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私の嫌いなお父さん

キーンコーン、カーンコーン♪


フロル小学校、夕方のホームルームの時間です。
4年3組でも担任…グリズリーのクラ先生が、蜂蜜の入った壺に手を入れながら
下校前の生徒たちに連絡事項を話しているところ。

「は〜いみんな、前から言ってるけど、来週の月曜日は授業参観ですよ〜。
でも〜、授業参観の日までにひとつ『宿題』を出しますよ〜。」

宿題という単語を聴いた瞬間、何人かの生徒が嫌そうな顔をする。
いつの時代も子供は宿題が嫌いなのですね。

「みんなには〜、作文を書いて来てもらいま〜す。」

更に嫌そうな顔をする生徒が増える。
だって作文なんてめんどくさいもんね。

「題名は〜『自分が尊敬する人』ね。誰でもいいから
自分が一番好きな人のことについて書いて来てくださ〜い。
授業参観の時に発表してもらいますからね〜。」

そしてこの公開処刑宣言である。なんたる無慈悲!
…いや、少々大袈裟でしたね。
でもやっぱ子供にとっては嫌なことこの上ない。

「じゃあ今日のホームルームおしま〜い、日直さん挨拶して〜。」
「はーい」

今日の日直のリザードマンの女の子が立ち上がると、号令をかける。

「きりーつ!」

ガタガタガラガラガンガタンズシャーガタゴト(←生徒たちが立ち上がる効果音)

「れー!」
『ありがとーございましたー』
「は〜い、みんな気を付けてかえってね〜。」


本日の『義務』を終えた子供たちは、各々帰りの支度をして
そそくさと帰るなり、その場で友人とだべり始めるなり、自由の身となるのです。



さて、今日日直を務めていたリザードマンの女の子。
若葉のような黄緑の鱗に小学生女子としては珍しい167pと長身で、
左を歩く人虎ちゃんと右を歩くイエティちゃんよりひときわ目立っている。
彼女の名前はメーリスちゃん。フロル小学校に通う小学4年生なんです。

「めーちゃん、今日何して遊ぼっか?」
イエティのマトレアが腕を後ろに組みながら、
授業終わりのやや眠そうなテンションで話しかけてくる。
「んー…とりあえずバシラおばあちゃんの紙芝居をみるでしょ。」
「今日は何味かな!たのしみたのしみ!」
人虎のネルは、紙芝居屋さんが用意してくれる水飴が毎日の楽しみで、
マトレアとは逆にすでにハイテンションで鞄を振り回してます。
「そんでもってそのあとは、『自警団ごっこ』しよう!」
「いいけどさー、たまにはあたしが『たいちょー』やりたい!」
「だめー!私が『隊長』やるもん!」
「ネルだってー!」

さっそく、遊びの役割のことで揉めはじめる小学生三人。

カッカッカッカッカッカッカ

そこに、拍子木の軽快な音が響きます。

「あ!紙芝居はじまるー!」
「かみしばいー!」
「みずあめー!」

三人の女の子をはじめ、他の小学生たちも
この音を聞きつけてあっという間に校門の近くで拍子木を鳴らしてるおばあさんのところに集まります。
フロル小学校名物、バシラおばあちゃんの紙芝居がはじまります。

「まあまあみんな、今日もよく来てくれたわねぇ。」
「おばあちゃん!お話聞かせてきかせて!」
「あめちょーだい!」
「はーいはいはい、慌てないで順番に並ぶのよ。
今日の水飴はなーんと、パイナップル味なのよ〜、
ほ〜らぱいんぱい〜ん、ぷるんぷる〜ん♪」

見た目60代後半くらい、やや白髪が混ざる紫の髪のふくよかなおばあさん、
紙芝居屋のバシラおばあさんは、この町にしては珍しい人間の女性です。
周りの女性が魔物娘ばかりなので相対的に老けて見えますが、その分貫禄があって
時々子供たちの簡単な相談役になったりもします。

