読切小説
[TOP]
知求恥痴
私の名前はリィ・C・ヨル。朽ち果てぬ知の追求者、『リッチ』の眷属です。
身長148センチ。体重36キロ。血液型はAB型。歳は、先月で2812歳になりました。
好きな異性のタイプは、意志の強い方です。体力自慢な健康体ですと、尚良いです。
とはいえ、さほどこだわりはありません。私を好いてくれる方ならば、どなたでも大歓迎です。

職業ですが、魔王軍の最暗部、『拷問陵辱部隊』の器具開発部長を務めています。
名誉ある役職ではありますが、残念なことに、当開発部は私一人しか所属していません。
上司と部下という関係に、密かに憧れを抱いているだけに、現状が残念でなりません。
私と一緒に働いてくださる方、絶賛募集中です。経験は問いません。気軽に御声掛けください。

あぁ、そうです。募集といえば、つい先ほど、嬉しいニュースがありました。
私がここの所属となったとき、軍内に、『被験者募集』の公募をしたのですが、
ほんの30分ほど前、第三奇襲部隊『ケモナズ』の副隊長コンさんから、応募があったのです。

なんでも先日、東の高原地帯にて、人間の騎士団と遭遇し、激しい戦闘が起こったそうです。
結果は圧勝とのことですが、その際、逃げ遅れた少年兵がいたので、捕まえたのだとか。
その少年がまた、非常に口が堅いそうで。駐屯地を聞き出そうにも、頑なに答えないそうです。
逃げた兵の中に、隊員好みの男が多くいたので、なんとしても口を割らせてほしい…と、
応募用紙に添付された手紙には書かれていました。つまり、代わりに尋問しろ、ということです。
気前の良い話には、何かしら裏があるものです。私の仕事は、あくまで器具開発のみの筈なのですが。

とはいえ、彼の尋問後の処遇については好きにしていいとあったので、ここは良しとしましょう。
2800年近く生きて、男の被験体を手に入れたのは、これが初めてなのですから。
これまでの被験者は、人間の女が7割、軍内の物好きな者が2割と、その全てが雌でした。
残り1割は、城の周りにいた野良犬です。拷問を掛けたら、すぐに魔物になってしまいましたが。

さておき、押し付けられた仕事とはいえ、やっと念願の被験体が手に入りました。
この報告を聞いてから、私もう、待ちきれず、先刻から部屋の中を行ったり来たりしています。
どの器具から試そうか。どんな反応をするのか。想像と期待は膨らむ一方。留まるところを知りません。

「離せよっ! 触るな、気持ち悪い!」

…おや。どうやら、例の彼が運ばれてきたようです。
足音が扉の前で止まったところで、私は一張羅のローブを正し、席に着きました。
胸中こそ、興奮で満ちていますが、我々リッチという種族は、常に冷静でなくてはいけません。
相手の一挙一動を見逃さぬ目、そこから読み取れる心理を分析するのが、私の生きがいです。
ひいては、趣味でもあります。そういった人間観察が好きだからこそ、この仕事に就いているのです。

「なんだよ、ここ。独房か?」

さあ、いよいよです。いよいよ、長年の夢が叶うのです。
この悲願の生贄として選ばれたのは、どのような男性なのでしょう。

姿勢を正し、咳払いをひとつ。
私は鉄の扉に向かい、一言、言葉を掛けました。

「…うわ……」

風邪を引いた魔界鳥のような音を立て、開きゆく分厚い扉。
すると、そこには、部屋の中を見て、呆然と立ち尽くす一人の少年がいました。

「ご、拷問……部屋…?」

………好い。

好い。好いです。なんて素直な、感情を顕わとした表情でしょう。
先ほどまで強がっていたその少年は、一瞬にして、戦慄した猫のような顔になりました。
その表情は、私の背後にある、数々の拷問器具を見て湧き上がった心理…恐怖でしょう。
彼がポーカーフェイスのできる人間ではないということが、容易に読み取れます。
更に、彼は捕虜という立場を、大分甘く見ていたようです。楽観的な性格なのでしょう。
そうでなければ、拷問されることなど、容易に想像できます。それが当然。常識です。

「…は、離せって言ってんだろ。座るよ、ここに座ればいいんだろ」

付き添いの兵の指示に従い、私の対面の席へと腰を下ろす彼。
相変わらず、口調は強気ですが、先程と比べ、覇気がまったく感じられません。
加えて、進んで指示に従う旨の発言をしています。これも恐怖心からでしょう。
これからの行為に、少しでも手心を加えて貰えれば…という、一種の降伏の表れです。
つまり、犬が仰向けになって、お腹を見せるアレと一緒です。これ以上酷いことをしないで、と。

