連載小説
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4話 古い記憶と嫌な予感
「いいか、何があってもここから出てきては駄目だぞ」
「どうして父様?」
「どうしてもだ。言いつけを守れない子は私の息子ではないぞ?」
「わかった! ボク、何があってもここから出ないようにする!」

ボクは、父様と二人で大きな洞窟の中に作った家に住んでいた。
父様が言うには、ボクが産まれた頃はもっと大きな家に住んでいたみたいだけど、魔術の研究をするにはこういった自然の中のほうがやりやすいから引っ越しをしたらしい。
そのせいで不便な生活をさせてゴメンなって父様はよく言ってくるけど、ボクにとっては最初からここが家だし、何より父様と一緒だったらどこで暮らしてても楽しいから構わなかった。
ボクは時に厳しくも優しい父様が大好きだ。父様と一緒ならどこで暮らそうがボクは楽しいし、幸せだった。

「それと、ここに入ったらしばらく外の様子を見るのもダメだ。この時計が夜ご飯の時間になるまでジッとしているんだぞ」
「うん。ボクジッとしているよ!」
「よしいい子だ。それじゃあこの箱の中に入るんだ」

今日もいつも通り父様とご飯を食べたり、魔術を教えてもらったりしていたのだけど、急に父様がハッとした表情を浮かべたと思ったら、ボクの身体より少し小さい箱に入れと突然言ってきた。
いきなり変な事を言ってきてどうしたんだろうとは思ったけど、父様はいつになく真剣だったし、困らせたくなかったから素直に箱の中に入った。

「それじゃあ、さっき言った時間になるまで絶対に動いちゃダメだからな」
「うん……にゅむ!?」
「いいな……絶対だからな……」
「むにゃ……ちょっと苦しいよ父様……それに何回も言わなくてもわかってるよ……」

ボクが入った後、箱の蓋を閉める前に、父様はボクの身体を力強くギュッと抱きしめ、頭を撫でながら念入りに動いては駄目だと言ってきた。
思えば、父様に頭を撫でられた事は今までも何度かあったけど、こうして抱きしめられたのは初めてだった。
ボクはなんだか恥ずかしくなったけど、父様の温かさが心地良くもあった。

「じゃあ蓋を閉めるぞ」
「うん」

ボクを離した後、ゆっくりと蓋を閉める父様。
外からの光が入って来なくなり、ボクの目の前は、完全な暗闇になってきた。




「……お前だけは絶対に死なせないからな、ティマ……」
「……え?」




完全に蓋が閉まる直前、そんな言葉が聞こえたような気がした。

「父様……? 父様!?」

嫌な予感がして、すぐ箱から飛び出そうと思ったけど……父様が魔術で蓋が開かないようにしたのか、押しても叩いてもビクともしなかった。
それどころか、外の音も何も聞こえなくなっていた……防音魔法を掛けたみたいだけど、いったい何をするつもりなのだろうか。

「くっ、こんなもの!」

父様は何があっても時間になるまでこの箱から出るなと言っていたけど、ボクはそんな事はお構いなしに箱から出ようと力任せに殴るが、やはりビクともしなかった。
初めて父様の言葉に逆らう……ちょっと怖いけど、このまま素直にジッとしているほうがもっと怖かった。
このまま父様が遠い場所に行ってしまうんじゃ……そんな考えが、ボクの心を不安と恐怖に染め上げる。

「出来るかわからないけど……やってみるしかない!」

いくら力任せに叩いたりしても箱は壊れるどころか蓋が開く事も無い……やはり父様が魔術で細工をしたようだ。
だからボクは箱の中で暴れるのはやめて、父様が掛けた魔術を打ち消す呪文を唱え始めた。
父様はボク達バフォメットの中でも相当魔力が高く、魔術の腕も相応に高い。
そんな父様の掛けた魔術だから、絶対に解除できるとは到底思えないけど……ボクはそんな父様の息子だ、やってできない事はない。
だからボクは、魔力を集中させて解錠呪文を唱え始めた。

「……」

やはり父様の魔術は強力で、そう簡単には解除できなかった。
それでも、ちょっとずつ、本当に少しずつだけど、結構時間は掛かったけれど父様の魔術を解除できてきた。
本気の呪いなら今のボクじゃどうあがいても解く事は出来ないけど、これは普通の術だからこそボクでもなんとかなりそうだ。

「……できた!」

そして……夜ご飯の時間になる1時間前になって、ようやく解除に成功した。
相当集中していたにもかかわらずここまで時間が掛かるとは……やはり父様の魔術の質は最高だ。


「ん……よいしょっと……」

解錠できたので、ボクはゆっくりと箱の蓋を押しあける。
時間になるまでジッとしていろと父様が言っていたんだから、きっと何かあるに違いない……そう思ってボクは、他の人には気付かれないようにそーっと、ほんの少しだけ蓋を開けて外の様子を覗いた。

「あっ! 父さ……」

箱から見えた隣の部屋……洞窟内の一番大きな空間に、父様はいた。

「あ……ああ……」





白目を剥き、身体中がボロボロで……血を大量に流している父様が、倒れていた。





「ハァ……ハァ……よ、ようやく殺せた……」

その正面に立っているのは……短い茶髪と蒼い瞳を持ったまだ若い一人の人間のオスだった。
その人間のオスが手に持つ剣や身体に付着した液体……父様の血。

「これで……ハァ……父さんの仇は……討てました……」

嫌な予感は……一番最悪の形で……現実となってしまったようだ……

「ハァ……ふぅ……次は……母さんの仇討ちだ……」

ボクの眼に見えている父さんの眼には……何も映らない。

「闇黒のドラゴン……あいつはどこに……」

近くにいなくても感じた父様の力強い魔力は……全く感じない。

「とりあえずここを出よう……宝とかもあるみたいだけど、父さんを殺した奴の物なんかいらないしな……盗賊が勝手に持っていくだろ……」

人間が何か言っているけど……ボクの耳には何一つ入ってこなかった。



「と……父様……」

人間がボク達の家から出て行ったあと、ボクは箱から飛び出して、父様に近寄った。

「とう……さま…………」

父様の身体を揺する……反応はなかった。

「父様……とうさ……ま……」

父様の手を握ってみる……握り返してくれなかった。

「ねえ……父様……」

父様の顔を覗きこむ……息はしていなかった。

「とう……さまぁ……」

父様の胸に手を当ててみる……心臓の鼓動は全くなかった。

「ぁ……ぁぁ……」

父様にまた抱きしめてもらおうと胸元にギュッと抱きつく……どこか血生臭く、どこまでも冷たかった。


「ぁぁ……ぁぁぁあああっ!!」


父様は……死んでしまった。


「うわああああっわあああっあああああああああっ!!」


大好きな父様は……殺されてしまった。


「わあああああっああっあああああああああああぁぁ……!」


もっと一緒にいたかった……


「とうさまああああああああああああああっうわあああああああああん!」


もっと魔術を教えてほしかった……


「げふっ、げふっ、どうざま……えう……うわあああああああああああっ!!」


もっと……ボクを抱きしめてほしかった……


「ああああぁぁ……ぁぁぁあああああああああああああああんっ!!」


どれだけ望んでも……どれ程泣いたって……父様は帰って来ない……


「わあああああああああああああああああああああああああっ!!」


でもボクは……泣くのを止められなかった……


「とうさまああああああああああああああああああああああああああああ!!」


時間も忘れて……涙が枯れ果てるまで……父様の前で泣き続けたのであった……



…………



………



……







「……」

いつしか涙は止まり……ボクは父様のお墓を作った。
死霊魔術は使えない……もし使えたとして、それを父様の身体に使ったとしても、そこにあるのは父様の姿をした人形でしかないから、使う気はない。

