連載小説
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とあるクノイチの視点 〜後編〜 
昨晩「老魔術師の死についての謎を解き明かして見せる」と言っていたマモル様は、
僅か1日足らずで彼なりの答えを見つけてしまった。

マモル様は、老魔術師の雇っていた傭兵達と和解したついでに、
メンセマトで怪しい事が無いかを彼等に聞いて回っていた。

そして、彼等との何気ない会話と、現在の自分が「すまほ」という異世界の道具を持っているという『異常』に気が付いたらしい。

この時の私にはマモル様が何を言っているのか分からなかったが、
彼は皆の前で自分の仮説をきっちり説明してくれた。

彼の出した答えは
メンセマトの何処かに『命令をする事により、相手を思うがまま操れる力』を持った者が居る可能性が高い……という、とんでも無いものだった。

最初は皆信じようとしなかったが、
本来ならばメンセマトで取り上げられている筈の「すまほ」や、
領主が『命令』を行った前後の不自然な騎士達の様子。
そしてメンセマトが佐羽都街に戦線布告する口実となった「老魔導師の死」……。
といった根拠も複数用意した上でマモル様が行った説明は、
「そういった可能性も十分に有り得る」という程度に我々を納得させるには十分なものだった。

マモル様は自分なりの仮説を皆に話した後、
佐羽都街とメンセマトの戦いが始まるという皆の話を聞いている内に黙りこんで、
私が大声で叫ばねば周りの声が聞こえない程に何かを深く考え込んでしまった。

彼は恐らく、佐羽都街とメンセマトが戦わざるを得ないというのが気に食わないのだろう。
我々と「操られているだけ」という可能性が高い善良なメンセマトの騎士達が間違った理由で戦わねばならないのだから。

そして、それを本気で「どうにか出来ないか?」……と。

しかし、戦いとは残酷なものであり、仕方が無いのだ。
相手を倒さねば、此方が倒されてしまうのだから。
魔物である我々は相手を殺さないが、相手はそうでは無い。
故に「万が一」の事も覚悟しなければならないのだが……。

……そんな私の心配をよそに、
バフォメット様から、「仮説」を皆に話したマモル様へのお礼を兼ねて、
彼に異世界の黒い服が返される事になった。

彼に異世界の服を返しに来たのは……見覚えの有る狐憑きと女郎蜘蛛。
マモル様の「世間話」をしていたあの2人……服屋だったとは。

だが、あの2人は……この世界では殆ど服を持っていないマモル様に服を譲る代わりに、
異世界の服に関する情報を手に入れようと、断れないような取引を持ち掛けた。
まあ、彼にとって大きな不利も無く、互いに得をするようなものだったが。

しかし、そんな彼女達に対して、彼は何処か気の抜けたような感じで取引に応じてしまう。
……この時私は気が付いていなかったが、彼女達がマモル様に対して行った「取引」が彼を変えるキッカケとなっていたのだ。

改めて、再び異世界の服へと着替えるマモル様。
……私は彼が着替えているのを屋根裏からじっと見ているのだが。
先程までと同じく、愛しい人の様子を見守っているだけ。

ふふ……これは断じて覗きでは無い……覗きでは無いんです。

着替えが終わり、彼女達が異世界の服を採寸した後。
自分の部屋に再び入ったマモル様の様子が突如……変わった。

「…………」

目を閉じ……暫く何かを考え込む。
そのまま長い間、彼は思考の海に沈む。

「…………!」

やがてその目が開かれた時、マモル様の瞳には今までとは桁が違う程の強い意思が宿っていた。

「考えるだけじゃあ、ダメなんだな。
行動を、起こさなきゃ……!!」

誰に対してでも無くそう言って、彼は何処かへ歩き出す。

そして……彼の口が……歪に吊り上がっている。

私が、初めて目にした……彼の本当の笑み。
まぎれも無く、今のマモル様は今までの彼と決定的に何かが違う……!

以前のような「無関心故に自らを顧みない」といった感じでは無いが、
彼の瞳に宿る決意の炎は「熱さ」と共に「危うさ」が感じられた。

今のマモル様は
私の、魔物としての直感が危険だと告げていた。
彼は、何か危険な事をやろうとしている……恐らく、私達の為に。

そして、その『何か』とは……多分、メンセマトと佐羽都街の戦いを止める事では無いのだろうか?