なるほど。つまり彼の本質は、ひどく臆病な人間…ということです。
これが歴戦の戦士ならば、鼻で笑い飛ばすか、沈黙を保ったままでいることでしょう。
そんな強者さえ、ひとつ、ふたつと拷問を続ければ、薄皮が剥がれ、本音が溢れ出るものです。

ですが、彼は情けないことに、最初のステップから、いきなりボロが出てしまいました。
何の覚悟もなかったことが、易々と読み取れます。虚勢中の虚勢。若輩者にありがちな強がりです。

「………」

押し黙るモルモットを、しげしげと観察し、思考を巡らせる私。
それはこの上なく楽しいことであり、三度の食事すら霞みます。
しかし、その凄まじい好奇心と集中力は、私の欠点でもありまして、
三度も私の名を呼ぶ兵の言葉に、まったく気付くことができませんでした。

そして四度目。やっと呼ばれていることに気が付いた私は、
咳払いの後、付き添いの兵から、彼に関する報告書を受け取りました。

「ぁ…」

任務を終えて、一礼と共に部屋を後にする兵。彼にウインクを残して。
そんな彼女を、彼は眉を顰めて見送りました。それは怒りから? いいえ、違います。
彼は、彼女に連れて帰ってほしかったのです。かくも恐ろしい、この拷問部屋から。

恐らく、ここまでの道中、彼女は彼に対し、優しい応対を行ったのでしょう。
その素振りに、彼は少なからず好感を持ち、他の魔物よりは彼女を信頼した。
だからこその、あの表情です。どうして連れていってくれないのか、助けてくれないのか。
裏切られたと思っていることでしょう。それは彼の勝手な思い込みに過ぎないというのに。

「…なんだよ…」

傷心に沈み、俯いて、上目でこちらを窺う彼。声はひどく震えています。
そんな雄の新鮮な反応を愉しみながら、私は報告書を開き、目を通しました。

―ソラ・トォン。13歳(推定)。その他の経歴等は一切不明。

肝心の内容は、白紙も同然な報告書でしたが、それも致し方ありません。
先程も述べましたが、彼はここまで、一切口を割っていないのですから。
唯一分かっているのは、名前のみ。しかし、私にはこれだけあれば充分です。
御見合も同じ。まずはお互いの名前が分からなければ、話になりません。
ですが、他のことは、会話を通じながら知っていけばいいことです。拷問も然り。

報告書を折り畳み、脇に置いて。
私は彼を見据え、その名前を呼びました。

「………」

返事はありません。言うまでもなく、これも虚勢です。
目に見えて分かる虚勢というのは、なんとも可愛らしいものです。
加虐心がくすぐられると言いますか。つい、もっといじめたくなります。

一方で、今すぐにでも慰めてあげたい…という想いもあります。
私は彼に、快楽を与えたいと考えこそすれ、苦痛を与える気は毛頭ありません。
もっとシンプルに言えば、彼を泣かせる気はありません。むしろ笑ってほしいです。
それも、甘い刺激によって、堕ちに堕ちた、蕩けきった笑顔が見たい…。

…とはいえ、情報を聞き出せという依頼がある以上、選択肢は限られてきます。
好きなように実験ができないのは、少々不満ではありますが、致し方ありません。
彼が音を上げるまでの辛抱です。その未来は、そう遠いものではないでしょう。

「………」

押し黙ったままの彼の前で、私は本を広げ、拷問にあたっての要綱を読み上げました。

ひとつ、捕虜を死なせることを禁ず。
ひとつ、捕虜が必要な情報を提供した場合、それ以上の拷問を禁ず。
ひとつ、捕虜が拷問中に気絶した場合、意識が戻るまで拷問を禁ず。

その他、細々とした決まり事を語った後、私は一枚の書類を彼に差し出しました。
捕虜の権利書です。魔力が宿ったその紙は、もし私が好き勝手に拷問をすれば、
たちまち違反事項を書き上げるという、中々に厄介な代物です。所詮は私も一軍人なのです。

「…捕虜にも人権はあるんだな…」

書類を受け取り、意外そうに語る彼の顔には、少し安堵の色が窺えました。
なんて分かりやすいんでしょう。無法ではないと知り、わずかながら安心を得た彼。
そのような甘い気持ちを、無防備にも拷問官の前で晒すなんて、迂闊に他なりません。

