読切小説
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怒ってますか?笑ってますか?
「いらっしゃいませー!」

「安いの揃ってますよー?」

「奥さんお一ついかがですかー?」

ここは、大きな国の端っこに当たる場所にある商業街。
数ある店が所狭しと軒を連ね、自分の集めた品々を、はたまた自分で作り上げた品々を売り捌く事のみに重きを置く街である。
昔は街に名前なんかもあったらしいが、コロコロと変わり続ける市長の所為かいつの間にか街としての名前は消えて行く。
今となってはこの街の名前を覚えている者などそうは居ないだろう。
なにせ、腹の足しになりもしない。

「おとぉさん!これ!これ!」

「ちょっ!チコ待ってって…おっ?!これだ!探してた種!すいません、これください」

「あらあら、アナタすっごく目がキラキラしてる♪」

どうやらまた一人、この街へ金を注ぎにやってきたらしい。
家族連れのようだが、店員が内心焦っているのが動きで分かる。
何せ彼の両脇でキャッキャと笑っている親子は、どちらも魔物娘なのだから。
二人ともが同じ種族らしく、抜け落ちた花弁で作ったであろう洋服はとても妖艶で、そう「妖服」とでも言えばいいだろうか?
まぁ、それくらい派手な衣装を身に纏ったアルラウネの親子だったのだ。
どういう経緯か知らないが、全国に配布されている魔物娘大百科。
そのナンバリングで堂々のNo.001を飾っている植物種の魔物である。
その経緯は諸説あり、編修者の妻がアルラウネであると言うものから、果ては適当にナンバリングしているだけと言う説まで様々であった。
まぁとにかく、彼女たちはこうして今日も夫と言う名の財布を駆使して買い物を続けるのだろう。

「……しっかし、あっちも大変そうだよなぁ…」

かく言うこの私、「ラルフ・ウォーリー」もそんな商人たちと肩を並べて物を売る仕事に就いている訳で。
今現在はと言うと、そこらに落っこちていたような木の枝や石ころ等を加工して、日用品を販売している。
とは言っても売り上げは芳しくなく、売り上げた物と言えば奇妙な形の石をはめ込んだ弓矢くらいであろう。

「まぁ…こっちはこっちで大変かぁ…」

と、来る予定も無い客を待ち続けるだけで過ぎ去っていく時間を惜しみながらも溜め息を吐く。

「………」

「あぁ、タコだ…なんかスルメ食べたくなってきたな…」

「…………」

やっと客が来たかと思えば、その客はどうやら下半身がタコのようだった。
商品のどれかをジッと見つめながら自分の指を銜えて物欲しそうに、食い入るように見てるんだろう。
視界にタコの足が入って来た途端にスルメが食べたくなってしまうと言う事は、相当腹が減っているのだろうと分かる。
そしてこの客だが、どうやら何も言わず商品を見ているだけらしい。

「…(…ひやかしか?…)…」

「………」

尚も商品のどれかをジーッと見つめていた少女だったが、こちらとしてはいい迷惑だ。
客が来ないとは分かっていても、同じ客がこうも場所を独占していては、客が来る機会を潰しているような物だから。
もう少ししたら追い払ってやろうかと考え始めた頃。

「はぁ…はぁ……クト…やっと見つけたぞ?」

「……っ♪」

「なんだ子連れ…」

「夫婦ですっ!!」

人ゴミを掻き分けて、見た感じ頼りなさそうな男が走って来た。
どうやらこの少女の保護者らしい。
夫婦と言ってはいるのだが、どう見ても親子にしか見えないだろう。
だってこのスキュラの少女、抱き合ってるから分かるが男の腹あたりに頭のてっぺんが来るくらいの子供だ。
何をトチ狂ったら、こんな少女が妻と認識できるのかが理解出来ない。
まぁ、理解したくも無いが。

「…で、何を見てたのやら…」

「……っ…」

「ん?これ?いいよ。店主、これを下さい」

彼がそう言って無造作に並べられた日曜大工の品々から掴み取ったもの。
それは、つい先日歩いている途中で拾ったどうでもいい形の石だった。
ただ、流石に何も加工していない物を売ったとあっては店の名が廃ると言うもの。
この石にはちょっとした細工を施している。
掴む部分の中身を空洞にして、筒状に加工して少し余裕がある程の小さな石を詰める。
そこから伸びるようになっていた部分も空洞にして、上の部分に特殊な形の穴を開ける。
こうしてやることで、出っ張りを銜えて息を吹き込むと、中の石がコロコロと転がるのと圧縮された空気が外へ逃げ出して行くのとで、綺麗な音色が生まれる。
どこか遠い地では「ホイッスル」と言う愛称で親しまれる小道具である。

