甘えるということと、自立するということ

「降ってきた…」
音も無く空から降りてくる白く冷たい粒を見つめながら、ライは息で窓を白く染めた。
まさか、今日とは思わなかった。最近の空模様に騙されて、薪割りこそ欠かさず行っていたが、食料を買いだめしておくのを忘れてしまっていた。
このまま少ない食料で、次の晴れの日まで過ごすか、これ以上天気が悪くなる前に山を越えて街まで食料を買いに行くべきか。
ライが空を眺めながら考えていると、バリバリ、とどこか小腹をつつく様な音が後ろの方から聞こえてきた。そっと肩越しにそちら見つめると、マンティスのスゥが毛布に包まり、ソファに寝転がりながらおせんべいを頬張っていた。
ライの視線に気がついたのか、スゥはテーブルに置いてあった数枚のおせんべいを毛布の中に隠すと、咥えていたおせんべいを両手で隠した。
「…はへはい」
「えっと、あげない、って言ってる?」
スゥは頷く。はぁ、とライは小さくため息を吐くと、スゥの横に座った。
「雪が降ってきたよ」
「うん。それへ?」
ボリボリと口をおせんべいで膨らませながらスゥは小首を傾げた。
「実はね、まだ降らないかなって思って、冬越えの準備をしてないんだ」
「はから?」
「だから、これから街に行って、いろんな物を買ってこなきゃいけないんだ」
「ふ〜ん。ごくん。行ってくれば?」
「えっ…」
口に入ったおせんべいを呑み込み、新しいおせんべいを袋から取り出しながらつまらなそうにスゥが言うと、ライは鳩が豆鉄砲を食らった様に驚いた。
スゥとこの森の奥にある山小屋で暮らして数年が経つ。そのため、いくらクールなスゥでも、こうも躊躇いなく自分を雪の中へ行かすとは、少々自意識過剰かもしれないがライは少しも思っていなかった。
「いや、でも、その…。街までは結構あるし…」
「ご飯、ないんでしょ?」
「うっ…。行ってきます…」
ライは肩を落とすと、渋々頷いた。

「じゃあ、行ってくるね…」
コートに手袋、マフラー、耳あてまでしっかりとしたライが下駄箱で靴を履いていると、相変わらず毛布に包まりながら、おせんべいを頬張るスゥが歩いてきた。
「ひをふけて、ひってらっはい…」
「うん。スゥも喉に詰まらせないようにね」
「あっ…」
「うん?何?」
ライがドアノブに手をかけた時、毛布から伸びたスゥの手がライのコートの裾を掴んだ。やっぱり、心配だよね、ライがにっこりしながら振り返ると、一枚の紙切れが手の中に入れられた。
「何これ?」
「はっへきてほひいもの」
「ごめんね、呑み込んでから話して?」
「うん。ごくん。買って来て欲しいもの」
紙切れを広げると、お菓子の名前がびっしりと書かれていた。


肩を落として雪の中を進んで行くライの後ろ姿をスゥは窓から見つめながら首を傾げた。
なぜライはあんなにもがっかりしていたのだろうか。食べ物がないから食べ物を買いに行かなくてはならない、ならば冬場は動きの鈍る私のことなど置いて行った方が早いのに。なぜああもう行き渋る様な感じだったのだろうか。
不思議に思いながらも、ライの姿が見えなくなると、急に肌寒さを感じ、スゥは逃げるように暖炉の前のソファへと戻った。
パチパチと小刻みに一定の音を立て、身体の芯から温めてくれる暖炉を、毛布に包まりながら見つめていると、スゥの瞼は次第に重くなっていった。