先程、彼は我々の声が聞こえぬ程に「その事」で悩んでいた。
それに対して、何らかの切欠で答えが出たのなら……今の状況も十分考えられる。

だが「どうやって」というのが全く分からない。

彼が良かれと思って何かをしようとしているのが分かる……が。
それ以外の『危険な何か』が混じってグチャグチャになっている。
マモル様自身も、自らの感情を完全には理解出来ていない。
だから、私にも彼の考えが分からないのだ。

このまま彼を放って置くのは、良くない。
しかし、私が話せと言った所で、彼は喋ってくれるのか……?

……私は悩んだ挙句、友を頼る事にした。

「――という訳なのですが……!」

「ふむふむ、成程ね」

私が頼った友とは、白蛇の巴ちゃんである。

今の私は、マモル様に対して「クノイチ龍の暗殺」を予告している。
だからこそ、彼はそれを警戒して重要な事を何一つ喋ってくれない可能性が高い。

しかし、私と無関係な魔物娘で……なおかつ彼とくっつく危険性の無い既婚の魔物娘なら、
マモル樣に色々と喋ってもらう事は可能かもしれない。
……彼は、私と巴ちゃんが親友である事を知らないのだから。

「良いわよ。
ちょうど、私も旦那様の事で彼と話をしたいと思っていた所だしね」

ちょうど、彼女は彼女でマモル様と話したい事があるらしい。
実は、マモル様が先程メンセマトについて色々話していた時に、彼女の旦那様であるハリー様の様子が少々可怪しくなっていて……その事に気付いたマモル様は彼や巴ちゃんに気を使いながら話をしていたのだ。

巴ちゃんは「その事」を切欠としてマモル様と話をして、彼の本音を聞き出してくれるらしい。

本当に……有り難い。
しかし……頼んだのは此方だけども、どうしてそこまで……?

「良いのよ……私達が幸せになれたのも、貴方のお陰なんだから」

「ああ……あの事ですか……!」

実は……3年前の戦いでハリー様を始めとするメンセマトの騎士達が投降した後、
ハリー様の身には色々な危機が迫っていたのだ。

魔物について間違った知識を持っていたとは言え、
教団の為、メンセマトの為を思って勇者を務めていたハリー様を、
佐羽都街に投降した時点で……即刻、裏切り者扱いした挙句刺客を送り付けた。
さらに、佐羽都街の人間は優しい者ばかりだが、皆が皆そうと言うばかりでは無い。
「元勇者」であるハリー様に対して取り入ろうとする者も多かった。

それ故に、
巴ちゃんがハリー様を癒している間、私が彼女の敵と成り得る者を蹴散らしていたのだ。
そして、無事に心を回復したハリー様と巴ちゃんは「夫婦」となった。

……それ以来巴ちゃんは何かと私を気にかけてくれた。
あまり時間を掛けずして私達は「親友」となったのだ。

「提案なんだけど……こういうのはどう?」

巴ちゃんが私に提案した作戦は、こうだった。
まず彼女が……何か思い付いたであろうマモル様に話し掛け、
ハリー様の事を口実として彼の本音を聞き出す。
その内容に何の問題も無ければ何もしない。
しかし、問題があるようならその場で私が「暗殺」を仕掛ける……というものである。

「巴ちゃん、ありがとう……!」

「うん!
それじゃ、私は作戦通り動くわね」

そう言って巴ちゃんはマモル様の元へ向かい、私はそれに姿を隠して同行する。

すると、ちょうど彼も此方へ向かって来たようで。
すぐに巴ちゃんとマモル様は鉢合わせた。

そして、巴ちゃんはマモル樣に話し掛けた。

マモル樣がハリー樣の異変に気が付いていた事。
そして、彼の異変の原因が「メンセマトの異変は自分が祖国を離れたせいで起こったと勘違いしている」という事を説明した後……。

