んー…今日もいい天気であるな。
雲一つ無い快晴である。
あの計画を実行に移すのにぴったりであるな。

どんな計画か？見ていれば分かるである。

「確かこの辺だったはずだが…っと、あれだろうか。」

路地裏を覗き込むと、暇そうに欠伸をしている男が立っていた。
普通ならあんな所に人がいるはずが無いから逆に目立ちそうなんだが…まぁ我輩には関係のないことだ。

っと、男が此方に気付いたな。

「…朝の挨拶は？」
「オギャンオス。」

「「………」」

我輩の返答を聞いた男が踵で壁を蹴ると、男の隣の壁がスライドして入り口が出来た。

「…よく来たな同志…歓迎するぞ…」
「それはいいのだが…今月の合言葉ちと酷くないか？」
「…会長があれだからな…察してくれ…」
「まぁ、今に始まったことではないか…」

中に入ろうとしたところであることを思いつき、懐の中に手を入れた。
…確かこの辺に…

「…入らないのか？…」
「ちょっと待ってくれ…あったあった。」

そう言って取り出したのはミルクの入った瓶…今朝絞ったものである。

「ずっとここで立ってると疲れるだろう、これでも飲んでリラックスするといい。」
「…ありがたく頂く…」

さて行くか…やつは元気だろうか…



「よく来たな同志鉄輝、相変わらずちまいな。」
「開口一言目がそれか、ケンカならいつでも買うぞ？ジード。」
「はっはっはっ！冗談だよ、お前が元気そうで何よりだ。」
「まったく…お前も相変わらずだな。」

我輩が話しているこの男はジード、各地にひっそりと存在する公には知られていない組織の会長である。
その名も、『モフモフっ娘愛好会』…名前でどんなものか大体分かるだろう。

…ちなみに、何故か我輩の会員番号は六桁全て零しかない…奴の嫌がらせか何かか？

「それで、今日はどうしたんだ？わざわざ顔を見せに来たわけでもあるまい。」
「実はな…『稲荷のモフモフ尻尾枕』を作って欲しいのだが…」
「材料があるなら作るぞ？」
「そうか、ならこれで作ってくれ。」

そう言って、パンパンに膨らんだ大きな袋を取り出した。
袋の中身は稲荷の尻尾の毛…要するに、琴音の尾の抜け毛だ。
琴音達と旅を始めてから今日までの分が全部ここに入っている…見つからないようにするのが大変だったぞ…

「…何所にそんなものしまえる部分があるんだよ…」
「細かい事は気にするな…で、どうだ？」
「ふむ………状態も良いし、問題なく作れるぞ……だが、何でこんなに？」
「九尾仕様で作って欲しい。」

我輩の一言を聞いた瞬間、ジードが我輩の顔を見つめたまま動かなくなった。
暫くの沈黙の後、我に返ったように頭を振った。

「あー…すまん、ちょっとよく聞こえなかったんだが…なんて言った？」
「九尾仕様で作れ。」
「さっきよりも言い方がきつくなってるぞ！？というか期限は！？」
「今日中。」
「殺す気か！？普通のやつでも作るのに一日近くかかるんだぞ！！」

講義するジードの肩にそっと手を置く…
そして出来る限りの優しい笑みを作り、言い放つ。

「出来るかどうかは聞いてない…作れ。」
「……お前絶対いい死にかたしないぞ。」
「まぁおふざけはここまでにしてだ…実際の所どうだ？」
「本部で抱えてる職人総動員すれば半日…だが、それだけやるとなると高くつくぜ？」
「これで足りるか？」

そう言って懐から宝石などが入った袋を取り出した。
こいつは我輩が地道に集めていたものだな…所謂へそくりという奴だ。

「…………十分だ、よくこんなに集めたな。」
「旅先で採掘したり遺跡もぐったりしてるからな、ここまで集めるのにそう時間は掛からん。」
「いいな…俺もやってみようかな…」
「やめておけ、道に迷って出られなくなるのがおちだ。」
「そんなのお前だけだろうが…絶対に迷わないと町長が太鼓判押した森で三日も迷いやがって…探すの大変だったんだぞ？」

