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四夜目:ドッペルゲンガー 後編
「えっ、お店に来てないんですか!?」

朝を迎えた銀雪館のスタッフルームに、マルクの驚きに満ちた声が響いた。

マルクを始め、他の男娼やスタッフに至る一同がスタッフルームに集まっており、テーブルの上に広げられた客用の名簿に、お似合いの銀縁眼鏡を掛けたクラウディアは注意深く内容に目を落としていく。

「…やっぱり、何度見ても名前は無いわねぇ。それにミラちゃん、しばらく忙しいからお店に来られないって言ってたわよ。他の子達も、ミラちゃんを見てないって言ってるし……」

「そんな……でも、嘘じゃないんですよ!」

マルクは納得出来なかった。間違いなく、自分はスタッフルームでミラと話していたはずなのだ。あの声と姿、そして甘美な一時に至るまでハッキリと記憶に残っており、それが夢であるはずがない。

しかし、今のところ、それを証明する証拠は何一つ無い。次第に、開店の準備を始めたい周りの目が、マルクの記憶を疑う眼差しを向け始めた。

「私、昨日はずっとカウンターに立ってたけど、ミラさんは見なかったわよ?やっぱり、マルクちゃんの勘違いじゃない?」

「そもそも、兄貴は毎日毎日、無理して客にサービスしすぎだぜ!だから、疲れて夢を見たかもしれませんぜ……?」

「だ、だから嘘じゃないんです!どうして信じてくれないんですか!?」

「もちろん、マルクちゃんが嘘を言ってるとは思って無いわよ?ただ、やっぱり夢だったってことも……」

「夢でもないんですッ!!」

マルク以外の者にとって、彼が夢だったと折れてくれることが何よりありがたいことは間違いない。とはいえ、マルクの性格上、こんなことを言い出すのはそれなりの理由があるということも理解していた。

それを信じて疑わないクラウディアとローレットは、お互いに向かうように肘をついて名簿を見つめたまま、難しい顔をしていた。

「…ローレットちゃんはどう?何か気になるところはある?」

「…いや、心当たりが無いこともないが、少々気になるところがあってな……うおっ」

「ローレットさん、何か知ってるんですね!?」

終わりなき堂々巡りに光をもたらしたローレットの言葉に気付いたか、直ぐ様マルクが駆け寄ってきた。慣れない状況に動揺しているのか、その瞳にはうっすらと涙の幕がかかっている。

一方のローレットも、珍しくマルクに頼られて御満悦の様子であった。

「ふふっ……マルクに頼られては教えるしかあるまい。私は……ドッペルゲンガーの仕業ではないかと睨んでいる」

「ドッペルゲンガー……ですか?」

あまり聞き覚えのない名称に、マルクは首を傾げた。

ローレットが言うには、狙いを付けた男性の最も好む人物の姿で現れ、誘惑する手段を使う魔物なのだとか。厄介なのは、姿を変えた本人の記憶すらコピーして、尚且つ補正を加えることで狙った男性の理想そのものになりきることが出来ること。

一通り説明を終えると、ローレットはギリリと奥歯を噛み締め、怒りと殺意に満ちた表情を浮かべた。

「解せん……マルクの前に現れるのならば、何故私の姿ではなく、あの毒蛇女なのだ。加えて、金も払わずマルクの精を頂戴するとは……許せん」

「え、えっと……多分、ローレットさんの予想通りかもしれません。昨日のミラさん、ちょっと普段よりも甘えん坊さんというか……ちょっと雰囲気が違いましたから」

「じゃあ、ドッペルゲンガーちゃんの仕業で間違いなさそうね。あんまりお店で好き勝手されても困るから、直接お話出来たらいいのだけど……」

「無理だな。奴らは決して人前に本当の姿を見せん。まぁ、例外が無いこともないが……」

「例外……ですか?」

「ああ、それはな……」

その先を話そうと得意気に口を開き掛けたローレットだが、それよりも早くスタッフルームの扉が勢い良く開かれた。

「おいコラァッ!お前らいつまで休んでんだァッ!」

飛び込んできたのは、唯一この場に姿が見えなかったアークであった。一人で店の準備をしていたのか、両手にはそれぞれ掃除用具と大量のシーツが抱えられている。見る限り、どうやらかなりお怒りの御様子である。

