読切小説
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鏡映欠片
人形は、持ち主を映す鏡だという話があるけれど。
具体的に、何を映し出すのだろう。理想、欲望、それとも…。

「ごきげんよう、マスター」

透き通った声が、微睡みに沈む僕の頭に響く。
寝起きの倦怠感に苛まれながら、ゆっくりと目を開くと、
そこには、ドレスの裾をつまみ、可愛らしくお辞儀をする女の子の姿があった。

「今日は鯨の月の13日。天気は晴れ。誰もが心躍らせる、華の日曜日ですわ」

流暢に言葉を並べ、顔を上げる少女。
くすりと微笑むその表情には、どこか悪戯気な雰囲気が漂う。

それを見て、僕はいつも思う。夢ではないと。
昨日も、今日も、恐らく明日も。彼女は笑い、お辞儀をするだろう。
動くはずのない彼女。元は、人形と呼ばれていたはずの彼女。
歯車も、ネジ巻きも付いていないのに。もちろん、脳や心臓だって。

「ほら、見てくださいませ。こんなに良い天気」

そんな僕の気も知らず、当然のように歩き、背伸びして窓を開ける女の子。

こうして見る分には、とても人形とは思えない。一人の少女だ。
床まで届く、長いスカートを揺らめかせて歩く姿には、愛おしささえ感じる。

だけど、やはり彼女は人形であると、その身体が証明していた。
不自然に凹凸した間接部、作り物の髪、首筋に刻まれた製造番号。
何も語らず、動かずにいれば、それは人形以外の何物でもない。

それがなぜ、突然動き出し、僕の身の回りを世話するようになったのか。
分からない。毎日、毎朝考えているけれど、その答えは一向に掴めずにいる。

「マスター」

いつもの日課に、悶々と悩む僕を、彼女が呼ぶ。
手には蒸したタオル。意図を察し、僕はそっと目を閉じた。

「失礼致しますわ」

言葉の後に、ギシ…と軋むベッドの音。
彼女が片膝を乗せたのだろう。そうしなければ届かないから。
なにせ、僕が寝ているベッドは無駄に大きい。3人は並んで眠れる広さだ。

ただ、隣り合って眠っているのは、両親でも、兄弟でもない。
人形だ。動物や、乗り物の人形。大小問わず、身を寄せ合って。
ベッドの上だけじゃない。窓際にも、机の上にも、観葉植物の隣にも。
所狭しと並ぶ人形達。しかし、彼女と違って、彼らが動くことはない。
普通の人形だ。辛い時に、癒し、慰め、話し相手になってくれる愛玩具。

「………」

繰り返すが、彼女も元々は、彼らの一部に過ぎなかった。
いつの日だったか、お母さんが僕に、誕生日プレゼントとして贈ってくれた物。
唯一の、等身大で、人間の形をした人形だった。すごく嬉しかったのを覚えている。
徴兵を逃れる為に、女性として育てられた僕を、より偽るための道具に過ぎなかったとしても。
僕は人形が好きだし、お母さんが大好きだ。その想いは、今でも変わらない。

「………」

僕は、その人形に、『ソラ』と名前を付けた。
同じ名前。僕と彼女、ふたりとも、『ソラ』。

ソラは、お母さんが編んでくれた服によって、色んな姿になることができた。
お姫様のソラ。パン屋さんのソラ。騎士のソラ。吟遊詩人のソラ。
お化粧をしたり、香水を付けたりして、僕はよりリアルな人形遊びを楽しんだ。
時に、僕が彼女の服のひとつを着て、その姿になりきって遊んだりもした。
お母さんの計らいなのか、その人形は、体格も、髪の色も、僕と同じで。
違うのは、彼女は本当の女の子で、命を持たないということ。それだけだった。

家から出ることを許されず、友達のいなかった僕にとって、彼女は唯一の遊び相手。
朝から晩まで、僕はソラと一緒になって遊び、夜は、ベッドで肩を擦り合わせて眠りについた。

