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第三十六話「解放」





部屋の先、そこには椅子に腰掛け、何やらビデオを見ている瑠衣がいた。


「・・・ルシファー」


遮那の言葉に、瑠衣はビデオから目を離さずに、ゆっくりとした調子で口を開く。


「来たんだねサナトお兄ちゃんにマユ、二人もこのビデオ、見ていかない?」



テレビ画面には何かの映画が映っており、興味深そうに瑠衣は目を細めている。



「別に大した映画じゃないよ?、よくある映画だよ、信心深さを自慢しながら、他所の神様に喧嘩を売る、そんな映画」



映画はどうやらクライマックスなようで、白人の男性が、石造りの神殿に火をかけ、爆破していた。



「生贄を求める神を否定したり、怪しげな祭祀の神を否定したり、挙句自分に手向かう全ての神を否定する」


瑠衣は椅子の肘掛けに置かれていたリモコンをとると、ビデオに向けた。



「どうして自分以外の考えを認めないのかな?、千差万別、たくさんの神、たくさんの考えがあってもいいはずなのにね?」


ビデオのリモコンを切ると、瑠衣は漆黒の翼を展開しながらゆっくり立ち上がり、二人に向かって歩き出した。



歩くたびにゆっくりとその姿は変わり、二人の数メートル前に来る頃には、堕天使らしい蠱惑的な姿に変わっていた。


「けどそれももうすぐ終わり、神は退場し、私たちが主役になる世界が来る、秩序も法もない、快楽に満ちた世界が」



「ルシファー、確かに主神のやり方はどうかと思う、だが混沌が必要であるように、秩序もまた生命に必要ではないか?」


遮那の言葉に、ルシファーはにこりと笑った。


「ふうん、サナトお兄ちゃんは魔物娘とは暮らしたくないの?」


「まさか、魔物娘は人間を遥かに越える魅力と色気を備えている、暮らしたくない者なぞいないはずだ」


そうではないのだ、魔物娘と暮らしながらもルールを守る、天使と共存しながらも自由に生きる、それが、バランスが肝心なのだ。



魔物娘と生きるからと言って、必ずしも退廃的に生きねばならないというわけではないはずだ、どんな生き方も自由、何が正しいか、正しくないか、どうしたいか、どうすれべきか、それは自分で判断するべきだ。


秩序にせよ混沌にせよ、誰かから押し付けられるようなものではないはず。



「・・・もし、サナトお兄ちゃんが、そうしたいと願うなら・・・」



ルシファーは全身からすさまじい闘気を放つと、右手に剣を引き寄せた。



「抗ってみて?、この私、明けの明星ルシファーに、それが人間としての可能性・・・」





「・・・(何だ?、ルシファーは何を考えている?)」


まるで遮那のコトワリを肯定するかのような、それにも関わらず、自分が障害(サタン)となり試すかのような、そんな雰囲気だが。




ルシファーが何を企んでいるかはわからない、しかし依然として彼女が遮那や真由に向ける強大な殺気は変わってはいない。



どちらにしても戦うほかない、遮那と真由は揃って身構えた。





「・・・行くぞ、真由」



「・・・はいっ!」




思えばカテドラルのある新京極で遮那は最初に真由を失った。



もう二度と、失いたくはない。








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「くっくっ・・・、ついに修羅人は堕天使ルシファーとの決戦に入ったか」




