連載小説
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34品目 『本能の赴くままに』
「それにしても、昨日は本当に大変でしたねぇ」
「そっすねー。女体化したシロさんの体はー本当にエロくて大変だったっすー」
「そ、それは言わないでください! すぐにでも忘れたい黒歴史なんですから……」

6日目の正午。
リン・店長・ロザリーさん・リリィさん・シィ・僕を含めた6人は、のんびりとした雰囲気の中、午前の時間を目一杯海水浴に費やした。
ちなみに今はビーチに建てられている『海の家』で休憩中。
コンシェルジュ魂が騒いだのだろうか、厨房ではシィが大量の汗をかきながら6人分の昼食を物凄いスピードで準備してくれている。
既にここでの職務は完遂されているはずなのだが……さすがはプロだ。

「ファルシロンの女体化……あぁ! わたくしとしたことが…そんな一大イベントを見逃してしまうなんて……一生の不覚ですわ!!」
「本当に凄かったのよ? 大きさではロザリーに1歩及ばないけど、形はお兄ちゃんの方が圧倒的に上だったわね」
「羨ましいな。多くの女性が君の体を褒め称えているぞ?」
「全然嬉しくありません!」

僕と店長、それにリリィさんは昨日の1件で丸1日を潰してしまったため、痛む体に鞭打って半ば強引に遊ぶことにした。
せっかくリゾート地に来たのだから楽しまなくては!……というのは建前。
『お土産を買いに行った3人が疲労でダウンしている』、これはあまりにも不審だ。
ロザリーさんに秘密を悟られないためにも、僕達は何事もなかったかのように、普段通りリゾートを満喫しなければならない。
巨大生物討伐の帳尻合わせとはいえ正直キツイ……が、『男として』これくらいの無理は受け入れられる。
そう、僕は、『男』だ。
間違っても『超絶グラマーな女性』ではない。

「いやーあのマシュマロのような感触がー今でも忘れられないっすー」
「お尻も引き締まってて、とっても素敵でしたよね♪」

男の体に戻った今でも胸や下半身の辺りがヒリヒリと痛むのは、きっと僕が寝ている間にかなりの時間体を弄ばれていたからだろう。
うぅ……もうお婿にいけない(/ω\)

「男性に憑依したのは初めてだったが、まさかあそこまで豹変するとはね。我ながら驚いているよ」
「リリィさんとお兄ちゃん、きっと相性が良いんですよ♪」
「そ、そうかな? ふふっ…本当にそうなら良いのだが……///」

頬をほんのり赤く染めるリリィさん。

「コホン! リリィ? ファルシロンはわたくしのフィアンセですことよ? 百歩譲って好意を寄せることは構いませんが…それ以上の感情を抱くことは、このわたくしが絶対に許しませんわ!」
「重々承知しているよ、ロザリンティア女史。余計な心配は無用だ」
「ふふ♪ わかっているのなら結構ですわ」
「あぁ、安心してくれたまえ(今のところは……ね)」
「うっ……」

僕が背中に悪寒を感じたちょうどその時、厨房から汗だくになったシィが昼食を運んできた。

「………(待たせたな大喰らい共! わいのお手製や! 好きなだけ喰らいやがれい!)」

様々な種類の料理がテーブルに並べられる。
う〜ん…運動後のすきっ腹に響くこの食欲をそそられる良い香り。
アマチュアとはいえ料理人の僕を唸らせるとは……さすがはシィ、恐ろしい子!

「それじゃぁ、作ってくれたシィに感謝して……早速いただきましょうか」



「「「「「「いただきまーーーす!」」」」」」



広い広いビーチの一角から、なんとも家庭的な声が響き渡った。












昼食後。
再び海へ繰り出す者、浜辺で日光浴に興じる者など、それぞれが思い思いの時間を過ごす中、僕は波打ち際に設置されていたパラソル&デッキチェアに腰を下ろし読書に勤しんでいた。
しかし、僅か数ページ読み進めたところで……

「ね、眠い……(´σд-。)」

人の体というものは総じて正直なものである。
いくら強がったところで昨日の疲れが取れるわけもなく、僕の体は今もこうして強く休息を求めている。

「………」

横に並んだ文面に集中しようとするも、内容がまったく頭に入ってこない。
むしろ集中すればするほど妙に心地の良い眠気に襲われる。
これはあれだ。眠ってはいけない講義で何故か眠くなってしまうあの現象に似ている。

「……寝ても、いいよね?」

そうだ、我慢せずに寝てしまおう。
午前中あれだけ騒いだんだ。今ここで僕が眠っていても何ら不思議はないはず。
いや、これはもう眠らない方が体に毒だと思う。
だから……ね? いいですよね?
………。
はい、じゃぁ寝ます! おやすみなさい!

「zz……zz……」

寝ると決めたが最後。
僕の意識はコンマ1秒もかからぬ間にシャットアウトされた。
はぁ…凄く……気持ちがいい…………。

「zz……zz……」

………。
………。
………。

「……シロさん?」
「zz……zz……」
「……シロさーん?」
「ん……んん……」

夢の世界に入りかけた僕を、寸でのところで誰かが呼び起こす。
この声は…………きっと店長だ。
あぁ…早く目を開けて…応えてあげないと……。
………。
だ、だめだ…瞼が鉛のように重い……。
……こうなったら…仕方ない。
失礼だけど…目を閉じたまま対応することにしよう……。

「……ん…どうか……しましたか……?」
「起こしちゃって申し訳ないっすー。実はーちょっと大事な話がー……」

僕は半分夢見心地で言葉を発する。
正直、今自分が何を喋っているのかさえ曖昧だ。

「急な話で――――いっすけどー、帰ったら―――――作り――――――」
「………」

いよいよ店長の声も聞き取れなくなってきた。
だめだ…もっと意識を集中させないと……。

「お嬢――加―――リリィさんまで―――られたらー、さすがの―――余裕が―――――」
「………」

消えかける僕の意識。
お願いだ…あと少し…あと少しだけでいいから……!

「だからうちとー……―――してもらえないっすかー?」
「……はい……喜んで……」

この瞬間、僕の意識は完全に途切れた。
彼女の声は良く聞こえなかったが、それでも僕は最後に『喜んで』と答えた。
たぶん……『本能』が僕に、そう言わせたのかもしれない―――――





「シロさん……うち、嬉しいっす……///」





6日目 終了





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■作者メッセージ
クライマックスの……予感?
(※狼少年の一言)

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