読切小説
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家族
一人が楽だ。
どうしようもなく独りぼっちが楽で、孤独が俺にとって全てだった。
その俺の前にいる……

「どうしたの?零?」
「いや……何でもない、舞」

君がそれを粉々に砕いた。












俺の親はいない。
正確にはいたのだが俺からすればいないも当然だ。
だって……愛情をくれず、俺をいないものとして扱う相手だ……おんなじように感じるものだろ?
そんな家庭環境だったからか俺は一人が楽だった。
学校と言う世界で俺はいつも一人だ。
苛めを受けたときもあったが……全員ボコボコにしてやった。
俺の一人の世界に邪魔をして来たから、完膚なきまでに。
そこから俺はさらに一人になった。
寂しいとは思わなかった、思えなかった、知らないものを知ることはできないものだ。
寂しいというものを知らないのに寂しさを味わうわけがない。

でも今の俺は寂しさを理解できる、君がいなくなったら俺は死にたくなるだろうから。




親元から完全に離れ、一人で家に住み、一人寂しく自営業で仕事をする。
内容はこれと言って面白味もないものだ、商売だよ。
何時ものように商品を確認し、明日に向けて用意する。
俺が売ってるものは基本的に魔物娘……ああ……最近になってこの世界に来たとか言う異世界の住人だ。
まあ、詳しいことは知らない、ただ金になる。
知ったところでどうなるのかと言った感じだしな。
必要以上の関わりは持たない。
と言っても魔物の特性や性質、気質と言うか性格も知ってる。
だからだろうか、よく関わりを持とうと寄り付かれた。
全部振りきってきたが。
キューピットの矢にやられたときもあったが……それすら少し違和感を覚えさせられる程度だった。

……と言ってもそれは後々に今ののような影響を与えたが……




俺が何時ものように寝起きに日を浴びようと外に出たとき、いた。
今の嫁だ、そこにいたのは種族的に言えばコボルト。
それが道端でボロボロの姿で倒れていた。
一人が楽……と言ってもまるで捨てられた子犬みたいなのを見て見ぬするほど落ちぶれちゃいなかった。
だから拾った……いや、助けたの方がいいか。
一応ある程度の知能があり人の姿をしているんだ。
助けたんだよ、コボルトを。
まだまだ子供だとは思った、それで一応保護したわけだ。
その後は魔物娘に関するとこに渡そうとしたわけだ。
でも拒否をされた。
理由は知らん、ただ色々話を通されていたのか知らないがどこに行っても無駄だった。

完全にいろんな意味でターゲットにされたのだろうか、あの時の俺は。




最初の頃は何かに怯えているかのようだった。
俺としてはあまり面倒を起こすような感じではなかったから気にしていなかった。
その怯えから暴れて商品を壊しているわけではないからな。
何かを話しかければおどおどとしていて、でも知能はあるから話ことは出来た。
ご飯を作ったりとしていたがあまり食べられてはいなかった。
というより毒でも入っているかもしれないと言った感じだろうか。
何を食べさせられていたのか知らないが。
ある程度食べられるようになったとき、その時いつも言う。
冷たいと、温かいところを持っていったはずだが何時もそう言われた。

……犬は感受性が強いと聞く、そうだったんだろう。




問題と言えば時折夜に鳴くことだろうか……いや、あれは鳴くと言うより泣く……だな。
何時まで経っても止まらない、だから持っていって横に寝させた。
怯えているくせに、その時だけはやたらと俺に擦り寄っていた。
そして静かに眠る。
理由は知らない、何時も何時も怯えているくせに。

俺の何かに怯え、俺の何かを求めていたのだろう。




それから何時も眠るときは俺の横で丸まって眠るようになっていた。
俺を強く抱き締めながらも。
何かから身を守るように、怖かったのかも知れなかった。
俺が捨てるのかもしれないと。

俺は一人が楽だ。
でも、その時、既に俺の心には席が二つ出来ていたのかもしれない。
一人が楽だった……楽だったんだ……





仕事で少しばかし家を後にすることになった。
と言っても三、四時間だ。
そんなに長くいなくなる訳じゃない。
コボルト……舞は、まだ寝ていた。
起こすのもどうかと俺は家を出たのだった
家に帰ってきたときに扉を開くと同時に物凄い早さで走ってくる舞に抱き付かれた。
物凄く汚い顔で泣いていた、でもなぜか嬉しそうで俺を見ながら。
それが切っ掛けでその日は一日中付き纏われたが。

