連載小説
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最初の三匹
俺は究極の選択を迫られていた。

ーーここに三匹のモンスターがおるじゃろ?

旅の友とするはじめのモンスターを選ばせようとする博士のように、


カマキリ
ゴキブリ

をお並べになられた飼い猫のミミさまが、俺の前に誇らしげな顔で鎮座ましまし、お遊ばせなられましらっしゃっている。
いや、普段だったらね。「そんなもの持ってくんなー」とい言いつつ猫の戦利品の処理するだけなのだが、あいにく俺は新しいアプリゲーム「まもむすGO」を起動させたところだった。
俺は魔物娘が本当に存在するなど思ってはいなかった。試しにやってみよう。その程度の気持ちだった。だが、画面に写っているのは見目麗しい魔物娘の女の子たち。
ご丁寧にも彼女たちの種族、モスマン、マンティス、デビルバグ、まで表示されている。
肉眼で見れば、死にかけの虫でしかないが、スマホのカメラを通せば、瀕死の……口に憚られるような有様の彼女たち。ちなみにウチのミミさんはただの猫だ。

「オィいいいい! 仮にも魔物ならただの猫に負けてんじゃねーよ! しかも何? 魔物娘って人間の女の子に化けてるんじゃなかったのかよ!?」
とツッコミはしたものの、これはただならぬ状況である。俺はそっと、勇者や聖職者顔負けの魔物ハンター、ミミさまにご退場願う。彼女のご機嫌を損ねてトドメを刺されたらたまらない。
で、どうしよう。
俺は突如として戦場さながらと化した我が部屋を見る。
猫が捕まえて来た虫たちを前に、少女さながらにいい大人がオロオロしている状況だが、画面を見ればシャレにならない陰惨な現場が映し出されている。
病院? でもそれって獣医に連れて行けば良いのか? 人医?
どっちに連れて行ったところで門前払いを食らう気がする。

ピクピクと、彼らの節くれだった足がか細く痙攣する。
ヤバい、マジでヤバい。顔面蒼白となる俺の耳に、

ピロン。
何かピックアップされた音。

俺が縋り付くように画面を見れば、深刻な顔をした刑部狸が新規アイテムを教えてくれていた。
見れば、

課金アイテム【エリクサー】一本五万円
どんな瀕死状態でもこれ一本で全回復。一人につき一本全部使ってください。

「足元見てんじゃねーよ。バカァああああ!」
俺は思わずスマホを足元に叩きつけ……そうになった。
持って計ったようなタイミングで更新されたアイテム。しかし背に腹は変えられない。俺は購入ボタンを押す。クッ、ソシャゲガチャを回すのを我慢すれば、出せなくはない金額であるのは確かだ。というか、俺が決めている一ヶ月のガチャ限度額内に収まっているのも悪意を感じる。

使いますか? Yes or No

使うに決まってんだろーが!
俺はもどかしい思いとともにYesを押す。
ピロン、とムカつくくらい軽い音と、殴り飛ばしたくなるくらいの狸さんの良い笑顔。
この運営、悪意しか感じない。

空中に、浮かび出てくるエリクサー。
それは一人でに動いて彼女たちに中の液体をブチまける
その量と虫の大きさだったら一本で十分じゃないかと思わざるを得ないが、初めて目の当たりにする魔法そのものという光景に、俺は目を丸くするしかなかった。
遊びで始めたこのアプリだったが、有無を言わせず信じざるを得ない状況が連続している。

そして、エリクサーのおかげで傷のない綺麗な状態になった虫たち。
画面を見れば、麗しい少女たちが写っていて俺はホッとする。皆んな、そこらのソシャゲのキャラよりも可愛い。十五万使ってUR(ウルトラレア)三枚確定だと考えると安いかもしれない、と考えるくらいには俺の金銭感覚は麻痺していた。
そんな俺に、全快して嬉しそうな画面の少女たちが飛びついてくる。
しかし。
「ぎゃああああ! 待て、お前らまだ虫の状態のままだから! 特にゴキ! ぁああああ! 顔に、顔にぃいいいい! 蛾の鱗粉が口にぃいいい! イヤァアアアアア」
俺の悲鳴に、何処かでニャーン、とホッとしたような鳴き声が聞こえた。

