連載小説
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(41)ラージマウス
「アニー姉ちゃん、おなかすいたよ・・・」
一つのベッドの中、十二人の妹たちと一緒に横になりながら、アニーは妹がそう囁くのを聞いた。
「晩ご飯なら、さっき食べたでしょ?」
パンにチーズの粉を振ったものを一切れずつ。小柄なラージマウスとしても、少し足りない量だったが、明日の朝までしのげばどうにかなる。
しかし、闇の中で妹は首を左右に動かした。
「違うの・・・パパとママの声聞いてると、おなかがきゅんってなるの・・・」
耳を澄まさずとも、隣の部屋からは二人分の声が響いていた。
アニーを長子とする、十三人のラージマウスの両親が肌を重ねているのだ。
母親の荒い吐息混じりのあえぎ声に、時折挟まる父親のうめき声。おそらく、父親が仰向けになった母親に覆い被さって、腰を揺すっているのだろう。
「そうか・・・あんたもそんな歳になったんだね・・・」
腕を伸ばし、妹の頭をなでながら、アニーはしみじみとつぶやいた。
聞くところによると、他のラージマウスの一家は、父親と娘たちが肌を重ねることで、肉体の成熟に必要な精の供給を行うらしい。
しかしアニーの両親は、少々他の一家より愛情が深すぎた。長子のアニーが物心着いた頃から、二人が離れているところをほとんど見たことがないのだ。
昼も夜も繋がりっぱなしで、多少会話できる程度に落ち着いているか、話もできないほどに興奮しているかのどちらかだった。
おかげでアニーを一とする娘達は、父親の性器の形もよく知らずに育ってきた。そして、幼少期の精不足のおかげで、アニー達はほかのラージマウスと比べても小柄な体をしていた。
「どうにかしないと・・・」
アニーは闇の中でつぶやくが、なにも思い浮かばない。
今からとなりの部屋に入って、両親の交わりに混ぜてもらうこともできるが、せいぜい母親の乳を吸わせてもらうぐらいだろう。
父親の肉棒と精は母親の物。それがこの家のルールだ。
カーテンに覆われた窓に目を向ける。布とガラスと夜気を隔てて、街には何千という肉棒がある。こんなに肉棒があるというのに、十三人のラージマウスは精に飢えている。
なんと理不尽なことか。
「・・・そうだ・・・」
この世の理不尽に、静かに諦めを覚えていた彼女の脳裏に、ふとある考えが浮かんだ。
アニーは、ほかの妹たちを起こさぬようそっとベッドを抜けると、寝間着から着替えた。
手持ちの服の中でもより黒く、動きやすそうな物にだ。
「お姉ちゃん?」
「大丈夫。ちょっと出かけてくるだけだから・・・」
ベッドの中からささやき声で尋ねた妹に、アニーは小声で返した。
「大人しく、ベッドの中でじっとしていられるかしら?」
「・・・・・・うん」
「いい子ね」
妹の髪をなで、丸い耳の間に唇を触れさせる。
「妹たちが起きても、アニーお姉ちゃんはおトイレだって言ってね」
「分かった」
「じゃ、行ってきます」
アニーはベッドを離れ、そっと玄関から外にでた。冷えきった夜気が彼女の体にまとわりつき、両親の嬌声が小さくなる。
一方で、アニーの胸中では徐々に不安感と緊張が膨れ上がっていた。
無理もない。これから彼女は、盗みに入るのだ。
盗みと言っても、食べ物ではない。人間の精だ。
この町の人間は、魔物と結ばれている者が多いが、人間の男女で夫婦をやっている家もある。魔物の家に忍び込めば、即座に気づかれかねないが、人間相手ならよほどのことがない限り気づかれないはずだ。
アニーは立ち並ぶ住宅の一軒に近づくと、雨水用のパイプに飛びつき、するすると上っていった。
人間ならば確実に折れ、並のラージマウスでもヒビぐらい入るかもしれないほど老朽化したパイプだったが、アニーの小柄な体は音を立てることなく、屋根の縁にたどり着いた。
彼女は屋根に飛び乗ると、ふんふんと鼻を鳴らしながら屋根の縁を進んだ。
人間の臭いがする。男と女のだ。
昼間の間に目星をつけていたとおり、この家には人間の夫婦が住んでいる。
彼女は屋根を覆う瓦を検分し、ついに緩んでいた一枚を見つけた。取り落とさぬよう、彼女はそっと瓦をはずし、屋根裏へと続く穴に身を滑り込ませた。埃の積もった天井板の裏側が、彼女を迎える。天井板には節穴や継ぎ目の透き間が空いており、未だ明かりの点る部屋からの光が、屋根裏に模様を描いていた。
アニーは梁の上に飛び乗ると、埃の臭いに混じる人間の臭いを頼りに、天井裏を進んだ。
そして、光を投げかける節穴の一つに近づくと、彼女はそれをのぞき込んだ。
天井板を挟んだ向こう側に、ベッドがあった。ベッドの上には男と女が並んで横になっており、鼾をかいている。
「よし・・・」
アニーは小さくつぶやいて緊張をほぐすと、天井板を調べ始めた。
こういう建物の場合、一見すると天井裏に上がる方法はないように見えるが、実は天井板の一部はのっかっているだけにすぎない場合がある。
大工が天井裏で作業するための、出入りの穴の名残だ。
程なくしてアニーは大工が出入りしていたと思われる穴を見つけた。ちょうど壁の近くだ。
