読切小説
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ホームステイ

 「お、来たみたいだな」
「まあ、早いのねえ」
「……」
両親の声に、中村康太(なかむらこうた)はこっそりため息をつく。
日曜日の今日、中村家は一つの家族を迎える。
ホームステイ、と言えるかどうかはわからない。家族三人で来るらしい。
父が懇意にしている取引先相手が家族ごと日本に長期滞在する必要が出たのだという。
父がそれならばその期間家に来ればいいと持ち掛けたそうだ。
異文化コミュニケーションだか何だか知らないが、人の生活に入り込んでそれを経験しようだなんて物好きとしか思えない。
それを受け入れる両親含めて。
「ほら、お出迎えするんだよあんたも」
康太は読んでいた漫画を放り出して渋々玄関にまで出ていく。
「小さい子の面倒はあんたが見たげるんだよ?」
「ハイハイ」
康太は子供嫌いだった。
いや、康太自身が高校生で世間的には子供なのだが、正確に言うと自分より年下の子が嫌いだった。
まあ何しろ泣くし喚くしうるさいし。
電車で同じ車両にいてもイヤホン越しにまで響く喚き声、映画館などで近くの席になんてなったら心底憂鬱にさせられる。
そんなものだから自分の家がホームステイを受け入れるとなった時、向こうの家族に子供がいると知ってうんざりした。
もう、本当に冗談じゃない。
生活の中に他人が入り込むだけでも相当抵抗があるのに、その中に嫌いな子供がいるとは。
しかしこうして受け入れ当日になって、玄関先に見慣れない車が止まるのを見るともう、渋々覚悟を決める他なかった。
子供嫌いだから俺に近づけるな、とは流石に言えない、まだ高校生だけど大人だ、俺は大人だと自分に言い聞かせた。
まず運転席と助手席から両親が降りて来た。
(うわぁ)
まず、奥さんはめちゃくちゃ美人だった。
すらりと長い手足、真っ白な肌、輝く長い金髪、青い瞳。
そして本当に子ども一人生んでるんだろうかというくらいに若々しい。
一目見た瞬間にかあっ頬が熱くなるのを感じた。
その旦那さんは茶色の髪に整った顔立ち……こちらも随分若く見える。
映画から飛び出て来たみたいな夫婦だった。
その二人はこちらを見てにっこり笑い「ドーモ、ヨロシクオネガイシマス」と片言だが何とか聞き取れる日本語で挨拶をした。
「カサンドラ・マルクと、いいます」
旦那さんの方が白い歯を見せて笑いながら言う。
「カサンドラ・セウロン、です」
奥さんははにかむようにして言う。
両親も若干の緊張をみせながら「いえ、こちらこそ」と頭を下げる、康太も恥ずかしさから目線を合わせないようにしながらお辞儀をする。
と、綺麗な母が車の後部座席の窓をコンコン、と叩き、中に聞き取れない言語で呼びかける。
「−−−−」
中からごにょごにょ、と小さな声で返事が返ってくる。
甲高い、小さな女の子の声だ。
随分元気が無いように聞こえる。
「車酔いかしら?」
母が首をかしげて言う。
「−−−−−−」
「−−−−−−−−−」
何度か言葉のやりとりがあった、その中で美人母の語調が少し強くなった所があった。
(……怒られてる?)
康太が訝しんだところでガチャ、とドアが開いて中からようやく女の子が降りて来た。
母親の容姿からして予測は付いたが、それはそれは可愛らしい女の子だった。
腰まで届く蜂蜜色の髪、大きく、空のように青い瞳、幼いながら人形のように整った顔立ちは成長すれば母のような美人に成長する事が確約されている。
しかしながらその表情は明るいとは言えず、むっつりと口を閉じて下を向いている。
「−−−−−」
母が声を掛けると、ちら、と中村家の方に視線をやり、ぺこん、と腰を折った。
「カsaンドra・チャコーrr……」
両親よりさらに拙い言葉で自己紹介すると、くるりと母の足の裏側に回ってスカートにしがみついて顔を伏せてしまう。
ああ、と康太は思った。
この娘も、自分と同じような気持ちなのだろう。
他の家族に入っていく事が不安で、両親に対して反発も覚えていたのだろう。
元々人見知りなのかもしれない。
足をぶらぶらさせる彼女を見て康太はちょっとした共感を覚えるのだった。