ですが、私としては、この結果は良いものだと感じました。
というのも、彼があまりにも怖がっていたので、逆に心配になったのです。
私は別に、彼を恐怖のどん底に落としてやろう…などとは考えていません。
怖がる反応自体は好ましいものですが、過ぎた恐怖は望んでいません。
『被験者も愉しみながら行える拷問』が、私のモットーなのですから。

愉しい拷問、楽しい実験。
ハッピートーチャー、ファニーエクスペリメント。

「………」

それでは、彼の気分も落ち着いたところで、待望の実験に移りましょう。
23時34分。拷問官リィ・C・ヨルが、捕虜ソラ・トォンへの拷問を開始します。

「………ん…」

いよいよ拷問が始まりました。

まず私は彼に対し、両手を開き、掌を下にして、前に出すよう指示しました。
最初の命令に、渋々ながらも応える彼。その顔には、強い恐怖と興味が窺えます。
いわゆる、怖いもの見たさ…という感情でしょうか。意外と余裕があるようです。

「…? 何、これ?」

さて、前に突き出された、10本の小さな指。
そのひとつひとつに、私は胴長の蓋を填めていきました。
ペンのキャップにも見えるそれは、ちょうど彼の指先…第二関節までを覆い隠しています。

ひとつ填めるたびに、彼の表情が徐々に曇っていくのを見た私は、彼に問い掛けました。
今から行う拷問は、どんなものだと思うか。もし正解すれば、片手分は免除する…と添えて。

「…指折り…?」

恐る恐る答える彼に対し、私は首を横に振りました。
なるほど。人間が行う拷問であれば、それが正解でしょう。
この器具の形は、確かに指折り機と酷似しています。

ですが、違います。これは『爪舐り』です。

「ツメネブリ…? 爪剥ぎ、でもなくて?」

また物騒な言葉が、彼の口から飛び出しました。『爪剥ぎ』などと。
指折りもそうですが、なぜそのようなことを私がしなければならないのでしょう。
私が知りたいのは、この『爪舐り』を始めとした、拷問器具によってもたらされる快楽。
その快楽を受けた被験者が、心身に、どのような影響を受け、反応するか。それだけです。

極上の刺激は、身体をどこまで悶えさせるのでしょう。
至極の快感は、意識をどこまで吹き飛ばすのでしょう。

性的悦楽の果てを見る。それが私の…いえ、リッチの生涯の夢なのです。

「…?」

きょとんとする彼を余所目に、私は短な棒を咥えました。
小指大のそれは、ゴム製の煙草のようにも見えますが、これも立派な拷問器具のひとつです。

「あっ…?」

棒を咥えると同時に、小さく声をあげ、肩をすくめる彼。
私はその様子を凝視しながら、棒の先端に、ゆっくりと舌を這わせました。

「ひあっ!? な、なにこれ…!?」

突如、少年は素っ頓狂な声を上げ、全身を強張らせました。
ピンと前に伸ばした腕は、ぶるぶると震え、まるでそこだけ小鹿のよう。

彼の身に、一体何が起きたというのでしょうか。
その秘密は、彼の指に填めた筒と、私が咥えている棒にあります。

「ひゃぅ…ぅ…っ。なにこれ……なにこれ…ぇ…」

実はこのふたつ、魔力によって、刺激がリンクされているのです。
といっても、棒から筒への、一方的な送信ではありますが。
ですが、用途を考えれば、この単純な機構で充分なのです。

つまるところ、私がこの棒を刺激すると、彼の指全てが、同じ刺激を受けるのです。
例えば、こうして棒を吸うと、彼は10本の指を吸われる快感に苛まれます。
同じ要領で、甘噛みすれば、彼は私の歯に指先を噛まれる感触を受け、
息を吹き掛ければ、筒の中で生温かな風を感じるのです。
伝わる刺激も、ただ触感ばかりではありません。口内の熱や、湿度も感じ取れます。

これが『爪舐り』。拷問の最も基本にして、被験者をふるいに掛ける登竜門です。

「うぁ…ぁぁ…♥ あぅっ…♥」

早速、彼の口から甘ったるい声が漏れ始めました。
予想していたよりも早い反応です。M気があるのかもしれません。
あるいは、指先が性感帯なのでしょうか。まだ計り兼ねます。情報が足りません。

ですが、好感触であることには間違いはないようです。
彼は明らかに刺激を感じていますが、しかし、一向に筒を外そうとはしません。
器具は固定されていないので、外す気になれば、強く手を振るうだけで外れます。
なのに、彼はまったく抵抗しようとしません。それは何故か?

