読切小説
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ちいさなうたひめ
「ふぅ、あっつ…」
 作業の手を止めて額を伝う汗を拭う。
 元々こういった肉体労働的な作業を得意としない僕だが、流石にこの作業だけは自らの手でやる必要がある。
 誰か作業員を雇ってぞんざいに扱われたら目も当てられないし、だからといって得意の魔術で吹っ飛ばすなんてのは論外だ。
「もう少し、ってとこかなぁ」
 自作の魔導ランタンから発せられる温かみのある白い光に照らされた『それ』を見て呟く。
 光が照らしているのは大きな卵のようなモノ――これは古代のゴーレムポッドだ。僕のような研究者の間では『揺り篭』とも呼ばれている。
「保存状態はすこぶる良好、あとは綺麗に掘り出すだけなんだけど…」
 こんなことなら穴掘り用の道具も何か作っておけば良かった、と今更後悔する。
 だが、自分で苦労して掘り出した後の達成感は相当のものに違いない。それに報酬は無傷かもしれない古代のゴーレムだ。
 ゴーレム技師でもある自分としてはこれ以上の宝は無い。なんせ古代のゴーレムには失われた古代の叡智が詰まっているのだ。
「よし…」
 まだ見ぬ古代のゴーレムへの期待を胸に作業を再開する。
 このゴーレムはきっと僕にとってかけがえの無いものになる、そんな予感も抱きながら。

―――   ―――   ―――   ―――   ―――

 わたしは、しろいせかいのなかをただよっていた。
 ひかりにみちたような、くらやみのなかのような、そんななにもない、でもどこか、やさしいせかい。
 そんなせかいのなかで、わたしはただ、ただよっている。
 だれかがわたしにあたえてくれた、きれいなおとにつつまれて、ただよっている。

