連載小説
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生誕

実はね、最初からだったんだ。
一目惚れっていうのかな……そういう意味では不純な動機かもね、容姿で好きになったんだから。
信じられないって言ってもしょうがないよ、好みは人それぞれだよ。
でもそれだけじゃなくって、普段の行動も見てるとね、とっても男らしい所とかが見えてきて……。
気付かなかった?結構な頻度でじーって見てる時あったんだよ、気付かれたら恥ずかしいからこっそりだけど。
色々知ってるよー、こっそり枯れそうなお花にお水あげたり、人のミスをフォローしてあげたり……。
んふふー、何でも知ってるよ?でもこれは知らなかったなあ♪
こおんなに……誰よりもオトコノコだったなんて……♪

 ゆっくりと、腰を揺らしながらオラシオが耳元で囁く。
卑怯だ、と、ウーズラは思う。
見も知らぬ淫魔に責められているのならば体を責められているだけだ。
だがこうして耳元でひそひそと囁かれると、どうしても自分の上に跨って腰を振っているのが「あの」オラシオだと意識してしまう。
しっかりと絡みつけられている足が、鍛錬で見せる駿馬のようなあの健康的な脚だと思うと。
胸の上で潰れて弾むような弾力を伝えて来るのが、訓練の時に揺れて男子の視線を引き寄せていたあの胸だと思うと。
今、自分の陰茎をねっとりと締め付けてくる肉がその彼女の秘部だと思うと、
いつも朗らかで家柄を鼻にかけず、笑顔を絶やさない彼女の声が、耳に囁いていると思うと。
どうしても、勃起が鎮まらない。
昂ってしまう。
そんな自分の恥ずかしい昂ぶりも、脈動も、全てが彼女の最も敏感な部分に察知されてしまう。
「はぁぁぁ……頑張って耐えようとするウーズラ君健気……可愛い〜〜♪」
いっそミーハーな声を上げて、顔を逸らすウーズラに構わずちゅっちゅっとキスを降らせる。
「んん……それじゃあココ以外でも……可愛がってあげちゃう♪」







 「……体勢を変えた……と言う事は……」
目ざとく指摘する理事長にオラシオはまた、赤面して俯く。
「はい……ずっと、繋がりっぱなし、というのは、私の虚偽……いえ、記憶の改変、だと思います……」
ウーズラと繋がったのは魔物に物理的に強制されたから、自分の意思ではなかったから……。
そんな言い訳の為に、自分はずっと拘束されていたのだと思い込もうとしていた。
だが、記憶を子細に辿っていくとそうではなかった。
自分はある程度自由に動いていた。
そう、そうだ。
自分が一方的にウーズラを貪るようになってから、魔物は結合を強制する拘束具を外していた。
自分は拘束具を外されてもウーズラを離そうとしなかった。
そこからは抵抗する様子を見せたウーズラにのみ拘束が与えられたのだ。
抵抗できないウーズラを、一方的に自分は……。
「貴女は……」
理事長はカチャ、眼鏡を直して言った。
「淫らですね」

淫ら。


教団領において、それは女性に対する最大級の侮蔑の言葉だ。
理事長は、オラシオを非難した事になる。
ところが、その理事長の言葉の響きに棘は含まれていない。
何故か、オラシオは自分が「褒められた」とすら感じた。
淫ら、私は……・
「はい……私は淫らです……」
罪を告白するように宣言すると、何故かじゅわん、と体の芯がまた熱くなった。
「そんなにも淫らにウーズラ、ボナークを求めたのですね……それ程に、彼に想いを寄せていた、と」
「はい……」
そうだ、好きだから、大好きだから、淫らになってしまう、求めてしまう。
自分は駄目な女だ……駄目な……駄目な……?
「それはある程度、致し方ない事です」
思いもよらない言葉を理事長は言う。
「好意を寄せる異性に対し、性的な魅力を感じる、何ら不自然な事ではありません」
「だけど……それは……そんな事は……」
「無論、その好意に流されて快楽を貪るのは教義に反します」
「そう……ですよね……」
「ですが、人が人に惹かれる事は避けようのない事、増して貴方は魔物に捕らえられ、明日も知れぬ身でした」
「……」
「この状態において正常な判断を下すには、貴女はまだ若く、未熟です」
「……はい……」
「であれば、嘘偽りのない好意によって淫らとなってしまうのもやむを得ない事だったのかもしれませんね」
「……はい……」