 「ただいまー」
「おかえり」
「オカエリナサーイ」
学校から帰ると、リビングにいた母と共にセウロンさんが言ってくれた。
二人は並んで皿洗いをしている。
相変わらず綺麗すぎて日本の台所に立っているのが似合わないセウロンさんだが、元々要領がいいようで家事全般をよく手伝ってくれる。
こんな人が毎日こうして仕事の帰りを迎えてくれてるんだ、と思うと旦那のマルクさんに何とも言えない妬みを感じてしまう。

トタトタトタッ

と、二階から掛け下りて来る軽い足音がした。
「−−−−−−」
セウロンさんが困り顔でその足音の主に向かって外国語で何かを言う。
多分「こら、走っちゃ駄目って言ってるでしょ」的な事なのだろう。
言われた当人は気にしたふうもなく、がちゃっと勢いよく台所のドアを開ける。
「コッタ?」
何度教えても「康太」を「コッタ」としか発音できないチャコールは康太の姿を確認すると「ヤァーイ♪」と両手を上げて喜びを表現しつつ飛びついてくる。
「−−−−−」
母がまた何か諫める言葉を発したが、全然聞き入れずにチャコールは康太の制服のズボンにすりすりと金色の頭を擦りつける。
康太は苦笑いしながらその頭をぽんぽん撫でてやる。
まさかここまで懐かれるとは。







 ステイが始まっての数日間、柔軟で積極的なカサンドラ夫妻はすぐこちらの生活に溶け込んだ。
しかし娘のチャコールは中々馴染む事ができず、両親以外に口を開かず、与えられた部屋に籠りきりになっていた。
そこで何とかしなさい、と言われたのが康太だ。
何とかしろと言われたってそもそも子供が苦手だというのにどうしろというのか。
そう思いながらも、自分も元気のないチャコールを気にしていた康太はとりあえずチャコールに漫画を貸してあげる事にした。
漫画を持ってチャコールの部屋を訪れ、好きな本を読ませてあげる、自分もその傍で一緒に本を読む。
そもそも日本語の不自由なチャコールとまともに会話はできないので、干渉せずただ傍にいてあげるように、一人にしないように努めた。
するとある日、チャコールがお絵かきを始めた。
ぐるぐるの丸や棒で構成されたその人間らしき絵を見て、「もしかしてこのキャラ?」と漫画の絵を指すとうんうんと頷いた。
「そっか、俺もこのキャラ好き」
通じないとわかっていたがそう言うと、チャコールは初めてにっこりと笑顔を見せたのだ。
その顔を見た康太は。
(あっ……天使……)
と、少しだけ自分の子供嫌いが解消されるのを感じた。
打ち解け初めてからは早かった。
今ではチャコールはむしろ両親よりも康太にべったりという日々だ。







 「買い物してくるから、チャコちゃんお願い」
休日に家族達でショッピングモールを訪れた日、康太とチャコールは二人になる。
普通の買い物に付きそうとチャコールが退屈するので、こうして康太にお守りを任せるのが恒例になっている。
「コッタ♪コッタ♪」
「はいはい」
チャコールは康太の腕を引っ張ってゲームコーナーに行こうとする、康太も引っ張られながらついていく。
ちょっと前までなら考えられない事だが、康太はチャコールのお守りが嫌ではないのだった。
基本的にチャコールは康太と一緒にいる間は機嫌がよく、人を困らせるような駄々をこねたりはしない。
それに何より可愛い、ものすごく可愛い。
自分に子供が出来れば子供嫌いは直る、と聞いた事があるが、まさかこの年でそれに似た感覚を実感しようとは。

イテ! イテイテ! イテ! イテ! モーオコッタゾー!