…お母さんが帰らなかった、あの夜の日までは。

「はい、綺麗になりました」

不意に、耳に届いた彼女の声に、ハッとする。
顔を拭いたタオルを腕に掛け、ベッドから降りるソラ。
胸元と頭のリボンを直し、ぺこりと頭を下げ、去っていく。

「朝食を準備して参りますわ」

出入口の扉の前で、再び会釈し、部屋を出る彼女。
僕はそれに対し、お礼も述べなければ、手を振って応えることもしなかった。

…できなかった、とも言える。
あの日以降、僕は、指ひとつ動かすことが不可能になってしまった。
言葉も発せられない。喉元でつかえて、それ以上先に進んでくれない。
できることは、目を開くことと、わずかに口を動かすことくらい。
食事も、お風呂も、トイレも、全て彼女に世話してもらっている状態だ。
ただ、着替えだけは、彼女の腕力の都合上、行うことが難しいので、
常に裸でいることを強制されている。毛布で隠しているとはいえ、ちょっと恥ずかしい。

さておき、彼女が言うに、これは病気の一種らしい。
寂しさを感じると、患ってしまう病気。一種のショック症状。
まるで人形のようになることから、『ドール症候群』と呼ばれているらしい。
何の因果か、人形の彼女が自由に動く横で、人間の僕が、人形同然になってしまったのだ。

これがもし、神様の悪戯だというのならば。
神様というのは、よっぽど意地の悪い性格に違いない。

「お待たせしました、マスター」

ふと、ノックの音が部屋に響き、扉が開く。
そこには、食事を積んだ配膳台車を従えた、ソラの姿があった。
部屋の中に、ふわりと、コンソメスープの香りが舞い、僕のお腹の虫を刺激する。

「本日の朝食は、ハムエッグとバタートースト、コンソメスープ、ヨーグルトですわ」

メニューを伝えながら、トコトコと僕の方へ食事を運ぶソラ。
やはり身長が足らず、背伸びしながら台車を押す姿は、なんとも可愛いらしい。
何もおかしなところはないと言わんばかりの、彼女の澄まし顔が、なおときめく。

「それでは、スープからお召し上がりくださいませ」

給仕用の小さなエプロンを首に巻き、ソラがスプーンを手に取る。
音立てずコンソメスープを掬い、手皿を添えながら、僕の口元へと運ぶ少女。
それに対し、僕は懸命に口を開いて、少しでも彼女の負担を減らそうと努めた。

小指の先ほどの隙間が開いた口に、ゆっくりと入り込む、温かいスープ。
甘辛い味が舌に染み込み、喉を鳴らすと、再び芳香が鼻腔を刺激する。

…おいしい。声にならない言葉が、吐息となって漏れる。
その反応を見て、目を細める彼女。掬われる、二杯目のスープ。

沈黙が場を包み…しかし、温かで、安らぎを感じるひととき。
僕がスープを飲むたびに、嬉しそうな表情を浮かべる女の子。
僕は、目と舌で彼女の優しさを感じながら、コンソメスープを味わった。
ひとくち、ひとくちに込められた、彼女の想いを飲み込むようにして。

「トーストも召し上がりますか?」

と、引っ込むスプーンに代わり、目の前に現れる焼きたてのパン。
ソラはその端を千切ると、自らの口へと含んで、咀嚼し始めた。

「ん……モグ…」

言うまでもないが、彼女が食べるワケではない。
僕に、物を噛む力が無いからだ。ゆで卵ほどの柔らかいものさえ噛み切れない。

「…失礼しまふ」

頬を小さく膨らませながら、ソラが僕へと顔を近付け…唇を重ねる。
人形とは思えない、柔らかく、熱帯びた感触に、ドキリと高鳴る胸。
彼女の舌により押し広げられた口から、徐々に流れ込んでくる、トーストの欠片。
濃厚なバターと、粘り気ある唾液の甘味が、僕の味蕾を鈍く刺激する。