ふとスゥが目を覚ますと、部屋の中がひどく薄暗かった。どうやら、いつの間にか暖炉の薪が燃え尽きていたようだ。
「ライ…?」
眠い目を擦りながら大好きな人の名を呼ぶも、それに答える声は返って来なかった。そこでスゥはやっとライが街へと出かけたことを思い出した。
ふわぁ、大きな欠伸をすると、仕方なく毛布に包まりながら暖炉の元へと向かい、側に置いてあったいくつかの薪を暖炉へと投げ入れた。しかし、そこでスゥにある疑問が湧いた。
どうやって火をつけるのだろうか?
思えば今まで自分で暖炉に火をつけたことがなかった。いつも自分がつけずともライがつけてくれていた。
スゥは暖炉の周りを見渡しつつ、ライがいつもどのようにして火をつけていたか、その後ろ姿を思い出していた。
「えっと…このへんに…」
薪の置いてあるあたりを探すといつもライが火をつけるために使っているマッチの箱が見つかった。だが、スゥはマッチ自体のことはライから教わっていても、その使い方までは知らなかった。
からからと箱を振ったり、やすりの部分を指でなぞったりして、スゥはなんとか使い方を模索する。
「確か、ライはこう…!」
ライがやっていたことを思い出しながら、奇跡的にマッチをつけることができたスゥは、その達成感に少し酔いしれつつ、火のついたマッチを薪に近づけた。
「…あれ?」
燃えない。どんなにマッチを近づけても薪に火がつかない。
「ん、ん、ん、ん…。あっつ…!?」
何度も薪にマッチをつけている内に、マッチはどんどんと短くなっていき、ついにスゥの指先を少し火傷させた。スゥは慌てて指を咥えて冷やす。
その後も何本かマッチに火をつけるが薪に火をつけることはできなかった。そして、箱の中のマッチが数えられるくらいになると、スゥもさすがに諦めた。
幸い先ほどまで火がついていたらしい暖炉のおかげで部屋の中は温かく、毛布さえあれば、寒がりなスゥでも問題はなかった。
暖炉に火をつけることを諦めたスゥはマッチ箱をテーブルに置き、古めかしい掛け時計に目をやると、時計の針が正午を少し過ぎた頃指していることに気がついた。すると、自然とスゥのお腹は泣き声をあげ、ライの美味しい料理を欲し始めた。
「ライ、いないもんね…」
大きくため息を吐くと、重い足取りでスゥは台所へと向かった。

台所にある冷蔵庫を開けると、中にはいくつかの野菜と肉が入っていた。だが、どれもそのまま食べられそうにはなかった。スゥは再び大きなため息を吐くと、調理台下に積んである缶詰とフォークを一つ取ってソファへと戻った。
「…美味しくない」
缶詰に入る、名前もわからない魚の冷たい身を食べながら、スゥは呟いた。
そういえば、自分がいつからこんな生活をしているのだろうか?
口の中に冷たく美味しくもない魚を運びながら、スゥはふとそんなことを疑問に思った。
「ライ…」
ライと出会う前は、山が雪に閉ざされてしまう前の実りの秋の内に、他の動物や魔物娘たちと争いつつ、時には腐りかけの美味しくない食料さえも手に入れ、それを外よりは寒さがまだ幾分かマシな洞窟へと蓄え、凍えて取れてしまいそうなほど冷たい手足を擦り付けて、なんとか冬を越していた。だが、ライと出会い、ライと暮らす様になってからは、食料はライが街へと行って買って来てくれるうえ、美味しい料理まで作ってくれる。寒い冬は暖炉で小屋を温め、あの凍えるような感覚を忘れさせてくれる。
ライがいることで、スゥのここ数年の暮らしは快適なものとなった。
しかし、ライがいなくなった途端、快適さは消え、元の過酷なものへと戻った。少なくともスゥにはそう感じられた。
客観的に見れば昔の方が、今の状況よりもより過酷なものだが、快適さに慣れ、それがあるのが普通であり、それらに感謝の想いが無くなった時、スゥはライがやってくれるという環境に依存してしまった。
近くにあり過ぎて、そのありがたみに気づくことが出来なくなってしまったのだ。


