」

『反射ァァァァアアアア!!』
 異常なまでのシャウト。集中のためだ。
 この反射術式、実はこの高校では三年間習わない。

俺の見つけた偶然で生まれた俺だけのオリジナルである。


カイーン。
作動音が響く。

 その途端、ミリウの居た付近の床がケシズミになった。

登録用紙には余りが無かったのでそれだけはケシズミにならなくてよかったと思う。


            §
「・・・・・・。」
結局、俺は反射した後に、しこたまミリウに殴られて気絶したようだった。
保健室の先生に生きているのが奇跡と言われた。
 さすがに一位でも瞬間的に迫るドラゴンの拳を見切り、瞬間的に柔結界に張り替えるのは難しい。
 申し訳なさそうにミリウが謝りに来ていた時の顔が思い出される。
 あのときのしゅんとした顔はミリウに似合わないので笑ったら、また殴られそうになったが、それは『宮田如月』が止めてくれた。あの狐耳の稲荷だ。
 あいつはお見舞いとして稲荷寿司を持ってきてくれていた。手作りで、少し酢飯の酢がきつかったが嬉しかった。
 「肋骨四本と左上腕骨の骨折と打撲。」
 自分の怪我はこのくらいだと言われた。
 この学校の校則で、怪我をした場合は、「Hell Canceler」(略してHC)と呼ばれる保健の先生が救命措置はするものの、回復魔法での治療は生徒同士でHC立会いの下行うというものがある。これも、優秀な軍医を育成するための訓練であるという。
 何処までも実戦を意識した校則だと言える。
 だが、俺はその校則のせいで未だ保健室のベッドの上だ。

「治療魔法が使えるやつが隊に欲しいなぁ。」
 そんな願望を口にして、俺は眠りについた。
12/07/24 16:42更新 / M1911A1
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■作者メッセージ
どうも、人間性に問題があると自覚したM1911A1です。

前作の感想欄が自分の発言のせいで大炎上してしまったのでこちらに移し替えました。

どうやら自分はオツムの中が18歳という基準に達していなかったようですね。

感情的になるのはいけませんね、特に自分は。

反省しています。





これからも拙作を宜しくお願いします。

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