 そんなわたしのせかいに、あたたかい、やさしい、しろいひかりがさした。

 ――ふむ、目立った損傷はないな。

 やさしい、しろいひかりがなにかいっている。

 ――ユーザー情報は…未登録? 個体名も…ということは未稼働機か? 運が良かったな、これは。
 
 しろいひかりはそういうと、わたしに『ふみ』というなまえをあたえてくれた。
 
 ――ユーザーの方は…これでよし、っと。

 しろいひかりが、わたしを、わたしのせかいからひきあげる。

―――   ―――   ―――   ―――   ―――

「さて、どうだ?」
 揺り篭に必要な情報を入力した僕は、一歩下がってその起動を見守る。
 暫くは何も起こらず起動に失敗したかと不安になったが、じきに独特の低い起動音が鳴り始めた。
「よし、来た」
 傷一つ無い綺麗な卵型だった揺り篭に切れ目が入り、プシュっと言う空気の抜ける音を立ててその蓋が開く。
「予想してたのよりも随分と、その…ちまいなぁ」
 開いた揺り篭の中を見た私は、その中に入っていたゴーレムの容姿をそう端的に表さざるをえなかった。
 ゴーレムと言えば、通常はグラマラスな女性の形をしているモノが殆どなのだが、このゴーレムはどう見ても…少女型、といったところだ。
 出てるべき場所がぺったんこで身体もあまり大きくない。銀糸のように美しく、長い髪の毛が非常に目を惹く。
 少女型ゴーレム――フミ、と名付けた彼女がぱちりと目を開いた。瞳の色は翠色だ。
「……」
「……」
 しばし見詰め合う…が、黙っていても仕方が無いので、こちらから話しかけてみることにした。
「フミ、それが君の名前だ。そして僕が君のマスターであるレクターだ、わかるかい?」
「あい」
「…返事ははい、だろう」
「…あいっ」
 キリっとした表情でそう返事をする彼女に僕は溜め息を吐いた。長年放置されて言語中枢が誤作動を起こしているのかもしれない。
 だが、現代で製造されたゴーレムならともかく古代のゴーレムの言語中枢を修理することなど技術的に不可能だ。
「まぁ、動くだけめっけもんかなぁ…」
「う〜…?」
 首を傾げるフミを揺り篭から抱き上げて外に出してやる。小型とは言えゴーレムなので、それなりの重量だ。
 抱き上げられた当の本人はなにやら嬉しそうだが、こっちは結構ギリギリである。
「立てるか?」
「あいっ」
 フミがすっぽんぽんのまま元気よく片手を上げて僕の言葉に応える。
 言語中枢の調子は悪いようだが、どうやら言葉を理解することはできるようだった。これは嬉しい発見だ。
「何にしても、ここから連れ出すなら何か着せないといけないなぁ…」
 そう言いながら僕は荷物の中をごそごそと漁りはじめる。フミも僕の横についてバッグの中を物珍しそうに覗いていた。
 邪魔にはならないので、一応そのままにさせておくとする。
「うーん…これしかないか」
 出てきたのは僕の換えのシャツ。女性物の衣服など持ち歩いているはずもないのでこれくらいしか無かった。
「ほら、まずはこれを着なさい」
「おー…」
 フミが頭からすっぽりと僕のシャツを被る。随分とだぶだぶだが、すっぽんぽんのままよりは幾分ましだろう。
「それにしても、やたらと人間っぽい子だなぁ…」
 自分の着たシャツをつまんで裾を見たりしているフミを見て呟く。
 額と腕にあるルーンを刻んだ文字盤が無ければ彼女を見てもゴーレムだとは思わないだろう。
「さて…長居しても仕方ないな。フミ、外に出るよ」
「おー♪」
 つるはしやスコップなどの重く、嵩張り、その上比較的安価な発掘道具はその場に置いていく。帰りはできるだけ身軽であるほうが良い。
 どうせそう人が足を踏み入れるような場所でもないし、文句を言うような輩もいないだろう。
「〜♪」
 ぺたぺたと後ろを着いて来るフミは何か妙に楽しげな感じで歌のようなものを口ずさんでいた。