ゲームコーナーで彼女にとっては大きいハンマーを振り回して次々飛び出すワニの頭を一生懸命に叩く彼女を見ながら康太は思う。
「コッタ!コッタ!」
「おー、やったやった」
自分が出した新記録を指さしてぴょんぴょん飛び跳ねる彼女の頭を撫でてやると「ヤァーイ♪」と嬉しそうに康太の足に絡みついてくる。
「はいお疲れ様、あんたも慣れたもんねえ」
「いつもアリガトウゴザイマスー」
買い物から母達が帰ってくると、チャコールは今度はセウロンに駆け寄ってスカートに縋り付き、ゲームのスコアを指さしてぴょこぴょこ跳ねる。
「−−−−−−」
「−−−−−」
優しい表情で何かを言うセウロンにはしゃいで何かを言うチャコール。
自分もそっちの言葉がわかれば、もっとチャコールと細かいコミュニケーションが取れるのになあ、と康太は思うのだった。
大好きな人達に囲まれて幸せそうなチャコール。
しかし、そんな彼女の笑顔はこの日の昼までだった。
「ナゴリ惜しいですけれど、ソロソロ支度をしないといけませんネー……」
「もうそんなに経つんですねえ、何だかあっという間」
昼のファミレスで母二人がそんな会話をしたのだ。
そう、滞在期間は二か月間、もうそろそろお別れの時期が近付いているのだ。
「−−−−−」
セウロンは隣でお子様ランチを頬張る娘に何かを言う。
「……?」
チャコールはスプーンを持ったまま何を言われているかわからない、という顔をする。
多分、自分はずっとここに住むものだと思い込んでいたのだろう。
小さい子供にとっての二か月というのは大人にとっての年単位に等しい。
帰らなくてはいけない、という事実が呑み込めないらしく、不思議そうな顔で何度も母に質問をしていた。
チャコールはその日、大好きなお子様ランチを半分以上残してしまった。







 チャコールにとって一番来て欲しくない日が、残酷にもやってきた。
「おセワになりましたー」
「ええ!お元気で……」
「機会がアレば是非また……」
「喜んで」
玄関先に出した車に大きなスーツケースが載せられ、いよいよ空港に向けて出発するのみだった。
親達が別れの挨拶をしている間、チャコールはじっと俯いて動かない。
丁度、初めてここに来た日のような様子で。
ただ理由は真逆だった。
「……チャコ?」
ずっと何も言わないチャコールに康太が屈んで目線を合わせる。
「…………」
「バイバイ言おう?な?」
「……」
チャコールが顔を上げる、頬が真っ赤に紅潮している、目に涙が溜まっている。
迂闊にも康太の目にも熱いものがこみ上げて来てしまう。
「……コッタ」
「うん?」
何かをぼそぼそと言う彼女の口元に耳を近付ける。

ぎゅ

 と、小さな手で腕を掴まれた。
そのまま黙り込んでしまう。
「−−−−−?」
そろそろ出なくてはいけないという時間になって、セウロンは娘に声を掛ける、だが、チャコールはじっと動かない。
「−−−−−」
「−−−−−−−」
チャコールが何かを言い、セウロンが困った顔で言葉を返す。
「何て……?」
ずっと腕を掴んだまま動かないチャコールをどうしていいかわからず、康太が言うと父のマルクが優しい困り顔で言った。
「コウタクンと一緒に帰る、言ってます」
「−−−−−」
セウロンが諭すように声をかけながらチャコールの腕を引くが、動かない。
とうとう康太の腕を両手で掴んだままぺたん、と地べたに座り込んでしまう。
子供が親に対して取る「徹底抗戦」の構え。
意地でも動かないという意思の表れ。
「−−−−−」
少し強い口調でセウロンが何かを言ってチャコールを引っ張ると、とうとう火が付いたように泣き出した。
「あぁぁぁーーーーーん!あぁぁぁぁーーーーーん!コッターーーー!コッターーーーー!うぁぁぁぁぁぁん!!」
チャコールが初めて見せる「駄々」だった。
泣きながら康太の腕にしがみつく。
父が両親に謝り、セウロンが何とかチャコールを引き離そうとする。
とうとう、康太の目からも堪え切れなかった熱いものが零れ落ちた。
「チャコ、チャコ」
声を掛けるとチャコールはくしゃくしゃの顔を上げる。
「また会おう、な、げんまん、げんまんだ」
そっと、腕に絡みつくチャコールの腕を解いて、小指同士を絡ませる。
チャコールに教えた約束の形。
「ゆーびきーりげーんまん」
そう言うとチャコールも続ける。
「ひぐっ、えぐっ、うーそついっ、えぐっ、ついたっら、ひくっ、はくっ、はーりせんぼっ……ぼっ……ひぐっ、のーますっ……!」
「「ゆーびきった」」