「どちらが勝ったとしても、最後に笑うは我々・・・」




「くっくっ・・・、せいぜい魔物との共存など、叶わぬ夢に酔うが良い」










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「・・・さあ、耐えて見せて?」



ルシファーは漆黒の翼を展開すると、全身からすさまじい闘気を放つ。



「さすがは明けの明星、生半可な覚悟では相対することすら出来ないか」



「遮那さま、私たちは半端な覚悟でここにいるわけではありません」



しっかりとした調子で頷き、その手に小太刀を構えてみせる真由、遮那もまた彼女に頷き返すと、両手を構えた。




「まずは、小手調」


ひょいっと軽い調子でルシファーは右手から凍気を放つ、おそらく彼女から見れば牽制技かもしれないが、その凍気により、周りの壁は一瞬にして凍りつく。





「まさに絶対零度、か、しかし・・・」


遮那は氷結無効の障壁を張り攻撃を防ぐと、隣にいた真由が、その隙をついて雷を放つ。



「ふうん、やってくれるじゃない」


電撃無効を張り、ルシファーは真由の雷を塞いで見せたが、素早く的確な動きである。



「やはりこのくらいでは隙は作り出せんか・・・」



「ほらほら、まだまだ行くよ?」


今度はルシファーは両手の指から無数の指弾を五月雨のごとく連続で放ち始めた。



「遮那さまっ!」


「対処する」



遮那は攻撃をかわしながら破邪光弾を放ち、ルシファーの指弾を相殺する。


「せやあっ!」



そのまま近づくや否や、地面を蹴り飛び上がり、ルシファーに蹴りを浴びせた。



「っ!」



ルシファーはすぐさま仰け反る形でかわしたが、微かに反応が遅れ、頬に切り傷が残された。



「ふうん、さすがはサナトお兄ちゃんだね、少し油断したよ?」



ぺろりと頬をなめて傷を治すと、ルシファーは周囲に魔力を放つ。



「ここからはわたしも本気でやらせてもらう」


がちゃりとルシファーの魔力に反応して、部屋の床が上に上がっていく。



「ルシファーっ!」


天井が開き、床が止まるころには、遮那、真由、ルシファーの三人はカテドラルの屋上に立っていた。




「さあ、サナトお兄ちゃん、京都ボルテクスが良く見えるよ?」


空にも大地にも光が満ち、数多の生命が生きている、こうなると改めて京都ボルテクスの異常さがよくわかる。



「行くよ?、かわせるかな?」


今度はルシファーの全身に紫と金色の光が満ち溢れていく。



「メギドの炎かっ!」



「その通り、ただし範囲はミカエルの比じゃないよ?」


瞬間カテドラルの屋上全域がメギドの炎に包まれた。



「ちっ!」


あまりにも範囲が広すぎる、屋上のどこへ逃げても巻き込まれてしまうだろう。


「さあさ、サナトお兄ちゃん、どうしたのかな?」

光が消えると、カテドラルの屋上には遮那と真由の姿はなかった。


「あの程度で消し飛んだりはしないよね?」



「当たり前だっ!」


カテドラル屋上端の柵の向こう側から、遮那と真由が飛び出してきた。


なるほど、全域が炎に包まれたため、あえて飛び降り、下の階に避難していたのだ。



「ですが、遮那さま、あの一撃は強力です、連射されたりしたら私たちに勝ち目はありません」



「わかっている、それまでになんとか勝機を掴むしかない」


ルシファーは依然余裕の笑みを浮かべながらカテドラルの少し上の空中に静止している。


「・・・私が戦った中で、一番の強敵かもしれないな」


だが、倒すしかない、さもなくば遮那がこれまで戦ってきた意味がなくなってしまう。



「さあ、お兄ちゃん、もう一撃喰らってみるといい」


またしても全身に紫と金色の光を集めるルシファー、今しかない。



エネルギーのチャージに集中しているこのわずかな間に、自分の持つ全てのエネルギーをルシファーにぶつけるのだ。



「ルシファー、お前に見せてやろう、修羅人遮那、最大の奥義っ!」


顔の前で両手をクロスさせて、足元の空間を切り裂き、自身の全てのエネルギーを集中させる。



「『地母、晩餐』っ!」



瞬間遮那の足元の空間が割れて、すさまじい量のエネルギーがルシファーに襲いかかった。


「なっ!、これは京都ボルテクスを作り上げたあの技・・・」



驚愕するルシファー、地母晩餐の威力はルシファーの想像をも遥かに上回るほどである。



そのままメギドの炎を放つことも出来ず、ルシファーは地母晩餐のエネルギーの中に飲み込まれた。



「・・・くっ!」


がくりと膝をつく遮那、地母晩餐にエネルギーの殆どを使いきってしまったのだ。



「やり、ましたか?」


真由の言葉に、遮那は首を振る。


「いや、これしきのことでルシファーが敗れるとは思えない」



だが遮那は今エネルギーをほぼほぼ使い果たした状態、今ルシファーが出てくればもう勝ち目はないかもしれない。





「・・・中々、やるじゃない」


ふわりと、上空からルシファーがカテドラル屋上に舞い降りた。


しかしかなりのダメージを負ったようで、身体はあちこちボロボロ、身につけていた服もつたつたになっている。



「サナトお兄ちゃん・・・」



ゆらりと遮那に近づこうとするルシファー。



「お兄ちゃんが、勝者、だよ?」


だが足元はおぼつかず、ルシファーは遮那のすぐ前に立つや否や、前のめりに倒れこんでしまった。


「・・・ふう」


ルシファーをなんとか抱きとめる遮那だが、それが限界だった。


彼もまた、深い闇に、ゆっくりと堕ちていった。


16/10/05 20:30更新 / 水無月花鏡
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■作者メッセージ
みなさまこんばんは〜、水無月であります。

閣下ことルシファーとの戦いでございましたが、今回はいやにあっさりと敗北を認めた閣下でありました、と。

今回はメガテンの閣下ではなく、デビサバな閣下なイメージになっております、メギドラダインとか・・・。


ではでは今回はこの辺りで。

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