―――   ―――   ―――   ―――   ―――

「レクター…それは新手の露出プレイかにゃ? まさかそんにゃ趣味があるにゃんて…」
「違う、違うから…ドン引きするのはわかるけど、こうする他なかったんだよ」
 カウンターの向こうで明らかにドン引きしているワーキャットのレインに僕は一通りの事情を説明する。
 ちなみに、ここは僕が拠点にしている街の雑貨屋。レインはここの店主だ。
 この雑貨屋は冒険に使う各種道具や各種食料、衣類、酒類、その他諸々…武器以外はなんでも扱っている便利なお店で、僕も重宝している。
「にゃー…古代のゴーレムねぇ。確かに人間じゃにゃいみたいだけど」
「うー…?」
 そういいながらカウンター越しにフミを見るレイン。フミはそんなレインに首を傾げて不思議そうな顔をしていた。
「で、この子用ににゃにか服を見繕って欲しいってわけにゃ?」
「うん、ここに来るまでも相当好奇の視線に晒されたから、正直なんとかして欲しい…」
 正直今も店内の他の客や店員達の目が痛い。実のところここに来るまでに三回も憲兵に職質されている。
 その度に彼女が今遺跡から発掘されたばかりの古代のゴーレムであることを説明し、更に自分がゴーレム技師であることを証明し…ああ、思い出すだけで胃が痛む。
「まっぱにだぶだぶのシャツ一枚じゃそうにゃるのも仕方ないにゃー…フミちゃん、こっちにくるにゃ。おねえさんがフミちゃんに似合う服を見繕ってあげるにゃ」
「うー?」
「いいよ、行っておいで」
「あいっ」
 僕がそう言うとフミはレインと一緒にカウンター奥にある倉庫へと消えていった。
 後ろ姿を見送って、一つ溜め息を吐く。
「みーちゃったーみーちゃったー♪」
「レクターさんって実は鬼畜さんだったんですね…」
 背後から聞こえてきた声にギクリとする。振り返ると、そこには宝箱と壷が一つずつ。
「君達、僕の話聞いてたよね…」
「えー? なんのことかなー?」
 じゃじゃーん、という擬音が聞こえそうな感じで宝箱から一人の少女が飛び出してくる。ついでに壷からもノソノソと一人の少女が這い出してくる。
「プリシラなんのことかわかんなーい♪」
「あ、アイラもなんのことか…うぅ」
 アイラと名乗った少女がすぽんっ、と壷の中に隠れてしまう。カタカタと震える様がなんとなく哀れだ。
「やっぱり無理です…」
「アイラは恥ずかしがりやだなぁ。それじゃいつまでたっても旦那様に恵まれないよ?」
「うぅ…精進します」
 アイラの入った壷をつんつんと指先で突付くプリシラ。
 彼女らも魔物で、ミミックとつぼまじんと呼ばれる種族だ。
「いつも不思議に思うんだけどね、君たちはなんでここで働いてるの? 普通はもっとこう、ダンジョンの中とかそういうとこにいるもんじゃない?」
「うーん? 暇つぶし? それとダーリンにだけ働かせるわけにいかないってのもあるかな」
「私は、結婚した後の資金稼ぎに…」
 ミミックとつぼまじんが各々の働く理由をカミングアウトする。魔物と呼ばれる彼女らにもそれなりの事情があるらしい。
 ちなみにミミックのプリシラは夫持ちである。会った事は無いのだが、たまに惚気話を聞かせてくれる。
「レクターさん、あの子とは、そのどういう…?」
「遺跡から発掘してきたばかりの古代のゴーレムだよ…まだ、詳細は調べてないからよくわからない」
「ふむふむ…で、もうコレは済ませたの?」
 そう言ってプリシラが人差し指と中指の間から親指を突き出す。
「してないよ…」
「なるほど…よし、今がチャンスよアイラ! あの小娘ゴーレムにヤられる前に先に貴方がレクターのチェリーをゲットしなさい!」
「ム、む、無理ですよぅ…!」
 ビシィッと僕の下半身に指を突きつけるプリシラに、アイラ(壷)がカタカタと震えて返事をする。
「当人を前にチェリーとか言うのってどうなんだい、君は」
「違うの?」
「…ノーコメント」
 あーだこーだと三人で馬鹿話をしている間にレインとフミが奥の倉庫から戻ってきた。
「ただいにゃー…って君達、にゃにお客様に絡んでるにゃ。ほらほら、仕事に戻りにゃさい」
「はーい」
「あの、またです…」
 店主のレインに言われてプリシラとアイラが素直に売り場へと戻っていく。その後姿を見送った僕はレインとフミに向き直った。
「こりゃ、見違えたなぁ…」
「つるーんでぺったんこだけどにゃー。代えの下着とあと何着か適当に見繕ってきたにゃ」
「〜♪」
 新しい服を着せてもらってご満悦なのか、銀色の長い髪の毛をツインテールにしてもらったフミがくるくると回りながら歌のようなものを口ずさんでいる。
「ありがとう、レイン。お代は?」
「にゅふふ…コーディネート料も込みだから、値が張るにゃよ? こんな感じにゃ」
 提示された金額は、確かに相当な高額だった。払えない額ではないが、少しばかり高い。
「少し高すぎない?」
「そんなことないにゃ。女の子用の服っていうのはレクターが思っているよりも高いんにゃよ? これでも良心的な価格にゃ」
「むぅ…そんなもんなのか。わかったよ」
「毎度にゃ〜♪」
 レインに代金を渡し、代えの服と下着の入った袋を受け取る。
「はい、じゃあこの袋はフミが持ってね。振り回して落としたりしちゃだめだよ」
「あいっ♪」
 僕から袋を受け取ったフミがにっこりと眩しい笑みを浮かべる。
 まぁ、喜んでくれたようだしよしとしよう。手痛い出費ではあったが。
「じゃあ、また」
「はいにゃー、またよろしくにゃー」
 ふわふわと手と尻尾を振るレインにこちらも手を振り返し、僕とフミは雑貨店を後にした。