 シュッ シュッ シュッ
康太の指がスマホの写真をスライドさせていく。
二家族全員で撮った六人の写真。
居間でテレビを見ているチャコールの写真。
ショッピング中にふざけて撮った写真……。
それほど数は多くないが、写真を撮る習慣のない康太の中では最もスマホの写真機能が働いた二か月間。
その日付はもう、今から数年前になる。
今は大学生になった康太は画面を閉じてスマホをポケットに仕舞った。
当時より肩幅も広くなり、身長も伸びた康太は場内アナウンスが飛び交う雑踏の中に立っている。
そう、この空港で康太は再びあの家族を迎えようとしているのだ。
免許も取ったので、空港から家まで康太が車で送る事になったのだ。
今度は仕事の関係ではなく、遊びに来るという名目で。
いつまでも色褪せないあの二か月の後、実はマルクが父にもう一度家族で会いたいと打診し続けていたらしい。
父もそれに異論はなかったが互いに仕事の都合がつかず、実現するのは数年越しになってしまったのだった。
(……チャコ、元気かな……)
当然、康太にとって何より思い出されるのが娘のチャコールの事。
あの別れ以来、大げさに言うと心にちょっとした穴が開いてしまったような感覚が暫く続いた。
いや、慣れて意識しなくなっただけで今も開き続けているのかもしれない。
「あっ」
群衆の中にあっても目立つ輝かしい金髪。
セウロンとマルクだった。
位置を知らせるために手を振ると向こうもすぐにこちらに気付いて手を振り、旅行鞄をガラガラと引きながらこっちに来た。
「お久しぶりです」
「オヒサシブリコウタくん!大きくなったねえ!」
「ホントウ!見違えたわ!」
「二人もお変わりなく……」
いや、お世辞でなしに本当に変わらない。
二人共記憶の中と全く同じに若々しい、まるでこの数年歳を取ってないかのようだ。
しかし……。
「あの……チャコ……ちゃんは……」
一番見たかった姿が見当たらない。
ひょっとして何か不都合があったのだろうか、体調でも崩したのでは……?
不安げになる康太の顔を見てセウロンはふふ、と含み笑いをする。
「?」となる康太の前で、唐突にセウロンはひょい、と横にステップした。
「!?」
と、背後から現れたのは白いワンピースを着た驚き顔のチャコール。
小さい時からそうなるのはわかっていた、わかってはいたがため息が出るほどに可愛く成長した姿のチャコール。
すらりと長くなった手足に、当時と変わらない腰まで届く蜂蜜色の髪。
まだまだあどけなさを残しながら既に美貌、と呼べる顔立ち……。
と、見惚れる間もなく慌てて母の後ろにまたぴたっとくっついて姿を消してしまう。
なるほど、遠くにいた時から母の背後に重なって隠れていたらしい。
しかしなぜ……?
「フフ、空港でコウタクンが待ってるって聞いて、ズットこれ」
それを聞いてチャコールはぺしぺしと母の腰を叩く。
なるほど……つまり、恥ずかしいらしい。
「チャコ?」
康太が近付こうとするとスルスルっと母の腰の周りを回って陰に隠れてしまう。
「チャーコ?」
反対側に回ると反対回りにスルスルと逃げてしまう。
セウロンもマルクもくすくす笑っている。
ぽん、とセウロンが腰の周りを逃げ回るチャコールを捕まえて腰から引き離してしまう。
隠れ場所を失ったチャコールと康太は向かい合って立つ。
以前よりも大きくなった康太と、同じく成長したチャコール。
それでも前よりちょっぴり身長差は埋まっていて、前より顔も近い。
「チャコ、久しぶり」
「……コッ……」
久しぶりにあの名前で呼ばれる、そう思っていたら、その名前が途中で詰まった。
恥ずかしさで真っ赤になっていたチャコールの顔が、みるみるくしゃくしゃになっていく。
その顔を見て、ああ、やっぱりあのチャコールだ、と康太は思う。
「……タァ……」
ため息交じりに名前を呼ぶと、チャコールは耐えかねたように康太の腰に抱き着いた。
「っと……」
「〜〜〜〜〜っっ〜〜〜〜〜〜っっ」
康太は少女の肩をぎこちなく抱き返してやる。
むせび泣く娘を、両親は嬉しそうに見守っていた。







