連載小説
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第一話 島と渡り烏
昨晩は、ひどい嵐だった。
多くの死刑囚が、かつて私の上司であった男たちが毎日を送るみすぼらしい建物も、許されざる罪を犯した者たちへの殺意でも抱いていたかのようなあの風雨にさらされいくつかはほぼ全壊していた。
辛うじてここから確認出来る距離にある大陸までは手漕ぎの船で数時間、大洋に浮かぶ孤島には五十人ほどの老若さまざまな人間が暮らしており誰に助けを求めることもできず己の住居を今頃慣れない手で建て直しているころだろう。
この島は、監獄だ。
私を含めた、この島に島流しに会った囚人たちはかつてはとある国の権力を掌握していた者たちだ、その中でも特に罪の重いものたちがこの未開の島に閉じ込められている。
船を作ってこの島から出るには、島の大半を占める森に分け入らなくてはいけない。
しかし森には魔物が住み、容赦なく襲ってくる。結界の張られている住居や畑のある地域まで魔物は入って来れないが、森はそうではない。
男に飢えた魔物をかいくぐり材木を得たとしても、ほとんど肉体労働などしたこともない貴族たちにそれを船に加工する技術も、それを操舵して陸を目指す航海術もない。
結局のところ彼らや私には、この島でかつて見下してきた魔物に怯えながら、やろうと思わなかった仕事に勤しみ一生を終える以外に過ごす手段はない。
そんな中で私だけは、一応特別な扱いをされている。
私は、この島の看守らしい。
らしいというのも、実感がないからだ。違いと言えば洞窟に作られた雨風に怯える心配のない海岸線に最も近い住居に住んでいること、外界からやってくる人間に接触していい権利しかない。
私の仕事は、ここを貴族たちが抜けださないよう見張ること。
毎日毎日、森に入ろうとしてはあわてて逃げ出してくる男たちの様子を見張るばかり。
私の分の食料はほぼ自分で採取している、貴族たちに要求したとしても突っぱねられるだけだからだ。先日は魚を釣ったし、捕まえた野兎を焼いて食ったりもした。
荒んだ食生活を心配してか気まぐれか、ここに色々な物資を運んで、私から抜けだした者はいないと報告を聞く男が珍しく月に二度訪れ畑仕事に必要なものを寄越していったので試しに作物を作ってもいるが、食卓に上る日はあまり多くない。
「水をやるか。いや、昨日があの雨だから必要ないのか?」
そう思ったが暴風のせいで作物が吹き飛ばされたり枯れたりしてしまっては問題だ、なので私は個人用の菜園に向かうことにした。
「ひどいな、おい大丈夫か? ……お前はもうだめだな。すまん。」
私の父上や母上だけでなくかつて私に懐いていた弟すらも私と口を利くことはないので、私が言葉をかける相手は育てている植物以外になくなっていた。
自然と口数も減った、もはや全てがどうでもいいと、諦めの境地に至りつつすらあった。
「しばらくは、粗末なもので食い繋ぐ日々だな。」
案の定、作物のうち二割以上が再起不能、特にもうすぐ実のなる筈だった大きく育った植物の被害はひどい。作物を口にできるのはあと少なくとも一カ月は先だろう。
とりあえず、今日の食事を手に入れなくてはいけない、森に肉を取りに行くか、それとも海岸で魚を取るか数秒悩み、魚を取ることに決めると海岸に向かう。
しかしそこに何か流れ着いている者があることに気が付いた。
黒い、大きな毛の塊。
最初に彼女を見た時の私の感想はそれだった、しかしすぐに、見間違いだと気づいた。
「……魔物、か。まだ随分と幼いな。」
そう、黒い毛は彼女の羽毛や体毛だった、両腕になるべき部分が翼になっていて、足は鳥のような鉤爪のある足になっている。恐らくこの子はハーピー種だろう。見た目は人間でいう十三・四歳ほど、全身ずぶ濡れでかなり体が冷えている。
死んではいない、かすかに呼吸がある。
「……ふん。」
放置しておけばいいものを、私は彼女を助けることに決めていた。
とりあえず近くにある川で全身に付着した海水を洗い流してから、家に連れ帰って毛布でも掛けて、暖炉の前に寝かせておこう。
少女は見た目以上に軽く、痩せていた。それこそまるで羽のように。
「下らん感傷だな。」
口から洩れたそんな言葉が、今の私のすべてだった。


魚を獲る技術など誰かから習ったこともなかったが、ここで暮らすうち自然と身に着けることができたのだからかつて私の習っていた技術のうちのどれかが関係していたのだろう。
四匹の魚を捕えた私はそれを家に持って帰った。
相変わらず娘は目を閉じたままだったが、首筋に手を触れてみると体が温まっているのでどうやら死ぬ心配はないらしい。
暖炉に火をくべ、串に刺した魚を焼き始める。
娘を暖炉のそばに横たえると、魚が焼けるのを待ちながら窓の外を見やる。
相変わらず勝手な悲壮感に満ちた罪人達の町並みはやはり修理も大して進んでおらず、今も息を切らしながら必死に材木を運んでいるところだ。
私がもし手伝ったのならもっと早く終わるのだろうが、彼らはそれを望まないだろう。何せ私が近づいただけでも、裏切り者と罵りながら石が投げられる始末なのだ。
そう考えていたら、娘の方に変化があった。
「ん………う、けほっ」
娘がうめき声を上げ、そして一度咳をする、そしてもぞもぞと体を動かして起き上がる。
私と目が合うと少し怯えたように距離をとるが、すぐに私に助けられたと気付いたのかおずおずと頭を下げる。
「あ、ありがとうございます」
「……構わん、それより、食え。」
焼けたと思しき魚を娘の前に差し出すと、遠慮がちにではあるが受け取り、それを口にする。
これが、私と彼女の出会いだった。


17/03/11 19:44更新 / なるつき
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■作者メッセージ
久々に書いたら、内容うっす!

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