マモル樣がメンセマトと佐羽都街の戦いを止められれば、ハリー様が悩む事は無い事。

さらに、マモル樣が「そうする手段」を思い付いているだろう……という事を、さも自分が見抜いたかのように話した。

……本当は、マモル樣の異変に気付いたのは私なのだが。
彼を説得する為の嘘なら、まあ良いでしょう。

「――という訳よ」

作戦通り、巴ちゃんが自分の考えを話してマモル様の本音を誘い出す。
すると、こちらの予想通り彼は反応してくれた。

最初は巴ちゃんを警戒していたマモル樣だったが、
巴ちゃんの……旦那樣への想いだけは本物。
それ故に、彼は警戒を緩めてしまったのだろう。

「じゃあ、今度は現時点での『俺の考え』を話しますね」

此方の思惑通り、彼は自らの本心を話し始めた。

マモル様の考えを要約すると、メンセマトの「異常」を白日の下に晒すというものだった。
確かに、彼がさっき皆に話した「仮説」が正しいと証明されればメンセマトの士気は大きく落ちて、我々の勝利にはこれ以上ない近道となるだろう。
が、その為に「火薬をまた作る」だとか「魔法の効きにくい体質を利用して、自分を囮にする」だとか……とんでもない、本当にとんでもない事を言い出した。
……にも関わらず、彼の目には一片の迷いも無い。

一体、何がマモル様をそこまで変えたのか……!?

「貴方が、アオイさんや私の旦那様に救われたという話は聞いているけども。
その恩に報いようとして貴方が危険な目に合うのは本末転倒では無くて?」

私の言葉を代弁してくれた巴ちゃんの言葉。
それをマモル樣に掛けてくれるのはとても有り難い。

「皆の為でもありますが、
それ以上に、俺個人の目的を達成する為でもあるんですよ」

……?

「貴方個人の目的って?」

「復讐ですよ。
俺を、俺の世界から無理矢理引き剥がした連中への……ね」

一瞬、呆気に取られた私だったが。
直ぐに冷静さを取り戻した。

なぜなら、彼が言った言葉はどこか空虚である。
「無関心」だったが故に自分を偽っていた、あの時と同じ。

マモル様は口角を釣り上げ……ニヤリと笑う。
わざとらしい笑みだが、彼の本当の笑い方は違う。
先程……彼が「何か」を思いついた直後に見せた、歪んだ笑顔。
あれこそ「今の彼」が本当に笑った時に出る笑顔なのだろう。

「確かに俺は、アオイさんやハリーさんに救われました。
彼等が居なければ、俺は今頃廃人になっていたかもしれない。
でも、だからと言って『俺が発狂しかけた原因』を許せるかと言えば……否です」

マモル様は、嘘はついていないが、本音も語っていない。
しかし、彼自身に悪意のようなものは見えない。
己が策を成す理由を「復讐」だと言っているにも関わらず……だ。

彼の真なる目的が「復讐」では無い事。
そして、彼にとって我々に明かしたくは無い何らかの隠された真の目的がある事。
何より、彼のやろうとしている事が危険過ぎる事。

これらが分かっただけで十分だ。
巴ちゃんはよくやってくれた。

「そこまで言うなら『私は』止めないけど」

そう、ここからは私の仕事。

「だけど、そんな事を『貴方を一番愛している魔物』が聞いたら……きっと貴方を止めるわ」

……彼を止めるのは、私の役目だ。

私は、後ろから彼の口を布で塞ぐ。
その布には、彼の為に眠り薬を仕込んであった。

彼が「しまった」と思った時には、もう遅い。

ようやく、マモル様がご自分の本性を自覚した。
彼が再び目を覚ました時が、勝負。

――今こそ、彼の全てと私の愛が激突する……!
決意を新たにした彼の意思を……私は愛を以て上回って見せる。
私の「暗殺」によって……!





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目を明けたマモル様は、改めて私と相対した。

私が今から貴方を「暗殺」する……と告げても、マモル様は全く動じなかった。
それどころか「貴方に俺の心は『壊せない』」と言ってのけた。
……つまり。彼は「私の愛では自分の心は変えられない」と言っているも同然である。

いくら愛する人の言葉でも、これは許せなかった。
だからこそ、私は早まってしまったのだ。

彼の一物に、まずは素股で「魔物に射精させられる快感」を思い出して貰った。

そして、胸や口による愛撫で彼を焦らし……甘い言葉で彼の本音を誘う。
マモル樣が危険を犯してまで、復讐という虚しい事を持ち出してまで何をしようとしているのか。

それが分かれば、私は彼に協力してあげられるかもしれない。

しかし、愛しい人は私に全てを明かす事を拒んだ。
その代わりに彼が少しだけ明かした本音は、こうだ。

自分が今からやろうとしている事が危険なのは分かっている。
だからこそ『危険』に対する恐怖を克服する為に憎しみが必要だ……と

彼の言葉に対して、正直……腹が立った。

……何なんですか、それは……!?
「そんな事」を決意する前に、どうして私を頼って下さらないのですか……!!

