連載小説
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12 証文
「なんじゃスクル、まさかラービスト殿のお墓は教団本部のど真ん中にあるとでも言うのか?」
スクルが話し始めたらフィムが口を挟んだ。
「いえちがいます、ラービスト大司教のお墓はラービスト大司教領にあります」
口を挟まれたのにもかかわらず、スクルは嫌な顔一つせずに答えた。
「大司教領だって?あいつ領地を持てるとこまで出世したのか?」
スクルの答えにお父様は意外そうな顔をした。
「そう言えばスクル君はずっとラービストのことを大司教と呼んでいるがあいつはあの頃は司教だよな?」
「その通りです、僕が大司教と呼ぶのは亡くなった時の階級が大司教だったからです」
そういえばそうか、生まれたときから大司教だったわけがないからなあ。
「それにしてもあいつがあの後そこまで出世したとは知らなかった」
「お父様が裏切ったおかげでラービストさんは失脚したり、追放されたり、最悪処刑されたかもしれなかったのですからね」
私が皮肉をこめて言ったらお父様は気まずそうな顔をした。
どうやら私はラービストさんにだいぶ感情移入しているらしい、魔王の娘であるリリムがこんなことでいいのだろうか?
「危うくそうなるところでしたよ、勇者様が主神様と教団を裏切ったことの批判と責任の追及をラービスト大司教は一身に浴びました、ですがラービスト大司教は一言も反論や言い訳をしなかったそうです」
「夫様の親友で魔王討伐に推薦した当人じゃからの、でもお気の毒にのう」
「一番罪を負うべき人がその場にいなかったから責任を負わされたのね」
スクルの説明を聞いてフィムと私がラービストさんに同情するようなことを言ったらお父様は「なんだよ、俺が悪いのかよ・・・」といじけた様な事を言った、全くその通りなのですけど。
お母様はお父様をかばうべきか判断がつきかねているようだった、ひょっとしたらお母様もラービストさんに同情しているのかもしれない、しかし考えてみるとお母様は「共犯者」になるのよね。
「しばらくしてみんな落ち着いてきたので、ラービスト大司教の責任について調査が行われたのですが、勇者様の裏切りを事前に予測するのは不可能に近いという結論が出て、公式的には責任は問われませんでした」
よかったよかった、ここにいる一番悪い人が罰せられなくてラービストさんが罰せられるのはおかしいからねと口にしようとしたが、これ以上お父様にいじけられたら話が進まなくなるので黙ることにしたが、次のことは聞きたかった。
「公式的には問われなかったっていうことは別のやり方で責任を問われたってこと?」
「魔王軍との戦いから外されて田舎の小さな学校にとばされてそこの教師になりました」
「さぞ無念だったじゃろうなあ、魔物との戦いに一生をかけるつもりだったろうから」
「でもそこからどうやって大司教になって領地までもらったわけ?」
「学校の教師になって、魔王軍と戦うのには軍事力の強化だけでなく、人材を育てる教育も重要だという考えを持つようになりました。そして教団の中枢に復帰してからは教育政策にかかわるようになったのです」
「ほお、具体的には何をやったのじゃ?」
「教団の影響力がある国に学校を作り、無償で子供たちに教育を与えました。その結果教団の人材は大幅に厚みを増して、教団に好意的な国も増え、教団の影響力は大幅に強化されたのです。その功績で大司教に任命されて、領地も与えられました。現在では魔王軍との戦争よりこちらの方をラービスト大司教の功績と称える人が多いのです。ちなみにナルカーム神聖大学の学長も務めました」
「ほぉ、スクル、お主とも縁のある人物だったのじゃな」
「挫折を乗り越えて立派な教育者になったのね」
お父様に裏切られて失意のうちに亡くなったのかと思ったら立ち直っていたのか、それに比べて親友を裏切った後ひたすらヤリまくっているだけのどこの誰かさんとは大違いね。
・・・私、反抗期はとっくの昔に終わったと思っていたんだけどなあ。
ふと疑問が浮かんだ。
「ねえスクル、大司教ってどのくらい偉いの?」
「上から3番目くらいの階級だよ」
「それだけ功績をあげて教団のトップには立てなかったの?」
「実力や功績からいってもトップに立ってもおかしくないというのは当時の人も思っていた、やっぱり勇者様の件が尾を引いていたと当時も今も考えられているよ」
やっぱり友達は選ばなければならないのね、そう思いながら無言でお父様に視線を向けてしまった。
私だけでなくフィム、スクル、お母様にまで視線を向けられたお父様は「そうやってみんな俺を悪者にすればいいんだ」といじけてしまった。