「はいよ。ついでだし……そうだ、これをこうして…」

「…っ………ふふっ♪」

「おぉ!ありがとう!それじゃクト、行こうか…」

決めておいた金額を受け取って、ホイッスルを手渡そうとしたその時。
手に持つホイッスルに少々の違和感を覚えたのだ。
見てみれば、手持ちの一部が少し出っ張っていて指圧にもよるが少し痛い。
これでは行けないと思い、手渡す直前にその手を引っ込め、適当な理由を付けてホイッスルの再加工を始める。
勿論嘘など言っている訳が無い。
出っ張り部分を少し削って先端を丸くしてしまい、その丁度真ん中を貫くようにノミで軽く叩いて穴を開けた。
そうして出来た穴へ毛糸の紐を通して輪っかを作り上げ、少女の首へかけてやる。
どうやら気に入ってくれたらしく、彼女は興奮気味にフフフと鼻で笑って笑顔を向けてくれる。
彼の方もどうやら気に入ってくれたらしく、お礼を言ってその場を去る時には手を振ってくれていた。

――――――――――――――――――――

「ふいぃ……今日もそろそろ店じまいに…ん?」

商会へ売上を報告し、税の納入やら恩賞の受取やらを済ませていたラルフはふと外が騒がしい事に気が付く。
いつもなら客寄せやら押し売りやらで躍起になっている商人たちの声が、ここまで聞こえてこないのだ。
それだけではない。
何かから逃げるような、断末魔に聞こえなくもない程にみっともない悲鳴の数々が建物の外から聞こえてくる。
商業関連はもう大体が商会への報告へ行っている、夜の8時くらいなのでもう客はいない筈だ。
暴利にブチ切れたケチな客が暴れている訳ではないとすると、どこかの行商が暴動の引き金だろうか?

「んぅむ……良くない気がするのぅ…」

「んぁ?どうしたんだよかいちょ…っ!?」

外に気を取られていたラルフが後ろに振り返ると、そこにはブツブツと小言を言いながらゴツい作りを誇るシェルターへいそいそと避難する商会の会長の姿があった。

「これで助かるのぉ…良かった良かった…」

「っ!おいっ!会長っ!?」

明らかにこの建物の中にいる全員は軽く入るであろうシェルター。
しかし、何を考えているのか分からないがこの会長、所属する商人から巻き上げた税金の袋と一緒にシェルターの中へ逃げ込んだではないか。
周りを見渡してみても、会長とその重役が数人あのシェルターに逃げ込んだだけで後の商人たちはこの建物の中へ取り残されていた。

「おいコラ会長!何考えてやがるっ!開けろぉ!」

「っざけんな!クソジジイ!」

「ひぐっ……な、何が何やら…」

金と地位に目が眩んだ老人たちによる保身。
その代償として支払われたのは紛れも無くここに居る商人の全てだった。
商人としての腕や経験を始めとして、その人の人生から積み上げて来た功績から全て、何もかも。
一から全てがあの保守的な老人たちの手によって断ち切られる。

「くっ……俺、こんな性質だっけか…?」

地面に膝をついて泣き崩れるまだ幼い少女。
壁に拳をぶつけてこの惨状を悔しく思いつつも腰が引けて動けない青年。
自分の荷物をかき集めて今にも逃げ出そうとしている男。
それらを見ていて、ラルフは吹き出物でも見るような嫌そうな顔をしつつも立ち上がる。

「みんな!ここから逃げるぞ!」

「……あ、あぁ!そうしよう!」

「ひくっ……逃げるって…?」

いつの間にか、ラルフは震えあがっていた人々をまとめ上げて声を上げていた。
その声に続くように一人、また一人と力を取り戻して行く。

「さぁ!こっちに…」

建物の裏手にある通用口を見つけ出し、そこの扉を開いて皆を誘導する。
先導としてラルフが一番最初にその扉を開いて飛び出す。
が、次の瞬間には後頭部に強烈な痛みを感じたかと思えばその場に叩きつけられた。
地面に勢いよく叩きつけられ、顔面が砕けたのかと思うほどだ。
だが、そんな事を感じる余裕も無くラルフは目の前が真っ暗になってしまう。