「……なんで……なんで父様が……」

父様のお墓の前で、ボクは打ちひしがれる……
もう二度と父様の姿を見る事が出来ない……寂しい……悲しい……そして、苦しい。

「……父様……ボク……」

それと同時に……ボクの中で、どす黒い何かが芽生えてきた。
それは……今まではなんとなく餌としか思っていなかった相手への……明確な敵意と殺意。

「……おい、この洞窟にお宝があるって本当かよ?」
「ああそうだ。なんでもバフォメットがここにいたらしい。沢山宝を溜めているんだとさ。それで最近勇者でもない近くに住む青年にそのバフォメットが殺されたって話だ。どうやらその青年は宝には手を出してないらしいから……」
「俺達で貰ってやろうって事だな! シシシッ! これで当分は遊んで暮らせるな!!」

そんな時、ボク達の家の入口から、汚い声が聞こえてきた。

「さーてどこに……あん?」
「なんだ? おい、バフォメットは死んだんじゃねえのか? ここにいるって事はヤバいんじゃ……」
「いや……こいつは小さい。おそらくそのバフォメットの子供だろう。なに、子供ならたいした事はないだろう」
「なんだ、驚かせやがって……」

振り向いてみると……声通りの汚い顔をした人間のオスが3人、ボク達の家に入り込んでいた。

「おらガキ! 消えな!」
「死にたくなければ素直に宝を全部俺達に寄越しな!」

手にナイフを持ってボクに何かを言ってきている……どうやらボクを脅して、父様のコレクションを持ちだそうとしているみたいだ。

「……死ね……」
「あん? 今なんて言った?」

父様を奪った人間が、これ以上父様を奪うのを、黙ってみていられるわけがなかった。
だからボクは……

「テメェ、生意気言ってると殺s」
「死ねえ! 意地汚い人間め!!」
「なっぎゃあああああぁぁ……ぁ…………」

自分の鋭い爪で、一番近くにいた男の首を掻き切り、その命を奪った。

「なっ!? こいつはヤバい!!」
「逃げるぞ!!」
「逃さない!!」

仲間の一人が瞬殺された事でボクと自分達の力の差がわかったようで、血相を抱えて逃げ出そうとした残りの二人。
でも、もちろん逃すつもりはない。

「……燃えろ!!」
「ぐあああああああああああああああっ!! あ、あついいいいいいぃぃぃぃ……!!」

父様が愛用していた杖を媒体に、ボクは片方のオスを、魔術で焼き殺した。

「ひ、ひぇぇ……い、命だけはお助けを……」
「……駄目だよ……父様を殺した人間達に、生きる資格はないよ……」
「や、やめ……やめてくれえぇぐえっ……あぁ……ぁ…………」

残った一人がその場にへたり込み、おもらししながら命乞いをしてきたけど……もちろん受け入れるつもりはない。
ボクは頭を掴み……そのまま握りつぶした。
手が人間の血で汚れてしまった……後で綺麗に洗わないといけない。

「……」

3人とも片付いたので、とりあえず死体をどうしようか考える。

「……お腹空いたな……」

考えようとしたところで……父様が死んでから今まで碌に食事をしていない事を思い出した。

「まあ……こいつらでも食べるか。最低の生物でもお腹の足しにはなるし」

丁度いいやと思い、ボクは先程殺した人間達を食べる事にした。
とりあえず一番近くにある頭のない死体を貪る……お腹は満たされていく。

「はぐはぐ……焼いてある方がやっぱり美味しいや……」

二人、三人とお腹の中に入れていく……お腹はいっぱいになる。

「……けぷ……父様……」

お腹は満たされても……
ボクの心は満たされなかった……

「……」

どうして、父様は死んでしまったのだろうか。
それはもちろん、あの人間のオスが父様を殺したからだ。

「……人間め……」

あの人間のオスが……憎い。
父様を殺した人間が……憎い。

「人間が……人間のくせに……ボクから父様を奪った……」

ボクが大好きだった父様を殺した人間が……憎い。

「……ゆるせない……」

人間が……憎い。

「人間……赦せない……!!」

人間が……憎くて憎くて、仕方がない。

「ボクのこの手で……人間を……殺してやる……!」

憎くて、腹が立って、赦せなくて……殺したい。

「父様の仇……全員、殺してやる!!」

心の底から湧き出る黒い感情に身を任せ……ボクは、全ての人間を殺す事を決めた。

「特にあいつには……父様が感じた以上の痛みと苦しみを味あわせてやる!!」

特に、父様を殺した人間は……産まれてきた事を後悔させてやるほどに、悲惨な殺し方をすることに決めた。

「でもまずは……近くの人間からだ!」

でも、それは最後だ。
悔しいが、父様を殺したほどの力を持つ人間に、今のボクが敵うとは思えなかった。
だから……力を付けてから、そいつを殺す事にした。
ボクの復讐が終わる、最後の相手として、無様に殺す為に。

「父様……父様の仇は、ボクが討つから……だからずっと見ていてね……」

父様の墓に向かってそう言い残し、ボクは家を出て、近くの人間の村を滅ぼしに向かう事にしたのだった……


「全ての人間を……殺してやるっ!!」



……………………



…………



……







====================



「……………………はっ!?」

眼を覚ましたオレは……全身が汗でびっしょりと濡れていた。

「ハァ……ハァ……」

鼓動が速く、息も荒くなっている。
それもこれも、懐かしい記憶でもあり、今となっては悪夢でしかないものを夢で見たからだろう。

「ハァ……ハァ……」
「だ、大丈夫ですかティマ様? 医者をお呼びしますか?」
「ハァ……お、おう……大丈夫だエイン……なんでもない……」

そんなオレの目の前には、一人の男の姿があった。

「かなりうなされていましたが……悪い夢でも見たのですか?」
「ああ……まあな……」
「とりあえずこれを飲んで落ち着いて下さい」
「おう、ありがとう……ハーブティーは美味いなやっぱ……」
「汗もお拭きしましょうか?」
「あとでウェーラに嫉妬されても面倒だから自分で拭く。タオル貸せ。あと服脱ぐからこっち見るな」