そう言えばそんな事もあったな…嫌なことを思い出してしまった…

「とにかく、今日中に完成させるように指示しておくよ。」
「すまんな…終わったら酒でも飲むか。」
「いいな、自称世界の支配者様の武勇伝でも聞かせてもらおうか。」
「言うほど凄い事は出来てないがな…まぁ、退屈しのぎくらいにはなるだろう。」
「それじゃあ、俺は肴になりそうなものを…」

ジードが席を立とうとした瞬間、背後の扉が勢いよく開かれた。
そこにはやや幼さの残る青年が立っていた…急いで来たのか、随分と息苦しそうだ。

「ジ…ジード……様…大変で…」
「落ち着け、俺は逃げたりしねぇから。」
「そ…そうも言ってられ…ないんです…ゲホッ…」

…そんなに凄いことがおきたのか…これは面白くなりそうであるな。

「とりあえず水を飲め、貴殿が落ち着かないと我輩達も話が聞けん。」
「す…すみません…」

置いてあったコップに水を入れて手渡すと、青年はゆっくりと飲み干した。

「ありがとうございます…大分楽になりました。」
「お前…俺が使ってたコップ使いやがったな…」
「そんな細かい事を気にするな、あんまり気にしすぎると禿げるぞ？」
「禿げてねぇよ！………本当に禿げるのか？」
「強いストレスを感じ続けると毛が抜けるというのは聞いたことがあるな。」
「なるほど、だからお前と一緒にやってたころは抜け毛が酷かったのか。」
「我輩にケンカを売っているのか？いいぞ？十倍の値段で買ってやる。」
「あの…報告してもいいでしょうか…？」
「…運が良かったな、今回は見逃してやる。」
「ハッ！言ってろ…で、どうしたんだ？」
「会員の一人が妖狐に告白するみたいです。」

…………なんだって！？

「それはいつだ！？」
「何所で告白するであるか！？」
「お、落ち着いてください…私が調べた限りでは、これからその妖狐の働いている所に行ってするみたいです。」
「酒なんて飲んでる場合じゃねぇな！行くぞ！」
「言われなくてもそのつもりだ！貴殿も来い！」
「えっ！？さ、流石に行くのは…あぁっ！引っ張らないでください！」



「多分あれですね…」
「どうやら間に合ったみてぇだな…」
「さて…どうなることやら…」

数分後、例の現場へとたどり着いた我輩達三人は、問題の男と妖狐に見つからない場所に隠れて様子を伺っていた。

「もう何を言ってもやめてはくれませんよね…」
「会員の幸せを願わずして何が会長だ、梃子でも動かねぇぞ？」
「はぁ…貴方は何時まで経っても変わってくれませんね。」
「そう言っている割には楽しそうであるな？」
「どうにも出来ないなら楽しんでしまった方が良いですからね。」
「いい性格だろう？俺がここまで鍛えたんだぜ。」
「そうか…お気の毒にな。」
「本当ですよ…っと、始まりましたね。」


「それで、私に話って何かしら？」
「あ…ああああの…お、俺…貴方の事ががが……す…す…」
「好きだからつきあってくれ…なんて言うつもり？」
「えっ！？…あ…はい…」
「私とはどういうお付き合いをしたい？」
「そ、それはもちろん健全なお付き合いを…ですね…」
「健全なお付き合い…ね…」
「は…はい…」
「それだったら他の娘にしたほうがいいわ、私の本性見たら幻滅しちゃうわよ？」
「そ、そんなことは…ないと……」
「どうでもいいから店の外でやってくれないか？他の客もいるし。」