すっかり頭に血が登ってしまった私は、彼を射精寸前の状態にして散々焦らした挙句、
私が最も得意とする「影分身の術」で彼の意思を完全に折ろうとしてしまった。

「影分身の術」で10人程に増えた『私達』が全力で。
人間には到底耐えられぬであろう快楽を与えて、マモル様を追い詰める。

だが……私が彼に「トドメ」を刺す直前に、私の勘が私自身に警告を与えた。
「本当にこれで良いのか?」と。
だが結局、私はその声に従わず……愛しい人を『堕とそうと』してしまった。

「う、おアアアアアアアアアーーーー!!!!」

私が腰を下ろすと共に、愛しい人が絶叫する。
その叫びは、かつて彼が自分の世界に戻れないと分かり発狂仕掛けた時の叫びに良く似ていた。

私の膣内で、愛しい人の一物が暴れ狂う。
精と共に、マモル樣の全てが吐き出されて……彼の目から光が消えかける。

せっかく光が戻った彼の心も、また元に戻ってしまったかもしれない。

本当は、こんな事をしたく無かった。
だけど。

貴方が我々に本当の理由すら明かす事も無く危険な事をされる位ならば。
どんな手を使ってでも、私は……。

私は貴方を止める……!

「貴方がいずれ、我々と同じ魔物に……『いんきゅばす』になれば、
復讐などどうでも良く――」

「!!!!」

――マモル樣が私の発した「いんきゅばす」という単語を聞いた途端、
彼の周りに……一瞬……ほんの少しだけ『蜃気楼のようなもの』が見えた気がした。
『ソレ』の見た目は透明なモヤモヤであるが、
私には黒く、とても冷たい「拒絶」の意思が感じられた。

突然の出来事に驚いた私は何も出来ずに固まってしまう。
自分でも、今、何が起こっているのかが分からない。

目に光を再び宿した愛しい人の手が私に伸びて、そのまま私の身体を突き飛ばす……!

……結局、彼は折れなかった。
極限状態にありながら……またしても、マモル様は私を突き飛ばした。
かつて私の「影縫いの術」を破ったあの時のように……!

最初は彼に強く拒絶されたのかと思って絶望して、涙を流してしまった。
私の愛は彼の抱くハリボテの憎しみ「風情」に届かぬのか……と。

ところが、彼は私を拒絶してなどいなかった。

それどころか、私の涙する姿を見て……欲情していた。
その姿には、以前彼が見せた歪な笑顔と同じ……彼の『本性』が滲み出ていた。

先程の「蜃気楼のようなもの」はすっかり消えている。
私の……気のせいだったのだろうか?

それよりも、今の彼は……一体……?

戸惑う私に……彼は告げた。

「俺は先程、貴方を突き飛ばしてしまった。
それ以外にも、貴方の愛を拒絶していると受け取られかねない言動も沢山したと思う。
でもそれは、俺なりのやり方で貴方への愛を証明しようと思った故の行動なんだ」

……えっ!?
ですが、先程まで貴方は……!

「俺、確かに言いましたよ?
復讐したいという欲以外にも戦う理由は有ります……って」

あっ……!?

「そして、アオイさんも分かってましたよね?
俺の言う復讐云々は、嘘じゃ無いにしても建前でしか無い……って」

ま、まさか……!!

「下手な小細工は、アオイさんを却って混乱させてしまう事に気付けなかった。
だからまずは、貴方への気持ちを証明させて下さい」

驚く暇も無く、彼から告げられる……愛の告白。

「改めて、言います。
俺……黒田衛は、貴方を一人の女性として愛しています」

ドクン……という音が自分の耳に入る程、心臓が強く鳴り響く。
喜びと不安が同時に私の全身を激しく駆け巡る。

愛しい人に「愛している」と言われる事程嬉しい事は無い……筈なのだが。

「分かり……ました」

同時に、不安になってしまう。
マモル樣は本当に私を愛しているのか、と。

――マモル樣がこの世界に来る事になった原因は、私が任務に失敗したせいでもある。
彼が、今になって「復讐」を持ち出したのは、本来私へ向けられる筈の憎悪を無理矢理他へと向けようとしているだけではないか……?