――――――――――――――――――――――――――――

「……うぅ…」

「ふんふふ〜ん……あっ、起きた〜?」

どうにも頭が痛くて仕方が無い。
まるでさっきまで脳震盪で倒れていたような。
そんな感覚だ。
誰かの声が聞こえる。
まだ小さい女の子だろうか。

「ほっ、良かったよぉぉ……死んじゃったとばかり…」

「いでででっ!?」

どうやらこの少女、照れ隠しなのか巻いている包帯を思いっきり締め上げて来た。
それにしても強固な包帯だ。
これだけキツく絞められても破れそうな気配が無い。
あと出来れば、この目隠しも取って欲しいものだ。

「…あっ!お姉ちゃんっ!あの人起きたよっ!」

「ふぇ?!ほ、ホントなのっ?!」

どうやら、この少女には姉がいたらしい。
遠くの方から別の足音らしきものが近付いてきた。
かと思えばすぐ傍でスッと座り込む微かな布擦れの音が聞こえる。

「え、えぇと…さっきはぶつかっちゃって本当にごめんなさい…」

「ええと…この際この格好は置いておいて、どうなったのか説明してくれないかい?」

「それが…」

こうして、彼女の口から色々な事が語られた。

彼女たちがアマゾネスと言う魔物娘の集落の者である事。
今日は月に一度の「謝肉祭」と呼ばれる男狩りの日だった事。
その標的にして怒涛の勢いで襲った街があの街であった事。
自分一人だけ男を捕えられずトボトボと歩いていた時につい足を滑らせ、その先にラルフが居た事。
現在、ラルフは結婚式と目された乱交パーティの順番待ちと言う事で拘束されている事。
ここがアマゾネス達の集落である事。

その他諸々の事を、すんなりと話してくれた。
まぁ、信じるかどうかはさておき彼女たちがアマゾネスであろうと言う事は何となく分かってはいた。
何せ甘ったるい匂いと共にどこか血なまぐささを感じさせる香りが漂っていたのだから。

「……」

「……あ、謝ったからねっ!?」

「ふぇ?んむっ!?」

話を頭の中で整理していると、急に彼女が声を張り上げてラルフの肩をガシッと掴む。
いきなりの事に動揺していたラルフを余所に、彼女はラルフの唇を奪った。
少し渇いていて、そして温かな唇が互いを高め合う。

「……そうだっ!えいっ!」

「んんぅっ?!」

「んぅっ?!」

それらの様子を隣で見ていたのであろう妹は、不意にラルフに取り付けられていた目隠しを取り払った。
悪戯心が荒ぶっての結果なのだろうが、それは功を相したようだ。
今の今まで真っ暗だった視界が開け、見えたのは妖艶な表情で唇を貪る一人の少女。
彼女もラルフの目のあたりが見えるようになって感じるものがあったのか、クチュクチュと絡みあっていた唇の動きが止まる。

「プァッ………だ、ダリアよ…」

「ふぇ?」

「だ、だから…ダリア・テレシアよ…」

ムッとした表情で、でも顔を真っ赤にしながら彼女が自己紹介をする。
正直に言ってしまうと、いきなり味わうキスに溺れてマトモに物事を考えられなくなっているのだが、彼女がそれを考慮してくれる筈も無い。
それはそれとして、さっきまで顔が至近距離にあって分かりづらかったのだが、彼女はとても美人だった。
こう形容する以外に、少なくともラルフは丁度良い言葉が見当たらない。
腰のあたりまで長く伸びた髪は艶があり、顔つきも女性らしさと色っぽさ、そして幼さやらを全て兼ね備えたような美しさ。
極めつけは、この恥ずかしそうにしながらもラルフから視線を離さないその目だった。
少々キツイ目つきではあるのだが、見つけた獲物を逃すまいとする視線とはまた違う、色っぽさを感じさせる。

「……っとと、俺はラルフ。ラルフ・ウォーリー。」

「…宜しくね、ラルフ…」

「これからも宜しくね、ラルフお兄ちゃん♪」

こうして、ほとんど拉致と言える形でラルフはこのアマゾネスの集落で過ごす事となってしまう。

――――――――――――――――――――――――――

あれから何の進展も無く、ただただ状況の把握に数時間を掛けていると集落のアマゾネスがやってこう告げた。

『ダリアとラルフの婚儀は明日に変更になった』と。

なんでも、激しく交わっていた夫婦が力を込め過ぎて婚儀の舞台に穴を開けたらしい。
腰を振る力だけで床に穴を開けてしまい、それ以降の婚儀は全てが中断・中止されて後日に繰り下げられたとの事。
全く持って迷惑な話だ。

