71ページ:龍(桜花)
「あ!師匠!村が見えてきましたよ!」
「そうか…前が見えんから分からんである…」

何があったのかは…想像がついているであろうが一応説明しておくか。

前回の後、我に返った二人に思いっきり殴られたのだ…
レオンハルトも罵詈雑言を浴びせられたりしていたがその辺りは知らん。
我輩のせいとはいえ、討伐対象の魔物とヤってしまったというのは奴にとっては相当不味かったらしく、酷く悩んでいたようであるな。
我輩に恨み事を吐きながらも出口まで送ってくれる辺り、冷静さは失っていなかったようだが…

…流石に悪いことをしたか?…今度からは怪しいものはアレクシアに食べさせてから使うことにするか…

「ご主人様…大丈夫?」
「何、村に着くまでにはギャグ補正で治ってるはずだ。」
「ギャグ補正というのはなんなのかは知りませんが…無理はなさらないでくださいね?」
「まぁ、ええ勉強にはなったやろ…今度からはよう分からんもん拾ったらうちの所に持ってきぃな、鑑定くらいはロハでええよ。」
「すまんな…」
「所で…その勇者はどうしたの?」
「一旦支部に戻ると言ってたな、今回の件を報告してから暫く休暇をとると言っていたである。」
「今はそんな事はどうでもよい、運び疲れたから早く休みたいのじゃ…」

桜花には何時も苦労をかけてしまっているな…どこかで礼をしたいが、何がいいだろうか?
まぁ、その辺りの事は後でゆっくりと考えよう、今はとにかくゆっくり休みたいである…


「所で輝ちゃん、さっき変な事考えなかったかしら?」
「考えてないであるぞ?」
「そう、後でお仕置きね。」
「…解せぬ…」



歩く事十数分、我輩達一行は先ほど見えていた村へと到着したである。
…しかし…なんだか様子がおかしいな?
なんと言うか…活気がないような…

「んっ?何じゃあんた等は?」
「旅をしてるものである…どうしたのであるかこの村は?随分と静かだが…」
「よそもんのお前さん達には関係のない事じゃ…悪い事は言わん、面倒が起きる前に立ち去りなされ。」

取り付く島もなさそうであるな…どうしたものか…

「まぁまぁそんなに冷たい事言わんといてぇな、うちらに出来ることあったらどーんとゆうてみ?」
「気軽に解決できることではないのじゃ……お前さん達は大量の水か雨を降らせろと言われたら出来るのかの?」
「出来るであるな。」
「わっちなら出来るの。」
「そうじゃろう?出来るわけが………今…なんと?」
「わっちは雨を降らせることが出来る…ちょっとした条件があるがの。」

生気の薄かった瞳がみるみるうちに輝きを取り戻し、満面の笑みを浮かべて桜花に迫った。

「わし等に出来ることなら何でもする!どうか雨を!一日でもいいから雨を降らせておくれ!」
「落ち着くのじゃ、雨を降らすのに必要なものがあって、それを獲る為に用意して欲しいものがあるのじゃ。」
「どんなものじゃ!?直ぐに用意させよう!」
「雨を降らせるには膨大な魔力が必要…それを補給する為に愛する者の精が必要なのじゃ。」

そう言って我輩を抱き寄せる桜花…
…知らぬ者の前で愛する者宣言されると流石に恥ずかしいである…

「何か精のつく物を捧げて欲しいのじゃ、降らせている間は常に交わらねばならんからの。」
「わ、わかった!村の者に伝えてかき集めてこよう!」

そう言い残し、大声で叫びながら老人は走り去ってしまった…
…年寄りがあんなに走って大丈夫だろうか…転んで怪我でもしなければいいが…

「輝…すまぬ、ついあんな事を…」
「気にすることはないである…むしろ、ありがたいくらいであるな。」
「こういう村ってのはよそものに厳しいでなぁ…良い印象与えておけば動き易くなるし、その点ではいい判断やったと思うで?」
「桜花ちゃんの場合は、困ってる人を放っておけなかっただけだと思うわよ?」
「ですが、そこが桜花さんのいい所でしょう。」
「…褒めても何も出んぞ?」
「照れてる桜花様も可愛らしいと思いますよ?」
「あうぅ……」
「桜花さん顔真っ赤だねー。」

ミィナの一言でさらに赤くなり、今にも湯気が出て来そうなほどになっているな…
そして、我輩を抱きしめる力がどんどん強くなっていってあがががが。

「むっ…あっ!す、すまぬ!」
「痛たた…大丈夫である…」

力は弱まったが、我輩を放そうとはしてくれないようである…
それどころか…体を押し付け、より深く密着してきているような…

「その…暫くは輝を独り占めさせてもらうぞ?」
「必要な事ですし、桜花様は何時も遠慮していますからね。」
「私達の事は気にせずたっぷり愛し合いなさいな。」
「魔界から取り寄せた精力剤もサービスしとくで、輝はんのつけで。」
「ご主人様にいっぱいミルク飲ませてあげるね!」
「私に出来ることはありませんね…残念です…」
「気持ちだけでも十分嬉しい、ありがとうなのじゃ。」