紙芝居が終わった後、早速何人かの子供たちから
今日の宿題についての相談を受けました。

「あらまぁ。作文の宿題?たいへんねぇ。
私も子供の頃、作文とかよくやらされたわねぇ。」
「それでね、尊敬する人について書くんだって!」
「偉い人のことじゃないとだめなの?」
「好きな人なら…5組のター君でもいいの?」
「あらあら、そんなに難しく考えなくてもいいのよ。
でもせっかくの授業参観だから、お母さんやお父さんのことでもいいんじゃないかしら?
もちろん先生だったり、なんならおばあちゃんだっていいのよ。」
「そっかー。じゃあ私お母さんのことを書けばいいのね!」
「わたし〜、バシラおばあちゃんのこと書いてみる〜。」
「おっほっほ、うれしいわね。でもね、尊敬する人のことだから、
ちゃんと面倒くさがらないで丁寧に書くのよ〜。」
『は〜い。』


「そっか、お母さんのことでもいいんだ。」

メーリスはさっそく、宿題の内容が決まったようです。
 
 
 
 



メーリスの家は学校から歩いて10分くらいのところにあり、
シンプルな二階建ての家で、ちょっとした広さの庭も付いています。
その庭には何本もの木刀と数本の真剣が用意してあるのが特徴で、
道場でもやってるんじゃないかというくらい、使い込まれた道具が置いてある。

「おっと、おかえりメーリス。」
「おかーさーん!ただいまー!」

メーリスが家に着いたとき、ちょうどおかあさんが玄関から出てきた。
メーリスのお母さん、イレオーネはメーリスにも増して長身で、
厳しい訓練で鍛え上げられた体はまるでドラゴンのよう。
そのうえ薄いが頑丈な素材で作られた鎧に人の体ほどもある大剣を装備している。
どこからどう見ても中ボス以上の存在にしか見えないこのお母さんは、
なんとこの町の自警団の隊長を務めていたりする。

「丁度いいところに帰ってきたねメーリス。実はお母さん、
ちょっとこれから夜の見回りに行かなきゃならないから、
お父さんと一緒に夕飯食べててくれるかな?」
「えーっ!お父さんと!?」
「いいかい、お母さんは今忙しいの。だからいい子でお留守番しててね。」
「はーい…」

お父さんと一緒に留守番、と聞いた瞬間一気に不機嫌になるメーリス。
魔物娘の家庭でお父さんが嫌いという子は非常に珍しい・・・
(その逆や一線を突破した親子はよく見るが)
しかしそれには理由があり…


「ああ、メーリスか。おかえり。」
「おとうさん!また昼間からお酒ばっかり飲んで!
それに読んだ本も散らかしっぱなしで!ちょっとは自分でかたづけてよね!」
「なんだ…ただいまって言ってくれないのか?」
「ふんだ。」

メーリスのお父さん、レンリ。一言でいうならおっさんニート。
一日中酒浸りの上本ばかり読んでいて、切らない髪の毛はぼさぼさ、
そらない髭は伸び放題。そりゃこんな親、尊敬できるわけがない。
それでいてなぜか妻はこの町で最も強いと言われる自警団隊長のイレオーネ。
一体全体何がどうすればこんな組み合わせが出来たのか…
魔物たちですら不思議がるくらいのギャップがある。

「宿題やるんだから邪魔しないでね。」
「おいおい、邪魔なんてしたことないだろう。邪魔するのも面倒だ。
…………………で、その宿題ってのはなんだ?作文か?」
「なんでわかるのよ。」
「そりゃあだって、作文用の原稿用紙なんか取り出してれば
やることは決まってるぜ。そうかそうか、もうすぐ授業参観だしなぁ。」

ところがこの父親は時折妙に鋭いところがあるのも曲者である。

「そうよ!私が一番に尊敬するおかあさんのことについて書くの!」
「俺のことは…」
「一文字も書かないからね!」
「だと思ったよ。」

再び読書に耽り始める父親を尻目に、作文を書き始めるメーリス。
この時点で彼女の中では授業参観にお母さんのイレオーネが来てくれることが
確定していて、授業参観の発表でどれだけ尊敬しているか
お母さんに聞かせてあげるべく一生懸命鉛筆を走らせていた。
 
 
 
 
 
ところが……
 
 
 
