読切小説
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愛しのヘルハウンドにpropose!
「茜華さんなんてもう知りません!!」

いつもと違ってシリアスな雰囲気での一言。
男、幸谷 泰華(さちたに たいか)は怒っていた。

と言っても、普通の人ならまず怒らない事に対してだが。

「わ、悪かったよ。怒らないでおくれぇ。」

そこは泰華の借りているアパート。
バツが悪そうに、いつも通り抱っこという形を取ってその場を丸く納めようとする。
行動の主は名里籐 茜華(なりとう せんか)。泰華の恋人に当たる。

「今は抱っこしないで下さい!僕は怒ってるんです!」

彼は比較的本気で怒っているようだが、その背丈から擬態語はプンプンという感じ。
とても成人男性が怒りにうち震えている様子ではない。

「そ、そんなに怒ることはないだろう?」

な?という茜華の口調も諭すというよりはあやすに近いだろう。

「…」

無言でフンとそっぽを向く泰華。

前にも同じようなことが二回あったが流石に三回目ともなると変なところで頑固である泰華は譲らない。

「前も、一緒にって言ったのに…」

ふてくされていつもの敬語すら無くなっている。茜華としてはタメ語が好きだからこれで良いのだが。

さて、男は何に怒っているのか。

それは…

「だって、気持ちよさそうに寝ている泰華を起こしたくなかっただけなんだよ。」

簡単に言えば休日の昼にヤリ疲れた泰華がぐっすり寝ているので、夕ご飯の買い物を茜華が一人で行ってしまったということだ。
以前にも同じようなことが二回ほどあったが茜華が謝り続けてようやく許しがでた。

「僕はずっと、ずっと一緒がいいよ。あっ!夕ご飯のメニューも一人で考えちゃったんでしょ!」

分かりやすく落ち込みが深くなる。
普通の人が茜華の立場なら勝手にしろと喧嘩にでもなるだろうが、彼女自身も泰華の先の願いに了承を出しており、守らなかった自分が悪いという感覚があった。

「どうしたら、許してくれるんだよ・・・。」

いつもはキリっとした目元が弱々しくなっている。普段は泰華の何倍も頭が回りからかっては、慰め可愛がる茜華も、いや、そのような彼女だからこそこんな時はもうどうすることもできなく許しを請うことしかできなかった。

「・・・」

相も変わらず言葉少なに泰華はすっくと立ち上がり、部屋の隅にあるクローゼットへと向かった。

「なら、僕に付き合ってください。」

このタイミングでどこに行こうというのか。まったく理解できなかった。

「・・・あぁ。」

行先を聞ける雰囲気でもなかった。

「すぐに行くので先に外に出ていてください。」


普段なら絶対に待っていてほしいと言われる場面。しかし何とも言えない泰華の圧を感じ言われたとおりにアパートの外へと出る。

(まさか、別れ話?)

夏も終わりで、随分日が短くなった。まだ寒くはないが今の茜華には温かいと感じられなかった。

泰華の頑固さは知っている。
人の考えや、雰囲気を読み取るのは得意な茜華は彼が何かを決心したように見えていた。

(いや、流石にないはず・・・だよな)

不安になる。いつもからかって、いじけられるがそれでも愛し合っていると思っていた。こんなことで別れることになるなんてあり得ない。
そう自分に言い聞かせるとともに泰華をおいて出かけたことを思い出すと泰華の落ち込み方は本気であったことが浮かぶ。

「茜華さん。」

急に声をかけられて驚き体がすくむ。
普段の茜華であれば絶対にありえないことだ。

「行きましょうか。」

「お、おう。」

いつもの敬語口調にいつ戻っていたかもわからない茜華に、不自然に膨らんでいる泰華のポケットには気づくことはできなかった。


――――――――――――――――――――――――

泰華のアパートは町からは少し離れたところにありバス移動となる。
いつもならこれから二人で出かけるという幸せに包まれながら歩くバス停までの道のりも長く感じる。

「そういえば、この道でしたよね。僕と茜華さんが初めて会った場所。」

「そうだなぁ。もう2年、いや3年目になるか。」

3年前。
泰華はそこで落とし物を探していた。家の鍵を無くし半べそをかきながら自分の来た道を戻っていたのだ。そこに通りかかった茜華が一緒に探したことが出会いであった。

「あの時は本当にありがとうございました。」

「もう15年分はお礼を言われたよ。」

少し朗らかな空気になったように感じられるが茜華は内心困っていた。

(あの時は?なんだかもう清算された過去の言いかたじゃないか?)