 その夜、親達はささやかな宴会で尽きる事の無い話に花を咲かせていた。 
康太の両親はしきりに「チャコちゃんは可愛くなった」「両親に似て美人だ」とチャコールを褒めちぎった。
康太の横に座ってオレンジジュースを飲むチャコールはその度にはにかみながら「アリガトウゴザイマス」と答える。
ちゃんと日本語も勉強してきたらしい。
そして杯が開いたのを見ると酌をしたり、少し台所に立って母の料理を手伝ったりと成長した様子を見せていた。
親に付き合って飲んでいた康太も酌をしてもらいながら「成長したなあ」と感想を漏らすと頬を染めて笑っていた。
以前とは違ってたった一週間の滞在だが、またいい思い出が出来そうだと康太は思った。
そうして宴会の夜は更けていった。







 「……うーん……」
気付くと、自室の布団に寝転がっていた。
家は既に暗く寝静まっている。
宴会の終わりあたりは記憶にない。
「あー……飲み過ぎた……かぁ……」
自覚していなかったがやはり自分も浮かれていたようだ、ペース配分を間違えた。
再会して早々酔っ払う姿を見せてしまうとは失態だ。
記憶にある姿と違ってがっかりされてないといいのだが……。
のそのそと起き上がる、マルクさんの持ってきた酒がいい酒だったからか、幸い頭痛や吐き気はしない。
服はそのままだったのでまだ入ってないと思われる風呂に入る事にした。
暗く、静かな廊下を通って浴室に入る。
幸い風呂は沸かしてあったようで、まだ入れる温度だ。
身体を洗ってからざぶん、と湯舟に浸かり、背筋を伸ばす。
「っあー……」
(チャコちゃん可愛くなってたなあ……)
すっきりしてまず頭に浮かんだのはそれだった。
可愛くなるだろうとは思っていたが想像以上だ。
確か、年齢を計算すると中学生くらいか……。
あれならさぞや男子にモテるだろう、いや、最近の子はませてるからもう彼氏とかも出来てるかも?
それに発育具合も……そこはスレンダーな母に似なかったのか、空港で抱き着いた時に感じた胸のあたりの感触が……。
遠くないうちに母を抜くのではなかろうか。
(んー……もうちょっと俺が生まれるのが遅かったら……なんてな)
ばしゃばしゃとお湯で顔を洗う、まだ酔っ払っているようだ。
年の差以前に中学生では犯罪である。
(あー……すまん、チャコちゃん……俺は汚れた大人になっちまったよ……)
一人で微妙に落ち込んでいると、浴室の外の洗面所からゴソゴソと音がした。
(おかんかな?)
「……コッター……?」
(あ、チャコちゃんだ、こんな時間まで起きてたのか、イカンぞ子供が)
「おフロですかー……?」
「おーう……」
返事をすると、何かまたゴソゴソしている。
(……何してんだろ)
「入りますです」
「え?」

ガララッ

 「……」
「……」
康太は頭が真っ白になった。
チャコールが風呂場に入ってきたからだ。
裸でだ。
いや、風呂に入るのなら裸なのはおかしくない。
だが、タオルの一枚も身に着けていないのはおかしい。
いやいや、一人なら裸でもおかしくない。
おかしいのは男と一緒に入るのにタオルも付けないという事だ。
いやいやいや、「男と一緒に入る」がもうおかしい、大前提としておかしい。
あ、そうか、彼女はまだまだ子供なんだから。
お父さんと結構な年まで一緒に入る子だっているんだし。
そういう感覚?
いや、でも、以前一緒に暮らした時はお母さんといっしょに入ってたし。

何で?