「…で、でも良かったじゃない…」

「え?そうなのか?」

「お兄ちゃんに良い事教えてあげる〜♪」

知らせを受けてから暫くして、不意にその話を思い出してこの現状に至る。
三人とも木で作られた椅子に腰を降ろしている訳だ。
そして、この子はラルフの腕に抱きついていた。
彼女の名前は、話している間に聞いていた。
名前は「シャーリー・テレシア」と言うらしい。
姉のダリアと共に、先日の襲撃に加わって行った末に結局旦那を見つける事無く手ぶらで戻って来てしまった集団の一人らしい。
それもあってなのか、夫となる人間を連れて来たダリアを尊敬していて、それと同じ位に義兄となるラルフの事も好いているようだ。

「ここの結婚式ってね?夫か妻のどっちかがダウンするまで続けられるんだよ〜?」

「だ、ダウンって…」

「早い話が気絶ね」

キッパリと言い切ったダリアだったが、先程の彼女の言葉がこれでハッキリと分かった。
そもそも人間と魔物娘とでは体力に大きな違いがあるらしく、魔物娘の方が圧倒的に有利である事が多いらしい。
この集落で行われる婚儀の方法は、そんな夫婦の体力の差を全く考えていないと思える。
絶対的に夫の体力が尽きるまで性交は終わりを迎えることは無いのだろう。
それをイメージした瞬間、ラルフの背筋は氷を押しつけられたように冷えた感覚に襲われる。

「ね?大変でしょ?」

「全く、ウチの集落の上は何を考えて…」

「…まぁ、大丈夫でしょ」

ラルフの余裕綽々とした言葉にダリア達は、納得できないとでも言いたそうな表情をしながらポカーンとしてラルフを見つめた。
そりゃそうだろう、人間と魔物娘ではそもそも体力に差があり過ぎる。
これだけ明白な差を埋め得る知恵と技を、ラルフが知っているのかと疑いたくもある。
もしもそれを実行に移したとしても、それで問題を解決し得るとか限らない。
あらゆる問題点を導き出して、それらを考慮した上での答えなのかどうか、甚だ疑わしいものだった。

「そ、そんな簡単に…」

「そうだよー!すっごく大変な…」

「落ち付けって。当日までは秘密だから」

そう言うと、ラルフは二人へウィンクを送って無言の了承を求めた。
思惑通り、二人ともそのまま黙りこんでOKしてくれたらしい。
と言うよりここで信用してくれなくては恋人以前な気がしてならなかった。
お互いを信じて助け合い、補い合ってこその夫婦だと思う。

「……信じてるからね…?」

「あぁ、任せろって」

「お兄ちゃん、たっのもしー♪」

任せろ、その一言だけで何故だかダリアはラルフを心の底から信用する事が出来た。
根拠を説明もしてくれない男だと言うのに、その口調からは失敗に対する微塵の恐怖も感じられない。
自信に満ち満ちたその表情を見ていると、ダリアも自然に心の中に勇気がわいてくるのを感じる。

「はぁ……なんか、貴方の言葉って不思議よね…」

「不思議?」

「不思議ちゃん、みたいな?」

溜め息を一つ吐いてから、思った事を本人へぶつけてみる。
シャーリーのおふざけまでううん、と首を振って否定してから、もう一度口を開く。

「そうじゃなくて…こう……何でも出来る気がするって言うか…」

「へぇ……ん?今笑った?」

「おほっ!?」

一瞬、ダリアの表情が綻んでいた様にも見えた。
と言うより、どう表現すればいいのか分からないと言う風に虚空を見上げる彼女の表情は、どこか微笑んでいるようにも見える。
それを指摘してやれば、どうした事だろう。
シャーリーはまるで「待ってました」と言わんばかりに可笑しな声を上げてダリアの方へ視線を送る。

「っ!?わ、笑ってないっ!」

「ちょ!そんな怒らなくても…」

笑っていたのをからかわれるのが嫌なのか、彼女はハッと気付くとラルフを物凄い形相で睨みつけて来た。
怒り狂う獣のような眼光で睨む彼女に、ラルフはついたじろぐ。
気が付けば、シャーリーの姿も見えなくなっていた。

「怒ってないっ!」

「そうか、よかった…」

「っっっっ!?!?!?」

ムスッとした表情でラルフからわざとらしく視線を外すダリアの頭を、先程の誤解の件も含めて謝るついでにと頭を撫でてやる。
少し手を滑らせると角に当たってしまう彼女の頭を、ラルフは狭いと感じていた。
だが、それは決して不愉快な物だったりはしない。
むしろ可愛らしく思えてしまうくらいだった。