 
「ごめんよメーリス。おかあさん、授業参観に行けそうにないや…。」
「えええっ!?」

次の日土曜日、イレオーネは重要な仕事が入ってしまったらしく
月曜日の授業参観に出れなくなってしまった!
メーリスにとっては想定外の事態である。


と、いうのも昨日の夜の緊急自警団会議にて…


「今日みんなに集まってもらったのはほかでもない、
最近この地域を荒らしまわっている火付盗賊団がこの町に潜伏している
という情報がボクの耳に入ったからだ。」
なお、本来イレオーネは一人称が『僕』らしい。
「まさか…近隣の三都市で大火災を起こして過激な盗賊行為をしているという…」
「隊長!それが本当なら今すぐに住民たちに知らせるべきでは!」
「でもそれをしてしまうとかえって混乱して奴らの思う壺…」
「盗賊団の正体は分かっているのですか?」
「詳しいことはボクもつかんでいない。けど、二週間前に起こった
火事場強盗事件で偶然捕まえた犯人の一人を取り調べたら、
どうも火付盗賊たちの黒幕がこの町を根城にしているとか……
ついこの前サバトを通じてボクの耳に入ったばかりさ。」
「なるほど、だとすれば野放しにはできませんね。」
「一刻も早く捕まえないと、この町も危ない!」
「そこでだ、皆には悪いけど確認が取れるまで警備の時間を増やしてほしい。
この町の安全の為なんだ。私も授業参観が……」
「許すまじ火付盗賊たち!よくも私と夫の蜜月の時間を…!」
「頑張りましょうおかしらっ!」
「だれがおかしらかっ!?」

イレオーネも娘の授業参観に出たいのはやまやまだが、
町の住人には秘密で厳戒態勢を敷いているので残念なら参加できなそうだ。



「むう…。じゃあ、うちだけ親がでないってこと?」
「なに大丈夫。代わりにお父さんが行ってくれるから。」
「お父さんだったら来ない方がまし!」
即答でした。
「まあまあ、そう言わないでさ。お父さんだってやるときはやるって。
それにお父さんはお母さんよりも強いんだから、何も心配することはないよ。」
「全然信じられないよ!それに見た目だって山賊みたいだしー!」
「こーら、文句ばっかり言ってると、大きくなっても自警団に入れてあげないぞ。」
「それはこまる……。」
「まあそうはいってもあのまんまじゃ確かに困る。お父さんには明日、
床屋さんに行ってもらうように言っておくから。ちゃんといい子にしててね。」

仕方なく、仕事に行くお母さんを見送るメーリス。
残念なことこの上ありません。

「あ〜、なんだ。イレオーネはもう仕事に行ったのか。」
「おとうさん!歯を磨いて!顔洗って!お風呂入って!家から出ないで!」
「8時かよ……。やれやれ、じゃあたまには床屋に行ってくるかな。
髪の毛をこれ以上のばしてても面倒くさいしな。」

そして相変わらずだらしないパジャマ姿のお父さん。
本当にお母さんはどうしてこんな人をお父さんに選んだんだろうか?




んでもって次の日ー。


「はぁーあ、おとうさんもう少し離れて歩いてよ。親子だって思われちゃうじゃない。」
「メーリスはいつからそんな、突っ込みどころ満載の言葉を放つようになったんだい。
お父さん悲しくてお酒飲みたくなっちゃうよ。あと本があればなおよし。」
「これだからもう…。」

日曜日は、実に数年ぶりのお父さんと一緒に外出。
なんというか、インキュバスも多いこの町では町の男もみな若く見えるのに、
この父親だけはひっじょーにおっさんくさい。
ある意味廊下でバケツを持って立っている以上に恥ずかしい。

「にしても自警団のみなさんもご苦労なこったな。こんな休みの日も仕事なんて。」
「おとうさんも少しは見習ったらどう?お仕事しなさいよ。」
「お父さんはもう昔してたお仕事が嫌になったから二度と仕事はしないんだ。」
「どーせ山賊か何かでしょ。」
「あのなぁ…。」

と、そこに自警団の一員のオークが血相を変えて駆け寄ってきた。
何事かと思った二人の目の前で……

「先輩!この人すごい怪しいです!例の放火魔じゃないですか!」
「こらこら…その人はうちの隊長の旦那様だ。」
「え!?」

なんと自警団にまで不審者扱いされたが、
先輩のミノタウルスに慌てて止められた。

「しつれいしましたー!」
「どうもすみません。」
「い、いやいや……仕事熱心でいいとおもうよ。ははは…」
「……………」

娘との距離がまた一気に広がった瞬間であった。 
 
「ほらおとうさん、あそこの角を曲がれば床屋さんだから。
ここからひとりで行けるでしょ、さっさと行ってきなさい。」
「娘に言われるのはなんか情けないな。迷子にならないようにね。」