「ごめんね、わざわざ運んでもらって」
「気にしなくていいわよ。どうせ通り道だし。ねっ?」
龍の姿をしたワイバーンが首を背に乗せた、ライともう一人の竜騎士の方に向けると、ライの前に座っていた竜騎士は、ああ、と小さく頷いた。そんな竜騎士の態度にライはほっと胸を撫で下ろした。
雪によって街へと着くのがかなり遅くなり困っていたライだったが、遠征帰りの羽休めのために街を訪れていた友人の竜騎士とワイバーンに拾われ、本来なら明日の朝になってしまうのではないかと思うほどかかる帰り道を、ほんの一時間ほどで家へと帰ってくることができた。
「ありがとう〜!」
上空から見下ろす二人にライは荷物を雪の上に置いて両手を振る。いつの間にか雪は止み、雲も晴れた空には綺麗な円形の月が浮かんでいた。そして、その月光が小さく手を振り返す彼らの影を真っ白な絨毯へと映していた。
よしっ、二人が飛び去るのを見届けると、ライは買ってきた大量の荷物を持って家の中へと入った。
「ただいま〜」
足だけで器用に靴を脱ぎ、荷物を落とさないように気をつけながら、スゥの待つ部屋へと入る。
部屋に入るとぶるり、とライの体が震えた。部屋の中は暖炉によって温められているというライの予想に反して、温度は外とそう変わりないものだったからだ。手袋や耳あてなど外しながら荷物を近くに置いて、スゥの眠っているであろう暖炉前のソファを覗き込んだ。
「ひっ…!」
男のくせに、と言われてしまう程情けない声がライの喉から漏れた。
なぜなら、毛布に包まりながらソファに横になっていたスゥの目つきが、昔の出会った頃のように人を射抜かんばかりに鋭く尖っていたからだ。
「スゥ…?た、ただいま…」
「…」
おずおずとライが挨拶するが、スゥは口元まで毛布で覆い、身じろぎ一つせずにライを睨みつけたままだった。
「スゥ?どうしたの?寒い?」
「…!」
ライがスゥのおでこに触れようと手を伸ばすと、スゥはその手を素早く払いのけた。
「触らないで…!」
「スゥ…?」
絞り出したような声でスゥは言うと、毛布で体を包みながら立ち上がり、自身の部屋へと歩いて行く。そんなスゥを慌ててライが追いかける。
「スゥ、本当にどうしたの?帰りが遅かったから怒ってるの?」
「…違う」
部屋のドアノブに触れたところでスゥは振り返り、小さく首を振った。だが、それ以上何か言うこともなく、月の光に照らされただけの暗く寒い部屋へと一人入っていった。
ガチャ、という鍵のかかる音を聞いて、ライはスゥの毛布を掴もうとしていた手を引っ込めた。なぜ、どうして。少なくとも朝は機嫌は悪くなかった。なのに…。
ぐるぐるとスゥの不機嫌な理由を考えるが、残念なことにライに思い当たるところはなかった。
はぁ、大きくため息を吐くと、真っ白な息が口から吐き出された。そういえば、暖炉に火がついていなかった。忘れていた寒さを思い出し、体を震わせると、仕方なく暖炉へと歩いていった。
「なんだろう、これ?」
火をつけようと暖炉に近くと、ライはすぐに違和感に気がついた。薪の積み方は違うし、その薪の周辺に先の黒い小さな木の枝のようなものが大量に落ちていた。何本か拾い上げて見ると、どうやらそれがマッチの燃え残りだと気がついた。
もしかして、ライはスゥの部屋の扉を見つめる。スゥが怒っているのは、自分がしっかりと火の管理をせずに街へ向かったせいで、暖炉の付け方を知らない彼女を寒い中で過ごさせてしまったからかもしれない。
寒がりなスゥのことだ、確かにそれなら合点がいく。だが、ライは慣れた手つきで暖炉に火をつけながら、スゥの目つきを思い出していた。
スゥと暮らして数年、何度も喧嘩や口論をしたことはあった。でも、あんなにも鋭い目つきで睨まれたのは、初めて会った頃と今日だけだった。
…きっと他にも原因がある。ライはそう確信した。


ライに怒っているわけではない。むしろ、今すぐにでもライに抱きついて甘えたい。だが、それはできない。というよりも、してはならないのだ。
スゥは寒さで震えながら流れる涙を毛布で拭った。
甘えてはいけない。甘えていたら、昔のような、何でもできていた自分に戻ることができない。だから、自分はライから少し離れなくてはいけない。ライの優しさに依存してはいけない。
電気など点けず、窓からさす月明かりにだけ照らされながら、スゥが昔の自分を思い起こしていると、小さく、とても小さく扉がノックされた。
「スゥ?起こしちゃったら、ごめんね。あの、夜食にポトフを作ったんだけど、一緒に食べない?あっ、でも、その、嫌なら別に無理しなくていいからね。じゃあ、ごめん、それだけだから…」
なぜ?なぜ、彼はこんなにも優しいのだろう。
離れていく足音を聞き、涙を拭き取りながらスゥはつい起き上がってしまった。だが、ぎゅっ、と毛布を握りしめ、すぐにでもその足音を追いかけたくなる想いを何とか思い留めた。