その男は、オレの召使で、ウェーラの兄様であるエインだ。

「ところでどんな夢を?」
「ああ……いやなに……古い記憶を夢で見ていただけさ……お前が父様を殺した時のを、な……」
「……!!」

そして……夢の中で出てきた父様を殺した人間の男と、同じ顔であった。

「その……なんというか……」
「気にするなエイン。オレも今はもう気にしてねえからさ」
「ですが……私は深く考えずにティマ様の父上を……その事は未だに後悔してますので……」

そう、オレの父様を殺し、オレがずっと殺したいと思っていた相手は、このエインだ。
そんな相手が今となってはオレも大幅に信頼している召使で、自分の右腕的存在であるウェーラの兄様というのだから、長く生きていると何が起きるかわからないものだと実感する。

「だからもう気にしてねえ……まあ、夢に見る程だから未だにどこかで気にしてるかもしれねえけど、お前にはそれ以上に世話になってるからな。ウェーラの事も含めて、お前には感謝こそすれど殺意なんてもってねえよ」
「そう……ですか……」

あの時はまだ幼かったし、父様の死体を見て全く冷静になれなかったから気付かなかったが、夢でも言っていたように、エインだってオレの父様に自分の父親を殺されている。
しかもオレと違ってその親の死体は父様に食べられているので残っていない……そんな辛い目に遭っているなら、息子として親の仇を取りたいと思っても何ら不思議でもない。自分だってそうだったのだから。

「でも私は……あの時あのバフォメットに子供がいるなんて全く考えもせず……」
「そりゃ考えねえだろ。今はともかく、あの時代は全ての魔物が自分の子供に愛情を注いでいたわけじゃねえしな。まあオレだって父様がお前の父親を喰ってたなんて思っていなかったからおあいこって事でこの話は止めな」

この話題を出す度に暗い顔をするエイン。
それだけ自分がやった事を後悔しているのだろう……オレと違って復讐を止めてくれる人がいなかったエインは、それをやってしまったのだから。

「さてと……それ以外にも嫌な事を思い出しちまったから今日は朝飯持って気分転換に村中を散歩してくるわ。書類は昨日の内に纏めて机の上に置いといたから持っていってくれ」
「了解しました。帰りはいつ頃で?」
「ん〜……夕飯までには帰ってくる。なんせ人間を殺して食ってる夢だったからな……うぷ……思い出しただけで吐き気が……」
「吐きそうでしたらこの洗面kぶっ!?」
「まだ着替え中だこっち見るな次は枕じゃなくて拳だからな」

このままこの話をしていてもお互いの精神状態によくない為、オレは話を打ち切って気分転換に散歩に出かける事にした。
しかし……魔王が変わるよりも昔の事とはいえ自分の手で人間を殺し、挙句食べた事を思い出すとどうも気持ち悪くて敵わない。頭を握りつぶした感触が手に残っている気がしてきてなんとも落ち着かないし、当時は美味しく食べていた人間の肉の味を思い出すだけで酸っぱいものが胃から込み上がってくる。

「さて、それじゃあ行ってくる」
「はい、行ってらっしゃいませ」

寝巻から着替えたオレは、散歩に出かけ……る前に厨房へ向かい、朝ご飯を手にしてから屋敷を出発したのであった……



…………



………



……







「お気をつけてティマ様。夕飯までには必ず帰ってきてくださいね」
「わかってるって。ウェーラは自分のやる事をきちんとやっておけよ」
「そこはご心配なく。魔術研究のほうはホーラやレニューに、それ以外もそれぞれの副責任者に伝えておきましたので。私はティマ様に苛められたエインお兄様を慰める事に専念します」
「別に苛めてねえよ! お前エインの事になると本当オレに強く当たってくるな……」
「仕方ありません。夫が何よりも大切と思うのが現代の魔物ですからね」
「そうかい……相手がいないオレにはさっぱりわからん……」

厨房で昨日から仕込んでおいた鶏肉を揚げ、片腕で抱える程の大きさのカップいっぱいに詰め込んで村を回ろうとしたところで、ウェーラに遭遇した。
そんなに唐揚げを持ってどこへ行くのかと聞かれたので今朝の事を話したら、ジトッとした眼で睨まれながら小言を言われてしまった。
ウェーラはエインの事になるとオレに厳しく当たってくる事が多いのでそう珍しい事ではないが……自分の夫の事になると必死になるその姿が、未だ相手がいないどころかオスとしての意識を持つオレにはわからなかった。

「ティマ様は幼い少女としての魅力も完璧で誰もが羨ましくなる程、しかもそれでいて炊事洗濯なんでもござれのお嫁さんとして最適で結構モテているのですけどね……」
「そりゃあオレだってメスとしてやるべき事はやってきたからな! でもなんというか、身体を預けてもいいって相手がいねえんだよ……それに、オレは男のモノを触るよりも女を魔女に変える為に女の身体を触っているほうが楽しいしな」
「もう……」

自分がメスになったという自覚はとうの昔にしている。
メスになってからはおしゃれをしたり、料理をするのが楽しくなったりと変わったところももちろんある……料理に至っては自分の分どころか黒ミサで出す物も一人で作ったりする程だ。もちろん今オレが抱えている唐揚げも全部1から自分で作ったものだ。
今朝もそうだが、男性に乳首などのデリケートな部分を見られる事がちょっと嫌だし、服だってしっかりと女ものを着ている。
ただ……それでも、オレは今だ自分がオスだと思っているところもある。
サバトに引き入れる為、オレを倒そうと襲ってきた野郎共を返り討ちにした後その身体に幼い身体の魅力と背徳を教え込む事は多々あったが……誰とでもあってもそう気持ち良くもならなかったし、そんなに楽しくも無かった。
むしろ自分から言ってきた者や襲ってきた女性と性行為をしていたほうが楽しいし気持ちいい……別に本気で女性を愛する事はないが、男性相手よりはよっぽどいいと思ってしまう。

「まあ、エインとイチャイチャするのはいいがやる事はきちんとやっておけよ」
「わかってますよ。私もお兄様も公私はきちんと分けてますからね」
「ならいいが……ところでウェーラ、タイト達がこの時代に来た原因は掴めたか?」
「いえ、それがさっぱり見当もつきません……何故時空を歪める程の魔力が発生したのかと原因を探ってますが、今の所手掛かりは全くありません……」
「そうか……」

ふと思い出したので、タイト達がどうしてこの時代に飛ばされたのかわかったか聞いてみたが、結局わからずじまいらしい。
あの兄妹がこの時代に来てから早1ヶ月が過ぎたが、未だに謎のままみたいだ。
まあ、起きてしまった事だし仕方ないとあいつらも半ば諦めて今の仕事をきちんとしているらしいから問題はないだろう。
タイトの方は自警団の中でも相当の実力者という事で揉め事の解決や団員達の訓練で重宝しているらしいし、あのヘッポコだった剣の腕もメイに鍛えられて一般兵並みには扱えるようになっているとこの前ジェニアから聞いた。
ホーラの方は直接見ているからわかるが、元々魔術については好奇心旺盛になんでも知りたがるからかあっという間に現代の魔道具について理解してしまい、他の者達より素早く的確に調査や調合、新たな道具の開発などを沢山行ったので、当初の予定通り今は魔術研究室の副責任者をやってもらっている。