学校の近くで父親と別れ、ようやく息苦しい雰囲気から解放されたメーリス。
だが彼女にもこのあとやることがある。

「さーてーと、明日着ていく服何にしようかなー。」

そう、明日着ていく新しい服を買いに来たんです。
せっかくの目立つ場なんだからたまにはうんとおしゃれしていかないと。
幸い学校は女生徒のお洒落には寛容だ。
ついでに女教師の露出にも寛容だけどあまりかんけいないかもしれない。


そのあとたっぷり一時間、限られたお小遣いの中で服を選んだメーリス。
最終的に紺色のロングセーターに赤いチェックのスカートで決めてみました。
あとはお気に入りの白とピンクのニーソを合わせて、完成!
服をセッティングしてくれた絡新婦の店員さんも大満足の出来です。

「うっふふふー!またかわいくなっちゃってどしよー♪
あ、そうだせっかくここまで来てるんだからおかあさんに見せてあげよう!
授業参観に来られないならせめて今見せてあげてもいいよね!」

店を出たメーリスはさっそく自警団の詰め所がある方へ向かいます。
この店から詰所へ向かうには一度学校の方に戻って大通りに
出たほうが分かりやすいのですが、メーリスは早くおかあさんに
着ている服を見せたいので近道をすることにしました。

普段はあまり人が通らないひっそりとした住宅地の裏通りを通り抜けるメーリス。
たまに家と家の間にちょっとした隙間があり、子供ならではの小回りを生かせば
ちょっとしたショートカットになるのです。

ところが、その途中で彼女は意外な人を見つけます。



「ん?あれって…?」

そこにいたのは、いつも放課後の学校でよく見かけるバシラおばあちゃんでした。
バシラおばあちゃんがどうしてこんなところにいるのだろうかと思っていると、
フッと細い通路に姿を消してしまいました。
気になったメーリスはそのあとを追って細い通路に入り込みます。
近所に住む人たちすら滅多に通らないであろう薄暗い裏路地を進んでいくと、
何やら複数人の声が聞こえてきます。



「……まあまあ、あの子ったら捕まっちゃったの?」
「尻尾をつかまれる前に始末しようと思ったんですがねぇ。やれやれですよ。」
「その上この町の警戒網も強化され始めてます。そろそろ潮時かと。」

通路の行き止まりでバシラおばあちゃんと話しているのは、
ウエイターの格好をしたヒョロ長の男性と、ウエイトレスの格好をした三十代の女性。
あの二人は確か町はずれの寂れた喫茶店を経営していたはずだ。
しかも会話の内情がどことなく怪しい……
メーリスはもう少し近寄って話を聞いてみる。

「私としてはまだまだ物足りないのよねぇ。でも私たちまで捕まったら
元も子もないわけだし、残念ながらこのあたりで撤退なのよね。」
「都市を三つも焼けば『結果』はある程度あったと上層部も判断されるのではないかと。」
「でもそこはせめて『四つ』にしましょうよ。幸いまだ完全にばれちゃいませんし、
それによく言うでしょう『泥棒がばれたら火をつけろ』って。」
「ミンメーショボーですか。しかし今やってもきっと効果は薄いと思います。
ここの自警団の練度はほかの町に比べて格段に高いですし。」
「お土産なら別の物でも構わないわ。そうねぇ、例えばそこにいる子なんてどうかしら?」

(!?)

盗み聞きしているのがばれた!
メーリスは本能的にこれはまずいと思ったのか、一瞬のうちに体を反転させて
クラスで三番目に早い脚力でその場からの離脱を図る!
突然知ってしまった驚愕の事実で頭は大混乱だが、どうにかして
この裏路地から逃げ出さないといけない!

が!


むんず!


「わーっ!?」
「隊長、捕えました。」
「あらあらまあまあ、誰かと思えばメーリスじゃない。」

一緒に話していたウエイトレスに捕まってしまう。
子供とはいえリザードマンの脚力に追いつくとは恐るべし!

