連載小説
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熱くなるのはそれだけ真剣だということ
「魔界の方に動きがあった様です」
えっ、まじすか。
エヴィさんが言うには、この街の近く(と言っても肉眼じゃ到底見えない距離)の、騎士団と戦いを繰り広げる魔物の居る魔界がなにやら動いたらしい。
「ど、どう動いたの…?」
まあ、私だってバカじゃないから薄々分かってはいますけど…。
「魔物の軍がこちらに向かって来ています」
あれ?来ていますって早くない?
「もう向かって来てるの!?そう言うのって、なんか準備してるーとかからじゃないの!?」
て、偵察?みたいなのっていないんだろうか。
「生身の人間ではすぐに魔界の魔力に毒されてしまいますので、中に入るのが難しいのです。ですから、魔界の近く、それでも早急に逃げる事が出来る距離からの偵察になってしまいますので少し出遅れてしまうのです」
エヴィさんはさも当然の様に言う。でも、エヴィさんが焦っていないんだから、そんなに心配する事でもないか。
「ですが、我らが騎士団は既に編成も終え、常に万全を心がけていますのでこれ位の遅れは有って無い様なものです」
やっぱり。さすがエヴィさん。
「魔物って、全部魔界って所に居るの?」
「全ての魔物がそうと言う訳ではありませんが…高位の魔物は魔界に居る事が多いですね。そうですね…これを機に、簡単に魔物や魔界についてお教えしましょう。」
意図せず講習会が始まってしまった…。

……

昔の魔物のこと、今の魔物娘のこと、人を(性的に)襲うこと、人と魔物の間には魔物しか生まれないこと、親魔物派が増えていること、エヴィさんたち反魔物派のこと、魔界が魔力の渦巻く危険な土地であること、魔界の魔物は特に(性的に)凶暴なこと、徐々に大きくなる魔界を放ってはおけないこと、エヴィさんの取り敢えずの目標は近くに存在する魔界を消すと言うことなどを知った。
「今の魔物は人をあからさまに殺す訳ではありません。しかし、このままでは人と言う種族が滅んでしまいます」
確かに、このままいったら人居なくなっちゃうし…。
「本来、生物の一番の使命は子孫繁栄です。今まで受け継いできたものを子に託し、その成長を見届け、自らの種を、命を長く繋いでゆくことこそ、人として、生物として最も尊ぶべき至上の行為なのです。…あくまで忌むべきは魔物です。しかし、人を堕落させ糧とし繁殖に利用する害獣と知ってなお自ら懐に招き入れるその行為!しかし親魔物派の彼らは私達を悪と呼び蔑むのです!私達が『悪』ならば、破滅への道を好んで歩む彼らはなんだと言うのでしょう!こうも簡単に身を滅ぼそうとする生物は、世界中を探した所で彼らだけなのです!生きるため、命を紡ぐための抵抗もせず、一時の快楽に溺れ、人の道を踏み外す愚か者っ!!生きとし生ける全てのもの達は日々この世界に、命を紡ぐ為に戦い続けているのです!魔物も無駄な知恵などつけず、野蛮に暴れまわっているべきなのです!人を誘惑するなどこざかしい真似をしだすなんて!あの様な連中に好き勝手させて良いのですか!?良い訳がありません!!人々は自身のために剣を取り立ち上がらなければならないのです!!これは、種と種の、両者の存在を掛けた戦争なのです!!!そして、その戦いにおいて、最後までこの大地と言う名の戦場に立っているのは人で有るべきなのです!!!あんな、あんなふざけたことをする魔物など滅びてしまえば良い!!いや、滅ぼさなければならないのです!!!!……………………………………あ、す、すみません。つい声を荒げてしまいました」
講義の最後はエヴィさんの熱い演説で締められた。一部なんか言葉が変な気がしたけど凄い迫力。
「すごい、ね…」
エヴィさんは顔を赤くして恥ずかしそうにしている。
「し、しかし、私達が戦う理由はお分かりいただけましたでしょう?」
ま、まぁ、ちょっと怖いよね。
「…改めて。勇者様は、私達に協力して頂けますか?」
エヴィさんが真剣な顔で私を見つめて来る。
…まぁ、どっちが正しいとかは良く分からないけど、
「うん。……私は、エヴィさんを手伝うよ!」

エヴィさんは、満面の笑みを私に見せてくれた。

……

「そう言えば魔界って、どうやって消すの?」
さっき、エヴィさんの話を聞きながら疑問に思ってたことを思い出した。
するとエヴィさんはにこやかに笑って、
「それが、勇者様のお役目です」
私の、役目?……って!
「え?どっどうやって!?」
「簡単に言いますと、内部から魔界を魔界たらしめる魔力を拡散する、と言った方法でしょうか?」
「な、中入っちゃって大丈夫なの?」
さっき危ないって言ってた気が…。
「その事に関してならば問題は有りません。勇者様には主神の加護がついておりますので、そう簡単に魔力に蝕まれると言う事は有りません。……詳しい方法は追々説明させて頂きます」
主神の加護って、そんな大層なものが私についてたんだ。
「後、魔界へ侵入する時は単独となってしまうかもしれません」
「え!?わ、私一人!!?」
まずくないですか?
「大丈夫です」
そう言ってエヴィさんが私の手を取った。
「勇者様の事を、信じていますから」
エヴィさんの目がきらきらと優しく輝いている…。
ま、まあ、エヴィさんが私の事を信じてくれているのはすごく嬉しいから、いっか。















―――


あの子は剣の才が無い。

華奢な身体付きでは、筋力や持久力と言った身体能力は上がるがたかが知れている。

本当ならば、こんな所に居るべきじゃない。

その辺の町娘が似合っているし、戦う方法など知らなくて良かったはずだ。

戦えなくて当たり前の、恋の一つや二つ覚えていても可笑しくはない、年頃の女の子のはずだ。

私は、そんな人達の為に剣を握っているのではなかっのたか。
11/06/27 00:22更新 / チトセミドリ
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■作者メッセージ
今回は魔界で動きがあったくらいです。

ソウナさん達がいる街は、大陸の端っこの方にあって、距離はありますが周りは海流の複雑な海と、親魔物派の領地と、比較的親魔物派の領地に囲まれていて、教団からの援軍もなかなか来る事が出来ず、依然孤軍奮闘状態、という脳内設定でやっています。

近くに魔界があるとか色々と設定に無理が多いですが、そこは目を瞑ってください…。





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