読切小説
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奉仕之心
「―おはようございます、御主人様」

眩い朝日。芝庭に薄く降りた霜がきらきらと輝く、初冬の季。
私…キキの一日は、主の部屋の前で一礼するところから始まります。

部屋に入ると、既に彼は目を覚ましており、窓の外を眺めていました。
何を見ているのでしょうか。気になりますが、私から声を掛けたりはしません。
景色を愉しむ主の妨げをしてはならない、という自制が第一に。
彼の物憂げな横顔をもっと見ていたい、という下心が第二にあるためです。

大丈夫。慌てなくとも、ほら。
私の優しい御主人様は、すぐにこちらへと向き直り、挨拶を返してくれます。
明日で齢15となる、私の御主人様。可愛くて、優しくて、ちょっぴり怖がりな彼。
そんな自慢の御主人様に向かって、私は会釈をし、彼の傍らへと歩み寄りました。

「何をご覧になっていたのですか?」

そう問い掛けると、彼は少し照れたような笑みを浮かべて、外を指しました。
私はその指が差す先を追って見ました…が、特に目立ったものは見当たりません。
銀化粧に染まった世界が、どこまでも果てしなく広がっているばかりです。

「…風邪っぴきな狐が、森から覗いていましたか?」

当てずっぽうな答え。当然ながら、御主人様は首を横に振ります。
その後、二、三度、思い付く答えを述べましたが、ことごとく外れでした。

彼にはいったい、何が見えているのでしょう。
その姿を懸命に掴もうと、私は目を凝らしましたが、やっぱり見えません。
動物? 植物? 太陽? それとも、もっと別の何かでしょうか。

しばし悩んだ末、私はとうとう観念し、御主人様に答えを求めました。
すると、彼は先と同じく、わずかな恥じらいを見せながら、答えを教えてくれました。

「…なるほど。ええ、確かに。ソラ様のおっしゃいます通りです」

その答えは、聞けば、とてもシンプルなものでした。
『カーテンの隙間から見えた景色が、とてもキレイだったから…』。
そう、彼は『世界』を観ていたのです。動物も、植物も、太陽も、全て。
それら全てを含めて、あまりにも綺麗で見惚れていた…と言うのです。

なるほど、なるほど。そうです、ソラ様はそのような御方でした。
広い視野を持って、『それ』を見ることができる御方。彼の長所のひとつです。

そのような慧眼を持つ御主人様だからでしょうか。
私は時に、その突拍子もない言動に振り回されてしまうことがあります。

『―でも、キキの方がもっと…』

不意討ち。彼は突然、思いもよらない言葉を述べました。
外の景色とは対照的な、赤ら顔で。耳の先までまっかっかです。

対して、私は…いえ、言うまでもないでしょう。
私はさりげなく、自身の表情が窺われないよう、彼の背後へと回りました。
急激に速まる鼓動を、そっと手で押さえ、気持ちを落ちつけようとしながら。

しかし、彼には私の反応を窺う余裕など、カケラも無いようでした。
なんでもない、ごめんね…と、慌てて取り繕う様は、いかにも子供らしく。
己が恥を隠すことに精一杯な姿に、私の母性は今にも雄叫びをあげそうでした。

「…御主人様」

コホンと、一呼吸置いて。私は彼に声を掛けました。
瞬間、ビクリと、おばけでも見たかのように跳ねるその身体。

「先日お伝えしました通り、明日は御主人様の15歳の誕生日…」

私よりも頭一つ分小さい御主人様。
出会った当時は、まだハイハイもままならなかったソラ様。
たっちをされて。挨拶を覚えて。自分で着替えられるようになって…。
思い出される、小さい頃の御主人様の姿は、まるで昨日見たかのように鮮明です。

「そちらを迎えます前に、今宵、湯浴みの後、筆卸しの儀がございます」

御主人様にお仕えした15年間。それは私にとって、真珠の輝きを放つ日々でした。
彼の世話をしてほしいと、身寄りのない私を拾ってくださった父君と母君。
御二人は、この身が魔と知っていながら、ソラ様のお傍付きを許して下さいました。