 思考が完全にオーバーヒートした康太はただ、まじまじとその体に見入ってしまう。
本来最も異性に裸を見られたくない年頃の少女の、法律的に認められていない年齢の少女の体に。
白い。
本当に肌が眩しいくらい白い。
二次性徴の過程にあるその体のラインはまだ女性らしい肉が付き切らず、青々しさを残している。
だが子供だと言い張るにはその臀部のラインは魅惑的過ぎるし、胸はつん、と上向きに膨らみ過ぎている。
服の上からの感触の通りだ。
まだまだこれから豊かに育つ事を予感させるそれは膨らみかけでありながら、もう女だった。
そしてその下半身の……部分。
そこは、上半身と裏腹にまだまだ少女であると主張するように何にも覆われていない。
ぴったりと閉じたそれは何にも隠される事なく晒されている。
「……っっ」
チャコールはふい、と俯いて右手で乳房、左手で下腹部を隠した。
無意識なのだろうがそれは美の神ヴィーナスのポーズ。
蜂蜜色の髪に縁どられたその姿は背景が普通の家の風呂場でなければ一枚の絵画の如し。
そして、これで決定的になってしまった。
その部分を隠す、という事は、見られる事に羞恥がある、という事。
彼女は「何も知らない」訳ではないのだ。
詳しくは知らないかもしれない、だが少なくとも見られて何も感じない段階は既に過ぎているという事だ。
では、彼女が羞恥に耐えてまでこうして風呂場に全裸で入ってきた意味とは……。
短時間でフラッシュバックの如くあらゆる思考が康太の脳裏を駆け巡ったが、それらは具体的なアクションには繋がらず。
ただ康太は無言でぎぎぎ、とロボットのように視線を正面の風呂場の壁に戻すしかできなかった。
「……」
「……」
全身を羞恥で桃色に染めたチャコールはそれでも風呂場を出て行こうとはせず、黙ってバスチェアに座って体を洗い始める。

キュッ サァァァァ パチャン こしこしこし

 シャワーの音に続いて、石鹸を泡立てる音。
自分が湯舟に浸かっている横で中学生の少女が体を洗っている。
見ようと思うなら犯罪者になるか裏モノのビデオで見るしかない光景が繰り広げられている、しかも飛び切りの金髪美少女の。

シャコシャコシャコ……

 肌をスポンジでこする音、石鹸の泡の音……。
固まったままだった康太の理性が、ほんの少し本能に負ける。
懸命に正面の壁を凝視していた視線が、ゆっくりと横に向いていく。
あくまで視線だけ、首は動かず視線だけ……。
いや、視線だけだと届かないからちょこっと首も動かして……。
合った、碧い目と。
チャコールもこちらを見ていた、バレないように殆ど目線だけをこっちに向けて。
「……」
「……」
泡にまみれた少女の、未成熟な白い裸体。
見てはいけないそれを網膜にしっかりと焼き付けてしまう。
「……」
と、脇を洗っていたチャコールが不自然な動きをした。
スポンジを膝の上に置くと、胸の膨らみの下に手を添えて……。

ぷるっ ぷるっ

 と、揺らして見せた。
わたし、おっぱいあるよ、わたしにもあるよ、女の子だから、あるよ。
そう、主張するように。
と、見る間にその肩から首筋、耳に掛けて、泡にコーティングされていてもわかるくらいにさぁっと赤味が増していく。
自分のした事が恥ずかしいらしい。
誤魔化すようにスポンジを取り直してごしごしごしごしと肩を洗い始める。
(……可愛い……)
頭がくらくらする。
自分は、自分はロリコンだったのか?
いや、いやいや、今のは誰だって、どんな奴だってクラクラするだろう、抗いようがないだろう、そうだろう?
もはやまともな思考も保てない康太の耳にまたシャワーの音がする、体の泡を流しているようだ。
身体を洗い終えたのだから、出て行ってくれるのでは?
一瞬そう考えた康太だったが、チャコールはちゃんと手順を守って入浴する娘だった。

ちゃぷん

 と、康太の目の前の湯面に白い足が入る。
康太は慌てて背中を湯舟にくっつけて前にスペースを作る、とは言え家の狭い風呂だ、どれほどの隙間もできない。このままでは足の上に乗られてしまう。
仕方なく、康太は足を広げる。
そこに、押し入るようにして白い肢体が滑り込んだ。

とぷん、パシャパシャパシャ……

 容量を超えた分のお湯が、淵から零れていく。
康太は限界まで体を縮めたが、接触を避けるのは不可能だった。
足の間に彼女が座り込む形になったため、どうしてもその華奢な足と水中で触れ合う事になる。
何よりもまずいのが足を閉じれない、という事。
つまりこの自分の恥ずかしげもなく肥大化した欲望を、この少女の前に思い切り晒してしまうという事だ。
都合よく温泉の元などが使われているという事もなく湯は透明だ。
見えている、絶対に見られている、いや、屈折率というものがあるのだから正確にはちょっと違って見えているはず。
だが、大きくなっているという事が誤魔化せる訳はない。
もはや正面の壁を眺める、という逃げ道も塞がれた康太はチャコールと顔を突き合わせざるを得ない。
「……」
「……」
視線は合わなかった、チャコールが視線を下に向けていたからだ。
たった今危惧していた状況がまんまと現実になってしまった。
その大きい空色の瞳に、自分の極限にまで膨れ上がった欲望が映されている。
それだけでもう取り返しのつかない事をしてしまっているような気になる。
「……」
「……」
じっくりとそれを見た末に、チャコールが視線を上げて康太の顔を見る。
康太は視線を逸らしたかったが、吸い寄せられるようにその目を見てしまう。