ここは話題を変えた方がいいかなと思っていたら、現時点で話題がずれていることに気付いた。
「話が思いっきりずれちゃったけど、ラービストさんのお墓参りがまずいのは何故なの?」
強引に話を元に戻した。
「理由は大司教領には教団軍の駐屯地があるということと、ラービスト大司教の墓石に彫られた文章です」
「墓石の文章?」
教団軍の駐屯地があるというのは分かるけど、墓石の文章がまずい理由というのは分からなかった。
スクルは自分の荷物の中から紙を丸めたものを取り出しテーブルの上で広げた、かなり大きめの紙で、もとは白い紙だが中心部が黒く染まっていて、そこに白い文字が書かれていた。
「これは拓本じゃな?」
「そうです」
「拓本って何?」
私の疑問にフィムが答えた。
「拓本とは石碑や壁に文字や絵が彫られているところに墨を使って紙に写したものじゃ。凹凸が逆じゃが版画と同じようなものと考えてみればよい」
そういえば昔美術を教わった時にやったことがあるような。
「この拓本はラービスト大司教の墓石の裏側に彫ってある文章を写したものです、表側は名前や生没年といった普通のことが彫られていますが、裏側にはラービスト大司教が勇者様に宛てた証文が彫ってあります」
証文って契約書とか借用書のことよね、え、まさか?
「俺宛の証文!?」
「まさかあなたラービストさんに借金していたの?」
「いや・・・そんなはずは・・・どうだったかな?」
「魔王様、夫様、落ち着くのじゃ、証文といっても借金の証文とは限らないのじゃ。で、スクル何の証文なのじゃ?」
「その通り借金の証文です」
えっー?
「お父様ってラービストさんからお金を借りてそのままにしていたの?」
「いや酒場の支払いを立て替えてもらった事なら何度かあるが・・・後で払ったかな?」
「ふむ、スクル、この証文読ませてもらうぞ」
そう言ってフィムは証文を読み始めた。
「ふむ・・・、『この証文は甲が乙に対して所有する債権について記すものである』と書いてあり、甲とはラービスト殿のことで、乙とは夫様のことであると書いてあるな」
「債権って何?」
「この場合は借金のことじゃな、元金だけで結構な金額じゃな。スクル、元金の内訳については書いていないようじゃが?」
「その証文には書いていないのですが、ラービスト日記に書いてあります。あの日記は個人的な金銭出納簿も兼ねていますから」
金銭出納簿って分かりやすく言うとおこづかい帳のことよね、たしかに日記には何を買っただの給料を受け取っただの書いてあったなあ。
「その証文に書いてある元金の内訳ですが、先ほど勇者様がおっしゃっていた酒場の支払いの立替分は元金のうちの十分の一しかありません」
「十分の一でも結構な金額よねお父様、なんでラービストさんに支払わせたの?」
「そのころは明日死ぬかもしれない毎日だったから、収入があってもすぐ使いきるような生活をしていた、宵越しの銭は持たないなんていきがっていたんだ。ぶっちゃけ貯金なんかしていなかった」
「だからラービストさんにたかっていたわけね、お気の毒に。それじゃあ残りの分は?」
「酒場の支払い以外は心当たりがないぞ、なんかの間違いじゃないのか?」
視線がスクルに集まった。
「残りの分ですが、勇者様は教団本部で正式に教団の勇者に任命された時のことを覚えていますか?」
「ああ覚えているぞ」
「任命式の後、勇者様は大聖堂のど真ん中で酒盛りをしたことも覚えていますか?」
「・・・覚えている」
そんなことしたの?確か教団の施設は禁酒だって聞いたけど。
「止めようとした警備兵とけんかになって大怪我させてパイプオルガン、ステンドグラス、フレスコ画その他諸々を破壊したことは覚えていますか?」
「・・・・・・記憶にございません」
「ラービスト日記に書かれていますし、それ以外にも複数の記録が残っています」
「それじゃあ間違いないわね、お父様」
「有罪じゃな」
「あなた・・・」
お父様って破滅型の人だったのかしら、教団を裏切ってお母様と結ばれたのもそれゆえ?今はおとなしいけど年を取って丸くなったということなのかしら。
「危うく裁判にかけられるところでしたがラービスト大司教が土下座して、壊した物の弁償や警備兵の治療費まで肩代わりして事を収めたそうです」
「お父様、それはちょっと・・・」
「ひどい話じゃな」
お母様もさすがに引いていた、お父様はフィムよりはるかに小さくなっていた。
「すると残りの金額はその肩代わりした分じゃな」
「そういうことです」
お父様は蚊の鳴くような声で「そのことについてラービストは何も言ってなかったのだが・・・」と言った。