「どうか、先にお休みになってしまうことのなきよう…」

…御主人様が3歳を迎えた年の春。
御二人はソラ様を残して、屋敷を後にしました。
人間と魔物の戦争を止めるために、と。大きな荷物を背負って。

後に父君の書斎を調べたところ、かの御方は魔物の生態を研究されていたようでした。
また、人間と魔物が共生するための、理想的な都市を描いた考案書等も見つかりました。
御二人は世界に平和をもたらすために、ソラ様を私に預け、出ていかれたのです。

「…朝食の準備が済んでおります。御着替えが済みました後、食堂にお越しください」

父君の日記には、母君の魔物化が著しいこと、それに対する悩みも記されていました。
人間の尊厳を守りたいこと。それでいて、愛する者が魔と化そうと、その存在を受け入れたいこと。
母君も同じ想いを抱いていたようで、部屋にはいくつもの抗魔薬が置いてありました。
自分が魔となることは止められない。しかし、彼の願いだけは叶えてあげたい。
そのために出来ることは、すべてしようと。例えそれが、どれほど途方なことであっても。
そして、それを成し遂げた時、ソラ様を迎えに来ると。そう、私に言い残して…。

「それでは、失礼致します」

一礼の後、私は扉を閉め、御主人様の部屋を後にしました。

…御二人がソラ様を置いていったのは、果たして正しかったのか。
私には分かりません。御二人の旅路が、危険なものであることは間違いないでしょう。
人間からは裏切り者として扱われ、魔物にとっては格好の餌。四面楚歌です。
そのような環境にソラ様を晒すことを、御二人は嫌ったのでしょう。

ソラ様は時折、私に御両親のことをお尋ねになることがあります。
どのような人だったのか。今はどこにいるのか。自分にどんなことをしてくれたのか。
問われた時、私は包み隠さず、御主人様にありのままの真実をお伝えしました。
御二人は誇らしい方々であり、今は旅をしており、ソラ様をすこぶる可愛がっていた、と。
すると御主人様は、嬉しそうな笑顔の中に、わずかな寂しさの色を見せるのでした。

「………」

両親のいない御主人様に対し、私に何ができるのでしょうか。
12年間、ずっと考えてきましたが、未だにその答えは出ていません。
この身ができることなど、御主人様の身辺をお世話するくらいのもの。

いえ、あるいは、先程のように。
それしかできないと、盲目になっているのかもしれません。
もし私にも、ソラ様のような慧眼があれば、別の方法も見えてくるのでしょうか。

「…筆卸し、ですか…」

ひとり呟く言葉は、石造りの廊下に響くこともなく。

母君より承った、ソラ様への特別なお世話も、今宵の筆卸しで最後です。
彼が15になるまでに想い人と出会えなかった場合、伽を務めてほしいと。
聡明でいらっしゃる母君のこと。今の私の胸中を、当時から見抜いていたのでしょう。

当の御主人様も…きっと、私を好いてくださっているのではと思います。
従者として、思い上がりも甚だしい考え。しかし、そう感じてしまうのです。
私を見る御主人様の目には、わずかながら、雄のそれが宿っています。
草木も眠る頃、見回り中の私の耳に、時たま私の名を呼ぶ彼の声が届くこともありました。
その時、ツンと香る性の匂いに、どうしてそれがただの寝言などと思えましょうか。
これもまた、母君の予想の内だとすれば、彼女の予知力には舌を巻くばかりです。

ただ、同時に、年上に対する甘えのような感情もあるように思えます。
もっと言えば、親に対しての…でしょうか。父に頼りたい、母に甘えたいというような。
それも無理からぬことでしょう。彼が親から受けた最後の愛情は、12年も前なのです。
年上の私に、その代わりを求めてしまうのは、子供として至極当然な反応です。

「………」

この儀を終えた後、私達はどうなるのでしょう。
変わらない日々を過ごすのでしょうか。それもまた、ひとつの幸せでしょう。
私を娶ってくださるのでしょうか。そうなれば、私は嬉しさのあまり泣くでしょう。
御両親を追って、屋敷を出て行かれるのでしょうか。御供させて頂ければ幸いなのですが。

いずれにせよ、それらは御主人様の指示を待つものばかりです。
私はどうすればよいのでしょう。両親のいないソラ様に、私ができること。
親代わりとして接する? それとも恋人として? 今まで通り従者として?