「なっ、ななななな…」

「じょーじょー…」

「何を言ってるんだ…?」

顔を真っ赤にして、慌ただしく口を動かすダリア。
それに合わせて、シャーリーが鼻歌でも歌う様なリズムに乗せて何かを歌い出す。
もしかしなくても、これもシャーリーの悪ふざけなのだろうか。
なんだか彼女にマイナーなサブカルチャーについての問題を出してみたくなる。
でもそんな事をけしかける程ラルフはバカでも愚鈍でも無かった。

「…と、ところでなんだけど…お腹空かない?」

「あぁ、確かに言われてみれば…」

「お腹ぺこぺこ〜!」

一瞬の間を沈黙が行き過ぎるが、それもダリアの一言で終わりを告げた。
きっかけは、何事もほんの些細な事が重要なんだと思う。
何しろ気が付けば温かな家庭の日常へ溶け込みつつあったのだから。

「よ、よぉし!こうなったら私が…」

「ヤメロー!シニタクナーイ!」

「おいおい、そんな物騒な…」

「そ、そうよっ!私だってたまには美味しい料理くらい作れるもんっ!」

こんな会話が10分くらい続いた頃だっただろうか、ラルフはダリアの料理を評価する為に色々言ってシャーリーを言いくるめた。
元々は商人なラルフである。
そういう話術に関してはずば抜けた才能を持つ。
あっという間にシャーリーはラルフの言う事を聞くようになった。

「むぅ……お兄ちゃん、どうなっても知らないからね…?」

「大丈夫だ、問題ない」

「プッ!そっ、それっ……死亡フラグwwww」

大丈夫だと言うのにこの少女と来たら、なんと失礼なのだろうか。
しかもご丁寧に人を指差して、腹を抱えて笑っている。
こんな時のラルフの対応策、それはそっとしておく事だった。

「――さぁ、出来たわよっ!」

「遂に…遂に来てしまった…」

「どれd……何作ったんだ?」

暫くして、ダリアが皿に『何か』を乗せて戻って来る。
先程まで香ばしい香りと美味しそうに炒めるジュウジュウとした音がここまで聞こえていたのだから、それなりの物は出来ているはず。
そう考えたラルフは、自分の愚かさを今此処に痛感したのである。

「我が家直伝・ホイホイチャーハンよ!」

「あぁん?ホイホイチャーハン?」

「……一応聞くが、これがか?」

もうこの際、シャーリーのネタ発言には全面的に目を瞑る事にした。
それはそれとして、ダリアの運んできたこのホイホイチャーハンなる物体。
どこからどうみてもそれは単なる炭の煮っ転がしだった。
黒焦げの粒っころにトロトロと濁ったあんかけを垂らし、味付けのつもりだろうか。

「しっ、失礼ねっ!食べないならそう言いなさいよ!私が食べて……」

「仕方ないね」

「あっ!おい!…大丈夫か…?」

作って来て散々な言われようをして、むかっ腹が立ったダリア。
怒りに身を任せてラルフから皿を引っ手繰ると、そのまま消し炭のあんかけを口の中へ放り込む。
ジャリッとここまで聞こえるような雑音と共にダリアの顔が強張る。

「…………」

「お姉ちゃん……大丈夫…?」

「………ダリア…?」

一口噛んでからというもの、動きが止まって壊れたからくり人形のようになってしまったダリア。
まぁ、そのリアクションからして自身の作った物がどれだけ不味かったのかを理解してショックだったのだろう。
そこから暫くの間、彼女はロクに口を聞こうとはしなかったのだった。

――――――――――――――――――――――

そして迎えた翌日。
その頃にもなると、さすがにダリアの機嫌も直りつつあった。
自分の壊滅的なまでの料理センスを改めて実感し、反省が回りに回ってどうでもよくなったのだろう。

「う〜ま〜い〜ぞ〜〜〜〜!」

「………おいひぃ…」

「そりゃどうも…」

朝の一日は朝食から始まる。
今、三人の囲む食卓の上には卵や野菜を用いた料理が丁度良いほどの量で並べられていた。
どれもこれも、ラルフが彼女達の家の厨房を借りて作った物である。
それにしてもこの妹、今にも口からビームか何かを出してきそうだ。

「はむっ!はふはふっ!はふっ!…ふぃぃ、ごちそうさまぁ!」

「ごちそうさま……美味しかったわ…」

「おそまつさま……ダリア、元気ないけど大丈夫か?」

「ふぇ…っ?!」

あっという間に朝食が終わって、ラルフは食器を片づけ始める。
アッパレな食いっぷりを見せつけて満腹になったシャーリーは、既に椅子の上で満足そうな表情をしながらグテーっと椅子にもたれ掛って寛いでいる。
それと比較してみると良く分かるが、明らかにダリアの様子がおかしい。
朝食もしっかり食べたし、むしろ元気が出てもいいくらいだと言うのに、彼女は元気の無い表情で俯いているのみ。
ラルフが心配して顔を覗きこんでもそっぽを向いて、何も話そうとはしてくれない。
だが、ラルフはその時にしっかりと彼女の横顔を見ていた。