僕は固形のものを食べる時、こうして彼女から口移しをして貰っている。
嫌悪感はない。最初こそ、若干抵抗はあったものの、今ではもう慣れてしまった。
そもそも、迷惑を掛けているのは僕の方であり、文句を言える立場ではない。

むしろ、未だ慣れないのは、唇を重ねる行為の方だ。
口移しとは、とどのつまり、口付け…キスの延長であって。
友達のいない僕にとって、ソラ以外と、この行為をしたことはない。
ファーストキスも、二回目以降も、ソラとだけ。この人形の少女とだけ。

「お味はいかがですか?」

ただ、ファーストキスだけは、口移しの延長として行ったものじゃあない。
彼女がまだ、物言わぬ存在であった頃、僕の方から彼女へ唇を奪ったのが始まりだ。

それはちょうど、お母さんと離れ離れになった、あの夜の日と同じ…。

「さあ、デザートもどうぞ、マスター」

あの日の夜、買い物に出たお母さんは、いつになっても帰ってこなかった。
厚いガラス戸の奥から響く、誰かの怒号、何かが割れる音。小さな地鳴り。
不安に包まれた僕は、ベッドの中で、お気に入りの人形を抱えて震えていた。
その人形は、いつでも僕に夢を与え、安らぎをくれた、唯一の友達だった。
僕は、彼女のフリルのドレスが乱れることも構わず、その身を強く抱き締めた。

でも、待てども、待てども、お母さんは帰ってこない。
怒号が近くなり、夜だというのに、窓から夕日のような赤い光が差し込んでいる。

恐い。何が起こっているのかも分からない、暗中の恐怖。
目をぎゅっと瞑り、僕はいつしか、人形の名前を呼んでいた。

ソラ。恐いよ、ソラ。お母さんが帰ってこないの。ソラ、助けて。ソラ…。

繰り返す、自分と同じ名前。混沌が、幼い思考を蝕みゆく。
死にたくないと願った。消えたくないと祈った。神ではなく、人形に。
どちらも、人に安らぎを与えるための、形だけの存在でしかないと知りながらも。
この胸の中に巣食う、自身を恐がらせる何かを取り除いてほしいという一心で。

「お粗末さまでした。お腹はいっぱいになりましたか?」

その時、ふと。僕の鼻に、ある匂いが香った。

お母さん。間違いない。お母さんだ。お母さんの香水の匂いだ。
必死に鼻をひくつかせると、僕はそれが、目の前の人形から香っていることに気が付いた。
そして、思い出した。前に、お姫様の服を着せてあげた時、お母さんの香水を使ったことを。

矢も盾もたまらず、僕は彼女の首筋に顔を埋めた。
そして、犬のように鼻を鳴らし、嗅いだ。愛しい人の匂いを。
安楽を求め、探していた存在。その欠片を今、胸いっぱいに吸い込んだ。

しかし、想いに反して。
匂いを嗅ぐたびに、僕の目尻には涙がこみ上げ、胸はチクチクと痛み出した。

欠片。そう、欠片しかない。
その事実が、僕の渇望を、更に膨れ上がらせた。
もっと。もっと安らぎがほしい。安らぎを感じたい。
お母さん。ソラ。傍に。もっと傍に。もっと…。

「それでは、食後の歯磨きを致しましょう。マスター、イーッてしてくださいませ」

瞬間、破裂した想いが、僕の理性を吹き飛ばした。
なんと僕は、震える唇を人形へと重ね、思い切り吸い付いたのだ。

異常である。だけど、それは今の環境にいる僕だから言えること。
自ら服を脱ぎ捨て、彼女の服も剥いで、肌と肌を重ねたのも。
そのまま局部を擦り付け、ひとり昂ぶり、絶頂にまで及んだのも。

