連載小説
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潜り込む竜の眼
<砂漠地帯>

 追跡から約一時間が経過したところで戦艦は停止。艦の前方15キロ先に小さい光がちらちらと見えていた。対する戦艦は光1つ無く、静かに停まっていた。


<戦艦クリプト 司令室>

フロントガラスは光が漏れないよう、内側シャッターが閉まっていた。メインテーブルを中心に9人が集まる。

「意外とこの世界の馬、速いね」
「そうだな、エスタ。ドーピングでもやってんのか?追いつけると思ったのに・・・」
「だが、ラキ。お前の早めの判断で発見できた。この街みたいなのは?」

 イーグルの質問にニールが答える。

「昨日、助けて貰う少し前、私たちは廃都に駐屯している教会騎士たちを偵察しに来ていた。此処がその駐屯地だ」
「・・・ドクター、子ども達の居場所は?」
「Dフライで確認したけど、馬車に生体反応は無い。恐らく建物内だね」
「では何処に居るのじゃ?」
「残念ながら内部は調べることが出来ない。出入りしている建物は奥の方とその右にある小さい方の二つ。どちらかだね。」
「場所が分からないと人質にされて手も足も出ない。せめて位置が特定出来れば・・・」

 ニールがそう言うとドクターが不気味に笑い出した。

「んふふふふ・・・まさか此処で、あれが活躍できるとは・・・」
「いい!?エスタ、マッドサイエンティストの笑いすんなよ」
「エスタの!?」
「悪だくみ!?」

 エスタの笑いに引いてしまうジェミニとラキ。そんな彼は無視しながらレックスに目をやる。

「レックス、駐屯地に潜入して目標の捜索」
「了解」
「「!?」」
「なるほど、そういうことか」

 ニールとレシィは驚く中、イーグル達は納得していた。

「こやつ一人で行かせるのか?」
「無茶だ!異世界人であるお前達が行けば、見つかるのは当然だ!」
「まだ、レックスについて説明はしてなかったね。彼は人間じゃないよ」
「に、人間じゃない?」
「じゃが・・・どう見ても男にしか見えんが?」
「じゃあ、レックス。外装の特徴を披露してあげて」
「了解」

 突然、レックスの身体全体が鏡のようなメタル色になり、形状が変形した。再び色が変わると彼はまるでラキそっくりの人に変身していた。

「!?」
「ど、どういうことじゃ!?おぬしは魔法が使えるのか?」
「これは魔法じゃないよ」

 否定するエスタは続けて話す。

「彼は僕が作り上げた人工知能を持つロボット。強固な装甲を持つ鉄の身体。それと『リキッドメタルスキン』と言われる液体金属により、ある程度近い年齢の人に擬態できる。擬態のモデル対象は触り調べた者ならすぐに変身可能だ」
「そういうことだぜ」
「「!?」」

 ラキとそっくりな声で話すレックスに二人はさらに驚く。続いて、ニールに近づいて失礼と言い、彼女の手を触るとニールそっくりな姿に変身した。

「わ、私にまで!?」
「こやつ、ゴーレムなのか?」
「ゴーレム?ああ、幻想の錬金術師が作る人型兵器ね。僕達の世界でその類はロボット又はアンドロイドと言われている」
「本来は殲滅戦闘用として作られた人型兵器だが、ドクターによりこのような姿になった」

 ニールの声でそれらしい口調をするレックス。

「見抜かれることはまず無いね」
「人に擬態できるのか・・・なら!」
「内部を容易に調査できる訳。レックス、頼んだよ」
「了解」

 再び、元の姿に戻り、レックスは司令室を後にする。

「それじゃあ、僕たちはDフライのデータとレックスの視界を拝見しますか」
「あの者の視界が見られるのかぇ?」
「今、出すよ」

 ドクターの操作でメインテーブルにマップと、すでに外へ出たレックスの視界が映像で映し出される。

「さて、初の潜入任務だ。いい結果に期待するよ、レックス」


<教会の駐屯地 手前>

 気付かれないよう早足でやってきたレックス。無音の通信とDフライの情報をもとに潜入を開始した。通信相手はドクター。

『巡回は15人いるね。見た目は軽装備の格下。まずはこいつらから』
『了解』
『警告:南西より生体反応1』

 サポートシステムからのメッセージ通り、廃屋の左から槍を抱えた兵士がやって来る。レックスは素早く廃屋の中へ。兵士が廃屋入口を通り過ぎる最中に中へ引きずり込んだ。声が出せないよう口を手で抑える。