「ゲプッ………笑えば、いいと思うよ?」

「えっ?」

口元が困ったように閉ざされているのに、僅かにつり上がってピクピクしていて、何かを我慢するような口元。
耳まで真っ赤になって、多分頭の先っぽまで血が上り切っている顔。
そして何より、横顔の隙間から見える泣きたいとも笑いたいとも思えるその表情。
最初の方でこそ、先日の自分の料理のデキに落ち込んでいるのかと思っていたが、真相は大分違うようだ。

「お姉ちゃんはね?昔っから笑顔が苦手なんだよ〜」

「っっっ!?!?う、うるさいうるさいうるさいっ!」

「なるほどなー……っ!ダリア、ちょっといいか?」

事実をありのままシャーリーの口から聞かされて事実を知ったラルフ。
それに半狂乱と化してシャーリーを止めに掛かるダリアだった。
するとここで、ラルフに天啓とも思えるような妙案が浮かび上がって彼を突き動かす。

「な、なに…んっ…」

「わぉ!」

「……」

ラルフに呼ばれて、半ばムキになりながら振り向いたダリアの唇を、ラルフはあっという間に奪う。
しかも、おはようのチューとかそういった軽いキスではなく、舌を絡ませ合うような深くて濃くて淫らな口淫を。
クチュクチュとダリアの口の中を蹂躙し始める頃には、ダリアの表情もすっかり変わっていた。
戦士としての彼女でも、料理がヘタクソで落ち込む彼女でも無く、男を愛する一人の女性として。

「ラルフ!ダリア!両名の婚儀を、ここに開始するっ!」

「ふぁ?!ぞ、族長っ!?」

まるで始終全てを見ていたかのようなタイミングで、アマゾネスの族長が数人の同族を引き連れて扉を乱暴に突き開いた。
それと同時にぞろぞろと家の中へ入って来る同族やその夫たちで、あっという間にダリア達の家はすし詰め状態になってしまう。
その中心には、案の定ダリアとラルフがキョトンとした顔で周りの状況を半ば信じられないと言った具合に見回す。
シャーリーはと言うと、ビックリしていた表情は今となってはどこへやら、今は周りの者たちと同じように事態を面白がりつつも卑猥な笑みに顔を歪ませている。

「……どう言う事ですk…んむっ?!」

「んんぅ…………ぷぁ……ラルフ…ラルフゥ…」

「さぁ!今日一番の祝祭だ!」

「おーっ!」

そうして、ダリアとラルフの婚儀を祝する祭りは幕を開け、一つの家屋から歓喜の声が湧きあがった。

―――――――――――――――――

「……はぁ…はぁ……うぅ…だ、ダリア……ぁあぁ…」

「はんっ!ラルフっ!ラルフ…ッ……っっ〜〜っ…」

あれから、一体どれだけの時間が経っただろうか。
通常、こういった婚儀などはこの集落の中心部にある大きな円形の部隊の上で行われるしきたりらしいが、今回に限っては、先日の事故によってその舞台は使用する事が出来ない。
故に、もうここで始めちゃえ的な発想からダリアの自宅にて今回の祝祭は開かれている。
急きょ用意された台座の上に寝そべって、二人が繋がっている姿が集落の住人全員に晒されている。
本当だったらあまりの恥ずかしさにエッチぃ事をしようなんて言う気概から何から吹っ飛んでしまうだろうが、今回は違う。

「っあぁ……んぅ……や、やっぱりはずかし…んぃぃっ!」

「ふむ、もう効果が薄れてきたか……どれ、次の実だ」

「はぁ〜い♪お姉ちゃん?いっくよー?はむっ♪」

苦しむラルフの上で腰を振りつつも、ダリアの心の中には周りから見られている事への羞恥心がブレーキを掛け、性交を中断してしまいたいと言う気持ちが募り始めていた。
それを読み取った族長は、指を鳴らして部下のアマゾネスにとある物を持って来させた。
ブドウのようにも見えるソレは、しかしブドウとは違う点がいくつも見られた。
まず、ブドウ色と言うか紫色とは少し違う色をしているのだ。
禍々しく、どこか厭らしさを感じさせるその色はブドウのソレと似てはいても全く違った色合いを見せていた。
その先端からほど近い場所から一粒もぎ取ると、その一粒をシャーリーに手渡す。