「だめじゃない、盗み聞きなんかしたら。ちょっといけないお話してたらどうするの。」
「な……なんで?バシラおばあちゃん…?」
「そうね、せっかくここまで来たんだから、ちょっと遠くまでお出かけしましょう。」

バシラおばあちゃんはいつものニコニコ顔で優しく語りかけてきますが、
その内容はとても恐ろしいものです。

「で、でも学校が…」
「いいじゃない学校なんて。試験も宿題もやんなくていいのよ。
あ、でもしばらくおうちに帰れないかもしれないけど、我慢してほしいのよ。
メーリスちゃんったらあまりにチャーミングすぎるんだもの、
お土産にほしくなってきちゃったわ。うふふふふ。」

(誰か助けて……!)

いつも優しいバシラおばあちゃんがこんなに怖く感じるなんて…
あまりの怖さにメーリスは思わず目をぎゅっとつぶり、体を縮こまらせます。
 
 
するとそこへ……


「おいおい、うちの可愛い娘を勝手に持って行ってもらっちゃ困るな。せめて挨拶に来いよ。」
「え……?」
「む、何者?」

後ろの方から、普段聞きなれた男性の声が聞こえました。
その場にいる全員がそちらの方を向くと、そこには……!

(誰?)

謎のイケメンが仁王立ちしていました。
バッサリ切られた黒い髪の毛に、三十代前半と思われる活気あふれる不敵な笑顔、
背はすらっと伸び、これにさらに剣を持てば勇者にすら見えるのではないかと思われるほど。
しかもその醸し出す存在感が明らかに只者ではない。

「おいお前たち、メーリスを離せよ。」
「も…もしかしてお父さん…?」

そう、服装や声はまぎれもなく父、レンリそのもの。
しかし姿かたちはもはや完全に別物だ。

「ザシャ。」
「はっ。」

ザシャと呼ばれたウエイトレスは、メーリスから右手を放すと同時に
一瞬でその場から消えたかと思ったら、瞬きする間に
レンリの背後に現れ、左手に持った暗器で正確に首筋を捕える。
もらった…!そう確信したザシャ!

ハシッ!

「!!!!」
「アンブッシュもいいけど、ちゃんと挨拶しよう。
たしか民明の本にもそう書いてあるよね。」

ところが驚くことに、レンリは視線を前に向けたまま首筋に突き付けられた
暗器を人差し指と中指で挟むだけで止めてしまった!

「ちょわっ。」
「あぐうっ―――――!?」

呆然としていたザシャの鳩尾に肘突きを叩き込む。
急所を突かれたザシャはたまらず腹部を抑え込み、よろよろよろめきながら
数歩後ずさりすると壁にもたれかかったままズルズルと姿勢を崩し、
やがてうずくまって動かなくなる。


「ばかな!【赤夜叉】のザシャが一撃で…!バケモンかよこいつは……」
「おっと、挨拶が遅れたな。メーリスの父、レンリだ。よろしく。ちなみに人間だ。」
「レンリ…ですって?」
「ええっ!知ってるんですか隊長!」

レンリという名前を聞いた途端、バシラおばあちゃんが何やら慌てはじめます。

「【剣鬼】レンリ…なにゆえにあなたがここにいるのですっ!」
「あーあー、あんたは俺のことをしってる口か。そういうあんたらは、
エアオーベルグ帝国の特殊部隊【ズワルトヴィンド(黒風隊)】だろう?
娘も世話になったようだし、なおのこと見過ごせねぇな。」

言い終わると、レンリはヒョロ長のウエイターにザシャが持っていた暗器を突き付ける。

「ま、まあ落ち着け。武器を突き付けられてはビビッて話もできやしない。
さっきのはまあなんだ…冗談だよ。ちょっとお宅の娘さんと遊んでただけさ。
それに俺たちこのあと7:30からカラテの稽古があるんだよ。
だからさ、もうこの辺で帰らせてくれよな。おっけい?」
「オッケイ☆」

と言いつつレンリは持っていた暗器を凄まじい速さで男に投げつける。

スコオォン!

「らもっ!?」
「今日は休め。」

投げた暗器は男の額にクリーンヒット!
幸い、逆さにして投げたので突き刺さることはなかったが、
それでも命中の衝撃で気絶させるくらいの威力はあったらしい。

「あらあらまあまあ、剣を持たないでもここまでお強いなんて、
まったくやんなっちゃうわねぇ。」
「へっ、まあな。んじゃ最後にあんたを倒しておしまいだ。」

倒した男が隠し持っていた銀製の剣を抜くと、
バシラおばあさんもまた、杖の柄をひねって刃を抜きます。
どうやら特殊な銅製の仕込杖のようです。

「うふふ、あなたは確かに剣を持たせればこの上なく危険な相手だけど、
こーみえてもわたしも【神閃】のバシラって呼ばれる位には強いのよね。」
「そうか、ならちょびっとだけ本気出すか。」

レンリはその場から強く踏み込むと、10メートルほどの距離をわずか3歩で
間合いを詰めると、強烈な斬撃をお見舞いした!