ぐるぐると廻る考え。どれが正しく、どれが御主人様のためなのか。

従者である我が身を顧みれば、今の仕事を淡々とこなすのが良いのでしょう。
御主人様の親代わり等になることを願うなど、従者として望ましいものではありません。
ですが、彼が私にそうすることを求めているのであれば、それに応えるのも従者としての…。

ぐるぐる。ぐるぐる。ぐるぐる。

ああ、しかし。悩んでばかりはいられません。私は従者。御主人様の手足。
それが生き甲斐である私にとって、目の前にある仕事を放ってはおけません。
悩みは一時、頭の片隅に追いやって、私は食堂へと進む歩を速めました。

ふと、廊下の窓から外を観ると、そこにあるのは先と同じ、銀色の世界。
眩しいほどに輝かしい光景でした。彼が言ったように、とてもキレイな景色。

『―でも、キキの方がもっと…』

…あぁ、御主人様。
その言葉が、私をこんなにも悩ませる…。

……………

………



日も沈み、短針が天を指さんとする頃。
一日の仕事を終えて、私は今、御主人様の部屋へと向かっています。
外を見ると、寒空には、満点の星がらんらんと輝いていました。

一歩、足を踏み出すごとに、鼓動が強くなっていくのを感じます。
母君から承った時から、ずっと覚悟を決めていたというのに。
指先が震えるのは、寒さのせいではありません。尻尾が包まるのも。
今頃私は、自分が臆病な魔物であったことを実感していました。

そして、ふと気付けば、彼の部屋の前。
私は掌に『人』と三度書き、それを飲み込みました。
いつもなら緊張などするはずのない、入室のための挨拶。
それが何故か、今この瞬間だけは、汗をかくほどに息苦しい。

「…失礼します、御主人様」

噛みそうになる舌をどうにか動かし。
返事が返ってきたのを確認した後、私は部屋へと入りました。

「…?」

戸を閉め、見ると、何故か部屋の中は真っ暗でした。
窓から差し込む月明かりのおかげで、完全な闇ではありませんが。
御主人様は、明かりを灯さないまま、ベッドの中に潜っているようでした。

彼もまた、緊張している…ということでしょうか。
まさか、眠ってしまったということはないでしょう。
入室する際、確かに御主人様の応える声を聞いたのですから。

「御主人様…」

私は恐る恐る、ベッドの膨らみへと近付きました。
もし、もし私に筆卸しをされるのが嫌で、しかし言い出せず、
声を殺して泣いていたら…と、計り知れない不安が脳裏を過ぎります。

「…御主人様?」

しかし、それは幸いにも杞憂でした。
彼は毛布から顔を出すと、不意に、私の手を取って、ベッドの中へと導きました。

「あっ…」

温かな毛布に包まれ、距離を縮める私と彼。
思い掛けぬ展開に、動悸が一層激しくなります。

『ねぇ、キキ…』

暗がりの中、うっすらと見える彼の穏やかな表情。優しい声。
握られた手…触れている場所が、どんどん熱くなっていくのを感じます。

『このまま…』

じんわりと滲む汗。潤む瞳。

このまま? もしかして、このままするのですか?
そんなに…待ちきれないほどに、私を想っていてくれたのですか?

湧き上がる期待。乾く喉。強張る身体。
次の言葉が待ち遠しい。想いが逸る。

『このまま………』

あぁ、ご主人様…。私と…、私と、このままっ…!

『―このまま、一緒に寝よう…』

筆卸しなんていいからさ、と。

…その言葉に、私はしばし、呆然としてしまいました。
彼がどうしてそんなことを言ったのか、分からなかったからです。

やはり、私に筆卸しをされるのが嫌だったのでしょうか。
いえ、それでは、この鼻腔を突く性の香りと矛盾します。
彼の男根は、すでに愛液を滲ませるほどに怒張しているのです。

ならば、何故。
どうして、ソラ様は…。

『キキは…』

私は…?