「あ、でも……」
「ん? 何かわかったのか?」
「いえ……一応調査は行ったのですが何もなかったので報告をしていなかった事が一つありまして……研究員の一人に言われて魔力管理装置で見ていた範囲よりも広げて当時の記録を調べてみたのですが、なんと1ヶ所だけホーラ達が現れた時と同じ魔力の乱れを発見しました」
「何!? それは本当か?」

とりあえず気になった事の回答は得られたので散歩に出かけようとしたところで、ウェーラから新たな報告を受けたオレは、その場に立ち止まり詳しく話を聞く事にした。

「はい。この村から数キロ離れた山奥に一ヶ所だけですがありました。ただホーラ達のと比べて範囲も正常化するまでにかかった時間も大幅に違ってまして……また別の現象が起きていたのではないかと考えました」
「そうか……それで、調べに行ったら何もなかったんだな」
「はい、一応は……ただ、その場の木やら岩やらが粉々に割れていました。他には特にありませんでしたし、誰かが居た跡も無かったので、この事からその場で爆発でも起きただけじゃないかと考えたのですが……」
「……ですが? 何か気になる事はあるのか? ならもったいぶらずに早く言え」
「ええでは……雨でほとんど消えてしまってましたが、何かとてつもなく大きな動物の引っ掻き跡らしいきものが地面に残っていました。これが周囲の岩や木が粉々になっていたのと関係があるかはわかりません」
「とてつもなく大きな動物? そんなものこの近くにいたか?」
「いなかったかと。そもそも地面を抉るような爪を持つ動物なんて、それこそ魔界でもそういませんし……」
「ふ〜む……」

どうやらタイト達が現れた時、似たような現象が少し離れた山にも起きていたらしい。
だが状況がかなり違い過ぎている……もし異次元の空間から巨大で危険な生物が出てきていたらわかると思うが、そんな報告は特にないとなると可能性は低い。
ただ単にそう見えるように爆風で抉れたとも考えられるが……実際に見てみない事にはなんとも言えない。

「……よくわからんな。まあ、気分転換ついでにちょっと行ってみる」
「でしたら地図をお渡ししますので少しお待ちください」

特に何もないとは思うが、もしかしたらタイト達がこの時代に来た原因の手掛かりが掴めるかもしれない。
だからオレは散歩ついでにそちらにも立ち寄ってみる事にした。

「う〜ん……まあ後でまた考えるとして、とりあえず唐揚げ食うか」

ウェーラが地図を持ってきてくれると言うので、その間にオレはアツアツの唐揚げを頬張る事にした。
カップには保温のルーンが刻んである為ずっとアツアツな唐揚げが食べられるようになっているのだ。

「……うむ。ジパングから取り寄せた醤油がよく利いてるし、外はパリっとしてて中はジューシーだ。我ながら美味い!」

一つ口に頬張る……自分で作っておいて言うのもなんだが、とても美味い。
やはり肉は鳥が一番美味いと思う……少なくとも、人間の肉よりはよっぽど美味い。
たしかにオスだった頃は人間も沢山食べていたが……あの時は内臓や骨も含めて美味しく食べていたが、今思えばよく食えたものだと思う……

「うえ……思い出してしまった……鶏肉で上書きしねえと……」

その時食べた人間の味を思い出してまた吐き気を感じた。
それに、夢で出てきた父様の宝を盗もうとしたあの屑共ならまだいいが、その後オレが襲った村娘達みたいに善良な人間を殺して食べた事を思い出すと、罪悪感で心苦しくなってくる。
いくら時間が経っても、こればかりは忘れる事ができないし、気にしない事もできないでいた。

「お待たせしました。この赤い印が付いている場所がそうです」
「おう……」
「どうかしましたか? 急に気分悪そうになっているうえやたら唐揚げを頬張ってますが……喉でも詰まりましたか?」
「いや、人間食ってた事思い出した……今全力で鶏肉で上書き中だ……」
「……ああ……それは仕方ありませんね。私もそんな事考えただけで気持ち悪くなりますし……」
「お前は昔から人間食べる事だけは拒否してたじゃねえか……」
「まあそうですけど……気分の問題です」
「そうかい……」

唐揚げを2,3個一気に頬張っていたらウェーラが地図を持って戻ってきた。
それを受け取ったオレは、まずは村内を散歩するために屋敷を出発したのであった……



……………………



「……もぐもぐ……こうしてゆっくり回ってみると、賑やかになったもんだと実感するなぁ……」

唐揚げを頬張りながら村の中をゆっくりと歩いて回る。
子供達の元気にはしゃぐ姿や魔物の話をする声か、あちらこちらから聞こえてくる。
タイトが住んでいただけのただ寂れた村だったティムフィトをここまで賑やかにした自分の手腕を誇らしげに思いながら、オレは村人の様子を見ていた。

「さーて、まずはどこから行こうか……」
「おーい村長!」
「ん、ロロアか」

折角の気分転換だし久しぶりにいろんな店を純粋に客として回るか……そう考えていたら、後ろから声を掛けられた。
振り向いてみると、オレよりも背が低い幼女……もといドワーフのロロアが居た。

「どうしたんだこんな時間に美味そうなもん抱えながらぶらぶらと……暇なのか?」
「暇というか……嫌な夢見たし気分転換だ。仕事もきちっとやってあるし、散歩ついでに村の現状を把握してるから立派に村長の仕事もやってるつもりだ。あと唐揚げ一つやるよ」
「おっ、サンキュー! これ村長の手作りか? 相変わらず美味いな」
「そうだろ。なんたってたまに飲食店開いている奴が教えてもらいに来るほどだからな!」
「へぇ……凄いもんだな」

こいつとはやたら村の中を散歩していると遭遇する気がするが、まあ広くない村だから誰と遭遇してもおかしくはないし、ロロアは納品やら物資収集などでよく村中を駆け回っているので偶然だろう。
そんな感じでよく遭遇するため、オレはロロアとはかなり仲良くなっていた。サバトの人間じゃないから内部のいざこざの相談なんかもできてとても助かっている。見た目的に歳の差なんて全然感じないし、気が楽でいい。
それと、ロロアがオレお手製の唐揚げを美味そうと言ったので一つあげる事にした。どうせ何十個もあるから一つぐらいオレの料理自慢としてあげても問題はない。

「じゃ、アタイは仕事あるからこれで」
「おう」

仕事があるからと言ってロロアは去っていったので、オレは再び歩き始めた。
唐揚げを食べていたら喉が渇いてきたので、とりあえずショップラクーンに向かう事にした。

「いらっしゃいませー!!」
「ようイース。今日は店番してるのか」
「はい。そんちょーさんはおかいものですか?」
「おう。これ食ってたら喉乾いてきたから飲み物を買いにな」
「なるほどー。のみものはいちばんおくのほれいこのなかにはいってまーす!」
「教えてくれてありがとな」