―――   ―――   ―――   ―――   ―――

「ふぅ、ただいまーっと…フミ、ここが僕のアトリエだよ」
「おー…」
 自宅兼アトリエの扉を潜って中へと入ると、フミは興味深げにアトリエ内を見回した。
 干した薬草だの、儀式に使う各種呪具だのなんだのが点在するアトリエの中は自分で言うのもなんだが、怪しさ満点だ。
「流石にちょっと埃っぽくなってるなぁ…フミ、あっちの窓を開けてきてくれるかな?」
「あいっ♪」
 テトテトと走って僕に指示された通りフミが奥の窓を開けに行く。それを見守りつつ僕も近くの窓を開け放って歩く。
 新鮮な空気がアトリエ内の埃っぽさを押し流して行くようだ。
 フミも奥の窓を開け放ってきたらしく、僕の元へと戻ってくる。
「うん、よくできました」
「ん〜♪」
 頭を撫でてやるとフミは幸せそうに目を細めた。なんだか犬みたいな子だなぁ。
 何にせよ疲れた。慣れない旅と発掘作業で頑強とは言えない僕の身体は既に悲鳴を上げている。
「やれやれ…少し疲れたなぁ」
 荷物を放り出してお気に入りのソファに腰掛ける。フミも僕の隣に腰掛けた。
「〜♪」
 楽しげに足をパタパタさせながらフミが歌のようなものを口ずさむ。
 何が楽しいのかはわからないが、彼女のそんな姿を見ていると何となく疲れが癒されるような気がした。
「はは、まさかね…」
 とは言うものの、歌には魔力が宿ると言われるのであながち間違いでもないかもしれない。
 ハーピー種やマーメイド等は自らの歌声に魔力を乗せて様々な用途に使うという。何かに癒しの効果のある歌も存在するとか。
 もし、フミが古代のそういった歌を歌うための存在だとすればそういうこともありえるかもしれない。
「フミ、君は歌を歌うのが好きなんだね」
「あいっ♪」
 本来無機質で、感情の乏しいゴーレムにそういうった役割を何故持たせたのだろうか…もし僕がそういったゴーレムを作るとしたら、それはどういう時だろうか?
「〜♪」
 フミが歌う。何百年も、何千年も前に歌われたであろう今となっては忘れ去られた古代の歌を。
 いつしか僕はその歌声に誘われ、意識を手放していた。

