「はぁ…こんなに立派な橋なんてかかって…」
セイト内海を見下ろす展望台近くの駐車場。
数多くの魔物や人がたむろするその場所で一人愚痴る金髪の女性一人。
真っ白な表面に対して裏面が黒い生地、黒のダブル・フォー・ボタンデザインの白スーツで決めた女性は太ももまでの長さの白いタイトスカート。
白の襟高のYシャツをフォーマルに着こなす姿は多くの人や魔物娘の目を惹きつけて止まない様子。
愛車と思われる国産スポーツカーのボンネットに腰を座らせて潮風を感じているその佇まいはもはや絵になりそうだ。
目元にかかった鼻掛けタイプのサングラスを取り去って再び視線を前へ向ければ躑躅色（つつじいろ）の両目がのぞいた。
その橋の終着点をみていた彼女は２尾の尻尾を数回振り、半分に切れている左耳についた翡翠色のリングピアスをきらめかせて車に乗り込んで…

「…静、殿。今戻るよ」
そんな囁きを残して勢いよく飛び出した車は大きな吊り橋、セイト大橋をひたすら走り抜けていった。

そして…。

「ん、ここか…」
橋を渡り切り青看板の指示通りに進めば…遺跡の城跡が見えてきた。
そのとある城跡近くに車を止めてある場所へ歩を進める美人。
その場所とは、城跡程人は来ないが昔の偉人らにとって欠かせないものである…墓だった。
観光の色が強いためか献花などはほとんどなく、代わりに飲み物の飲みかけなどのゴミが目立つ。

「はぁ、汚いねぇ…」
溜息一つ吐いた美人は持ってきたハンドバッグから大きなビニール袋と軍手を一双取り出して静かに掃除を始めた。
額に汗を溜まる汗を気に留めず、ミンミン鳴く蝉が煩わしいと思いながらも文句一つ漏らさずせっせと掃除していけばあっという間にゴミのない史跡に戻ってしまうわけだ。
額に垂れた汗を持参の狐カラーのタオルで拭いて満足そうに息を吐く。

「ふぅ、んじゃ…」
続いて美人はバックからとある有名な酒蔵で作っている酒のカップを取り出して蓋を開けるや墓石の上からたらたらと少しずつ染み込ませるようにして…

「殿様、うまいかい? これ、私が本州で飲み比べて一番うまいと思った酒なんだ。どうだい? …っても返事なんてないけどな」
そうつぶやいた彼女は空になったカップ瓶をバッグへと水気をきってしまいこみ、ずっと小脇に抱えていた花束を取り出してそっと墓へと添えた。

「静、あんたまだ生きてたらきっと私のことを思いっきり抱きとめるだろうけど…残念だなぁ…」
静かに供えた花から手を放していき手を合わせて…



『殿、静…妖狐の梅香、幾千歳の時を経て…只今戻りまして候』



静かに目をつぶり…一体どれだけの感情を込めた思いだろうか、一言一句確りと発音し心から感情をこめて言い放つ妖狐。
その言葉が終わると同時に妖狐の背中から暖かい何かがうかぶ感覚があり、ジジッという音とともにその感覚は消え去った。



「…さて、墓参りも終わったし」
「…あのぅ」
「はい? …ッ!?」
墓参りが終わって片付けしている最中のこと。
急に声をかけられた妖狐ははいはい、と対して抵抗もなく声をかけられた方へ顔を向けると…

「えっと…ご先祖様…静様と何かあったのですか?」
「…う、うそ…静?!」
「はぃ? い、いえ…私は唯、達守　唯(たちもり　ゆい)ですが…」
妖狐と同じ目的か妖狐以上にしっかりとした装備を持つ白い膝丈ワンピースを着た女がそこに立っていたのだが、妖狐は彼女を見るなり静と思わず漏らしてしまうほどのそっくり…生き写しがそこにいた。
ただし赤縁のメガネをかけて三つ編みをしているという差異はあるが…。

「え、あ、あぁ…失礼、私は梅香。この石の下の二人に対して迷惑かけた化け狐、だったものさ」
「化け狐? …あぁ! 先祖から耳を切られた!?」
「そう! その狐っ!」
妖狐の方も姿がまんま静だからか話が進み、対して唯という女性も過去の偉人を見るような目で興奮気味になるものだから真夏の空の元で長話にふけってしまう。