『キキは…僕の傍にいてくれるだけでいい…』

そう言って、ソラ様は私を、強く…強く抱き締めました。

傍にいてくれるだけでいい。
…あぁ、そうか。御主人様が求めるものは。
親代わりとか、恋人とか、従者とか、そんな括りの中にはなく。

彼が、私に望んでいたのは…。

『どこにも行かないで…キキ…』

そんなシンプルなことだったんだ…。

「………」

私は、小さく震える彼の身体を、そっと抱き締め返しました。
彼は不安だったのでしょう。また、大切な人がいなくなってしまわないかと。
御主人様が求めていたのは、『キキ』という、彼と共に居る存在だったのです。

「…ね、御主人様」

私は今、御主人様に求められています。
私という存在を。彼との生を分かち合う私を。

親代わりである私に、甘えたいという想い。
恋人として振る舞う私と、愛し合いたいという想い。
従者として仕える私を、頼りたいという想い。

「私、今、やっと分かりました。御主人様のために、何ができるか」

ならば私は、その想いに応えましょう。
私の生き甲斐は、御主人様に仕えること。
その期待に、最大限に応えること。

だから…。

「私は、絶対に御主人様から離れません」

今だけは、どうかお許しください。
貴方様の指示もなしに動くことを。

「私の全ては、御主人様のもの」

今だけは、どうか見逃してください。
貴方様の言葉に逆らうことを。

「それを…教えてさしあげます…♥」

私が、貴方様のものとなるために…。

……………

………



「大丈夫…。怖くない、怖くない…」

満月を透かす帳にて、生まれたままの姿で身を絡め合うふたり。
震えるソラ様を落ち着かせながら、私は彼のペニスを優しく擦りました。
私の手の中で、ピクピクと震える御主人様のモノ。雄の象徴。
緊張のためでしょう、始まりの頃と比べ、それはすっかり小さくなっていました。

私は彼の強張りを解くために、ゆったりとした奉仕を続けました。
猫の背を揉むように、ペニス全体を…時には睾丸まで手を伸ばし、揉みほぐします。
裏筋や亀頭など、敏感なところを極力避けながら。ゆったり、ゆったり。
空いた手は、彼の頭や頬、背中を撫でて、安心感を与えることに努めました。

「ふふっ。御主人様、可愛い…♥」

私の奉仕に、気持ち良さそうな吐息を洩らす御主人様。
己が主に…恋人に充足感を与えていることに、身体がぶるりと震えます。

「…んっ♥ ちゅ…、ちゅぅ…っ♥」

煮立つ欲望に押されるがまま、私は彼に唇を重ねました。
触れ合う程度のキス。それだけでも、身が焦げそうになります。
対して彼も、私の名前を呼びながら、何度も口付けを返してくれました。

「ちゅっ…♥ 御主人様…、ちゅぅぅ…っ♥ 御主人様ぁ…♥」

交わすに連れ、徐々に激しく、貪るような行為へと変わっていくキス。
唾液を絡め、吸って、呑み込む、ディープなキスへと。熱い求愛へと。

「はぁ…っ♥」

夢にまで描いたひととき。想い人と愛し合う一夜。
いくつもの喜びと悦びが混じり合い、心に蜜が注がれていきます。

それが呼び水となったのか、顔を覗かせ始める野心。
行為に没頭し、このまま彼を犯してしまおうと叫ぶ本能。
しかし、従者としての理性が、獣の如き想いを諌めます。

「…あ…♥」

ふと気が付くと、彼のペニスは滾りを取り戻していました。
可愛い御主人様の見た目からは想像もできない、逞しい雄の角。
むわりと香る匂いに、一瞬理性が飛びそうになりますが、必死に堪えます。

「御主人様の…すごい…♥ あぁ…っ♥」

しかし、それでも身体は正直なもので。
私は口端や股部から、はしたなく液を漏らしてしまいました。
とろとろ、ぽたぽた。シーツに、彼の身体に、滴が垂れ落ちます。

御主人様は、ついぞ見たことのない従者の痴態を、どのように思っているのでしょう。
魅力的だと興奮しているのでしょうか。節操がないと幻滅しているのでしょうか。
どちらでも構いません。どちらでも、御主人様が私を求めてくださるのであれば。
もし興奮しているのであれば、どうぞお好きなように犯してくださいませ。
もし幻滅しているのであれば、どうか御主人様好みに躾け直してくださいませ。

「ちゅ…♥ 御主人様、出そうですか…?」

止め処なく流れる愛液。響き渡る、卑猥な水音。
しなるペニスは、今にも精を吐き出さんとしています。

「どうぞお出しにまってくださいませ…♥ ん…っ♥ お出しに…♥」

私は彼を抱きかかえ、対面座位のような体勢を取りました。
御主人様の精液が、私の身体に万遍無くかかるようにするためです。
加えて、彼を近くで感じたいがためです。彼の吐息、熱、鼓動…。
もちろん、私の痴情も、全てソラ様に伝わってしまうでしょう。
でも、それが好いんです。興奮するから。お互い、凄く興奮するから。

