連載小説
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第二十三話 再始動
私は子供だった。
どうしようもなく甘ったれていて、ワバママで。
自分でできない事はぜんぶ姉さまや侍女たちがやってくれた。
姉さまはとても優しくて、いつも私を褒めてくれた。
何不自由ない暮らしに私は幸せだった。
それが当然だと思っていた。
私は王女で、私はリリムなんだから。
でも、私はシェルクに出会った。
強くて、気高くて、少し変わってるけど、とってもカッコよくて。
私は、シェルクにあこがれた。
初めて、他人に興味を持った。
初めて、人間に興味を持った。
小さなころから何度か人間を見たことはあった。
でも、そいつらはみんな、私がリリムだってだけで、王女だってだけで、それだけで私を恐れて敬って、畏まった。
私はそんな人間たちが大嫌いだった。
だって、人間たちは、私を見てくれなかったから。
誰一人として、私を、クリステアを見てくれなかったから。
シェルクは違った。
私を恐れるどころか、まるで、一緒に遊ぶように、私を笑い、私を怒り、私に立ち向かってくれた。
私に全てをぶつけてくれた。
私を倒すためにその命すらも削って、全身全霊で私に立ち向かってくれた。
そんな彼女を、私は救いたい。







「バラガスさん!?大丈夫ですか?」
「ん…あぁ。なんとかな。つつ…まだ頭ん中がガンガンするぜ」

バラガスさんやカロリーヌさんの部屋に戻ると、頭を押さえるバラガスさんの身体をカロリーヌさんが抱きかかえていた。

「くそ…。ざまぁねぇな。魔王討伐だなんて言ってたが、その娘の魔力当てられただけで倒れちまうなんて…」
「無理もないですよ。あれほどの暴力的な魔力の奔流。慣れていなければ仕方のない事です」

確かに。姉さまの魔力、すごかった。私も危うく意識を乗っ取られるところだった。
父さまからリスティア姉さまは特別だって、聞いたことはあったけど、あんなにすごいなんて。
ってか…

「まだ母さまを倒そうなんて考えてたの?」

私は呆れてバラガスさんに聞いた。

「ん?」

バラガスさんは「なんだ。いたのか」と言う顔をして。

「ああ。そうだぜ?俺はまだあきらめねぇぜ?」

バラガスさんはまっすぐな瞳でそう返してきた。

「へぇ…」

そのまっすぐな目に、少しドキッとした。
人間って、やっぱり強い。

「まぁ、今はただ交渉しに来ただけだしそんな事しねぇけどな」
「当たり前ですよ〜。せっかくここまで来たんですから変なこと言って契約を台無しになんてしたら…」
「ひぃ…」

カロリーヌさんが普段の柔らかい表情からは想像もできない怖い笑みを浮かべた。

「わ、分かってるよ。怒るなよ…」
「わかってるならいいですよぉ〜」

一瞬凍りついた場の空気がカロリーヌさんの柔らかな笑顔で融かされた。

「か、カロリーヌさん、結構怖いのね…」
「はい。とても強い人ですよ」

私はそばにいたニアくんに耳打ちして、ニアくんは笑いながら答えた。
その時だった。

「っと、そうだ。…姫さんよぉ」

バラガスさんが私を見て行った。
少し気まずそうに、視線だけ逃れるようにしながら。

「さっきは悪かった。俺も頭に血ぃ昇っちまってよ。おめぇの所為じゃねぇのは分かってるんだ。おめぇがシェルクを魔物にしちまったのは確かに許せねぇが、でもあいつが納得してるってのも分かってる。俺が悪いってことも…。その…なんだ?許してくれねぇか?」

バラガスさんらしい言葉。
嘘偽りのないまっすぐな言葉。

「うん。こちらこそごめんなさい。私にもできる限りの事はさせて。私もシェルクの事は大好き。シェルクを欲しいって思って、魔物にしたことは後悔していない。ううん。後悔したくないの。だから、こんな私に出来る事ならなんだってする」
「ふふ。そうか。あんがとよ。しっかしすげぇな。俺らの王様はよぉ。魔物の姫まで味方にしちまうなんて」
「ええ。素敵な人。だから、絶対助けましょ」
「ああ。もちろんだぜ!」

バラガスさんが手を伸ばしてきた。

「え?」
「和解したら握手だ。それとも人間の手なんか触りたくねぇか?」

バラガスさんが少し意地悪に笑って。

「いいえ。よろしくね」

私はその手を力強く握った。

「ふぉっふぉ。共通の目的のために人と魔物が手を取り合う。いい姿じゃな」

入口の方からバフォメットの声がした。

「あら?いたの?」
「なんだ?いやがったのか?」
「あれぇ〜?いつからいたんですかぁ?」
「ぐぬぬ…。サバトの主たる儂が何と冷ややかな扱い…。いいもん、なのじゃ…。サバトに戻れば可愛い魔女たちがいつでも…」

私たちの反応にバフォメットが分かりやすくいじけた。
ヤバい。かわいい。
ぐぬぬ…。
しかしここで優しく声を掛けちゃ奴はつけあがる…。
我慢よ。ここは我慢よクリス!!

