読切小説
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死んでも死に切れない
「しっかりしろ!おい!」

「……」

炎の立ち上る街中の一角で、一人の青年は一人の少女を抱いて泣いていた。
これから一人前の神父として旅立とうというその日に、ここ聖地ガレオンは怒りの炎に包まれた。
我々こそが真なる教義の元にある宗派だと言って引かない宗教が、一斉に武装蜂起を図ったのが事の始まり。
かくいうこの青年「ナディ・フィーリアス」もそんな宗教に身を置く者の一人だ。
所謂過激派組織の暴動に、穏健派である彼が巻き込まれる形となって今に至る。

「頼む!目を醒ましてくれ!シーファ!」

彼が大人げもなく泣いている理由は、その腕に抱く少女にあった。
彼女はシーファと言う、謂わば彼の世話係である。
数年前に保護したのをきっかけに、以来ナディの傍にずっと付き添う。
そんな彼女だが、今はピクリとも動かない。

「シーファ……シーファぁぁ…」

どれだけ強く抱き締めようと、どれだけ名前を呼ぼうとも、彼女は返事どころか身動き一つしてはくれない。
彼女の身体は魔法により体中が傷だらけ。
出血も酷く、ナディの足元は血だまりが池の様になっていた。
建物の路地で泣き呻く彼の意志など無視するように、今も街の至る所では魔法が炸裂する爆発音や住民たちの悲鳴が響き続けている。

「シーファ……シーファ…」

「ちょっと!何してるの!早く逃げるわよ?!」

ナディは気が付けば、自警団の女性に救出される形で首都郊外へと連れ出されていた。
一体どうやって脱出したかは覚えていないが、シーファを連れて来れなかった事が悔やまれて仕方がない。

――――――――――

あれから数日が経ち、宗教間の暴動は沈静化しつつあったが教会本部の方からは暫くの間顔を出すなと手紙で伝えられ、神父としての第一歩がとんでもない事になってしまった。

「………あれからもう何日だ……」

思い出すのはやはりシーファの事ばかり。
家の事は自分でも出来なくはないが、彼女に教えた仕事は彼女にさせた方が非常に完成度が良かった。
それを今になって実感している。

「……シーファの腕は凄かったんだな………」

料理はそこそこ出来る方ではあったが、間に合わせで作ったサンドイッチにしてもきっとシーファは数段上手く作れるだろう。
彼女が居た事で一体どれだけ助けられていた事か。

「……そう言えば、料理の度に食べてる所は見るわ味の感想聞いてくるわで食べにくかったっけ…」

ははは、と笑って見せるもやはり虚脱感がナディを蝕む。
いつもと同じ少女の顔が、今日はこのテーブルには無いのだ。
一人寂しく食事をとろうとしていたナディだったが、彼女の顔を思い浮かべれば浮かべる程、考えても居ない事を考えるようになってしまう。

「……(…そう言えば、最近身体を気にし始めてたっけ……どうすれば胸が大きくなるか、とか俺はどんな体型の娘が好みかとか…)……っ?!な、何考えてるんだ俺は…」

頭をブンブンと振り、邪念を取り除こうとするように握ったサンドイッチへがっつく。
食欲を満たせば満たすほど、頭の中に膨らんでいくシーファのあられもない姿の数々は靄と消えていく。
サンドイッチを食べ終わる頃にはそういった考えもスッキリ消え去っていた。

「…ごちそうさま……やれやれ、いつになったら俺は解放されるんでしょうね…」

教会の方から送られてきた手紙には、顔を出すなと書かれていたが、これはつまり過激派との接触を避けろという事に他ならない。
何食わぬ顔で街を歩いていては、ちょっとした顔見知りに脅されかねないからだ。
穏健派とはいっても牙を持たない訳ではない。
過激派の事は良く思っていないし、他の教えを良いとも思ってはいない。
ただ過激派と比べていくらか社交的であるというだけの話なのだ。

「…………二人、か…」

シーファから教わった、盗賊の心得とも言えるような技を使ってみる事にした。
部屋に籠って居ては退屈で死んでしまいそうだったからであって、別に部屋を抜け出そうとか考えている訳ではない。
玄関前にそっと立ち、床に触れて耳を澄ます。
眼を閉じて音を聞く事と手のひらから伝わる振動に全神経を集中させる。
ドア越しに話している女性が3〜4人。
きっとこれは井戸端会議か何かだろう。
それよりも近くで、突っ立ってはいても退屈そうに仲間と駄弁っている男の声が二つ。
時折土を踏む時の音からして具足のような物を履いている。
つまりは武装しているのだ。

「……今日は寝よう…」

その声には聞き覚えがないわけではない。
どちらも自分の先輩神父の物だ。
要は護衛のような事をしてくれているのだろう。
先輩方に感謝を心の中で述べつつ、今日も安心して寝室へと戻る。
ベッドメイクもシーファの仕事だったからか、寝室はそこそこ散らかっているのが見て分かる。