言い方は悪いが、餌で釣る気はなかった、と言えば嘘になる。しかし、ライがポトフを作ったのにはそれ以上に、スゥのことが心配だったからだ。
暖炉の管理以外にも、スゥが腹をたてた原因を探していたライは次にテーブルに置かれた、空になったいくつかの缶詰とお菓子の袋を見つけた。
そして、すぐにライは頭を抱えて後悔した。
ご飯を作るのを忘れていた。元々、自然過ぎる物を食べていたスゥのために、美味しい料理を作ることはあっても、スゥに作ってもらうことはおろか、一緒に作ったことさえなかった。
少し中の残っている缶詰を片付けると、ライはすぐに買ってきた物と、冷蔵庫に入っていた物でポトフを作り始めた。自身の夕食ということもあるが、あんな缶詰何個かと、おせんべいではお腹が空くうえに体が温まらないのではないか、とスゥが心配だった。
自分とスゥ、二人分のポトフをよそりつつ、ちらりとスゥの部屋に目を向ける。だが、扉はライがソファに座っても開くことはなかった。
香ばしい香りを湯気と共に放つポトフを見つめながら、スゥを心配するライだったが、帰りは楽をしたとはいえ、雪だらけの山を越えた疲労と次第に体が温まっていく心地よさに、意識が朦朧としかけてきていた。


ライが目を覚ましたのは、自身の体にほんの少しの重量が乗るのを感じたからだった。何が起きたのか確かめるために、薄目を開けると、そこにはぼやけたスゥの顔があった。
「スゥ…?」
何をしているのか、それを尋ねようと名前を呼ぶと、スゥは飛び上がらんばかりに驚き、逃げようとする。だが、ライは自然とスゥの右手を掴んだ。
「お願い、スゥ。行かないで」
ライは上体を起こすと、スゥの手を温めるように両手で包み込んだ。スゥの手は冷たく氷でも触っているかのような感覚に襲われ、ライの意識は急速に回復していった。
「…離して」
「ごめん。でも、離したくないよ」
「お願いだから、離して…!」
キッと睨みつけるスゥの目には、暖炉の明かりによってはっきりと涙が溜まっているのが分かった。
「スゥ…」
ライはそっと立ち上がり、スゥの細い体を優しく包み込む。その時、ぱさりと、自分の体から一枚の毛布が落ちたことに気がついた。
「スゥが掛けてくれたの?」
耳元で囁くように尋ねると、スゥは躊躇いがちに頷く。ありがとう、スゥの頭を撫でるとライは礼を言い、毛布を拾い上げて羽織らせた。
「寒くない…わけないよね。今日はごめんね。寒い思いをさせただけじゃなくて、お腹まで空かせちゃって…」
今日何度目かになる謝罪にスゥは俯き、首を振ると、ポロポロと涙を零しながらライの顔を無言で見つめる。ライも優しく微笑み返した。
「らぃぃ…!」
もはや我慢することなどできなかった。スゥはライの背中に両手を回し、顔を胸へと押し付ける。急なことに驚きつつもライはしっかりと受け止め、優しくその形の良い頭を撫でていく。愛しい人の涙が止まるまで。