そうです。単純に、気持ちいいから外したくないのです、彼は。
彼の名誉を思って言うのならば、戸惑いによって思考が鈍っている面もあるでしょう。
しかし、それでも。少しでも外したいという気持ちがあるのならば、とっくに外れています。
彼はこの『爪舐り』を気に入り、そのままにしているのです。なんて従順な被験体なのでしょう。

「やめて…っ♥ やめ…て……♥」

とはいえ、彼は、そんな自身の気持ちに気付いてはいないと思われます。
被験体はまだ幼く、己の卑しい部分を許容する度量を持っていないからです。
今考えていることといえば、『なんでこんなことをするんだ、早く外してくれ』。
それが関の山でしょう。好ましい…という考えには、永久に辿り着きません。

これは、一種の自己防衛と考えられます。
認めてしまえば、それは自己否定に繋がり、崩壊の危険性が生じます。
そうならないために、恐らく、彼の理性がブレーキを掛けているのでしょう。
自己を否定する自己の黙殺。理性によって、抑え付けられた彼の本能。

愚かな…。快楽を認めてしまえば、これほど楽なことはないのに。
雄のペニスに狂うサキュバス達を見れば、それが良く理解できます。
彼女達は、最初から雄に逆らうことを放棄した、従順な存在です。
ですが、そのために、彼女達は雄から愛され、最も求めるものを得ています。
己が欲を認め、それに対し邪魔となる全てを切り捨てられた者こそ、
永遠の幸せを得ることができるのです。勿論、私もその内のひとり。

「ふぁっ♥ う…ぅぅ…っ♥」

…が、それも良いでしょう。
欲に抵抗する姿も、それはそれで好ましいものです。
恥じらう淫魔に、不思議と処女性を感じてしまうように。
望まれる姿でない振る舞いもまた、胸をくすぐられるものがあります。

「はっ…♥ はぁ…♥ ふ…ぅ…♥」

それにしても、彼はいたく『爪舐り』と相性が良いようです。
やはり、M気質なのでしょうか。もう少し刺激的な器具を用いるべきでしたか。

余談となりますが、『爪舐り』に似た器具として、『亀帽子』というものがあります。
仕組みは同じで、違いといえば、筒が大きくなり、填める場所が男根という二点のみ。
『爪舐り』と併用することができ、実に21箇所もの同時攻めを実現することができます。

また、受信側が丸型シールとなった、『啄み斑』もあります。
こちらも用途は一緒です。刺激を送りたい場所に、シールを貼るだけです。
身体中に隙間なく貼れば、自分は舌を動かすだけで、被験者の全身を責めることができます。

どちらも彼に用いたいところですが、しかし、拷問にもリズムがあります。
考えなしに全ての器具を使う者は、一流の拷問官とは呼べないのです。

「っ…♥ ……あっ…」

…5分ほど弄んだところで、私は口から棒を離しました。
途端、止む喘ぎ声と、彼の顔に浮かぶ、恨めしそうで…名残惜しそうな表情。
その悩ましげな顔は、私と視線が合うと共に、すぐにしかめっ面になりました。
果たして彼は、自らの頬が赤く火照ったままのことに気付いているのでしょうか。

「………」

むっつり顔の彼を微笑ましく思いつつ、その指先から筒を外す私。
彼の心には、もう、この部屋の扉を開けた時に感じた恐怖は存在しないでしょう。
ここで行われている拷問がどういうものなのか、身をもって理解したのですから。

「…ふんっ」

さて、筒を全て回収し、それらを机の引き出しへと戻した後。
私は本を開き、次はどんな拷問を行おうか、一覧を指で追いながら探りました。
この日を夢見て、山ほど作成した拷問器具。あれも、これも、試してみたい。
これらの中で、今の彼に一番合うのはどれなのでしょう。ワクワクが止まりません。

「…な、なんだよ…」

ただし、繰り返しますが、闇雲に選んでよいものではありません。
考慮する点として、ひとまず、彼からは情報を引き出す必要があります。
となれば、刺激の強い器具がベストでしょう。見た目にも、体感的にも。
どうやら彼にはM寄りなところがありますので、性癖的にも適合しています。

ですが、インパクトの強いものは、リズムを考えると、後出しが望ましい…。
そうでないと、それ以降の拷問が、淡白なものに感じられてしまうからです。
前菜の次にはスープを。メインディッシュはその後に。料理と一緒です。