―――   ―――   ―――   ―――   ―――

「んん…?」
 いつの間にか眠っていたらしい。
 まどろみの中、僕は寝ぼけ眼で中空を見つめる。
 下半身がねっとりとしたものに包まれ、温かくて気持ち良い。
「んー…」
 その気持ち良い感覚に身を任せていると、やがて痺れるような快感が僕の下半身を突き抜けた。
 自然と腰が痙攣し、ゾクゾクとした感覚に身を震わせる。強く吸い付かれ、快感に腰が砕けそうになる。
「あー…きもちい…ん?」
 ぱちり、と目をしばたかせた僕は自らの下半身に視線を落とした。
「〜♪」
 そこには僕の下半身に顔を埋めている少女が一人。幸せそうな顔で僕の息子を口に含み、懸命に吸い付いていた。
「ふ、ふみ?」
「んー?」
 僕に呼ばれたフミが無邪気な顔で上目遣いに僕を見ながら僕の息子をペロペロと舐め始める。
「うっ、うぅ…」
「ん〜♪」
 また大きくなり始めた僕の息子に嬉しそうにフミが吸い付く。心なしか下半身に鈍痛が走っている気がする。
 うたたねしている間に既に何回か絞られていたのかもしれない。
「ちょ、待って待って、そんなことしちゃ…ぁぉぉぅ」
 フミがその小さな口を限界まで開き、喉の奥まで使って僕のアレを全て呑みこむ。
 その背徳的な光景に僕の息子はますますいきり立った。
「んぐっ♪ んぷっ…んっ♪」
「ぅぁ…ぐっ!?」
 すぐに限界が訪れ、脳天を打つような激しい快感が突き抜ける。フミの口から僕自身を引き抜こうとするが、両手でがっちりとホールドされているためそれも適わずに彼女の喉の奥に直接ぶちまけてしまう。
「〜♪」
 恍惚とした表情で喉を鳴らして僕の精液をフミが飲みこむ。やがて満足したのか、フミは僕の下半身から顔を離した。
「へへ〜♪」
 口の周りを唾液でべとべとにしながらフミがにっこりと笑う。なんというか、その…とても扇情的な光景だった。
 節操の無い僕の息子が再び頭をもたげた。それを見たフミが目を輝かせる。
「〜♪」
 再び僕の下半身に顔を埋めようとしたフミを押し留め、僕はソファの上に横になった。
「う〜…?」
「違うよ、そう…こっちに向けて」
「〜♪」
 僕の意図を理解したのか、フミが僕の上に跨ってくる。彼女の下着が僕の目の前に広がる。
 既にフミの下着はじっとりと湿り気を帯び、縦スジのような幼い性器が透けて見えていた。僕は下着ごしにそれにむしゃぶりつく。
「んっ♪ あぅっ♪ んん〜…♪」
 それに合わせてフミが色っぽくさえずり、僕の息子に舌を這わせる。それを暫く続けるうちに、フミが身を引いた。
「どうしたの?」
「うー…」
 恥ずかしげに頬を染め、フミが僕の唾液を彼女の蜜で濡れた下着を脱ぎ捨てる。そして再び僕の上に跨った。
「〜♪」
 柔らかくて温かくてヌルヌルした自らの性器に僕の息子を導いてそのまま腰を下ろす。
「ん、んっ…♪」
「あ、ぅぁっ! す、すごい!」
 フミの口も凄かったが、こちらはそれとは比べ物にならないほど凄かった。
 温かく、ヌルヌルで、そしてキツイ。まるで吸い付くようなフミの中に、僕は無意識に腰を突き上げてしまう。
「あっ♪ あぅ♪ ん〜♪」
「ふっ! ふぅっ! うぅっ…!」
 無我夢中でフミの腰を掴み、乱暴に突き上げる。僕がどんなに乱暴に突き上げても、フミは恍惚とした表情で喘ぎ続けた。
 やがて限界が訪れ、僕はフミの中に精液をぶちまける。
「うっ…おぉ…」
「ん…♪」
 フミが幸せそうな表情のまま僕に覆い被さり、ぺろぺろと頬を舐めてきた。
 僕はそんなフミの頭を撫で――そこで意識が途切れた。

―――   ―――   ―――   ―――   ―――

「あー…」
 明くる日の朝、僕は自己嫌悪に自らの頭を抱えていた。
 言わずもがな、その原因は…
「〜♪」
 楽しげに歌を口ずさみながらくるくると回っているフミである。
 あんなに身体の小さなフミに、あんなに無邪気で純粋なフミに、僕というヤツは…
「はぁー…」
「ん〜?」
 僕のそんな様子を見てフミがトコトコと僕の傍に歩いてくる。
「ううん、なんでもないよ」
「んっ…♪」
 頭を撫でてやるとフミはにっこりと笑って再び歌いながらくるくると踊り始めた。
 落ち込んでいても仕方が無い。それに彼女も落ち込んだりはしていないようだし、僕が暗い顔をして彼女の心配をかけるのも良くないだろう。
 僕はそう結論付けると軽く自らの頬を叩いて頭を切り替えた。
「よし…フミ、ちょっと色々と試したいことがあるからこっちにおいで」
「あいっ♪」
 僕の言葉に素直に従い、フミが僕へと寄ってくる。
「これから君の能力測定を行うよ。君がどんな力を持っているのか、調べなきゃならないからね」
「あいっ」
 キリっとした表情でフミがなにやら妙なポーズを取る。敬礼…のつもりだろうか?
「じゃあまずは体力測定からだ」
「あいっ」

―――   ―――   ―――   ―――   ―――

「まずは腕力を調べてみようか」
「あいっ」
 意気込むフミの前に打撃力測定用のターゲットを出現させる。
「まずは全力でそのターゲットを叩いてみて」
「あいっ!」
 ぺこんっ。
「……もう一回、本気で」
「あいっ!」
 ぽこんっ。
「腕力は常人並みかそれ以下、と…」