「この私を、御主人様のものにしてください…♥ どうか…♥」

私の中に流れる狼の血が、そうさせるのでしょうか。
理性はどんどん押し込まれ、今にも本能に潰されそうです。

バックで犯して欲しいと願ってしまいます。それも、荒々しく。
尻尾を扱かれ、お尻の穴を弄られながら、奥に種付けしてほしいと。

ですが、そうなってしまえば、私は従者ではなく、ただの雌犬です。
それでは性欲を満たしても、一方の、主に尽くしたいという想いは満たされません。
あくまで従者を全うする。その想いが、私の理性を際々で引き留めていました。

「出して…♥ かけてっ…♥ 私、御主人様のものになりたい…っ♥」

口から駄々漏れる本心。
自分の言葉に、私自身が恥ずかしくなります。

ですが、それ以上に恥ずかしかったのは、彼の言葉でした。
『キキが欲しい』、『キキに出したい』、『キキを汚したい』…。
これを耳元で囁かれて、素面でいるなど、私には到底無理な話です。
彼の一言々々が脳に響く度、乳首はぷっくり膨れ、愛液は溢れ出て。
そして私は、嬉しさのあまり、情に塗れた笑みを浮かべてしまうのでした。

「ごしゅじんさまぁ…っ♥」

一際甘ったるい猫撫で声が、咽を通った瞬間。

彼のペニスが、びくんっと跳ね上がりました。

「ふぁっ♥ あっ…♥ くぅん…っ♥」

お腹へ強かに注がれる第一射。鉄砲水のように。
続けて、二射、三射と放たれた精液が、胸や太腿へと降り注ぎます。

「はぁっ…♥ すご、い…♥ あっ…、まだ…♥」

ヨーグルトのように濃厚で。ポタージュのように熱く。
私は自身の身体を染めた粘液へと指を伸ばし、その一滴を掬いました。

「クンクン…♥ これが…これがごしゅじんさまの…ぉ♥」

鼻先へと運んだそれは、瞬時に、私の嗅覚を犯し尽くしました。
嗅ぐだけで達してしまいそうなほどの…いえ、達するほどの匂い。
私はソラ様の前であることも忘れ、その場で粗相をしてしまいました。
それほどに濃く芳しい香りだったのです。御主人様の…私の想い人の精は。

「ふぅ…っ♥ ちゅっ、ぢゅるっ♥ ちゅぅぅ…っ♥ んぐっ…♥」

私は夢中になって、指先に着いた滴を舐め取りました。
指がふやけるほどに舐め、味を感じなくなっては、また掬い。

この時の私は、既に半狂乱の状態でした。
右手はおしゃぶり、左手はアソコを弄り回し。
彼の精液を前に、どうしようもないほど欲情してしまったのです。

「はっ♥ ひぅっ♥ いいっ…♥ きもちいいですぅっ♥」

私は精液で塗れた指で、グチュグチュとナカを掻き回しました。
襞に指先を押し当て、精液を塗りつけます。何度も、何度も。
長らく…15年も待った、想い人の精。満たされていく身体。

あぁ……なんて甘美なひととき……。

「……ぁ…」

…ふと気が付くと、目の前には、ひとりペニスを扱く彼の姿がありました。
私と同じ様に。切なそうな声を上げながら。淫らに、いやらしく。

「ご…ごめんなさい…。御主人様、ごめんなさいっ…!」

その光景を見て、私はやっと自分の役目を思い出しました。
謝罪を繰り返しながら、彼に奉仕をするため、自慰を解こうとします。

…が、手が止まりません。
自らを慰める手を、どうしても離すことができません。
そこに彼の精が塗られていると思うと、どうしても…。

「御主人様…っ♥ ぺろ…、ちゅぅ…っ♥ ごめんなひゃい……ちゅぅぅ…っ♥」

私は涙を目尻に溜めながらも、必死に彼に尽くそうとしました。
舌を突き出し、幹を舐め上げて。唇で覆い、亀頭を吸い上げて。

とろとろと口の中に流れてくる愛液。甘い。美味しい。
ほのかに精液も含んだそれは、飢えた私にとって何よりの御馳走でした。

「ちゅ、ぢゅるるっ…♥ はぷ…♥ ちゅっ…、ごくん……ちゅるっ…♥」

咽奥まで呑み込み、口の中いっぱいに彼の味を感じる私。

オチンチン。御主人様のオチンチン。しょっぱくて、おいしい。
これで突いてほしい。いっぱい愛してほしい。犯してほしい。
犯して。早く犯して。犯して、犯して、犯して…っ!