それらを踏まえますと、次の拷問は…。

「…?」

…本を携えたまま、私は席を離れ。
訝しげな表情を浮かべる、彼の前に立ちました。

「ぅ…」

すると、何故か身を引いて、目を泳がせ始める彼。
どうしたのだろうと思いましたが、その疑問はすぐに解けました。

彼は、私が下に何も穿いていないことを、今になって気が付いたのです。
まともに異性の裸を見たことがないのか、真っ赤になって顔を逸らす少年。
ですが、時折こちらを見る彼の横目は、明らかに私の秘部を見つめていました。

「………」

…なるほど、なるほど。これで確信が持てました。
この少年は、自身を、誇り高き教団の戦士であると思っているようですが、
しかし、それは大きな間違いです。彼は、彼自身の本質に気付いていません。

はっきりと述べましょう。むっつりスケベです。
この少年は、むっつりスケベ。自分は誠実と勘違いしている、性欲の塊です。
先程の拷問に対する反応も、私の恥部をチラチラと見るその目も。
そして何より、手で隠しきれないほどエレクチオンしたそれが、何よりの証拠です。

「あっ…」

私は彼に歩み寄り、互いの吐息が届く距離まで、顔を近付けました。
すると、より顕著になる彼の反応。秘部と、胸と、顔を、順繰りに見つめてきます。

そんな、無知な子供のいじらしい素振りを愉しみながら。
私は彼の座る椅子の背に触れ、そこに描かれた刻印を、指でなぞりました。

「わっ!?」

突如上がる、彼の叫び声と、金属が重ね合わさる音。

そう驚くことではありません。彼の身体が、椅子に固定されただけの話です。
鋼鉄の手錠と足枷、腰輪。非力な彼では、万に一つも外すことはできないでしょう。
次の拷問は、椅子から離れられては困るのです。しばしの間、彼には我慢して頂きます。

「は、離せっ! 何する気だよ!?」

暴れる彼を横目に、私はもうひとつの呪紋も起動させました。

何をする気か?
決まっています。拷問です。

「このっ……ひぎぃっ!? うぁ…あああぁぁっっ♥♥♥」

発動する呪紋。同時に、部屋中に響き渡るほどの嬌声を上げる彼。
ビクリと大きく跳ねた身体は、その後、断続的に震え始めました。
それは心臓の鼓動と同じ。一定のリズムで鼓動する、身体と心。

「ひっ…、ひぐっ♥ うあっ♥ とめ…止めて…っ♥ きゃひっ♥」

一変する彼の表情。ダラダラと涎を垂らす姿は、まるでパブロフの犬のよう。

どうやら彼も、この『快感電気椅子』を気に入ってくれたようです。
別名『ホットスィート』とも呼ばれている、こちらの拷問器具。
椅子に座っている者に、強烈な電流を送り込む、とても刺激的な拷問です。

「おねがっ…♥ はひっ♥ も…っ♥ ひぃっ♥ あぁっ♥」

ただ、電流といいましても、闇雲に電気を流しているのではありません。
被験体の性感帯のみを刺激する、特殊な魔術的加工を施してあります。
言うならば、彼は今、弱い部分をくまなく愛撫されている状態なのです。
それは体表だけでなく、内臓にまで…脳にまで届き、快楽物質の放出を促しています。

「もれちゃ…♥ ぁ…あぁっ♥ もれちゃ…ぅぅ〜…っ♥」

加えて、この電流は一部の伝達信号を遮断し、筋肉を弛緩させる働きもあります。
すると、被験体は身体に力を入れることができなくなり、あらゆるものが漏れ出します。
唾液、尿、そして本音まで。自らの恥辱に、彼の心はますます深淵へと堕ちゆくことでしょう。

「だめっ♥ みな…ひぁうっ♥ みないでぇ…っ♥ うぐぅっ♥」

…ただし、この器具にはひとつ、大きな欠点があります。
それは、肝心の私が手持ち無沙汰になるという点です。

『快楽電気椅子』は優秀な拷問器具ですが、この欠点は何とも否めません。
お互いに愉しむという点で見れば、先程の『爪舐り』の方が圧倒的に優れています。
拷問とは、振るい打つ鞭の感触をその手に感じてこそ、拷問と呼べるのです。
それが醍醐味というもの。その点では、本作は失敗作と言っても過言ではありません。

