連載小説
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26品目 『ぎりぎりアウト』
7月の下旬。
リンの通う高等部では既に夏季休暇が始まっており、僕もつい先日定期考査を終えたばかりだ。
連日の気苦労あってか、試験後の僕はまるで魂の抜けた人形のようであったとリンは語る。
試験終了直後は特に酷かったようで、ほとんど老人介護状態だったらしい。
現在は精気を取り戻しつつあるが、恐らく8月に入るまではダラダラとした日々を送ることになるだろう。
まぁ、大体毎年こんな感じである。

「ふぃ〜(*´ω`)」

居間にある大きなソファーに身を委ね、どことなくオッサン臭い溜め息を漏らす。
そんな僕を妹はニヤニヤしながら、そして様々な角度から観察してくる。

「ダラけたお兄ちゃんはいつ見ても新鮮ね。期間限定だし、しっかり見納めしとかないと」
「ほむ〜(*´ω`)」

キャッキャッ(*´∀`)σ)´ω`)ほむ〜

妹に頬を突かれても微動だにしない僕。
今は滅多な事がない限りここから動くことはないだろう。
というか、できればあまり動きたくないです。

「一緒にお風呂入れるのは嬉しいけど、お兄ちゃんボ〜っとしてるだけだから面白くないのよねぇ……」
「(*´ω`)ふも〜」
「ねぇ、妹が裸で介護してあげてるんだから、少しは感謝(興奮)したら?」
「(*´ω`)もふ?」
「はぁ……ダメか」

ウリウリ(*´∀`)σ)´ω`)ほむ〜

なにやら妹が因縁をつけてくるようだが、今の僕はそこらのマグロも目じゃないくらい不動。
何があっても動じない自信がある。

「さ〜て、それじゃぁそろそろ昼食の準備でも……」

僕弄りに飽きたリンは昼食のメニューを思案し始める。
すると……

コンコンッ

玄関の扉を叩く音が。

「誰かしら? はーい」

体を反転させ小走りで玄関へと向かうリン。

『あ――――さん―――しました――』

玄関からリンの声が途切れ途切れに聞こえてくる。

(*´ω`)ぽひゅ〜

しかしこんな時でも僕はマグロ。
でもずっと同じ体勢はキツイので、仰向けからうつ伏せの状態にスタイルチェンジ。
そして顎をソファーの端に置き呼吸を確保。
一切無駄のない必要最低限の動きに留め、体力の消耗を最小限に抑える。
我ながら完璧な動作だった。
妹が家の事をしてくれているというのに、兄である僕はどうでも良いところでどうでも良いスキルを披露する。
でも僕は気にしない。
だって今の僕は……マグロなんだから。

『それで―――――どこに――――』
『――お兄ちゃん――奥に――――』

それにしても、今日の昼食はなんだろうか。
リンの料理の腕も、最近ではかなり上達してきている。
うん、とても楽しみだ。
いやそれよりも、妹が用意してくれるというのが素晴らしい。
普段当たり前のように家事をこなしている僕としては、『働かなくても良い』ということ自体が何よりの至福なのである。

『―――これは――珍しい―――』
『夏場―――――限定で――――』

おや?
リン以外の声が聞こえてくる。
一体誰なんだろう?

「ははー、なんだかシュールっすねー」
「いやぁ…妹としてお恥ずかしい限りです」

まぁ、別に誰だっていいか。
僕には関係ない。
面倒なことは全部リンがやってくれるんだ。
こんな時くらいは、のんびりとくつろいで……

「ペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロ」
「………」

ソファーの端から顔を出していた僕。
そんな僕の唇を、店長は猛烈な勢いで『ナメ』始めた。

「ぇ……え……?」
「じゅる…………シロさんの味がしたっす」

………
…………
……………





オオオオオォォォォォォォ―――!!(゚ロ゚;w(゚ロ゚)w;゚ロ゚)!!―――ォォォォォォォオオオオオ












「す、すみません店長。お見苦しいところをお見せしてしまって……」
「いやいやー、なかなか新鮮だったっすよー。イイもの見せてもらたっすー」

イチカの訪問から数分後。
一時的とは言えダメ人間と化していたファルシロンはご覧の通り、完全なる復活を遂げていた。
これもひとえに、イチカが機転(ペロペロ)を利かせたおかげである。

「あの、店長…1つ聞いてもいいですか?」
「なんすかー?」

ファルシロンは軽く周囲を見渡し、この場にいるのが自分と狸店長だけであることを確認する。
どうやらリンはキッチンで昼食の準備をしてくれているようだ。

「え〜っとですね…さっきの『アレ』なんですけど……」
「ほむー? 『アレ』ってなんすかー?」
「いや、ですから……」

言葉にしづらい単語に自分の顔が赤くなるのを感じる。
そして意を決すると、

「だからその…さっきの『ペロペロ』は……」
「っすー?」
「…………『キス』の内に、入るんでしょうか?」
「あー……」
「………」
「………」

なんとも気まずい沈黙がやってきた。
しかしそんな微妙な空気も長くは続かず、

「あー、まー、あれっすねー」

イチカは頭の上に乗せた大き目の葉っぱを団扇代わりにして扇ぎながら、

「少なくともー『キス』としてはカウントされないっすねー」
「そ、そうですよね! いや〜良かった! あんなシチュエーションでなんてさすがに……」
「まーでもー、『唇にペロペロ』はー『キスの最上級』っすからねー」
「……と、言いますと?」