店に入ると早速店員をしているイースに声を掛けられた。






イースは週5日でこの香恋の店の店員として働いている。見た目や言動はアリスであるが故に幼いが、これでもホーラと同じ年齢なのでしっかりと働いているのだ。
なお、オレのサバトがこの村にあるせいか店員をしている幼女(イース)目当てで来店する者も多いらしい……香恋はその人気をちゃっかり利用して繁盛している。流石刑部狸。

「さーて、何飲もうかな……ん?」
「えっと……濃厚ホルスタウロスミルクと、それと魔界豚に……あと何だったすかね」

飲み物を買うために店の奥に向かって行くと、そこには『この店の中では』まず見ないだろう珍しい人物がいた。

「あれ、モックじゃないか。どうしたんだ香恋の店にいるなんて珍しいじゃないか」
「あ、ティマっすか。そりゃオイラだって性悪狸の店なんぞ居たくないっすよ」

買い物かごを掲げながら買い物リストらしき紙を見ている角が生えている少女……ゴブリンのモックが、香恋の店で買い物をしていた。
モックも香恋と同じく店を開いている身として、商売敵だからと相当仲が悪いため互いの店を利用する事はまずないはずなので、買い物をしている事を不思議に思った。

「でも仕方ないんすよ。オイラの店には魔界の特産物は置いてないっすから」
「そういえば……魔界の植物や魔界甲殻虫の粉末とかなんかはあるが、魔界の食い物はないな」
「そういう事っす。オイラはそれらを手に入れる伝手がないっすからね……」

どうやらモックの店には置いてない魔界の特産物を買いに来たようだ。
虜の果実と夫婦の果実は近くに生えているので採ろうと思えば採れるが、それ以外はこの店で買うしかない。
いくら香恋を嫌っているモックでもこればかりは仕方ないようだ。

「それを買って自分の店で売ったりはしないでくださいね」
「あ、香恋」
「はあ? いきなり出てきて何言ってるんすか。そんなせこい真似するわけないっすよ。オイラがそんな事すると思ってるんすかね?」
「はい。なんせ狡賢いゴブリンですから」
「あ? 今オイラだけでなく全ゴブリンを敵に回すような発言したっすね。ふざけるんじゃないっすよこの性悪狸!」

と、ここで店の奥に居ただろう香恋が急に現れた。
そして現れると同時に嫌味を言い始めた香恋と、それに喧嘩腰で受け答えるモック……これは面倒な事が起こりそうである。

「あらあら、では何故普段買わない魔界の特産物をいっぱい買っているのか説明出来るのですか?」
「はんっ! そんなもんオイラの旦那さんが食べたいって言ったからっすよ! まあ旦那がいない独り身のあんたにはわからないと思うっすけどね!」
「むか……ええわかりませんね小汚い旦那を持った小汚いゴブリンの気持ちなんて知りたくも無いですね」
「あ゛? 今オイラの旦那の事小汚いって言いやがったっすね? 上等だ表に出ろっすよこのアナルオナニー大好き淫乱狸」
「なっ……何故貴女がその事を知っているかは知りませんがいいでしょう。チビなあなたには狸恐怖症になってもらいましょう」
「おうやってみろっすよ小娘。昔の人間と魔物が敵対していた時代を生きていない若造に負けはしないっすよ!」
「そうですか。では私は昔の時代から生きている老人に引導を渡してあげますよ」

やはり面倒な事が起きてしまったようだ。
互いに喧嘩腰になりながら大声で叫びあっており、店中に二人のどなり声が響いているため店内にいる人が全員二人に注目していた。
身長差がある為互いに見下ろしたり見上げたりして相手を強く睨みつけ、今にも殴りかかろうとしている。

「お、おいおい……落ちつけよ二人とも……」
「ティマは黙っているっす!」
「ティマさんは黙っていてください」
「あ、おう……」

止めようと思って声を掛けたが、二人の剣幕な様子に思わず引いてしまった。
ゴブリンと刑部狸……モックのほうはいくら年上だと言っても、バフォメットと比べたらどちらもたいした事ない魔物だ。
でも、そうは言ってもこのご時世そんな事全く関係ないわけで……喧嘩している二人は本気で恐かった。

「さて……私を馬鹿にしたのですから、それ相応の痛みを受けてもらいますよ?」
「それはこっちの台詞っす。オイラだけならまだしも旦那の事を悪く言われて大人しく出来る程お人良しじゃないっすからね」

二人して店の外に出た後、香恋はモックの胸倉を掴んで持ち上げた。
モックの方も宙に浮いた状態で香恋の胸倉を掴み、旧時代のゴブリンよろしく鋭い眼つきで睨む。

「さて……右から殴られるのが良いですか? それとも上から……がふっ!」
「……まずはごたごた言ってるその口を黙らせてあげるっすよ」
「……そうですか……では……」
「ぷげっ!」
「……私もあなたの生意気な口を黙らせる事にしましょう」

そのまま店の前で殴り合いを始めた二人。
モックが蹴りあげた足が香恋の顎に当たったと思ったら、今度は香恋が胸倉を掴んでいない手でモックの頬を勢いよく殴る。
追撃として今度は香恋が掴んでいた手を使ってモックを地面に叩きつける。一瞬衝撃で息が止まったようだったがすぐに持ち直し、起き上がりついでに角を香恋の鳩尾に叩きこむ。

「今度という今度は数日いや一生店を休まないといけなくなるまで打ちのめしてあげます」
「それはこっちの台詞っす!!」

水と油の関係な二人なのでよく殴り合いになるが、このように毎回相手に痣が出来る程の勢いで喧嘩するので見ていてハラハラする。
魔術を使って早く止めなければと思ったが……適任者が駆け寄ってきたのが見えたのでとりあえず任せる事にした。

「オンボロな店は畳めばいいのです……あれ?」
「そっちこそサッサと潰れてしまえばいいっす……およ?」

そいつらは取っ組み合いを続ける二人それぞれの背後から近付き、二人の身体を拘束して喧嘩を止めた。
手慣れた動きをしている事から、おそらく既に何度か喧嘩を止めているのだろう。

「あ……あなたは……」
「はいストップ。これ以上続けるなら二人ともしばらくの間留置所に来てもらう事になるわよ?」
「あ……たしかホーラちゃんのお兄さんの……」
「お前ら今月これで3回目だぞ。いい加減にしないか」

香恋にはヒーナが、モックにはタイトが近付き、喧嘩中の二人を止めた。
二人とも人間にしては相当力が強いうえ戦い慣れている事もあって、二人とも拘束を抜けだそうにもできないようだ。

「でもっすよ。あの淫乱狸オイラだけでなく旦那の悪口も言ったんすよ!? このままじゃ気が済まないっす!」
「あの小汚いチビが人の事を悪く言うんでお仕置きしてただけですよ。なので気が済むまでやらせて下さい」
「許可するわけないでしょ落ち着きなさい」
「旦那の事を悪く言われて怒り心頭なのはわかるがそれで怪我する程の喧嘩したらその旦那が悲しむだろ? だからやめろ」
「ですが……」
「でもっすよ!」

