クラスいちの不良娘
僕には過去がない。ゆえに未来に思いを馳せる。
だから、これから僕の運命がどうなるのか、教室に到着するまで少し考えた。
そして、まずひとつ僕の中で決まったことがある。
それは戦闘演習の班だ。
僕にはルメリという臣下が居て、それに、メリーアという新たな仲間もできた。そして2組にはキサラギが居る。これで4人。
班対抗の演習は、勝敗によって班の人数が増減するが、基本となるのは4人班だ。それにルメリの特技には槍術があるし、メリーアには戦略を立てる頭脳がある。キサラギは何が得意なのかはわからないが、ジパングの魔術や武術が使えるのは戦術を広げるのに役に立つ。完璧な布陣だった。
ただ、唯一問題なのが、僕にはそれと言って得意な事やできることが少ないという事だ。
剣術や槍術をはじめとする武術に加え、学院の二年生と同等の教育は王城で受けてきたつもりだが、それでも僕が脆弱な人間という種族であることには変わりなかった。
「テツヤ様、浮かない顔をしてますが」
「え……あぁ、ちょっと考え事」
さすが貴族と言うべきか。それともメリーアが軍の策士だからなのだろうか。彼女は表情を読み取る技には長けていた。
「そうですか、どんなご用件です?」
「えーと」
容赦のない質問に、答えようかどうか迷った。
でも僕は答えるのをやめた。
「粗暴な人って、どんなひとなのかなって思ってね」
だからウソをついた。
それでも、粗暴な人というのが気にならなかった訳じゃないから、これは完全なウソとも言い切れない。
「あー、そうですか。やっぱり気になりますよね」
うんうん、と頷くメリーア。
「まさかテツヤ様は不良娘のほうが好みなんですか!?」
そしてルメリは驚いたような声を上げて、僕を見つめた。
「いや、そういう趣味はないんだけどね、一応確認しておかないとって思ったから」
「そうですか、ちょっと一安心です」
胸を撫で下ろすルメリ。
「テツヤ様のような王族が、不良娘と親交があったとなったらそれはもう外交問題にも繋がりかねませんからね!彼女たちとつるんだって何の得も――」
つづけざまにそんなことを言うルメリ。
しかし、その言葉は途中、メリーアに遮られた。
「ねぇ、ルメリちゃん、ちょっと……」
そう言ってメリーアは前方を指差し、その先に立っている人物を見つめていた。その顔に浮かぶのは、なんとも言えないような気まずい表情。
僕がメリーアの指をさす方向を見ると、その先には緑の鱗に包まれた、紫髪の女が居た。
「……あ」
ルメリはその少女を見て固まった。
この状況から察するに、前方の少女は例の不良少女なのだろう。
彼女は腕組みをして、こちらを睨みつけていた。
目の前にいる、不機嫌そうな彼女は美女だった。
背は高く、ルメリと同じくらいだろうか。吊り上がった目はキツい三白眼だったが、それでも顔立ちは整っている。遠くから見てもはっきりとわかるような美しさだ。
ただ、その美しさは緑色をした鱗の中に隠れ、普段は見ることができないのだろうと思った。
彼女は腕を組み、僕たちを睨みつけている。
それは僕たちに向けられた明らかな敵意だ。
彼女の癖なのか、しばらくすると、きめ細かい肌に垂れた髪を鬱陶しそうにかきあげた。そしてまた僕たちを睨み、腕を組む。
その仕草の一つ一つは、顔立ちや体つきの女らしさの奥にある、彼女の強さを垣間見ることができるものだった。
先ほどまで調子に乗ったような発言をしていたはずのルメリも今では蛇に睨まれたカエルの様に静かになっているし、メリーアさえも口を噤んでいる。それは多分、僕の様に彼女の美貌に見とれていた訳じゃない。
目の前にいる女を怒らせた。その事を後悔しているのだろう。