「…あのままじゃ駄目っぽいな…どうするよ？」
「ふむ…参考までにあの男の性癖だとかそういうのを教えてくれないか？」
「そう言うと思ってこちらに用意してあります。」

そう言って渡された本のしおりが挟まれたページを見てみる…

「ふむ…好きなモフモフっ娘は妖狐…外では礼儀正しく清楚だが、仲間内では妖狐の魅力について数時間にわたって語り続ける…」
「傾向としては尻尾を弄れるように後ろから攻めるのを好むが、幼い頃に親を亡くしたこともあって甘えるのも大好き。」
「一度やってみたい事は、人混みに隠れての本番と…ほぉ…こいつは中々…」

つまりあれか…自分の性癖晒したら嫌われるかもしれないと思ってるのか。

「…どうするよ？」
「どうするもなにも…なぁ？」
「そうですね、この状況でやる事と言ったら一つでしょう。」



「とにかく、健全なお付き合いをしたいというのなら他の子にしなさい。」
「で、ですが…俺は…あ、貴方が………その…」
「情けない！情けないぞ君ぃ！」

わざとらしい位に声を張り上げ、店の中へ突撃していくジード。
もう後には引けんな…こうなったら盛大に暴れてやろうじゃないか！

「会長！？な、何で会長がここに！？」
「そんな事はどうでもいい！健全なお付き合いがしたい？そんな消極的なお誘いでは彼女のハートは射止めれんぞ！」
「そうですね、私が彼女の立場だったら押しの弱い男性なんてお断りです。」
「自分の思いを解放しろ！自分の全てを曝け出せ！砕け散る勢いでぶつかって行け！」
「副会長まで！？…で、そちらは誰です？」
「会員番号000000で俺の親友だ。」
「行方が分からないって言ってた人ですか……って！そうじゃないです！何でここにいるんですか！？」
「貴殿がそこのお嬢さんに求婚すると聞いてな。」
「き…求婚？お付き合いを申し込まれただけなのだけど…」

彼女の反応が一瞬嬉しそうに見えたが…なるほど、脈はあるか。
これは面白いことになりそうだな…くくく…

「あぁ…妖狐の良さについて語り合ったあの夜は偽りのものだったのですか？」
「えっ…ちょ…」
「花屋の妖狐以外は眼中に無い！彼女をモフり倒して自分色に染め上げたい！そう言ってたではないか…」
「ま、待ってくださ…」
「俺は感動したんだぜ？お前さんの何所までも真っ直ぐな気持ちによぉ…それは全部嘘だったってのか？」
「…………終わった…何もかも…」

がっくりと膝を付き項垂れる男…全てを諦めたかのような悲壮感に包まれているようだ。
肝心の妖狐は…おっと、見る間でもなかったな。

「……今の話…本当なの？」
「…ええそうですよ…貴方が足腰が立たなくなるまで激しくモフり倒して俺だけのものにしたいって思ってましたよ…」
「そう…それが貴方の本当の気持ちなのね？」
「そうです、これが俺の本当の気持ちで嘘偽りの無い本性ですよ…幻滅しましたよね？」
「……それなら、私の本性も見せてあげるわ…」

そう言って彼女は身に着けていた服を脱ぎはじめた。

「ちょ！？な、何をしてるんですか！？……えっ…」
「…貴方がお店に来てくれるたびにこうなっちゃうのよ…」

生まれたままの姿になった彼女…なるほど、愛好会の中でも妖狐が大人気なのも頷ける。
艶のある手入れの行き届いた七本の尻尾、尻尾のボリュームにも負けぬほどの豊満な胸…言葉では語りつくせないほどの美しさを彼女は持っている。