なんとか言い聞かせてそれぞれをなだめようとする二人。
それでもまだまだ互いに怒りは治まらないようで、続きをしたいとなおも食いかかる。

「二人とも! それ以上喧嘩したらうちの妹が泣いちゃうけどいいんですか?」
「うぅ……けんかはだめー!!」
「あ……」
「あ……」

しかし……ジュリーが大きな声で二人に呼び掛けたら、その気もみるみるうちに消えていったようだ。
何故なら、ジュリーのすぐそばには……二人の喧嘩した様子を見てずっとハラハラしていて今にも泣き出しそうなイースの姿があったからだ。
まあ、毎度毎度イースが泣きそうになるのを見てこの喧嘩は終わるので、今回も無事解決したと言えよう。

「ち……イースちゃんに免じてここは引き下がるっすけど、今度旦那の悪口を言ったらタダじゃおかないっすよ」
「そっちこそ次私の事を馬鹿にしたら伝手という伝手を使ってお店を潰してあげますよ」
「だからけんかはだめー!」

もう大丈夫だと拘束が緩み抜け出した後、モックは財布から商品分の金を香恋にそう言いながら叩きつけ、香恋もそう言いながら商品を乱暴にモックへ押しつけ、その場は落ち着いた。
暴言を言い合いながらもきちんと買い物をしている辺り、二人とも商人なんだなと思う。

「はぁ……しかしいつ見ても迫力あるなぁ……」
「ティマ……お前いたなら止めろよ」
「唐揚げ持ってる幼い女の子に無茶言うなよ。ありゃ下手するとかつてのオレとお前の闘いより激しいんだぞ」
「お前なぁ……」

モックが去り、香恋が店内に戻った後、タイトはオレがこの場にいる事にようやく気付いたようで二人の喧嘩を止めろと言ってきたが、あんなに迫力がある殴り合いを止めるには身長が足りないので不可能である。

「まあこの身体になって不便になった事もあるってことだ。ところで唐揚げ一つ食うか?」
「いらん。今勤務中だ」
「別に勤務中に少しぐらい買い食いしても問題無いわよ。という事で貰っちゃえば?」
「そうそう。村長さんのご飯は美味しいのだから貰えるなら貰った方が良いよ。ねえイース」
「うん! そんちょーさんのごはんおいしいよねおねえちゃん!」
「まあそう言うなら一つ……たしかに美味いな」
「そうだろ!」

とりあえずいざこざは解決したので、おつかれという意味も込めてタイトにも唐揚げをあげる事にした。
真面目なタイトは始めは断ったが、ヒーナとジュリーが勧めたので食べてくれた。
味を聞いてみたところ美味かったらしい……思わず笑みが零れ、誇らしくなる。

「というか村長さんこんな時間になんでこんなところに?」
「ちょっとした調査を兼ねた気分転換だ。タイトと出会うよりも前の事を夢に見ちまってな」
「ああ……前に今の魔物の事は聞いたからなんとなくわかるが、気持ち悪くなってるって事か」
「そういう事だ。デスクワークは昨日の夜には終わらせてたし、これから村の外に調査しに行く予定もあるから丁度いいしな」
「なるほどな。じゃあ俺達はまだ仕事中だしこれで」
「おう」

そして、まだ勤務時間だからと3人揃って店から離れて行った。

「……そうだ、あいつがきちんと仕事してるか監視してやろう……」

そんなタイトの背中を見ているうちに、オレはあいつがきちんと仕事をしているかを見たいと思ったので、こっそりついていく事にした。
今まではタイトの事だから真面目にやっていると思っていたし、実際そういう報告は聞いているが、タイトが自警団の仕事をしているのを見た事がなかったので、丁度いい機会だという事で跡を付ける事にした。

「さてと……きちんとやってるかな……」

香恋の店で飲み物を適当に購入した後、見失わないように、それでいてつけてるのがバレないようにこっそりと付いていく。
たまに村人が奇妙なものを見る目でこちらを見てくるが、話し掛けてこない辺り触らないほうがいいと思っているかオレの行動を察してくれているのだろう。

「ねえねえタイト、今夜私の家に来て一緒にご飯食べない? お父さんがホーラちゃんの研究気にいったみたいで話を聞きたがってるのよ」
「断る。どうしても来てほしければまずその艶かしい眼つきをどうにかするんだな」
「うっ……」
「あっははは! そりゃそんな視線送ってたら誰がどう考えたって罠だってわかるでしょうに」
「残念……」

路地裏や死角になっている場所を隈なく確認しながらも、お喋りをしながら業務をする3人。

「やっぱり家族4人共っていうのが厳しいのかな……」
「そりゃそうだ。一人ずつならともかく、家族全員は受け入れられる人はそう居ないだろ。負担がでかすぎる」
「というかなんで家族全員?」
「そりゃあ皆仲良しだし、それに一人だけ夫ができるとかずるいじゃんか……」
「俺にはその考えがわからん……未だにこの時代の常識には付いていけてないようだ」
「大丈夫あたしもわかんないから。というか魔物の中でも特殊よきっと」
「そうかなぁ……」

別にサボっているとか不真面目だとか言う気はないが……なんか少し気にくわない。
女二人と楽しそうにお喋りしているタイトを見るとなんか腹が立ってくる。

「そういえばヒーナはいつ魔物になるの?」
「なんであたしが魔物になる話になってるの?」
「え、ならないの?」
「ならないわよ!」

まあだからと言って話に割り込む気はないが……そんな事したらこっそりつけている意味が無くなるからしない。

「というかどうしてヒーナが魔物になると思ったんだ?」
「だって魔物のほうが絶対にいいじゃん。色々と解放されるし力も付くし気持ちいいし。皆魔物になった方が絶対にいいよ」
「お断りよ。あたしは人間でいたいの」

どうやら話題はヒーナの魔物化についての話になったようだ。
以前オレも魔女にならないか持ちかけた事はあるがやんわりと断られてしまった経験はある。
その理由は人間としてのプライドを持っていて、人間のまま魔物達と張り合いたいからと言った理由と……

「それに将来結婚したら絶対に息子欲しいし」
「あー……それは仕方ないかもね……」
「あん? 魔物は息子を産めないのか?」
「あれ、タイトは知らなかった? そうよ。今のままじゃ魔物から生まれてくる子は皆魔物よ」

今言ったように、ヒーナは息子がほしいと思っているからだ。
魔物は人間よりも上位の存在……神に定められたこの設定を現魔王が上書きしない限り、オレ達魔物は男の子を生む事ができない。

「それじゃあいずれ人間は滅ぶんじゃ……」
「まあそこは魔王様に頑張ってもらうしかないわね。魔王様の力が神のそれよりも上回れば息子も産めるようになるらしいから。その時がいつになるかはわからないけどね」
「たまにそう思って魔物を否定する教団兵がいるけどさ、どっちにしろ全ての男性が魔物の夫になった時点で息子が産めなければ魔物も男不足で全滅するから人間だけが滅ぶ事はないと思うよ。魔王始め魔物だってそこまで馬鹿じゃないしね」
「そうか……ならまあいいか……」