「んぅぅっ?!……ゴクリッ……ぷぁ…らりゅふぅぅ…もっとぉぉ…」

「んん〜♪効果てきめーん♪おにいちゃーん、キスしよー?えへへー♪」

貰った果実をパクッと食べてしまったシャーリーは、口の中で実を噛み潰すとダリアとキスを交わした。
それも、家族の挨拶の様な軽い物ではなく、舌と舌を絡ませ合うような濃厚な物だ。
グチュグチュと唾液の弾けるなか、シャーリーは先程噛み潰した果実を、そっとダリアの口内へ放り込む。
当然、口の中にいきなり異物が入って来てしまっては驚いて呑み込んでしまうことだってあるだろう。
甘い汁と柔らかな果実を呑み込んで、ダリアの思考はトロリと蕩けてしまい、自我よりもラルフとの快楽を貪る心がまたも返り咲いて彼女を破滅的な迄に淫らにさせてしまう。
シャーリーの方も、最初に口に含んでいたせいなのか、目がトロンとしていて、淫らな事にしか興味が無さそう。
事実、ラルフの頬へ指を滑らせて顔を近づけてくるのだから。

「こら、シャーリー。儀式のジャマをしてはいけない」

「……はぁーい………そろそろだよ、お兄ちゃん?」

「うぁ……はぁ…はぁ……そ、そうだな…」

ふてくされたように頬を膨らませながら、シャーリーは衰弱しているラルフから手を離し、一度耳元でボソリと呟く。
その合図をきっかけにして、ラルフは残された力を振り絞ってなんとか起き上ってダリアをギュッと抱きしめた。

「はぁ…あはぁぁ……らるふぅ…?」

「うぐぅ……だ、ダリア…聞いてくれ…」

「おっ?どうしたラルフ君?」

「いっちゃえー!」

今の今までダリアの優勢のまま揺らぐことの無かった二人が、いきなり抱き合って場の空気が少し変わったように感じた。
まぁ、それでも周りのみんなの視線がドキドキとした期待や快楽に満ち満ちた眼差しに変化は無かったが。

「か…感じて、真っ赤になってる……ダリアの顔……すっごくかわいい…」

「っっっっ?!」

そう彼女に伝えた途端、ダリアの様子が一変した。
今まで気持ち良い事だけ考えていて、他には眼も暮れずにただただラルフとの性交を楽しんでいたダリアから、今はガチガチに緊張して見動き一つ出来なくなったカエルのようになっていた。
ギュッと絞められた膣の刺激に、耐えきれず射精してしまうラルフだったが、それでもなんとが持ち堪える。

「うぐっ……そ、そんなダリアが……俺は…大好きだ…」

「っっっつっ〜〜〜〜っ…」

「きゃーーー!言っちゃったーっ!」

多少外野が五月蠅くはあったが、そんな小事などどうでも良くなるくらい、ダリアの心の中は花畑が咲き乱れていた。
思い人と繋がりながら、愛の告白を受けて高鳴る胸が今にもはち切れてしまいそうなくらいだった。
頭の中は真っ白になって、ラルフの事以外何も考えられなくなって行く。
そして、心の中で何度も何度も、「大好きだ」の部分が繰り返されて止まらない。

「まだ……まだいくぞ……うぉぉぉぉ!」

「っっ?!んひぃぃ!」

「おぉっ?!」

ギュッとしっかりダリアを抱きしめたラルフは、残る全ての力を振り絞って、思いっきりダリアの膣を突き上げ始めた。
今まで自分がリードしていたダリアからすればそれは、自分のペースとは全く違ってとても早く、なにより敏感な所を的確に抉られる感触は天にも昇るような感覚だっただろう。
グチュグチュと互いの粘液が混ざり合う音に加えて、腰同士がパンパンとぶつかる音も激しく響く。
台座の最前列から頭だけ覗かせてその様子を見ている子供たちの目は爛々と、いやギラギラとした輝きに満ちていた。

そこから、ラルフの猛攻は始まるのだが…

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ぱぱー!行ってくるねー!」

「あぁ、いってらっしゃい」

「おとーさん、私も……いい…?」

「うん、いいとも。ほら、お姉ちゃんも待ってるぞ?」

「……うんっ!」

あれから、一体何年の月日が経っただろう。
幸せな家庭を築き上げたラルフ夫妻は、今となってはこのアマゾネス達の集落の立派な一員となっていた。
それどころか、ラルフはこの集落の中ではちょっとした有名人になっていたのだ。