……どうしても、そんな事を考えてしまうのだ。

「では、証明して下さい。
マモル様なりの愛とやらを……!」

そう言って、私は寝そべりながら女性器を広げる。
そんな私を見て、彼はもう辛抱堪らないといった感じだ。

マモル樣。
貴方がそれ程までに私を愛しているのなら……なおさら。
貴方はどうして私の術を退けてまで「いんきゅばす」となる事を拒んだのですか……?
……そういう疑問を抱かざるを得ない程に欲情した彼は、私へと覆い被さる。

「ふううっ……!」

「んっ……❤」

寝そべった私の肉壷に、彼の熱いモノが挿入される。
ドクドクと脈打つ彼の一物が、私の膣内でさらに大きくなる。

「俺がこの世界に来てから……自分の世界に帰れないって知った時。
俺は、俺の人生に対して価値を見出だせなくなりました」

快楽に対して少しは慣れたのか、
彼は悶える事無く私への思いを告げ始める。

「でも、そんな俺をアオイさんは救ってくれた……!
時には、命懸けで。
何度も、何度も……!」

マモル様が腰を動かし始める。
私が一方的に彼を犯すのではなく、彼が私を責めるのは初めてだが。
これは凄い……快感が、私の予想を遥かに超えている……!

「自分の心や命が救われたって事も嬉しかった。
けど、それ以上に貴方が俺を助けてくれた事で、
『俺が生きるって事には、それだけの価値があるのかもしれない』って思えたんです。
こじつけかもしんないけど、それにどれだけ救われた事か……!」

私を犯しながら、吠えるように私への思いを語るマモル様。

「そして、気が付いた時にはアオイさんにすっかり惚れてました。
今の俺を支えるのは、貴方への想いなんだ……!」

マモル樣がこの世界に来て……、
老魔術師に襲撃された事件が終わった辺りから彼はどこか変わった。

……もし、彼が変わった切欠が私への恋心を彼自身が自覚した頃だとしたら。
これ以上に嬉しい事は無い。

好いた相手が自分を好いているというのは、こうも嬉しいのか……!!

「だから……証明したいんだ!
メンセマトと佐羽都街の戦いを終わらせる位のデカい事やって、
貴方が救った……、いや。
貴方が惚れた男は、ここまで成長したんだって……!」

そんな……。
そこまでしなくとも私は……貴方を……!

「そりゃ、真に誰かを愛するって事は簡単な事じゃないでしょう。
俺が貴方に対して『それ』さえキッチリやればアオイさんは満足かもしれない。
けど、俺はそれだけじゃ足りないんだ……!!」

交わりを通して、貴方の想いが痛い程伝わって来る……!

「……んっ……んああっ……❤」

ダメ……私は貴方を止めねばならないのに……イッてしまう……!

「でも……それじゃあアオイさんに止められちまう。
だから、さっきはズルを使ってまで意地を通そうとしてしまった……!」

「……!!」

マモル樣の言葉で、ようやく理解出来た。
彼が何の為に……憎しみ云々といった建前を見せる事しかしなかったのか。

彼が最初から本音を出したのでは、それを私に折られてしまえば終わり。
だから、あえて「復讐」などという建前を出した上で私の意識をそちらに向かわせた。

マモル樣は、彼が抱く「私への愛」という『最大の武器』を、
復讐や憎しみなどという単語をあえて使う事で取るに足らない物だと私に誤解させていたのだ。

だからこそ、彼は極限の状態でも自分を保ち……こうして、今私に愛を注いでくれている。

「ハァ……ハァ……!
ウォオオオオオオ!!」

彼の中にある獣欲が、私の中に注がれる。

「ああ……はああああ……アアアアぁ❤❤」

彼の精を受けて、私もまた獣のような声を上げながら身体を仰け反らせる。
そのまま2人で絶頂の余韻に浸っていたのだが、マモル樣が動く。

「あ……❤」

未だに火照っている私の顔に、愛しい人の両手が添えられる。
私の手よりも大きく、温かい。

「ハア……ハア……!!
アオイさんの『アへ顔』、とっても淫らで……綺麗だ……!」

彼の体温が、何時もより高い。
全身が火照っていて、明らかに興奮している。

「……え?」

……あれ?
私の膣内で、彼のモノがまた大きくなって……!?