キン!

「!」
「…ふふふ」

剣と剣がぶつかり合った瞬間、激しい光が一瞬視界を奪う。
しかもそのコンマ一秒もしないうちに素早い斬撃がレンリを襲った。
レンリは彼の戦闘本能と有り得ない反射神経で紙一重で攻撃を回避。
非常に危険な一撃だった。

「なるほど、その剣は何かに当たると強烈なフラッシュを放ってくるわけか。」
「あらあら今の一撃を避けた人、初めてみたのよね。」
「だが二度は通用すると思うな!」

再びレンリの強力な斬撃!それを受けるバシラの特殊剣!

ギン!

鋭い金属音の後またしても白い強烈な光!
次こそ仕留めるべく、バシラは先ほどよりもさらに早く次の斬撃を……

「くるとおもった!」

カキーン!

「なっ…!」

見よ!バシラの特殊剣が持ち主の手から弾き飛ばされ、
裏路地の屋根の上まで力なくくるくると回りながら飛んでいくではありませんか!
飛ばされた剣は家の屋根に突き刺ささり、むなしくチカっとひかる。

「おわりだ。」
「あらまあ、ざんねん。もっと楽しめるかと思ったのにねぇ。
所詮私がかなう相手じゃないってわけなのよね。さよならなのよ♪」

武器を失ったバシラはもはや継戦不能と判断したようで、
老人とは思えない驚異的な跳躍力で背後の塀に飛び乗り、
そこからさらに愛剣が飛ばされた屋根までジャンプで飛び移る。

「さて、長居は不要ね。撤退しましょうか。」

バシラは突き刺さっていた剣を引き抜き、この場から離れようとするが……


「とんでもない、待ってたんだよ。」
「あら〜………光でばれちゃったかしら。」

自警団隊長、リザードマンのイレオーネがそこにいた。
 
 
 
 

 
 
 
こうして、世間を騒がせていた火付盗賊…というか、
火付盗賊のふりをしていた反魔物国の諜報部隊は
隊長及び幹部が一網打尽にされたことで組織力を失い消滅した。
各地に潜伏していた下っ端たちも自警団たちによって次々にとらえられ、
この町には再び平和が戻ってきたのだ。


事件の処理でいろいろ忙しいイレオーネより先に家に帰る
メーリスとその父レンリ。手を繋いで帰る姿は、
ついさっきまで嫌っていたのとは嘘のように違う。


「いやー、無事に解決してよかったよかった。」
「ごめんなさい…お父さん。いままで嫌いなんて言っちゃって…。」
「いいんだいいんだ。お父さんだってみっともなかったしなぁ、あっはっは。」

メーリスがしおらしい態度になったのは、なにも父がイケメンに変身したからではない。
路地裏で見せたあの圧倒的な強さ。
自分では到底かなわないだろう相手をまるで赤子の手をひねるように
あっさり簡単に倒してしまう光景は、まさに最強と言っても過言ではない。
なるほど、お父さんは本気を出していないだけだったんだ。


「……かつてな、お父さんは【剣鬼】と呼ばれた狂戦士だったんだ。
どこで生まれてどんなふうに育ったか全く覚えていない。
気が付いた時には、どこで拾ったのかもわからない魔剣を片手に、
近づく者は人であれ魔物であれ片っ端から切り捨てていった…。
母さん…イレオーネとは二度戦った。当時まだ未熟だったイレオーネが
俺に勝負を挑み、一回目は俺が一撃でイレオーネを打ち負かした。
普段だったら止めを刺していたところだったが……なぜかその時は止めを刺さなかった。
気まぐれだったのかもしれないし、斬る価値すらないと思っていたのかもしれない。
その後も俺はまるで死に場所を求めるようにふらふらと移っては殺りくを繰り返す。
しかし、イレオーネは俺に負けた後、猛特訓をして相当な実力をつけた。
二度目に戦いでイレオーネはボロボロになりながらも俺の手から魔剣を弾き飛ばした。
ようやっと……俺は呪いから解放され、人間に戻ることが出来たんだ。」
「…そう、なんだ。お父さんとお母さんにそんな出会いがあったなんて。」
「そのあとすぐに俺とイレオーネは結婚した。
そして、俺は二度と剣を持たないと誓った。もっと人生を楽しもうと思った。
まあその行きついた先が読書三昧だったわけだが。
結局誓いは破っちまったが、可愛い娘のためだ。仕方がないよな。
相手がやばい国の特殊部隊だっていうのは想定外だったが、なんにしろ
これでもう町は安全だ。きっと望み通りお母さんが授業参観に出てくれると思うぞ、よかったな。」
「ううん……」