やはり泰華はどこか冷めている感じがある。いつもとなりを歩くはずが今日は茜華の二歩先を歩いていた。
どうすれば良い?と茜華は必死に頭を回すがどうにもうまく考えがまとまらない。

泰華はまだ怒っているのか?
やはり別れ話なのか?
では、この時間は何なのか?
そもそもどこに向かっているのか?

そうこうしているうちにバス停へ。
良いのか悪いのか、数分のうちにバスは到着した。
二人は黙ったままバスに乗り、いつも通りの二人席へ。ここで離れた席に座られたらどうしようかと心配していた茜華はほっと胸をなでおろす。
この勢いで聞いてしまおうと話を切り出す。

「泰華、その・・・どこへ行くんだ?」

「秘密です。」

ぎこちない笑顔。

(いつ別れ話を言おうかタイミングを見ているのか?)

胸のあたりがギュッと絞められるような感覚が。いつも元気にピンっと立っている耳が垂れ下がる。

「まだ怒っているのか?」

「えっ?あぁ・・はい、怒ってます。」

「・・・ごめん。」

若干可笑しな反応の泰華だがいつも自信満々なヘルハウンドは気づけない。すると、茜華の手の上に小さな手がのる。
その手の主の方を向くとまだ自然ではないがこちらに笑いかけてくる。


少し“困ったような”笑顔。


泰華は話を切り出そうとする茜華の口に自分の人差し指をあてる。
不覚にもドキッとするが、まだ泰華が緊張していることが分かるため、まだ不安が拭いきれない。

そのあと会話は無く、いつも買い物をする町の手前でバスを降りた。

「少し歩きましょうか。」

こくりと頷き茜華が歩き始めると同時にその後ろについていく。これは茜華の家の方面だ。
少し歩くと土手にでる。
夕焼けが川に反射している。が、今の茜華には何も感じられる余裕は無かった。

(どうすれば、良いんだ。)

泰華のことなら大体わかっていたつもりだった。しかし、今は何もわからない。
もし、もしも別れ話だとしたら。

(ははっ、泣き落とししかできないじゃないか。)

改めて思う。泰華が好きであると。
向こうに気持ちが無いとしても、それでも離れていたくない。そう感じたとたん思いがぐっとこみ上げてくる。

「泰華!!」

ビックとすくみ茜華の方をみる泰華。

「す、捨てないでくれ!私が悪かった!」

大きな手で大粒の涙をぬぐっていた。
泰華は目を丸くして驚く。

「どうしたんですか!?」

駆け寄り手を取る。止めどなく溢れる涙が頬を伝っていっている。
見たことも無い茜華の泣きっぷりにあたふたする。

「嫌だ!あたしは泰華と一緒がいいんだ!!だから別れるなんて言わないでくれ!!」

泰華の手を握り、下を向いてぐっと目を閉じる。答えを聞くのが、泰華の顔を見るのが怖かった。

「へっ?別れる?何の話ですか?」

しかし、返ってきたのは予想と違ったどこか間の抜けた声。
茜華も思わず顔を上げる。

「えっ?だって、もう私に、愛想がつきて。別れ、別れるって。」

泣きながらのためとぎれとぎれだ。泰華も続けて驚いている。

「なんでそうなるんですか!?僕はただ・・・」

口をつぐむ。

「とりあえず泣き止んでください。ぼ、僕、茜華さんの泣いているところ見たくないです。」

もらい泣きしそうになっている泰華。
茜華は目を擦り、それでも出てくる涙が止まらず結局二人で泣いたのであった。



――――――――――――――――――――――

「はぁ、恥ずかしい」

先に泣き止んだのは茜華であった。しかし、自分の大いなる勘違いに今度は羞恥の念に打ち震えていた。

数えるほども見たことのない愛しいヘルハウンドの落ち込んでいる顔。男は申し訳なさ半分、愛しさ半分で話す。

「本当にすみませんでした。」

「そうだぞ!本当に不安だったんだからな!!」

ガバっと泰華を肩に腕を回し抱き寄せる。
今は土手を少し下り、坂に隣あって座っていた。

「なんであんなに暗い雰囲気だったんだよ?もう逃がさないぞ。絶対に答えてもらうからな!」

声のトーンはいつもの通りに戻っているが少しチックとした言い方。どれだけ追い込まれていたかのかが分かる。

「・・・」

それでも泰華はすぐには話さなかった。

「本当にどうしたんだよ?病気か?怪我か?それなら友達に腕の良いヴァンパイアの医者がいるぞ。それとも何か悪いこと、取り返しのないことでもしたのか?それなら・・・悪い奴は仲間にはいないが、がめつい刑部狸の幼なじみがいるぞ。あいつに投資すれば」