で、彼女たちが助かったは良いものの、何でも、まだ魔力が足りずに元の姿に戻れないらしい。それは課金する事でアイテム屋の狸さんが教えてくれた。何で俺こんなに搾取されてんだよ……。
何でも、彼女たちを画面の中の美少女の姿にするためには俺の精液を与えてレベルを上げなくてはならないらしい。
アプリで彼女たちのステータスを確認すれば、彼女たちが魔物娘の姿になれるレベルと、次のレベルまでに必要な精液の量が表示されている。
何そのエロゲ。
いや、そんなエロゲはない。だって、虫たちに精液ぶっかけたり皿に入れて提供するってどんな性癖だよ。俺は金だけではなく、エロソシャゲのレイアちゃんに捧げるはずだった精液まで運営によって搾取される運命だったらしい。
まあ、画面越しであれば美少女にぶっかけられてはいるのだけど……。

「ダメだ。押しちゃダメだ。これ以上搾取されるわけにはいかない」
数日後、俺は自らの右手を抑えていた。

画面には新規アイテム
【卑猥な飴】一個一万円
使えば一レベルアップ。

……俺は多々買わなければならない衝動との戦いに勝利した。
「こういうのって、必要なレベルが最後の一押しだったりするとツイツイやりそうになるんだよな〜」
俺が額を拭えば、
ピロン。購入しました。
「…………え”!?」
ニャーン。
「ミミさまぁあああああ! お前本当に魔物娘だったり、運営の回し者だったりしないだろうなぁ!?」
俺はミミさまに詰め寄ってみるが、彼女は涼しい顔で欠伸をあき、アプリを起動させても彼女には反応しない。このエリアにいる、『get!』と表示されているのにその下に『ロックされています』と表示されているシルエットなんて怪しすぎるのですが、どうか?

ま、まあいい。ーーよくはないが、アイテムを使って最後の一押しをしてみる。
ピロン。ーー拒否されました。
「拒否!? 拒否って何!?」
ピロン。ーーあなたの精液しか受け付けないそうです。
……それは嬉しいような、何というか。というか、運営、これ絶対知ってただろう。狸ェ……。
ま、触れられないソシャゲのキャラよりも、実際に触れられるこの子たちに金も精液も貢げる方が、まだ建設的、と俺は思っておく。こんな事を俺が思うようになるなんて想像もしていなかった。

そうして俺は
課金アイテム【精力増強剤】一本三千円
を自身に使ってブーストをかける。さて、と。もうひと頑張りしましょうか。



俺には三人の嫁がいる。
『まもむすGO』というアプリで出会えたモスマン、マンティス、デビルバグ、という魔物娘たち。俺は彼女たちを養うために懸命に働き、出世もして給料も上がった。あれほどハマっていた他のゲームへの課金はやめてしばらく経つ。
だから、ちょっとまた課金してガチャしてみようかな、って押したのは悪かった。
謝るから、ーーミミさま。

「なあ、お前、本当に運営の回し者じゃないよな?」
誇らしげな顔の彼女の前には、
細長いものが三本。

太い蛇に、あーかい蛇に、しーろい蛇。

その太い蛇、お前に捕まえられるサイズじゃないと思うけど、というか、その白い蛇とかヤバそうな香りがプンプンするんですけど……。
ま、いいか。アプリの画面を見れば、どうやら俺の嫁が増えるらしい。俺がみんなを養えるほどの給料になったのを見計らってから、というのは運営の悪意を感じざるをえないが……。俺は、ワザとらしくも瀕死の体を取っている彼女たちを回復させるために、アイテム屋のコマンドを押す。
ぶっちゃけ、その傷とかケチャップにしか見えないのだが。

課金アイテム【エリクサー】一本七万円
どんな瀕死状態でもこれ一本で全回復。一人につき一本全部使ってください。

「シレッと値上げしてんじゃねーよッ!」
俺は今度こそスマホを地面に叩きつけていた。
17/08/18 00:58更新 / ルピナス
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■作者メッセージ
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【メンテナンス】
・虚構認識第一面本軸 8月15日開始〜メンテナンス終了時刻:未定
・図鑑R空間第一軸の新規第四面第一軸への投射編纂試行中
・虚構認識第二面本軸メンテナンス中

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