「あ、アークさん。実は、昨晩ドッペルゲンガーがミラさんに化けて僕に……」

「んん?ドッペルゲンガーだかなんだか知らねぇが、実害は無いんだろ?だったら仕事が優先ッ!ほら、わかったら全員早くシフトに入れッ!クラウディア、お前も早く支度しろッ!」

「はーい。仕方ないわね、ドッペルゲンガーちゃんのことはお仕事の後に考えましょうか」

もはや立ち止まる時間すら惜しいと、アークは慌ただしく部屋を出ていき、クラウディアも仕方無く名簿を閉じた。

確かに、今は見つからないドッペルゲンガーよりも、自分がやるべきことをやるべきだろう。ちらほらと周囲が席を立ち始めたそこへ、またもや扉が開かれた。

「マルク!ここにいたのか、捜したぞ!」

「あ、あれ?アーク……さん?」

つい先程部屋を出たばかりのアークが再び登場。ちょっとした違和感を覚える一同を尻目に、彼は真っ直ぐマルクの前へとやって来た。

「どうしました?何か言い忘れたことでも?」

「ああ。俺としたことが、とんでもなく大切なことを忘れてたぜ……」

数秒前に見た彼とは、まさに別人。妙にキザッたらしいというか、チャラいというかーーーとにかく、様子が違う。

「マルク……よく聞いてくれ」

「は、はぁ……」

マルクはいきなり肩を掴まれ、困惑するばかり。鼻先がぶつかりそうなほどの超至近距離から、アークは言葉の続きを紡ぎ出す。

「俺は……俺はお前が好きだッッ!!」

「は、はいぃ!?」

思わぬ展開に、マルクはすっとんきょうな声を上げた。しかし、アークの口は止まらない。

「お前の声が、髪が、優しい心が好きだッ!何より好きだ!誰より好きだ!お前を……俺のモノにしたい!」

「ちょ、ちょっとアークさん!?悪い冗談は止めて下さい!クラウディアさんもいるんですから!」

「関係あるか!妻がなんだというんだ!愛というものはな、あらゆる概念を超越する!」

「た、確かにアークさんはもう普通の人間じゃないですけど……ひぃっ!?」

背後で、とんでもなく強い殺気を感じる。振り返ることすら憚られる状況の中、果敢にもマルクはその気配の源へと向かって顔を向けた。

その視線の先では、クラウディアが温厚な笑みを浮かべていたのだが、彼女の後ろで立ち上る殺気は悪鬼羅刹を彷彿とさせる。視線だけで人を睨み殺せてしまいそうな、そんな気配を孕んでおり、他のスタッフや男娼達は巻き込まれてはたまらないと部屋の隅に避難していた。

「おっと、まだ仕入れの途中だったな。またな、マルク!」

「あ、アークさん!」

そんなクラウディアの様子を知ってか知らずか、アークは部屋を飛び出していった。

一体、何だったのか。呆然と立ち尽くし、誰一人として言葉を発せない状況の中、ゆらりとクラウディアが立ち上がった。

「く、クラウディアさん……?」

「…ちょっと、失礼するわねぇ。皆は、もうお仕事に戻ってちょうだい」

暗黒闘気をその身に纏い、クラウディアは部屋を出ていった。困惑しながらマルク達がそれぞれ顔を見合わせていると、それは扉の向こうから聞こえてきた。

「ん?どうしたクラウディア?早くお前もカウンターに戻れ。ホールが客で溢れかえってーーーって、うぉわァッ!?お、お前、どうしたんだ急に!?そんなもの出して、どうしたってんだよ!あ、危ねェッ!そ、それはやめろ!やめてくれ!おま、それはシャレにならんぞ!そんな、お前、こんな人目が多いところでおまっ……あひぃいいいいーーーーッ!!」