仲魔同士の絆か…いいものであるな。
無理やりつけられたことに関しては今回は目を瞑るか。



数時間後



「なぁ…本当に雨なんて振るんだか?」
「あの人達を信じるしかねぇべ。」
「だども、どっかの馬の骨とも分からんような奴等が都合よく雨降らすなんて話が良すぎると思わねぇが?」
「前に来た教会っちゅう所に所属してるって奴等も、支援するとか言ってなんにもしてこねぇだ…」
「…今は彼等を信じるしかないじゃろう………んっ?」
「こ…これは?」
「……あ…雨じゃ!雨が降ってきたぞ!!」
「ほ、本当に雨が降ってきただ!?」
「驚いてるひまねぇべ!急いで土耕すだ!」
「おぉ…この年でこのような奇跡を目の当たりにするとは…ありがたやありがたや…」


「降り始めましたね。」
「形は小さくても立派な龍って事ね…」
「ま、一部はうちらよりも大きいけどなー。」
「桜花さんおっぱい大きいもんね!」
「オ・ノーレ……」
「お、落ち着いてください…今飛び込んだら雨を降らせられないじゃないですか…」
「…終わったら輝様に八つ当たりしましょうか。」
「…琴音ちゃんだけは怒らせちゃダメね…」
「…輝はんには後で埋め合わせせんとな…堪忍な輝はん…」


「外が騒がしいの。」
「望んでいた雨が降ったのだから無理もないである。」

冷静に話をしているが、別に事後とかそんなんではないである。
行為自体は今も続けている…だが、今日は何故か非常に頭がさえているのだ。
この香のおかげであろうか?さわやかな香りで我輩好みであるが。

名前は…聞き忘れてたな…

「しばらくは輝を独り占め出来るが…これが終わってしまったらそうもいかんの…」
「桜花はもう少し積極的になってもいいと思うであるぞ?アレクシアや弥生なんて、遠慮という言葉すらしらなそうであるし。」
「しかし…それでは輝が…」

そんな事を心配していたのか…桜花らしいであるな。

「これくらいでどうにかなるほど柔な鍛え方はしてないである、気にしなくでもいいのだぞ?」
「…そうか……輝よ。」
「なんであるか?」

我輩の頭を掴み、そっと唇を重ねてくる。
少し長く口付けを交わした後、我輩の目を見つめ、可愛らしく微笑んだ。

「これからは積極的に行くからの…覚悟するのじゃぞ?」

そう言って、再度唇を奪ってくる。
我輩は、桜花を抱きしめ頭を撫でる事で彼女の言葉に答えた…



〜今日の観察記録〜

仲魔:桜花
見た目は小さいといっても、能力自体は他の龍と変わらない程の力を持っている…と言っても、彼女以外の龍を見たことがないのだが…
外見的には仲間の中では最も幼いが、性格に関しては一番大人びているかも知れんな。
…だがまぁ…偶になら甘えてきてもいいと思うである…桜花は少し遠慮しすぎだと思うであるからな…



「局地的な雨…か…」
「詳細は現在調査中ですね。」
「それよりもレオンハルトさんよぉ…噂じゃあんた魔物に犯されたんだってなぁ?」
「…答える義理はない。」
「無様だなぁレオンハルト…お前みたいな粗製が勇者だなんてよ…」
「私から見れば貴様が粗製だヴァイス。」
「あぁ?やるかセレン?受けて立つぞ?」
「お二人とも落ち着いてください…今はケンカをしている場合ではないでしょう…」
「ちっ…所で、おめぇの姉は何所行ってんだよ?」
「姉者は来るべき時に備えて修行をしている。」
「修行…ですか?私が見たのは料理の本を呼んだり家事をしている姿だったのですが…」
「花嫁修業ってやつか?とうとう俺の所へ嫁に来る気になったか!」
「それはないと思いますが…誰かの名前を嬉しそうに呟いてましたが、ヴァイス様の名前ではなかったです。」
「ほう、カシムてめぇ使い捨ての分際で俺にケンカ売ってんのか?」
「カシムさんはよく働いてますよ、どこかの口だけ達者な案山子とは大違いですもの。」
「あぁ、レオンハルトのことだな?俺もそう思うぜ…後アルマ、恥ずかしがらずに甘えてきてもいいんだぜ?」
「ふふふ、寝言は寝てから言ってくださいね。」
「………カシム、何でお前が勇者にならなかったのかが解せんのだが…」
「私では無理ですよ……っと、そろそろ準備しないと。」
「また任務か…少しは休んだらどうだ?」
「働いてる時が一番楽しいので。」
「…はぁ…お前の将来が心配だ…」
13/07/04 21:36 up
三度の飯よりうどんが好き
白い黒猫
DL