オレだって魔物だが息子がほしいと思っている。
別に娘でも嬉しいが、この身体になるより前からずっと持っていた息子がほしいという気持ちは捨てられないので、本当に今の魔王には頑張ってもらいたい。

「しっかし今日も平和ねー。この村内の身回りは意味無いんじゃないの?」
「いやいや、ついさっきトラブルがあったばかりだろ」
「あれはトラブルと言っても日常茶飯事だしね。それに外部からの侵入者は環奈さんが見てるからそう入って来ないし」
「ま、主に私達の仕事はさっきの二人みたいに住民同士のいざこざを止める役目だしね。治安維持が仕事って考えようよ」

たしかにヒーナが言う通り、この村で大きな事件が起きる事はまずない。
外部からの侵入者はカラステングの環奈がしっかりと見張っているし、村人で悪い事をしようとする奴はそもそもオレがこの村に住む許可を出していない。
だから彼らの仕事は、さっきみたいに村人達の喧嘩を止める事と勇者などが襲撃してきた際に戦えるよう日々の鍛錬を行っておく事だろう。

「そうだけどさー、あたしとしては戦いがしたいというか……ジェニア団長とかタイトとかとやってもいいけど、毎回同じ相手じゃ飽きるんだよね……」
「それは俺やジェニアさんに勝ってから言え」
「それでもヒーナはうちらの中じゃ団長、タイト、メイ、に次いで4番目に強いもんね。肉弾戦タイプじゃない私やミーナ、それに頭脳タイプのディッセやノルヴェや環奈は置いといても、普通の人間女性で男性やダンピール夫婦やミノタウロスより強いって言うのは素直に凄いと思うよ」
「そりゃ小さい時から格闘技やってたし、そのメイも含めた魔物と一緒に遊んでたら強くもなるわよ」

たしかにヒーナは強い。
彼女が産まれた時から知っているが、昔から力のある魔物達と張り合っていたが故に、その強さは魔界以外に住んでいる旧時代の魔物に囲まれても死なないほどには強く育っていると言える。
だが、そんな彼女もタイトには敵わないらしい……まああいつはオレと互角に戦える程だ、そこいらの小娘如きで勝てる相手ではないだろう。

「……まあ、特に問題無いし、そろそろ尾行もやめるか……」

ちょっと距離が近過ぎる気がしないでもないが、特にタイトが女共とイチャイチャしていたり、襲われそうになっていたりしないので……じゃなくて、仕事をサボったりしていない為、これ以上は見ていても変わらないと判断して、オレは尾行を止めて村の外れの方へ移動したのであった……



「……どうやらようやく帰ったようだな」
「ショップラクーンからずっと後を付けてたよね……バレバレだったけど」
「村長目立つからすぐわかるんだよね。多分バフォメットという種族だから昔からこっそりする必要がなかったからだろうけど」
「いったい何の用だったんだ? 俺が仕事サボってないか心配でもしてたんかアイツは?」
「……へー、タイトって鈍感なんだー……」
「へ?」
「まあでもおそらく目的はタイトってところは合ってるかな。私がタイトを誘った時に飛び出してくるかなと思ったけどそんな事はなかったし、もしかしたら村長さんも自分の気持ちに気付いてないかもしれないけどさ」
「あーそうかもね。今度同じ事があったら抱きついてみれば?」
「あー、そうしてみようかな……」
「……何の話かはわからんが止めてくれ……」
「「はぁ……これはまた長くなりそうだ……」」



…………



………



……








「さて……地図通りならばここら辺かな?」

一通り村を回り昼飯も食べたので、オレはウェーラに言われた魔力の乱れが確認された場所に向かっていた。
この辺りはあまり人の手が掛かっていないので道と言えるような道はないから進むのが大変だが、それでも着々と現場に近付いていた。

「何が出てくるかな……っと。こりゃ酷いな……」

生い茂った木々や雑草を掻き分けて進んでいくと……急に視界が広い場所に出た。
そこは、半径100メートルぐらいの範囲に渡って、何か爆発でもあったかのように木や岩が粉々になって散っていた……どうやらここがウェーラが言っていた場所のようだ。
たしかに、タイト達が来た時とはちょっと違うようだ……奴らの周囲はこうはなっていなかったし、別の現象の可能性が高いだろう。

「そういや大きな動物の引っ掻き傷らしきものが残ってたとか言ってたな……これか……」

あいつらがこの時代に飛ばされた原因の解明には役に立たないだろうなと思い帰ろうとしたが、そういえば動物の引っ掻き傷がどうこう言っていた事を思い出したので、もう少し探索してみたところ……なぎ倒れた木の下に隠れるように、数本の爪で抉ったような跡が残っていた。
大きさは今のオレの背と同じぐらい……爆発で偶然付いた跡に見えなくもないが、巨大な動物の引っ掻き傷の可能性が高いだろう。
何故なら、爆発で抉れるならこんな器用な削れ方ではなくもっと大きく吹き飛ぶだろうし、それに、倒れた木の下に付いていたという事は、傷ができてから何者かによって木が倒されたと考えたほうが自然だからだ。
だが……こんなに大きな傷跡を残せる動物などここら辺には居ないはずだ……それにこの傷跡は……

「大きさといい、形といい、これは……ドラゴンの付けた跡みたいだな……」

動物と言うよりは、旧時代のドラゴンが付けた傷と言った方がしっくりとくる。
ドラゴンならば周りがめちゃくちゃになっていても納得ができる……奴らのパワーであれば、周囲をこのように更地に変える事など容易いからだ。
もし、タイト達と同じように旧時代のドラゴンがこの時代に流れ着いたのであれば、身体の大きさに比例して魔力量や空間の歪みが大きくなるし、この惨状もドラゴンが暴れた跡だとしたら説明がつく。

「でも……流石にありえねえか……」

だが、仮にドラゴンの仕業だと言うのであれば、この近くにドラゴンがいるはずだ。
しかし、今の所この近くにドラゴンが住んでいると言う話は聞かないし、そもそも奴等ほどの魔力が高い魔物がこの近くに居るならばオレが気付かないはずがない。
もしかしたら過去からこの時代に来て一通り暴れているうちに今の魔王の影響で今のドラゴンの姿になり、既に遠くに行ってしまったという可能性はあるが……旧時代の大きな身体でなくともドラゴンが民家のほうへ飛べば必ず目撃されるし、山奥に行ったとしてもその向こう側にはオルタが所属しているサバトがあるから、ドラゴンがいればその話も聞くはずだが……その話も聞かない。
村の方に来ていたら環奈が気付くはずなのでその線も無い。
ならこの山の中に居続けているなら……と思ったが、そもそも、ドラゴンなんて魔力の化け物がいたらオレどころかうちの魔術研究室の連中がこの場に来た時に探知しているはずだし、気付かないはずがない。