「ラービスト殿は夫様が勇者として全力で戦えるように取り計らったのじゃな、魔王との戦いで戦死してしまえばそのお金はあきらめるし、魔王を討ち取り凱旋すればチャラにするつもりだったのじゃろう」
私もフィムに同意見だったが、恐ろしい考えが頭に浮かんだ。
「まさか・・・、お父様が教団を裏切った本当の理由はラービストさんへの支払いができなかったから夜逃げしたってことは・・・」
「それはないぞ!さっきも言ったが俺はそのことを知らなかったんだ!」
お父様は焦りまくって叫んだ。
「お父様がそう言うのなら、そういうことにしておきますが、いずれにしろ証文のお金は今からでも払った方がいいと思うのですが、ねえお母様?」
「そうね・・・払えるのなら払った方がいいと思うわ」
一連のやり取りを聞いていてお母様は少々混乱気味だったが、何とかそれだけは答えた。
「いや、俺だって払わないとは言っていないぞ、払えばいいんだろ」
お父様も支払うことに決めたようだ。
「フィム、ラービストさんが立て替えたお金ってどのくらいなの?」
「そうじゃな・・・、宝物庫にあるお宝のうち、そこそこのものを10個くらい売り飛ばせば払えるくらいじゃな」
それを聞いたお母様はほっとした顔をしたが、すぐにあれ?というような顔になった。
「そういえば・・・いったい誰に払うのかしら?」
あ・・・、そういえばラービストさんはとっくの昔に亡くなっているのだから誰に払えばいいのかな?気付かなかった。
「魔王様、エル、常識的にみて借金の返済を受ける権利はラービスト殿の子孫が代々相続していると考えるべきじゃろう」
「でもラービストさんの奥さんとお子さんは亡くなっているんじゃ・・・」
「領地をもつ身分になったのじゃから、再婚するか養子を迎えたと見るべきじゃろう。スクル、そこはどうなっているのじゃ?」
「両方ですよ」
「両方?」
「ラービスト大司教は再婚相手の連れ子を養子にしています、その養子がラービスト大司教領を相続しました。現在もその子孫が領主を務めています」
「代々大司教を務めているの?」
「ややこしくて間違える人が多いのですが、ラービスト大司教領というのはあくまでも地名で、大司教の地位までは相続していません。相続しているのはその土地とラービスト大司教領領主という肩書です」
「確かにややこしいわね、じゃあ今は教団とは関係ないの?」
「代々の領主の中には教団の聖職者や教団軍の幹部になった人が結構います、確か現在の領主も教団軍でそれなりの地位にいるはずです」
ということは今後戦場でラービストさんのご子孫と戦うことがあるかもしれないわけだ、その時に金返せと言われたらお願いですからもう少し待ってくださいとでも言えばいいのかな?
「ちょっといいかスクル君、ラービストの再婚相手というのはどのような女性なんだ?ひょっとして俺の知っている人かもしれないからな」
小さくなっていたお父様が復活した。
「実はよく分かっていません」
「え?」
分からないってどういうこと?
「ラービスト日記も含めて公式的な記録には氏名、生年月日、出身地、出自等は残ってないんです。これは最初の妻のように誘拐されることを恐れていたからではないかと考えられています。日記には再婚したとしか書かれていないんです」
同じような目に会いたくないのはわかるけど徹底しているなあ。
「公式的な記録って今言ったけどじゃあ他の記録には書かれているってこと?」
「他の人の日記等によると、名前がサミーナ、肌の色や言葉のなまりから南方の出身ではないかと推測される、だけしか分かっていません」
「子供の実の父親はどうしたの?」
「それもわかりません、ただこの時代には夫を魔物との戦いで亡くした未亡人は珍しくはありませんでしたので、彼女もそうだったのではないかと推測されます」
魔物との戦いでつれあいを亡くした人同士で結ばれたのかしら、幸せな生活だったらいいなあ。
「いずれにせよ子孫がいるということは、その人に返せばいいということなのね、さっそく用意するわ」
「魔王様、ちょっと待つのじゃ」
お母様をフィムが止めた。
「フィム、どうしたの?」
「さっきから話している金額はあくまでも元金の話であって、借金には「利子」という物がつくのじゃ。この証文にはちゃんと利子のことも書いてありますぞ」
「「「利子!?」」」
私とお母様とお父様がハモった。
「まさかトイチの金利とか?」
「漫画の読みすぎじゃぞエル、利率は相場からみても低い方じゃ」
「なんだ、よかった」
ということはラービストさんはお父様をあまり恨んでいなかったのかな?