「むぅ!?」
『ライトウェポン:対人用スタンアーム』
バチッ!!
「むぐぅ!!!」

 空いている右手から尖った金属片2本が出現し、強烈な電撃が放出。まともに食らった兵士は白目になり動かなくなる。レックスは彼を発見されないよう、見つけたボロ布を被せた。その後、気絶させた兵士に変身する。

『グッジョブだね』
『巡回のフリをして奥に潜入します』

 置いてあった槍を持って駐屯地を反時計周りに歩く。

『まずは横の小さい方から拝見だね』

 右側の端にある建物へ向かい、内部に侵入。内部は酒を飲み合う兵士が数人のいる部屋と就寝中の兵士多数の部屋だけだった。

『数は8と就寝24。それ以外の反応はありません』
『ハズレのようだね。』
『次に向かいます』

 入口へ向かい出ようとすると一人の兵士と出くわした。

「おう、帰って来たのか。飲もうぜ」
「悪い、上に呼び出されて、また警備に回らなきゃいけないんだ。また後でな」
「つれねえな」
「そういうな。いうこと聞かねえと何されるか分かったもんじゃねえ」
「それもそうだな、じゃあ、先に待ってるぜ」
「ああ、飲み過ぎるなよ」
「心配するな。お前の分も取っといてやるよ」

 兵士は何も疑わず、飲み会の部屋に入って行く。

『いい調子だね』
『恐縮です』

 次の目標、奥の巨大な建物。砦に近い感じの建物のようだ。どうやら入口は今までの兵士とは違い、見栄えのいい騎士の装備をした警備二人が立っていた。建物の右横に隠れながら様子を見るレックス。

『ふぅん。どうやら、格下は入れないみたいだね』
『警告:建物から別反応1』

 すると、入口から同じ騎士が現れ、レックスの方に歩いて来た。

『グットタイミング』

 絶好の機会が到来。遠慮なく、レックスは気付かれないよう騎士を引きずり込んだ。先程と同じ要領で電撃を味あわせ、騎士の姿になる。剣は作れないので拝借した。本人を隠し、堂々と入口に入る。

「早いな。もう行って来たのか?」
「忘れ物した」
「間抜けだな」
『君らがね。んふふふふ』

 敵の侵入を堂々と通す警備をあざ笑うドクター。侵入して各部屋を捜索する。その内のひとつの部屋で話をする騎士たちにレックスは立ち止まった。

「キューベル団長、あの捕えた者達はどうなされますか?」
「目的の使者を捕えられなかったから手ぶらで帰る訳にもいかんだろう。幸い魔物が4匹いる。本国に連れ帰り、公開処刑の材料にする。それまで絶対に此処の地下牢から出すなよ」
「では、人である二人の子供は?」
「どうせ異端の子だ。奴隷市場に売ればいくらか資金になるだろう」
「ですが・・・」
「このところ財布がさびしい状況だ。口外したら分かっているな?」
「・・・分かりました」

 重要な話を聞き、目的の地下牢に向かう。

『最低で間抜け』
『私も同意見です』

 階段を下りると通路を挟むように牢屋が四つ。その内の左奥に警備の騎士が二人居た。

『サーモスキャンして』
『警備2人以外の反応6つを確認。拡大します』


<戦艦クリプト 司令室>

「なんじゃ?色が変わったぞ」
「生物の体温を見て居場所を知るシステム。例えるなら蛇の視界だね。赤いのが人や生物の発する体温」
「では、右の輩は警備で左に居るのは・・・」
「目標の人質だよ」

 ニールの推測通り、小柄な体型が6つ、牢屋の奥に座っていた。

「下半身が多足と蛇の子がそれぞれ1人。普通の子どもらしきが3人。他の子より大きくて翼が生えている子が1人。計6人で合っているね」
「このシルエットは・・・」
「・・・どうした?」