今も少し引き摺っているだろうか。
俺は初めてその悲しさをわかってやれた。



その日は仕事は休みだった。
一日中休み、なにもすることがなかった。
ずっと家にいようかとも思ったが……俺を見てる舞を見ているとそうとも思い続けられなかった。
外に出るかと言えばとても嬉しそうに尻尾を振っていた。

その時俺は初めて笑みを浮かべた。




場所は公園……とかそう言ったところだ。
正確には有料だがな、魔物娘付きだと無料。
まあ、専用公園だな、何か人との問題を起こさないようにと作られたところだ。
有料で来るやつは……彼女無しの空しい奴か、普通の公園の五月蝿さから逃げてだろう。
案外静かだよ専用公園は、夜は酷いと聞くがな。
緑色の草むらが綺麗な傾斜で日向ぼっこでもしようかと横になろうとするとなんとも言えない目で舞が見てきた。
その目のプレッシャーに俺は負け、用意した……いや、用意させられたフリスビーを投げて相手してやった。
……人形なのにやっぱり犬寄りなんだろうか?
長く遊び、後は疲れた体を日向ぼっこで休ませた。

その日初めて何処かで楽しいと思えた。




舞が風邪を引いた。
かなり熱が出ており、弱っていた。
俺はその状態に困惑しながら冷静に直ぐユニコーンの魔物娘を呼んだ。
魔物娘の治療にまだ人間のものは余り通らない。
それ以前に風邪を引かなく強いことで有名な魔物娘が風邪を引くことが普通じゃないのだがな。
でも地球に来てからは話は別だった。
地球は魔力に適性出来るものと適性出来ないものがある。
人は適性出来たが病原菌は全くだ。
全く過ぎてなぜか逆に問答無用で魔物娘にすら猛威を振るうくらいだ。
最初に来た魔物娘達が何よりも優先させたのが病気に対するワクチン接種だしな。
ある程度落ち着いていたがそれでも無理なものは無視だ。
それを治療するユニコーンと治療される舞。

見ていることしか出来ない自分に生まれて初めて怒りが沸いた。




ある程度すると病気は直ぐに治った。
弱っていたその体も元気になり食事もある程度とれるようになっていた。
ユニコーンからも色々と説明され何かあったら直ぐに呼ぶように言われたがそのようなこともなかった。
心配する必要もなくなり、やっと心を落ち着かせられた。
不安に押し潰されることもなくなって。

俺はその時初めて心を……想いを知れた。




不安から解放された俺は横に眠ってる舞を見ながら思う。
何で俺はあそこまで心配したんだろうと。
他人がどうなろうと知ったこっちゃないと生きてきたのに
どうして舞にそういった感情が……いや、感情なんてものが発生したのか。
そこで俺は理解した。

俺は初めて愛情を持った。




それから初めて知った感情に四苦八苦しながら舞と過ごしていた。
一緒にいるだけでどきまぎした。
何故かはわからないけれど。
どうしたのって?顔の舞が余計にそれを自覚させた。

そんな感情をもって慌てていた時点で……既に恋をしていたのかもしれない。




自覚すればするほどに混乱する。
俺は一人がよかった、過去形だがそうだ。
でも今の俺はどうだろうか?
長く悩んで、そして思う。
なぜ、そこまで否定しているのだろうかと?
する必要性のない感情を出している?
いや、これは単純に慣れ親しんだ感情だった。
俺が初めから持っていた感情だ。
俺は愛されない。

そう思うことを……諦めていたことを諦めた。




コボルトの種族は一応調べてはあった。
何も知らずして一緒に暮らすなんてできやしない。
興味のあるなし関係なく、普通そうだ。
そしてその種族とか関わった者達がどうなったか。

……俺は舞に抱きついた。
その温もりを感じながら……











「零〜」
「どうした舞?」
「幸せ?」
「ああ、幸せだ。過去を塗りつぶせるくらいに」
15/09/03 11:25更新 / 幸せのためのキセキ

■作者メッセージ
名前は、
主人公、零。
零=少し、僅かしかない。
心が少ししかない、余りない。

ヒロイン、舞。
舞=これに関しては漢字を変えて、参る、舞る、舞。
心を大きくするために参る。
幸せにするために参る。

喜怒哀楽が途中に有り、愛情、恋心、恋愛を知る

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