「あっ♥ うぁ…っ♥ …ぇ…?」

ですので、私はこの『快楽電気椅子』の拷問時には、もうひとつの拷問を組み合わせています。
『快楽電気椅子』とは逆に、一切器具を用いず、お互いを感じ合える拷問を。

「ぁ…」

私は宙に浮かぶと、悶え打つ彼の頭上で、大股を広げました。
そして、秘部をも自らの指で広げ、彼にまざまざと見せつけました。

すると、魂が抜けたかのように、電流の痺れも忘れて見惚けるモルモット。
少年の反応に、私はこぼれる笑みを抑えられないまま、その場で自慰を始めました。
彼に見えるように、聞こえるように。いやらしく、艶かしく、じっくりと。

「ぅゎ…あっ…♥ あぁ…♥」

歓喜にも似た表情を浮かべる彼の顔に、ぽたり、ぽたりと、垂れ落ちていく私の滴。
糸引く蜜は、お互いの興奮を高め、空間を桃色へと染め上げていきます。

「は…っ♥ ぁ…♥」

『打たせ蜜』。五感に訴えかける、精神的責苦の強い拷問です。
痴態を見つめる視覚、フェロモン香る嗅覚、水音響く聴覚、
蜜を飲み込む味覚、滴流れる触覚…。全ての感覚を犯す『打たせ蜜』。
触れてほしい、慰めてほしいと、目の前で懇願する異性の生殖器を前に、
はたして、どれほどの被験体が正気を保っていられることでしょう。

「あ…、あぅ…っ♥」

予想易く、彼もまた例外ではありません。
少年はもじもじと腰を動かして、女々しいセックスアピールを示し始めました。

その様子を見、私は自身の中にふつふつと湧き上がる熱を感じながら。
彼の頭を掴み、お尻を近付けて…秘部を彼の顔へと押し付けました。

「んぶっ!? はっ…ちゅっ♥ ちゅ、ぢゅるっ…♥」

途端、飢えた犬のように、蜜を貪り始める被験体。

その瞬間、私の中で、何かが弾けました。
荒い舌遣いに、一瞬途切れかける思考。初めて感じる、異性の愛撫。
襲い来る快感の波の中に、私は新境地を垣間見たような気がしました。

「れろ…♥ ちゅぅぅぅ…っ、ぢゅっ♥ あむ、ん…っ♥」

…すごい。私の核は、経箱の中にあるというのに。
空洞の肉体に響き渡る快感は、次元を越え、魂にまで届いているかのよう。
もし、魂がこの器の中にある状態であったならば、私はどうなっていたか。
約3000年もの渇きを抱えた心は、いとも容易く崩壊していたことでしょう。

「んぐっ…、ちゅ♥ ごくん…♥ はふ…、ちゅぅぅっ…♥」

必死に舌を這わせ、喉を鳴らす彼。卑しく、下品で、みっともない。
ですが、私はそんな彼の頭を、聖母のように優しく撫でました。
これが愛おしさという感情でしょうか。不思議に温かな気持ちが溢れてきます。
そして、もっと尽くしたい…もっと愛したいという気持ちも。強く。より強く…。

「…ぁ…」

しばらくして、私は蜜のアーチを残し、彼から身体を離しました。
そして、被験者の身体に流れていた電気を止め、手足の枷を外しました。

止まぬ快感から解放され、ぐったりと身を沈める彼。
ですが、彼のモノは、依然として逞しく反り立ったままです。

「っ…ぅ……」

余熱に震える彼に触れ、私は術式を唱えました。
物質が存在する軸をずらす魔法。簡潔に言えば、楽に服を脱がせる魔法です。

私と同じ、生まれたままの姿になった少年。しかし、その身を隠す余裕はないようです。
表情からは、わずかに恥じらいの色が窺えますが、それもじき消えるでしょう。
彼の思考は今や、次なる快感を求める欲で満ち溢れているからです。

「あ……あ、ぁ…」

焼け爛れた脳で、彼は何を思うのでしょう。
この少年が今、肉欲を求めて動いているのは間違いありません。
しかし、欲が生じるには、何かしらのきっかけが必要です。

彼は何故、あんなに必死になって、女性器をしゃぶったのでしょう。
伸ばすその手が願うものは、果たして快感だけでしょうか。
もしそうならば、彼を『潮の処女』の中へと押し込め、
全身を淫魔達の毒針で貫くだけで、事足りるでしょう。

ですが、果たして。本当にそうでしょうか?