「えっと、怒ってたわけじゃないんだ?」
「…うん、ごめん」
ベッドに潜り、ライとスゥは手を繋ぎながら今日のことについて話していた。
「謝らなくてもいいよ。でも、じゃあ、どうしてあんなに態度が冷たかったの?」
「それは…一緒にいたら、またライに甘えちゃうと思ったから…」
「…甘えちゃ、ダメかな?」
「少なくとも、私は甘え過ぎてた…。だから、私は今日、何もできなかった…!」
繋いでいる手に力が込められたことにライは気がついた。
「何もできなかったの?」
「うん…。暖炉の火もつけられなかったし、料理は…しようとも思わなかった…」
「そっか…。でも、暖炉のつけようと頑張ったんでしょ?」
「マッチを無駄遣いしただけ…。結局つけられなかった…」
励ますための言葉によって逆にスゥを傷つけてしまったことにライは胸を痛め、スゥのため息を吐く音を聞くと、撫でていた手も止まってしまった。
「…私は昔の自分に戻りたかった」
「えっ?」
窓の外から見える、また降りだした雪の積もる音が聞こえそうなほど、気まずい沈黙が部屋を支配し始めてから、幾分か経った頃。スゥが誰にともなくポツリと呟いた。
「昔の、何でも自分で出来ていた頃に…」
「…じゃあ、僕はいらない?」
腹いせでもなく、皮肉でもない。ただ、素直な疑問をライはぶつけた。すると、スゥは顔を向けた。月明かりだけが唯一の照明なせいでその顔はよく見えないが、ひどく驚いているのはライでも分かった。
「…最初はそう思った。でも…!」
「うわっ!?」
スゥはその手でライを引き寄せると、胸に抱きついた。
「できるわけない…!大好きなあなたを捨てることなんか!」
「スゥ…。ありがとう、そう言ってもらえるだけで、僕は嬉しいよ」
ごしごしと擦り付けるように頭を埋めるスゥの頭を撫でていると、ライは突然、くすくすと笑いだした。何がおかしいのか、スゥが不思議そうな顔を上げる。
「急にごめんね。何だか、スゥの話を聞いていたら、昔のことを思い出しちゃって」
「昔のこと?」
「うん。服の洗い方はもちろん、料理も作れなかったし、マッチだってすれなかった頃、街へ出てきてすぐの頃のことをね」
「あなたが…!?」
目を丸くして驚くスゥの反応が面白く、ライはまた一人くすくすと笑った。
「そうだよ。それで、僕も思ったんだ。今までは家族に甘えてたんだな…って。これからは一人で頑張らなくちゃ、ってね」
ライは微笑むが、スゥの顔は険しいままだった。
「…やっぱり、私も一人で頑張らなくちゃ…」
「そんなことないよ。僕も一緒にいる。今までは僕が何でもやってしまっていたけど、これからは一緒にやろ?」
「ライ…ありがとう」
ライの言葉にスゥもにっこりと微笑むと、ゆっくりと唇を寄せた。
「んっ…じゃあ、これからは二人じゃないと出来ないことをいっぱいしよ♡」
「えっと、それって…」
顔を紅くしながら口ごもるライの仰向けにすると、スゥはのしかかった。
「決まってるでしょ?」
ふふふ、と笑うと、寒さなど気にせずスゥは上半身のパジャマを脱ぎ、ライの胸に倒れこむ。そして、甘えるように首に手を回し、そのブラジャーを着けていても分かる、大きくも形の良い乳房を押し付けた。ライも自身の手が冷たくないかを確認し、スゥを抱きしめる。
「何だか、今日のあなたはいつもよりいい匂いがする」
「そう?今日はお風呂に入ってないから、逆に臭いと思うけど…」
「あぁ、なるほど…だから…」
ちゅっ、とスゥはライの首筋にキスをすると、そのまま口を離さずにヴァンパイアの様に甘噛みする。
甘噛みによって与えられる、痛いような、くすぐったいような不思議な感覚にライは身を委ねながらも、スゥのブラジャーを静かに外した。
「美味しい。あのポトフも美味しかったけど、やっぱりあなたが一番美味しい」
「本当に食べないでね?」
「それは約束しかねる♪」
首筋から口を離し、悪戯っぽい笑みをライへ見せたスゥは上体を起こし、ライのそれを刺激するように腰を前後へと振る。
「す、スゥ…!」
「苦しい?それとも気持ちいい?」
スゥの美しい乳房が揺れるたびに、ライを気持ちよくもどこか切ない快感が襲う。
「はぁはぁ、辛そうだね、ライ。じゃあ、そろそろ…」
興奮に頬を染めたスゥは一度ライから降りると、何の躊躇もなくライのパジャマをパンツごと脱がせた。はぁ、生暖かいスゥの歓喜のため息が吐きかけられ、ライのそれはぶるりと震えた。ちゅっ、とスゥはそれの先っぽに口づけると、布団を捲り上げ、ライの足の間に体を入れた。
「美味しそうに反り立たせて♡それじゃあ…」
竿の部分を小さく扱きながら、スゥはアイスクリームをようにぺろぺろとそれの全体を余すところなく舐める。
「す、スゥ…ご、ごめん。僕、そろそろ…!」
「ふふ、分かってる。こんなに汁を流して…。我慢しなくていいよ」
スゥはライのそれの先端から溢れ出る透明な液体を、親指で全体に撫で広げる。そして、一気にそれを咥えこむと、じゅぽ、じゅぽ、といやらしい音を立てながら、上下に顔を動かしていく。
「ぁぁぁっ…」
唾液まみれの手で竿を丁寧に扱きながら、先端部を舌を回すようにして全体を舐め、そして一際深く咥えて、頭をゆっくりと上下させる。その一連の動きは、最後の忍耐を削りきるのに十分すぎる量の刺激をライに与えた。
「んんっ……んんっ……!」
どくんっ、と。反動で体が揺れるほどの勢いで白濁が迸り、スゥの口腔内を汚す。
「んっ……んっ……」
眉を寄せつつもスゥは一度も口を離さずに喉を鳴らしライの精液を飲み干す。
「んっ…ぷはっ…。はぁ、やっぱり、あなたの精液が一番美味しい♡」
「は、ははは…。ありがとう」
お掃除とばかりに、尿道に残ったら精液を吸い出し、綺麗にするようにそれを舐めるスゥの頭を撫でながら、ライはぎこちなく笑った。
ある程度舐め終わると、スゥは少し硬さを無くしたそれを扱きながら器用にズボンとパンツを脱ぐ。そして、ライのそれと、とろとろに蕩けきった自身の秘部をくっつけつつ、再びライに抱き、耳を甘噛みした。
「ライ…これからは私もいろんなことを頑張る…」
「うん、僕も手伝うよ」
「ありがとう。でも、ライ、私は、私にしか出来ないことをしたい」
「スゥにしか出来ないこと…?」
「…分からない?」
不思議そうに首を傾げるライにスゥは不満げに頬を膨らませるが、すぐに微笑みを浮かべると、チュッ、と唇に軽いキスを落とし、また耳に顔を寄せて囁いた。
「私は、あなたの子供を産みたい。孕ませて、あなたの精液で…」
「スゥ…。分かった、絶対に妊娠させてあげる」
普段とは違う男らしいライの言葉に、スゥの子宮は喜ぶようにキュンと疼いた。