「茜華さん。」

下を向いていた泰華から真面目な声。茜華も聞いたことがないような。
男は深く深呼吸をして続ける。

「この土手の通り覚えてますか?」

返事は早い。

「もちろん。忘れるわけないだろう。」

約三年前。
泰華がなくしたカギを一緒に探し茜華が見つけてくれた。その日は礼もそこそこに茜華は帰ってしまった。
翌日から5日間、泰華は仕事を終えてから鍵を探した道に立っていた。そして再び巡り合った。

「あの時は本当に驚いたよ。」

そもそもあたしは普段、あの道は通らないんだよ。
後日聞いた話だ。鍵の時はたまたま熱を出した同僚を見舞に行っただけであった。そしてその5日後その同僚が料理をご馳走してくれるということで通っただけであった。

「本当に運が良かったと思います」

「いやあれは泰華の粘り勝ちだろ?」

そう言って愛しい相手の頭を撫でる茜華。

「僕あの時ストーカーみたいでしたよね。」

苦笑いする泰華。
二回目に茜華を見つけた時はいた!と叫んで思わず駆け寄ってしまったのだ。

「暴漢かと思ったなぁ。」

現に簡単に取り押さえられてしまった泰華。
しかし、すぐに誤解は解けお礼をしたい一心を伝えた。

「そこからは早かったよな。」

どうしてもお礼がしたいという泰華に負け、翌日居酒屋に行った二人。
そこでまたひと悶着あり彼を助けることになった。

「あんな連中無視しておけば良かったんだよ。」

何かといえば酔っ払いに茜華の見た目をからかわれたことに腹を立て小柄な泰華が謝罪を要求したのだ。

「ほとんどお酒は飲んでいなかったんですけど、どうしても我慢できなくて。」

茜華は自分よりずっと弱い、知り合ったばかりの男に何も期待はしていなかった。
黒い肌に赤い目、獣の耳は魔物娘が溶け込んだ現代社会では別に珍しくはないが、やはり目立つことはある。
別に言いたい奴には、言わせておけば良いという考え方だったが目の前の小男がモノ申すとは全く予想だにしていなかったのだ。
結局、言葉では収まらず若干の肉体言語にて話し合いをしてその場は収まった。

「あの後、店中の人間が一杯おごらせてくれといって大変だったよな。」

微笑む茜華。
酔っ払いを華麗に撃退し拍手喝采。他の酔っ払いたちがどんどん酒を頼んだのだ。
茜華だけでは飲みきれず、酒に弱い泰華も酔いつぶれ茜華の家に泊まることとなったのだ。

「あの時の茜華さんかっこ良かったですよ。」

これも散々聞いたセリフであった。

「泰華だって他人のことなのにあれだけ真剣に怒ってかっこ良かったぞ。」

そう、最初は本当にお礼だけだったのがそのあとのことでお互いに気になってしまったのだ。
茜華の家で寝ぼけた泰華が告白まがいのことを言って、あとは流れるようであった。

「魔物娘さんにあれはもうダメでしたよね。」

泰華は寝ぼけて茜華に
“あなたみたいな人が恋人だったら、綺麗で優しくて強くて、そんな人と付き合いたい”

「あれはどう考えたって告白だろう?そりゃヤルしかないよな♪」

そして一夜を過ごしたのだった。
次の日はお互い休日だったこともあり、なぁなぁと町をぶらついた。
その帰り。とある土手。

「そう言えば、ここだったな」

“昨日は本当にすみませんでした!でも僕、茜華さんを好きになってしまいました!!僕と付き合ってください!!!!”

