読切小説
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美味礼賛 -味覚の生理学、或いは超越的美食学をめぐる瞑想録-
 誰かに雇われるということは、即ち自分の自由を売ることであるとウィルは重々承知していた。それに見合った対価さえ得られるのならば、多少の理不尽にも一人の社会人として耐えてみせようとも考えていた。
 しかしそんな彼でも、勤め先の都合で一週間家にも帰れず連続勤務などさせられては、いくらなんでもこれは酷いのではないか、こういう事がたまにあるからいつも俺の家は何処か雑然としていて汚いのだ、などと愚痴りたくなった。幸いにも妻は理解を示してくれたが、そこらの家庭だと夫婦喧嘩の原因にもなりかねないだろうに、とも。
 まあ、ひとまずは済んだことだし、代休も貰えた。久しぶりの我が家で、思う存分寛がせてもらおう。そう思って自宅の扉を開けると、蝿の王との異名を持つ魔物娘、ベルゼブブのアンナが出迎えてくれた。

「おかえりなさい……ん、やっぱり、お風呂には入らなかったようね」
「ただいま。まあ、そんな余裕も無かったからな……って、分かるのか、やっぱり」
「そりゃあそうよ。最高のご馳走がこっちに歩いてくるのに、それに気づかないベルゼブブなんか居るわけ無いでしょ」

 そういってアンナは戸を施錠し、旦那様の足元に跪く。ベルトに手を掛けズボンと下着を降ろすと、ウィルは狼狽した様子で制止しようとした。

「おい、ここでする気かよ!?」
「んふふ。一週間もえっち我慢して、もう私限界なの。旦那様の汚れたおちんちん、お掃除させて……?」
「せめて寝室で……」
「い・や。黙っておしゃぶりされなさいな」
 
 風呂も入れないほど忙しかった一週間、当然ながらオナニーもセックスも出来なかったウィルの陰茎は、積極的な妻の媚態に当てられて早くも固く勃起していた。
 拒む言葉と裏腹なその有様に、アンナは嬉しげに微笑むと舌を出し裏筋をぺろりと舐めた。久しぶりの愛撫に、肉棒が暴発しそうになってしまう。

「く、っ……」
「美味しい……垢が一杯溜まって、すごい匂い。もっと頂戴……?」

 人間の体液や垢を好むベルゼブブにとって、今の自分は超高級料理のフルコースのようなものなのだな、とウィルは半ば諦めた。

「れお、えろっ……じゅる、じゅるる、ん……あん、最高、一週間ものの恥垢最高……れろれろ、ずずっ、ちゅっ」

 卑猥な音を立ててアンナは舌で垢を舐めとる。口内に含まない舐めフェラは、通常の口唇愛撫とはまた違った、じっくり追い込むような刺激でウィルを責める。

「ん、んふ。はぁ〜……汗とチンカスの良い匂いで、頭がいっぱいになりそ。一週間も我慢してよかったぁ」
「……本当に、美味い、のか?未だに信じられん」
「嘘じゃないよぉ。……れろぉ〜っ、ここの、カリの所に溜まった垢なんて、もう……ウィルのおちんぽさえあれば、私他の食べ物はなんにも要らない……んちゅっ、はぁむ……ん」

 汚れた亀頭やカリ首を本当に美味しそうに舐め味わうアンナの姿に、ウィルの男心は大いに悦ばされた。お世辞でもプレイの一環でもなく、本心から自分の性器を美味に思ってくれるこの妻がたまらなく愛しい。初めて会ったときは、汚い部屋に現れる蝿の魔物、なんて言われて随分抵抗したものだったが、と回想に耽っているうちに既に男根の方は限界に近づいていた。

「れろぉ〜っ、ずっずっ……、んふ、ネバネバの我慢汁が溢れてきましたよぉ?もう、イキそうなの?」
「ああ、そろそろ……」
「一週間溜めた美味しい精液、私に全部飲ませてね?」

 口を軽く開き、亀頭を口腔に収める。 舌の先で小刻みに鈴口をつつかれて、ウィルの忍耐はあっさり決壊した。

「アンナッ、出るっ!」
「んっ!?んふぅう、じゅるるる、んちゅうっ……」
 
 十代男子もかくやと言わんばかりの濃厚な白濁液がアンナの小さな口の中に溢れる。出てくる端から小振りな喉を動かし精飲するも、全く追いつかない。愛する旦那様の子種液を味わいながら、口の端から溢れる液を両手で受け取るその有様は、どんな娼婦よりも淫らだった。

「……んくっ、こくん、ふうっ……やっぱり美味しい……ウィルの精液最高……」

 掌にこぼれた分を、まるで子犬か何かのようにぴちゃぴちゃと濡れた音を立てて味わう。その愛情に溢れた、献身的かつ淫猥な仕草に、ウィルは射精直後にもかかわらず股間を固くした。

「れろれろっ、ずずずっ……ね、まだまだいけるわよね?ご無沙汰だもんね?」

 変わらず勃起している男性器を見られてしまっては、言い逃れのしようもなかった。



「あぁむ、ん……じゅるぐちゅ……」

 先程までの舐め取る口淫とは一転、アンナは口を大きく開いて肉棒を根元まで飲み込んできた。たっぷりと唾液をまぶし、首を振って唇で茎を扱く。小さな口を一杯に使いながらも、苦しげな様子は一片たりとも見せない。事実、苦しくなどないのだろう。

「じゅっぽ、じゅっぽ、うずずずっ、んちゅんっ、んふふぅ……」
「……う、あ、いい、イイよアンナぁ……こんなの、またすぐイっちまう……」
「じゅぅぅぅ、ふふ、いいよ……へぇひ、ちょうらい……」