「安心するのはまだ早いわい、問題はこの利率が複利で設定されていることじゃ」
「複利?」
「数学で指数関数は教えたじゃろ、二次関数ほどではないがグラフにすると上の方にカーブを描いて増えていく関数じゃ。複利計算は指数関数を使って計算することになるわい」
そう言えば教わったなあ、返すのが遅れると利子がとんでもなく増えるから絶対に複利で金は借りるなってきつく言われたっけ。
と・・・いうことは・・・。
「それじゃあ今は元金と利子でいくらくらいになるの?」
その時から何年たっているんだっけ?
「計算するからちょっと待つのじゃ」
フィムはそう言うとどこからかそろばんを取り出した。
「そんなの普段から持ち歩いているの?」
「これより優れた計算機は見たことがないからの」
フィムはそろばんをはじき始めた、そろばんの使い方は私も教わったけど簡単な足し算しかできなかったなあ、というか指数関数の計算もそろばんでできるの?
フィムはそろばんをひたすらはじき続けた、その場にいる全員が一言も発せずフィムとそろばんを見つめていた。
一時間くらいたったんじゃないのかと思った頃、そろばんをはじくのをやめたフィムは手元の紙に何か書き込んだ。
「これだけそろばんをはじいたのは初めてじゃ、指がすっかりしびれてしもうたわい。エル、これが現在の夫様の借金の額じゃ」
私はフィムから受け取った紙を見て、そこに書いてある数字を理解したとたん思考が止まった。

「・・・エル、エルしっかりしろ!」
気が付いたらスクルに揺さぶられていた、お母様とお父様は不安そうな目で私を見ていた、フィムはさもありなんというような顔をしていた。
私は黙ってお母様に紙を渡した、お母様は不安そうな顔でそれを受け取りお父様といっしょに見たとたんに二人とも固まった。
「フィム、ほんとにあれで間違いないの?」
「複利というのは怖いのお、あれで間違いないぞ」
「桁が多すぎて全然ピンとこないんだけど」
「たぶん魔界化する前のレスカティエの年間予算があれくらいだったと思う」
スクルが分かりやすい説明をしてくれた。
「なんであんなに増えたのよ」
「普通だったらあんなに増えはせんわい、あの証文の日付は夫様が教団を裏切った日じゃが、その日からあまりに時がたちすぎているせいじゃ」
「普通の人間ならそんなに生きているはずがないからね」
スクルの言うとおり、人間の常識でいえばあの証文は単なる古文書なんだよなあ。
「こんな大金支払えるわけないだろ」
こわばった顔をしたお父様がこわばった口調で答えた。
「夫様、全額を一括返済は無理でも分割払いという方法もあるのじゃ、相手方との交渉の仕方によってはこれ以上利子が増えないようにするということもできますぞ」
一体何回払いになるのかしら?