あっ、動き出した……❤

「い、何時もの凛々しい姿も、今の淫乱な姿も大好きだっ……!
アオイさんを見る度に、ずっとこうしたいと思ってた。
俺が貴方への好意を自覚した時点で、俺はもう貴方のモノなんだ……!!」

彼の喋り方がいつもの固い感じとはまるで異なる上に、目が据わっている。

どうやら、私と交わりを続けた事による極度の疲労と興奮によりマモル樣の理性が完全に吹き飛んでしまったようだ。

本能全開の言葉が、普段よりもかえって私の心を震わせる。

良いでしょう。
貴方の全て、私が受け止めて差し上げます……!

「そんな愛しい人が『戦場』に行ってしまうなんて、嫌だ……!
嫌だ、いやだ、イヤだ……!!」

子供が駄々を捏ねるような言葉で、感情を吐き出すマモル樣。
しかし、その顔は本当に怯えていて。
身体が震え、私の身体を掴む大きな両手には痛い程の力が込められている。

マモル樣は、
私がメンセマトとの戦いに赴く事に対して『異常な程の恐れ』を抱いている……!
そして、普段の彼はその事に気が付いていない……!?

「アオイさんが『そこ』へ行ってしまえば、俺はもう何も貴方にしてあげられない。
そうなってしまう位なら、全部……始まる前に終わらせてやる! 何もかも!!」

正直マモル樣の言葉に込められた意味を私は全て理解していないし、
今の彼もまた自分の喋っている言葉の意味を全て理解している訳では無いだろう。

ただ、私には彼が私を思う事がひしひしと伝わって来る。
今は、それだけで十分だ。

「それには……貴方が必要なんだ……!」

ようやく分かりましたよ。
貴方が「ズル」をしてまで私の房中術から『自分自身』を守り抜こうとしていたのは、
私を自分の側に引き入れる為だったのですか。

「この先の一生を貴方にくれてやっても良い……。
だから、力を貸してくれ……!
俺が今からやろうとしている事の『共犯者』となって……く、れ……!!」

「は、い……!
私は、ずっとマモル樣と共に……❤」

この先の一生を貴方にくれてやっても良い、という言葉を聞いたと同時に絶頂を味わう。

彼が最後の気力を絞って私に注いでくれた愛は、とても暖かく感じられた。


私の膣内へ再び精を放ちながら、彼は倒れた。
言いたい事を喋って、力付きてしまったのだろう。

ちょうど、絶頂の余韻に浸り終えた頃……マモル樣が再び目を覚ます。

「あれ、俺は……ええと……ああ、思い出しました。
本音とか、もう色々、全部言っちゃいましたね」

吹っ飛んでいた彼の理性がようやく戻って来たようだ。
「その時」の彼自身が何を言っていたかを覚えているのが、彼の様子から分かる。

マモル樣は、呼吸を整えた後に……改めて私と向き合い、絞り出すような声で告げる

「俺が今からやろうとしている事は、危険な事だってのは重々承知しています。
ですが、どうか一度……手を貸して下さい……!
今まで貴方が俺に注いでくれた愛に、報いる機会を……!」

「良いでしょう」

「あえっ!?」

私の即答に対して、マモル樣が素っ頓狂な声を出しながら驚く。

第一、彼が私の術を除けた時点で、既に勝負は決まっている。
ただ一方的に私が彼を危険から遠ざけるのでは無く、共に乗り越える。

……それが可能だと、マモル樣は私に証明して見せたのだ。

大好きな相手だからこそ、どんな手を使ってでも守りたい。
巴ちゃんの手を借りてまで愛する人を止めようとした私にはその気持ちが良く分かる。

ましてや……愛しい人が私を思っての事なら、乗らない筈が無い。
その愛が本物だと、ついさっきまで彼は私に証明してくれたのだ。

しかし……。

「ただし、条件が3つあります」

「1つ、私に全てを明かす事」

「……分かりました。
俺はもう、アオイさんと俺自身には隠し事をしませんよ」

良い返事が聞けて何よりです。
ちゃっかり、私と自分自身「には」隠し事をしないとか言う辺りが実に貴方らしい。

「2つ、貴方が絶対に死なない事」

「了解しました。
アオイさんも死なないで下さいね?」

マモル様は即答してくれた。
私に返された彼の問いに、私も直ぐに頷く。

「これらを守って頂けるのであれば、私は貴方を主君として仕える側近になります。
もしマモル樣がこれから悪の道を行くのであれば、私も貴方の言う『共犯者』となりましょう。
……勿論マモル樣が取り返しの付かない事をしようとしている時には止めますけども」

