ただの1日

「……おはよう」
「おはよ」
 二日酔いに悩まされながら、目を覚ます。同じくあまり本調子ではなさそうな眼々子も目を覚ました。
 昨日は……うん、すごかった。酒を飲み、寿司を食い、ガキ使と紅白二画面で見て、馬鹿笑いして、好きなアーティストの登場に興奮して。
 それも最早去年の話。近いのだけれども、遠い思い出だ。
「……」
「……起きよっかー」
 眼々子は布団から出た。サイズの大きい部屋着。色気もへったくれもない。
 僕も布団から出る。僕もまぁ同じ格好。
「何食べる?」
「んー……」
 餅は苦手だ。あんまり食べない。それは眼々子も同じ。
 結局風情もくそもなく、昨日の残りの寿司と、コストコで買ったカップケーキをもそもそとリビングでかじった。
「あはは!」
「いやいやいや! ほんとこのセンス!」
 昨日ほどの盛り上がりはないが、この元旦正午(午前は消えてしまっていた)の番組もなんだかんだ面白い。ソファに肩を並べ、下品に笑いあう。
「……」
「……」
 でもすぐにそれも飽きる。おなかもやや過剰にいっぱいになり、次第に僕らはだらけていく。
 気がつけば二人でソファの上で重なり合っていた。眼々子の体の柔らかさ、体温、髪の毛の匂い、綺麗な眼。だけれども、そういう気分ではない。
 それは向こうも同じ。まるで猫みたいに彼女は頭を僕の胸板にこすりつけ、微睡みつつ雑談をする。
「借りてたDVD、いつ返すんだっけ?」
 眼々子は聞いてきた。
「四日」
「ならまだ見ないでいっか……」
 眼々子は欠伸をする。触手の目玉たちも心なしか眠そうだ。
 開いた口に僕は指を入れる。
「はぐっ……ちゅっ、ちゅ」
 彼女はそれを甘噛みししゃぶる。
 普段ならこれを契機におっぱじまったりするのだけれども、今はそういうこともない。
 なんだかこう、眼々子を愛そうだとか、いつも感じてるそういう情熱は、冷めてしまっている。
「……」
「……」
 眠れるわけではない。もう散々寝た。
 本当に特筆すべきことは何一つない。
「マンガ取ってきたいんだけども」
「あーい」
 僕の上から力なくずり落ちていく。僕は彼女の足を触手を踏まないように気をつける。
「むぎゅ〜」
 本棚に向かおうとしたら彼女が腰に抱きついてきた。かまわず引きずる。
「なんか飲む? 僕はカフェオレ飲むけども」
「あたしも一緒のやつ」
 コーヒーメーカーもあるのだが、作るのが簡単な牛乳と混ぜるタイプの物を作る。
 リビングに戻り、また二人でソファに座る。彼女はスマホのゲームを始めた。
「……ボイスうるさい。イヤホンつけてよ」
「あーい。じゃあ取って」
「ほい」
「ありがと」


「初詣、行こうか」
 ちびちびと飲んでいたカフェオレが飲み終わった頃、僕はそう提案した。
「えぇ〜めんどくさい〜」
「気分転換だよ。それにそっちの方が有意義だ」
「元旦に意義なんて求めないでよね〜。まぁ、行くけども」
 コートを着て、僕らは車で近くの神社まで出向く。
 そんなに大きい神社ではないが、それでも人は多い。賽銭箱までかなりの列があった。
「寒い」
「そりゃあねぇ」
 一昨日の寒波到来に比べれば温いものだが、こうやってじっと外で待つのは結構辛いものだ。頬がじんじんと痛んでくる。
「触手のもふもふ、あったかそうだなぁ」
「今、雪で湿っちゃってるから冷たいよ」
 ほんとだ。しかも触手が寒そうにぷるぷると震えている。
「眼々子、暗示かけてよ。寒くない寒くないって」
「そんなことにあたしを使わないでよ……そんなことより、そろそろだよ。五円玉準備しときな」
「……あー、十円しかない。貸してくんない?」
「貸してじゃなくてちょうだいでしょ、あんたの場合」
「……やっぱ十円でいいや」
 僕らは賽銭箱の前に立つ。僕は十円玉、眼々子は五円玉を投げ、一礼二拍手二礼。
「二礼二拍手一礼じゃなかったっけ?」
「あー、ミスったかな」
 まぁ、罰は当たらないだろう。
 占い、お守りの売り場をスルーし、僕らはさっさと車に乗った。
「さっむ!」
「エンジンつけっぱで良かったんじゃね?」
 車内でも息が白い。膝を手でこすり、熱を。
「……ねぇねぇ、なんで十円投げたの?」
「ん?」
「いや、毎年ご縁がありますようにって五円玉投げてたのに」
「……それ言わせる?」
「言って聞かせて」
「……眼々子との縁が重なりますようにって。それで「重縁」。縁って重なるもんなのかもわからないけどね」
「……えへへっ」
 不意打ちだった。
 眼々子が僕に軽くキスした。
 これまで散々してきて今更これといって特別なものでもないのだけれども、なんだか温かいし、思わず涙ぐんでしまうくらいに嬉しかった。
「……今年もよろしく」
「うん、よろしく」
 何か美味しいものでも食べに行こうか。

19/01/02 00:46 鯖の味噌煮


ほぼエッセイです。
でも、モデルはたぶん、うちの猫二匹かなぁと
[エロ魔物娘図鑑・SS投稿所]
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33