「………シーファ、いつも過保護だったよなぁ……ホント、何処の生まれなんだか…」

ベッドに座り、物思いに耽りながら彼女の事を思い出していく。

『おっと……大丈夫かい?』

『………』

思い返せば、ナディにぶつかって転んでしまった少女を助けたのが出会いのきっかけだったかも知れない。
その後すぐに駆け足でナディの元から逃げるように消えて行ったが、すぐにその意味を思い知る事になる。

『……?……!俺の財布っ!』

見事な手際で財布をスリ取り、あっという間に逃げて行く。
その後すぐに自警団が彼女を捕まえ、どういう訳かナディの元へ届けられる。
その理由は「お兄さん、見つかって良かったね」の一言で察しが付いた。
彼女は自警団員に嘘をついて、ナディを兄と言っていたのだ。
その時には驚いた物だが、生きる術を知っているなと関心しもした。
なんやかんやあったが、いつまでも付いて回る彼女に話を聞いて、ナディは運命の決断を下した。

『………つまり、優しくしてもらった償いがしたい…と?』

『はい………小間使いでも奴隷でも何でもいい。貴方に恩を返したいんです…』

これが、彼女との出会いだった。

「………うっ……っ?!な、なんだコレは?!」

眼を閉じて昔の思い出に浸っていたナディは、身体の違和感と倦怠感、解放感に目を開ける。
彼の目の前に飛び込んできたのは、男が情けない声で驚くには十分すぎる光景だった。
いつの間にか自分のモノを握りしめ、座った体勢のままでモノを扱いて自分を慰めていたのだ。
そんな事をするつもりは自分には全くないからこそ、驚いたのである。

「と、とりあえず拭いて……?濡れてない…?」

手近にあった手ぬぐいを取って、床を拭こうと足元を見たナディだったが手ぬぐいは必要無くなった。
足元どころか座っていた場所から精液が飛んでいきそうな所はどこも濡れていなかったのだ。
あっと言う間に渇いてベタベタしている所も無ければ、どこかが濡れている様子一つありはしない。

「……まぁ、いいか………とりあえずねy…」

無意識に自分を慰めていたのが相当に疲れたのか、ベッドに横になった途端にナディの意識は闇へと落ちて行った。

――――――――

『―――いいっ!ご主人様ぁ!』

『―――あぁぁ!気持ちいい!いいぞシーファぁ!』

『ご主人様ぁ!お慕いしてます!ご主人様ぁ!』

『シーファ!シーファ……し、シーファっ?!』

ふと我に返ってみれば、見ている夢はピンク色。
死んでしまった従者を思うあまりに夢にまで出てしまったのだろう。
だが、ナディは夢と分かっていても感じる物があった。
彼女と性的に繋がっているという快感と、驚いた時に我慢が出来ず彼女の膣内へ滾りを吐き出した射精感だ。

『きてるぅ……はぁ…はぁ……ご主人様?どうかされました?』

『あぁぁ……うぐっ……はぁ…ぁぅ……ど、どうしてシーファが…?』

『どうして……?何の事ですか?ほら、続きをお願いします…』

ナディの問いに首を傾げたシーファは起き上がると、後ろを向いて自分の尻を差し出す。
瑞々しい肌が視界いっぱいに広がる。
ナディはまるで吸い込まれるように彼女との交わりを求めた。
気が付けば二人はさっきと同じように身体を重ねて愛し合っていく。

『そ、それにしても……なんだか…』

考え事をすればするほど、意識が遠のいていく感覚に襲われる。
まるで身体が自分の物でないかのような感覚と共に、視界がブラックアウトしていく。

―――――――――――――――――

「……うっ……ん…?」

「はっ…はぅぁぁ……ごひひんひゃまはぁぁ…」

「……」

まるで射精したかのような快感と共に目が醒めてみると、自分にのしかかって一人の少女が腰を振っている。
淫靡な表情を浮かべてはいるが、その顔に彼は見覚えがあった。

「し……シーファ…?」

「ひゃぅんっ?!」

「うぁっ!し、締まる…」

名前を呼ばれると彼女は身体をビクンと震わせるとナディへと凭れ掛かる。
そうまでして分かった事だが、彼女には殆ど体重を感じなかった。
何かが乗っているというのは分かるのだが、少女一人が乗っているような重さではない。
もっと軽く、言ってしまえば布団を掛けているのと同じような感覚だった。
だが目の前には見知った顔の少女が確かに身体を繋げていた。
そう、夢の中で愛し合っていたのと同じように。