「あんっ!あん!あんっ!ああああぁぁ〜〜〜〜っっ!」
スゥが背を反らせ、イく。たわわな乳房はそうして背を反らせる度にたゆんと首の方へと揺れ、ピンク色の先端はますます堅く尖る。その先端へと、ライは唇をつけ、ちゅうちゅうと吸い上げる。
「あ、はぁあっ……ら、ライ…!…も、もう、もう、ダメ…あ、頭が……んっ!おかしく、あぁっ……あぁぁっ…!」
瞳が濡れているどころではない。何度も何度もイかされ、鳴かせられ、或いは失神させられたこともあったかもしれない。その両目は涙に濡れ、悲痛な声を聞けばいかにも本気で制止を懇願しているように見えなくも無い。
だが、ライは腰を動かす速度を緩めることはなかった。
「ダメだよ、スゥ。まだ確実に妊娠させられてないもん。ほら、母乳もでないし、お腹もあんまり膨らんでないし」
「そ、そんな、すぐにぃ…!あぁぁっ!変わったりなんかぁぁぁ…!」
意地悪なのか、あるいは本気で言ってのか、夢中で乳首に吸い付くライの真意は分かりかねるが、スゥにとってはもはやどちらでもいいことだったうえに、そんなことに気を配るだけの理性はほとんど残っていなかった。
「うぅっ…!スゥ…そろそろ、また出すよ!」
「ひっ……ま、待って、待って…!あぁっ!ほ、本当に…あっ、あっあっ、あっぁっ、あっアッ!アッ!アッ!アッ!!」
ラストスパートと言わんばかりにそれまでの倍くらいのスピードで膣内を掻き回され、子宮口を突き上げられ、揺さぶられ、犯される。
「スゥ…!」
「あっ、あんっっ、ぁっ、あっ…んんんっぷッ!?」
喘ぐその口は、ライに塞がれた。今までで一番、濃厚なキスだった。
「んっ…ん゛ん゛ンッッッ! んーーーーッ!」
ライのそれがスゥの膣内の一際深くまで埋められた時、スゥは何度目になるか分からぬ絶頂を迎えた。
そして、その膣内のうねりによって、ライもまた、どくどくと、己の欲望汁をスゥの子宮に流し込んだ。
「んむっ…ぁっ…ぁぁぁ…」
ライが唇を離すと、スゥはライの胸に倒れこみ、だらしなく舌を出したまま、びゅっ…びゅっ、と止めどなく溢れては自らの胎内を陵辱する濃厚な精液の奔流に溶かされるように意識を失った。


「えっと、包丁の持ち方は…こうやって…」
「こ、こう…?」
可愛らしいエプロンに身を包んだスゥの後ろに立って、ライは包丁の持ち方から手取り足とり丁寧に教えていく。
そんな二人を見守るように、暖炉は静かに燃えていた。


読んでいただきありがとうございました。
[エロ魔物娘図鑑・SS投稿所]
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33