ソラが生きているという、実感が欲しかった。両方のソラが。
まだ生きているという実感。傍で生きているという実感。
ひとりぼっちの今から、逃げ出したかった。救いが欲しかった。
人形を、生きていると思い込み、ひとりじゃないと思いたかった。
最も原始的で、他者を感じる行為に浸ることで、幻を見ようと…。

「少し顎を持ち上げますわ。はい、ガラガラ〜…ペッ。もう一度、ガラガラ〜…」

そして、朝日よりも眩しい光が、窓から差し込んだ瞬間。
握り締めた彼女の手が、不意に、僕の手を握り返して…。

「綺麗になりましたわね。次は髪を梳きましょう」

…気が付けば、こんな状況になっていた。
いったい何が起きたのか、僕にはまるで見当も付かない。
奇跡と言えばそれまで。でも、奇跡と言うには中途半端な気もする。
僕はこんな状態になってしまったし、お母さんは未だに帰ってこない。
外がどんな様子になっているのか、元の街並みを知らない僕には想像もつかない。
また、見る勇気もない。見れば、それが現実になる。今度こそ、僕の心は壊れてしまう。
今はまだ、夢から覚めたくなかった。もし、彼女も夢の一部だったらと思うと恐かった。

夢幻でも、幸せならば。
僕はずっと、その中で溺れ続けていたい。

「ふふっ…。マスターの髪、もう一息で、私の長さに届きそうですわ」

足首まで届く、僕の髪を櫛で整えながら。
ソラが楽しげに笑い、耳元で話し掛けてくる。

それはまるで、かつて彼女で遊んでいた、僕の写し身のよう。
応えぬ親友に対し、無邪気に話し掛け、愛でる女の子。
食事を与え、身嗜みを整えて。一緒に遊び、一緒に眠って。
何も変わらない。立場が逆転しただけで、何も変わっていない。
僕が彼女を好いていることも。人形となった今、その想いはより強くなって…。

「はい、終わりました。あとすることは…」

…いや。きっと、あの日の夜から、もう。
僕は彼女のことを、親友ではなく、それ以上の存在に感じていたんだと思う。

ドキドキするんだ。ソラが笑うたびに。
キスをするたびに、身体中に電気が走ったみたいなるんだ。
可愛い、綺麗って言ってくれるたびに、胸の内が温かくなるんだ。

ソラの一挙一動に、僕はどうしようもなく動揺してしまうんだ。

「あっ、御小水がまだでしたわね」

そして、彼女もまた、僕を好いてくれているように思う。
自惚れなんかじゃない。そう思える行動がいくつもある。

この行為だって、その内のひとつだ。
尿瓶か、代わりのものを使えば済む話なのに。
彼女は僕のオシッコを、口で受け止め、飲んでくれるのだ。
恐らく、それがエッチな行為であると知っていながら。
僕がドキドキすると分かっていながら、彼女はわざと…。

「それでは、失礼致しまして…」

髪をかき上げながら、僕の前で身を屈める少女。
毛布をめくり上げ、その下に隠れている雄の裸体を晒す。

それに対し、僕は慌てて目を閉じ、彼女の行為を見ないようにした。
言うまでもなく、恥ずかしいからである。口移しなんて比じゃないくらいに。

加えて、その場所は今、オシッコが出せる状態じゃない。
口移しのキスと、今、見られていることによる興奮で、ムクムクと大きさを増している。
そう、勃起だ。手足は動かないというのに、そこだけは元気に起き上がる。恨めしい。

「あっ…♥」

脈動に合わせ、長く、硬く、熱くなるペニス。
彼女の見ている前で、愛液を垂らしながら。

変態だ。どうしようもないくらい、変態だ。
僕も…、それを愛おしげに見つめる彼女も。

こんなところまで、僕達はそっくりだ。

「…くすっ♪ マスターのエッチ…♥」

意地悪に笑む唇が、ゆっくりと…僕の敏感な部分に触れる。

「ちゅっ♥」

瞬間、心臓が雄叫びを上げた。全身を震わせるほどに。
同時に、喉を突き破らん勢いで、あられもない声が飛び出そうになる。
代わりに漏れる、渇いた嬌声。耳鳴りのような音が、僕の口の中に響く。