さらに悪い事に、彼女が立っているのは2組のクラスの入り口で僕たちは彼女の脇をすり抜けて教室に入らなければならなかった。
……そして僕たちが彼女の前を横切ろうとしたとき。
「……おい、お前達」
例の女が口を開いた。
「私はドラゴンのレンディス・フランニュートだ」
彼女の声は、火を吐くものの言葉とは思えないほど冷たいものだった。
「え、ええ、知っています」
「だが、貴族と話すには平民は自分の名を名乗らなけりゃならんのだろう?」
レンディスはルメリを睨みつけ、その表情を変えずに僕のほうを睨んだ。
「お前がテツヤか」
「え、そうだけど……」
僕がそう言うと、何故か彼女の顔が僕の眼前にあった。
何が起きたのかはわからなかった。まさに一瞬だった。そのあいだにレンディスは僕との距離を詰め、僕の顔を眺めていた。
目の前に迫る美女の顔に、僕は少しドキドキしていた。レンディスは威圧するつもりで顔を近づけているつもりでも、彼女の吐息が頬にかかり、彼女の甘い女性特有の香りが僕の鼻孔をくすぐる。
髪の匂いでもないそれは、ルメリやメリーア、そしてミュリナさんやエルメリアとも違う、独特なにおいがする。
嫌いなにおいじゃない。むしろ……。
そう考えたところで、レンディスは顔を遠ざけた。
「テツヤ、お前面白い奴だな」
そう言って彼女はにやりと笑い、白い歯を見せる。
「ただ、お前ら。私を侮辱する発言、聞き逃していないと思うなよ」
最後に彼女はそんな捨て台詞を吐いて教室の中に引っ込んでいった。
嵐のような女だ。
僕たち3人の心をこうまでもかき乱すなんて。
彼女の吐息が当たっていた頬をさすると、その部分が熱を帯びている様な気がした。
「テツヤ様、顔が真っ赤ですが……」
「へっ!?」
メリーアに指摘されて気づく。
気のせいなんかじゃなかった。
だから、これから僕の運命がどうなるのか、教室に到着するまで少し考えた。
そして、まずひとつ僕の中で決まったことがある。
それは戦闘演習の班だ。
僕にはルメリという臣下が居て、それに、メリーアという新たな仲間もできた。そして2組にはキサラギが居る。これで4人。
班対抗の演習は、勝敗によって班の人数が増減するが、基本となるのは4人班だ。それにルメリの特技には槍術があるし、メリーアには戦略を立てる頭脳がある。キサラギは何が得意なのかはわからないが、ジパングの魔術や武術が使えるのは戦術を広げるのに役に立つ。完璧な布陣だった。
ただ、唯一問題なのが、僕にはそれと言って得意な事やできることが少ないという事だ。
剣術や槍術をはじめとする武術に加え、学院の二年生と同等の教育は王城で受けてきたつもりだが、それでも僕が脆弱な人間という種族であることには変わりなかった。
「テツヤ様、浮かない顔をしてますが」
「え……あぁ、ちょっと考え事」
さすが貴族と言うべきか。それともメリーアが軍の策士だからなのだろうか。彼女は表情を読み取る技には長けていた。
「そうですか、どんなご用件です?」
「えーと」
容赦のない質問に、答えようかどうか迷った。
でも僕は答えるのをやめた。
「粗暴な人って、どんなひとなのかなって思ってね」
だからウソをついた。
それでも、粗暴な人というのが気にならなかった訳じゃないから、これは完全なウソとも言い切れない。
「あー、そうですか。やっぱり気になりますよね」
うんうん、と頷くメリーア。
「まさかテツヤ様は不良娘のほうが好みなんですか!?」
そしてルメリは驚いたような声を上げて、僕を見つめた。
「いや、そういう趣味はないんだけどね、一応確認しておかないとって思ったから」
「そうですか、ちょっと一安心です」
胸を撫で下ろすルメリ。