自分が淫らになったのは、仕方のない事だった。

 そんな風に考えてはいけない、そんな風に自分の罪を誤魔化してはいけない。
正気の彼女であれば、そう自分を戒めただろう。
だが、今のオラシオは自分が淫らであるという事実を突き付けられた上で与えられた、ある種の赦しを享受しようとする。
「いやらしい……私は、いやらしい……」
とろん、とした目で転がすように口の中で呟く。
「そんな淫らな貴女は、どうしたのですか?」
「わたし、は……クチ……」
「クチ?」
「おっ……おクチで……ウーズラ君を、愛しました」
「どのようにですか?」
「お口で……」
ごくん、と溜まった唾液を飲み下して、オラシオは答える。
「お口で……咥え、ました……魔物に……教えられた方法で……」
「何を咥えたのですか?」
「ウーズラ君、のを……」
「ウーズラ氏の、何をですか?」
「ウーズラ君の大きくて……逞しくて……素敵な……おちんちんを……」
「どのようにですか?」
もじ、と一つ身じろぎをしてから、オラシオは右手を顔の前に上げた。
「こう……」
手で筒状の物を握るような形にし、大きく口を開いた。
「こうひて……こお……」
はっ、はっ、と息を乱しながら、はしたなく開いた口から舌を伸ばし、空中でそのピンクの舌を泳がせる。
「う、うーじゅら、くふん、ろ、おっき、から、こうひて……」
両手で握る仕草をすると、ピンク色の口内も白い歯も曝け出すだらしない顔で、棒状の物を舐めるような仕草をする。
「こんらふうり……」

 ペロ、ぴちゃ、れろ、ちゅぷ、ぢゅるっ、ぢゅっぱ、ぢゅっぱ
あ、あ、あ、あ、だめ、だめ、ひゃめて、ひゃめて、オラシオさ、おねが、そんなこと

「うーじゅらくん、しゅごく、よろこんれ、くれふぁから、こうひて」

 ぢゅぷぷぷぢゅぷぷぷぷぷっちゅぱっ、じゅぼっちゅぼっ
じゅぽじゅぽじゅぽじゅぷじゅぽじゅぽじゅぱじゅぱじゅぱじゅぱっ!
ああああああ、おねが、だめ!だめ!だめ!出る出る、出る!出ちゃ!あーーー!

 そっ、と、理事長がナプキンを差し出した。
「あ、んぐ!?す、すいませ……」
顎から垂れ落ちそうになった涎を慌てて貰ったナプキンで拭う。
いくら何でもはしたなさすぎた。

「飲んだのですか?」

 と、理事長が、そう尋ねた。
何を?
何かなんて決まってる、そんなのウーズラ君の、熱い、熱い、熱くて、濃い……。

 ああああああああああああ!
どくっ、どくっ、どくっ、どくっ、どくっ、どくっ、どくっ、どくっ
ごくっ、ごくっ、ごくっ、ごくっ、ごくっ、ごくっ、ごくっ、ごくっ

 「……」
オラシオは、ナプキンを口元に当てて俯いたまま、暫く何も喋れなかった。
喋りたくないからではない、喋れなかった。
唾液腺が壊れたように唾液が分泌され、それを飲み下さなくてはいけなかったからだ。

 (ああ、どうして……)

 寂しかった。
こんなに欲しいのに、こんなに飲みたいのに。
ウーズラ君がいない、「ミルク」を飲ませて貰えない……。

 「ふはっ……」
どうにか自分の唾液を飲み下した後、潤み過ぎた瞳からほろほろと涙が零れた。
「ウーズラ君は、今、どこに……?」
前後の流れを無視した質問だった。
だが、理事長はその言葉を予測していたかのように答える。
「会いたいですか?」
「すぐに、会いたい……」
「会ってどうしたいのですか?」
「飲みたぁい……」
「何をですか?」
「ミルクぅ……!ウーズラ君の、ミルクぅ……!」
眉を寄せ、耐えきれないと言うように自分を抱き締め、身をくねらせる。
「飲みたいだけですか?」
「クチだけじゃないよぉ……欲しいよぉ……!全部に欲しいよぉ……!」
抱き締めた体を折り曲げ、ぶんぶんと首を振る。

 「会いたいぃ……!」

 ミシッ

 折り曲げた事で見えた背中に、異変が起こっていた。
肩甲骨のあたりの制服が、不自然に盛り上がっている。

 ギギ、ミシミシミシッ

 オラシオの身体から、異音が漏れる。

 ビッ……ビビ、ビリッ……

 内からの圧力に負けて、制服の生地が破け始める。
背中の、二か所から。

 そうか、
そっか、
私はもう前から……。
きっと、助け出された時には、もう……。

 「理事長……」
自身の変容に翻弄されながら、一瞬、オラシオの声に冷静さが戻る。
「貴女は……そっか……この学園は……もう……」
辛うじて上げた顔の前で、妖艶に微笑む理事長。
その笑顔の後ろで揺らめく漆黒の翼、頭部に見える捻じれた角。
その姿こそは……。

 「んんんーーーーーーーっ!」

 オラシオはぎゅっ、と目を閉じる。
その顔の横から、理事長と似た角が伸びる。
生まれたての雛鳥のような翼が、震えながら背後に伸びる。

 「あっ……ふっ……」

 バサッ

 とうとうその背後に、漆黒が広がる。


 教団領の只中にある、魔物に対抗する戦士を、勇者を輩出するために設立された学園。
その学園の奥の理事長室に存在してはならないもの。
淫魔が、そこにはいた。

「ウーズラ君の場所、教えてあげましょう」
もう一人の淫魔が微笑を浮かべながら、新たに生誕したその淫魔に向けて言った。


20/01/03 22:10更新 / 雑兵
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■作者メッセージ
明けましておめでとうございます。
会場で購入して下さった方々に感謝。

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