「あむ…、ぺろ…♥ 昨夜も、あんなにたくさん出しましたのに…♥」

眠っているはずの神経が、痺れ、指先まで快感を伝えゆく。
啄ばむ唇、這う舌の刺激に、身体中が音を上げる。

気持ちいい。それ以上の言葉が思いつかない。
その場所を彼女に触れられているという事実が、僕を狂わせる。
目を瞑っても、肌が、心が、いやにも彼女を感じてしまう。
そして、願ってしまう。もっと激しくしてほしいと。強く愛してほしいと。

「この可愛らしいタマタマさんには、いったいどれほど詰まっているのでしょう♥」

言いながら、凹凸ある指で、睾丸を一撫でするソラ。
独特な感触に、精子袋が縮こまり、宿主へ排出を促してくる。
思わず眉をしかめる僕。その痴態を、少女の妖美な視線が舐め回す。

「いけないマスター。人形に弄ばれて、悦んでしまうなんて…♥」

彼女は、まるでお気に入りの玩具で遊ぶかのように、執拗に玉をこねてきた。
時折触れる、間接部のコリコリとした刺激が、敏感な球体を虐め抜く。
揉んだり、擦り合わせたり、つついたり、弾いたり。
あらゆる刺激の波を送っては、僕の反応を窺い、ほくそ笑む。

「れろ…、ちゅ…♥ でも、それも仕方ありませんわね。私のマスターは…」

しかし、それだけでは物足りなくなってきたのか。
彼女は竿にも指を絡め、雁首を撫でるようにして擦り始めた。
普段、皮の中に隠れ、自分でも滅多に触れることのない場所。
人差し指と親指のリングが撫でるたび、快楽が脳天に突き刺さった。

「人形に貞操を捧げてしまう、変態さんなのですから…♥」

ソラの瞳に宿る、闇より深く、泥のように濁った光。
見つめていると、吸い込まれそうな錯覚を覚えるほど。

でも、その奥に、確かに見える彼女の想い。淀みない輝き。
それは、僕の想いと同じもので。鏡映しの僕で。

「そんな変態さんは、こうしてさしあげますわ♥」

不意に、襟元のリボンを解き、僕のペニスへとそれを結ぶ彼女。
驚きも束の間、ソラは頭のリボンをも外して、僕へとにじり寄ってきた。

「マスター。…いいえ、ソラ」

有無を言わさず…言えぬと知りながら、ソラが僕をなじる。
僕の頭へとリボンを結わえながら、自らの服を脱ぎ払う。

「ソラは今、私の可愛いお人形さん…」

フリルのドレス、ピンクのキャミソール、レースのパンティ。
ひとつひとつ、目の前で見せ付けるように脱いでは、
僕の腕へ、脚へ、脱ぎたてのそれを通し、着せ付けていく。
ただし、スカートは除いて。そこだけは露出させたままで。

「お人形さんは、着せ替えをして遊んであげますわね♥」

そして、気が付けば。あの頃の僕達のように。
立場も、衣装も、全てが逆転していた。違うのは性別だけ。
目の前には、身動き取れず、言葉発せぬ人形を相手に盛る、ひとりの雌。
ぽたり…ぽたりと。恥部から蜜糸を引き、シーツを濡らして微笑んでいる。

「お人形さんは、マスターを癒す存在…」

一見、ツギハギだらけのように見える、ソラの人形の身体。
でも、その平滑な胸や、ぽっこりとしたお腹は、とても魅力的で、
それでいて、パーツ間の溝間が作る自然なラインは、非常に芸術的だった。
人間と人形の魅力がひとつに合わさった、まさに非のない美しさ。
触れることさえ躊躇われる…それでいて、触れずにはいられない身体。
そんな彼女の肢体に、僕は自身の状況も忘れ、思わず見惚れてしまった。

