連載小説
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メインディッシュ(ドッペルゲンガー)
それは、何も無いもの同士が出会った夜

・・・

いつも通り裏通を通りながらの帰り道
そんな中に、あいつはいた

「お前…寒くないのか?」

黒い、まるで漆黒そのもののような服に怯えて震えているあいつを、俺はまだ覚えている

「…」

僅かな沈黙、そして俺から溜息が零れ落ちる

―――裏通なんて、言わば汚れ仕事をやってたり、表の世界じゃやっていけない連中が集まる
そんなとこに、こんな子供がいても生きていけないだろう

「…ついて来い」

―――そして、人にかける優しさなんか、役に立たない

・・・

「ドッペルゲンガー、ねぇ…」

拾ってきた奴は人間じゃなかった
そいつは人の感情が形になった魔物、ドッペルゲンガーだった

「だったら失恋した奴のとこにいきゃ良かったじゃねえかよ」

「あ、あの…私の相手…既婚者で…」

「―――あぁ、なるほどね」

こいつら魔物は人の事を尊重しすぎる位に人を思いやる
特にこいつらドッペルゲンガーは、人の想いが形になったと言われてる位だ

本来ドッペルゲンガーは失恋した相手の姿を形取り、番を探す魔物だ
だがこいつを拾った場所を思い出す

―――そこは無駄に地位の高い奴等が密会に使うホテルの裏だ

まぁつまり、こいつは恐らく不倫の失恋から生まれたドッペルゲンガーなんだろう
だから、失恋した相手のところに行くって事は…

「誰も幸せにならないし、下手したら殺されちまうもんなぁ…」

その言葉を聞いて、身体を震わせるドッペルゲンガー

「しっかし、ほかの失恋者でも探しゃあ良いじゃねえかよ」

「…」

その言葉に、萎縮するドッペルゲンガー

「今日は世間ではクリスマスって、愛だ恋だ騒いでる時期だぜ?」

「…だからこそ、行きたくない」

このドッペルゲンガーがはっきりというのはこれが初めてだった

「こんな時だからこそ…みんなに幸せでいてほしい…って思う」

「…くだらねぇ」

こんな真っ直ぐな奴が、損をする
そんなロジックが仕込まれているこの世界も

「お前みたいな偽善者も…くだらねぇ」

「え?」

「なーにが『みんなが幸せでいてほしい』だっての
そのみんなの中にお前がいねえじゃねぇかよ」

その言葉を聞いて―――泣き始めた

「そもそもなぁ、俺だって幸せなわけじゃねえんだ」

俺は…なんでだろうな、珍しく聞いてもらいたかったんだろう

「誰かが幸せになるってのは、誰かが不幸せになるってこったぜ?それに…そもそも俺なんか…その恋だ愛だのせいでこんな暮らしだ」

「え?」

「…ったく、言いふらす事でもねえんだけどな」

口が滑ってしまった、とはこの事か
もうこの際だ、酒と一緒に流しちまおう
そう思いながら適当に買ってきた安酒を出しながら俺は再び語る

「俺は…まぁ何でも屋みてぇなもんよ
何でも屋っていやぁ聞こえはいいが、金次第でどんな汚い仕事も出来るし良心も咎めない
だから人を殺す事もあれば、金持ちに媚売って護衛の仕事なんかもする」

ドッペルゲンガーは涙を拭って、俺の話に食いつく

「んで、ある日の仕事で俺は―――クライアントの女に求婚された」

「えっ…それって凄いんじゃ」

「まぁ凄いこったろうな
―――向こうのフィアンセの前でなければな」

「あっ…」

「おかげで俺は逆恨みで―――賞金まで掛けられた」

「そんな、ひどい…!」

「まぁ、それ以前に俺もサービスしすぎちまったからなぁ」

そう言いながら酒を一気に飲み干す

「まぁそもそも生まれも定かじゃねぇ、どこの誰ともシラネェ裏稼業なんてのは、箱入り娘共からしたら、さぞかし危なくてかっこよく見えてたんだろうよ」

話を聞いて、ドッペルゲンガーは何も言わなくなった
―――沈黙が続く

「まぁ、今日が無理なら、明日にでも失恋した普通の男を捜せば良いんじゃねえか?」

そう言って酒を飲もうと―――

「…無理です」

した瞬間に、これだ

「…なんでだよ」

「その…一緒に居たいって思う人が出来ちゃって」

「…あのなぁ、お前―――」

「なんとなく、わかるんです」

「何がだ?」

「私の失恋の記憶の中にいる人の顔…その中に、あなたがいるんです」

その言葉を聞いて、俺は頭を抑えたくなった
つまりは―――

「つまりあれか?俺が上手い事誑かした連中は今は不倫に走りまくってる、ってか?」

「…私の始まりは、そうみたいです」

その言葉に俺は益々頭を抑えたくなった

「私の始まりは、きっとあなたと出会ったとある女性」

ドッペルゲンガーは言う

「でも…そこから色んな不倫の中にあった失恋とかが交じり合って…私になったんです」

「見つけるのが俺じゃなくて失恋した奴なら良かったのにな」

「…いいえ、いいえ
貴方も昔に恋に破れているんです」

「―――は?」

ドッペルゲンガーは、その言葉を皮切りに、影を纏い始める

「ずっとずぅっと、昔の事。ようやく―――みつけました」

影を纏い終えたドッペルゲンガーは―――
俺が昔恋した女の姿になった

「いや、え?俺が…恋した?」

自分でもおかしいと思う

俺は恋なんかした事が無い筈なのに―――この女に恋した感覚がある

「…最も、見かけ以外何も覚えていない、かすかな記憶だけどね」

瞬間―――ドッペルゲンガーは元の姿に戻り、倒れる

「おいっ!」

間一髪、抱きかかえる事には成功した

「はぁ…はぁ…ずっと、貴方の記憶を紐解いてました」

震えながら、息も絶え絶えに告げる

「貴方は―――ずっと昔、この街にいたとある令嬢に恋していたんです」

「は―――?いや、え?」

「でも、身分違いで叶わない事を幼くとも知っていた貴方はその恋心を胸のずっと奥にしまってしまったんです
―――それが、あなたが恋や愛を信じられなくなったきっかけ
だから…貴方も恋したり出来るんですよ」

そんな無責任な事を言って、気絶してしまった

…これは、どうすればいいのか

・・・

ドッペルゲンガーをベットに寝かせて、俺は思い巡らせる

―――いつからだろう、世界が色褪せて見えたのは
―――いつからだろう、世界に期待しなくなったのは
―――いつからだろう、誰も信頼も信用もしなくなったのは

なぜかそんな事を考えながら、ドッペルゲンガーを見て思う

何処にでもいるような地味な見た目をしておきながら、どんな漆黒よりも深い黒色と透き通った肌
あどけなさを残しながら、それでいて妖艶な色気

―――ゴーン…ゴーン…

夜でも構わず、時間を告げる鐘がなる
今日が昨日になり、明日が今日になった

「…とりあえず、どうすっか…寝てから考えよう」

起きたら、また退屈な日常が続くのか、何か変わるのか

それは俺のベットで眠る眠り姫のみが知ってるんだろう

そう思うことにして、俺は眠りにつく事にした

17/12/25 00:46更新 / ネームレス
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■作者メッセージ
おかしい、最初はもっとシリアス&ダーティな味付けのはずだったのだが…
でもなぜか満足感が大きいです

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