 頭を前後に振り、同時に舌を亀頭周辺に絡ませ、カウパー氏腺液を舐めとる。小柄なアンナの身体ゆえ、ウィルの性器を最大限飲み込もうとすると先端が喉の奥にまで届いてしまうが、構わずにフェラチオ奉仕を続ける愛妻の姿は深い充足感を与える。人間相手ではまず味わえない、口から喉頭にかけての全体を使ったハードな尺八。二発目も、間もなく発射してしまいそうだった。

「はむ、じゅりゅりゅりゅりゅっ、うん……おひんほ、おいひい……ひんはふ、もっとほひい……んちゅぅぅっ」
「ア、アンナッ……!」
「ん?んんっ!じゅっぽっ、じゅぽっ、んぢゅうぅ、ずじゅうぅぅぅっ!」

 ウィルの絶頂を察知したアンナはヘッドバンギングの速度を上げる。同時に尿道をストローに見立てて陰茎を吸引、一滴残さず精液を吸い尽くそうとする。魂ごと吸われるようなその魔性の快楽に、ウィルはもう言葉も出なかった。アンナが顔を一番下まで下げた瞬間、喉奥の粘膜と亀頭が擦れる感触で、ウィルは絶頂した。

「う、あっ、もうっ……」
「ん!?んごぽっ、くっ、ぐじゅんんっ!」

 口腔の奥、食道に近い位置で肉棒が暴発する。口内射精と言うには余りにハードコアな、喉に直接流し込むような射精。口の中一杯に性器をぶち込まれ、それでもアンナは嬉しげに濃厚ザーメンを味わうのだった。

 立て続けの激しい射精に、さすがのウィルも息が切れてきた。男根も萎れ、休息を要求するが、その様子がアンナには不満なようだった。

「なによぅ。こっちはまだまだし足りないのに、もう終わり?」
「そういう訳じゃあないが、すまん、ちょっと休ませてくれ」
「ふん。いいわよ、好きにしてれば。私は私で楽しむから」

 言ってアンナは、少し体を前にずらしウィルの両脚の間に陣取った。首を反らし、頭上にある男の急所、陰嚢を口に含む。

「ひ、アンナ!?」
「れろれろれろ、んっふふ、ここにも垢一杯溜まってるね……いただきまぁす……」

 舌で肌の老廃物をこそげ取るような動きに、ウィルは戦慄した。歯を当てないように大きく開いたアンナの口は、端から涎を垂れ流し、さながら彼女の欲望を象徴しているようだった。

「えろえろえろ、れろろろ、ちゅっちゅ」
「う、わ、なんだこれ……」

 玉袋の皮を執拗に舐めしゃぶられ、ウィルはなんだか妖しい気分にさせられる。普通の、精液を搾り出そうとする愛撫とは全く逆の、子種を増産させ精力を回復させんとするような、そんな刺激。
 
「あ……むん。じゅる〜っ、れろえろ、……あら、もう元気」

 いつの間にかウィルの陰茎には再び力が漲っていた。と言っても勃起した、というよりはさせられた感が強い。
 眼下で自分の急所を口に収めながらにやにやといやらしい笑みを浮かべているアンナを見ると、ウィルは自分の全てがこの女に掌握されているような感覚に陥る。それが窮屈でも苦痛でもなく、この上なく魅力的に思えてしまった辺り、最早自分は彼女から逃れることは叶わないのだな、とも。

「勃っちゃったものはしょうがないわよねぇ。このまま、またイかせてあげる」
 
 睾丸を口の中で転がしながら、三本指の手で器用に男根を掴み、激しく扱き上げる。先程までのフェラチオよりも直接的な、搾りとるという言葉に相応しい手コキ。

「ぴちゃ、はむ、ん、っふふ。タマタマもお〜いしぃ。ねぇウィル。もう一生、お風呂なんか入らないでよ。私が汚れ全部舐めとってあげるから」
「そ、そういうわけにも……」
「もう、意気地なし。そんなチキンなウィルは、お手々でイっちゃいなさい」

 手の上下運動が速度を増し、回復したばかりの肉竿を責め立てる。口での愛撫よりもなお暴力的に送り込まれる快感は、自分で扱くときのものとは全く別のものだった。

「ほらほら、もう出そうね。出してもいいよ?ちゃんとお顔で受け止めてあげるから」

 そんな誘いの言葉が引き金となって、ウィルの陰茎は臨界点を突破した。
 連続射精三回目とは思えないほど大量のザーメンが飛び出し、下に位置するアンナの顔へ降り注ぐ。顔いっぱいに精液を浴びた淫婦は、匂い立つ精臭に陶然としていた。

「あむっ……うん。やっぱり、ウィルのザーメンは味も匂いも極上ね……お肌にも、結構いいかも」
「そ、りゃ、どうも……」
「さぁて。こうしてお腹も膨れたことだし、そろそろメインディッシュを頂きましょうか」
「!?」

 思わず身を引くウィルににじり寄り、アンナは言う。

「何驚いてるのよ。まだ一回もオマンコに入れてないのに、終わるわけ無いじゃない。
 今度はこっちのお口に、たっぷり注いでもらわなくっちゃ」

 代休は十分な日数貰っているはずだった。しかし、やはり自分はベルゼブブの貪欲さをどこかで過小評価していたのかもしれない。果たして休みを全部潰しても、アンナを満足させるのに足りるだろうか。そんな不安が、急にウィルの中に生まれた。
 


11/05/19 09:47更新 / ナシ・アジフ

■作者メッセージ
蝿王様に呪殺耐性無しで挑んで一瞬でパトらされた思い出。

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