天井板を持ち上げ、少しだけずらして隙間を作り、部屋に飛び込む。
そして壁を伝って、彼女は床に降り立った。
ベッドと衣装箱ぐらいしかない、夫婦の寝室だ。
アニーはベッドに歩み寄ると、垂れ下がる毛布に飛びつき、ベッドの上によじ登った。
立てば見上げるほど巨大な人間が二人、ゆっくりと寝息で胸を上下させている。
「・・・!」
彼女は小さく覚悟を決めると、毛布をめくってベッドとの隙間に入り込み、男の両足の間を目指した。
毛布の生地をかき分け、寝間着に包まれた両足に触れぬよう気を使い、どうにか男の股間にたどり着く。
アニーは毛布の下に空間を作ると、男の寝間着のズボンに手をかけ、下着ごとずらした。
穏やかな眠りの中、弛緩した肉棒が毛布の下に露出する。
アニーはやや大きく見えるそれにつばを飲み込むと、手を伸ばして擦り始めた。
ラージマウスの愛撫に、男の肉棒に徐々に地が集まり、ゆっくりと膨れていく。
そして、男のそれが完全に勃起すると、長さも太さもアニーの腕を上回るほどになった。
小さく脈打つそれに圧倒されながらも、アニーは脳裏に妹たちの姿を描き、緊張と恐怖をねじ伏せた。
そして、屹立に両腕を回して抱きつくと、彼女は先端に唇を触れさせた。
赤黒く膨れる亀頭の先端、縦に切れ込みの入った尿道とキスをし、軽く縁を舌でなぞる。
同時に男根に抱きつかせた体を小さく上下させ、彼女は肉棒を愛撫した。
男など相手したこともないため、時折目にしてしまった両親の交わりを見よう見まねで真似していた。
亀頭と竿の境目を薄い胸に押し当て、その下の裏筋の膨らみを鳩尾から下腹までを使って擦る。
同時に、鈴口とキスを交わしていた唇をいどうさせ、亀頭全体にキスの雨を降り注がせる。
ぎこちない動きではあったが、彼女の腕の中で肉棒は徐々に熱を帯び、脈動を大きな物にしていった。そして、彼女が小鳥のついばむようなキスを亀頭に一つする度に、肉棒は小さくふるえていた。
徐々に腕の中で変化していく肉棒の感触に、アニーはだんだん頭がぼんやりとしてきた。
自分がなにをやっているのかがおぼろになり、自分の手足が勝手に肉棒を愛撫している気分になる。
自然と彼女の片足があがり、肉棒の根本に絡み着いた。ラージマウスの細い体に屹立が押しつけられ、男の反応が強まる。
彼の寝息が徐々に荒い物になり、寝顔も何かに堪えるような険が宿り始める。
そして、男の肉棒が彼女の腕の中で大きく跳ねた瞬間、アニーは開閉を繰り返す鈴口に唇を寄せた。
大きく口を開き、縦の切れ込みが完全に口の中に収まるように覆う。
すると、彼女の口の中めがけて暑い粘液が飛び込んできた。
「んっ!?」
のどに絡みつく粘液に、アニーは声を漏らし体を硬直させた。
すると快感が途切れたためか、男の肉棒は数度の射精で脈動を止めてしまった。
「・・・んっんっ・・・」
アニーは口を閉ざすと、早くも堅さを失った肉棒から手足を離した。そして、精液を漏らさぬよう口を閉じたまませき込みつつ、男の寝間着と下着を元に戻した。
できることなら口中の精液を飲み干して、妹たちへのおみやげをもらいたかった。だが、この精液は本来男の傍らで眠る女の物だ。
そのまま、毛布とベッドの隙間を進み、床の上に飛び降りる。
そして、天井に穴のあいた一角へ歩み寄ろうとしたが、彼女の足が止まった。
「・・・・・・」
頬を膨らませたまま、彼女はしばし黙考し、壁沿いにおかれていた小さな机に向かった。
彼女は机の上に飛び乗ると、ペンを手に取り、その辺にあった紙切れの余白にさらさらと何かを書き込んだ。
これでいい。
自分の記した文章を確認してうなづくと、アニーはペンを置いて、家具から家具へとよじ登りながら天井を目指した。
そして、天井板の穴に消えると、天井板がすっぽりと穴にはまった。
後には寝息をたてる夫婦と、彼女のメモだけが残された。
メモにはこう記されていた。
『尿の残滓に脂味を感じた。肉と脂を控えるべし   アナルート』


その後、この街に一枚のメモを残して精液を奪っていく魔物が現れるらしいが、それはまた別の話である。
12/09/22 15:54更新 / 十二屋月蝕
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■作者メッセージ
最初のうちは妹のためだと自分にいい聞かせながらも、徐々に精液窃盗の快感にはまって、「性器じゃないからOK」という理由でアナル睡眠逆レを行うアナルートさんのお話です。
彼女の名前の由来は、アナルを用いるその手法と、天井や壁の穴をルートに含める進入経路から来ています。
あの、チーズを盗み食いして品評するネズミとはそこまで関係ないかも知れません。
ちなみに、あのネズミをベースにしていた場合は、おちんぽミルク工場に進入して、拘束されている男性を一人ずつチェックする話になる予定でした。
でもチーズ食べて「腐り気味。熟成はやめて速やかに射精させるべし」とか若干いやですよね。私は大好きですけど。

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