 ニールの呟きにブレードが尋ねる。

「間違いない。インプのサリナだ。とすると横にいるのはゴブリンのミーニ」
「・・・知り合いか」
「ああ、私も何度か孤児院に訪れて彼女達と会ったことがある。サリナは年下の子ども達の世話をしている。ミーニはサリナになついている子だ」
「レックス、声を掛ける時はニール達の名を出してね」
『了解』
「よし!総員!格納デッキへ向かうぞ!作戦内容はそこで話す」

 イーグルの掛け声とともに8人は格納デッキへ。


<G.A.W格納デッキ>

 彼らは再度集まり、ドクターの小型端末から表示されるマップに注目する。イーグルが話し始めた。

「まず、問題なのは人質を連れて戦艦への移動だ。6人を同時に運べる機動兵器は無い」
「そういえばレシィ。君は魔法で転移移動が出来たね。あれは複数できるの?」
「もちろんじゃ。じゃが、複数となると出発と到着の2つ必要なのと、魔法陣の詠唱が少し長くなる。その上、邪魔される訳にはいかん」
「護衛は僕達に任せて。こちらも機動兵器を出撃させる」
「頼もしいのぉ、兄上。では早速、この広い場所に展開させて貰うのじゃ」
「・・・」
「ぷっ」
「「ひゅ―ひゅ―」」

 ドクターに対するレシィの行動にラキとジェミニが笑う。そんな彼らをドクターは暗い頬笑みを浮かべた。

「丁度、実験体が3人必要で彼らを後で使っていい?イーグル」
「構わんぞ」
「「あああ!?」」
「嘘です!!取り消して!!」

 馬鹿騒ぎしている間にレシィは転移魔法陣を完成させる。

「全く・・・ジェミニはスカイチェイサーで彼女達を。ブレードはドクターと。ラキは私の『ORNITHO』に」
「「了解〜」」
「・・・了解」
「ふぇ、了解」
「それで助け出す算段は?」

 ニールが作戦内容をイーグルに聞いた。

「まず、Dフライの爆撃で始め、それを機に空から攻撃しながら砦前に着地。ジェミニは空から援護し、我々はレシィの死守だ。レックスはDフライの爆撃と同時に人質の解放。すぐに脱出して砦入口から魔法陣まで誘導する」
「というわけだ、レックス。それまで見つからないよう待機」
『了解、ウォールカモフラージュ』

 向こうに居るレックスはドクターの指示で壁の色に擬態して隠れる。イーグルは出来上がった魔法陣を見てレシィに尋ねた。

「これをもう一つ、向こうに作る訳か。使用した魔法陣はどうなる?」
「別に何しても大丈夫じゃ。脱出後、おぬしらの武器で吹き飛ばしてもかまわんぞ」
「そうしよう。総員、出撃準備!」

 ジェミニはスカイチェイサーに乗り、ラートにニール、レートにレシィが跨る。

「じゃあ、出撃するね」

 ドクターは自身の専用機である青き機体『NYCYUS』に搭乗。上部の右にGPガトリングと左にGPプラズマカノンを搭載。足を折り畳んで飛行体制になり、左足付近にブレードが右手足で掴まる。

 イーグルは緑の人型兵器『ORNITHO』に搭乗し、肩部の右にGPガトリング、左にAPカノンを搭載。右腕を抱えるように動かし、ラキがそこに立ち乗る。背部にある四つのウイングエンジンから青光りのジェット噴射が出現。

『CAUTION。レフトハッチオープン』
「ドラグーン隊出撃!!」

 隊長の掛け声で4機の搭乗兵器が戦艦から飛び出す。目指すは教会の駐屯地。
肉眼で見える位置まで来た時、イーグルが通信を入れる。

『前回と同様、出来る限り、非殺傷による戦闘不能を狙え。やむを得ん場合は殺傷を許可する』
『ヘルファイア発射するよ』
『我々の世界の汚点を見せたことを後悔させてやれ』

 目標地点に火柱が出現し、彼らは敵陣へと向かった。
11/08/26 18:07更新 / 『エックス』
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