「やっ!『英雄』さん!子供たちの送り迎えかい?」

「ええ、そうですよ?」

一人のアマゾネスがラルフへ話しかけて来た。
どうやら狩猟から帰って来たところらしく、背中からは弓を提げていて腰には大きな袋をぶらさげていた。
きっとその大きな袋の中身は数日もしないうちに集落のみんなの胃袋へスッポリ収まってしまうのだろうと思うと、中身が血みどろの獣たちだったとしても恐怖はあまり感じなかった。
出来れば既に製肉を済ませた後のものだとイメージも「グロテスク」から「おいしそう」程度には好転するだろう。

「…ところで、英雄って呼ばれるのはちょっと…」

「なに言ってるのさ!私は久々に見たよ?婚儀式で魔物を圧倒しちゃう男なんてさ!」

彼女の説明は胆略的だったが、それでいて核心を付いているのも事実であり同時に虚偽の出来事でもある。
あの時、ラルフの一言で心から籠絡されたダリアは、そのまま嬉しさと恥ずかしさから動けなくなってしまったのだ。
その隙を突くようにして、ラルフは彼女へ最後の力を振り絞って攻勢へと出た。
ただでさえ興奮と快感で身体中が快楽に敏感になっていた上へ、激しい攻めが加わった事によってダリアは歓喜と狂乱に満ちた声でラルフを呼び、快楽に溺れていたものだ。

「圧倒って……その後のも見てたんじゃないですか?」

「あぁ、そりゃモチロン!」

快感と愛欲で心の中が満たされていく感覚に酔い痴れていたダリアだったのだが、いつの間にか、ラルフの体力は消耗していき気が付けば攻守は逆転していた。
つい先ほどまでダリアの膣奥を抉り穿つ勢いで突き入れていたラルフの動きは疲労から来る倦怠感で緩慢になっていき、逆にダリアはもっと快感を味わおうと自分から腰を振るようになりはじめていき…

「あそこまで潰れた旦那さんも珍しいもんだと思ったモンさ!」

「笑い事じゃないですよ、もぅ…」

終盤にもなると、ラルフはピクリとも動けずただただダリアの動きに引っ張られる様になるだけになり、逆にダリアは更なる快楽を求めて激しく腰を振るようになっていた。
最終的にはラルフは満身創痍となり、ダリアも体力が尽きて疲れ果て満足するまで続けられた訳だ。
途中で途切れてしまうような事態になる事無く続けられただけでも稀なケースらしく、その上で少しの間だけでも魔物娘を圧倒する程の力を見せつけたラルフは、集落の魔物娘たちから『英雄』または『ヒーロー』と呼ばれるようになっていく。

「…おっ?噂をすれば、だね。この幸せ者めっ!」

「な、なにがです……がはぁっ?!」

「ラルフ〜〜っ!ごめ〜〜んっ!」

「おとーしゃん!つーかまえたっ!」

電光石火のごとき素早さで、一人の幼い少女がラルフの横っ腹へ突撃してきた。
無防備だったラルフは、そのまま抱きついてきた少女もろとも吹っ飛ばされて地面へ叩きつけられる。
今までのラルフならば身体中の激痛に起き上る事すら出来ずにいただろう。
だが、今の彼は立派に成長していたと言えるだろう。
そのまま起き上って、座ったままの状態で今度は少女のほうを抱きしめ返してやったのだから。

「それじゃ、私はここらで失礼するよ」

「はい、それじゃ…」

「おとーしゃん!ぎゅーってしてー!」

「………ら、ラルフ…」

いつの間にか一人減っていたこの場に、家族が集まっていた。
一人はキャッキャと笑いながら自分の父へ愛情を振りまいてくれている可愛らしい女の子。
そして、その少し離れた所に夫の良き妻であり大黒柱であり強靭な戦士である…はずの女性が顔を真っ赤にしてモジモジとしていた。

「まったく…ダリアは可愛いなぁ、もう!」

「か、かわ……う、嬉しくなんかないんだからねっ!」

そうは言うダリアだが、彼女の顔は怒っている訳では無く、むしろ満面の笑みに満ち満ちていた。
これでは笑っているのか怒っているのかわからない。
まぁ、家族からすれば照れ隠しである事は一目瞭然なわけだが。

そうして、ラルフ一家は幸せな生活を続けていくのだろう。
ずっとずっと、家族への愛の尽きる事無く無限に近い時間をずっとずっと…

 あなたは今、怒ってますか?笑ってますか?

fin
13/11/14 19:03更新 / 兎と兎

■作者メッセージ
全然更新ありませんでしたが、やっとの事で書けた物がこれですよ!あまあまなココアが恋しいです

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