「テツヤ様のような王族が、不良娘と親交があったとなったらそれはもう外交問題にも繋がりかねませんからね!彼女たちとつるんだって何の得も――」
つづけざまにそんなことを言うルメリ。
しかし、その言葉は途中、メリーアに遮られた。
「ねぇ、ルメリちゃん、ちょっと……」
そう言ってメリーアは前方を指差し、その先に立っている人物を見つめていた。その顔に浮かぶのは、なんとも言えないような気まずい表情。
僕がメリーアの指をさす方向を見ると、その先には緑の鱗に包まれた、紫髪の女が居た。
「……あ」
ルメリはその少女を見て固まった。
この状況から察するに、前方の少女は例の不良少女なのだろう。
彼女は腕組みをして、こちらを睨みつけていた。
目の前にいる、不機嫌そうな彼女は美女だった。
背は高く、ルメリと同じくらいだろうか。吊り上がった目はキツい三白眼だったが、それでも顔立ちは整っている。遠くから見てもはっきりとわかるような美しさだ。
ただ、その美しさは緑色をした鱗の中に隠れ、普段は見ることができないのだろうと思った。
彼女は腕を組み、僕たちを睨みつけている。
それは僕たちに向けられた明らかな敵意だ。
彼女の癖なのか、しばらくすると、きめ細かい肌に垂れた髪を鬱陶しそうにかきあげた。そしてまた僕たちを睨み、腕を組む。
その仕草の一つ一つは、顔立ちや体つきの女らしさの奥にある、彼女の強さを垣間見ることができるものだった。
先ほどまで調子に乗ったような発言をしていたはずのルメリも今では蛇に睨まれたカエルの様に静かになっているし、メリーアさえも口を噤んでいる。それは多分、僕の様に彼女の美貌に見とれていた訳じゃない。
目の前にいる女を怒らせた。その事を後悔しているのだろう。
さらに悪い事に、彼女が立っているのは2組のクラスの入り口で僕たちは彼女の脇をすり抜けて教室に入らなければならなかった。
……そして僕たちが彼女の前を横切ろうとしたとき。
「……おい、お前達」
例の女が口を開いた。
「私はドラゴンのレンディス・フランニュートだ」
彼女の声は、火を吐くものの言葉とは思えないほど冷たいものだった。
「え、ええ、知っています」
「だが、貴族と話すには平民は自分の名を名乗らなけりゃならんのだろう?」
レンディスはルメリを睨みつけ、その表情を変えずに僕のほうを睨んだ。
「お前がテツヤか」
「え、そうだけど……」
僕がそう言うと、何故か彼女の顔が僕の眼前にあった。
何が起きたのかはわからなかった。まさに一瞬だった。そのあいだにレンディスは僕との距離を詰め、僕の顔を眺めていた。
目の前に迫る美女の顔に、僕は少しドキドキしていた。レンディスは威圧するつもりで顔を近づけているつもりでも、彼女の吐息が頬にかかり、彼女の甘い女性特有の香りが僕の鼻孔をくすぐる。
髪の匂いでもないそれは、ルメリやメリーア、そしてミュリナさんやエルメリアとも違う、独特なにおいがする。
嫌いなにおいじゃない。むしろ……。
そう考えたところで、レンディスは顔を遠ざけた。
「テツヤ、お前面白い奴だな」
そう言って彼女はにやりと笑い、白い歯を見せる。
「ただ、お前ら。私を侮辱する発言、聞き逃していないと思うなよ」
最後に彼女はそんな捨て台詞を吐いて教室の中に引っ込んでいった。
嵐のような女だ。
僕たち3人の心をこうまでもかき乱すなんて。
彼女の吐息が当たっていた頬をさすると、その部分が熱を帯びている様な気がした。
「テツヤ様、顔が真っ赤ですが……」
「へっ!?」
メリーアに指摘されて気づく。
気のせいなんかじゃなかった。
17/05/11 02:13更新 / (処女廚)
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