「……!」

マモル樣は、私が出した「主君」という言葉に一瞬驚くものの。
クノイチを娶る事は「そういう事」なのだと理解して頂けたようだ。

「なら、アオイさんは、俺と手を組んだ時点で俺の『共犯者』になってもらう事になりますね」

やはり、そうでしたか。

マモル樣の理性が吹っ飛んでいる状況で出た言葉とは言え、
私に「共犯者」になってくれという事は『そういう事』だろうとは思っていた。

まあ、詳しい事は後で彼にじっくり話して貰うとして。
今は、最も大事な3つ目の願いを……!

「3つ目なのですが……これからは私の事は『アオイ』とお呼び下さい」

「あ……!」

私は既にマモル樣に愛する気持ちを伝えていて。
なおかつ、彼もまた私への愛を証明してくれた。

だが、マモル樣の性格から察するに、
私達が正式に結ばれ「夫婦」となるのはメンセマトと佐羽都街のいざこざが全て終わった後となるだろう。

しかし、だからと言って2人きりの時でさえ彼に「さん付け」で呼ばれるのは気に入らない。

せっかく、固い感じが取れた「素のマモル樣」が見れたのだ。
もう、愛する人と2人きりの時に他人行儀な態度は取って欲しくない。

「私もクノイチの誓いに従い『本当の私』は貴方だけにお見せします。
ですので『本当のマモル樣』を私だけに見せて下さい」

「ええ……ならアオイさ……、コホン!
『アオイ』も俺がそうしている時には、同じような態度をとって欲しいな」

えっ?
ですが私は貴方を主君として……!

「勿論、2人きりの時だけで良いから……、
というか、むしろそうして欲しい」

ふふ……成程。
それも、貴方にとっての「本当の私」という訳ですね。

で、あれば喜んで……!

「分かりまし…分かったわ、マモルさま……あっ」

……何だかんだで、私達は似た者同士のようだ。





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私とマモルが、互いに素の自分を見せ合う事に慣れるまで雑談した後。

「……アオイ『だけ』に聞いて貰いたい話があるんだ」

そう言って、彼は辺りを注意深く見回す。
周りには誰も居ない……という意味を込めて私が頷くと、彼は私の耳元で話し始めた。

彼が、佐羽都街とメンセマトの戦いを止めようとしている真なる理由。
そして、その為の布石となる全てを。

「……らす、ぼす?」

恐らくは彼の策の鍵となるであろう、異世界の単語。
私はその意味をマモルに聞き返し、段々と理解してゆく。

彼が「メンセマトと佐羽都街の双方に」仕掛けようとしている策略の意味を。

……。

…………。

…………成程。

彼の「策」は神算鬼謀と呼べるようなものでは無いが……本当に、タチが悪い。

彼がかつて我々に何も明かそうとしなかった理由と、
マモルが私を仲間に引き入れようとする時に、
「共犯者となってくれ」と仰った意味が嫌と言う程分かった。

彼の策には『悪意』がたっぷりと詰まっている。

マモル曰く、
能力、容姿、性格……。
それら全てが我々魔物娘に対して劣等感を覚える程に劣る自分が、
彼女達に……そして「私」に並び立つ為の手段として出した答え。

それが「人間ならではの『弱さ』を逆利用する事」だったとの事。

確かにメンセマトの異常を白日の下に晒して領主を追い詰めるのは有効な手段だろう。
しかしそれは彼にとっては通過点でしか無い。
彼が策を為す理由を偽っていたのも、真なる目的に辿り着く為。

……そして「それ」を知るのは彼の『共犯者』たる私だけなのだ。
14/10/11 06:21更新 / じゃむぱん
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■作者メッセージ
お待たせしました。
10月始め頃に更新すると予告しておきながら、結局は更新が中旬となってしまった……。

アオイさんの目から見えた、
マモル君の「異常」を彼自身が自覚出来た時、ようやく彼の目に「真実」が見え隠れします……!

次回は今月末までに更新する予定です

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