ぴちゃん……ぴちゃん……

二人の前髪から、顎から滴る湯と汗の音だけが浴室に響く。
チャコールの目は、潤んでいる。
その視線に吸い込まれそうになりながら、康太は考える。
今まで湯舟から出られなかったのは、このいきり立ったモノを見られる訳にはいかなかったからだ。
つまり、既に見られてしまったのならばもはやここにいる必要はないという事……。

ザバァ

 良識と理性を振り絞って、康太は湯舟から立ち上がる。
ただ、どれだけ理性を振り絞ろうとモノは小さく出来なかった。
「ハッ……アッ……」
湯から立ち上がった事で、一瞬チャコールの眼前にそれを突き付ける事になる。
チャコールが掠れた声を上げる。
それには気付かないふりをして、康太は風呂を出た。







 ドクン ドクン ドクン ドクン ドクン   

早鐘のように心臓が脈打っていた。
それと同じくらいに、下半身のもう一つの自分も鼓動に合わせて脈打っている。
あの後できる限り迅速に、チャコールが風呂から上がらないうちに着替えを済ませて布団に潜り込んだ。
本当はすぐにでもトイレに駆け込んで抜いてしまいたかったが、あんな事の直後にトイレに長時間籠ってしまったらチャコールに何をしているかバレてしまう気がした。
布団を被って無理やり寝ようとしたが当然興奮が収まる訳もなく、身体の中で暴れる劣情と必死に戦っている状態だった。
(どうして……)
どうして、彼女はあんな事を、何も知らないはずはないのに……。
いや、自惚れでなければ彼女は自分の事を好いてくれているのだろう。
だが、あんな年端も行かない少女がどうしてあそこまで思い切った大胆な真似をしたのか。
(……期間が短いからか……)
チャコールは自分と同様にあの思い出を忘れられずにいた、やがて性の目覚めと共に記憶の中の康太の事を異性として意識し始める。
そうして想いは膨らむ中でようやく康太と会う機会に恵まれた。
だが、今度の滞在期間は一週間、以前のように二か月もある訳ではない。
そこで、彼女は焦ってあんな真似を……?
(だとしたら、良くない)
数年間に渡る期間で、彼女の中の記憶は美化されているのだろう。
そして彼女はまだ余りに幼い、性的な興味と慕情がごっちゃになっている。
(何より、マルクさんとセウロンさんに顔向けできなくなる……)
こんな事は誰にも相談できない、自分が彼女に諭してあげなくては……。
出来るだろうか?
彼女の精一杯の誘惑にこれだけぐらつかされている自分が説得なんて……。

ゴソッ……

 居間からの音にぎょっとした。
もしや彼女が来た……?

「−−−」
「−−−」

 チン

 しかし、その後に続く音と声でわかった。
マルクさんとセウロンさんだった。
片付けられた居間のテーブルでこっそりと逢引のように座って、二人きりで密かにグラスを合わせて宴会の続きをしているようだった。

「−−−−」
「−−−−−−−−」

 康太にはわからない言葉で二人は語らう、とてもいい雰囲気に見える。

クスクス……
フフフ……

 声量を抑えた笑い声も聞こえてくる。
(いいな……いつまでも仲良くって……)

チュッ……

(うん!?)
しかし、その後に密やかな水音まで聞こえてきて康太は焦った。
(ま、まさか……)

チュッ……チュッ……
ハァ……ハァ……
「−−−−−」
「−−−−」
チュッ……

 気分が、盛り上がってしまった……らしい。
(あぁー……こんな所で困りますお二人さん……)
思いながら、ついつい聞き耳を立ててしまう。
なんというか、普段を知っている二人の……特にセウロンさんの「そういう」所を聞いてしまうというのはひどく興奮してしまう。
密やかに、しかし徐々に激しくなる二人の息遣い。
熱気がこちらにまで伝わるようだ。
そんな状況なものだから、折角収まりかけていた自分の陰茎も……。