「…実害、あったわね」

誰かが、ポツリと呟く。アークの魂からの断末魔に、その場の全員が黙祷でも捧げるように顔を伏せた。同じく顔を伏せていたマルクだったが、ローレットから肩を叩かれ、顔を上げた。

「決まりだな。やはり、ドッペルゲンガーが入り込んでいるようだ。マルク、お前は私が奴を摘まみ出すまで、部屋でおとなしくしていろ」

「は、はい、わかりました。けれど、ドッペルゲンガーを見分けられるんですか……?」

変幻自在のドッペルゲンガーを、本物と見分けることは至難の技。特に、この大勢の人が集まるこの店では、到底見分けなどつかないように思える。

しかし、ローレットは自信満々といった笑みを浮かべて見せた。

「ふふっ……任せておけ。今晩は新月だ。奴を見分けることなど、スライムの手を捻るよりも簡単だ。まぁ、期待して待っていろ」

そう言って、ローレットは部屋を出た。そもそも関節というものがないスライムをその表現に当て嵌めるのは適当ではないような気もするが、今は彼女に任せるしかないだろう。

マルクは自信満々に去っていくローレットの背中を見送り、自分の部屋へと戻っていったーーー




「ふぅ……」

マルクはベッドに横たわり、窓の外を見る。本を読んで過ごしていたら、いつの間にか日は落ち、部屋は真っ暗になってしまっていた。

結局、あれからドッペルゲンガーが姿を見せることはなかった。こちらが警戒を始めたことで、店の外に逃げ出してしまったのかもしれない。

「まぁ、ローレットさんに見つかったら、その人もどうなるかわからないし。これで良かったかも……あっ」

本をベッド横のテーブルに置こうとして、床に落としてしまった。マルクはベッドの上から身を乗り出し、本に手を掛けた。

「あっ」

「…………」

そして、目の当たりにした。ベッドの下の暗がりに浮かび上がる二つの瞳。淡いアメジスト色の宝石のような輝きは、静かにマルクの顔を見つめていた。

「う、うわぁあああーーーーっ!!」

「……っ!?」

思わず絶叫するマルクだったが、その瞳の人物もビクリと驚いたように見えた。すると、マルクの叫び声を聞き付けたか、バタバタと慌ただしい足音が近付いてきた。

「どうした!何があったマルク!?ドッペルゲンガーが出たのか!?すぐに鍵を開けろっ!!」

「ろ、ローレットさーーーあ……っ」

ローレットを招き入れるべく体を起こそうとしたマルクだったが、ベッドから伸びる小さく細い腕が彼の手を握った。そのひんやりとした手の感触に再び叫び声を上げそうになったが、ベッドから這い出してきたその正体に、息を呑んだ。

「き、キミは……」

「…………」

その正体は、一人の少女であった。見た目だけで察するに、恐らくマルクよりも年下だろう。その少女は闇より暗いワンピースを纏い、瞳と同じラベンダー色のセミロングの髪を真っ白なカチューシャで留めていた。肌は白雪のように白く、暗闇でもぼんやりと浮かび上がる。