「…ところで暑くないですか?」
「…実は正直…暑い」
「では家に来られてはいかがですか?」
意気投合した結果、女性のうちにて話の続きをすることになったようだ。

「お言葉に甘えさせていただくわね…」
「では、こちらです…」
暑さに負けて上着を脇に抱えついていく妖狐を何度か振り返って確認する女性。
その歩みを止めたのは墓から２分の場所にある今にも潰れそうな良くも悪くも古い日本家屋であった。

「…ず、随分と歴史を」
「いいんですよ、ボロと言っていただいても?」
「い、いや…さすがにそれは…」
悪評でならした過去を持つ妖狐でもさすがに言いよどんだ。
しかし中は綺麗ということはなく…床板が所々抜け落ち、ガラス窓が半分近く割れて、挙句には土壁の一部はすでに風化していて今にも崩れそうなのだ。

「…うわぁ」
「…数代前までは普通の家庭だったんですが…先々代の時に流行り病にやられまして徐々に親戚がなくなって、先代が私達兄妹を生んですぐに母を残して他界しまして…」
「…なにその呪われた家系!?」
居間らしき場所までかろうじて進んだ妖狐は欠けた茶飲みに割れかけた急須で入れてもらった茶を飲みながらこれまでのこの家の話を聞いていた。
…とても酷いものである。

「その母も私にある物を託して死してからは家計はもう火の車で…借金のかたにこの土地を取られて来月には引き払われます…」
「…あー…っで、で? ある物って?」
「これです…」
どもった妖狐の質問に対して立ち上がった女性が卓袱台を離れて引き出しが無い箪笥の裏側から出してきたものに妖狐は全身の毛を震わせた。


「この『狐の簪』です…」
「こ、これ…っ」
「…そうです。あなたの耳を加工したものでしょう?」
桐箱に入り包み布に包まれたそれは珠の部分に狐の毛をあしらった黒漆の簪(かんざし)であり、一番大きな珠には公達守家の家紋が金箔捺しされている。
簪の棒へと目を移せば彫り込みに…『静ト友餉ヲ結フ梅香ニ送ル』と。

「…っ…っ」
「…あ、今日は雨が降るんですね。ちょっと席を外します」
妖狐の顔をちらり、と一見した女性は気を利かせてか卓袱台から遠ざかった。
女性はほどなくして家の中から抑えることなく出される悲しげな哀愁の声を聴いたが…きっと気のせいだろう。
ほどなくして雨が降り始めたのは…はたして…。

しばらくして女性が戻るとすっかり憑き物が取れたような顔をした妖狐がそこで茶を啜っていた。
顔にはうっすら線が残っているが…。

「あら? 雨でも降ってきたの?」
「ええ、大粒の雨が」
「そう、それは大変…」
…唐突に訪れる沈黙に蝉達も空気を読んでか鳴き止んでしまう。

「…あ、あの!」
「ん? 何かな?」
「梅香さんは…梅香さんはここに来るまでに何をなさっていたのですか?!?!」
あまりの長い沈黙に耐え切れなくなった女性は意を決して妖狐に今までのことを聞いてみる、という話題を選んで卓袱台に手を突き立てる勢いで身を乗り出して妖狐に半身を傾けた。

「え゛? わ、私の!?」
「はいッ! 興味があるので…!!」
「えと…う、う〜ん…まぁ、いいけど…」
女性の迫力に背をそらせるも顎に手を置いて思案顔な妖狐は時待たずして己の過去を放し始めるのだった…

「うーん、あまり言葉で説明するのは苦手だからサラッとでいいかしら?」
「はい」
「えっと…まず島から追放されて数か月は森の中で気絶していたの。気絶から復帰してすぐに自分の体の異変に気付いた後、通りすがりのカラステングに声をかけられて…その時は元の狐の頃の喧嘩腰で話しちゃって心身ともにへし折れるまで説教と折檻されたわ…ぅぅ…」
急に自分の体を抱いて傍目にもわかるほど震えだす妖狐。
…よほどのトラウマのようだ。

「…それでその後今の自分に起きていることをカラステングさんから聞いてすることもない私は当てもなく旅をしたんだけど」
「…だけど?」
「ある場所で優しくされた妖狐さんがいてね? その妖狐さん曰く『気に入ったならここへ居を構えていきなさい』って」
ほっこり笑顔になる妖狐の尻尾はゆらゆら揺れて域にも嬉しそうである。
向かいに座っている女性もつられて笑顔になるくらいに。