「裸に剥かれ、恥ずかしいポーズをさせらされても、恥部を隠してはいけません」

ソラが僕の上に跨り、ドレスの上着をずらして、胸を露出させる。
服を着たままの女の子を、今から犯しますと言わんばかりに。

「オッパイを触られ、オマタを舐められても、文句は言ってはなりません」

語りながら、僕の髪に指を通し、耳へと掛けるソラ。
大切な人を扱うようであり、大切な人形を扱うようでもあり。

…いや、どちらでも構わない。

「さあ、ソラ…」

僕にとって、ソラも…。

「遊びましょう♥」

世界で一番、大切な存在なのだから。

「ふああぁぁっ♥♥♥」

響く、ソラの嬌声。宙で混じり、木霊する。

一息で、彼女の奥まで呑み込まれたペニス。
熱と、蜜と、欲で満ちた少女の胎内。うねり、肉棒に絡み付く。
既に先端が最奥へと触れているのに、更に奥へと導こうとする襞。
蛇腹のような、凹凸が顕著な膣の感触に、搾り出る吐息が止められない。

「あっ…は…♥ ちょ、ちょっとだけイッてしまいましたわ…♥」

不意に。肩を震わせながら、彼女が小さな声で僕に告げた。
イッてしまった。挿入しただけで、達してしまった。

その意味を理解した瞬間、ぞわりと、全身が総毛立った。
なんて可愛らしいんだろう。いじらしいんだろう。
こんなにエッチなのに、こんなに女の子らしいソラ。
僕自身さえ知らない、僕の悦びを、全て理解しているかのように。
彼女の言葉が、挙動が、どこまでも僕に安らぎを与えてくれる。

「ソラ…♥ 私達、ひとつになっていますわよ…♥」

背中を反らし、ソラが接合部を恥ずかしげもなく見せ付けてくる。
ペニスによって押し広げられた、彼女のつるつるのアソコ。
隙間から、薄い桃色の小陰唇に、点ほどの尿道口、小粒のお豆が覗いている。

「ほら、ここですわ…♥ 触ってくださいませ♥」

彼女は、動かない僕の手を取り、指先を秘部へと押し当てた。
子犬のような鳴き声を上げながら、僕の指を操り、自身の弱点を弄り出す。

「んっ…♥ あ、やっ…♥ あんっ♥ やぁん…っ♥」

クリトリスを弾く指の動きに合わせ、ヒクヒクと痙攣する膣内。
ペニスを貪る口からは、愛液が溢れ、ふたりの股部に糸を張っていく。
身を捩り、長い髪をたなびかせるソラの姿は、幼いながらも艶かしく。
汗と、愛液の混じり合った香りは、ますます僕の欲望を燃え上がらせた。

「っ…♥ も、もう我慢できませんわっ♥」

シンクロする想い。恋人を抱き締める彼女を、僕もまた、抱き締める。
手は動かないけれど、気持ちだけでも、彼女に伝わるよう願いながら。

「ソラ…♥ あっ♥ いいっ♥ きもちいいですわっ♥ ふぁぁっ♥」

ゆっくりと動き出す腰。同時に、擦り合わさるお互いの性器。

感じる。先ほどより、ずっと強く感じる。
彼女がそこにいること。僕がここにいること。

「はっ♥ ソラ♥ ソラァ♥ ちゅっ♥ ちゅぅぅ♥ ソラッ♥」

と、突然彼女が、僕の乳首に吸い付いた。
鳴き声を上げている内に、空いた手で抓り上げられる、もう片方。
走る、わずかな痛みと、計り知れない快感。胸から全身へと響き渡る。
同時に、一気に押し上げられる射精感。もう、止められないところまで。