そんな彼女の秘部…やや粘性のある液体が溢れ出ており、床にいくつもの沁みを作っていた。

「何度襲ってしまいそうになったか…覚えてないわ。」
「そ、それってもしかして…」
「私でよかったら…恋人を前提に結婚しましょう。」

いろいろすっ飛ばしてる気がするが…実に感動的だ。

「えっ…普通は結婚の方が前提では…」
「あぁもうっ！我慢出来ないわ！いただきまぁす♪」
「うわっ！？お、落ち着いて…服を脱がさないで！」
「足腰立たなくしてくれるのでしょう？それともされるのがお好き？どっちにしてもやっちゃえば変わらないわね。」
「せ、せめて人気の無い所に…」
「人混みに隠れてしたいとも言ってましたよね？
「言ってたであるな、聞き間違えはない。」
「むしろ、見せ付けるくらい激しく愛し合いたいとか言ってたよなぁ？あん時のお前の目…今までに無いくらい輝いてたぜ？」
「あぁもうどうにでもなれ！」
「やぁん♪いきなり激しいわよぉ♪」

さて…やりたい放題やったし帰るか。

「ジード、この後宿で一杯どうだ？」
「いいなそれ、注文の品が出来たらそいつを持って邪魔するぜ…グラム、お前も来いよ？」
「さっきみたいに引きずられたくは無いですからね…早めに仕事を終わらせておきますよ。」
「決まりだな、酒と肴を用意して待ってるぞ…おっと、お前達も持ってくるのだぞ？」
「分かってるさ、お前が驚くようなもん持ってってやるから覚悟しとけよ？」
「それではまた後ほど…」

そう言って我輩は宿へ、ジード達は本部へと帰って行く。
また弥生に借りができるな…完済までどれだけかかるのやら…



〜今日の観察記録〜

種族：妖狐
狐の特徴を持つ獣人型の魔物だ、強い力を持つ上に美しく、その上モフモフである。
彼女達の尾は高い魔力の象徴で、その力が高まるほど尾の数が増えていくであるな…そのあたりは稲荷と同じだ。
尾の数が九本に達したものは九尾の狐と呼ばれ、神にも近いといわれるほどの膨大な魔力をもつと言われているぞ。

〜アレクシアの補足コーナー〜

はぁい♪皆のアイドルアレクシアちゃんよ。
輝ちゃんの持ってる不思議な道具を紹介するコーナーを乗っ取…コホン…引き継いで、いろいろな事に対する補足を入れるコーナーにしたわ。
記念すべき第一回はこれよ！

組織：モフモフっ娘愛好会
輝ちゃんの元同業者が設立した獣人型や魔獣型、鳥人型などの魔物が好きな人達の集まりね。
表立った活動はしてないけど、結構広い範囲で活動してるようね。
グッズ販売の他にも会員同士の交流や恋の悩みの相談なんかもやってて、愛好会の支援によって結ばれた夫婦もそれなりにいるみたい。
後、前述した魔物達が理想の夫を探す為に入会することもあるみたいよ？無事に夫を見つけて可愛がってもらえると良いわね。



「輝はん楽しそうにしとったな。」
「輝ちゃんに知り合いがいたって言うのにも驚きだわ。」
「私も輝様の交友関係は把握してませんから…ですが、輝様が楽しそうで何よりです。」
「それはいいとして…これってなんだろうね？」
「琴音さんの尻尾みたいだね！」
「尻尾みたい…というより、琴音の匂いがするのじゃが…」
「後でじっくりと聞きましょうか…これがなんなのかを…ふふふ…」
「…私は何となく分かるけどね…琴音ちゃんは愛されてるわねぇ…」
「へっ？どういうことですか？」
「初々しいの、見ているこっちが赤面してくるわ。」
「せやね、見ててほっこりしてくるなぁ。」
「…お年寄りの会話みたいですね…」
「リシェルはん、ちぃと向こうでお話しよか。」
「そこまで手荒な真似はせんから安心するのじゃ。」
「目が笑ってませんよ！？た、助けっ…ぎにゃぁぁぁぁ！！！」
「皆仲が良いね！私も見習わなきゃ！」
「そうね…でも、貴方は今の貴方のままでいて欲しいわ…」