歩行者を気にしないくらいの大きな声で叫び、頭を下げた。

「茜華さんはあの時から、その・・・僕のこと好きだったんですか?」

「そうだよ。」

迷いなく答える。
ちっこいのに真っすぐで、いつだって楽しそうで。何より私のことを純粋に好きだと分かったから。

「本当に良かったです。・・・でも、僕感じるんです。」

茜華が頭にはてなマークを浮かべる。

「茜華さんと1秒でも離れていたくないんです。」

すぐに察する。黙って買い物に行ったことだ。
謝ろうとする茜華だが泰華の方が先に続ける。

「本当に辛いです。茜華さんは僕を思って行動してくれているのにそれに我儘を言って。でもちょっとしたことで置いて行かれることも本当に嫌なんです。」

ずっと一緒がいいんです。
そう言ってすっくと立ちあがり、土手を駆けあがる。

「茜華さんも来てください!」

「わ、分かった。」

慌てて駆けあがり泰華の元へ行く。
すると泰華は話し始める。

「もう、僕は茜華さんと少しでも離れるのが嫌なんです。だから」

ここでまた大きく深呼吸をして。そしてあの時のように周りを気にしない大きな声でこう続ける。

“弱くて、情けないところが多い僕ですが、茜華さんのことをこの世で1番愛しています!!!これからもずっと僕をからかって、慰めて、笑顔にしてください!!!!僕も茜華さんを幸せにします!!!!!!!”

ポケットに手を入れごそごそとまさぐり、その手を茜華へ向ける。
しかし、その手には先ほどまでは無かった箱。小さな箱。

“名里籐茜華さん!!!僕と結婚してください!!!!!!”

男は箱を開けた。
中に入っていたのは指輪であった。

ほんのわずかな沈黙。が、目をつぶっていた泰華には永遠にも感じられ、我慢できずに茜華の顔を見る。
茜華の頬には一筋の涙。だがそれは先ほどのモノとは全く違い清々しいものであった。

「もちろん、喜んで!」

そう言って周りを気にせずに、勢いよく泰華を抱きしめるのであった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

帰り道。

もちろん、向かっているのは泰華の家だ。なぜなら、茜華がした晩御飯の買い物は泰華の家にあるのだから。
幸せな二人、かのように思えたが男は溜息を吐く。

「はぁ、茜華さん本当にすみません。」

今にも泣きだしそうだ。
そんな泰華の手にはあの小さな箱。しかも中身は健在であった。

「いいって。仕方ないさ。」

よしよしと頭をなでる茜華も苦笑いだ。こればかりは慰めも逆効果かと感じている、そんな顔。

「まさか、指が入らないとは。お店でヘルハウンドさん用の指に合わせたのに・・・。」

うなだれる泰華。そう、茜華の指はヘルハウンドの平均よりかなり大きいようであった。
すみませんと再度謝りを入れる。

「そうだぞ。あたしは怒っているんだ。」

声も口調も優しげだが、こう唱える茜華。

「あたしを置いて指輪なんて大切なものを買いに行くなんて。傷ついてしまうなぁ。」

わざとらしい落ち込んだ声を出す。そして泰華の頭を寄せて囁いた。

「今度はあたしも一緒に行くからな♪」

ギュッとされ泰華は幸せを感じる。

「そう言えば今日のご飯は何ですか?」

「ん〜?泰華の好物だよ。でもなぁ。あんなに勿体ぶってあたしを不安にさせる奴に作ってあげるのはなぁ。」

茜華が悩むふりをすると慌てて泰華は弁解する。

「あれは本当に緊張してて仕方なかったんですよ!・・・でもプロポーズが土手ってやっぱりダメでしたかね?」

ムードにかけたのではないか。恐る恐る茜華を見る。
しかし、愛しのヘルハウンドは穏やかな笑みでこちらを見ていた。

「泰華、最高のプロポーズありがとうな。これからもずっと一緒だ。」

「はい!」

男はこの優しくて強いヘルハウンドを一生大切にすると誓った。

女はこの小さく真っすぐな人間を一生大切にすると誓った。

そうして二人は肩を寄せ合い、お互いの温もりを確かめ合うのであった。


“今晩は覚悟しとけよぉ。いやってほどあたしのモノだって刻み込んでやる♪”
18/03/08 10:46更新 / J DER

■作者メッセージ
なんだか、この話は急ぎ過ぎたような気がします。もう少しスローテンポでも良かったかもしれませんね。
舞台というかエピソードはあと2つくらいあるので頑張ってあげたいと思います。

同作者「夏デート in 水族館」「秋の夜長」と同じキャラ・設定です。以前の物の方が読みやすいかもしれません。それを含め宜しければ、以前の物もお読み頂ければ幸いです。

では最後に皆様の余暇のお供になれることを願いましてー。

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