―――   ―――   ―――   ―――   ―――

「次は瞬発力テストだよ。あの木まで全力でダッシュして、木にタッチしたら戻ってきてね」
「あいっ」
 動きやすい服装に着替えたフミが真剣な表情で走り出す体勢を取る。
「よーい…どんっ!」
 てってってってって…ぺしっ、てってってってって…。
「〜♪」
 言われたとおりフミは向こうまで走り、木にタッチして戻ってきた。
「今のが全力?」
「あいっ」
 どんなもんだい、と言わんばかりにフミがぺったんこの胸を張ってみせる。
「…瞬発力も常人並みかそれ以下、と」

―――   ―――   ―――   ―――   ―――

「うーん…」
「う〜…?」
 その後幾つかのテストを行ってみたが、どれも常人並みかそれ以下という結果に終わった。
 彼女の身体能力は徹底的に常人並みか、それ以下である。その結果に僕は頭を悩ませる。
「君の創造主は一体どんな思いで君を創ったんだろうね?」
 アトリエに戻った僕はいつものソファに腰掛けて、隣に座る彼女に声をかける。
「ん〜…」
 フミはしばし考えるような仕草を見せた後、にっこりと笑っていつものように歌を歌い始めた。
「んっ♪」
 ひとしきり歌った後、無い胸を張ってみせる。
「なるほど、歌を歌うのが君の仕事ってことかい?」
「ん〜…」
 僕の質問にフミは難しそうな顔をして考え込んだ。
「んっ」
 そうかと思うと、今度は自分の膝をぽんぽんと叩いてみせる。
 何がしたいのかわからず僕が首をかしげていると、フミは無理矢理僕の頭を自分の膝に乗っけて見せた。
 所謂、膝枕というヤツだ。
「〜♪」
 フミが僕の頭を優しく撫でながら歌う。
 僕は頭を撫でられながらその歌を聴き、自分だったら何を思ってフミのようなゴーレムを作るだろうかと考える。
 フミを作った古代の創造主は、何を思って彼女にこんなに沢山の優しさを詰め込んだのだろうか?
「いつかは、解る時がくるかな?」
「んっ♪」
 フミがとびきりの笑顔を見せる。
 僕がフミを理解するまでにどれだけの月日を要するかはわからないが、いつかは解る日が来る。
 フミの笑顔は僕をそんな気にさせてくれる、とびきりの笑顔だった。

―――   ―――   ―――   ―――   ―――

「これで…終わりだ
 私は全ての作業を終え、保管用ポッドの中に眠る彼女を眺める。
 この身は既に償いようもない罪過に塗れ、病に侵されたこの身体は救いようもないほどにボロボロだ。
 しかし、この作業を終えることができて私は心底ほっとしていた。
 このように晴れ晴れとした気持ちはいつ以来だろうか?
「達者でやれよ…」
 つまらない事故で全てが無駄にならぬよう、とびきり強度の高い保管用ポッドを用意した。
 資格の無い者に触れられぬよう十重二十重の封印も施した。
 そして、ありったけの優しさを彼女に詰め込んだ。
 人事は尽くした、あとは天命を待つだけだ。
「フミ…」
 かつて亡くした唯一の娘の名を呟く。
 ドンドン、と扉を叩く音が聞こえた。
「博士、もう時間です」
「わかった、今行く」
 私はチラリと最期に保管用ポッドに眠る彼女を一瞥すると、その部屋を後にした。

 男が出て行ってすぐに大きな振動が起こり、部屋が崩落し、保管用ポッドは土砂に覆われる。
 彼女をその強固な甲殻の中に抱いたまま、保管用ポッドは土砂に包まれて眠りにつく。
 遠い未来、誰かに掘り起こされるのを夢見ながら。
10/01/01 19:49更新 / R

■作者メッセージ
お父さんの顔はもう覚えていないけれど、言葉も上手く喋れないけれど、お父さんからもらった優しさは小さな胸のなかにぎゅっと仕舞い込んでいます。
だから、いつでも彼女は幸せなのです。

というわけでロリゴーレムのお話でした。
たまにはこんなのもアリだと思うんだ!

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