「みなさんの様子はどうでした?」
「ん?ああ。大事はなかったのじゃ。しかしお主、あの魔力の中、よく顔色一つ変えずいられるものじゃなぁ」
「そういやそうだな。さっきも慣れがどうとかって言ってたけどよぉ。小僧、お前、いったい何者だよ」
「はは。昔ちょっと。っと、そんな事より、シェルク様を助けるための作戦を」
「ああ。そうだな。しかし困ったよな」

ニアくんの言葉に、私たちは再び現実と向き合うことにした。

「ルキウス陛下…。あんなにかっこいいのに…こんな悪い人だなんて…」
「ん?なんじゃぁ?そんなにいい男じゃったのか?」
「ええ。すっごいのよ!まるで絵本の王子様みたいなの」
「そうかぁ?あんな優男、ぜってぇ性格悪いって」
「でもでモォ〜。ルキウス陛下は顔もいいし、優しくて素敵ってどこの国の女性も言ってますよぉ〜?」
「ん〜。でもそぅねぇ。性格が悪いってのは、今回の事ではっきりしたわよね」
「じゃな。自分は影に隠れて、おいしいところだけ掻っ攫うなど、男のすることではないのじゃ!わしの兄上になりたくば正々堂々まっすぐでなくてはならんのじゃ」
「…って、話がそれてますよ。みなさん」
「あら、ごめんなさい」

と、こんな感じで、私たちは作戦会議を始めたのだった。










クリスたちがシェルク奪還のために作戦会議を始めた頃、フリーギア城の一室で、ルキウスはクレアと談笑をしていた。

「ニア君はどういう手で来るかな?クレア」
「ルキウス様。悪い癖ですよ。これはゲームではないのです」

クレアはそう言ってルキウスのティーカップにお茶を注ぐ。

「はっは。いいじゃないか。じきにこの国も平和になる。これは最後のお遊びだよ」
「いけません。確かにシェルク様はこちらの手にありますが、ガラテアには優れた将がおります。何より、シェルク様の言っておられるニアと言う少年。恐らくは…」
「そうだね。魔物を完全に騙しうる変装術など聴いたことがない。そんな芸当ができるのは恐らく、君と同じ…」
「だとしたら、こちらはどれだけ厳重に警戒したところで、その少年の侵入を防ぐことはできません。さらにはシェルク様の言うとおり、本当にリリムを味方につけているのだとしたら、相手の出方を想像することなど出来ませんよ」
「だからこそ面白いんじゃないか。ねぇ?」

談笑の最中、ルキウスはテーブルの向かいに目を向ける。

「はぁ〜。な〜んだ。ボクが居る事に気づいてたの?いつから?」

薄暗いキャンドルの明かりが揺らぐ中、その人物は子供の様に答えた。

「シェルクが静かになった辺りからだよ」
「クヒ。そっか。やっぱ君って、いや〜な奴だよね。ボクを呼ぶためにわざわざシェルクにこんな重い首輪なんかつけちゃってさ。シェルクの綺麗な肌に傷がついたらどうするのさ?もしそんな事になったら、ボクは許さないよ?こんな城なんて、簡単にぶっ壊しちゃうからね?」

その人物はシェルクの首にかかった魔封具を撫でながらルキウスを笑顔で睨みつける。
途端にその人物から冷気の様に重い魔力が流れ出す。
その光景を見てクレアは慌てて胸元に隠したナイフに手を掛ける、が

「構わないよ。クレア。彼女にその気はない。…安心してくれたまえ。君が思ってるよりずっとシェルクは頑丈だ。この程度の戒めでは傷はつかないよ」
「クヒヒ。そうかなぁ?今回の魔物化でシェルクはずいぶんと心揺れてるよ?この子の理性は揺らいでいる。この子がよく仮面と呼んでいるモノだって今となってはほとんど剥がれ落ちてしまっている」
「そのようだね。私の言葉でシェルクが心を乱すことなんて、なかった」
「このままではこの子がボクの存在に気付くのも時間の問題だよ。拘束具である“仮面”が剥がれ落ちてしまっては、この子はきっと、本当の自分に気づいてしまう。それはボクにとっても、君にとっても、まずい事じゃないかな?んっ…」

その人物は不気味な笑みを浮かべながらシェルクの手を取ってその手の甲に口づける。
その表情は恍惚としている。

「クヒ。シェルクの手、ふかふかだ。魔物になってもシェルクはかわいいなぁ」
「ふふ。君は本当にシェルクの事が好きなんだね」
「クッヒッヒ。当たり前でしょ?だってボクは、シェルクを産み落とした張本人なんだぜ?」

そう言ってその人物は嗤った。
その表情にクレアは背筋に寒さを感じ、ルキウスはいつもと変わらず笑みを浮かべた。
14/04/06 22:17更新 / ひつじ
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■作者メッセージ
お久しぶりです。ひつじどんです。
社会人始まって3年目にも入り、なぜか給料も上げてもらっちゃったりしたせいで、忙しくなっております。
11,12,1月と残業時間が80時間超を連発し、そんなこんなで…まぁ、いいわけなんですけどね。
実際はオンゲーにハマってしまったせいなんですけどね。
PSO2でシェルクちゃんは魔法少女やってます。もう可愛すぎます。
FF14のシェルクちゃんはレベル20で放置されてます。かわいそす。

やっとラストまでの詳細な流れを脳内で構成できまして、PSO2も飽きてきたので動き始めます。
はたして魔王の娘クリスは王に囚われた勇者シェルクを無事に救出することができるのでしょうか!?
そしてほぼ2年ぶりの再会でいきなり出てきた新キャラの正体は!?
頑張れひつじ!モチベーションの続くままに書き続けろ!

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