そんな少女が、マルクの手を握り、不安そうな面持ちで見つめている。だが、何の気配も感じさせず、ベッドの下に潜んでいたところを見ると、やはり彼女は魔物なのだろう。

「どうしたマルクッ!早く鍵を開けないか!不届き者を消し炭にしてーーー」

「ご、ごめんローレットさん!虫に驚いただけだから、心配しないで下さい!」

思わず、マルクはそう答えていた。彼の眼下では、謎の少女が不安そうな面持ちで見上げている。

「なに、虫だと?」

「そ、そう!枕元に落ちてきたから驚いちゃって……だから、心配しないで下さい!」

「むぅ……ならば良いが、何かあればすぐに呼ぶんだぞ」

やや怪訝そうに言い残し、ローレットの気配が離れていく。やがて足音も聞こえなくなった頃、マルクはようやく肩の力を抜いた。

「ふぅ……行ってくれたみたい。ほら、もう大丈夫だよ」

「……」

マルクが声を掛けると、少し躊躇しながらも彼女はようやく握りしめていた彼の手を離した。

「ところで、キミは誰なの?いつから僕の部屋に居たんだい?」

「……メア」

「えっ?」

「メア……私の名前……」

恥ずかしそうにマルクを見上げながら、ぎゅっと自身のワンピースの裾を握りしめ、メアと名乗る少女は呟く。

どうやって入り込んだかは不明だが、ひとまず悪い子ではなさそうだ。同じ店で働く年下の子供に接するように、マルクは前屈みになって少女と目線を合わせた。

「メアちゃん……どうして僕の部屋にいたのかな?」

「……から」

「えっ……?」

「会いたかったから……お兄ちゃんに」

「僕に……?」

今度ははっきりとした口調でそう言われた。

会いたいと言われて悪い気はしないのだが、彼女の正体について、マルクは心当たりがあった。この店内で渦巻く、ドッペルゲンガー騒ぎ。見た目は無垢な少女とはいえ、見知らぬ人物が部屋に隠れていたという状況下で、可能性は一つしかなかった。

「キミは……もしかして、ドッペルゲンガー?」

マルクの言葉に、少女はこくりと頷いた。

やはりか、と思う反面疑問が残る。ドッペルゲンガーは相手の思考に合わせてその姿を変えるはず。しかし、目の前の少女にマルクは見覚えがなかった。

「…今日は、新月だから。変身、できない……」

メアの言葉で、ようやくローレットの自信満々な様子に合点がいった。ドッペルゲンガーが新月の夜には変身が出来ないことを知っていたのだろう。

「じゃあ、メアちゃんはどうして僕に?僕達、多分だけど、初対面だよね?」

マルクの言葉に、メアはふるふると長いツインテールを揺らしながら首を振る。

「…会ったこと、ある。他の姿で、だけど……」

「他の姿……?もしかして……昨日のミラさんも?」

「……うん。昨日だけじゃない。一昨日のドラゴンも、それよりも前からずっと……ずっとお店に来てた」

メアの言葉を聞いて改めて考えると、昨日のミラと同様に、常連客の性格や雰囲気にちょっとした違和感を感じたことがある。

その正体が彼女であったならば、相当前から店を利用していたのだろう。そう考えると、彼女も相当古株の常連客なのかもしれない。

「じゃあ、こうして本当の姿を見せてくれるのは初めてだね。でも、忍び込むのは感心しないな。どうして、今日はそんなことを?」

「…それは……」

「うん?なぁに?」

「…………っ」

メアは突然、マルクの腰に抱き付いた。その勢いに押されてベッドに尻餅をついた彼の胸に顔を埋め、細い腕を回して精一杯抱き締めてくる。

その様子に、マルクはふと、店に来たばかりの少年と対面した時と同じような感覚を覚えた。不安で不安でたまらない、そんなメアの感情を、マルクは震える彼女の体から読み取っていた。