「あ、またぁぁぁ………んっ……ごしゅじんさまぁ…」

「シーファ……なのか…?」

目を凝らして彼女を見れば分かった事だが、透き通るような髪や肌色とは表現するが、彼女の身体は本当の意味で透き通っていた。
光の反射や悪戯ではなく、本当に彼女の身体の向こう側の天井がうっすらと見えている。
一瞬だけ自分に透視のような力でも目覚めたかと思いもしたが、そんなファンタジーな物は無い。
透視できるようにする呪いもあるというが、少なくともナディはそんなものは知らない。

「はぁ…はぁ……はい、やっと出て来れました……ご主人様、私の事ばっかり考えてるんですね……私がそう仕向けてるんですけど……えへっ…」

「な、なんでそれを知って……ん?……仕向ける………?!」

彼とて無知という訳ではない。
故に頭の中で情報の整理が整ってしまえば自ずと答えが這い出てくる。
しかし、その答えをナディは心のどこかで否定したかった事だろう。

「魔物娘………ゴーストか…」

「御明察っ!さすがご主人様ですね!あ、またビクッてなった!」

彼女が死んだ時のあの状況を思い返してみれば、もしかするとこの結果は目に見えていたのかもしれない。
あの時、戦っていたのは言ってしまえばプリースト同士だった。
そりゃ近接装備や格闘装備の者も居ただろうが、大半は魔術による攻撃を得意とする。
そんな状況になれば、魔術を使っての砲撃戦がメインとなるだろう。
周囲には魔術が爆ぜた後も魔素が漂い、その上に魔術が爆ぜて魔素が濃くなっていくという訳だ。
そんな中に放り出されたシーファの魂は、あっという間に魔素に繋ぎ止められ成仏する事無く魔に生きる者へとその姿を変えてしまう。
こうしてナディに憑りついた彼女が、今になって成長しきって発現したという訳である。

「じゃあ、さっきの夢も…」

「はい、私の妄想です」

「お前の事思い出してた時、無意識に自慰してたのも…」

「いえ、それには手出ししてません。見ては居ましたけど…んひゃぅ!驚きついでにビクビク揺れるおちんぽ可愛いっ!」

顔を赤くしながら、幼い笑みを浮かべるシーファがナディに抱きつく。
今更ながらに彼女との交わりに背徳を覚えてしまう。
生きていればシーファはまだ13歳の少女だ。
魔物娘と成り果ててしまってもその幼さはそのままであり、体格こそ少し成長したとは思うが顔は彼女そのまま。

「うぐっ!い、いや…これ…はぁっ!!」

「ほぉら、ご主人様ぁ?私みたいなこどもを抱いて気持ちいいんですよねぇ?ほらほらぁ!」

幼い身体つきの、これから成長していったであろう小振りな胸が、腰を振ってナディを嫐る度に小さく揺れる。
笑顔で腰を振る少女に上から乗られて、モノをキュンキュンと締め付けられ続けていく。
その刺激に耐えられる程、ナディは女性との性行に慣れてはいない。

「うぁぁ…やめ……あっ!…あぁぁぁぁ…」

「あはっ♪また出てるぅ……うぅん……抜かずの十発は流石に堪えますか…?」

「じゅ…!?」

快感に押し負けて彼女へおもいっきり射精して、その後すぐナディに異変が起こる。
身体中から倦怠感が、まるで最初から潜んでいたかのように湧き出して身体全体がこれでもかと重くなっていく。
更には意識も一気に遠くなり、あっという間に目の前が真っ暗になってしまった。

最後に聞こえたのは、シーファが無邪気に、でもどこか色艶を纏った笑い声だった。

――――――――――――――――――――

「―――ありましたねぇ、そんな事も…」

「全くだ。あの時は本当に死ぬかと思ったぞ…」

あれから数年が経ち、ナディは神父として復帰して住んでいた場所の程近くで神父を探していた教会へ転がり込んでいた。
今となってはすっかり落ち着いて、教会での生活にも慣れている。
シーファの方はと言うと…

「ご主人様、最近信仰に熱心なお姉さんとよくお喋りしてますけど、ああいうスタイルの方が好みなんですか…?」

「うん?まぁ魅力的なくらいグラマラスだったけど、そういう目で見てたら神父失格だしなぁ……それに、俺はシーファの事が一番好きなん……何してんの…?」

「え………っと………つ、つまみぐい…?」

「メイドだろうが嫁だろうが娘だろうが、ご主人様のモノをつまもうなんて許しませんっ!」

「うえぇぇ…でもご主人さまだいすきだよぉ…」

魔物娘らしく精にも愛にも貪欲に生きていた。
いや、ゴーストだから厳密には生きてはいないのかもしれないが。

彼らが、いつの間にか「歳の差夫婦」と呼ばれるようになるのはまだまだ先のお話である。   完
16/05/13 22:31更新 / 兎と兎

■作者メッセージ
やはり日を置くと目的と結果がズレてるなぁ…

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