メーリスは笑顔で首を横に振った。

「わたし、お父さんに授業参観に出てほしい。」
「おう、嫌じゃないのか。」
「だって私の大好きなお父さんをみんなに自慢したいんだもん!」
「はっはっは!好感度が最低ランクから一気に最高ランクか!
ま、せっかく俺もさっぱりしてきたんだ、行かなきゃ損だよな。」


こうして仲直りしたメーリスとお父さんは、
手を繋ぎながら夕日を背におうちに帰りましたとさ。
 
 
 




キーンコーン、カーンコーン♪


フロル小学校、授業参観の時間です。


「は〜いみんな、今日は授業参観ですよ〜。宿題、やってきましたよね〜。」

教室の後ろに生徒一人一人の親が立つ中、数少ない男性の一人である
レンリは気合の入った服装も相まって非常に目立っていた。

ヒソヒソ(ちょっと、あの方誰かしら?見たことないんだけど)
ヒソヒーソ(やあねぇ知らないの?自警団隊長イレオーネさんの旦那様よ)

それに火付盗賊の親玉を捕まえたものだから、その人気は鰻登り
とどまるところを知りません。
それでも平然としていられるあたり、やはり大物か。

「じゃあ前の人から〜順番に読み上げてもらいましょうね〜」


先生が順番にさすと、生徒たちは完成させた作文を読み上げる。
尊敬する人はお母さんが圧倒的に多く、次いでお父さん、
中には好きな異性の名前をあげてセルフ告白大会している子もいれば、
小説に出てくる主人公をあげる子もいた。ちなみに先生のことを書いた子はいなかった。
かわいそうに………

「つぎ〜、メーリスちゃ〜ん。」
「はいっ!」

いよいよメーリスの番。元気な返事と共に立ち上がり、
持ってきた原稿用紙を読み上げる。


私が大好きな人 4年3組、メーリス

 私の大好きな人はお父さんです。私のお父さんは普段お酒を飲んで本読んでばかりいて
ちょっと頼りないお父さんだと思ていました。でもそれは、お父さんが今まで歩んできた
人生があまりにも大変だったから、ちょっと休憩していただけだったのです。
お父さんは本当はとってもとっても強いんです。この町で一番強いと言われる
私のお母さんよりさらに強いかもしれません。本気を出せば、悪い人を
あっという間にやっつけちゃったりします。でも、強いだけが好きな理由じゃありません。
お父さんは私がピンチだったときにさっそうと助けに来てくれました。
まるでヒーローみたいに、私のことを心配して助けに来てくれたんです。
私のために全力で守ってくれたのがとても嬉しかった。
今までお父さんは弱い人だと思ってごめんなさい。お父さんは世界一強い男の人です。
私もいつかはお父さんみたいに、強くてかっこよくって、
みんなから頼りにされるリザードマンになりたいです。
いつか、お父さんより強くなって、お父さんを守れるくらいになって、
そして……お父さんと結婚したいです!おわり!


「お父さんと結婚!?」

聞いててむずかゆくなる作文のオチで衝撃の告白をされたレンリ。
児童や保護者たちの視線が一斉に集まる。

「ま、まいったなぁ。あは、あはは……」

もはや乾いた笑みを浮かべるしかなかった。





そして家に帰り……


「お父さん!私に剣を教えてください!」
「うーん…そうだな、あんまり手加減できないからなぁ。
お母さんにある程度鍛えてもらってからにしてくれ。合格貰ったら相手してあげるから。」
「本当に!わかった!いつかお父さんを超えるために頑張る!
そして強くなってお父さんのお嫁さんになる!」
「おいおい…本気で言ってるのか。お父さんのお嫁さんはすでに……」

「お父さんのお嫁さん…だって?身の程をわきまえな!!