「…どうしたの?ほら、落ち着いて話してごらん……?」

マルクは、そっと頭を撫でてやる。長い髪は上質なシルクのようにサラサラで、絡めた指からするりと解けて波のように靡いた。

「お兄ちゃんは……不思議な人。お兄ちゃんの前で、私は一つの姿になることが出来ない……」

マルクに撫でられて落ち着いたか、ぽつぽつと話し始めたメアの腕に再び力がこもる。

「お兄ちゃんは、関わる全ての人を皆愛している。誰が一番でもなくて、平等に……」

「それはそうさ。だって、僕はこの店の男娼なんだから。特定のお客さんを特別扱いなんて出来ないよ」

心から楽しんでもらうため、誰に対しても最大の愛情を持って接する。それは、マルクが常に心掛けていることであった。

そんなマルクの言葉に、メアは首を横に振って見せる。彼の胸に顔を擦り付け、微笑みを浮かべた顔を上げた。

「…やっぱり、お兄ちゃんは優しい。初めて会う私にも、お兄ちゃんは同じ愛情をくれる……だけど……」

メアが体を起こした。マルクの膝の上に跨がり、彼の首に腕を絡める。幼い見た目からは想像も出来ない艶やかな眼差しに、マルクは思わずごくりと息を呑んだ。

「…平等なら、私も我慢出来た。でも、今のお兄ちゃんは揺らいでいる。お兄ちゃんの気持ちが、あのドラゴンが来て、心が揺らいでいるから……だから……」

「メアちゃん?……っ!?」

メアは、不意にマルクに唇を重ねた。少女の見た目とは裏腹に、その口付けは情熱的で、顔を背けようとするマルクを逃がすまいと舌を差し入れ、彼の舌を絡め取る。

甘く、蕩けるような口付けに脳の芯が痺れ、拒絶の意思が解かされていく。力の抜けたマルクの体を優しく横たえ、メアは静かに唇を離した。

顔を紅潮させ、荒い呼吸を繰り返すマルクとは対称的に、微塵も動揺を見せることなくメアは静かな輝きを湛えるアメジスト色の瞳で彼を見下ろしていた。

「…今夜だけは、私だけを見て欲しい。今夜の今だけは……お兄ちゃんは、私のモノだから……」

「はぁ……はぁ……お、落ち着いて……?キミの気持ちはもう伝わってるし……わぷっ」

「まだ、足りない」

制止を求めるマルクの上でメアはくるりと反転し、マルクの顔は彼女の両腿にがっちり挟まれ完全ロック。さらにロングスカートによって視界を覆われ、混乱するマルクだったが、突然下半身が冷たい空気に晒された。

「な、なに?何やってるのっ!?」

「……ぁむ」

ぬるり。温かくぬめった空間に露出したばかりのぺニスが包まれる。職業上、幾度となく味わったこの感触を、マルクがわからないはずもなかった。

メアは股間に顔を埋めるようにぱっくりとマルクのぺニスを口にくわえ、コロコロと舌で弄ぶように転がし始める。幼い見た目に反し、その舌使いは男を悦ばせる熟達したもの。幼い少女に奉仕されているという背徳感もあり、たちまちマルクの分身はメアの口内で立ち上がっていく。

「ぷぁ……んっ……可愛いよ、お兄ちゃん……」

「っ……」

マルクの心境を知ってか知らずか、メアの言葉に、さらなる背徳感を呼び覚まされる。スカートの中で顔を紅潮させるマルクをさておき、メアはぺニスに顔を近付ける。

「んっ、……はぁむ、ちゅ……ふぁ……」

両手を幹に添え、メアはキャンディでも味わうように真っ赤に充血した先端に入念に舌を滑らせる。射精を促すものではなく、ただ味わうだけ。それだけに、マルクは身を焼かれるようなもどかしさに悶え、体をくねらせる。

「く……っ、ああ……!め、メアちゃん、待って……っ!お願いだから、もうやめて……っ」

たまらずマルクが声を上げると、メアは奉仕を停止する。口を離し、ちらりとマルクの顔を振り返った。

「んっ……だめ。お兄ちゃんは優しいから、私を無理矢理離したりしない。だから、このまま」

「そんな……ひぅ……っ!?」

先ほどよりも勢いを増して、メアの奉仕が再開される。
高めた熱をより高めるように、その小さな口にぺニスを頬張り、細かく顔を上下させている。

だが、そこでも刺激を与えるのは先端部分のみ。幹にも触れず、口内に収まった亀頭をねぶり、吸い、エラに唇を引っ掛けるように顔を動かしている。

先ほどよりも快感の度合いは強いだろうが、射精に至るものではない。先走り液ばかりが溢れては、メアに吸収されている。

そのような責め苦が、三十分ほど続けられた。

「ひっ、く……うう……もう、やめてよぉ……っ」

スカートの中から逃れることもできず、メアを止めることもできず、焦らしに焦らされるマルク。分身は痛いくらいに怒張し、さんざん虐められた先端は風に吹かれても刺激を感じるほどまで敏感になっていた。