「あ…」

彼は、快感とは別に、何かを求めているように思えます。
温もりでしょうか。優しさでしょうか。近いようで、違うような…。

分かりません。分かりませんが、私にとって、ひどく好ましいもののような気がします。
それはもしかすれば、快感の行き着く果てなのでしょうか。私達の夢の果て。
だとすれば、探らないわけにはいきません。それが私の生きがいなのですから。

例えその行いが、人知超え、神に仇為す所業であろうとも。

「ぁ…」

…となれば、その前に。彼の所有権を、私に移しておいた方が賢明でしょう。
果てを見た時、何が起こるかは私にも分からないのですから。用心に越したことはありません。

「………」

一呼吸置き、私は彼の頬に手を添え、顔を近付けました。
そして、問い掛けました。この少年を、私のものにするために。

「…っ……」

さあ、『フェラチオの雄牛』が貴方を待っている。
『股擦りノコギリ』が、『尻抱』が、『魔女の疼き』が。

全ては貴方の為に作ったもの。この拷問器具達は、私の全て。
その全てを、貴方に捧げましょう。答えを得るため、捧げましょう。
己が欲を認め、それに対し邪魔となる全てを切り捨てられた者こそ、
永遠の幸せを得ることができるのです。私も。そして、貴方も。

「………」

さあ…。

「………」

………。

「………」

………。

「………」

………。

「………ち、は……」

………。

「駐屯地は…X121、Y87…。レスカティエから北北西へ、20キロのところに…」

………。

違う。

「え…」

違う。私が聞きたい答えは、それじゃない。
そんなことはどうでもいい。仕事なんて、もう、どうでもいい。

貴方は私だけのもの。もう誰にも渡さない。
上層部が何て言おうとも、職を奪われようとも構わない。

でも、ひとつだけ。ひとつだけ、私には決められないことがある。

「決められないこと…?」

貴方の気持ち。それだけは、貴方にしか決められない。

答えは予想できている。分かっている。
でも、それは言葉にして、初めて意味を為す。
伝えてほしい。結果が欲しい。予想だけでは満足できない。
予想は真実じゃないから。だから、貴方の口から答えが欲しい。

「………」

私のことを、どう思っているのか…。

「………」

………。

「………」

………。

「………」

………。

「……わから、ない…」

っ…。

「会ったばかりだし、拷問もされたし…。気持ちよかったけれど…」

………。

ははっ…。

当然、でしょう。当然です。それが普通。
私は何を考えていたのでしょう。予想できている、などと。
おこがましい。知の追求者が、己の知に酔うなんて、浅はかな…。

彼の言う通り、私達は、出会ってまだ1時間も経っていません。
そのような短い時間の中で、いったい何が芽生えるというのでしょう。
捕虜と拷問官の関係。碌に会話も交わさず、好きに責めていただけ。
私自身、彼を先程まで、モルモットと考えていたではありませんか。

そんな彼の心が、女性器を舐めただけで変わるとでも?
まるで、盛りのついた雌犬のような思考です。肉欲と愛が同義?
所詮は机上の論者。雄のことなど何も知らぬ、知恵年増。
いえ、知恵もないので、単なる年増でしょう。悪趣味な年増。

ああ、願わくば。
今一度、土の中へと還りたい…。

「………でも」

こんな行き遅れの死体など、二度と…。

「キミと、エッチなこと…してみたい…」

………。

え?

「…ダメ?」

………。

「………」

………。

…ダメなんかじゃ………ない…。

「ぁ…」

ダメなんかじゃない。私もしたい。
させてほしい。教えてほしい。貴方という知識を。

「あ、ぁ…っ。入って……んむっ!?」

貴方を知りたい。雄を知りたい。雌としての悦びを知りたい。
愛を知りたい。恋を知りたい。ドキドキする想いを知りたい。

「ちゅ…ぅ…♥ ぷはっ♥ はぁっ…♥」

教えて。何も知らない私に教えて。

貴方の全てを。貴方の………。

「うぁっ♥ あっ♥ す、すごっ…ぃ…♥ 熱ッ…♥」

…気が付くと、私は彼と繋がっていました。
普段の自分からは想像もできぬほど、一心不乱に腰を振るう私。
結合部からは、とめどなく愛液が流れ落ち、床に水溜りを作っています。
『潮の処女』さえも霞むほどの、愛液の洪水。まるで、嬉し涙のように。

「あっ…♥ あぅっ♥ はっ♥ とろけそう…っ♥ くぅっ♥」

それにしても、ローブを振り乱し、彼への愛を叫ぶ私は、まるで狂人。
常に冷静さを求められるリッチとして、あるまじき姿です。

ですが、不思議と私は、そんな自分に嫌悪を感じませんでした。
彼の耳をいとおしげに食む私が、とても羨ましく思えました。
彼に胸を吸われて鳴く私が、とても妬ましく思えました。