「そしてそのままそこに住み着いたんだけど…職が無かったから何かくださいと言ったら、なんと巫女さんをさせられたのよ?　あと荒事の時の仲裁役は私からさせてももらったけど…」
「え゛?! 妖狐に、ですか!?」
「まぁ…その社で祀られていたのは白妖狐さん本人なんだけどね…」
ボソボソと話す声は女性には聞こえなかったようだ。

「そこで文明開化を迎えて…近代化が進んで…風のうわさで四国に橋ができたと聞いて飛んできた、ってのが私の遍歴かな?」
「はぁ…ほとんど定住されていたんですね…今もその町に?」
「えぇ、今も宵ノ宮で巫女しながら裏方専門の自営業(笑)しているわ」
…今、聞き捨てならぬ役職が聞こえた気がしたが!?
ちなみに彼女のその町での別称は『片耳の梅香』だそうです。

…ジエイギョウぇ…

「はぁ…そう、だったんですか…ﾊｧﾊｧ…」
「…? あなた大丈夫? 息が荒いけど?」
「ﾊｧﾊｧ…す、すいません…なんか…呼吸が…」
そんな茶目っ気☆あふれる妖狐が話を終えて彼女が相槌を打つ頃には彼女の様子に変化があり、妖狐はその変化を見つけて彼女に声をかけた。
彼女の様子を表すならば…頬が赤くなり、瞳が潤み、しっとりと肌が汗ばんで、ワンピース越しにもわかるくらい2つの小粒が勃起している。


・・・どうみても発情状態です。本当にありがとうございました。


「え!? なんで!? 私ちゃんと妖力抑えていたのに!?」
「ﾊｧﾊｧ…うぅ…か、からだが…ぁぁ…アツ…い…っ…」
「私以外に妖力を出すようなヤツなんてここにいn…ま、まさか?!」
女性は苦しくなってきたのか胸を思い切り摘まむとそのまま「あふぅ♪」と嬌声を上げて卓袱台が上にのった湯呑ごとひっくり返るのも気にせず倒れこみ、倒れたその場で自分の胸をくにゅくにゅと愛撫し始めたのだ。
妖狐の方は妖狐の方でこちらへ飛んでくる湯呑の水を立ち上がって回避すると顎に手を添えて女性がこうなった原因を考え出すも、何か思い出したかのように妖狐はあわてて卓袱台に乗っていた今はどこかに飛んで行った自分の左耳で作った簪を探し始めた。

すると…


ｷｨｰｰﾝ…ｷｨｨｰｰﾝ…


「ぁ、なんか…すごい魔力が…」
「ﾊｧﾊｧ…んくぅ…っはぁ、いぃ…んぁ♪」
淡く黒い禍々しい妖力をあたりかまわずまき散らす簪を見つけるのに時間はかからなかった。
元々この四国のリーダーをしていた妖狐の濃い妖力を溜めこんでいた左耳は加工されても尚その力は衰えておらず、近くにあった包み布の裏がちょうどめくれていたのでそれに目を向ければ『封摩の印』を結んだ今にも千切れそうな呪符が張ってあった。


「(…あれ? ということは今まで静の家があってきた災難って…)」

そうです。あなたの簪のせいです。
お札が傷んだせいで漏れた妖力の影響のせいです。

「ﾊｧﾊｧ…くひぃぁ!?」
「…あ゛!? まさか…!?」
思考にふける妖狐の背後ではクチュクチュと水音をさせて発情期の女狐のような甲高い声を上げて自慰にふける女性。
その女性へとゆっくり振り返って妖狐が瞳に魔力を手中させることで見えてきたもの…それは…



女性の頭から青白い耳のようなもの、腰から長く伸びる青白くゆらめく尻尾のようなもの…



「狐憑きじゃん!? え、なにこれ!? あたしのせいっ!?!?」
「ﾊｧﾊｧ…ばぃ、か…さぁん…き、きもちぃ…れふぅ…ぁっ♪」
簪に宿っていた妖狐の力をもろに受けてしまったようで彼女はすでに狐憑きになっていた。
…慌てふためき自分の頭を抱えて叫ぶ妖狐に対して実に幸せそうな視線を送る彼女である。