精液が幹の半分ほどまで込み上げている感覚はあるのだが、それ以上には至らない。すると、泣かせるのは本意ではなかったのか、最後におもいっきり先端を吸い上げ、メアが口を離した。

「んっ……お兄ちゃん、私の気持ち……わかってくれた?」

メアが腰を上げてマルクの腰に馬乗りになり、やっとマルクはスカートの目隠しが取り払われた。彼の首に腕を回して抱きつき、微かな涙の跡を拭うように頬を舐める。

「欲しくて、欲しくて……お兄ちゃんの好きな人の姿になるけど、お兄ちゃんは皆が好き。それなら、私も我慢出来た。だけど……誰かのモノになるのは、イヤ」

「メアちゃ……ん……っ」

唇が重ねられる。先ほどよりもじっくりと、マルクに味を覚えさせるように唾液を纏わせた舌を絡ませ、飲ませる。呼吸が疎かになり、頭がぼーっとしてくるほど、メアの存在しか感じ取れなくなる。

行為に没頭するマルクと抱き合ったまま、メアは身動ぎする。その瞬間、びくりとマルクの体が跳ねた。

「っは……め、メアちゃん……!?」

「…うん、入ったよ、お兄ちゃん」

体を起こし、メアはスカートの裾を摘まんで捲し上げた。まだ未熟さを感じさせる露になった白い肌、そして産毛すら生えていない滑らかな恥丘。その小さな割れ目に、マルクのぺニスは根元まで飲み込まれていた。

それは、今まで体を重ねてきた誰よりも狭い。だが、優しく全体を包み込み、虐め抜かれたぺニスを優しく労るように柔肉が舐め回してくる。ただそこに収まっているだけで、腰が抜けそうなほどの快楽を得られた。

「め、メアちゃん、大丈夫なの……?痛みとか、無い?」

必死に射精を堪えながら、マルクは気遣うようにメアの頬に手を添える。すると、無表情だった彼女の口元に、ほんの僅かな笑みが浮かんだ。

「…動くよ、お兄ちゃん」

マルクの腰に手を置き、メアは腰をバウンドさせる。ギシギシとベッドのスプリングが軋む音に、ぐちゅぐちゅと結合部からの淫靡な水音が暗室に響く。

とろけるような膣内に擦られ、まるでぺニスが一体となって溶け合っているかのような極上の快感。声など、我慢できるわけがなかった。

「はぁっ、あっ、あっ、んぅぅ……っ」

「お兄ちゃん……お兄ちゃ、……お兄ちゃん……っ」

口元を手で隠しながら喘ぐマルクの顔を見つめながら、腰を揺するメア。誰の姿でもない、本来の自分が愛する彼を感じさせていることに喜びを覚えているのか、徐々に腰の動作が激しさを増していく。