僕は歯を食いしばり、その時を少しでも先に延ばそうと…。
もっと彼女を感じたいと、こみ上げるものを必死に耐えた。

「私の…私だけのマスター♥ 私だけのお人形さん…♥」

お尻を振りながら、ソラがうわごとのように言葉を繰り返す。
愛欲、肉欲、独占欲。様々な欲が入り混じった、彼女の本音。

そして、それは僕の本音でもある。
もっと彼女を独り占めしたい。もっと彼女とエッチしたい。
愛を…愛を感じたい。求めるよりも、ずっと、ずっと大きな愛を。

「もうひとりの私…、私を愛してくれる私…ッ♥ あぁっ♥」

僕の想いを、彼女が叫ぶ。

「見せて…♥ ぁっ♥ 出して…っ♥」

ソラの想いを、ソラが叫ぶ。

「男の子の私を……ぜんぶっ…♥」

振り絞った想いに併せ、彼女は一際高く腰を突き上げると…。

「ふぁっ…♥」

一息の下、肉と肉とをぶつけあった。

「あああああぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ♥♥♥♥♥♥♥♥」

……………

………

「マスター、今日は本当に良い天気ですわ」

それから交わりを続けること、4時間半。
正午も過ぎた頃、ふと、彼女が窓の方を見て呟いた。

「ほら、白い太陽だけでなく、黒い太陽まで。あんなに燦々と」

指差し、その方向を見るように促すソラ。
視線を動かすと…なるほど、確かに黒い太陽のようなものが浮かんでいる。
絵本で見た、魔物とかいうやつだろうか。何にしろ、害がないなら無視でいい。

「不思議な光ですわね。あの太陽を見ていると、胸が熱くなってきますわ」

が、彼女の方は興味津々のようで、ベッドを降り、窓際まで行ってしまった。
もう少しくっついていたかったのだけれど、あの黒い太陽に奪われてしまった。
憎らしい。実害アリだ。僕の身体が動けば、彼女を奪い返しているところなのだが…。

「…あら?」

…いや、その考えは間違っている。

僕は、こうして何度となく、彼女と肌を重ねて、もう分かったはずだ。
声や、動作がなくとも、僕達は通じ合うことができるということを。

僕と彼女は、ふたりでひとつ。男の子のソラと、女の子のソラ。
思うだけでいい。心の中で話し掛け、動けばいい。それで伝わる。
人形の僕の想いが。今なら、逆の立場でも。彼女が、元の人形に戻っても。

「マスター、今あそこで起き上がった女性、貴方の…」

僕は手を伸ばし、愛する人の名前を呼んだ。
もうひとりの自分。女の子の僕へと向けて。

―ソラ。

瞬間、驚き振り返る彼女。
ほら、やっぱりだ。やっぱり伝わった。

よし。なら、この言葉も一緒に伝えてしまおう。
言いたくても、想うことしか出来なかった言葉。
ちゃんと言葉にして伝えたかった、大切なこと。

―好き…。

一歩。

―大好きだ…。

もう一歩。

―この世の誰よりも…。

あと一歩。



―愛してる。



重なる言葉。窓際で抱き合う、僕と彼女。
黒い太陽が、祝福するかのように僕達を照らし出す。

壁まで伸びたふたつの影。
どちらからともなく、そっと唇を重ねる。

「ソラ…♥」

人形は、持ち主を映す鏡だという話があるけれど。
具体的に、何を映し出すのだろう。理想、欲望、それとも…。

「…ねえ、ソラ。お昼を食べ終えたら…」

僕達の場合は、欠片だ。半分の欠片。
鏡合わせになって、それがくっついたんだ。

だから僕達は、こんなにも惹かれ合うんだろう。

「もう一回、遊びましょう♥」

ハートの欠片が、ね。
13/05/31 21:56更新 / コジコジ

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