「っ…♥ ごしゅじんさまぁっ♥」

私はペニスから口を離し、ごろんと後ろへ転がりました。
そして、カエルのように大股開きになり、自身の秘部を指で広げました。
彼に全て見えるように。オシッコの穴も、アソコも、オシリの穴も、全部。

「犯して…♥ 犯してくださいっ…♥」

焼け落ちそうな肌。これほど狂っているのに、まだ感じてしまう恥辱。
かっかと火照る顔は、とても人様に見せられるものではありません。

ですが、御主人様は、私の顔へ、胸へ、アソコへも、視線を注ぎました。
当然です。私が見せているのですから。見て下さいと懇願しているのですから。

「早く…っ♥ そうじゃないと…私が……私がごしゅじんさまをっ…♥」

私の言葉に反応し、少しずつにじり寄ってくる御主人様。
瞬間、わずかに感じる恐怖。自身の全てを奪われることへの戦慄。
ですが、圧倒的な期待と情欲の津波が、あっけなくそれを押し流しました。

「ぁ…♥」

あてがわれるオチンチン。
可愛い。もう達してしまいそうなほどに震えている。

「ここっ…♥ ここです…♥」

誘導し、先端が穴に触れます。
雄に気付き、チュゥ…と吸い付くそれは、まるで私の心を表しているかのよう。

「…ん…っ♥」

沈む腰。雄を知らない私の中に、少しずつ彼が押し入ってきます。

「ふ…ぅっ…♥ あぁ……ぁ…っ♥」

ぷつり、ぷつりと破れていく処女膜。
痛い。痛い、けれど…それ以上に、心地良い。
痛みさえも、彼に捧げることができたのが、嬉しい…。

「は…っ♥」

そして…。

「っ…ぁ…〜〜〜〜っ♥♥♥」

彼のモノが最奥に触れた時…。私達は、同時に達しました。

「あぁ…っ♥ ごしゅじ……ふぁっ♥ ひぁ…ぁ〜っ…♥」

どくどくと流れ込んでくる、御主人様の子種。
染まりゆく膣内。毛が逆立つほどに駆け巡る快感。

「いっぱい…♥ おなかに…いっぱい…♥ は…ぁっ…♥」

御主人様は、お尻をキュッと締めながら、腰を突き出して。
私のナカへ一滴も残らず注ぎ込もうと、睾丸を搾りました。

「ふっ…ぅ…♥」

そして、彼は最後の痙攣を終えたところで…どさりと倒れました。
私の胸の上で、荒く、深く息を吐いています。余程疲れたのでしょう。

それについては、私も同じでした。
息も絶え絶え。汗はびっしょり。身体からは蒸気が上がっています。
これ以上動こうとすれば、翌朝、筋肉痛になるのは間違いありません。
それほどに身体は疲労を訴え、今すぐ休憩することを求めていました。

「…ごしゅじんさま…♥」

ですが…。

「くぅ〜ん…♥」

魔物としての本能が、それを許してはくれませんでした。
腰を左右へと捻り、未だナカにある彼のペニスを刺激し始める私の身体。
私の意思では…いえ、私が意識したことではありません。
なのに、まだ満たされぬ心を知ってか、身体が勝手に動いてしまいます。