そして、マルクの絶頂も急速に近付いていた。膣内でびくびくとぺニスが脈動し、メアもまた彼の絶頂の気配に気付いていた。

その時、マルクが両手を彼女に伸ばす。驚いたように瞳を丸くするメアに向かって、彼は精一杯の笑顔を見せた。

「こんなに想ってくれて、ありがとう。大好きだよ……メアちゃん」

「…………!」

偽りの姿の時には、幾度となく聞いた台詞。だが、それは今、自分が姿を借りている人物に対してのものではない、紛れもなく今の自身に対する言葉であった。

それは、今宵限りの愛ではない。自分に関わる全ての人々に対する、分け隔てない彼の愛。メアが、ずっと手に入れたかった物。

腰を浮かせて、メアはマルクの両手に自身の指を絡める。そのまま勢い良くーーー腰を落とした。

「くっ、んん……っ」

「ひ、あぁ……出てる……お兄ちゃんの、いっぱい……!」

小さな膣内に弾ける精液。限界まで装填された命の元はすぐにその中を満たし、結合部の僅かな隙間からトロリと溢れてお互いの体を濡らした。

どくどくと脈打ち放たれる精液の全てを受け止めて、メアはぱったりとマルクの上に体を横たえる。繋がった手をしっかりと握りしめて。

「…お兄ちゃん」

「う……ん……?」

さんざん焦らされた果ての射精で息も絶え絶えなマルクは、強烈な睡魔と気だるさに堪えつつ、なんとか顔を上げて自分に抱きつき顔を見上げるメアに顔を向けた。

「私……忘れないよ。今夜の事、そして……お兄ちゃんの事……」

「それって……どう……いう……」

遂に睡魔に堪えきれず、マルクは意識を手放した。視界が闇が包まれる寸前、彼女の笑顔を記憶に残してーーー




「……ルク……マルク、起きろ。起きろ、マルク」

「う……ん……っ」

肩を揺すられ、マルクは静かに瞳を開いた。

もう明け方なのだろう、室内は柔らかい朝の日射しに照らされ、少し視線を動かすと、ベッドの縁に肩肘をつき、自分を見つめるローレットの姿があった。

「ローレット……さん……?」

「まったく、様子を見に来て驚いたぞ。まさか、あのドッペルゲンガーと一夜を共にしていたとはな」

「……!そうだ、メアちゃん……!」

慌てて体を起こし、マルクは室内を見渡した。しかし、そこには既に昨夜を過ごした彼女の姿はない。ただ、あの優しい温もりが、手の平に残っているだけであった。

「安心しろ。あのドッペルゲンガーなら、私が先ほど摘まみ出したぞ。しっかりと説教をしておいたから、もう悪さをすることもないだろう。ついでに、じっくりとお前の寝顔を拝むことも出来たからな。ふふ……今日は良い一日になりそうだ」

「違うんです……違うんですよ、ローレットさん。あの子は……メアちゃんは……」

会いに来てくれただけなのだ。抑えきれなくなった想いを、自ら伝えるために。それに、昨夜彼女が最後に残したあの言葉。あれではまるで、最後の別れのようではないか。

あの言葉に、マルクはまだ返答をしていない。伝えたい言葉は、自分も持っていたはずなのに。それを伝えられなかったことが悔しくて、マルクはシーツを握りしめる。

「今回の一件、一番の功労者は私に決まりだな。さて、何を望んだものか……よし、クラウディアの奴に、お前を二、三日ほど借り受ける権利をーーーどうした、マルク?」

「…いえ、何でもありません。ありがとうございました、ローレットさん。もう僕は大丈夫ですから、お店の開店準備を手伝ってあげて下さい」

ローレットを心配させないように、マルクは笑みを浮かべてみせる。少々ぎこちなかったせいか、ローレットは怪訝そうに眉根を寄せた。

「う、うん……?よくわからんが……元気を出せ、マルク。何か悩みがあるのならば、私に言え。お前のためならば、私は持ちうる全ての財すら擲ってみせよう」

「ええ、その時は相談させてもらいます。じゃあ、またあとで」

「うむ、ではな」

ベッドから離れ、ローレットは扉へと向かっていく。彼女の背中を見送りながら、マルクは諦めたように溜め息をつきーーーふと違和感を感じた。

あのローレットが、本当に寝顔を見るだけに留めるだろうか。以前グレアと共に襲われて以来、罰として彼女はずっとお預けの状態である。そんな飢えた狼と同等の状態である彼女が、無防備なマルクを前に何もしないなど有り得ない。