でも……どうにも嫌な予感しかしない。
これからヤバい事が起こりそうな……そんな嫌な予感が。

「わっかんねえな……とりあえず帰ってウェーラ達と考えてみるか……」

これ以上ここにいても新たな発見はなさそうだし、それどころか余計訳わからなくなりそうなので、オレは家へ引き返す事にしたのであった……



…………



………



……







「……それで、見てきた感想を言えばオレはあの跡はドラゴンが付けた物だと思うんだよ」
「ドラゴンですか……言われてみればそんな気もしますが……そんな強大な魔物がいるなら流石にわかると思います」
「だよなぁ……」

家に帰ったオレは、早速ウェーラやエイン、その他数名の魔女達と会議を開いていた。

「でも旧時代のドラゴンだったら一応あの規模で抉れていたりあの巨大な爪の跡も説明できるんだよな……」
「そうは言いましても……」
「わかってる。ドラゴンがいたら気付くはずだからありえないんだろ」
「はい。流石にドラゴン程高位な魔物でしたらこの装置で感知できますし、またティマ様が気付かないはずがありません。今の時代のドラゴンでさえ魔王の魔力に逆らい一時的に旧時代の姿になる事ができるのですから、旧時代のドラゴンがこの時代に来たとしたら感知するかと」
「だよなぁ……」

自分が見た感じだとあの跡は旧時代のドラゴンが付けた物としか言えないのだが、魔女達が言う通りドラゴンであればここにいる者が気付かないとは思えなかった。

「……過去から来たドラゴン……感知しない……」
「ん? どうかしたのお兄様?」
「あ、いや……ちょっと引っかかる事があって……いやでもまさか……うーんでも……」
「兄妹揃ってもったいぶらずにハッキリ言え。違っている可能性があると言う事は合っている可能性もあるんだから気付いた事があればすぐ言え」
「わかりました。では……」

そう……エインが言った言葉を聞くまでは、ドラゴンではないと思っていた。

「ティマ様、今朝は私がティマ様のお父様を殺めてしまった時の夢を見たと言ってましたよね?」
「あ、ああそうだが……今それが関係あるのか?」
「ちょっとだけ……その時、私は父さんの仇は討てたと言ってませんでしたか?」
「ああ。父親の仇は討てたから次は母親の……あん?」

急に今朝の夢の話を振ってきたエイン。
この場で関係のない事を言うような奴ではないので何か意味はあるのだろうと、あまり思い出したくないが今朝の夢の内容を思い出していたら、ふととあるワードが浮かんできた。

「そういえばエイン、お前結局母親の仇は討てたのか?」
「いえ、討ててません。奴は名前の通り身体の色が漆黒ですが、通称の由来は他にもありまして……奴は闇に紛れ込む事が得意なんですよ。自身の魔力を全く放出しない事だってできる程に」
「なっ……魔力を隠すのが得意だと!?」

それは、エインの母親の仇である『闇黒のドラゴン』という存在だ。

「まあそれでも目撃証言があったり、また実際に襲われて命からがら逃げだせた人などのおかげである程度どこにいたかの目星は付いていたのですが……丁度500年前、しかもその山付近で目撃されたのを最後に、その消息が全く分からなくなったのです。時代が変わり魔物娘になって誰かのメストカゲにでもなったのではと思ってましたが……」
「……おい、待てよそれじゃあ……」
「闇黒のドラゴンが……お兄様のお母様の仇が、魔力を隠してこの付近に潜んでいる可能性があると言うの?」
「確実とは言えませんが……タイト達のようにタイムトラベルしている可能性は否定できないかと。ドラゴンですし、まだ魔物娘化していない可能性もゼロではありません」

旧時代のドラゴン、500年前から山付近で消息を絶っている、魔力を隠す事が得意……そんな馬鹿なと笑い飛ばせられない程度には条件が揃っている。
百パーセントではないが……エインの証言が正しければ、その闇黒のドラゴンやらが近くに潜んでいる可能性はあるだろう。

「よし、各員警戒に当たれ! 話が本当であればこちらから見つけ出すのは不可能に近いから、急にそいつが襲ってきてもいつでも対処できるように準備をしておくんだ!」
「自警団への連絡はしておきますか?」
「いや、まだ確定したわけではない。全くの無関係の可能性だって捨てきれない。それなのに闇雲に動かすのは良くないだろう……とりあえずオレからジェニアと環奈の二人だけに伝える。もし闇黒のドラゴンだとしても環奈の眼なら村から距離がある場所で発見できるはずだからな」
「了解です」

絶対にそのドラゴンがいると言うわけではない。
だが、少しでも可能性があるのならば警戒しておくに越した事はない。
本当に旧時代のドラゴンなら……地上の王者なら、オレですらまともにやり合って倒せるかわからないのだから。

「さて……思い過ごしならいいが……」

ただの骨折り損で終わってくれたら……そう願いながら、オレは星が輝く夜空を見上げたのであった……



====================



「……」

夜は良い。
暗く静かで、それでいて力が湧いてくる。
自分の鱗の色と同じ漆黒の闇は、オレ様の心を躍らせる。

「グルルル……」

しかし……いい加減腹が減ってきた。
1ヶ月程前に大きな豚を数匹食った後、小動物しか口にしていない。
まあ、それはあの時急に目の前が歪み気持ち悪くなって、何が何だか分からなくなって食欲が失せていたからだ。

「熊だけじゃ腹は満たされねえな……」

だが、こうして無事住処を手に入れた事によって少し落ち着いた……相変わらず気持ち悪い甘さを持った淀んだ魔力が大気中に溢れているが、多少は慣れてきたのか動く事に支障は無くなった。
この住処の元の住民だけじゃ足りないので、もっと食べたいが……小さい奴じゃ腹は満たされないから、大きい奴か多くの獲物がほしいところだ。

「すんすん……お、この匂いは……」

少し集中して何か居ないかと匂いを嗅いでみたところ……少し離れた場所に、集落でもあるのか多くの餌の匂いがした。
だが、それに獣や淫魔みたいな匂いも混じっているのは奇妙だ……バフォメットらしき強大な力を持つ種族もいるのが特におかしいが……まあ、いいだろう。

「久しぶりに食えるぜ……」

細かい事を気にしていたら余計腹が減る。
オレ様は魔物の匂いを気にせず、餌場まで飛ぶ事にした。
この匂いを嗅いだなら、もう、空腹を我慢する事などできない。

「……美味い人間をよお!」

オレ様は好物である人間をたらふく食べる為、暗闇の空へ飛び立ったのであった。
13/12/08 18:13更新 / マイクロミー
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■作者メッセージ
Q.ほのぼのとか言っておきながらなんか最初シリアスなんですが。
A.悪夢を見たティマと言ったはずです。

という事で今回はティマの過去をチョイ見せしつつ新章突入。
平和な村やタイトの様子をティマ視点で見たわけですが、何やら不穏な空気が……

次回は……いつも通り自警団の仕事をしていたタイト。そこへ神奈が慌ててやってきたと思ったら暗黒のドラゴンが村へ攻めてきて……の予定。

ちなみに、今回から注意書きを足しましたが、今後も同じような描写はあるかもしれません。ご了承ください。

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