イチカは葉っぱを頭の上に戻すと、胸の前で合掌。

「ごちそうさまでしたっす(-人-*)」
「………」

一瞬間を空けてから、ファルシロンは平静を装いつつ、

「お、おそまつさま、でした……?」

自分の初めてがイチカによる『ペロペロ』であることを受け入れたのでした。












「いやー、昼食を御馳走してくれるなんてー感謝感激っすー」
「あたしが作ったもので申し訳ないんですけど、イチカさんのお口に合うかどうか……」
「そんなに不安がらなくても大丈夫だよ。リンの料理の腕は、最近凄く上達してきてるから」
「ほ、本当?」
「うん。僕が保証する」
「そ、そっか……///」

リンは恥ずかしそうに頬をポリポリとかく。
しかしそんな兄妹愛を尻目に、イチカは黙々と料理を口に運びながら、

「んぐんぐ……近親相姦はダメっすよー?」
「「んなっ!?」」
「冗談っすー」
「「………」」

………。
近親相姦などと言われてしまっては、恥ずかしくてお互いの顔をろくに見ることもできない。
兄妹間の空気がいきなり気まずくなってしまった。
そしてそんな彼らをははーと面白がるイチカ。
すると突然、

「あー、思い出したっすー」
「? 何がですか?」
「ここに来た理由っすよー。シロさんのアラレモナイ姿を見せられたおかげでーすっかり忘れてたっすー」
「あ、はぁ、すみません……」

ナプキンで口元を拭い、イチカは姿勢を正す。
いや何を思い出したのかは知らないが、近親相姦の流れから思い出す内容って一体……。

「以前シロさんに話したー、海へ避暑に行く件っすよー」
「あぁ、あの話ですか」
「? なによそれ? あたし聞いてないわよ?」
「あ〜ごめん、言い忘れてた……」
「……お兄ちゃんの馬鹿ーーー!!!」
「ぐふっ!?」

リンに脇腹を抉るように殴られる。
HPを8割程もっていかれた。

「それで日程なんすけどー……大丈夫っすか?」
「は、はい、続けてください……いててて」

心配そうな表情をするイチカだが、気を取り直して話を続ける。

「一応7泊8日を予定してるっすー。もちろん貸し切りビーチに加えー豪華な別荘付きっすー」
「そ、それはまた随分と豪勢ですねぇ」
「ははー……リリィさんの『粋な計らい』っすよー」
「………」

イチカの悪い笑みに、ファルシロンは何も聞くまいと心に誓った。
ちなみにリリィさんというのは、寒冷地方で名を轟かせている大豪商グラキエスのこと。
(詳しくは『23品目』参照)

「あの、イチカさん…それ、あたしもついて行って良いですか?」
「もちのろんっすよーノ 最初からそのつもりだったっすよー」
「やった! イチカさんだ〜い好き♪ 後で尻尾モフモフしてあげますね!」
「い、いや…それは遠慮しておくっす……」

イチカは座っていた椅子を少し引いて後ずさる。

「それで店長、出発はいつ頃になるんですか?」
「あー、それなんすけどー……」

イチカはフイっと顔を逸らし、

「……明日の早朝っす」
「あぁ、明日ですか…………って明日!?」

突拍子もなさすぎて納得しかけてしまった。

「ほ、本当に明日なんですか!?」
「そっす」

さらっと残酷な事実を述べる狸店長。

「ど、どうしようお兄ちゃん! 7日分の荷造りなんて1日じゃできないわよ!?」
「い、いや、諦めちゃダメだ! 今から寝ずに準備すればなんとか……」
「あー、そのことならー心配いらないっすよー」
「「え?」」

イチカのそんな言葉に兄妹2人は同時に疑問する。

「食糧や遊ぶための遊具なんかはー全部現地に揃ってるっすー。だからシロさん達はー7日分の着替えとー水着だけ用意してくれればOKっすノ」
「そう、なんですか?」
「はぁ…良かった」

どちらともなく安堵の溜め息が漏れる。

「移動は半日列車になるっすけどー、その費用もリリィさんの『好意』でーあちらが負担してくれるそうっすよー」
「うわー、さすが太っ腹ですねぇ」
「………」

大豪商グラキエスの懐の深さに感心するリン。
一方ファルシロンは、『好意』の強調から何らかの悪意を感じ取っていた。
しかし彼はその違和感を心の奥底にしまい込んだ。
間違っても疑問してはいけないような気がして……。

「そーゆーわけっすからー、明朝までに準備よろしくっすーノ」
「はーい。あ、イチカさん、ロザリーはどうするんですか?」
「お嬢様は既にお誘い済みっすー。2つ返事で快諾してくれたっすよー」
「そうなんですか? てっきりお兄ちゃん絡みで置いてけぼりにするのかと……」
「チッチッチ……リンさん? 勝負はあくまで公平にっすよ?」

ですよねー!なんて会話を聞きながら、ファルシロンは旅への大きな期待と共に、拭い切れない一抹の不安を感じるのでした―――――





〜店長のオススメ!〜

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入手経路は極秘。

価格→オークション形式 30万エルから
13/01/29 10:54更新 / HERO
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■作者メッセージ
遂にここまできました!
次回は待望の新キャラ加入なるか……!?

たぶん更新遅くなりますノ

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