違和感は確信に変わり、マルクはローレットへと顔を向ける。彼女がちょうど扉に手を掛けた時、マルクは意を決して口を開いた。

「また、いつでもおいで……メアちゃん。僕は、ずっとここで待ってるから」

すると、ぴたりとローレットの動きが止まる。肩越しにマルクを振り返った彼女は、笑みを浮かべていた。昨晩、メアが最後に見せた同じ笑顔を。

「…ああ、また来る。ではな……お兄ちゃん」

そう言い残して、彼女は去っていった。伝えたかった言葉を伝えることもでき、マルクはホッと胸を撫で下ろした。

また、メアはきっと来てくれるだろう。次に会う時は誰の姿かはわからないが、彼女に会えることには変わり無い。そして、新月の夜はなるべく予約を空けてもらうよう、クラウディアに頼んでおこう。

「……うん?」

そんなことをマルクが考えていた矢先、なにやら廊下がドタバタと騒がしくなってきた。

一体何事なのかとマルクがベッドから立ち上がった直後、扉が勢い良く開け放たれた。

「き、聞いてくれマルクぅッ!!」

「ろ、ローレットさんっ!?一体何事……うわぁっ!?」

飛び込んできたのは、今度こそ本物のローレットであった。彼女は駆け寄るなりマルクに抱きつき、そのままベッドへと押し倒した。

「いたた……一体何なんですか、もう……」

「どうしたもこうしたもない!店の者が、私に身に覚えのない言い掛かりをつけてくるのだ!洗ったばかりのシーツを水溜まりに落としただの、客に出す食事を摘まみ食いしただの、売り上げをちょろまかしただの、まったくの濡れ衣だ!」

「あー……もしかして、それって……」

「そうだ、ドッペルゲンガーの奴だっ!くそっ、奴め、なぜこの私だけを狙い撃ちにするのだ……!」

怒りを通り越して咽び泣くローレットの頭を撫でて慰めつつ、マルクは苦笑いを浮かべていた。

どうやら、メアはローレットの評価を落として困らせてやろうという魂胆らしい。彼女はローレットに対して強い対抗心を持っているようであるから、まず間違い無いだろう。

「ああ、この心の痛みは、そう簡単に癒えるものではない。癒せるものがあるとすれば……愛する者との逢瀬だけ……か」

「はい?」

思わぬところで飛び火した。肩を掴まれ、ベッドに押し付けられてしまう。先ほどまでの涙はどこへやら、すっかり性欲の権現となったローレットは餓狼さながらに舌舐めずりをしてみせる。

「ちょ、ちょっと待った!待って下さいローレットさん!もう開店まで時間もないですし、ここは一旦落ち着いて下さい!あの、聞こえてますかぁ!?」

「なぁに、時間は掛けん。むしろ、私を相手に我慢など出来るつもりか?それは思い上がりも甚だしいな。ここで一度、しっかり教育をしてやるか」

どうやら本気らしい。ものの数秒でローレットは衣服を脱ぎ捨て、マルクの服に手を掛けた。

「だ、ダメですって!クラウディアさんも絶対怒りますよ!だ、誰か来て下さい!ローレットさんが……むぐぅーーーッ!!」

「私を前に他の者を呼ぶなど無粋にもほどがあるぞ。さて、久々に味わうとするか……!」

メアに願いたい。いっそのこと、ローレットの評価を下げまくってしばらく謹慎にしてもらえないだろうか。ローレットの豊満な乳房に押し潰されながら、マルクは本気でそう願うのだった。

18/10/28 19:27更新 / Phantom
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■作者メッセージ
前回更新から2年も空いてしまった……申し訳ない!
仕事環境が変わりやんややんやありまして、気付いたらこんな時期になってしまいました……
これからは更新速度上げられそうなので、どうか見捨てないで下さいまし
m(_ _)m

さてさて、今回はドッペルゲンガーさんのお話でした。
ほとんど本当の姿を見せない彼女をメインにどのようなお話を展開させていこうか悩みましたが、上手いこと落ち着いたかと思います。
実を言うと、私の作品傾向はお姉さんタイプが多いので、初めて扱う幼女をどう魅せたものかと苦悩致しました。

次回は、前々から考えていた娘を出そうかと思います。
最後に……これまでコメントを下さった方、皆様のエールが私の原動力になっております。
これからも生暖かい目で応援をよろしくお願い致します!

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