父子で会話しているところに、ちょうど帰ってきたイレオーネが乱入してきた!

「お父さんは後にも先にもお母さんの物と決まっているんだ!
メーリスは同じ年くらいのいい男を自分で見つけてきな!」
「やだもん!わたしはお父さんがいいの!」
「だったらまずこのお母さんを倒してみよ!話はそれからだ!」
「望むところよ!」
「おーい、もしもーし、そろそろ夕飯の支度をだな…」
「あなたっ!」
「お、おう!」
「私たちも負けてはいられない!あと3人作るんだ!今夜は寝かせないからね!」
「えーっ。」

この日を境にさらに活気づいたメーリスとその一家。
きっと退屈しない日々が続くことでしょう。




……
 
 
 





おまけ


「【ズワルトヴィンド】隊長バシラ、ただいま帰りました。」
「ごくろう、入ってよいぞ。」

夜。とある建物の一室。
月明かりとろうそくの明かりだけが照らす暗い室内に、
初老の男性が執務椅子に腰かけながら、帰還した特殊部隊長を部屋に招く。

「首尾はどうだ。」
「はい、報告します。いくつかの親魔物国の都市に潜入し治安攪乱を行いました。
しかし魔物たちの自治機能は思っていた以上に優れており、
短期間で最終解決に移行するほかありませんでした。」
「まあ、情報が少ない故仕方あるまい。で…『成果』のほうは?」
「最終的に三つの都市で大火災を起こすことに成功しましたが、
私たちの情報がどこかで漏れたらしく、とある都市で部隊の者は
全員捕えられてしまいました。」
「……ズワルトヴィンドが全滅か。責任問題だな。」

男は淡々と、しかし重い口調で指摘する。

「しかし…全員だと?そなたは無事戻ってきているではないか。」
「ええ、それがですね……」
「ん?」

何かがおかしい?
そう感じた時、すでに手遅れだった。

「今部下たちはみんな楽しく魔物との生活を謳歌中なのよね♪
特にザシャとカルロは部隊にいた時から両想いだったみたいでね、
キキーモラとかいう魔物になってご奉仕三昧してるみたいなの。でね、でね…♪」
「まてまて。まるで見てきたような口ぶりだな。……もしや、バシラ」
「ふっふふふふふ……」

バシラが着ていた服をその場で放り投げると、
老婆が一瞬で悩ましげな肢体を惜しげもなく露出した若い美女が姿を現した。
見えるか見えない限りぎりぎりの面積の布服、それを補うどころか
むしろセクシーさを強調させる網状の衣類。

そう!彼女はクノイチになっていたのだ!


「ねえ知ってるかしら?私ね、あなたがまだ見習いの時からあなたに目をつけてたのよね♪
それが今ではお互いすっかりおじいさんおばあさんになっちゃったけど、
魔物になればずっと若いままで過ごせるのよねぇ。素敵じゃない?」
「う、うあぁ……」

バシラのあまりの色っぽさに目を奪われたままの男性は、
この後なすすべもなく襲われ、忘れていた熱い気持ちを呼び起こされる。

それからしばらくして、その都市は親魔物領の一つとなったそうな。


めでたしめでたし。かな?
14/01/20 00:27更新 / バーソロミュ

■作者メッセージ

皆様あけましておめでとうございます!今年もよろしくお願いいたします!
駅伝見に行ってきました。


まあそれはともかく、最近思うのですが
親を「お父さんお母さん」と呼ぶ子供ってほとんどいなくなったと思いませんか。
大抵の子供は「パパ・ママ」派なんじゃないかなと思います。
別に悪いとかいいとかは思わないのですが、これも時代かなと……
そんな私はお父さんお母さん派です。だって日本人っぽいんだもん。
小説を書いていくうえで家族を書く際、いろいろ考慮したうえで
親や子を何と呼ばせるか考えるのもまたオツだと思います。
呼び方次第でそこの過程の家庭状況が大体わかるってものです。


最近急脚過ぎて全然連載に手を付けられていませんが、
時間を縫って何とか続行していけるように頑張りたいと思います。

以上、家族のきずなを盛り込んだ短編でした。
ではでは〜

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