「ごしゅじんさまぁ…♥ キキ、まだ足りないです…♥」

甘えん坊。どちらが年上か分からない甘えっぷりです。
従者が主に要求するなど、間違ってもあってはならないことです。

「おっぱい吸って…♥ ちゅーして…♥ 耳やシッポもいじめて…♥」

しかし、もう、止まりません。
身体が疼くのです。可愛がってほしいと疼くのです。

誰よりも愛おしい、私の御主人様に…。

「あっ…♥ ふぁ…ぁっ♥」

御主人様は、そんな私の我侭に応えてくださいました。
気力を振り絞り、私を抱き締めて、再び腰を動かし始めたのです。

「きゃうっ♥ ごしゅじんさまっ♥ すきっ♥ あっ♥ すきぃっ♥」

太く硬いペニスが暴れ回る、私のナカ。
カリが襞を擦り、亀頭が子宮を突く度、気絶しそうな快感が走ります。

「はっ♥ もっとっ♥ くぅぅんっ♥ もっとぉっ♥ ごしゅじんさまぁっ♥」

なのに、それでも足りないと、私の欲望が叫びます。
壊れるほどに強く、激しく、熱く。本心はそれを望んでいると。

「んっ…♥ あっ♥ ちくび…ぅんっ♥ それすき…ぃ♥ あぁっ♥」

乱れる私に、御主人様は多くの奉仕をしてくださいました。
キスしたり、乳首を吸ったり、クリトリスを摘まんだり…。
それらはお世辞にも上手なものではありませんでしたが、
彼が私の身体に触れる度に、私は筆舌しがたい幸福感を得ることができました。

「ふにゃあっ♥ やっ♥ らめっ♥ そこ突いちゃダメッ…♥」

…ね、御主人様。

「おなかっ…♥ 撫でちゃ、やぁ…♥ はずかしいですぅ…っ♥」

私、今、とっても幸せです。

「しっぽもぉ…っ♥ だめっ♥ あっ♥ ふぁぁっ♥」

きっと、世界で一番幸せです。

「ひぁ♥ あっ♥ 激し…っ♥ あんっ♥ やっ♥ くぅんっ♥」

御主人様は、幸せですか?

「出そう…なんですね…っ♥ んっ♥ いいですよ…♥」

世界で一番、幸せですか?

「いっぱい出してください…っ♥ 全部、私に…♥」

もしそうでないなら、何でも私におっしゃってください。

「私の全部…あっ♥ きゃうっ♥ あ…あげます、から…っ♥」

私は貴方の従者。御主人様を幸せにするのが務めです。

「はひっ♥ ご…御主人様の全部、を…っ♥ 私に…っ♥ ふぁっ♥」

大丈夫ですよ、御主人様。

「全部…くださいっ♥ やっ♥ あっ♥ きゃうぅんっ♥」

私は、一生。

「ひぅっ…あああぁぁぁ〜〜〜〜〜〜っっっ♥♥♥♥♥♥♥」

貴方様の………。

……………

………



「お待たせしました、御主人様」

春の風香る、麗らかな朝。私と御主人様は、御屋敷の前に立っていました。
背には大きな荷物。30日分は保つ食料と道具を詰め込んでいます。
少々多いかもしれませんが、備えあれば憂いなし。多いに越したことはありません。

「戸締りも万全です。それでは、出発しましょう」

ソラ様は頷くと、一度、自身の生まれた家を仰ぎ見た後、くるりと背を向けました。
御主人様の歩調に合わせ、私も歩き始めます。長年お世話になった家を後にして。

御主人様が15歳の誕生日を迎えて、今日で丁度3ヶ月。
私達は多くを話し合い、その結果、父君と母君を探しに行くことに決めました。
手掛かりはたったひとつ。父君の書斎に残されていた、一枚の設計図のみです。
『ファラリカ』。父君と母君が成そうとされている、人間と魔物の共生都市の名前。

「うふふ…♪ なんだか、新婚旅行みたいですね♥」

笑顔で言う私に、そうだね、と同じく満面の笑みを返してくれる彼。

…この旅は、とても長いものになるでしょう。
恐らく、もう屋敷へと戻ることはないと思われます。
道中には、様々な危険が待ち受けており、私達を足止めするでしょう。
時には、怪我を負ったり、命の危機に瀕することもあるかもしれません。

「…御主人様」

でも、怖いことなんてありません。

私には御主人様がいて。
御主人様には私がいるのです。

これを勇気百倍といわずして、なんと言いましょうか。

「私はいつでも、いつまでも、貴方様のお傍にいます」

いつか父君と母君に出会った時、私は誇らしげに言うでしょう。

ここまでソラ様をお育てしましたと。
ここまでソラ様に育てて頂きましたと。

そしてこれからも、お互いを育み合っていきます…と。

「だから…」

それが。

それが、12年の時を経て得た…。

「ソラも、ずっと私の傍にいてくださいね♥」

私の…答えです。
13/12/19 21:04更新 / コジコジ

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