「はぁ…どうしよう…」
「あはぁ♪　ばいかさぁん♪　みてぇ〜♪　おまんこぉ〜♪　ぐちゅぐちゅぅ〜♪」
もうすっかり性欲の虜となった女性はあろうことか妖狐に向けて腰を高く上げて秘所を見せびらかすように足を広げ、片手を股下から入れ閉じた筋を無理やりに掘り込むように下着をずらし始める。
さらに空いていたもう片方でおしり側から手を出して今まではいていたその下着をずりおろし、下着があった場所へと両手を走らせる。
すでに大洪水となっているその場所で、その愛水でテラテラになった指を芋虫のように穴に這わせて快楽をむさぼりだす。

「…ｺﾞｸｯ」
「あっ、ふぅあぁ…いぃ…いぃれすぅ…♪」
同性の女性から見てもかなりそそられるシチュだが、女性は顔が畳に張り付いた状態で無理に首を曲げ頬を変形させててまで視線を妖狐に向けるものだからなおさらだ。
そんな妖狐はやはりほかの魔物娘の例にもれず性欲が勝ったようで花に寄る超の如くふらふらと彼女へと近づいて…






「ただいまー、パンの耳もらっt…」
「…え゛?」
「あふぅん♪　あはぁ♪　一紀(かずき)おにい…ちゃん…♪」
タイミング悪く襖をあけてその場に入ってきた青年にお兄ちゃんと声をかけたので女性の兄なのだろう。
その青年は妖狐が屈んで実の妹の秘所に顔を近づけているそれをみて固まっていたが急にその場にパンの耳が大量に入った袋を投げ捨て廊下の奥へと走って行ったが…おや? 帰ってきたようだ。

「よ、妖狐めぇ! ウチの妹に何をするだぁー!」
「うわっと!? え、ちょちょっと!? それ真剣じゃないっっ!!?」
「ご先祖様が残した『耳切り』っ! その切れ味をとくと味わえぇぇぇ!!」
逆上して顔を真っ赤にした青年が持ってきたのはなんと抜身の小太刀であった!
そのまま小太刀を振り回しながら妖狐へと逼迫する青年だったが流石妖狐、その素人の攻撃を難なくかわしたがその際に髪が数本刀に切られたことでそれが真剣であると知って顔が若干青ざめる。

「(もぅやだぁ…この一族もぅやだぁっっ!! )」
尚も振りかかる青年に妖狐は少し涙目になりながらも上体を反らすだけの簡単な動きのみで避け続けている。
しかし、いくら妖狐が昔と比べて大人しくなったとはいえ…さすがにここまでされては…




「…もぅ…いいよね? 怒ってもいいよね?」
「はぁぁッ!　」
苛立ちが含まれるその小さな声は青年に届くことはなく、唐竹の要領で上から垂直に屈んだ妖狐へ小太刀を振り下ろした…その瞬間。




少し音が低い風切り音と共に青年の鳩尾には深々と妖狐の右こぶしが刺さっていた…。
音もなく繰り出されたその高速の拳を素人の青年が見切れるはずもなく…




「…がはっ!?」
「ちぃとばかし…ねとけや、小僧」
お姉さんのような優しい口調から一変、刺々しい感情むき出しの妖狐の言葉は畳に突っ伏すように倒れた青年の耳へは届かなかった。

「…さて、どないしたらえぇやろぅなぁ?」
「ぅぅ…」
「お、おにぃ…ちゃん?」
流石に刃傷沙汰が目の前で繰り広げられれば自慰どころではなかったようで、部屋の隅で目視できるまでに濃くなった青い尻尾と耳とともに丸くなった女性がかなり不安な表情で青年に視線を向けていた。

「…んー…そやっ! おい、唯ちゃん」
「は、はぃぃッッ!!」
「そげな畏まらんでもえぇねん。何、ちょっと私の思いつきに乗ってくれればええねん。ちぃとばかし…気持ちいいこと、せんか?」
歪になった下弦の月を思わせる口元の牙を剥き出させ、視線を女性へと向けた妖狐の縦に裂けたルビーのように赤の瞳孔に移りこむその目の中では妖狐が近づくにつれてガタガタと膝を震わせ柱に抱き着く女性が徐々に大きく映し出されていった…。






【続】