「いくらなんでもこりゃ無理だ、もう破産するしかない」
「ラービスト殿は夫様がそう言うのも予想していたのじゃ『乙が破産を宣言した時は乙の配偶者が返済する義務を負うものとする』と証文に書いてあるのじゃ」
乙はお父様のことだから乙の配偶者とはお母様のことになる。
「お父様が破産した時はお母様が借金を返すことになる、ということね?」
さすがはラービスト大司教、逃げ道はあらかじめふさいでいたのね。
「私が・・・、払うの?」
お母様もこわばった顔をした。
「魔王様大丈夫ですのじゃ『乙と乙の配偶者が離婚した場合は乙の配偶者は返済する義務は負わない』と書いてありますのじゃ」
「それってお母様とお父様が離婚すればお母様は借金を返済しなくていいということ?」
「借金を逃れるための離婚というのは人間ではよくある話じゃからの」
いくらなんでもお母様とお父様が離婚するわけがないわよねと思っていたら、二人が真剣な表情で顔を向き合わせているのに気がついた。
「あのーお母様、まさか本気で離婚を考えているなんてことは」
おそるおそる尋ねたところ、二人ははっとしたような顔を私に向けて。
「やーねー、私とこの人が離婚するはずがないじゃない、おほほほほほ」
「そうだぞ、長年つき添った母さんと俺が分かれるなんて考えるわけがないだろ、ははははは」
これほどわざとらしい笑い声は初めて聞いた、絶対二人とも一瞬は離婚を考えていたな。
「フィム、お母様とお父様が借金を払わなかったら、二人の娘である私たちリリムが払わなければならないの?」
借金した本人が死んだら子供が支払うことになったという話はよく聞くので不安になった。
「それは大丈夫じゃぞ、証文には『甲と乙、二人とも死亡した場合はこの証文に記載されている借金はすべて消滅するものとする』と書かれておる」
甲はラービストさんで乙はお父様のことだからこの二人が亡くなった時は借金が消滅するということだ。
「ラービストさんはすでに亡くなっているから、お父様が亡くなれば借金は消えてなくなるということ?」
いつの間にか声に出していた。
私はほとんど無意識にお父様に視線を向けた、お母様もフィムもスクルもお父様に視線を向けた。
視線に気付いたお父様は、その視線に共通の意志が込められていることにも気がついてぎょっとした。
「お、おい、まさか俺が死ねばいいなんて思っていないだろうな!?」
お父様は明らかに動揺していた。
「やだわお父様、愛する娘がそんなこと思うはずがないじゃないですか、おほほほほ」
すいません思っていました。
「魔王様、夫様、エル、落ち着くのじゃ。ラービスト殿の子孫は教団に所属しておる、いますぐ魔王城まで取り立てに来られるわけがなかろう」
お母様とお父様はフィムの話を聞いてほっとした。
「でも子孫が男性なら魔物娘の夫になる、女性なら魔物化するなんてことになったら魔王城まで堂々と来られる、ということよね。さっきスクルが現在の当主は教団軍にいるって言っていたからその可能性はなおさら高くなるわ」
「確かにそうじゃな、証文をよく読むと直系の子孫しか借金の取り立てはできないとは書いていないんじゃ、たとえ分家や庶子の子孫でも借金の取り立てはできるのじゃ」
「ラービストさんのころからかなり年月を重ねているから子孫の数はかなり多いということになるわね、一体今何人いるのかなあ?その中の一人が魔物化したら今すぐにでも魔王城に取り立てに来るかもしれないということね」
私のフィムの会話を聞いてお母様とお父様は顔を青くした。
「ところでスクル、ラービスト大司教領はどのあたりにあるのじゃ?」
「大陸中央街道がラザーン山脈を越えるあたりですよ」
「あのあたりか・・・、ということはレスカティエと教団本部のほぼ真ん中じゃのう」
それってどういうこと?
「もしデルエラ殿が大軍を率いてレスカティエを出発したら、ほぼ確実にラービスト大司教領は魔界化するということじゃな」
「そうなったら、確実に子孫の誰かが魔物化して魔王城に取り立てに来るということね」
「魔王様、夫様、借金の支払いを先延ばししたいのならデルエラ殿にはレスカティエを動かないように厳命した方がよいですぞ」
「・・・・考えておくわ」
フィムの提案にお母様は弱々しい声で答えた、お父様は気力を使い果たしたような顔をしていた。
お母様とお父様はかなり疲れたようだったので借金の話は打ちきることにした。
二人は取り立てにこない限り借金のことは考えないことにしたようだ、何の解決にもなっていないのだが大丈夫だろうか。
それにしてもラービストさんはお父様に莫大な借金を負わせただけでなく、様々な条件を付けることでお母様とお父様の夫婦中にひびを入れ、お父様が死んでくれないかなと家族に思わせて、魔王軍の動きを抑えることに成功したわけだ、しかもすべて自分の死後に。
本当にすごい策略家だけどいくらなんでもこれで終わりだろうと思っていたが、その考えは甘かったことを直ぐに思い知らされた。

13/12/01 23:45更新 / キープ
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■作者メッセージ
ラービストの罠はもう一つあります、是非ご期待ください。

この話はあと2話で終わりの予定です、何とか今年中には終わらせたいです。

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