 きゅっ

 「っっっ!?!?!?」
小さな手が、その陰茎をそっと掴んだ。
驚きの余り声を上げそうになって慌てて抑え込む。

(…………コッタ……♪)

 密やかな、幼い声が胸元から聞こえる。
チャコールだった。
一体、いつの間に布団の中に忍び込んだのか。
(だっ……!駄目だ……ここで流されちゃ……!)
しかし、拒否しようにもすぐ傍の居間で二人が……チャコールの両親がむつみ合っているのだ。
気付かれる訳にはいかない、そんな所を目撃してしまう訳にも、こんな所を目撃される訳にもいかないのだ。
(クスッ……コッタ……シー……♪)
チャコールには分かっている、両親がそこで何をしているのか、そして康太が激しく抵抗できない状況である事も。
もそっ……もそっ……
康太は信じられない事に気付いた。
チャコールの小さな手が、康太の下着にかかって、それをずり下げようとしている事に。
そんな、まさか、ここで、そこまで……!?
康太の思いをよそに腕の中の小さく、体温の高い、ほんのり蜂蜜のような匂いのする少女はせっせと康太の欲望を露出させようと布団の中で頑張っている。
康太は必死に抵抗を試みるが、物音を立てないようにできる抵抗には限度がある、結局……。

ずるんっ

 と、布団の中に康太の極限まで肥大した欲望が晒されてしまう。
それだけに止まらず、少女はもじもじと身を捩らせて自分のパジャマをはだけさせ、パンツを下そうとする。
居間からの秘めやかな艶声にも、次第に熱が籠り始める。
康太は、異常な状況に頭が破裂しそうだった。
それ以上に股間が破裂しそうだった。
何とか、何とかしなくては、このままでは、このままではこの娘に……。
「……っ!」

ぴとっ……

 陰茎の先端に、何か温かいを通り越して熱く、柔らかで湿った感触が触れた時、康太はいよいよバレてもいいから大声を出さなくては、と思った。
だが。

(シー……コッタ……♪シー……シッシッシーーーー……♪)

 チャコールは暗闇に光る青い瞳で康太を見つめながら唇に指を当て、子供に言い聞かせるように言う。

 みちゅっ……

 先端が、その熱い熱い何かに、めり込み始める。
康太は口をぱくぱくさせるしかできない。
チャコールは、唇に当てていた指を外し、康太の首にその小さな手を回す。

 ちゅっ……♪

 みちみちみちみちっ ぬるるるるるんっ

 小さな口にキスをされると同時に、遂に、康太の陰茎は禁断の門を破ってしまう。
それが、康太の初体験だった。
康太の童貞は、蜂蜜色の髪の美少女の体毛の一本も生えていない幼い処女に食べられてしまったのだった。







 「ふふ……素敵でした、あなた……」
「ああ……君も……」
密やかな交わりを終えたマルクとセウロンは互いに見つめあうと、奥の部屋でもぞもぞと蠢く布団に目をやった。
「チャコールも一人前になれたね……やっぱり少し寂しいなあ」
「ふふ、寂しい分も私が埋めてあげる……あの子はもう大丈夫ね、必ずコウタ君を手に入れるでしょう……」
両親が優しく見守る中、既に気付かれているとは思わない二人は布団の中で一つになりながら身悶え続けている。
「……明日の朝はちゃんとフォローしてあげないとね……」

(ああああああああっああああああっチャコぉぉぉぉ!チャコぉぉぉぉ!)
(コッタ……♪コッタ……♪コッタぁ……♪)

 壊れた蛇口のように幼い体に精液を注ぎ続ける康太と、身をくねらせながらそれを受け入れ続けるチャコールは一晩中、絡み合って離れる事は無かった。






      
 康太がチャコールと結婚を前提とした付き合いをしている事を両親に報告したのはそれからさらに数年後。
高校に進学したチャコールが長期留学生として日本に移住してからだった。


余談: 流石にこの頃になるとチャコールも康太の事を「コウタ」と発音できるようになっていた。だが、アノの時に最高潮に達するとやはり「コッタ」と呼んでしまうのだという。
19/09/17 01:34更新 / 雑兵

■作者メッセージ
ロリに挑戦といいつつ、最後にちょっぴり盛ってしまった事を謝罪します、あ、ちなみにJKチャコールはかなりばいんばいんになったそうです(筋金入りのおっぱい星人

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