この感情は何でしょう。私が、私自身に抱く、羨みと妬み。
魂と身体が、別にあるせいでしょうか。魂が彼に愛されていないから。
快感こそ強く響いてきますが、私は依然として、経箱の中に在ります。
彼の腕の中にない。その不満が、私をふたつに分けているのでしょうか。

「くっ…♥ ぁ…♥ 奥…、当たってるっ♥ すごいっ…♥」

…でも、怖いです。ひとつになって、彼に抱かれるのは、怖い。
きっと、私が私ではなくなってしまいます。快感に呑まれてしまいます。

身体だけでも、こんなに彼の温もりを感じているのに。
魂がなくても、こんなに涙が溢れてくるほど幸せなのに。

果たして、それでも私は、知の追求者でいられるのでしょうか?

「っ…♥ で、る…っ♥ ひぁっ♥ あっ♥ もうでちゃうっ♥ ふぁぁっ♥」

………いえ。

己が欲を認め、それに対し邪魔となる全てを切り捨てられた者こそ。

「で…っ………あああぁぁ〜〜〜〜〜っっっ♥♥♥♥♥♥♥♥」

永遠の幸せを…得ることができるのです。

「ひっ…ぁ……♥ うぁ…っ♥ ぁ…♥」

…熱い…。これが精子でしょうか。
彼の子種。愛の証。お腹の中に満ちていくのが分かります。

「くぅっ…♥ うねって…っ……しぼりとられるっ…ぅ…♥」

彼も心底嬉しそうですが、私の方はもっとでしょう。
ひどい顔です。涙、鼻汁、唾液でぐしゃぐしゃ。まっかっか。

よくぞ彼は、こんな女を抱いてくれたものです。
射精する時も、一切の迷いなく、膣内に出してくれました。
それがまた、彼女には嬉しくてたまらなかったのでしょう。
先程から、何度もお腹を撫でています。そこにあるものを確認するかのように。

「はぁ〜っ…♥ …え? あ、ひゃうぅっ♥ つ、つづけてっ…!?」

当然です。そうなることは、容易く想像がつきました。
回数を重ねるに連れ、彼女も余裕が生まれてくることでしょう。
そうなれば、拷問器具を用いたセックスが行われるのは時間の問題です。
徐々に形勢は変わり、貴方は彼女の下で鳴くことになるでしょう。確実に。

「ひぁぁっ♥ やっ♥ ま、まってっ…♥ うぁっ♥ あぁぁっ♥」

待てるはずがありません。彼女も魔物なのです。
運命の相手を見つけて、我慢などできるはずがありません。
貴方はきっと、何が何かもよく分からぬまま、彼女と共に暮らすことになるでしょう。
とはいえ、心配することはありません。彼女は決して、貴方を不自由にはさせません。

「はっ♥ くっ♥ ちゅっ…♥ ん♥ はぁっ…♥」

…ですが、ソラ。
これだけは知っておいてください。

彼女は自分を賢人と思っていますが、実は馬鹿です。
セックスがとても大好きで、玩具を使うと、特に悦びます。
自分に正直になれず、悶々としている時もあるでしょう。
知識をひけらかすのが趣味で、聞いてあげないと拗ねます。
本も広げずに席に座っているのは、構ってほしいサインです。
料理は壊滅的ですので、教えてあげてください。裁縫もです。
貴方が下手に出ると、すぐにつけ上がるので注意してください。

それから…。

「あっ…♥ ま、また…っ♥」

それから…リィ・C・ヨルは、貴方を心から愛しています。

「ふああぁぁっ♥♥♥」

どうか、彼女を悲しませることだけは、しないであげてください。

「あぁっ♥ あっ♥ だ、だしてるのに…ぃ…♥ ひぅっ♥」

ソラ。貴方が経箱を見つけ、その蓋を開けるときを、私は待っています。
今もまだ、恐れはありますが、それまでには覚悟を決めておけるよう努力します。

「ふぁっ…♥ ぁっ…♥ …ね、ねぇ…っ♥」

その時は、もう一度。
今日のように、激しく愛し合いましょう。

「ひとつ…っ♥ くぅっ♥ あっ♥ おし、えて…♥」

…ちなみに、私の予想では。

「キミの…名前を…♥」

その未来、そう遠いものでは………。
13/07/07 23:22更新 / コジコジ

TOP | 感想 | RSS | メール登録

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33